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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第四章 国盗り物語
184/257

第184部 どこまででも、不仲なモノノケたち その一


 とんとん拍子に銀の密輸が纏まりつつある。今は端金にしかならない。明日はアンナ妃と共にスウェーデン王家へ行くことになるだろうか。


 行先は今のスウェーデンのマルメだった。


「何をしているのです。私の準備は終わっています。さぁ早くマルメに行くのですよ。兵士は迷惑が掛からないように二十人まで増やしました。」

「そ、そんな~、……大人数で!」

「あら、駄賃は出せません。今さら嫌だとは言わせ……戦争いたしますか?」


「いえ、ごもっともです。純度の高い銀の地金でした。喜んでお供をさせて頂きますが途中乗り換えをお願いします。」

「えぇいいわよ。ご自慢の軍艦とやらを楽しみにしています。今は対岸のデンマークに不穏な動きがありますので。軍艦は必要でしょう。」

「そんな~私の秘密がばれてしまいますよ~。」


 強面のアンナ妃には対抗できるはずもなく、それこそ泣くに泣かれぬ出航となった。


「リリー先にハープサルへ飛んでくれないか。ハープサルの港には招待が出来ないからさ。……ね?」

「はいはいお兄さま。直ぐに飛んで行きますわ。でもレニングラードからは半日は離れませんと。もし船を占拠されましたら大損確定ですわ。」


「だな!」


 急遽、クルワンの沖の洋上で乗り換える事に決めた。


 

 1249年8月16日 スウェーデン・マルメ



*)マルメ


マルメはスウェーデンの最南端にある都市。現在は三位の人口を有している。デンマークの目と鼻の先に在る。当時はまだストックホルムは存在していない。同じくフィンランドのヘルシンキも無かった。だがバルト海沿岸部はスウェーデンの領地だった。


 このスウェーデンとレニングラード地方の東や南の地で戦争が、スウェーデン王家とノヴゴロド公国が延々と戦争を続けていた。それも十二世紀から十五世紀にかけての息のなが~い戦争であった。オレグとしてはポーランドの東のそまた陸地の東で繰り広げられる戦争は、耳には入っていなかった。寝耳に水だろうか。


 単発式で行われた戦争であった。終戦はノヴゴロド共和国が十五世紀の終わりになって、力を付けたモスクワ大公国に吸収合併されて終わるのである。


 ルイ・カーンがこの事を知るのはまだ先になる。




「何をしているのです。私の準備は終わっています。さぁ早くマルメに行くのですよ。兵士は迷惑が掛からないように二十人まで減らしました。」


「そ、そんな~……遠くまで!」

「あら、船の駄賃は高額で払います。今さら嫌だとは言わせません。戦争いたしますか? なんたって着払いですもの!!! ね?」

「この船ではデンマークには行けません。すぐに沈みますので途中で乗り換えをお願いします。」

「はいはい、予定しておりますのでご自由に。」

「そのう、遠すぎますので……食糧が、……兵士さんも多いし、」

「すでに積んでいるのでしょう? 違いますか!」

「はい、先の船に積ませております。」

「先の船?……ですか?」

「はい、私の軍艦にです。」

「今からどうやって連絡ができるのですか。本拠地に帰港されて構いませんわ。」

「はい承知しました。」


「おうい、全員居るか~! 出航するぞ~!」

「おー!」x13

「??……。」

「お兄さま、お姉さまとシビュラを忘れています。」

「なんだって!!」

「あら、どなたかを積み忘れでしょうか?」

「え、あ、はい。二人を放置したままでした。直ぐに載せますので!」

「荷物なのですか?」

「はいとても厄介な代物ですよ。とても頭が痛くなるような。」

「まぁ面白いお方ですこと!」


 ルイ・カーンはシーンプに命じて、貴賓の妃にアイスワインを出すように命じた。兵隊は隊長の采配で半数の十人が選ばれた。これらにはYOーワインを出させて口を大人しくさせる。予定通りに十人ともすべてが伸びてしまう。


「オレグさん、このYOーワインは半分に薄める方が良いみたいですね。原価も下がるでしょうから。」

「いいや原価は変わらんよ。売上が増えるだけだよ。」

「いいえ違うでしょうが。YOーワインの目的はなんですか。」

「目的って、お前、賄賂で配るんだからさ、売り上げには関係ない・・・。。。あれれ???」

「ですね!」                        「んだ!」


 オレグが後程ハープサルへ飛ぶから、ソフィアには用心棒として居なくてはならない存在だ。何か不測の事態に備えて連れてきている。


「リリー、ソフィアとシビュラの居場所は確定できたか。」

「はい間もなくです。船が動きますので海に落とさないようにと、やや慎重に緯度経度を計算しています。」

「大変だろうが頼んだよ。」

「はい、どうせ落ちても直ぐに船には乗せることが出来ます。」

「ならば一度落としてしまえ。きっと泳げて気持ちがいいぞ!」

「それはお兄さまが、でしょう?」

「まぁな!」

「では強引に召喚いたします。無事に着きますように! アーメン。」


 リリーは離れ行く台地に向かって大きく叫んだ。


「ざけんなオオカミ~、早く戻ってこ~い!」


 この叫びを聞いた全員が驚いてリリーを見つめる。リリーはすっきりしたような2525の顔で恥ずかしそうに微笑んだ。


「なんだって! きっとオレグが言わせたんだろうが!」

「バッチャ~ン!」x2


 二人が冷たい海に落ちる。


「あらあらお姉さま、今掬ってあげますわ。」

「俺はメダカか!」

「クジラのメダカですわ。」

「お犬さま一本釣り~!」

「キャン!」x2


 シビュラが甲板に召喚されたら……アンナ妃と共に睨み合いを始めた。一分、二分と時は過ぎても睨み合いは続いている。この時ソフィアのペンダントが白く輝きだしたのだ。


「オレグ、この船に新しい巫女が乗っていますの?」

「いいや全然。巫女、女・・・・・・、あ~アンナ妃!」

「どんな妃なのよ。」

「どんなって、あんな妃だよ。ほれ、仲良く見つめ合っているだろう?」


「キャッ! 白熊!!」


「なんだって、し、し、しろクマ??」

「だから白と黒が見つめ遭っていますわ。これは邂逅よ、もう戦争だわ!」

「うわ~船が沈むのか!」

「ですわ。どちらかを海に落とすなり、すぐにしませんといけません。」

「俺の客が優先か。ソフィアすまないが残ってアンナ妃の守を頼む。俺とリリーとシビュラは、ハープサルの俺の船に戻って出航の準備に入る。」

「えぇ分かった。でも……。」

「お前の巫女だろうが。労わってやれ!」

「私の方法でいいのかしら。」

「いいだろう? なんたってかんたってソフィアが一番だもの。気にするな。もう海に出ているから関係ない。」

「うん分かったわ。……リリー今度は三人よ。頑張ってね!」

「はいお姉さま。」・・・「バコ~ン!」「わ~、お姉さま、ヒド~い!」

「先ほどの仕返しよ。妹だもの、一回で済ませてあげる。」

「うんお兄さまの命令なのよ、許して~。」

「オレグには三度殴るからいいのよ。」

「ふ~ん。べー!」

「まぁリリーったら!」

「べーだ!」


 と言うなりにオレグとシビュラを連れてゲートに逃げ込んだ。これに驚いたのは当然アンナ妃だった。十人の兵隊たちも驚いている。


「ちょっと、そこのメイド。どうして消えたのかしら?」

「え~あ~不明です! 明日には会えますので、それまではお静かに願います。出来ない時は私が絞めてしまいますわ。」

「まぁ、私に向かってなんという口のきき方! お仕置きですね!」

「うるさい、黙れ、ババァ!!」

「キーーーーーー!!!!!!」


 今度はソフィアとアンナ妃が、クルワンの沖に船が来るまで、睨み合いが続いていた。夕刻にはオレグの軍艦がライ麦満載で合流したのだった。


「ソフィア、アンナ妃は生かしているだろうな!」

「あ、オレグ。心配して飛んで来たのね。そうよこの通り生かしているわ!」


 ルイ・カーンの立つ瀬が無くなる。海なだけに!


「ほらほらシーンプ。お前が給仕をさぼるからだろうが。早く給仕に入れ!」

「え~~~、私の所為ですか~? 違いますよ~。」

「いいから、かかれ!」

「ふぁ~い。」


 


 ルイ・カーン、ソフィア、リリー、シビュラ、シン・ティ、ベギー、シーンプと二人の娘。エレナ、ソワレ、キルケー、魔女の三人の十五人。これにアンナ妃と兵士が二十名が加わる。


 オレグの軍艦とは入れ替わりがあるので、スウェーデンのマルメに向かうのはルイ・カーン、ソフィア、リリー、シン・ティ、ベギー、キルケー、シビル、エレナ、ソワレ、そして魔女の三人。


 新しくはボブ船長とゾフィと三精霊。そして魔女の三人。合計で二十人。これにアンナ妃と兵士の二十名が加わる。総計で四十一人になった。


 ハープサルでは別途コーパルも少しの百個が積まれている。




*)待ってましたヴァイキング船団


「ちょっとルイ・カーン。これはなんですか。洋上で乗り換えだとは、わ、わ、私は海には落ちませんよ、え~そうですとも、海には絶対に落ちません。」


「アンナ妃さま、大丈夫ですよ。ほんの一瞬で大きい船ですよ。」

「@@@@@・・・・・」

 

 アンナ妃は目を回して卒倒してしまった。これに激怒したのが兵隊長だった。兵士は人使いが荒いアンナ妃が倒れたら喜ぶ方だ。兵隊長は義務で怒る必要があるからなのだろうが、実績は実績、一言文句を言っておけば良かった。


「兵隊長、な? な! な?」     

「はいそうです。一言文句を言えばいいのです。後で弁護して下さいよ。」

「はいはい大丈夫だぜ。」


 とはボブ船長。頭の硬い人間の扱いがとても上手い。夜になり甲板では兵士が弊死へいししたようにうずくまる。YOーワインに悪酔いしたのと船酔いだ。アンナ妃も目を覚まして起きてくる。


「ねぇルイ・カーン。あんたの女はなんなのよ。まるで鬼神のようだわ。」

「はい皆が皆、人ではありません。唯一私が人と言える人です。」

「では船長は!」

「あ、あれも人でした。他には、……ソワレがどっちかな~?」

「もういいわ。訊いた私がバカでした。それで私は白熊ってなんだい。ぶっ殺してやるわよ、誰が言ったのですか?」

「あぁここの唯一の女神さまですよ。ソフィアというんですが他は巫女としての眷属になります。」

「私もその眷属だと、言うのかしら。」

「たぶん違うでしょう。やや血が濃く出ているだけでしょうか。」

「何よその血とは。」

「はいここらでは。ル=ガ・ルーと呼ばれている人狼です。」

「……ギャ! なんだい、どうした。」


 慌てるシビルとオレグの会話。


「オレグ、ヴァイキングの襲撃よ!」

「なんでヴァイキングなんだ。ここはロシアの沖合だろうが。」

「でも、矢が明かりをめがけて飛んでくるんだぜ。他に言いようがないよ。」

「く~この前の仕返しか。」

「きっとこの船が沖に出て、夜になるのを待っていたのね。で、どうする。」

「シビル、強風で追い払えないか。」

「無理だよ、第一にどこに居るのさ。見えないからね。」

「うわ~参ったな~、明かりが無いと戦闘が出来ないとは。」

「相手はヴァイキングよ、夜でも船を自由に扱ってアメリカ大陸までも、行き来が出来るのよ。オレグ、どうかして。」

「ゾフィ、ゾフィは居るか~。」

「あ、ああん? なんだ、奇襲か!」

「なんだよ、どうにか出来ないか。」

「あいつらに言えよ、職業軍人だろうが。」

「とっくにくたばっているのさ。全く使えネ~!」

「それ、オレグと同じだからね。ここは火のウーグンスマーテに打ち上げ花火を頼むとするか。……おい、火のウーグンス。どうにか出来るか。」

「この船にしか明かりは灯せません。それよりも海のジューラスマーテが適任です。」

「あ、なるほど。海のジューラスマーテよ、泳いでヴァイキングを全艘沈めてはくれないだろうか。」

「いいよ、今日は貸しにしておくから、今度みっちり! に。」

「お前が死にたいのならいつでもいいぜ。あの女は怖くないのか。」

「全然。とても可愛い女の子ですもの。怖くはありません。」


「オレグ、なんだって? あ、ああん? 私が恐ろしいとか可愛いとか、一体なにかしら、あ、ああん??」

「ひぇ~!」x2


 やっぱり海のジューラスマーテもオレグ同様、ソフィアは怖い。


「はい頑張って沈めてまいります。」

「海のジューラスマーテ、頼んだぞ。」

「ド、ッボーン!」


 と海のジューラスマーテは暗い海に飛び込む。すぐに遠方からは悲痛で恐怖の断末魔の叫び声が聞こえてきた。アンナ妃はすぐに、


「ねぇオレグって誰よ、それにさっきは誰が海に落ちたのよ。」

「あ、はい。海の精霊さまですよ。今は海中から攻撃して船に穴を空けている頃なのでしょう。あの響く可愛い叫び声で判断が出来ます。」

「まぁ~随分と怖い男ですのね。それで……。」

「はいオレグとは私の別名です。あだ名ですよ、あだ名!」

「へ~オレグワイン、ねぇ~!」

「ひぇ~!」

「ご容赦を!」

「ふん、なにさ。」

「……。」


「ソフィア止めろ! この方はお得意さまだ、勘弁してくれ!」

「だめよ、甘い顔をしたら今後は面白くない。だから懲らしめる。」

「ふん、なにが懲らしめるだ! このブス女。」

「あちゃ~アンナ妃が言ってしまった~、この密談は破断かな~! ソフィアさん。変身してはいませんよね。月は出ていませんから、ね?」


「く~今日は大人しく引き下がるわ。明日以降またオレグの悪口を言ったら食べてしまうからね。」

「べ~だ!」

「まぁ妃が、ハシタナイ。」


 オレグ、アンナ妃とソフィアの罵り合い。ソフィアが引いて幕切れに。


「ねぇ全部沈めてきたわ。はやく掬ってちょうだいな。」

「え、ああ、ご苦労様。今、ゾフィの元に届けるね。」

「うん早くして。」


「アンナ妃の、オデブ~!」

「あちゃ~リリーがアンナ妃の悪口を言ったよ~この密談は破断かな~!」 


 ルイ・カーンにとっての魔の夜になっていた。明日の朝が怖いとオレグは部屋に逃げていった。そしてYOーワインを一本飲んで抱いて寝た。

 

 海のジューラスマーテはリリーの奇妙な呪文で無事にゾフィの元に送られた。ヴァイキングとの第二戦も勝利で収めたし、またアンナ妃には大した情報は知られてはいない。


 しかしアンナ妃は本当に白熊なのか。シビュラとの睨み合いが気になる処だ。明日は朝から大変だろうか!


 大嵐の予感と悪寒がするオレグだった。


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