第196部 No title
1249年11月4日 ポーランド・グダニスク
*)チャカの思惑(前半)
「グラマリナさま、私の村が襲撃に遭いまして、全て持ち去られていました。」
「まぁ、それはとても残念でした。それで今日は?」
「はい、村の備蓄のライ麦を持って、今よりデンマークへ行ってきます。」
「そうですか、支援は出来ませんが、応援はいたします。男どもを連れて行きなさい。それと魔女も必要ですか?」
「はいお願いします。それと、その~!」
「嫌です。館のライ麦は放出いたしません。」
「ケッ、
「それを放出しましたら、トチェフ村が食べていけなくなります。」
チ!」
オレグは最大のスピードで以て荷物を纏め船に積み込ませる。荷物は酒とライ麦、食料は三ヶ月分ほどだ。
「オレグさま、ライ麦の備蓄はこれ位ですが、全然足りませんよね。」
「ギュンター、お前たちの食い物を持ち去る形になってすまない。不足分はデーヴィッドから購入してくれ。」
「ヨゼフを同行させて遣りたいのですが、いかがでしょうか。」
「ヨゼフか、あいつにも社会勉強は必要だろう。よし連れて行く。」
「はい、これからは農閑期ですので腐らずにすみます。」
「あいつは暇だと腐るのか!」
「はい、もう納豆菌のように!」
オレグはトチェフからグダニスクに残してきた軍艦に急いだ。
「それ、仰げや仰げ!」x20
二十回も繰り返すとグダニスクに着いた。直ぐさま金貨十五枚を持ってチャカを訪問する。チャカはオレグの船と残りの七艘の船にライ麦を満載にして、手ぐすねを引いて待っていた。
「チャカ、ありがとうな。情報料の金貨十五枚だ。」
「あら少ないわ。回答がありませんでしたから金額は金貨三十枚です。」
「あのジジイはお前の念力だったのか。」
「はい私は無駄に人を殺したりはいたしません。それで払うのですよね。」
「い~、いや、ライ麦の代金もあるし足りなくなる。」
「軍資金ならハンザの口座に在りますでしょう。ケチらないがいいですよ。」
「それで、なんぼだ。」
「だから金貨で三十枚。」
「ライ麦は幾らだ。」
「無料です。まだあれの五倍の在庫がございますので、トチェフへ届けますか?」
「なに~~~!! む~……料だと~~~~!」
「だって、私はあのライ麦をマクシムに売らなかったのですもの。せいぜい倉庫の保管料がかかるだけでございました。」
「あ、ありがとう。金貨三十枚を払う。」
「残りも適宜引き取りにくるからよろしくな。」
「はい、敵パキと仕事して送り返しますわ。」
オレグにはチャカの考えている事が理解出来なかった。トチェフのブドウ祭りにアレクサンドラ公爵を寄越したのも理解が出来ていない。
「それと~デンマークの商人の服と町民の服。国旗も八枚。締めて金貨十枚ね!」
「ゲゲ!!」
1249年11月10日 デンマーク・オーフス
*)デンマーク・オーフス
オレグは効果が有る無しは判別出来ないが、デンマークの国旗を掲揚してエーレ海峡は通らずに、南の二番目に大きい島のフュン島の南を通過して北へ上った。堂々としてデンマークの海を進んで行った。
「なぁ兄ちゃん。本当に襲撃は無いだろうな。」
「俺がいつ襲撃が無いと言った。だろう? だ! ヴァイキングはエーレ海峡に集まっているさ。」
「いや~そういう問題ではないだろう。あんな布きれ一枚で戦闘が回避出来るのならば万々歳だぜ。俺の何は縮こまったままだがよ。」
「ふん情けない。服だって着替えているだろうが。」
「まぁな。……。」
オーフスに着いたら魔女たちと元ドイツ騎士団の男たち。それにリリーとメッテを伴ってラースの館に行き、間借りの準備を行う。
「ラースも良く女房を貸す気になったものだ。生きて帰れるかは判らないというのに。な~メッテ。」
「いいのです。私なんか居ない方がいいと考えているのですよ。」
「それじゃこの館は借りるぜ。」
「元々は公爵さまから頂いたお金で買いました。ですのでお返しいたします。」
「おう、ありがとう。……メッテ。先ほどから何を見ているのだ。」
「はい、ラースの浮気の証拠ですが、何か。」
「あ。はい、なんでもありません。ご自由にどうぞ!」
「おい野郎ども。今晩は寝ずの番で頼む。きっとネズミが夜中に入って来るだろう。女たちは館に残って居る物を全部海に捨ててこい。」
館に残っていた荷物がメッテにはラースの女の持ち物だと勘違いしたらしい。ここに在るのは元使用人たちの荷物だった。今は浮浪者か。夜には女を伴って出勤してきた。
「バコ~ン!」x6
メッテの滅多打ちの音が館に響くのだった。
「ひゃ~奥さま!!」x3
リリーは大きな音と小気味よい男たちの悲鳴を聞いて笑っていた。
「お兄さま、倉庫の大きさはここまででよろしいですね。」
「そうだな、目立つのは良くないから半地下にしてくれ。」
「はい、でしたら今晩はお願いしますよ。」
「判った……。」
リリーは大地の魔法で大きな倉庫を建設した。お陰で隣近所の建物が全て消失してしまう事件になる。家で寝ていた住人はどうしたのだろうか。
「全て、使用人にいたしました。」
「それは、リリーの新しい魔法か!」
「はいそうです。いつの間にか身についておりましたわ。」
「うひょ~もう怖いものは無いな。」
大量の土を海に飛ばしたリリーは五分もしない内から倒れてしまった。
「今晩は役得か、妹と眠れるわい。」
とオレグは一晩中かかってリリーへ魔力を供給したのだ。
*)街中のライ麦を買い上げる
オレグはデンマークが輸入して保有するライ麦を放出させるために、オーフスのライ麦を三日で買い漁っていた。この報告を聞いたらオーフスの領主はライ麦を街に供給しなくてならない。同時にギルドへ行きライ麦の買い付けをするのだが、
「領主の特権だ、いつもの価格で売れ!」
「領主さま。今年は国が大量に購入しておりまして、価格は二割増しになっております。ですから次は二割増しにいたします。」
ギルドでは通常価格で販売してもまだ赤字にはならない。三日後に、
「領主の特権だ、いつもの価格で売れ!」
「領主さま。今年は国が大量に購入しておりまして、価格は三割増しになっております。ですから次は三割増しにいたします。」
さらに三日後。
「領主の特権だ、いつもの価格で売れ!」
「領主さま。今年は国が大量に購入しておりまして、価格は五割増しになっております。ですから次は五割増しにいたします。」
さらに三日後。
「領主さまに販売出来るものがございません。」
「なんでだ、どうしてだ。」
「誰かが買い占めているようでございまして、なんでも国の物資購入だ~と言われるらしくて、どうしても販売せざるを得ないとか!」
オーフスの商人もギルドもライ麦を切らしてしまう。どうしようもないから数日前からオーフスの港で開催されているライ麦の入札に応募する事になる。港には上質のライ麦が山のように積まれてある。だが販売のロットは五十袋単位だ。街の者は買えない。ようやく商人が買えるかとう数量だ。ギルドにはやや割引しているらしく半分はギルドが購入していた。
この入札の情報をデンマークの役人が国王へ上申した。国王は、
「街でのライ麦は販売を許可出来ない。すぐさま止めさせよ。そしていつもの価格で買い上げよ。」
お陰でオーフスへのライ麦の輸出が止まり、ドイツのハンザ同盟にライ麦が全量流れる事になった。相手がハンザ商人となったのだ。こうなるとハンザ商人は黙って売るはずも無い。いつもヴァイキングで強奪されているから、積年の恨みでライ麦の価格は一度に跳ね上がる。
デンマークは来年の春から東方へ侵攻したいので高いにも拘わらずに購入する。購入して国からライ麦を市中供給した。より高い金額での販売だった。
「よ~し、ここで闇販売でライ麦を街にばらまく。とにかく品不足という噂を流して売りまくれ~!」
オーフスの街では商人も在庫は持っているが、今後の品不足に備えて買い漁る。オレグが持ち込む量としてはたかが知れている。オーフスから地方にも流れて行くのだから極わずかな量だろう。
マクシムへ卸す価格の十倍の単価になったであろうか。昨年の小売り価格の倍の価格になったのだ。時価の小売り価格で販売しているから当然か。
1249年12月20日 ポーランド・グダニスク
*)チャカの思惑(後半)
「年末で価格が上昇したわ。アレクサンドラ公爵さま船を出して下さい。今からデンマークにライ麦を販売に行きます。」
「おおそうか、ではボレスワフに行かせよう。」
チャカはオレグで試した方法でデンマークへ入国した。雇われの兵士には人足に変装させて港で売らせる。短時間のゲリラ販売だ。他には商人らへ持ち込み販売を行った。三艘分のライ麦は完売が出来た。
チャカはオレグがデンマークでライ麦を高騰させた時点で、多大のライ麦を運び込み一攫千金を狙っていた。私設の兵はアレクサンドラ公爵の兵を予約している。マクシムとオレグのライ麦を中抜きしているので原価はほぼゼロ! 船代と兵隊代もほぼゼロ! 人員の給料と飯代が掛かるだけで済ませるのだ。
アレクサンドラ公爵とオレグはチャカの手駒だった。
チャカは、
「特筆するような苦労はございません。」
1250年2月20日 ハープサル・プリムラ村
*)オレグの新居
オレグは大量の銀貨をプリムラ村へ持ち帰り、村で鋳造させた銀マルクの貨幣を探してみた。
「ミケル。どうだ。」
「お父さんも探して下さいよ。もう手は垢で真っ黒です。銀貨の音の耳鳴りで夜も眠れません。」
「あぁ分った。それでどうだった。」
「約二十%がここで造った銀貨のようです。」
「オレグさん、この銀貨は市民権を得ましたね。これで私たちが大量に持ち込んでも怪しまれる事がなくなりました。」
「良貨は悪貨を駆逐するか!」
「オレグさん、それは違いますよ、反対です。」
「ニコライ。俺の銀貨は重いから良貨だ!」
「おう息子よ、戻ったのか。」
「おうジジイ、今戻った処だ。」
「息子よ、この代金はありがたく頂いておくよ。少し多いようだがな、が~はっはっは~!」
オレグが稼いだ銀貨一万五千枚は親父がさらっていった。
「俺たちの出産と育児の費用だぜ。」
「オレグ、あれは親ではないよね!」
「オレグさん、シュモクザメさんにはここで鋳造した銀マルクを全量混ぜておきました。エストニアでも気兼ねなく銀マルクが使えます。」
「良くやった! ニコライいい男。」
パブを少し通り過ぎて人は来ないような村外れに小さな館が建っていた。既にソフィアは住んでいたがオレグは初めてである。オレグの親父は港の倉庫と言わずに、ハープサルの村のほとんどの住宅も再建していた。
「あぁ俺が残せるのはお前たちへの新居だけだな。頑張れよ!」
「なんだ、親父は立派に仕事をしていたじゃないか。」