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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
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第18部 大きな商談


 1241年5月10日 ポーランド・トチェフ


*)ボブ


 あれから一週間、俺は水車小屋の図面の制作に取り掛かっていた。現地調査で思わぬ思いつきだ出来た。これは次回の章で・・・。


「よし、このトチェフを大きくしてやるぞ!」

「オレグ! これからどうするの?」

「まずはあのボブを説得しなければな。リリー、お願い、私をボブの元へ連れてって!」

「もう、しょうもない事を頼みやがって!」

「なんだい、とても重要な案件だよ?」

「はいはい、了解いたしました。覚悟はいかい? オレグ」

「うん、何とか気絶はしないようにいたします。今晩は興奮して眠れないな。」


 こうして農村の建設のプロジェクトが始まった。オレグは目をキラキラさせて心に誓った。




 1241年5月11日 ポーランド・グダニスク


 俺の倉庫に行った。目が回った。倒れた。起きた。


「ボブ! 居るか。 オーイ、ボブ。」

「オレグ、これ読んで。リリーには読めないよ。」

「おい、これは、ぬぬぬ・・・・。日本語だと?」

「船に居る。御用の方は港まで来られたし。」

「ゾフィ! 先にボブの偵察を頼む。酒飲んでいるだろう。」

「あいよ、見て来る。」

「リリーは何をすればいいの?」

「必要な物を投げ込みたいからさ、ゲートを作ってくれ。」

「ホーイ!」


 俺は必要な物資の目録を見ながら、どんどんと放り込んだ。全部が全部村のエリアスに売りつける商材だ。領主と村人で決めてもらう事になるが、必要と思える物はとにかく全部だ。


「よう、兄ちゃん。俺はてっきり泥棒かと思ったぜ。」

「倉庫番はどうした。これでは空き巣が入るだろう。」

「んな事は無いぜ。ほれ、監視カメラを取り付けたよ。」


 オレグはボブが指差した所を見て、


「ただの小窓じゃないかい。それで、監視ね~」


「兄ちゃんは何しに来たんだ? 荷物だけじゃないだろう。嫌な悪寒がするぜ!」

「悪寒はイヤに決まっているだろう。ボブ! 転勤だ。荷物を纏めてくれ。」

「急になんだい。俺になにをさせる気だい。」

「トチェフに港を作る。喜べ、ボブ専用の港だ。」

「ほほう? そうかい。それは凄いな。もう出来ているんだろう?」

「まだだ。ボブが作るんだよ。それから、ボブ。もっと喜んでもいいんだぜ? 水車小屋と村の家を120戸ほども作らせてやるよ。どうだい。」


「俺はゴットランド島に帰る。他を探しな。」

「ボブ。いい金になるんだよ。村の交易はボブ一人になってさ、三年後には、ボブは大金持ちになるんだ。どうだ、すごくないかい?」

「・・・・・・・。チーン。」

「分った。雇われてやるよ。利益独占でいいんだな?」

「ああ、それで十分だ。他には人足が必要だな。ここに図面がある。これを見て人足の員数を考えてくれ。」


「よし、分かった。港には職探しでタムロしている連中が居るんだが、そいつらでもいいのか? 給料は安くできるはずさ。」

「そう・・・だな。そうしよう。ついでに移住者希望がいいな。」

「おう、任せとけ。」


「三年後にはお前が株式会社の社長だよ。頑張ってくれ。」

「オーケーだ!」



*)ハンザ商館


「リリーはゾフィを探してここに居てくれ。俺はハンザ商館へ行ってくる。建設資材の購入だ。時間は・・・? 数日はかかるな。ソフィアの所ででもいいぜ。」


 俺は久しぶりに前と同じ宿屋に顔を出したら、おかみさんが喜んでくれた。


「ああ、四日ほど頼みたい。夜はあのボブが酒飲みにくるからさ。よろしく頼むよ。」


 直ぐにハンザ商館へ行った。まだ小さな詰所だ。俺はベンチに座る。


「よっと、しばらくは休んでおくか。まだめまいがするね。」

「・・・・・」

「やっぱ、一人では淋しいですな。」


 オレグはブツブツ言いながらも、人間の観察をした。直にハンザ商館の喧騒にも慣れて、方々からの声が聴き分けられるようになった。


 また、オレグは今回の購入目録を、わざと通行人に見えるように広げる。今回は誰が釣れるかが楽しみだ! という顔つきになっている。商人や船長、それから商人の懐を預かる家族か、使用人が行き来している。


「そうだな、暇な連中はハンザ商館へは来ないわな。仕方ない。受付に訊くしかないか。」


 オレグは大げさな動作を起こして席を立った。並んでいる人数が少ない所は、


「俺は人が多いカウンターに並んで情報収集に努めるぜ。少ない所は情報も少ないだろう。対応する人間もたいした奴じゃないだろう。」


 オレグはペーペーの事務員よりも、年期の入っていそうなばばあの列に並んだ。


「前に五人か、ま、急ぐ訳でもないから大丈夫だな。」


 オレグは独り言が多かった。話相手がいないから淋しいのだ。ソフィアが居たらいいのだがな~。という顔をしていた。




*)マクシム


「オレグさん。」


 どこかで聞いたような、懐かしい声が聞こえて後ろを振り向いたら、マムシいやマクシムが立っていた。


「あいやー、マクシムさんですか~。久しぶりですね~」

「そうですね。この前オレグさんと別れて仕事をこなして、今ここに来たところなんですよ。」

「そうですか、この前はお世話になりました。」

「その後、オレグさんは儲かりましたか?」

「そのような事は訊かんでください。顔から火を噴いてしまいますから。」

「いや、オレグさんだから、決してそのような事は無いと、先ほどから思っていましたよ。ハンザ商館へはなに用で?」


 マクシムさんの目つきがマムシの目つきに見えてきた。狙いを定めたヘビだ。


「そうですね。小さい水車小屋を造りたいのですよ。それで、煉瓦とか、鉄材とか、木材加工の道具ですかね、一通り欲しいもので。」

「腕のいい職人もですか?」

「いや、小さい小屋だから、あのボブに頼みましたよ。」

「で?・・・・・」

「はぁ・・・・・・・・・・」

「それから?・・・・・・・」

「ほう、まだ私は欲しい材料が有るのだと、お思いのようですね。」

「で?・・・・・」

「はぁ・・・・・・・・・・」

「それから?・・・・・・・」

「参りました、住宅建設用の金具類を多数です。マクシムさんには敵いません。これらを用意して、船で村まで行きたいのです。」


「では、立ち話では疲れますので、あの席で・・、いや二階の私の部屋へ行きましょう。人に見られなくていいでしょう。」

「はい、マクシムさんには負けました。」


 俺は押しには弱いんだな? と思った。マクシムさんはまた大きい部屋を借りている。前に見た女史も健在だ。 


「今日は奥様同伴ではないのですか?」

「はい、働きが悪いので追い出されてしまいました。」

「おやおや、不思議な事を申されますな。奥様とは先ほどすれ違いましたが? 違うのでしょうか。」


「マクシムさんが見られたのなら、きっとソフィアでしょう。ちっこいのも 二人居ましたよね。」

「はい、そうです。私は何か悪い事を? 言ってしまったようですね。すみません。お許し下さい。」

「そうですね、あのソフィアが許すとかは? ないでしょう。」

「いや、そこを何とか・・・・・・・。」

「直ぐに戻ります。この紙を見ていて下さい。この目録にふさわしいだけの材料を欲しいのです。」

「はい、見積もりを出します。明日の夕方まではかかるでしょうか。」

「では、明日にボブとソフィアを連れて参ります。」


「あ、そうそう、ここから南に二キロほど行ったモトワヴァ川に、大きな水車小屋が建っています。見学されたらどうでしょうか。」

「あ、それはありがたいです。この後にでも行ってきます。」

「では、また。」


 オレグはリリーを呼んで、ソフィアの元へ行った。


「おい、ソフィアさん。ここには何をしにいらっしゃったのですか?」

「はい? オレグのお手伝いに決まっていますわ・・・・。」

「よっしゃ、じゃぁ、行こうか。」

「どちらへ?」

「リリー、南に二キロの地点に水車小屋が在るから、そこまで行きたい。空から見つけてゲートで繋いでくれないかい。」

「いいよ、待っててね。直ぐに繋ぐよ。」


 リリーが空へ飛んで待つ事少し、直ぐにゲートが開いた。


「誰も居ない所に出るから、少し歩くよ。」


「いいよ、大丈夫だ。」

「いや、オレグの身体を心配しているのよ。歩けるかな。」

「そうか、でも、ゲートで行く。」


 オレグは水車小屋の外観、内部構造をしっかりと描いてみた。それからつぶさに細部を見て確認した。


「もういいや。明日にボブを連れてもう一度来るよ。リリー、今度はこの前の宿屋まで頼んだよ。」

「OK! 任せて!」


 今日はここで宴会となった。メシ代の払いはマクシムだが、でも俺が払うのと同じことだろう。




*)水車小屋


「オレグ、ゲートで行くよ。」

「いや、俺は歩いていく。ボブと仲良しだからな。」

「おう、俺も兄ちゃんと歩いて行くぜ! 姉ちゃんは昼飯の買い出しだな。頼むよ。」

「OKよ、いつものパブだね。」

「ああ、そうだが、予算超過分は払っておくれよ。予算は決めているんだ。」

「了解!」

 二人とも二日酔いだから、絶対にゲートは潜れないのだった。

「酔い覚ましにいいさ!」


 である。


「なぁ、ボブ。今日の夕方だが、また、あのマムシの所へ付き合ってくれないかい。用件は昨晩の続きだな。」

「おう、いいぜ。俺の船に満載だな! 嬉しいぜ。」

「俺の口座には・・・、残金は・・・。」

「おいおい、金が無いとは言わないよな、な?」

「多分大丈夫だ。農機具の販売代金で賄えるだろう。しかし、村に帰ったら仕事がたんまり? だな。」

「それはいい、金もたんまりだものな。??」


 二人は水車小屋に着いた。俺はこの小屋を指差して、


「これと同じ大きさで頼むよ。少し俺の手出しになるが、ま、いいだろう。」

「・・・・・これね~・・・・。」

「どうだい? 出来るかね。」

「ああ、十分だ。俺だけで造れる。人足は三人を用意した。後で紹介するよ。農民だから、村に連れて行けば何とかなるさ。女も三人用意すればな。」


「じゃぁ、男女三人で頼むよ。ボブも必要かな?」

「ほほーう、そいつはありがてえ。俺の嫁もか・・・。嬉しいぜ!」

「でも当ては有るのだろうな。ゴツイ男に惚れる女は居ないだろう。」

「はは、そうでもないさ。きっと見つけるさ。」


 ボブは機嫌良さそうにして、水車小屋を細部まで見て回った。待つ事数時間。


「腹へったぜ! 何か食わせろや!」

「直ぐに届くだろう。待っていようぜ。」



 日差しが心地よいから、二人は眠ってしまった。


「オレグさん、オレグさん。起きてください。」

「ふにゃ~。」

「私ですよ、マクシムです。」

「およよ! なんごとですか。こげんかとこまで来て。」

「ええ、ここに来ればオレグさんには会えると思いましてね。」

「おやおや、奥様も見えましたね。これはちょうど良かったですね。」

「ボブ、起きろ! ボブ。」

「おう、昼飯か~?」

「ああ、そうだよ。メシだよ。マクシムさんだよ。」

「あ? ああん? あぁ、あんたか。」

「ずいぶんと、あ、が並びましたね。凄いです。」

「オレグさん、見積書が出来ましたので、早くお届けしようと参りました。」


 マクシムは、ソフィアを見ている。多分、食事を先にしたいのだろう。


「そうだね、先に昼飯にしましょう。」



 水車小屋の軒先にはベンチが置いてある。ここでの時間待ち用に置いたものだ。横には小さいテーブルも置いてある。街が大きいと、やはり便利な事もあるものだ。六人分では少し少ないかと? 思ったら、マクシムさんは弁当持ちだった。しかも、七人分。遅れてあの女史が大きい荷物を持って来たのだ。


 食後すぐに商談に入った。



*)大きな商談


 見積もりは、水車小屋と長屋の百二十戸分の釘と金具の明細に分れていた。


「ボブ、どうだい。十分だろうか。」

「この煉瓦の枚数がすごいぜ、この計算方法の根拠はなんだい。」


「はい、それには、この有能な女史がお答えいたします。昨日ここの水車小屋で数えてまいりました。遅くなって二回目は苦労しましたが、この枚数になりました。」

「これは有能な助手さんです。ありがとうございます。」

「オホン!」


 〆て、水車小屋が金貨で三百枚。長屋で金貨二百枚。いい数字が並んでいる。


「なぁ、ボブ。トチェフの村まで船賃は何ぼだい?」

「ああ、それな。人足はオレグ持ちな。計算から外しているよ。それで銀貨でいいかい。〆て金貨で五十枚だな。銀貨で五千百枚か。」

「そうか、金貨で三十枚だな。」

「おいおい。また、あくどい計算をしやがったな。」

「そんなもんだろう。違うか?」

「・・・・・」

「マクシムさんは、これはですね、水車小屋が金貨で二百四十八枚。長屋で百六十枚というところでしょう。違いますか?」

「いいや、手厳しいですな。八掛けにされましたか。」

「それで十分です。うちのボブは優秀ですよ。仕事をミスったりしません。ですから、マクシムさん見積もり数の八掛けでお願いします。」


「おやおや、異なことを申される。オレグさんは、水車小屋が金貨・百八十枚長屋・百二十枚になりますな。いささか強引すぎますよ。」

「そうですね。村の領主はなにせ貧乏ですので、ご協力をお願いします。」

(納品の数量を8割に落して再計算しています。金額ではありません)



「マクシムさん、少し散歩に行ってきます。再見積りをお願いします。」

「ソフィアさん、行こうか。川の取水口も見ておきたいからね。」

「そうね、・・・行こうか。」


 オレグは三人を残してこの場を離れた。


「さ、リリー。煉瓦の枚数を聞きたいね。」

「うん、オレグの見立て通りだね。見積もりの数字は二割も多くなっている。」

「やはり、そうだよね。これをどうやって切り抜けるか。問題だな~」

「オレグ、はっきりと言えば?」

「それではマクシムの面目が潰れるよ。今後の取引に障るよね。もし、追加とか納品数の不足があったら、大変に面倒だよ。あれだけの数を数えるのは、なぁ、大変だろう?」

「そんな気弱でいいの? 私が決めようか?」

「いや、ソフィアさんは黙っていてくれ。おう、そうだ、煉瓦の枚数を数える素振りがいいな。よろしく頼んだよ。」

「OKよ、任せて!」


「じゃぁ、私は先に戻って煉瓦を数える振りをするね。」

「ああ、頼む。ただ、あの有能な女史が邪魔するから、相手をしてやってくれ。

 さもないと、本当に破断になるからね。」

「うん、分かった。」


 ソフィアは二人を連れて先に戻った。俺はのんびりとして行く。



「マクシムさん、どうですか~」

「ボブさん、計算は出来ましたか~」

「おう、出来たぜ。兄ちゃんは鬼だぜ。豆を投げたいほどにな。」

「ソフィアさま。お願いです。オレグさんに言ってください。マクシムが泣いておりますので、可哀想です、と。」

「はい、言ってはみますが・・・。オレグが帰るまで、煉瓦を数えてみます。」

「お願いします。」


 ソフィアは最後の言葉は聞こえない振りして、水車小屋に近づいて枚数を数えだした。


「ここまでで、五百枚ね。ここからが・・・・。」

「ソフィアさん、午後のお茶にしませんか? おいしい茶菓子を持ってきていますのよ。」

「あ、お茶ですね。リリー、ゾフィー、お世話になってらっしゃいな。」

「ソフィアさまは、よろしいのですか? おいしいピザが有りますよ。」

「わぉ、ピザですか。ぜひとも食べたいです。ここの壁を数えましたら直ぐに参りますので、お願いします。」

「では、後ほどに。」


 ソフィアはオレグに向かって手を振った。オレグも手を振る。


「さ、俺も帰るか。計算が出来たようだ。」


 オレグは近づくなり、


「マクシムさん。水車小屋と長屋の見積もりはどうでしょうか?」


「ええ、水車小屋が金貨・百八十枚を、金貨・二百枚。長屋が百二十枚を金貨・百二十五枚までです。」

「で、条件は何かありますか?」

「はい、今後ともおつきあいをお願いします。オレグさんは無視できない存在でございます。」

「ありがとうございます。直ぐに追加発注になるかと思います。」


 オレグはうそとは言えない事を言って、マクシムを宥めた。


「ボブ、帰ろうか。今日は俺のおごりです。マクシムさんもお二人でお出で下さい。お待ちしております。」


 オレグは、こうして希望通りの金額で納まった事に喜んだ。次は領主との交渉になる。


 翌日から集まる物資を船に積み込む。倉庫にも運ぶのだった。


 その頃トチェフ村では、領主と村人が集まって、より が行われた。

「領主さま、ご普請をお願いしますだ・・・・・。」



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