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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ

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第39部 ルシンダの訪問

             

 1242年7月20日 ポーランド・トチェフ


*)ルシンダという女性


 オレグのメンバーは、ビャウィストクに行ってバイソンの捕獲をした。ここのパブで会ったのがルシンダである。最後の一杯の葡萄酒を飲んでしまった女性だ。


「ルーシーさま、やっとトチェフに着きましたね。」

「ヤン、ルーシーと呼ぶのはもう止めなさい。何度も言いますが、今後はルシンダと呼ぶのですよ、いいですか。」

「おい、ヤン。また注意を受けてどうすんだい。」

「はい、ルシンダさま。今後は必ず履行いたします。」


 このルシンダは、ビャウィストクで会ったソフィアやオレグが気になり、訪ねて来たのだった。今、村に着いたばかりだからソフィアが留守なのは知らない。


「この村には、マルボルクからグラマリナさまが嫁がれてありますね。」


 サローがマルボルクを通過する時に得た情報だ。序でだが、サローは頭脳派で、ヤンは肉体派、ようは戦闘バカである。文武の二人のルシンダの護衛である。


「マルボルクに比べましたら、まだまだの村でしかありませんね。」

「はい、さようですが、あの男に掛かればマルボルクも、時機に抜かれるかもしれません。貴奴には底知れぬ能力を感じました。」


「そうですね、サロー。ここはじっくりとこの村を観察いたしましょうか。」

「はい、ルシンダ様。ルシンダ様はあの四人とは面識が出来ております。今後は、いかがいたしますか。」

「そうですね、この私も完全な変身魔法が使えるのでしたらいいのですが、できませんもの。・・・・・・しばらくは遠くで見ているだけにいたします。」

「はい。では、私たちが村に潜入して調査を行います。」

「ええ、そうしてください。ドイツ騎士団という肩書は、ここでは使えません。そうですね、ここではどのような名前を用いましょうか。」


「ルシンダさま、それは、おいおいでお考えください。目下の悩みは目の前にあります。このビスワ川をいかにして渡るか! ですよ。」

「簡単ですよ、泳いで渡りましょう。」

「お前はバカか!」


 ルシンダは、うふふと笑ってヤンに銀貨十枚を渡した。


「さ、ヤン。希望通りに泳いできなさい。これは三途の川の渡り賃です。対岸の船を借りてきなさい。」

「はい、直ちに。おい、サロー。行くぞ。」

「お前一人で行けよ。俺はルシンダさまをお守りするぞ。」

 

 ヤンはさっさと服を脱いで裸になった。


「こら、ルシンダ様に汚い尻を向けるな!」

「へ~い、・・・・尻を隠して、と。では、行ってまいります。」

「頼みましたよ。」


 ヤンは勢いよく飛び込んだ。すぐに悲鳴が轟く。


「ルーシーさま、足が抜けません。お助け下さい。」

「サロー許しますので、ヤンに石を投げなさい。」

「あ、すみません。以後間違えませんので、お許し下さい。」

「では、サロー。あの木材を借りてヤンを叩き・・、いや助けなさい。」


 サローはビスワ川の簡易船着き場から、小ぶりの木材を持ってきて、ヤンに差し出した。ヤンはこの木材に掴まり引き上げられる。


「ここからは行けません。もう少し深みのある船着き場から飛び込みます。」

「少し流されるから、頑張れよ!」

「ざけんな! その木材を寄こせ。浮き輪の代わりに使うよ。」


 ややご機嫌斜めになってヤンは、ビスワ川に入り泳いで行った。


「さ、ヤンは暫くは戻りません。ここは中食で時間を潰しましょうか。」

「いいえ、ヤンはすぐに戻ります。ヤン抜きで中食をするのは、ヤンが可愛そうですよ。待ちましょう。」

「はい。」


 ヤンは必死になって川を横断した。辺りを見回して水車小屋へと進んむ。どうもそこに人が居るような感じだった。ヤンはこちらを向いて、頭の上で大きな丸を腕で作った。


「人が居ますね。これで船を借りれるでしょう。」


 ヤンは力まかせに大きく尻を振った。水切りでもしているのだろう。


「もう、ヤンったら。アヒルになったつもりかしら。」


 ルシンダはまた、うふふと笑った。


 水車小屋では、


「おう、姉ちゃん。そこの船を借りたいんだが、貸してもらえるだろうか。」

「あんた、幾ら持っていますの?」

「銀貨で九枚だ、足りるだろう?」

「あと一枚出しな。」

「フン! ほらよ。」


(なんでぃ、この女はよ。鋭いぜ。)ヤンのこころのつぶやきだ。


「これで十分だよ。少し待ってておくれ。」


 ボブの嫁はそう言いながら、自宅へ戻った。すぐに出てきて、男に白い布を渡した。


「それで体を拭きな、使っていいよ。」

「いや~、助かるぜ。すっかり冷えてしまったよ。」


 ボブの嫁はまた自宅へ戻って、今度は赤子を抱いてきた。


「おらの息子だ、置いては行けねえ。連れていく。あんた、棹を使えるだろう?」

「ああ、大丈夫だ。力があるからな、任せろ!」


 先に母娘が船にのる。ヤンは船のロープを解いて船に飛び乗った。船が大きく揺れて子供が泣き出した。


「おうおう、大丈夫だ! もう泣くな。男の顔が怖いか?」

「元気がいいな。これは先が楽しみだろう。」

「そうさね。自慢の息子だよ。ほれ、棹だ。早く行け!」

「おう、摑まっていろ。」


 意気揚々として、ヤンはまたやらかしてしまう。


「ルーシーさま~。船を持って参りました~」


 川向うでは、サローが苦虫を潰したような顔でヤンの到着を待っている。


船が着いた。


「おい、ヤン。また殴られたいのか? あ、あん?」

「なんだい、冷たい水で泳いできたんだ、労われ!」

「ヤン、もう先ほどの約束を忘れたのですか?」

「あ!」


 今度はルシンダも怒っている。ここにはボブの嫁が居るからだった。


 ルシンダは丁寧にお礼を言うのだった。


「そこのお人、船を出して頂きありがとうございます。」

「いいや、なんでもないさ。早く乗ってくれ。あたいは仕事中だからさ。」

「ああ、すみません。急いで戻りましょう。サロー、ヤンの着物と荷物を。さ、早く載せなさい。」

「はい、お嬢様。」


 サローは返事して荷物を載せて、手を引きルシンダを無事に乗せた。


「ありがとう。さ、ヤン、船を出しなさい。」

「はい、お嬢さま。」

「??・・さま・・???」


 ヤンの首に巻かれた白い布を見たルシンダは、


「このヤンに布を貸して頂きました、お礼を言います。」

「あ? お礼は息子に言ってくれ。息子の持ち物だ。」

「よう姉ちゃん、それはどういう意味だ?」


 ルシンダは今度、大きな声で、ガハハ! と笑った。


「ヤン、それ以上は聞かないがいいですよ。これはヤンのためです。」


 ルシンダは、この白い布の正体がすぐに理解できた。赤子のおむつだった。


 ヤンが漕ぐには大き過ぎる船だった。ヤンは港に着いたら息切れで倒れてしまう。船の係留はボブの嫁が行う。サローは倒れたヤンの身体に服を投げる。


「なんだい、なにしやがる。」

「起きろ、出発するぞ。」 



 ボブの嫁が三人を案内するかのように先頭を歩いた。


「あんた! お姫さまだろう? 変装してもあいつ等は騙せないよ。」

「あ!え?あ! そうですか。結婚式に来ていたのですね。教えてくれてありがとう。」

「いいえ。・・・・・お忍びの必要はありませんよ、・・・たぶん。」


「お嬢様、これはどういうことですか?」

「ええ、道々でお話ししましょう。ヤン、代金は払いましたか?」

「ああ、もらったよ。あんたたち、ここで休んでお行よ。中食がまだだろう?」

「ええ?・・・・・そうですね。ここで中食にいたしましょうか。」


「水車小屋にテーブルがあるから使っていいよ。」


「はい、ありがとうございます。」

「これ、飲んでいいよ。サービスだ!」


 ボブの嫁は三人にワクスを与えた。そして、家に戻り息子に乳を与える。同時に嫁はパンを食べだした。


 

「ヤン。」

「はい、直ちに!」


 ヤンは水車小屋へ走って行き、水車小屋の安全を確かめる。


「お嬢さま、大丈夫です。誰も居りません。」

「では、お嬢様、行きましょうか。」

「ええ。」


 この水車小屋では、ボブの嫁がライ麦を搗いている。また、家具職人のヘンリクが、ここで器を作っている。今は、館に納品に行っていて留守だった。またヘンリクは水車小屋に数点の容器を残していた。これを見たルシンダは、


「まぁ、これは食器かしら? とてもよく出来ていますわ。」

「お嬢様、それが食器なのですか? ただの容器にしか見えません。」

「そうでしょうか、私には食器に見えますわ。」


 次にルシンダは水車を見て回った。ライ麦を搗く臼、基幹から分岐された動力伝達に大いに関心を示した。何にでも関心を示すルシンダは、やはり領主の才能が在るのだろう。


「お嬢様! さ、中食にいたしましょう。」

「これはすなまんだ、そういたしましょう。村娘から頂いたものは何ですか?」

「ええ、上品なワクスです。とても美味しそうな香がいたします。」

「サロー、そこの容器を持ってきなさい。」


 サローは容器を持って来た。この食器にワクスを注ぐルシンダ。


「ほら、これでいいのですよ。」

「ええ、本当ですね。これは便利です。頂いて帰りましょう。」


 ルシンダは、うふふと笑う。


「ダメでしょう。ここは了解を得て買い上げましょうか。」

「はぁ、・・・・。」

「これはもう、直に乗り込むしかありません。ここにピアスタが来たのですから、もう隠れる必要は無くなりました。さ、行きますわよ。」

「ええ~そんな~。せめて中食の後にしてください。」

「はいはい。」


 ルシンダは約束通りサローに、ビャウィストクのくだりから話した。


「ピアスタは、エリアスとグラマリナの結婚式に来ているのですよ。でしたら私たちがビャウィストクで、オレグとソフィアに会った時は、私が誰だか分かったはずです。あの時の三人は何も言いませんでしたが、理解していたと思いますよ。そうでしょう? サロー。」


「はい、そうですね。ご説明ありがとうございました。」

「俺には理解できないぜ。」

「ヤンには無理だろうぜ。この村ではとことん、黙っていろよ。いいな。」

「出来るかな~、出来ないだろうな~、いや~」

「もう黙れ。うすらトンカツ!」

「?・・・?」


 二人のバカを聞いて、ルシンダは三度も、うふふと笑った。


「さ、乗り込みますわよ、突撃よ、戦争よ!」

「ほえ?」


「サロー、あの農民にワクスの代金を払ってきなさい。きっと自分の飲み物を分けてくれたのですよ。」

「はい、かしこまりました。」

「娘さん、ありがとう。これはワクスの代金です。」


 サローはそう言いながら、銀貨を一枚手渡した。


「それ、あの男にやるよ。持っていきな。」


 ヘンリクは、なぜかおむつをもらって来たのだった。



*)ルシンダの視察


 途中で家具職人のヘンリクに会った。


「あのう、この村にオレグさんが居るかと思いますが、今はどちらに?」


「そうですね、館には居ませんでしたから、石切り場か長屋の建設現場でしょうか。長屋は、ほら、先の方に見える長い家です。石切り場は~、説明が出来ませんね、途中でまた尋ねて下さい。」


「そうか、我らで探すか。いや、ありがとう。」


 サローが返事をした。


「良い旅を!」

「ええ、ありがとう。」


 三人は道なりに進んだ。長屋がよく見えてきた。大きな家だった。一般的な農家が十戸も並ぶのだ。外見はとても大きく見えるだろう。


 ここでは、家具職人のオスカル、建築のイェジィ、ジグムント。石工のマシュが働いている。


 これらの職人の働きを覗いたルシンダは、声を掛けようかと迷っていた。


「あ、これはこれは、お嬢さま。よくお出で下さいました。」

「ええ? 何方かとお間違えではありませんか?」

「ピアスタお嬢さまでしょう?」

「すみません、やはり分かりましたか。」

「ええ、とてもお綺麗なお嬢さまですから、間違えませんよ。」



 後ろを向いてぶつぶつと言う。ルシンダは、


「おお、これは私には才能が無いのですわ!」

「いいえ、お嬢様。けっしてそのようなことはございません。」


「随分と大きな屋敷ですね。」

「あ、いや、ここは農民の家ですよ。屋敷ではありません。」

「でも、随分と大きいですよ。」


「これは長屋ですので、農家が十軒連なっているだけですよ。」


「まぁ、そうなんですの。これが、・・・十三戸もあるのですね。」

「ええ、そうです。時機にここも満杯になるでしょう。オレグさんがそう言っていました。」


「そうですか、それはすごいこと聞きましたわ。」

「あれ? ご存じだと思いましたが。」


「あ、え、存じておりますわ。それで、そのオレグさんは今どちらに。」

「ここには居ませんので、石切り場でしょうね。あの、向こうに見える丘がそうですよ。この道を進んで、途中に新しい作りかけの道があります。そこを進んで行きましたらいいですよ。」

「はい、ありがとう。お仕事、頑張ってください。」


 途中で手押し車を押してくる農婦とすれ違う。この手押し車には木の器が多数載っていた。ルシンダは挨拶だけで済ませた。


「ねぇ、サロー。あのたくさんの食器を見ましたか。」

「はい、食器の数が多いですね。手押し車もよく出来ていて、ヤンに押させたいです。」

「俺はイヤだからな。」

「ヤン、あの車と食器を多数買いますから、運びなさい。」

「・・・・・。」


「遠くで作業を行っている者が見えます。きっとそこでしょうか。」


 ルシンダは情報収集を務めるために、ゆっくりと歩んでいる。サローは大人しくついて行くが、ヤンはじれったいのか、身体を左右にゆすって歩いている。


 ここまで近くになると、作業内容が見てとれる。当然、向こうに居る作業者も、こちらを気づくだろう。


 石工のシモンが最初に気が付く。


「これは、お姫様。今日はご視察でしょうか?」


「ええ、そのようなものです。前回とは大きく異なりますもの。当然でしょう。」


 ルシンダは、作りかけの道の新しさと、石の残骸が少ないから、きっと数日前に開設された作業場だと判断した。


「そうですね、ここから石材が産出すると分かって、旦那が、がぜんやる気をだして頑張ってありますから、もう、村中が引き回されて苦労しております。」


「まぁ、そうですの、それは大変でしょう。」


 ルシンダは口を押えて、うふふと笑っている。


「サロー。」

「はい、オレグさんを探してきます。」


「それで、今は何を作られるのですか?」

「はい、道路のタイルと建築の石材が主になっています。旦那はこの村の道全部にタイルの舗装を行いたいらしいのですよ。もう、私等は付いていけません。」

「とてもいい考えですわ。ぜひとも苦労されて完成させてくださいな。」

「ええ、そういたしますが、苦労の言葉は要りませんですぜ。」

「あらあら、うふふふ・・・。」


 その頃オレグは、自噴井戸からの導水橋の形と方法を考えていた。大地にドッカと腰を据えていたのだ。この姿を遠目に見たサローは引き返した。ルシンダの元へと急ぐ。


「ウワッ! デン!」


 サローは石材を滑らせる木材の上に尻もちをつく。


「く~、この木材は石が滑るように松で作ってあるわ~」


 遠目にヤンが大きく笑っているのが見えた。


「この~、いっぺん〆たろか!」



*)ルシンダとオレグ


「ヤク、シェン、パン、ミェヴァ?」(お元気ですか?)


「あぁ、これはいつぞやのルシンダさま。このような田舎までお出で下さるとは、はて、どうされましたのでしょうか?」

「えぇ、オレグさんとソフィアさん姉妹にお会いしたくて参りました。」

「そうですか、でも二人は留守にしております。今頃は? ~そう、貴女にお会いしている頃でしょうか。」


「まぁ~、そうですか、それは良かった、いいぇ、悪かったですわ。」

「たぶん、そうでしょうね、もう大騒ぎか、地下牢に居るか! でしょう。」


 オレグの冗談に、大声で笑い出したルシンダだった。従者の二人は渋い顔で歪んでいるように見えていた。


「こちらは、サローとヤンです。オレグさま、この二人を鍛えてください。」

「その、私に、さん、とか、さま、を付けないで呼び捨てでお願いします。

 ピアスタさまは、いきなりに呼び捨てでしたよ。」


 ルシンダは口を押えて、うふふと笑う。


「姉はどうでしたか? 少しは領主らしいところはありましたでしょうか。」

「ええ、少し意地悪な領主さまですね。私に問題を出して楽しんでありました。」

「まぁ、して、どのような問題ですか?」


 オレグは返事をせずに、


「すみません、ご用件の前に、一つお伺いしたのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょうか。領主ご夫妻はソフィア姉妹と一緒に新婚旅行に行っています。今日はどちらに宿泊されますか? 館でしょうか、それとも私の家でしょうか? 賄いがございますので、エルザに申し付けなければなりません。」


「それでしたら、空き家が多数ありましてよ、オレグさ、いや、オレグの隣に決めますわ。よろしいでしょうか?」


「ええ、分かりました。あの石工の所まで移動をお願いします。」


「それで、姉の問題とは、なんでしょうか?」

「それは、秘密ですよ。私だけの問題です。」

「そうですわね、頑張って解いてくださいな。」



ルーシーはルシンダの愛称。

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