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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第四章 国盗り物語
194/257

第194部 消滅したオレグの村 その2


 1249年10月21日 ハープサル・プリムラ村



*)プリムラ村の再建


「お父さん、村への襲撃はごく最近なのでしょうか。」

「ラース。それはそだろう。十日後だったらエストニアに居る誰かが教えてくれただろう。クルワンの館も襲撃されていたのならどうだか判らないな。」

「船を全部沈められていたとしたら、あながち十日後でもおかしくはありません。」


 坂を上りきった処でラースがオレグに話しかけてきた。きっと息切れが収まったからだろう。背中の荷物も勝手に歩き出していた。


「そうだな、子供が居たらきっと楽しいだろうな。」

「そうですよ、お父さん。」

「ラース、その呼び方は止めてくれないか。俺はまだ子供を持った記憶はないのだよ。いくら転生したからと言っても前世の記憶は持ち合わせてはいなしな。」

「ではなんと呼びましょうか。」

「オレグでいい。この名前はとある国の由緒ある名前だ。とても気に入っている。」

「オレグさん?? なんだかピンときません。」

「そのうちに慣れてしまうさ。それにしてもここは工場だったのだが、見事に壊されているな。銀もコーパルも全部持ち去られているだろうな。」

「秘密の隠し場所はありませんか?」

「んなものは最初から作っていない。第一に土地の利でこの地に居城を築いたんだ。それを寝込み中に襲われるとはなんとも情けない。私兵はやはり作っておくべきだったか。」

「作れば多大な金食い虫になります。商人が兵を持たないのはそういう理由からです。商人の武器は金ですよ。」


「なんだ、俺の周りには誰も寄り付かないのか。」

「お、オレグさんを気遣ってのことです。なんなら私も?」

「そうだな、お前も離れていろ!」

「え~、おと、オレグさん。冗談がきついですよ~。」

「ははは、すまない。もうすぐ俺のパブに着くぞ。……原形はやはりないのか。ここまで壊さなくてもよさそうだが、この俺に多大な遺恨を持っているのか。」

「まだ分かりません。ヴァイキングの線もあります。」

「あぁ、あれな、数百艘は沈めたから、恨みは海底にまで届いていると思ったがいいぞ。」

「んまぁ数百艘も!! それだけ沈めたら逃げていくだけでしょう。またオレグさんに反撃されたら、さらに数百艘、数千艘が!」

「いいや、もしヴァイキングだったら今度からは全部沈めてやる。」


「お兄さま、二戸一にしましたら、村の半数は建設が可能です。ですがかなりの日数は掛かります。」

「そうか、だったら俺の全魔力を使い切ってでも再建してくれないか。リリーに問題が無ければだが。どうだろうか。」

「はい先にパブの建設をいたします。少しは仕様が変わりますがよろしいでしょう?」

「いいよ無理しなくて。パブが出来て今日から休めればいいのだから。その後はまた苦労して建て直す。」


「お父さん、クルワンの館ではいけないのですか?」

「……。」

「あ、オレグさん。」

「あそこは陸続きが一番怖い。四六時中も警護が必要だし、夜中に襲撃でも受けたらどうする。」

「そうですね……。敷地全体に高い塀を建てても同じでしょうか。」

「同じさ。繰り返しになるが、ここは陸からの襲撃には向かない。唯一は海からになるのだが、俺の軍艦が一艘在るだけでここは完全な防御が出来るんだ。その軍艦は何処に在るのだ!」

「俺が塔に登って探してみます。もしかしたらここに向かっているのかもしれませんよ。」

「そうだな、ソフィアをクルワンへ行かせようか。ラース、ソフィアとお前の家族らで行ってはくれないか。早く動かないと食料が無くなってしまうし、俺の戦力の軍艦も傍に置いていたいからな。次が俺だったら抵抗も出来はしないよ。シャチの餌にはまだなりたくはない。」

「オレグさん、それは今晩決めましょうか。全体会議で役割を振っておくのも有効です。」

「だな、まずはパブの再建を一番にしようか。」


 オレグはパブが建っていた処から遠くの海を眺めてみた。左に首を回せばハープサルの港や村が見える。


「ラース、命令だ。鐘を持って塔に登って据えてきてくれないか。今後は警備も行いたい。」

「その鐘は何処に?」

「足元に在ったぞ。兄弟でなんとかしてくれないか。」

「ガッテン!!」x2


「オレグお兄さま?」

「いいぞ、覚悟は決めている。干からびていては看病してもらうのが気の毒だから、動ける程度までは吸い上げてくれ。」

「はい、お姉さまには了解を頂きましたか?」

「いいや、声も掛けてはいないが、悪いかな。」

「当たり前でしょうが。亭主の命を削るのですよ。奥様にもぜひ協力をして頂かないといけません。」

「奥様、ね~! それ、リリーが言うのか?」


 直ぐにソフィアもやってきた。先の方の松林の安全を確認してきたという。


「どうだい、遠吠えは!」

「だから胎教に悪いと言っていますでしょうが。でも松林はなんら問題もありませんでした。」

「ソフィア、今からリリーを通して村の再建を行う。夜の看病は頼んだぞ。」

「そうね、オレグワインを口移しで飲ませるのね?」

「あぁ頼んだぞ。俺は三日は寝込むかもしれないしな。」

「いやよ、今晩くらしか面倒は看てあげない。」

「おいおい随分と冷たいのだな。」


「リリー、今晩だけだからね。」

「はいはい、お姉さまの言いつけは守りますよ。ではお兄さまを少し頂きます。……ぶちゅ~!!」

「いや~リリーのバカ!! バカバカバカバカバカバカバカバカ。」


 リリーはオレグに口移しで魔力を抜き取ったのだった。怒るに怒れないソフィアは複雑だ。最初はパブが建つ。次は新しい家から次々と再建されていく。最後はコーパルと銀貨鋳造の工場だった。これも問題なく再建ができた。


 オレグは最初こそ大人しくしていたが、後半は右手が動き左手も動き出した。最後の方には両足をバタつかせて苦しがる。


「リリーダメ~!! もう勘弁して頂戴、オレグがオレグが死んじゃうよ~!!」


 しかしオレグは右手でソフィアを制止させていた。


「ウグ~……。」


「お兄さま、工場の再建まで出来ました。」


 オレグはリリーの背中をポンポンと叩いて終わりの合図を送る。


「ぶっは~死ぬかと思ったぜ……。」

「お姉さま、早く看病をお願いします、……。」


 オレグもリリーも倒れてしまう。


「ラース、ミケル、早く屋内へ運んで頂戴。」

「ガッテン!!」x4


 唯一の男共が素早く二人を屋内に運びそしてオレグワインを、


「ダメ~~~~~~!!!!」

「二人には私が、私がやるんだからね。誰にも唇はやらないよ!」


 ソフィアはそう言いながらも、二人にはビンごと口に突っ込んでいるのだ。ソフィアは床にべた座りをして、左右の足に二人の頭を乗せ膝枕にした。そして二人の頭を優しくなでている。二人が起きるまでなでているかのように、いつまでもいつまででも……。


 他の者は気がつかないがうっかりミスをリリーがしていた。船の寝具類の荷物を小船で往復してこの丘まで運び上げていた。


「みんな、ごめんね。荷物はリリーが召還する予定だったんだ。」


 男共はヒーヒー言いながらも食料や水も運び上げていた。女たちは部屋の清掃と食事の準備に取り掛かる。子供の二人は仲がいい。


 プリムラ村の再建がわずか一日で出来上がった。


 全員は食後には眠ってしまう、危険はないのだろうか。家具が無いだだっ広い屋内で寒かっただろうに。



*)ハープサルの調査


 プリムラ村は木材を使ってしまったので、壊された方法はもう判別ができなくなった。したがって港に降りて奪われたであろう荷物を確認しに行くがオレグ以外は理解が出来ない。


「なぁミケル。親父どのが居ないと何も出来ないのかよ。」

「荷物や機械類はそうなるだろうな。だから俺たちは人を探すしかないだろう。」

「ほんじゃ山手に行くか。」

「向こうは朝早くだったが煙が出ていたぞ。」

「おいおい、それ、親父どのには報告したのか?」

「あぁもちろんさ。聞く耳は無かったがな。だから耳元で叫んできたぞ。そうしたらさタオルを持って行けと言われたね。」

「なんだそりゃ。どうしてタオルかな。行けば分かるのか。」


 二人して歩いて行くと程なくして壊れた建て屋から白い煙が見えてきた。朝よりも少なく見えると言うミケルは、


「ありゃぁ湯気だな。するとここは!」

「うん風呂だ、温泉だ!」

「おうおう、ここは直ぐにでも片付けてしまおうか。直ぐに親父どのに入って頂きましょう。」

「よっしゃ、全員を集合させるぞ。」


 と意気込んでも残りの男は二人。共に女房らに使われているから無下に却下された。それもこれも現地に着くまで目的は明かさないと言ったためにである。


「びっくり作戦は成就しなかったな。ま、いいさ。タオルは持って来ているし、男二人分の空間を先に作ろうぜ。」

「いいや、ここは勢い良くまっ裸で片つける方が早いだろう。な?」

「お、おう。これも仕事だ。風呂に入るのとは違うんだよな。」

「あたぼうよ、さぁ早く!」


 終日の裸の作業ですっかり風邪を引いてしまった二人。翌日にはオレグと一緒に頭を並べている。


「お前ら、頑張り過ぎだろう。」


 もの静かに寝ているしかないオレグのたった一言だった。翌日の夕方になっても起きないオレグ。唯一の食事はオレグワインのみ。


 リリーは朝からのんびりと過ごしては、いなかった。魔力の補充にと朝から晩まで口が動いている。


「リリー、次はなに食べたい。」

「そうね~、てんぷらがいいな。」

「じゃぁ、これがてんぷらね!」

「え~これ、生のえびだよね。」

「油と一緒に食べれば同じだよ。」

「だって、これは、……。」

「外で油にえびを浸して焚き火で焼いたのよ。どうよお味は。」

「うん、てんぷらのニオイは、する。」

「ころもにする黒パンが無くなっているからね。素焼きでごめんね。」

「ううん、ぜんぜん。次は焼き鳥!」

「ば~か!」


「ソフィアさん、お風呂が使えるようになりました。」

「あらあんたたち、ありがとうね。」


 ラースの従者にいい所を奪われた兄弟たち。従者の二人は鼻の下を伸ばして女たちを風呂へと案内していた。


「こら! 覗くな!!」x6+1

「きゃは、」x2


「さぁ親父どの!」x2


 こうして三日目が過ぎてゆく。




 四日目の朝になった。昼過ぎに待望の鐘が鳴り響いた。全員は作業を止めて眼下の海が見えるパブに集まる。


「わ~本当に船が来たぞ、二艘も来たんだ。」

「ソフィア、どうだ、誰が乗っているか、見えるかな。」

「うんオレグの軍艦じゃないからどうだろう。ここからでは分からないな。オレグはどうしたい?」

「丘から降りるんだから、誰かに頼むとするか。交代でいいだろう。」

「うん分かった。息子に頼むわね。私が引きずってでもいいけど?」

「よせやい、いやソフィアは運動不足か?」

「そうね、みんなからは大事にされるからそうかもしれない。どうする?」

「いいや、止めておくよ。俺も少しは運動しないと尻が痛くなった。ソフィアと一緒に転がるのもいいな。」

「べ~嫌だよ。胎教に悪いわ。」


 やって来たのは三日遅れの定期船だった。クルワンの港にかの憎きヴァイキングが襲撃しに来たのだという。船のクルーたちは港の様変わりで下船を躊躇っていた。そこに一人、二人と姿を見せるのだが、どれもこれも初めて見る顔ばかり。かなり遅れてオレグらの三人が港に現れてようやく下船が開始されたのだった。


 今日のクルーの主だった者は、クルワンのヴァイキング対策で残っていたから、ボブの一人だけだった。他は傭船ギルドのいつものクルーたち。要は司令塔が居なかったから下船も遅れていたのだ。


「だんな~、オレグのだんな~!」


 とても懐かしいと思えるボブの声だった。これを聞いて薄っすらと涙が零れてきた。オレグは返事を返したくてうずうずしている。リリーに召還魔法を頼みたいほどであって、オレグはまだまだ大きな声が出せない。


「やぁボブ。会えて嬉しいぜ。このざまを見てさぞや驚いたであろう。」


 ボブはどうやって声を掛けていいのか分からずに、無言で崩れ桟橋に船を横付けしていた。


「旦那、これは、ヴァイキングですかい?」

「いいや、俺が来た時には遅かったようで、誰も居なくて家は、ほら、あのような有様になっていたよ。ボブの方こそ何か事件があったのか。」

「ですが旦那のその様子だと、いったいどうされました?」

「なに、これはただの魔力切れだ、心配は要らない。」

「へい、クルワンではヴァイキングの集団に襲われましたよ。撃退するのに手間取りまして船も多数奪われてしまいました。」


「そうなのか、あいつらの目的は人と船だったんだな。」

「すると、ここはヴァイキングに略奪された後とか。」

「だろうな、日程的にちょうどの日だったようだ。俺らも一日早くここに立っていたら今頃は、」

「クソになってますか!」

「シャチのウンチだったろうな。それで俺の方の損害はどのようなものになった。」

「はい、夜襲でしたので人の居ない船がごっそりと。有人の船を襲撃して初めて夜襲と分かりましたが、港の者はみな寝静まっていましたから、軍艦以外は傷だらけになってしまいました。あれではこの秋の輸送はほぼ不可能な状態でしょうか。」

「く~やってくれたわ。この恨み……。・・・・・・・。」


 オレグの口が動かない時は要注意。怒り心頭で気が立っている時だ。この点はボブも心得ているから何も言わない。


「ボブ。荷物を置いたらクルワンへ報告へ行ってくれ。一艘は労力が欲しいから置いてくれないか。」

「え、はい、了解しました。」


「お前らも大変だっただろう。荷下ろしが済んだらゆっくりと温泉に浸かって休んでくれ。俺らも働き詰めで動けない者ばかりだ。」

「そうらしいですね、男が居ませんもの。だったら俺が残って港の修理をいたします。帰らせるのはクズでもいいでしょう。若いのを帰らせます。」


「あぁ、そうだな、それがいい。ボブ、よろしくな、」


 今晩は久しぶりのワインとビールを飲ませることが出来て喜ぶオレグがいた。オレグの快復が早くなる。


「みんな、ゆっくりと飲んでいいんだぞ!」

「旦那、まだ食べる気ですかい??」


 港の狼煙は上がり続けている。こうして四日目が過ぎてゆく。


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