第183部 唖ぁ、私の女帝さま。 イヤです、私はホルスタインさま一筋よ!
1249年8月14日 エストニア・レニングラード
*)熱烈歓迎、女帝さま
ルイ・カーンはこの女帝を逃がさないようにと、すぐさまワイン、それも最初はYOーワインではなく、オレグワインから持て成した。今は午後過ぎの昼下がりでお酒には少し早いかな~! という時間なのだが、ロシア人にはいっさいが関係ないのだ。ロシアの国民すべてがノンべ~だという事はないが。
「リリー準備は出来ているか~!」
「はいは~い、すべてOKで~す。」
「それで、あれはどうした。」
「はい、お邪魔虫は無視して遠くに転送しちゃいました。今頃はお犬さまの運動会の、まっ盛りだと思います。」
「この船まで飛んで来るような事はないだろうな。」
「はい心配無用です。それに若いメイドも準備が出来ています。」
「あのシーンプの娘か!」
「はいそうです。魔女は引っ込めております。そそうがあれば大変です。」
「では子供がやらかしたら、」
「愛嬌ですわ。だって可愛いんですもの。」
「そうだな、ソフィアはいつも邪見に扱うからな。この子らが可哀そうに思えてきたよ。」
「ウソばっかし。いいえお早くお妃さまをテーブルへ!」
「そうだった、今日はフルコースで行くか!」
ルイ・カーンは女帝とゴルビーの接待を始める前に船倉へと案内した。
「今日は船が一艘ですがクルワンには同じか、それ以上の船を百艘に満載して待機させています。」
「そんなにですか、……どれも素晴らしいライ麦ですね。」
「はい、これが女帝さまの物に!」
「それで、これが新しい木の器でしょうか。」
「はいトチェフ名産の器でございます。それと銀の器も!」
「この綺麗な反物はなんですか?」
「はい、異国の絹の布になります。ご希望でしたら。」
「そうですか、とても柔らかい!」
「これはビールですか? とても冷たい。」
「はいこれも女帝さまの物に!」
「これがワインですね?」
「はい直ぐに試飲が出来ます。糖度も度数もとても高いどずぇ!」
「まぁとても楽しみです。」
甲板での焼肉の準備が出来たのか女帝の腹が鳴いている。今日はにこやかにリリーがお肉を焼いていた。焼き過ぎた肉は横の器に盛ってある。大きい肉片が多い。要は脂身の匂いの為の犠牲になった肉片。
「さぁ女帝さま! ご用意が出来ました。最初はとても冷たいオレグワインでございます。」
満面の笑顔のリリーがワインを器に注ぎ込む。女帝からゴルビーへと。次がルイ・カーンになる。
ワインは最初はグラスに少量を注ぐ。次はグラスを揺すって鼻に持って行き一気に飲まないで、自分の好みかどうかの香りを確認する。次に一口を口にいれてクチュクチュして、口一杯の空気を鼻孔に送り匂いを確認する。そうしてのちワインを飲む。空気は胃には入れずに鼻から出すのだ。そうして余韻と味と香りを味わう。これで美味しいと思ったら、次からは普通に飲んで楽しむ。
女帝は律儀にもワインの味を確認して目を白黒させた。次は特上アイスワインを勧める。女帝の目が白黒から赤い紅玉の魔女へと変身した。今にも口から火を噴き出さんとしているようだった。が、ワインの一口と共に胃へ流し込んだ。
「まぁ、これは最高に美味しいですわ、お値段は?」
「それはゲ~**の質問でございます。お値段は関係のない事でございます。次は今回のお勧めの一品のYOーワインでございますが、先に酔い止めにお肉を召し上がって下さい。海の怪獣の吼え~るもございます。」
リリーは、元祖リリー・ワインソースで肉を焼き上げている。それだけでゆだれちゃんになっているのがゴルビーだが、港に流れる風に乗り港の男どもが多数船を見上げていた。
「リリー魔女が待機しているんだろう?」
「まぁお兄さまったら、なんでもお見通しですのね。それで営業許可は?」
「あぁ、当然申告済さ。気張って金儲けに励めよ!」
「オー!!」
と魔女の三人とシーンプらが船から飛び降りた。三mもの高さがあるのだが無事に飛び降りている。エレナ、ソワレ、キルケーも遅れずに梯子板を降りる。
「おいリリー、目立つような魔法はよしてくれ。」
「はいお兄さま。……さぁ、女帝さまに……。」
「おう、そうだな。」
ルイ・カーンと女帝の密談が始まる。ゴルビーはYOーワインで伸びてしまう。お肉を勧めたが無視してYOーワインを一口、次は一気に流し込んでしまった。
「まぁ、ゴルビーったらバカねぇ。こんな強いワインを飲めば判りそうにも思えるのにね。」
「いえいえ、第一人者が私ですので二日は寝込んでしまいました。原酒はデス・ワインと名付けております。人様が寝込まれてもとても笑う事などできません。逆に労わりたいと思います。」
「あらあらまぁまぁ、そうなんですか。」
「アンナ妃さまはお強いですね。」
「なんのこれしき。身体の差”ですわ、オ~ッホッホッホ~!!」
「ゴホン! 私には笑えない冗談です。」
「いいのですよ、美酒美食でこのように太りましたから、笑われても怒りません。ですが……。」
「ルイ・カーンさまくれぐれも同調されましたら、そう、お命が……。」
(でしょうね、今後も気をつけます。ご忠告ありがとうございます。)
と小声で返事するルイ・カーンだった。
「アンナ妃さま、どうでしょうか。私が試行錯誤してワインのアルコールの度数を上げたのですが。」
「そうですわね、率直に申しまして、もう少し度数を下げたらよろしいかと。これよりも低いものと、二種類があればよろしいのではないでしょうか。」
「貴重なご意見ありがとうございます。あちらのケースはお持ち帰り用でございますが、いかがされますか?」
「今さら他人行儀にはできませんわ。そこの男と一緒に配達をお願いします。それとこの船全部で銀の地金、約一千五百kと交換でどうでしょうか。」
ルイ・カーンはさっそく重量計算にはいる。ロシア産の純度はやや低い。だから市場には出にくいという難がある。千五百kの七十%が銀として千Kがドイツ銀マルクの材料となる。多い、銀の方がはるかに多い計算になった。この船の荷物が金貨で一万枚までになる。製錬の手間が大いにかかるからその七十%が純利益だとしても金貨で七千枚はとても美味しい。
「それで配達先は?」
「そうでした、そこの男は放置が好きですので、港に置いて構いません。荷物はスウェーデン王家まででしょうか。」
「それでよろしいのですか? 銀の入手には、そのう、Yロが必要かと!」
「あぁそうですね、では再度依頼いたします。男とYOーワインは私の館まで。他はスウェーデン王家までですわ。」
「もちろん、アンナ妃さまもでしょうか。」
「はい私が同行いたしませんと、あなたたちは軍艦で行くでしょう。そうなりましたら、私どもの国が滅ぶやもしれませんわ。」
「いいえ、いくら軍艦と言えども一国と争って勝利は勝ち取れません。私の方こそが土左衛門ですよ。」
(土左衛門とは可哀そうな江戸の力士さんです。)
「豪語されますのね!」
「いえいえとんでもございません。そういう事でお願いします。次は、」
「はい銀の地金の確認ですね。ご一緒して頂けますか?」
「はい喜んで~!」
と潔く席を立つルイ・カーンなのだが、アンナ妃は一向に席を立つ気配が感じられない。
「アンナ妃さま?……。」
「はいなんでしょう。……。」
「アンナ妃さ・ま?…………。」
「はいなにか。」
「少しお待ち頂けますでしょうか。今、妹のリリーを呼んでまいります。」
「えぇお待ちしております。」
リリーは三人の食事が終わったので、後はチビの二人を置いて港に食材を届けに行っている。呼べば聞こえる距離だがここから叫ぶ事は出来ない。船を降りて軽くリリーの耳に呟いた。
「すまないが、妃を館まで運ぶ必要が出来た。同行をお願いできるか。」
「もちろんです。喜んで宅配いたしますわ。……しかしどうしましょうか。」
「まぁ面と向かって訊くしかあるまい。あなたのお家はどこですか! だな。」
「はい、私、困っています! も。」
「スウェーデン王家のアンナ妃だ。きっと目立つ館だろうぜ!」
と話しながら船に戻るとアンナ妃は、
「聞こえました、館はほら、ネヴァ川の向こうに在ります要塞になりますわ。」
「要塞ですか、……他人を招待しましてもよろしいのでしょうか?」
「あらそうですわね、少しまずいですね。外港まででしたらいいでしょう。あとは兵に持たさせて館に帰ります。」
「すると船になりますね。もう暫くお待ちください。魔女を呼んで参ります。」
「はい、どうぞ!」
ルイ・カーンは動力のシビルと魔女の三人を呼び戻す。
「すまないが、ちょっくら船を出したいんだが、いいか!」
「オレグ、ちょうどいい処なんだが急用か?」
「そうなんだ、金の成る木を見つけた。今から押しかける。」
「あいよ、直ぐに支度したくないが支度する。」
「お前、飲み過ぎか?」
「バァロウ、まだ酔いのうちだよ気にするな。」
「そうだな、シビル様には間違いがない。」
「ギャハハ! おだてるな!」
「海に木は無いさ、水に落ちるだけかな。」
「俺が落ちるのは前提か!」
「確定がな、命綱を結ぶか?」
「それ嫌だよ。どうせ俺の首に結びたいんだろう?」
「……。」
ネヴァ川は結構広くて大きい。確かに川向うには瀟洒な館も見えている。あれがそうなのかは判らない。
直ぐに船は出航した。所要時間は十分ほどだが、腰を抜かしたアンナ妃を椅子から落とす訳にはいかず、静かに船を走らせる。
「アンナ妃さま、着きました。ご指示をお願いします。桟橋には数人の兵が待機しております。」
「では一番大きい男を呼んで下さい。それも二つ。」
「はぁ、二つ、も!」
「貴方、死にたいのですか?」
「あ、……とんでもございません。只の独り言でございます。」
「えぇいいわ。今日だけですよ。」
「はい、心に念じて!(祈ります。)」
二人の屈強な兵士が戸板らしき物を持参して船に上がってきた。両方に手で持てるように棒が出ている。まぁ担架であろう。
「おや今日は親子ですか、ではいつものようにお願いね。また直ぐに船には戻るからその積りで!」
と言うのだが、兵に言ったのか、ルイ・カーンに言ったのかは不明。アンナ妃は直ぐに船に戻るというのだが、待っても待っても戻らない。
「く~あの妃、ウソを言ってはいないだろうね。」
「お兄さま、特に女は準備には時間がかかるものですよ。日暮れて暗くなりましたが、それが狙いかもしれません。」
「ごもっとも!!」
ルイ・カーンはリリーの一言に感心した。アンナ妃も人には見られたくはないのだろうと、推測が出来る。だが逆に銀の材質の確認が出来ないのも事実だ。
「暗くなったら、銀の品質確認が出来ないな~!」
「あらお兄さま、そのまま頂いて帰ればよろしいのでは?」
「あ! なるほど。前渡金か、今日のYOーワインの代金でいいのだね。」
「そうでないと逆に不公平です。でも一番上等な銀の板を持ってくるのでしょうね。」
「だろうな。しかし銀が千五百Kだから品質もきっと凸凹だろう。」
「いいえ凹ばかりかもしれません。ここは要! 確認です。」
「こんなことなら、アルキメ計りを持参するのだったよ。」
「明日になさいませ。召喚して取り寄せます。」
そして夜の夜中になった。シビルがビールを飲みながらも見張り役で舳先に陣取っている。寝ている様子はなく、急な襲撃はなさそうだった。遠くで黒い人の影が確認できた。大きい!!
「あの図体だ、アンナ妃で間違いないだろう。」
「そうですね、前に二段、後ろに一段の出っ張りが確認出来ました。」
とは夜の偵察に出ていたエレナの報告だった。確かに独りでひょこひょこと歩いてアンナ妃は来ていた。ルイ・カーンは船から降りて出迎える。
「酔いが強かったのですね?」
「そうなのよ、もう動けない程でした。遅れてごめんなさいね。持ってきたわよ銀の地金よ!」
「はいありがとうございます。今確認したいのですが暗くて分かりません。」
「そんなことは判っているわよ。持ち帰りなさい。それでワインは下ろして下さるかしら。」
「はいゴルビーさまを結んでおりますが、」
「えぇ、それでいいわ。あの男に運ばせますもの。では明日に船で!」
「はい首を長くしてお待ちしております。」
とんとん拍子に銀の密輸が纏まりつつある。今ははした金にしかならない。明日にはアンナ妃と共にスウェーデン王家へ行くことになるだろうか。