第197部 苛立つアウグスタにオレグは?
「ミケル。どうだ。」
「お父さん、銀貨の音の耳鳴りで夜も眠れません。」
「それでどうだった。」
「約二十%がここで造った銀貨のようです。」
「どうしてだ。襲撃したのがヴァイキングと分かったが、なぜオーフスの街に俺の銀貨が流れている。」
「はい、それらの事を勘案しましたら街の人間がヴァイキング、すなわちくすねていた”という事が考えられます。」
「ではハープサルの農漁民の連中は何処だ。」
「国の牢屋でしょうか。飯抜きで調教をしているとか!」
「シャバに出た頃に迎えに行くとするか。」
ラースはロシアでライ麦を完売して戻っている。途中でアウグスタを拾って帰ってきた。
今のハープサルはジジババが多くなっている。ルイ・カーンがグダニスクから持ち込んだ漁船が10艘在るが持ち回りで稼動している。それからハープサルの襲撃はルイ・カーンの影響ではないと、村の長老たちが結論を出したので、ルイ・カーン公爵はハープサルの領主へ昇格した。そう言われたからにはルイ・カーンは、漁船を多数購入して貸し出しを行った。村人は一文無しになっているからリース代金は現物支給とライ麦畑の開墾でちゃらにされている。今ではルイ・カーンが命といえる。
1250年3月10日 ハープサル・プリムラ村
*)ハッピーウェディング
ソフィアが散歩をしている風景が日課となった日。リリーは新居の周りに高い塀を造ってそれから二十日が過ぎた頃。
「覗かれたら困ります。ねぇオレグお兄さま、本当に私一人でよろしいのでしょうか。」
「カロリーナは丈夫で元気だったさ。ならばきっとポロリと零れてくるように産まれるよ。」
「でもでも私は心配です。初めてですのよ。」
「だったらソフィアはどのように言っているのかな。」
「あれは、そう、意味不明です。尋ねても頓珍漢な答えが返ってくるだけで、私としましても判断が出来ません。」
「やはりそうなのか。腹もでかくなったしそろそろだろう?」
「はい……。」
「アウグスタの通行を禁じる。」
という立て札がオレグの新居近くに立てられている。これに気を荒立てるアウグスタであった。以前のようにソフィアとドッグファイトをされたら堪らないと考えたオレグが立ててしまった。オレグとすれ違う時は、
「あら、いつ産まれるのかしら?」
と言うが、目つきがきつい。オレグを嫌っているのがよく分かる。
「あぁもうすぐだ。」
「それ、30日前から聞いていますが?」
「知るか!」
そんな二人を見て笑うニコライ。今では鋳造機械を六台にまで増やして銀マルクを鋳造していた。鋳型が余分に残っていたのでフル生産である。
ラースとミケルは、
「うちの女房を手伝いに行かせますよ。」x2
「そうだな、産まれた時の祝いの席の準備は頼みたい。」
「いえいえ、出産の経験がありますのでお立会いを!」
「立会いは間に合っている。リリーは前にもとり上げているから妹のリリーに任せたいのだよ。」
「ふ~ん、随分と奥様を大事にされるのですね!」
「まぁな、俺の大事な家族だからな。」
プリムラ村とハープサルとの行き来が多くなった。間者が多いだけだろうが、村中が見守る一大事といえる。ルイ・カーンさえも簡単には外出が出来ないあり様になってしまった。
このような時に臨時の船が入港した。塔の鐘が激しく鳴り響く。
「カーンカカン。カーンカカン。カーンカカン。」
から、
「キンコンカン、キンコンカンコン。キンコンカンコン。」
に鐘の音が変わった。さらに、
「キンコンカン、キンコンカンコン。キンコンカンコン。」
「キンコンカン、キンコンカンコン。キンコンカンコン。」
「今日は親父が来たのだな。」
「オレグ、どうして分かるの?」
「あの鐘の音さ、あれは嫁が運ばれる時に撞かれる音なのだよ。という事はまた教会からたくさんの奴隷を買わされて来たのだろう。」
「お兄さま、村の人口が増えますね。受け入れはどのようにされますか?」
「まずはハープサルの復興が先だろう。」
「そうですわね。」
レバルから連れてきた女たちの二十三人が乗っていた。多いからという理由でプリムラ村で嫁には早い年少者の五名が迎え入れられた。十八名は直ぐに嫁になってしまう。
「倅よ、」
「やぁ親父。また買わされたのかい。今回は村人が少なくなっているから歓迎するよ。」
「金だせ!」
「この前、多く渡しただろうが、まだ足りないのか。」
「明日には約五十人は届くだろう。だから大きく足りない。」
「親父は女衒に鞍替えしたのかな。五十人とは多くはないかい?」
「ロシアからの移民だ。今年は寒かったらしい。誰だったかな、名前が~そうだ、ラースだったか。ライ麦の販売で移民を募集していたぞ。」
「俺、聞いていない。後で叱っておくか。しかし七十人も迷惑をかけてしまったな。……女が六割か!」
「いいさ、それに、」
「あぁ、そろそろさ。どうしてだ?」
「孫の顔を見たくなった。船いっぱいにオモチャと服を持ってきた。」
「バカ親父。明日、持って帰れ!」
「え”ぇ~~!!」
「お兄さま、ハープサルの村人に渡せばとても喜ばれるわよ。」
「リリーそうだな。それがいい。親父、全部頂くよ。」
翌日には顔合わせの宴会が開かれた。
「男が足りないな~。親父、男も頼む。」
「ヴァイキングから奪えよ! どこもかしこも男が少ないからな。」
「カロリーナが産まれたらデンマークへ乗り込んで、村人を取り戻しに行くしかないのか。」
「そういうこっちゃ。デンマークの出鼻を挫いてやりな。」
逆にオレグの出鼻がくじかれるのだが。
来年の一月にはベビーラッシュになる。
1250年3月13日 ハープサル・プリムラ村
*)襲撃!
「カンカン。カンカン。カンカン。」「カンカン。カンカン。カンカン。」
「カンカン。カンカン。カンカン。」「カンカン。カンカン。カンカン。」
「わぁ~何だ!!」
「カンカン。カンカン。カンカン。」
「ヴァイキングの襲撃です!」
「カンカン。カンカン。カンカン。」
「カンカン。カンカン。カンカン。」
いつにも増して激しく鐘が撞かれる。
「もうすぐだというのにどうしてだ。」
「そういう事は相手に訊いて下さい、お兄さま、お姉さまが苦しまないうちに、お早く!」
「だったらリリーに頼もうか。向こうには婿”が、多数だぜ!」
「向こうに婿”とは、お兄さまはもう相手をバカにしていますね。」
「いいじゃないか、船も男も選び放題だぜ?」
「わ、私には、どちらも必要がございません。ですがハープサルの未来のために頑張りましょうか。」
「そうしてくれると嬉しいな。ハープサルには領主命令を出すか?」
「えぇそうして下さい。ここは村人を担ぐ必要があります。自尊心を砕いたらもう村の復興は有りませんわ。それと甘やかしすぎるのも良くありません。」
「分かった。で、作戦はどうする。」
「はい、XXooです。」
「よし、アウグスタを出す。」
「どうしてですか? あの女の出番はありませんよ。」
「目が血走っている。ソフィアが遊んでくれないからさ、もう献血位では血の気が引かないらしい。」
「まぁお兄さまったら! でもアウグスタにとりまして、とてもいい憂さ晴らしが出来ますわね!」
「そういう事だ。ここは魔女のアウグスタを出すとお触れを出す。」
「はいはい、向こうの男に損害が出ないように、先に使用人契約の魔法を発動しておきます。」
「それで、二つの事が丸く収まるだろうさ。」
「魔法の発動条件は、」
「海に落ちた時に!」
「では、親父に回収を頼むか!」
「お兄さま、くれぐれも以前のように船は沈めないように諭して下さい。そうですね、飴としてアウグスタの目の前にぶら下げるモノは……。」
「赤いニンジンか! それとも……パースニップ(白いニンジン)か。」
「次回のデンマーク襲撃の一番乗りでどうです?」
「ソフィアと競わせる方法がいいかな。」
「はい、それがいいでしょう。すると他に兵隊を集める必要がなくなります。」
「アウグスタ用に赤いマントを作りました。これと仮面で仮装させて下さい。お姉さまのシーツで作りましたのできっとハッスルしますわ!」
「リリーは性格が変わってきたようだが、どうしてだ?」
「さぁ、どうしてでしょうか。私も分かりません。」
赤いマントをオレグから渡されたアウグスタは、猛烈に苛立ってしまった。
「これはなんですか、私を苛立たせるとぁ~いい度胸をしていますね。」
「すまないな~沖で対峙しているヴァイキングを退治してくれないか。無事に終わればそのマントは進呈するよ。」
「えぇ当然です。退治が終わりましたら、八つ裂きにして私のおパンツに作り替えますわ!」
「うひょ~!!……。」
「ふん、今日は使われてあげるわよ!」
「赤眼の魔女! よろしく頼む。後日、ソフィアと共にデンマーク侵攻の二大戦力にもなって貰いたい。」
「それ、絶対に約束を破らないで下さい。」
だが未来の現実はそうならなかった。カロリーナの師匠になってしまうから。オレグとリリーは直ぐに後悔する事になったのだ。
オレグは直ぐさまハープサルの村に降りてヴァイキング殲滅作戦を伝える。
「いいか、お前たちには前の戦いの恨みを晴らして貰いたい。今は親父の軍艦が睨みを利かしているから船に乗って盾と槍で応戦してくれ。俺たちには赤眼の魔女さまが味方してくれるから怖い事は何も無い。海に落ちた者は俺の親父が拾って回るから放置して戦いに専念して欲しい!」
「エイエイ・オー!!」x?
村人は漁船に乗って戦闘に出て行く。