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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
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第19部 倉庫が空になった?


 1241年5月11日 ポーランド・トチェフ


*)より(日本の農村で行われる、村の衆が集まって行う全体集会)


 その頃トチェフ村では、村人が集まって、「より」が行われた。


 長老が、


「領主さまが居ない間に決めるだよ。オレグさんが来ている間に、村が発展するよう村の事業を行うべきだ。この機会を逃したら、俺らはじり貧になり死んでしまうだよ。」

「俺もそう思う。開村以来、税金も納めんで領主にすがって生きているだけだ。」

「そうだ、そうだ、もし領主さんが逃げだしたら、先は考える必要も無いで。」

「長老! お頼みいたします。」

「ああ、皆の意見は分かった。これから、領主に会いに行くだ。」 


 よりの会合は終わった。うつむく村人は居ない。どちらかというと、希望が見えた? という表情だろうか。今まで村の総出で開墾してきたが、農機具もろくに在りはしなかった。少ない機材でやりくりしてきた。村人も少ないから大きい村の事業が出来なかったというべきだろう。



「なぁ、お前。水車小屋が出来たらさ、麦の粉挽き作業が無くなるんだよ? 凄いじゃないかい」

「あぁそうだとも。その空いた時間で村の家の普請も出来るというじゃないかい。新しい事を始めるとは、こう、なんだか、胸がわくわくするだな。」

「そればかりじゃないぞ! 嫁の家事も減らせるらしいのだな。」

「そうか、俺も嫁がもらえるといいな~!」

「お前には無理だよ。嫁を貰ったら床の間に飾るだろうて。だから、誰も来ないだろうよ。」

「嫁っこを飾ってどこが悪いのさ! あ、あ? 家には大きい床の間を作ったぜ!」

「床の意味が違うだろう。床の………………」

「俺の好みだ。バカにするな!」


 村人の全員が明るい農村を夢見ている。各自は己の第一の希望に胸と夢を膨らませて、領主の館までわいわいと騒ぎながら行進した。


 はて? オレグはこのトチェフ村の発展のシナリオを、いつ、誰に話していたのだろうか。作者は知らない。



 領主の館までの足取りは軽かった。



 領主のエリアスは、農民が集まったので会合を開いた。


 長老が村代表で懇願した。


「領主さま、水車小屋のご普請をお願いしますだ……………。」

「ああ、その事だが、オレグさんには、ぜひ造って貰うように頼んだよ。それと、農民の移住で人口を増やす事も頼んだ。他にもな、農機具も頼んでいるよ。」


「領主さま、ありがとうございます。ありがとうございます。」


「だがな、この俺様にも、全部の金の用意ができんのじゃ。だから、困っておる。だから、お前らの中から、普請の人員を出しておくれ。不足する金はオレグさんに待って頂くか、俺の親父に頼んでみる。」


「エリアスさま、是非ともお願いします。」


 最後にエリアスは大きい声で叫ぶように、


「お前らも、ワシの為に働いてくれ。何が出来るかを皆で相談しておくれ。それでオレグにはその旨を告げて、水車小屋の普請の計画に役立ててもらう。」


 村人は隣にいる者どうしで話し出した。領主の館を出てからは先ほどと同じ事を繰り返すのだった。


 村人の全員が明るい農村を夢見ている。各自は己の第一の希望に胸と夢を膨らませて、自分の家までわいわいと騒ぎながら帰路についた。


 村には知恵のある者が居ない。これが最悪だ。領主が言った意味が理解されていないのだ。村人が出来る仕事を考えろ! と言われたが、夢を思い描くばかりだった。だから、領主やオレグの言う言葉を理解出来る村人が居れば事は早く進むことだろう。



 1241年5月12日 ポーランド・グダニスク


*)農機具の搬出


 オレグは朝早くから倉庫に来ている。今日の仕事の段取りだ。トチェフまで持って行く農機具の選別を行うのだ。村人の要望を聞いてはきたが、あまり覚えていなくて選別には手間取った。


「これとあれが、あいつの欲しい物で、これは隣の…………」


 あまり進まないようだ。



「リリー、トチェフまでゲートを頼む。」

「いいけれども、なに?」

「村人に農機具を届けるのさ。馬車で運んだ数では足りなかったよ。ついでに小屋の建設資材の到着後の荷役も頼んでおきたい。」

「直ぐに繋ぐね。オレグ一人でいいのかな。ソフィアは連れて行かないの?」

「ああ、ソフィアには倉庫番をお願いしたよ。」


「オレグ。どれだけ運び出すのかな。時間が長いとね? それでね? その……」

「ああ、分かってるさ。ソフィアにはアップルピザの上等を頼んでおいたよ。後で持って来るさ。楽しみにしてろよ。」

「うん、ありがとう。」


 オレグは小さな独り言。(しょうがない。疲れるが頑張るか・・・・・)


………………………………………………………………………………………………


*)面接


 オレグは自分の頭の悪さにイライラしていた。


「どうして俺はこうも頭が悪いんだ。これ位の事が出来ないなんて……」


「よう兄ちゃん。頭が痛そうじゃないかい?」

「や~、ボブ。もう痛くてな、仕事が出来ないんだよ。」

「そりゃ! そうだろう。昨日は飲み過ぎただろう?」


 その一言で昨晩の打ち上げが、打ち上げ花火のように頭でさく裂した。


「ガーン! おお、俺の頭で金が成る……」


「おめでたい兄ちゃんだぜ。ほれ、人足三人と給仕女を連れて来たぜ。面接しろや。いい奴等だと思うよ。」


「あ? ああん? そうだな。採用試験を行うか!」

「なんだい? その、採用試験とはさ!」


「ああ、簡単な質問をするだけさ。これ位は答える事が出来るだろう。」

 ボブは、………返事をしない。俺は三人の男に質問をした。


「ニ足す二は、幾つだ?」

「にー!」

「ああ、そうだ。ニ足す二は、幾つだ?」

「にー!」


 三人は、にーと言って笑うだけだった。


「おい、ボブさんよ。いったいこいつ等に何を吹き込んだんだ? 会話も出来ないのかな? それとも質問の意味が判らないとか? ありえんだろう。」


 俺からバカにされたような言い方に、ボブは男共に語気を強めにして、


「おい、お前ら。二足す二は、幾つだ?」

「ボブさん、四になります。」


 オレグは意味が判らなかった………。


「あれでいいのか? どうだ、正解だろう! 次は女に質問してくれ。」


 オレグは女三人を足から頭まで丁寧に見つめて質問を考える。閃いた?


「お前らは、ボブの嫁さんになってもいいのか?」


 女三人はお互いに顔を見合いながら、二人は外へ走り出した。だが? 一人はボブの右腕に縋り付いた。女の二人は捕まればボブの嫁にされると思い、一目散に逃げ出したのだ。もう一人はボブにぞっこんらしく、直ぐにボブにしがみついた。ボブが手なずけていたんだろう。


「おい、ボブ。あの二人を捕まえてくれ。全員を採用する。皆は真面まとものようだ。」


「おう、ありがて~ぜ。恩にきるぜ兄ちゃんよ!」


 オレグは頭を掻きながら、ソフィアの不在を呪った。ソフィアがいれば漫才とかしなくて済んだのだが……。 


「オレグ! 頭は大丈夫?」


 リリーが心配してオレグの顔を覗き込んだ。


「ああ、かなり重症だな。今日は踏んだり蹴ったりだよ。」


「オレグ、早く仕事しようよ。終わらないよ?」


 オレグは、ぶつぶつと言いながら作業を開始した。


………………………………………………………………………………………………



 1241年5月12日 ポーランド・トチェフ


*)文字が書けない?


 オレグはゲート酔いを我慢しながら、農機具をトチェフへ運んだ。三回目のゲートを潜るのには抵抗があり、うじうじしていたらリリーに蹴とばされた。


「キャィーン!!!!」


 もう俺はグダニスクに帰れない、そう思った。俺は酒を飲んでゲート酔いの気を紛らわせて、農民へ農機具を渡した。


「これから農機具を渡す。欲しい物の名前と数量を書いてくれ。」

「………」

「どうした、俺は忙しいんだ。第一にお前らも、もうすぐ晩飯だろう? だから

 早くしてくれ。」

「すまないだが、目録はオレグさんが書いてくれないかい。」


「?………?」


 オレグは考えた。


「あ、そうだな。この俺が書く事に決めたよ。順番に名前を告げてくれ。」


 そう言ってオレグは早いスピードで配給を終えた。疲れがピークのオレグだが、最後の力を出してこれからの作業内容を簡単に話した。当面の作業内容は?


*)水車小屋の建設と水路の築造

*)横に流れる川に船着き場の土木建設

*)川向うの村との交易の為に船を作る

*)オレグ専用の倉庫の建設

*)住宅建設分の木材の切り出し

*)長屋の100軒ほどの建設

*)水車小屋から村までの水路の建設

*)

*)


「俺はこの事業を一年でやり遂げる。いいか、お前らも手伝うんだぞ!」


 と、叫んでみても掛け声だけで終わった。


 これらの事をデーヴィッドさんに報告した。デーヴィッドはうんうんと、頷いて聞いていた。デーヴィッドは今までこんな苦労をしてきたのか? と思ったら怒鳴る力も失せてしまい、今日の事業内容の報告だけにした。


 今晩は、エリアスの館に泊まった。エルザが夕食の準備が出来たと呼びに来る。デーヴィッドと一緒だったが、疲れの所為か話す気もなくなり、直ぐに休んだ。  


………………………………………………………………………………………………



 1241年5月13日 ポーランド・グダニスク


*)倉庫が空になる


 翌日早く、オレグはグダニスクの倉庫に帰った。残りの荷物をトチェフへ運ぶためだ。昨日の分は全部配給している。追加もあるので水車小屋の資材共々全部をトチェフへ運ぶ。


「なぁ、ソフィア。あの六人は使えるかい?」

「そうね、良く働くわね。ボブの嫁さんは、あれは給仕女だね。重たい物を持てないね。」

「やはりそうだろうな。」


「なぁ、ソフィア。俺はもう疲れたぜ。この俺もやはり使えないかい?」

「何を言っているのかな! オレグくんは。」

「ああ、愚痴りたくもなるよ。村の人間は文字が書けないとさ! どう思う?」

「そうね、先は長いわ。気張るのはもう少し先になるから。」

「あぁ???」

「そう、賢狼のソフィアさまが言いました。ライ麦の収穫から気張りなさい。」

「あ、そう。」


「なぁ、ソフィア。俺はもう疲れたぜ。この俺もやはり使えないかい?」


 同じ事を言った俺にソフィアは?


「そうでもないわよ。今晩は疲れたオレグにご褒美を上げるね!」


「今晩は満月だったよね~。俺は食われるのかな~」

「なによ、満月じゃないわよ。もう私は要らないのね! 失礼しちゃうわ。」

「ごっぁんで~す!」




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