第199部 新しい家族と邪魔な魔女?
「カーン…カーン…カーン…カーン…カーン…カーン。」
と戦闘終了の鐘の音が轟く。
夕方前に戦闘が終わった。海に落とされた者は全員が裸にされて次々に銭湯へ連れて行かれた。
1250年3月13日 ハープサル・プリムラ村
*)リリーの魔法は?
「リリー、頼みがあるのだが!」
「はいなんでしょうか。今晩の祝勝会の肉の件ですか?」
「いや、そんな事はどうでも良い。ヴァイキングの捕虜を全員、前のハープサルの元住人ということに出来ないか。」
「そりゃ~多分出来ると思います。現在の人全てに使用人魔法を掛ければよろしいのです。ですが、」
「全員が俺の使用人になってしまうのか!」
「はい、そうなるはずでございます。どうしますか?」
「カーンカカン。カーンカカン。カーンカカン。」
「カーンカカン。カーンカカン。カーンカカン。」
「来た~助け船だ!」
「答えがありません。それで、かしら、まぁたお兄さまが逃げましたわ! 」
オレグは港に舟が入港するよりも早く港に出向く。
「おう兄ちゃん。待たせたな。」
「おいおい、今まで、まさか隠れていたんじゃあるまいな。」
「当たり前だろうが。」
「ケッ! オレグ、騙されるなよ。本当はひる、」
「シビル黙れ。……ここに兄ちゃんが居るという事はだな、まだなんだな?」
「あぁそうだ。もう産まれそうに大きいからな。今晩かもしれない。」
「うひょ~俺たちは間に合って良かった。ゾフィも随分と気を揉んでいたぜ。」
「精霊の胸の間違いだろう? ところでボブ船長。今まで何処に居たんだい。」
「入り江の向こう、そう向こう側にな、クジラが居たんでな、」
「いいや、どこから荷物を運んで来たのかを訊いているんだよ。」
「そりゃ~おめぇ、トチェフに決まっているだろう。夏に種蒔くカブにライ麦の種だな。それに酒宴の酒に決まっているだろうが。他は家具と皿や建設金物だな。そうそう組み立て式の馬車も持ってきたな。貴族用だ。」
「これを指示したのは誰だ、俺はなにも言わなかったと思うが。」
「そうさな、客を連れてきたぜ。もう足も動けるようになったかな。」
「立てないような生き物か!」
「そうだな、船には川でしか乗った事がない、あの姫さんだ。」
「川?……姫さま?……、もしかして、グラマリナさま?」
「おう当りだ。さっきまで白目を剥いていたからな。死んでいても文句は言うなよ。」
「それから盛大な出産祝いも運んできた。これはチャカ、いや、マクシムからだな。チャカに頼まれたんだ。」
「そうか、世話をかけたな。」
「荷下ろしをしたいんだが、お嬢さまはどうした。」
「リリーは先の戦闘で魔力を使っていたからだめだ。全員で手下ろしで頼む。この後の出産が控えているからな。」
「そうかい。分かったよ。」
「今日集まった人間は、港のドッグに全員を入れる予定だからな。」
「おう宴会が楽しみだ。直ぐに酒だけは下ろしておくよ。」
オレグはボブ船長の後方を気にしていた。
「オレグよ、なにをちょろちょろと見ているのだ。」
「グラマリナさまが降りて来るかと思ってだな。迎えに行くか。」
「やややぁぁぁ止めてくれ。自分で降りてくるさ。早く俺らを愛の巣へ案内せろや!」
「バカか。誰がお前を連れて行くものか。荷下ろしさせてドッグで大人しくしていろ。直ぐに始まるから腹を空かせておけ。」
「俺にも荷下ろしをさせる気か。」
「おう働け!」
マクシムからの贈り物はまだ港に着いていない。オレグはきっと明日は度肝を抜いて驚く事になるだろう。
オレグが自宅に戻ったらリリーは、
「オレグお兄さまは、今宵の宴会は開催の挨拶だけで済まされて下さい。お姉さまはきっと今晩遅くには偉業をなされます。」
「あぁそうするよ。今日は疲れたから酒を飲んだら寝てしまうだろう。それよりも俺はソフィアの傍がいい。」
*)ソフィアの出産
「でも、お兄さまにも遠慮して頂きますわ。」
「リリーの、一人ででか!」
「はい、その方がお姉さまも安心なさいます。」
「俺は……もう十日はソフィアと会っていないぞ。」
「お兄さま、両の手で指が足りましたか?」
「いや、今は頭の中で足の指を数えている。十五日にもなったぞ。」
「明日の朝、そう私が呼びに来るまでは、決して部屋を覗かないで下さい。約束を破りましたら遠い海に投げ入れます。」
「分かった、俺も宴会へ行く。……リリーも気が立っているのか。言うことがちぐはぐだよな。」
ソフィアは昨日から魔力を腹に溜め込み出産の準備をしていた。だからか容姿に回している魔力はない。大きなオオカミの姿で居たのだった。
「まぁ、これがお姉さまの本当のお姿ですの?」
「うん。リリーには恥ずかしい姿を見せているわ。もう少しだからこの部屋に鍵をかけて死守して頂戴。……ウグ!!」
ソフィアの自慢の銀の髪は灰色になって、辺りに散らばるように伸びている。
「リリー。カロリーナの服は出来ているかしら。」
とソフィアは寒そうな尻尾を見つめていた。
「はい、尻尾の毛で布を作りました。産まれたカロリーナは、包むだけでよろしいのですよね?」
「えぇそうだと思います。私の本能がそのように指示しています。きっと魔力の大きい娘だと思います。もしかしましたらリリーの魔力も必要になるかも知れません。大きく暴れるようでしたらリリーには分けて貰いたいわ。」
「はい、残りの魔力は本日使いましたから、もしもの時は倒れるかもしれません。」
「そうね、今までオレグに抱かれても子供は出来ませんでした。今ではオレグの方が魔力が大きくなりましたので、子供が出来たのでしょう。だって時間を遡って私に会いに来るほどですもの、カロリーナは、ね!」
「はい、お姉さま。」
「カーン・・・・カーン。」
「お姉さま、もう十時になりました。」
「あの鐘の音はお酒で狂っています。日が変わりましたら産まれるはず。もう私も我慢が出来なくなりました。」
「はい、では産湯を用意致します。」
熱めに用意していたお湯に水を加えて産湯を持ってきた。
「リリー、一つ確認を……、」
「お姉さま、苦しいのですね?」
「はいリリー。とても苦しいわ。…それでね、出産の瞬間には私は…、」
「はい……。」
「大きく叫んでしまいます。館の防音はいいのですが、里の人には聞かれたくはないのです。ウグググ・・・・・。」
「はい、今宵はヴァイキングとの戦争で祝勝会が行われています。それにお兄さまの計らいで、プリムラ村の者は誰も居りませんわ。」
「そう、ウ、グググ・・・。」
「お姉さま!」
「まだのようよ。もう少し気が散るようにお話相手をお願い。」
「はい心得ております。……それでお兄さまはより安全にと、港のドックの中にハープサルの人々も入れてしまわれました。」
「まぁ、オレグは本当に何処まででも知っているのかしら。」
「お姉さま、これは只の偶然では?」
「そうね、そうだとは思いますが、他にも大きな広場は在りますわ。」
「そうでした。厨房の在る集会所の方が便利なはずですもの。きっとお兄さまも……。」
「リリー、ウググ・・・ガガ・・・・。」
「お姉さま!」
「ウォ~~、オ~ォ~~~、オオオ~~~~ン!!!」
「お姉さま!」
「ウォ~ォ~~~、オオオ~~~~ン!!ウォ~~、!」
「ふぎゃ~オギャ~。」「ギャ~~~~ァ……。」
「お姉さま、産まれました、産まれましたよ、とても可愛い女の子です。お姉さま……さま?」
「ウググ・・・ググggg五千五百g・・・・・。」
「ぎゃ、ぎゃぁ、ぎゃ~~~!!!」
「リリー早く産着で包んで頂戴。早くしないと魔力でカロリーナが赤ん坊でなくなるわ。」
「あ、はい。お~~~よちよち。」
「お姉さま、産湯はどうしたらいいのでしょう。」
「たぶんですが、泣き止むまで私が抱いていたらいのでしょう。」
「はい、お姉さま!」
「えぇリリー。……。 黙れ! ガキンチョ!」
「リリー、産湯をお願い。」
「……………………………………………………。」
「リリー?」
「え、あ、ほ、は、はい。もう、お姉さま、驚かなさかないで下さい。」
「まぁ、おかしい、リリーが動転していますわ!」
「嫌ですわ、お姉さまったら。」
「ほららら、リリリー。早く産湯に!」
「あああああ、はい。産湯。」
「ギャ~~イイ~~~~ンン!!」(熱いよ~!)
「まぁ、随分と大きな声ですこと。」
「リリー、早く産着を着せて~~~~、早く~~!」
「お姉さま、これはどうしてですの~。」
「リリーも魔力で抑えて頂戴~!」
「ギャ~~イイ~~~~ンン!!」(しっぽを踏むな~!)
「カロリーナ、カロリーナ、カロリーナ、カロリーナ、カロリーナ、カロリーナ、カロリーナ、カロリーナ。驚かないで頂戴、……カロリーナ、カロリーナ。」
「ギャ~!! ぎゃぁ、 おんぎゃ~。」
「おんぎゃ~!」「おんぎゃ~!」
「ほらほら、お母さまですよ~、」
「リリー、冗談はよしてよね。ほら私に渡して。」
「おんぎゃ~!」「おんぎゃ~!」
「はい、ソフィアお母さま!」
「おんぎゃ~!」 「おんや~ソフィアお母さま!!」
「え””なに、この子。もうしゃべったわ!」
「うそでしょう!」
「おんぎゃ~!」「おんぎゃ~!」「おんぎゃ~!」
「リリー私の髪の毛を切ってください。もう一枚の産着を作ります。今度は私が魔力を込めて作りますから。」
「えぇ、そうした方がよろしいようです。」
「お姉さま、髪が短くなってしまいました。これで……。」
「………はい、
……どうしたら作れますか?」
「まぁ、おかしなお姉さまだこと!」
「えぇぇ、いいじゃん。リリーまた作ってよ~。」
「びィぇ~ぃェ~ぇォ~!」(寒いよ~!)
「ホントに、ひねくれオレグの子供だわ。泣き声もひねくれています。」
「そうですね、お姉さまにそっくりです。」
「リリーにもね!」
「可愛いです、寝てしまいましたから、お姉さまは裸になられて下さい。今から汗を拭いて差し上げます。」
「はい、リリーお願いね。ところでお乳は出るのかしら!」
「明日には出ますよ。これだけ大きい? のですもの。暫くは大丈夫です。」
「オレグワインがいいのかも!」
「プッ!!!」
1250年3月14日 ハープサル・プリムラ村
*)新しい家族と邪魔な魔女?
翌朝一番に駆けつけたのはアウグスタだった。オレグはアウグスタの姿を見るなり飛び掛っていくが、するりと身をかわしてよけてしまう。
「こら、ソフィアに近づく・・・・・・な?」
「まぁ、可愛い女の子ですわ。オレグに似ていなくて良かったね。」
「アウグスタ。私頑張ったのよ。」
「そうね、私の出産には手伝って頂戴ね。」
「はいはい、」
「頂戴ね。頂戴ね。頂戴ね。頂戴ね。」
「どうしたの?」
「この子。頂戴。」
「ばこ~ん!」
「こらアウグスタ。お前も産めばいいだろう。」
とは、オレグ。
「えぇ、ニコライとはまだ作れそうもないのよ。ねぇ~どうしたらいい!」
「そうねぇ、ニコライを鍛えなくてはいけませんね。でもどうやって!」
リリーが言うには、
「オレグお兄さま、ニコライさまにも魔力が溜まればいいのですわ。」
「俺と同類には考えないがいいだろう。きっと貴族に伸上ればいいからさ、早く貴族にしてしまおうか。」
「お兄さま、きっと銀マルクをたくさん造ればいいのです。きっと、」
「アウグスタも今日からニコライの手伝いをやれ!」
「嫌です。今日から私はカロリーナの教育係をいたします。」
アウグスタはオレグから打たれても怯むことなく、カロリーナにソフィアに付いて回るのだった。
「なぁソフィア。これってまさか!」
「はい、カロリーナの口の悪さの元でしょうね。どうしたらいいのでしょう。リリー、アウグスタにもコウノトリさんを紹介してやりなさいよ。」
「もう、天恵を待つしか方法がありません。」
「ニコライとアウグスタに新居を造ってやりましょうか!」
「あのまま、長屋でいいだろう?」
「ギャ~!! ぎゃぁ、 おんぎゃ~。」
「おんぎゃ~!」「おんぎゃ~!」
「ほらほら、私に貸しなさい。べろべろば~!」
「あぅ、キャッ、キャッ、きゃ~!」
「グラマリナさま!」x4