第179部 足元の見えないオレグ
1249年7月20日 エストニア・クルワン
*)クルワンの造船ギルドの買収
ハープサルのプリムラ村で鋳造された莫大な量の銀マルクが館のルイ・カーンの元に届いた。これらのドイツ銀マルクを見て、
「グわ~っはっはぅううう・・・・。」
と大声で笑う不気味なルイ・カーン公爵。ペール侯爵(仮)に、
「クルワンの造船ギルドの再度の買収を行う。今日はペールのクルワンの城で待っていろ。クーラン司教を伴って城に出向く。」
と言うのだ。クーラン司教を連れて来るという意味はなんだろうか。ペールは考える。もちろん教会への寄付という賄賂の支払いと払い下げられる女たち。この女たちを買ってトームペア城に来るという事までは推測が出来た。
「公爵さま!」
「案ずるな、このクルワンで大きく羽ばたくにはまずはYOーワインで買収だ。次はペール侯爵の認知。それとペール侯爵を認知させるため、クルワンの街の公共工事を決めるのも必要でとても大切だぞ。」
「クーラン司教さまの後ろ盾と威光を借りるのですね?」
「ま~そうだな。自力では街の教会を付き従えさせる事が出来ないものな。ここはひとつ、ラクーンの威を借りようぞ。」
「はい、ごもっともでございます。」
「ペール侯爵。俺の文字が読めるか。」
「もちろんでございます。だてに城主の執事は行っておりません。見聞を広くしておりましたのでデンマーク語以外にも堪能でございます。」
「それは良かった。それで今日の議題だが。」
港湾の建設と整備。貯木場の建設。街中の道路の建設。クルワンの住宅の開発。山の開発に伴う道路の建設。街のビルの独自建設の技術開発。オレグ煙突の製造。煉瓦製造所の建設。という絵に描いた文字が並んでいた。
「これは、……なんと素晴らしい・・・・。」
「だろう? これをエサにして狸を釣り上げる。どのみちこれらの工事は全部行う訳だが、教会としてのクーラン司教に後押しを取り付ける。」
「公爵さま、クルワンの市長はどうされるのですか。」
「あれはクビを刎ねて挿げ替えようと思っている。あいつの息子にな!」
「あいつ・・・・ですすか、それはいいですね。名案だと思いますがそれではあまりにも権力を持たせ過ぎではないでしょうか。」
「なに、俺が金を寄付しないと、なにも出来ないデクになるから俺らの言いなりだよな。俺が金と権力を持つのが妥当だろう。」
「公爵さま、末恐ろしいです!」
*)エストニア貴族の暗殺
ルイ・カーンはクーラン司教を伴ってトームペア城の城主へ拝謁を願い出た。クーラン司教はルイ・カーンは伯爵だと思っているはずだから順番通りの手筈で臨んでいる。門番に、
「クーラン司教さまがペール侯爵さまにお目通りをお願いされてあります。要件は先に伝えておりますので、取次をお願いいたします。」
門兵はルイ・カーンもクーラン司教の顔も知っている。だが改めてルイ・カーンがクーラン司教を引き連れて、それもバカ丁寧に言われたら門番としても、笑わずにはいられなかった。
「これはこれはルイ・カーン公爵さまとクーラン司教さまではありませんか、ご来訪は事前に知らされておりますのでこのままお進み下さい。先の門には執事が待機しております。」
「おうありがとうな。通らせてもらう。」
「ははぁっ!」
門番の兵は(あはははぁぁ・・・)と内心では笑っている。ルイ・カーンのいつもの太太しい態度とはかけ離れていたから。門番はクーラン司教の後に続いている金魚のフンに今は目を奪われている。
「綺麗な女がたくさんだな~。」
(キルケーの教育は優秀だな~!)と思うのはオレグ。ここからはクーラン司教を先にしてルイ・カーンが続いていく。城の玄関先には執事と二人のメイドが前後して立ち並んでいる。執事は、
「これはクーラン司教さまとルイ・カーン公爵さま、よくお出で下さいました。」
「城主のフリードに会いに来た。案内してくれないか。」
「はいクーラン司教さま。直ちに。」
ルイ・カーンは、
「クーラン司教さまを頼む。」
「はい。公爵さまはメイドに案内させます。」
「あとでな!」
執事はルイ・カーンに頭を下げて意思表示をする。反対に頭を捻るのがクーラン司教だった。
「なぁ君。ルイ・カーンは伯爵だろう? 違うのか。」
「はい、今は自称公爵さまでしょう。ですがもう公爵さまの爵位は目の前までになっているようです。詳しくは後ほどお話があるかと思います。」
「そうなのか。」
「はい、それとここの城主さまは、ペール・ギュント侯爵さまになられます。いや、なられましたので、先にお知らせしておきます。」
「う~ん、……そうなのか……な。」
と唸り考え込むクーラン司教だった。あごに右手を当てて執事に付いて歩く一人の老人。視線は前を歩く執事の足首が映っている。執事は意地悪なのか、遠回りしてクーラン司教の考察の時間を作ってやっていた。三度ほど大きな花瓶のある廊下を通っているのだが、この老人は気づかない。
(お考えは纏まりましたでしょうか?)と執事は考えていた。または通路を間違えたのか! 執事の意識は常に後方の司教に向けられていたから。汗を掻きながらようやく到着した謁見の間、すでにルイ・カーンは城主のペールとともに待機していた。この二人のためにもあの執事の行動は有効だったようだ。
「コンコンコン。」
「おう入れ。」
「失礼いたしました。」
「いやいや構わん。通してくれ。」
執事は遅れた詫びの言葉から入室している。ルイ・カーンはペールの元から離れてクーラン司教を迎えに行く。
「クーラン司教さま、お疲れさまでした。さぁこちらにお座り下さい。今、冷たいワクスをお持ちいたします。」
「お、おう。……頼む。で?」
「はいこのお方こそ、ペール・ギュント侯爵さまと、奥様のキティさまでございます。初めて……ではごまいませんでしょうが。」
「ペールさま、こちらがクーラン司教さまでございます。今日はよろしくお願いいたします。」
どこまででも口八丁なルイ・カーンだ。取次や紹介が板についていた。
先ほどの女たちは、驚異的な脳内改造でキルケーによりメイドに改造されている。もうありえない。
「ほらあんたたち、しっかり働かないとまた教会の地下で幽閉されるからね。分かっているだろう?」
「はいメイド長。」x7
教会から買われた女たちは七人だった。他に子供が三人が居る。これらの者は、
「これはまるで教会かもらう領収書だな。ナッツよりもいいか!」
「公爵さま、今回に寄付金は、そうですね……銀貨で一千枚でしょう!」
「まさしくそのとおりだ。百枚で漏れなく付いてくるからな。どうだお前は側室に。」
「嫌でございます。女は一人で十分でございます……お互いに……!」
これはルイ・カーンが城に着いて早々のペールとの会話だ。たまたまペールがワクスを飲みに来ていたから会えた時の会話だが、
「キルケー、いやメイド長。侯爵のメイドはどうした。」
「はい今からの選任でございます。お昼からは自由にできます。」
「あぁ頼んだぞ。それと司教が着いたら頼む。」
「はい赤いワクスをお持ちいたします。」
「ワクスは赤だったかな。俺には黄色いワクスを頼むぞ。」
「はいご主人さま。YOーワインとビールを二つお持ちいたします。」
「コンコン。」
「おう入れ。」
「赤いワクスをお持ちいたしました。」
「クーラン司教、これは私が開発しました赤いワクスでございます。ちびちびと飲まれてください、さもないと瞬殺されるほどの威力がございます。」
「ほほう、いい香りがするではないか。これは楽しみだ。」
「はい、このYOーワインは狙った相手は必ず落とすという優れものでございますので、明日には教会へ献上させて頂きます。」
「ほほう、それはどういう意味かな。このワシに誰を落とせと言うのだ。」
「はい貴族を、それも大きい方から三人の貴族をお願いします。」
「なんだ、三人でいいのか、毒殺は!」
「ギギ!!」
「ゲ!!」
「そう驚くことなのか?」
「あ、いえ、過去がございますのでそうは驚きませんが、私が言いたい事を先に言われてしまいまして困りました。」
「違ったのならば、なんだ。」
「はい、間違いではありませんが海に沈めて頂きたいんです。毒殺は後日に見つかるかもしれません。」
「そうだな、下手は打たぬが一度に三人はやりすぎだろうな。」
「はい、毒殺、海難、発狂で、どうでしょうか。」
「いいぞ、任せておけ。それで、」
「はいドイツ銀マルクで二千枚と、そして新市長に司祭さまのご子息を推薦、そして当選へと導く予定でございます。」
「ならば演説の内容が問題だぞ。」
「はい、演説の内容と実行して頂く事項は下記でございます。」
港湾の建設と整備。貯木場の建設。街中の道路の建設。クルワンの住宅の開発。山の開発に伴う道路の建設。街のビルの独自建設の技術開発。オレグ煙突の製造。煉瓦製造所の建設。だという。
「おう、随分と簡単に済ませるのだな。しかしこれらの事項は決して簡単ではないだろう。どうするのだ。」
と言いながらも司教は懐から白紙を数枚取り出していた。それをテーブルに広げていく。都合の三枚。教会の印と司教の直筆のサインも書いてあった。これをペールの前に押し出している。ペールとルイ・カーンはにっこりとほほ笑む。ルイ・カーンはより熱弁になって、
「はい、東の国のロシアから人員を借りて建設いたします。ですので本国の強い威光を受ける貴族の排除と、デンマーク国教会の後押しをお願いできれば幸いでございます。」
「ほほう、すると貴族はあと四人は抹殺せねばのう。」
「ですが、こちらから当てる者が一人足りません。」
「それはお前がなるのだろう?」
「へ、あ、ま……そうです、私が一番上の公爵に就く予定でございます。」
「あれはエストニアの地を統べる者だから、なぁ~!」
「はい毒殺はできません。ですが死後の発表を!」
「ははは、よいぞ、よいぞ。ワシが死因を発表しておるから、任せておけ。うんと脅して、いうや教唆してそういう事にしておこう。」
「はいポックリ病でお願いします。」
「ポ!」
「そうです、今はやり病のポックリ病で……お願いします。」
「今流行っているのか?」
「はい、今は新型コロナでございます。」
「おうおうそうであった。ワシもうつらないように気をつけておる。」
「では四人の病死発表をお願いします。」
「ルイ・カーン公爵。今日の菓子箱はさぞかし重いのだろうな。」
「重くて難儀されるでしょうから宅配便で送ります。」
「そうかそうか、明日から十回に分けて送ってくれないか。」
「承知!」
ルイ・カーンはクーラン司教を馬車で送らせることにしていた。
「クーラン司教さま、荷物が多いので馭者に送らせまますが、よろしいでしょうか。共は別に御者を一名付けます。」
「部屋の外で待っている男だな。あれは今から相談ごとがあるであろうからここはメイドで良いぞ。お気に入りを一人出してくれ。」
「では優秀なシン・ティを付けます。くれぐれも手を出されないようにお願いします。もし出されましたらきっと切り傷が二十本は出来るやもしれません。」
「おうおう元気があって好い良い、ワシは好きだよ。」
「はい、すでに門で待機しておりますので、そちらまでお送りいたします。」
「ルイ・カーン、司教さまを頼むぞ!」
「はい、」
と言いながらルイ・カーンと司教が出て行く。部屋を出るともうシン・ティが待機している。御者という男はいないから、はて? となる司教。外にでたら執事が馬車の横で立っている。馬車の荷台は荷物で満載だった。思わず司教の口元がほころんでしまった。
「さ? 司教さま。一緒に荷台へ乗りますわよ。」
「ほほうワシ専用の椅子が在るのか。これは愉快だ。それでお前は?」
「もち、司教さまが膝の上に!」
「ほほう、ワシ専用の椅子になるのか。これは愉快だ。」
「はい、」
シン・ティを司教の護衛に当てた。とても良い乗り心地に伸びきるマスク。ルイ・カーンはこうやってクーラン司教を見送った。やるき満々の司教だろうか。
「シン・ティ、洗脳は頼んだぞ!」
*)再びクルワンの造船ギルドの買収
「ペール、早速だが、東の国のロシアから人員を借りて建設するという計画だが、どこか不都合が生じないだろうか。」
「はい、デンマークから見ましたら大いに問題で話が大変に拗れましょう。ですので、人足は半分から始めまして最後はほぼ全員にしましょうか。」
「だったら建設予定の港の地を立ち入り禁止にしてはどうだろうか。建設現場への行き来は船で行えば十分に可能だと思えるのだが。」
「はいルイ・カーンさま。名案でございます。ロシアのナルバを拠点にしまして木材の搬入をいたしましょう。」
「すると人足の宿が必要になるな。どこに造ろうか。」
「はい、ここから東に行った処にハリュという小さな村がございます。ここには小さな川も在りますので何かの役に立つかも知れません。」
「分かった、そこに長屋を建ててしまおう。」
「それで造船ギルドの買収は、お墨付きを頂いておりますので、格安で買収が出来ます。羊皮紙は三枚ですからして、他二枚はどのように!」
「ゆっくり考えようか。なぁに急ぐ必要はないさ。」
「ではお父さまを買収されてましたら、この先も有利に事が運ぶやもしれませんので、建設ギルドの買収はどうでしょうか。」
「オヤジには金を積めば自由だから、ここは教会の威光は使うまい。そのうちになにか必要な事ができるさ、きっとな!」
「はい、そうでしょうとも。」
「きっとな!」
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「公爵さま、この羊皮紙の裏には文字が書かれています……。」
「それでなんと。」
「はい女は頂いた。返して欲しくば銀貨十枚を。」
「この羊皮紙の値段だろう。明日銀貨十枚は俺が持っていく。」
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教会に帰った司教はシン・ティを……。