第25部 時代変遷が始まる
ウィスト家のピアスタ=領主
デンボウスキー家の家族。マルボルクの領主代行のエルブロ。妻のベマ
長男のユゼフ ユゼフの嫁・バーシアと長女のグラマリナ
1241年9月2日 ポーランド・トチェフ
*)見聞の命令
「なぁ、デーヴィッド。少し頼みがあるのだが、聞き入れてくれないか。」
「はい、なんでしょうか。」
「お前独りでだが、西ヨーロッパを旅して世情、特に農村部を見聞してはくれないだろうか。今後のヨーロッパは激変するとオレグが言うのだよ。もしそれが本当ならば俺の考えも変えなければならない。」
「決してそのような事はございません。いくらオレグさまでも神様ではありませんもの、危惧する必要は無いかと存じます。」
「ワシもそう思いたいのだよ。だがデーヴィッド。これは命令だ。明日から地方や都市の見聞を蒐集してこい。」
「はいエリアスさま。至急調査してまいります。」
今度はエルザに向かって、
「デーヴィッドの旅支度をしてやってくれないかい。」
「はいご主人さま。」
エルザは部屋から出て行った。
「さてデーヴィッド。オレグが行ったビャウィストクを最初に行ってくれないか。それから南に下がってシロンスク公国の現状を見てくれ。」
「はい。」
「その後は帰国の後に、西のドイツとフランスに行ってくれ。」
「はい。」
「しかも十月末には帰国しなさい。十一月は結婚式がありますので頼みましたよ。」
「はい、そのようにいたします。」
翌日からデーヴィッドは旅に出た。情報蒐集の結果は悲惨なものばかりでオレグは正しかった。
デーヴィッドは地方の見聞が纏まれば沢山の手紙を書いた。十箇所の大都市と二十位の地方都市を見て回つた。だから手紙は三十通にはなるはずだが、エリアスに届いたのは二十通。他二十五通がエルザへの恋文だった。
デーヴィッドはまめだった。レポートの内容は下記のように届いた。
ビャウィストクは、広大な原生林に野生のバイソンが多数生息。農業は、ライ麦・カブ(蕪)・亜麻。手紙と一緒にカブ(蕪)が届いた。
ワルシャワ 漁業を中心とする寒村。農業は盛んではない。人が少ない。
ウッチ 小さな農村で人が居ない。
ルブリン この辺りの商業の中心地となる。豊かな都市のせいか、東国の攻撃に備えて城塞が造られたが、モンゴル軍やルーシ人たびたび略奪・破壊された。
ウクライナ リヴィウ 1256年にはすでに都市として機能している。
ジェシュフとピルズノは小さな農村で
タルヌフ タルノフスキ家によって城塞都市が建てられ
クラクフ モンゴルの襲撃で消滅
カトヴィツェ 中世前期のスラヴ人集落が街を建設した
ドイツ
ベルリン 1245年にかけてのテルトウ戦争が起こる
ハンブルクとリューベックは、
経済と関税の特権を獲得し、貿易都市としての発展が進む。リューベックとブレーメンが防衛同盟を結成。自治国となり貨幣製造権も与えられる。これらの事でハンザ同盟の都市として発展する。
ヴァーレンドルフ 九世紀の荘園の制度が基本に残る都市。
パーゼヴァルク
ローマ司教ヘルマンⅡ世に都市権授与お与えられて、次第に裕福な都市へと成長していく。
これらの一部の都市を見ただけで西高東低の構図が見える。東はモンゴルの侵攻で消滅した。気候はやや寒いのでライ麦の生産が多い。西の都市は貿易と産業振興で大きい都市へと発展し、東の国から西へ穀物の輸出が次第に多くなってゆく。ドイツ騎士団の勢力が増していき、次第に北部の東ヨーロッパは呑み込まれる。
結果、ポーランドは東と西の国の緩衝地帯になって行くと予想される。早い話が戦争に巻き込まれる可能性が大。
エリアスもオレグも、このレポートを読んで畏怖する。考えた結果は、
「早く国をまとめて強くなる必要がある」だった。
デーヴィッドはフランスには行けなかった。行程に無理があったからだがドイツでの情報蒐集で十分と判断したという。
「デーヴィッド。ご苦労だった。エルザを嫁にするといい。」
「ありがとうございます。」
「式は明日だ。よく休んでくれ!」
「ハイ~!」?
「ほぇ~!」
「お似合いの夫婦だよ。」
とオレグは思った。
*)洗濯小屋
「オレグさま、ここに小屋を作れ! という事ですが、小屋の大きさと室内の作りなどの図面をお願いします。」
「ああ今描いている途中だ。ボブには船でライ麦を輸出する大きな仕事がある。お前たちは水車小屋を作った経験があるから出来るだろう。」
「はい頑張ります。」
オレグは村の中心に洗濯小屋を造る事に決めた。川から水道を引いた終着点だ。ここからの排水は付近の窪地へ流す。または、好きなように農地へも自由に流せる取り決めは作っておいた。だが費用も労力も必要だ。村人がいくらなんでも自由だといわれても簡単に造れるわけはないのだ。ここが難点だった。
「オレグさま、冬の冷たい風の中で洗濯をする苦労が無くなります。ありがとうございます。」
「そう思うならば、秋の深くなる前には造ってくれ!」
オレグの言葉は優しくて温かい。しかし今は9月になっている。あと一か月と十日で寒くなってしまう。酷な小屋造りの工程だ。
オレグが心の中で思う。ま、あいつらには言っても解らないんだ。造り始めれば解るだろう、と。
「オレグ! 少し手伝ったら? 村人には少しきつくないかしら?」
「頭の鍛錬だと思ってくれ。だけれどもソフィアは優しいな!」
「ううん、オレグが悪いだけだよ!?」
「!?!?。俺は頭がいいのか。ソフィアが俺に惚れ直すとかありえんがな~。」
「そう、ありえないわね。」
ソフィアは村人に向かって、
「ねぇあなたたち。なんでもかんでもオレグに頼ったらダメだからね! 解っているかしら? オレグは私だけも物だからね!」
ソフィアから睨まれた村人は怖気ついてしまった。
「なぁソフィアさん。俺が居ない間にさ、この水車小屋の建設と仕掛けを見てやってはくれないかい。図面だけでは理解が出来んだろう。」
「監督ね! 任せてちょうだい。きっと立派な建物にして見せるわ。」
「城にはしないでおくれよ。」
村人は洗濯小屋の中に手回しの羽根を作っていた。水の流れを利用した作りだから、少しの力だけで回せる。タライだけで済むのだった。これは流れる水の量が少ないので、羽根の摩擦が大きいから回らないのだ。だから補助に人間の力を少しだけ使う。
「そうね、これだと桶で水を汲み上げる必要がないわね。合格よ!」
これはソフィアが小屋の室内を見ての感想だった。
「あれれ? 一人だと洗濯と羽根を回すのが大変だね。ここに水入れの大きいタライが必要だわ。」
備え付けの大きい水槽が造られた。風呂桶である。子供が遊んでは怒られるのは来年の夏からだ。この事を見た姫さまは、露天風呂を考案して作らせた。まだ姫さまま嫁いできていないので先の方でのお話しだ。
部屋の壁には細い樋が通されていて、途中途中に樋から流れ落ちてくる樋が作られていた。水が流れ落ちる所には仕切り板が嵌められるようになっている。
「これ! いいアイデアだわ。必要な所にだけ水が落ちるのね。」
「はいそうです。また作業台を高くしたのは、後々にはここから農地へまで樋を通して水を送りたからです。」
そう、オレグはソフィア用の図面と実際に作る図面の二つを描いていた。実際に作る図面はソフィアには見せていない。オレグの策略だ。ソフィアには優秀な村人が居るからと、知らしめたかったのだ。?対、エリアスか!
「いいかお前ら! よく聞け。この羽根と作業台とその利用方法は、お前らが自分で考えて作ったと言え。きっと領主さまからはご褒美が有るだろう。」
「はいオレグさま。なにからなにまでありがとうございます。」
「では残り一か月で冬になるから励めよ!」
農民はオレグの言った一か月の意味がようやく理解できた。まだ暑い季節だったからだが。
1241年11月20日 ポーランド・トチェフ
*)井戸の掘削
エリアスの結婚式が来春に決まった。当初は十一月の初旬の予定であった。冬に備えての事だが、この冬は長屋の建設で忙しいのだった。冬の洗濯をも優先事項になり二箇所の井戸が掘られた。共に水が湧いてきている。
穴が少し深くなりだしたら木材で井桁を作った。やぐらも建てて滑車も設けた。この滑車で土の搬出を行う。水が出たところで壁には石垣が積まれた。大変な重労働だったらしい。オレグにはそんなのは関係が無い。
*)長屋の建設
いよいよ念願の住宅の建設にかかる。
「ねぇ誰が念願なのよ。ソフィアさまに教えなさい。」
長屋の並びから少し離れた所に一軒家が作られだした。
「おう、これは俺とソフィアの新居だよ。いつまででも館には住めないぜ!」
二人の子供にも部屋が作られるという。
「そうなんだ、だからとても大きのね。」
「倉庫に馬小屋。これだけでも広くて大きいんだぜ!」
「私が家で、オレグが馬小屋なんだね! 良かったわ。」
「?・・・・・・?」
「おう、毎日エサを頼むぜ!」
長屋の建設の前に基礎となる石積みようの穴掘りがある。小さな農機具で総動員でかかった。今は家に使える石材が無いから木材で組み上げる。だが木材通しの繋ぎ止めが難しい。素人の組み立てでも雪の重みに耐えるのかが心配だった。
その点は長屋の構造が大いに利点に働いた。柱は無理だが梁は切り揃える必要がなく、長いままで利用できる。だから少しは頑丈な長屋が出来た。
トチェフ村の領主、エリアス。従者のデーヴィッド。メイドのエルザ。
オレグ、ソフィア、リリー、ノア=ゾフィ(女装)。
船乗りのボブ。




