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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第四章 国盗り物語
190/257

第190部 酢になったオレグワイン。 モグラ( Moles )


 シュバシコウ=ヨーロッパコウノトリ。


 北欧のここポーランド国内では大多数が営巣えいそうするそうです。世界最大の繁殖地です。電柱や高い塔に巣を作るが観光の写真を見ても写っているところを見ません。田舎は上を見上げれば巣だらけなの?



「それで名前は?」

「そお~ね~、……コウノトリが赤ん坊を運ぶんだから、ストリートパフォーマーのヴァイオリニストの、カロリーナ・プロツェンコから頂くわ!」

「あの可愛い十二歳の女の子ね!」

「うんカロリーナに決めた!」

「将来が楽しみな女の子。」




 1249年9月3日 デンマーク・オーフス




*)シェラン島を迂回し、アンナを放出せよ!


 オレグは使い物にならなくなったソフィアを放置し、リリーとエレナを伴ってデンマークのオーフスを観光して回った。二人の案内人のメッテとヘンネ。漏れなく二つの子供も付いてくる。


「お兄さま、サブタイトルのモグラとはなんでしょうか?」

「あぁそれな、オーフスの地下に潜ってデンマークを調べようと思っただけさ。気にするな。」


 オレグの二人の息子は、兄のラースの船で逃げ出す準備で忙しい。それでリリーはこの二人のためにオレグワインを差し入れするも、飲まれずに甲板に放置されたままだった。放置されたワインは発酵が進み、酢へと変化してしまう。いつもボブ船長やシビルが飲んでしまうので、今までワインがボトルの中で酢になるとは知らなかったと言うリリー。


「それで、アンナ妃は毎日どうやって過ごしているのかな。」

「お兄さま、奥様のことは気にならないのですか?」

「ソフィアとカロリーナか、もう顔も忘れたよ。それで?」

「はいソワレを従者にしてマーセリスボー城宮殿で豪遊しているらしいのです。」

「いいご身分だな。俺らにはお呼びもないってか!」

当然あたりまえでしょう、だって私たちはデンマークの敵ですよ。呼ばれる方が可笑しいでしょうが。」


「リリー、Molesになってスパイに行ってこい。久しぶりのミラーの魔法が使えるだろうが。」

「もう忘れましたわ。ノゾキは趣味に反します。これは立派な犯罪ですわ!」

「しようがないな~、今回はどのようにして先に進むのか悩むね~!」


「物がすっぱくなるとは『ねまる』と言いますのよ。でしたらこの章はもう『ねまる』しかありませんわ。」

「そんな~ご無体な!」


 随分と若い者が集まるオーフスの街。だから老害が少ないだろうと想像に馳せたいのだが、何処にでも嫌いな上司はいるものだ。私なんぞは不思議だが他社の人から言われてしまった。


『あんたは上司と上手くいっていないんだね!』


 当たり前だろう、自分の飲み食いを会社の接待交際費で落とす。上司の上司はにあきれてモノが言えない。『T君に任せているから!』もうあり得ない。そんな上司に夜も付き合って、翌日『昨晩はお世話になりました!』と言いたくもない。そんなの当たり前だろうが。それ以降は上司の誘いは全て断る。だから他社の社長から『あんたは上司と上手くいっていないんだね!』


 こんな老害が小さくても立派な会社を食い物にする!『許せない!』当然、会社は存続出来ない。*商事の九州統**を招いても自助は働かなかった。


 おっと話が逸れてしまった。ここオーフスは若者が集まる都市に成長していくのだが、街の人間が若いというのはとても素晴らしい。活気がみなぎる。


「なぁリリー。俺にもこんな若くて活気の漲る都市が造れるだろうか!」

「問題ありません。信長は『人生五十年。』と言いましたが現在は多産の時代です。多くの民と奴隷が産まれては死んで行きます。平均年齢は三十代です。貴族のジジイの老害以外は問題ございません。」

「すると俺も残すところ、後十年なのか!」

「私は後三百年はありますわ!」

「じゃかましい! 五百年も生きるつもりか!」

「はいオレグ兄さまがこの世から消えるその日までお供いたします。」

「この俺が後十回も輪廻転生を繰り返すのかな。……これじゃ老害が漲る展開になりはしないだろうか。」

「いいえ全然! 四十歳前で死んで二十歳で生れ変わるのですもの。もう最高です!」


「これって、お前の好みの物語なのだろう。俺の意思はどうなる。」

六四チョンです!」


「それでお兄さま。帰国の準備が出来ましたらあんなアンナは放置して行くのですよね。」

「あれはリリーが呼び寄せたんだ。リリーに任せた!」

「はい任されました。出航の準備が出来ましたら王宮より召喚致しまして故国へ送り帰します。今度こそお弁当を持たせてエーレ海峡へ投げ捨てておきます。荷札は~そうですね!……。」


「どうした、ネタ切れか!」

「お兄さまの意地悪!」

「そうですね。ここ最近は物語を考えておりませんでしたので、もう息切れになってしまいました。ポツリと書き込みましてもいいアイデアが浮かびません。ですのでアンナ妃を海に浮かべる事にしました。」

「だったらアンナ妃は、浮かばれないな~!」


「まぁお兄さまったら、意地悪。」


「もうオーフスには用がない。宮殿や要塞の場所も把握が出来た。エストニアへ帰って銀貨を造る事に専念する。」

「帰路の途中ですがトチェフへ寄りませんか?」

「なんだい、家に用事が?」

「はいバラ園の手入れをしておきたいのです。お兄さまはブドウ園の手入れが必要でしょう?」


 オレグ、リリー、ソフィアとカロリーナ。エレナとソワレ。兄のラースと妻のメッテと息子のウィリアム。弟のミケルと妻のヘンネと娘のエンマ。御者が二人。総員が十四名になった。ソワレはグラマリナへ帰宅の報告に向かい、エレナはオレグの息子家族らをトチェフ村で観光案内をしているのだった。



 1249年9月15日 ポーランド・トチェフ村



*)新しい、かしまし娘



「そろそろ俺の足も水虫で痒くなってきたな。序でだブドウの足踏み運動をしていこうか。」

「お兄さま! ばっちいです! それはうら若き乙女の聖なる職業を冒涜するものでございます。男には踏み入れて欲しくありません。」

「カロリーナに踏ませてみたいのだよ。きっと全身ブドウまみれになって喜ぶだろうさ。服もワイン色に染まって可愛いだろうな!」

「まぁすでに親馬鹿になられましたか? お兄さまは子供が嫌いだっちゃ?」

「それな、ソフィアと同じなんだよな。子ども嫌いはどうしてだ?」

「お兄さまの産まれた環境による、後天的な事だと思われます。きっと親父どののシュモクザメさんの浮気のせいでしょうか。」


「あはぁ~ん俺が誰の子供か! 分かったような気がしてきたよ。」

「タライに乗って、どんぶらこと海に漂っていたとか!」

「アンナ妃と同じなのかもしれない。あれは生きているだろうか。」

「はいアンナさんは元気で戻られています。貢ぎ物が良かったのですね。」

「いや俺は大した物は入れなかったぞ。それともリリーが何か入れたのか。」


「お兄さまは****で、私は**** *です。」

「??……?」


 無事にトチェフまでの航海を終えて港に停泊した。オレグは酢になってしまったオレグワインを入れていた。リリーはアイスワインを二本も! 入れたらしい。オレグのパブまでリリーと雑談しながら行くつもりが、一歩を踏み出したらもうそこはオレグのパブだった。リリーがゲートを出してくれたのだ、通過したのはオレグの家族のみだった。雑談の続きをしながらパブへ入る。


「きっと料理のスキルが上達するだろうさ!」


「あら、私の料理スキルはとても高いのよ?」

「やぁエルザ。久しぶりだな。息子は元気か!」

「?……大きいのは毎日元気で働いているわ。でも小さいのは娘よ……?」


「エルザ。今日はどうしたのかしら。ここはトチェフのオレグのパブだよね。」


「なに?……その子! どしたのよ。隠していたの?」


「そうね、こうのとりさんから頂いたのよね。可愛いから私が引き取って育てる事に決めたの。……カロリーナよ。」


「不思議だね。コウノトリ伝説。」


 エルザは急な展開で頭が回らないらしい。


「あぁ今日はデビの配達に付いて来ただけよ。グダニスクの店は暫くお休みにして帰って来たの。」

「あらどうして?」

「いいじゃない。ただの気まぐれさ。」

「ふ~ん、乙女に戻りたくなったとか!」

「(ギク!)そうね、ブドウの収穫までは居ると思うわ。そっちこそなんで?」

「うん、このカロリーナに赤い服を着せたくて寄ったのよ。そろそろでしょう?」


 オレグのブドウ園はそろそろ色づく季節に近づいている。オレグの留守の間でも開墾は進み、以前の倍近くまで広がつていた。一番冷たい北西の風を受ける畑はすでに葉っぱは黄色く色づいていた。高台になるからビスワ川からも見えるし、港に上がればより雄大に見えている。


 コートドール 黄金の丘 になりつつあった。ブドウ園が黄色く染まった丘をそう呼ぶ。「コートドール 黄金の丘と!」 もちろんビスワ川に沿ってい広がるライ麦の畑も「黄金のベルト地帯」と呼ばれる。


「そうねオレグさん。今年からさ、ブドウ祭りを行ってはどうだい。広場という広場に大きなタライを置いて、乙女にブドウを踏ませるのさ。きっと多くの客が近隣から集まるだろうしさ、ね?」

「おお!! それはいい、とてもいいぞ。至急大きいタライを作らせようか。」

「私の勘だけど十タライでは足りないよ。」

「なに、リリーに大きいタライを召喚させるさ。……なぁリリー。」


「えぇ未来のトチェフより召喚いたしますので、今年は急いで作る必要はありませんわ。それよりも祭りの出店でみせは造って下さいよ。あ~やってエルザもお金儲けに目の色が変わっているのですもの。ね~ぇ、エルザ??」

「ぅ……そうね。どちらかというと乙女になってみたいの。」



「オレグ。ビスワ川の黄金のベルト地帯のライ麦はどうするのよ。」

「またギュンターに任せるさ。」

「ほらまた。そうやって自分の仕事を放りだすのだから。」

「なにいつもの事さ。気にするな。」

「妻として気になります。もうオレグも子持ちになったのだから。責任を果たしてちょうだいよね。」

「この俺が、子持ちだと?」

「そうよ、カロリーナもきっと未来から来たのだわ!」

「まさかぁ~!! ……未来の未来か! な。」


「リリーの召喚よ! 十分に在り得る事なのよ。このソフィアを信じなさい。」

「嫌だ、俺は子供が嫌いだ。ビスワ川に流してやる。」

「ばこ~ん!!」

「そこで寝ていなさい。」


「ねぇソフィアさん。お願いがあるのよ。……聞いてくれるかしら。」

「そうね、私に出来る事でしたら叶えて上げます。」

「大丈夫よ、ギュンターさんも乗り気でいましたから。」

「ギュンターさんが?……え、なになに!」


「今年のライ麦の収穫を愛するデーヴィッドに任せて頂きたいのよ。うちではもう十分に働けるようになったわ。かのマムシさんも言っていました。


 『可愛い子には旅をさせろ!』と。」


「それ、マクシムが自分の為にいいように仕切りたいからですわ。オレグには損をさせる訳にはいきません。却下します。」

「え~そんな!」

「ほら損でしょう?」

「あ、……言葉の端々を突かないで下さい。ただの同音異語よ。突っかからないでちょうだいな。全部の仕事を任せる事が出来るのよ。そうしたらソフィアもブドウの乙女になって花を咲かせる事が出来るわ。ソフィアもきっと、可愛い乙女になるわ~!!」


「う……うん。乙女になりたい。」


「まぁお姉さまったら、ものの見事に釣られてしまって。お兄さまにはなんと言うのかしら。」

「うん乙女の一大事! と言うに決まっているじゃない。」

「二十六歳になっても乙女なの?」

「失礼ね、まだ二十五歳よ、……あ~~~~~~~!!!!!!」

「墓穴!!」

「掘ったようね。いい気味だわ。」

「リリーヒド~い。ついでににエルザも調子に乗らないでくれる?」

「はいはいエルザは中立でございます。私たち三人で計画を練りましょう。今がそのチャンスよ。寝ているし。」


「それ、タヌキだから注意してね。」


「女将さ~ん。……あの秘密の別室を借りたいわ~。」

「あいよ、あたいも仲間に入れておくれよ。協力するからさ。」

「やった~! お仲間ゲット!」

「あの女狐はどうするの?」

「かしまし娘だけで遣り切るわよ。」

「一人多いのだけれども。どうする?」

「だったら、や・かまし娘に決めたわ。」


 エルザ、ソフィア、リリー、女将の、や・かしまし娘が決まった。


「え~カロリーナも仲間に入れてよ~。」





 1249年9月30日 ポーランド・トチェフ村



*)新しいワインブドウの搾汁機?


 あれから二週間が過ぎた。村中からブドウ摘みの女たちと籠を運ぶ男どもが多数集められた。


「なんだい、今年はこれだけしか居ないのか。」

「ごめんねオレグ。ヒョロ男しか居ないのよ。屈強な男は全部ライ麦の収穫と荷役に回してしまったわ。だから……ね?」

「いいぜ、その分ソフィアが働いてくれるのだろう?……おい、もしかして!」

「はい、リリーのゲートを使うのよ。任せて!」

「それはダメだ。リリーの魔法が知られてしまうから却下だ。馬車を使え馬車を。ついでだ、綺麗な花馬車を造ればいいだろうが!」

「あ!……それ、いい。直ぐにリリーに造らせるわ。」


「私のバラは提供しないよ。お姉さまは山から集めて来てね。タンポポを!」

「いいわよ、大きいブタの鼻で飾ってやるから。みんなはとても喜ぶかしら!」


「お兄さまはカロリーナと一緒にワイン工場へ行ったわよ。もう姉さま……見損なったわ!」



 昨晩カロリーナは不思議な夢を見たからと言って、オレグに頼んでワイン工場へ出向いた。


「お父さん、大きい赤松の大木を二本を用意できてるかしら。」

「おと……。いやいやいや、俺に向かってお父さんと呼ぶなと、いつも言っているだろうが。今晩もぶたれたいのか!」

「ぶ、え~ん!!」

「オレグさん、可愛い娘さんを泣かせるのは止めて下さいよ。」

「うるさい、黙れ!」

「ぶ、……。」

「うひょ~、オレグさんは酷い親ですね~。」

「うるさい、お前に言ったんだ。黙れ!」

「ヒェ~!」

「早く松の木の処に案内しろ!」

「はいはい、そこの処にありますでしょ。……嬢ちゃん、あれでいいかい。」

「うん、長いけれども大丈夫。半分にすれば二つも造れちゃう。」

「じゃぁ、この短い木で試作してみるよ。どのように造るのかな~。」


「うん、あの台を二つ用意して松の木を横に並べるの。そして松の木の下には大きいタライを置いてね、こうやって二本の松の木の上にブドウを置いて。」

「ふんふん。」

「そうして二本の松の木を内側に回すのよ。」

「フンフン。」

「……もう、か弱い娘に松の木を回せると思っているの! このおたんちん!」

「おいおいおいカロリーナ。それは母親譲りか!」

「まぁね。お・・・・の所為だからね。」

「なんで俺の所為なのさ。……?」

「ほら、心当たりが出てきた!」

「このう、マセガキが!」


「うふふふff!!。」


 とカロリーナは不気味な笑みで嗤う。甲斐性なしの父親だと知ってしまったらしい。カロリーナは(私が両親に刺激を与えてHさせないと、私は産まれないのよね)と考えている。


「嬢ちゃん、いいかい回すよ。……それ!」


 二本の松の木は内側に回転を始めた。二本の木の上に在ったブドウは木の間に巻き込まれて潰れて大きいタライに果汁と共に落ちていく。オレグの目が光る。


「おい俺にもやらせろ!」

「へいオレグさん。……無理ですぜ!」

「何が無理だ、こうやって木を回す・・・だけだろう。こうやって……。」

「ほらほら、あっしが右を回しますからオレグさんは右を回して下さい。」


 オレグと男は対面して松の木を回すという。


「その前にカロリーナ。たくさんのブドウを載せてくれないか。」

「えぇいいわよ。……お・と・う・さ・ま!」

「……。」


 オレグは言葉も出ない。とてもませたガキの性格。これもソフィア譲りだというのだろうか。それとも、他に親らしき教育者が居るのだろうか。オレグと男が二本の木を回しだしたら、次々にカロリーナはブドウを松の木の上に置いていく。ブドウは果汁とともにポタポタと滴り落ちていく。


「わ~甘くてとても美味しいわ!」


 とカロリーナは滴るブドウの果汁を両手で掬って飲んでいる。


「ねぇ貴方。この果汁だけでもワインが出来るのよ。至急樽を用意しなさい。」


 この一言を聞いた男は驚いてしまい、松の木の回転を止めてしまった。


「だ、だんな!」

「なんだ。」

「末恐ろしい娘さんですわ。俺、縮こまってしまいました。」

「おたん珍か! だから言われていたのか!」

「ブルルル……。滅相もない。すぐに樽を用意します。」

「あぁそうしてくれ。しかしブドウの汁だけでワインが出来るのか?」


「出来ますわ。色は白で酸味が強い、後味すっきりなのが!」


 ワインは果皮の赤が混じるから赤ワインになる。最初から果皮を除外すれば白ワインが出来るが、味が甘くならない。糖分が果皮に集中している為だ。


「カロリーナ。どうしてだ? 本当に夢のお告げなのか。」

「そうよお父さま。今までに無い透明なワインが出来るわ。甘味が少し無くなるのだけれどもね。」

「ほほうそれは楽しみだ。だったら蜂蜜を混ぜたらどうだ。」

「だめよ、蜂蜜は殺菌作用があるからワインが出来なくなるわ。」


「お前……。」

「未来人よ、遠い未来から飛んで来たのよ。お父さま!」


 ブドウの搾汁機はとても高価だったらしい。貴族がお金に物を言わせて創らせてワイン農家に貸出をしたらしい。所謂リースである。そのリース代が払えない小さな農家は足で踏んでブドウを潰している。

 

 カロリーナが考案した方法は画期的で、一度にたくさんのブドウを均一に潰す事が出来たのだった。収穫時期が集中するから広い農園のブドウを一度に収穫する必要がある。収穫が出来てもブドウを潰すのに期間を要したのであれば意味がないと言える。後にボブが改良を加えて松の木を歯車のように創り上げた。歯車になったので以後は一人で搾汁機を回せて一人がブドウを投げて、二人が搾ったブドウの入るタライを入れ替えて運んでいる。最低で四人も揃えばブドウを潰していくことができた。


 足踏み式でブドウを潰していては時間も人数も多くかかってしまう。


 背中にブドウを入れる籠を背負ってブドウを収穫していた。籠が一杯になれば作業場へ戻ってタライに深々と頭を下げる。そうすると背中の籠からはブドウがタライに全部落ちてしまう。それを何度でも繰り返す。


 ワインの職人と家具職人のヘンリクに緊急招集が掛けられる。イワンとヘンリクが揃ったところで再度ブドウの搾汁を実演してみせる。


「イワン。どうだい、この方法は!」

「はい……とても素晴らしいです。たくさんのブドウを短時間で潰せます。ですが、粒はバラバラですので木の間隔を改良すれば文句はありません。」


「ヘンリク。この二本の松の木を半分にして二基の搾汁機を造ってくれないか。片方に手持ちが出来るように杭を打てばいいだろう。後は枠を工夫して造り上げる事が出来ないだろうか。」

「へい芯出ししまして、巧く回転が合うようにすればいいのでしょう?」

「まぁそうだろうな。後は創意工夫で改良すればいいだけさ。」

「へい実演しながら考えますが、今回は簡単でよろしいですね?」

「あぁ十分だ。今年はな!」

「今年は! ですか。」

「そうだ、今年は乙女による足踏み式で、お祭りにしたい。」


「でた~オレグさんのお祭り好きが~!」

「おいおいヘンリク。ここ最近は旦那が留守だったので、かなりのお祭りが中止に追いやられただろが、あの領袖りょうしゅうがガメツイからな~なんでも金は出さないし、出しても雀の涙だったしな。」


「おいイワン。そこんとこ詳しく教えろ。俺が仕返しをしてやるよ。今年はグダニスクからツアーを組んで観客を呼び寄せるからさ。」

「へい。今度からはオレグさんが面倒を見て下さいよ。それがお約束出来ればかの女傑様には内緒で行えますから。」

「そう……だな。あれ抜きがいいだろう。俺も賛成する。」


「それで旦那。」

「ヘンリクはジクムントと協力してたくさんの出店を造ってくれないか。これは至急の命令だ。出来るな!」

「期間は?」

「一週間後。なに石工のマシュには多くの竈を造らせるから大丈夫だろう。」

「はい了解しました。期間は?」

「おう、それな。三日間の開催でいいかな。」

「で、オレグの旦那。昨年に仕込んだビールとワインの庫出くらだしセールを行えば、さらに四日を追加して七日間もお祭りが出来ますよ。」

「どうして七日も?」

「へい、ライ麦の輸出が十日後には終わりますから、あいつらも祭りの後半には参加することが出来ます。あいつらを無視しましたら後が面倒ですよ。」


「期日を後ろにずらせるのか、酪農のレオンに聞いてみる。」

「旦那、ブドウは待ってはくれません。オレグワインとYOワイン用はすでに収穫期を迎えております。」


「そうか、ではリハーサルを兼ねて前夜祭を明日から始める。明日から順次収穫と仕込みを始めてくれ。」

「あれれ? 奥さんのソフィアさんはもうそのつもりらしいですが、旦那は知らないのですかい?」

「おいヘンリク。それは秘密だろうが……。」

「あ!……。」


「知らないな~。あいつらは独自で動いていたのか!」


 心が優しいのか、ヘンリクの言ったのを理解していない振りをしている。


「オレグの旦那。後は任せて下さい。旦那には倉庫の払い出しをお願いします。と領袖の口出しを止めて頂きます。」

「おう了解した。任せろ! あの出しゃばりは大人しくさせておくよ。秘密兵器があるからさ。な? カロリーナ。」

「え~私、イヤだよ~。」

「グラマリナの前でヴァイオリンを演奏してくれるだけでいいからさ!」

「だからイヤだってば。」

「お前、未来人だろう?」

「……まだ四歳です。ヴァイオリンは十六世紀以降ですよ、お父さん。」

「そうなのか、残念。」


 兄のラース家族と弟のミケル家族は、エレナの案内でトチェフを見学していたのだが、今は館でグラマリナの話し相手になっていた。妻の二人はトチェフの出身だから、元農婦とばれないように厚化粧で臨んでいる。それでも流れ出る冷や汗で化粧が崩れるのには閉口したらしい。二人の兄弟はオレグの秘密を

見つけるべく方々を探っている。今は巨大な倉庫の商品に関心を抱いている。お祭りで蔵開きになったら、凍死する程長い時間を冷凍室で過ごしたらしい。グラマリナの銭湯で蘇生した、との風のうわさが流れていた。


「俺の息子が凍死しただと?……顔も忘れた。それ誰だ!」


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