第178部 元祖、リリー・ワインソース
「もう公爵さまは起きませんわね。それよりもリリーさん?!?」
「え、なにかしら。」
「これ、貸しにしますよ。二人には黙っておきますから、貸しは二つかしら!」
「えぇ、いいわよ、貸し三つででも。……これ、内緒よ!」
「どうしようかな~、」
「もう~、も~も~も~!!!」 「意地悪!」
「だったら私も!」 「ダ~メ!」
1249年5月22日 ポーランド・トチェフ村
*)レバルの館で YOーワイン
翌日にはレバルへ飛ぶ予定だったが、不覚にもいや、無様にか、ルイ・カーンは飲んだことがない、強いワインを思いっきり飲んで卒倒した。このせいでレバルへ行くのが二日後になった。ま~幸いなのが、度数の高いワインを三百本を持って行けるという利点がついたのだが。……オレグとしてみたら早く自慢したい。
原酒はデスワインと呼ばれた。販売はワイロとオレグをもじったYOーワイン。
レバルで待つ者にYOーワインが飲まされた。酒に弱いペールは一杯でダウン。強いはずのソフィアは三杯でギブUP。他はま~二杯だろうか。
「ルビ・キャーンざま、よぐごのような強いおちゃけがでぎまじたね~。」
「ペール、もう寝ていていいぞ。というか三階で休んでいろ。」
「べ~い。」
「ソフィア、お前もだ、ペールと一緒に寝ていろ。」
「ば~い!」
「オレグ、俺、もう一杯!」
そこには酒豪のシビルが居た。チビチビと口に含んでは、クチャクチャ・スーしてゴクン。とまぁ色んな音を出して飲んでいた。
ワインは最初はグラスに少量を注ぐ。次はグラスを揺すって鼻に持って行き一気に飲まないで、自分の好みかどうかの香りを確認する。次に一口を口にいれてクチュクチュして、口一杯の空気を鼻孔に送り匂いを確認する。そうしてのちワインを飲む。空気は胃には入れずに鼻から出すのだ。そうして余韻と味と香りを味わう。これで美味しいと思ったら、次からは普通に飲んで楽しむ、もの。文章で表現は難しい。
このYOーワインは安い割には、香りも味も良かった。
「どうだ、このYローOレグワインは!」
「公爵さま、添加物が入っているようですがなんでしょうか。」
「それな。国際コンクールで優勝出来るようにだな、ジエチレングリコールを適量混ぜておいたのだよ。どうだ上手いだろう。」
「えぇ技巧が上手いですね。だからロシアでは戦車の不凍液を飲んでしまうのですね。」
「俺も詳しくは知らないが、そうなのだろうよ。で、お前は誰だ?」
「お忘れのようですので名乗ります。イングランドの紳士シーンプです。」
「おうすっかり忘れておったぞ。今までどこで何をしていたのだ。」
「はい、バルト海クルーズに乗り観光へ!」
「……・・・。」
「あのう、ドラゴンもバルト海クルーズで飛んでおります。」
「いい、あれは居なくていい。」
ルイ・カーンの館の本館は人数が増えたせいか随分と狭く感じた。メイドも全員が本館に居るのだ。狭いと思うのも頷けよう。うっかりルイ・カーンがこの感想をペールに漏らしてしまった。後日、メイドの口減らしが行われる。
タリンは古くはクルワンと呼ばれている。ここではレバルと書いていたがウソになる。レバルは1291年からレバルと呼ばれている。(遡って訂正するか。)
ルイ・カーンが館に戻ったので食事が館のみになってしまった。カモがネギしょってこないからパブは暇になる、ことはなかった。
酔っ払いの三人がパブへと仕事に出かけた。それも館の美人の三人も連れ出している。なんでもペールと黒猫の三人の後任を選ぶのだという。
「ペール。明日からは頼んだぞ。」
「はい、今晩に後任を決めましてパブを営業いたします。」
*)オレグの大船団
ルイ・カーンは手持ちの船を半分と、ハープサルに停泊している軍艦をグダニスクへ向かわせる。ライ麦とその他の物資の購入にだ。
ボブ船長、ボブ二号、シビル、キルケー、ボブ二号の嫁、風のヴェーヤスマーテ海のジューラスマーテ、火のウーグンスマーテ。魔女兼メイドが六人とゾフィ。それとかっ攫ってきた水夫の五十人がクルーになる。五十人の男は肝を抜かれたように大人しく仕事に精を出している。ルイ・カーンはプリムラ村まで同行、
「ボブ船長、今回は片道分の食糧しか持たせていない。だからグダニスクまでは急いで行けよ。帰りはとにかく、いろんな物資で満載にしてくれ。」
「おう任せておけ。で、代金の決済はどうするのよ。」
「もち、銀マルクを持たせるさ。不足があれば俺が決済に行くよ。」
ルイ・カーンはそうは言ってはみたが、銀マルクの保管は少なかった。リリーと一緒に後で合流すると伝えた。ルイ・カーンの悩みは持たせる金の問題で、管理者を決めて任せる必要がある。金を持たせると飲む、使う、ちょろまかす、等、信用が出来ない曲者ぞろい。上記の三点に無関心なキルケーに決めたのだが。
「ご主人様、使い込みはいたしませんわ。」
「ま~キルケーが一番だろう。」
「そうですわね。男しか買いませんもの!」
と言うのだ。後先の意味が通じないところが恐ろしい。
「おう兄ちゃん。水夫は半分も居ないぜ。これじゃ~船は十艘も出せないよ。またロープで牽引して行くのか!」
「そうなるわな。とにかく気張れ! 今回は二十六艘だな。」
「……無理だよ。二十五艘も付き従えるのは面倒だな~。」
「ほれ望遠鏡だ。これで船を見張ってろ!」
グダニスクまでは順調に航海が出来た。だが一番大きい港とはいえ、二十六艘もの船は一度に入港出来ない。グダニスクの外海にまで停泊する船が続出した。
「もう冗談はよして下さいよ。お判りですよね、オレグさんの行為がはた迷惑だという事を。」
「いや~すまない。オレグ一生の不覚。とにかく急いで積み込んでね!」
「な~にが、ね!だ。バカにするな。」
いつもはお得意様のオレグには丁寧語を使うマクシムだが、使わないから本当に怒っているようだ。
「チャカ、ぶっ放せ!」
「ホントによろしいので?」
「俺を殺すのか!」
「あぁ非常事態宣言だ。いいからやれ!」
「はい直ちに。」
オレグはオレグでリリーをデーヴィッドのパブへ行け! と言うのだ。
「リリー、すまないがエルザの元で臨時雇いで働いてくれないか。俺も夕方過ぎたら寄るよ。二階の部屋にボブ船長らを招待したい。頼めるか。」
「うん、いいよ任せて。それで私には飛び切りのご馳走でしょうね!」
「おう任せろ! ピンキリだな?」
「おやおやオレグさんは、なにか勘違いされてはありませんでしょうか?」
「いいや、金の成る鐘の音だからさ、先に準備させておかないとな。」
「おうおう、いやはやなんとも!」
オレグの即断に感心してしまうマクシムだった。チャカは意味不明のような顔つきで出口に向かう。チャカは応接室を出て三階へ行った。そこから外に出て屋上まで梯子を上る。
「ゲゲゲのげ! オレグさんの船ばかりが停泊しているわ。驚きね!」
「ここから眺める景色は最高ね! では一丁、突きますか!」「カランコロン。」「まだ力が足りない、」 「がら~ん、ゴロ~ン!」「がら~ん、ゴロ~ン!」「がら~ん、ゴロ~ン!」
と三回の大鐘楼の鐘の音がグダニスクの街中に響き渡る。チャカはもう一度力の限りに、
「がら~ん、ゴロ~ン!」余韻で「カランコロン、カン!」
「これでグダニスクの街中から妖怪が出て来るわ。次は港の倉庫に急いで行って倉庫と港と指示して荷車を往復させないと。」
この鐘の音は臨時招集の合図だった。とにかく仕事の無い奴は至急港に集まれという。ギルドを通さない仕事の依頼なのだ。後日、ギルドにはなにがしかの金は支払いがなされるのだが。
直ぐに街中の男が集まる。女も当然居る。チャカは叫ぶ。
「ほら、あんたたち、給金は銀マルクを出すよ。働きな!」
「おう!」
「いつもの倉庫と船との往復さ。帳面に書くからしっかり働くんだよ。」
「おう~!!!」
いかつい男たちは荷車を押したり引いたり。通行人の歩行を妨害するというよりも、跳ね飛ばさんばかりの勢いで走って往復するのだった。女は倉庫で荷を運びだし積み込みをする。男たちは港との往復と桟橋をライ麦を担いで船に載せるのが仕事だ。
「こら~女ども~早く荷車に積み込め~!」
と後方で待機する荷車の男が常に叫んでいる。男たちは荷車と船への積み込み作業を交代でやっている。積み込みは長い通路を担ぐのだからとても疲れる。
「うるさいよ~我慢して待っておきな~!」
荷車には自ずと人員は決まり出す。女が三人。荷車が二人。積み込みが七人。男はローテーションで常に二人が休むようになっている。この方式がとにかく早く済む。給料は出来高の支払いで公平なのだから。その一方で苦労するのがチャカなのだ。五台から十台の荷車を常に把握しておく必要がある。清算の時に金額が少ないと言う輩は必ず出てくる。
「私の慧眼にかけて間違いは在り得ません。」
と、いかつい妖怪たちを軽くあしらうのだった。
「あらあらリリーさん。走って来られたようですが、どうされました?」
「エルザ、臨時雇いで来たわよ。さぁ忙しくなるからね、これは戦争よ!」
「まぁ嬉しい。今日は何人でしょうか?」
「もち、満席に決まっていますわ。常連さんは食い逃げしないだろうから、屋外にもテーブルを出してそこに座らせましょう。馴染みのない客は屋内ね。それと魔女の六人も連れてくるから。」
「まぁまぁ私、頑張っちゃう!」
エルザは襷を締め直し、リリーはオレグの船から椅子とテーブルを召喚した。その後に魔女の六人も召喚した。
「お呼びでしょうかリリーさま!」x7
「一人多いわ。誰なの?」
チャカが本日の作業終了の鐘を鳴らす。チャカとしたらこれからが全能力をフルに使って計算しておいた日当をグループ別に支給するのだ。
「姉ちゃん、いつもありがとうな。」
「おう姉ちゃん。人数分で割ってくれないか。今から飲みに行きたいんだよ。」
「えぇいいわ。準備しているわ。エルザの店に行くのかしら?」
「いいや、あそこはすでに満席になっているだろうさ。だってクルーが誰も残っていなかったぜ!」
「まぁ随分と不用心ですわね。今から稼ぎに行ってはダメですよ。」
「そうかぁ? 積み込んだライ麦を下ろしに行きたかったんだがな、やっぱ?」
「いけません、ダメに決まっています。だからエルザの店に行きなさい。きっととても美味しい異国の料理が出るようですよ!」
「おほほ、そうれはいい。当然格安だろうな。」
「もちよ、明日も仕事だからね、今晩は自重してね!」
「よおし、俺もデヴィの店に行くぞ!」
グダニスクの港が活気づいた。日銭を手にしたごろつきはこの時とばかりにと、多くのパブへ男たちは集中するのだった。
「さぁ今日は母娘で夕食よ! 今日は美味しいお肉のステーキなの。」
「ねぇお母さん。お父さんは帰ってこないの?」
「たぶん、明日も帰ってはこないね!」
「お母さん、今日はたくさん美味しものが食べられていいね!」
「そうだね、でも父ちゃんが帰ってきたら内緒だよ!」
「うん明日もだね!」
「そうよ、明日はもっと大きいお肉にしようね!」
「やった!」
と家庭では大きい肉が焼かれているのだ。ステーキソースのラベルは、
「舌もとろける、元祖リリー・ワインソース。byオレグ商会。」
デーヴィッドとエルザのパブでは、裏の方では恒例になったような、ゾフィと三精霊のテーブルが在る。大通りに面したパブの前には通行を邪魔するようにテーブルと椅子が並んでいる。
その中で目立つモノが、クジラのワインのソース焼きを実演だ。もう周辺にはクジラの脂とワインソースが焦げるいい香りが充満している。
「へ~いらっしゃい、らっしゃい!」 「安いよ安いよ!」
ネジリ鉢巻きの男がうちわで炭火を扇いでいるのだった。当然、法被姿で!
「おう、見ない顔だな、新入りか?」
「へいへい、このたびの新商品の紹介の実演販売でさ~。このワインソースで焼くとね、とても旨いんですよ。どうです? 今日のお土産に奥さまへ!」
「嫁っこにご機嫌とりをした方がいいかな~。」
「そうですよ、肉は美人女将に言って頂ければ格安販売になります。」
「その、あんたの横に居る、チッこいのが女将なのかい?」
「はいそうですよ。腹デカの女将の方ではありませんぜ。どうですお二つ。」
「おう頂こうか、三つ。」
「へい、毎度あり~!」x2
「オレグ兄さま、よく売れるね。」
「そうだよ、こうやって匂いで釣ればね!」
「オレグさん、ショバ代を払って頂こうかしら!」
「ヒェ~、エルザさま!」
「違うよエルザ。今日はワインソース宣伝の宣伝だけだよ。明日からはエルザが売って儲けるのだからさ、今日は目こぼしにしてね。」
「なんだいそういうことか。いいよ任せな! 可愛い女将に免じてね!」
「オレグ、俺、全部のワインソースをさ、街中の女房に売ってしまったぜ。追加販売はどうするね。」
「あいや~在庫はもうないがや!」
家庭向けに販売していたシビルがパブに戻ってきた。嬉しい悲鳴なのだろうが、やや複雑な心境のオレグだった。
「なぁシビル。また大規模魔法を使ったんじゃないよな。」
「もち完売さ!」
「あちゃ~!」
「ラベルは『舌もとろける、元祖リリーズワインソース。byオレグ商会。』だぜ。勝手に名前を付けたからな。ありがたく思え!」
「ぎゃ・キュ~ン!」
トチェフ村ではオレグのビール工場兼ワイン工場で造られるワインソースは、人気が高くて在庫すらできずに売れていく。超、優良商品に格上げされた。
翌日にはオレグ船団の船が満杯になった。
「野郎ども、帰るぞ~!」
「オー!!」x80
「トキの声が増えていないか?」
「オレグの為に三十人ばかし攫っておいたよ。みんな抜いているから従順だぜ? ありがたく思えよ。」
「シビル、ありがとう。」
「あたい、キルケーだよ。」
*)クルワンの造船ギルドの再度の買収
グダニスクからの帰途、ハープサルにライ麦の半数を下ろしてクルワンに帰ってきた。空になった船はハープサルに残している。次のグダニスク行きにはその分近くなるからだ。第一にシビルやボブ船長が船を曳航したくないというからか。水夫はまだまだ足りない。オレグ自身があまり船に乗っていないし今までが水夫無しでいたのが異常だろう。
「なぁボブ船長。水夫ってこんなに必要なのか?」
「いいや、兄ちゃんが漕げば要らないよ。だが改めて魔女の偉大さが理解出来たような気がする。魔女は女だから労わるか。」
「ルイ・カーン公爵、残りの水夫を約六十人を追加で頼むよ。」
「水夫のギルドを立ち上げるか。ちょっと領主さまに挨拶に行くかな。」
「おう、できるだけ早くにな。さもないと船が腐っちゃっても知らないぞ。」
「ボブ船長には特命だ。グダニスクに行ってまた満載にして、ハープサルの港に全部下ろしてくれないか。代金は済んでいるから俺は行かない。あのワインソースも届いているはずだから、エルザから受け取っておいてくれ。よろしく頼んだぞ。」
「おう任せな。無事に運び込んでおくよ。」
「ボブ二号はクルワンの造船ギルドで船の改良をしてもらうから置いて行けよ。連れて行くのはボブJrだけだぞ。キルケーも置いていけ。」
「分かったよ。後は勝手に動くから次の仕事の指示はお早く頼むよ。」
「あぁ読める字で書いてもらうさ。」
「リリーにか?」
「そうだろう、だってあいつも字が書けないものな。」
「お、ほ~やっぱり兄ちゃんは字が書けないのだな!」
「・・るせぇ。黙れ。名前と数字と記号を書ければいいのだ!」
「なるほどな~! 商人は数字を扱えればいいものな。」
「ここはデンマーク語だから文字が書けないんだ。俺はスラブ人だからな。直ぐにスラヴ語の通じる国に創り上げるよ!」
オレグが言うのには少々無理があるが言い得てうそのようだった。
グダニスクから帰ったルイ・カーンは、ペール、ニコライ、アウグスタ。それにシン・ティとベギー。キルケーとシーンプを集めて会議を開く。議題は、
「キルケーの暴走!!」 だった。
*)犬、猫、ブタ、鹿、牛、ヤギ、羊の住まう城
特異点はカバの存在だろうか。それと綺麗なクジャク。
「こんな北の国にカバが居るなんて!」
「ルイ・カーンさま、突っ込み先はそこではありません。門兵は野良犬に、メイドは猫に、他の兵はヤギや羊に、たぶんキティ嬢にはなんと黒のシャムネコに! カバは王の座に鎮座していますので、城主のフリードだろうとは推測されますが、妃の姿が在りません。」
「妃って、きっとあの木の上のクジャクだろう。よく着飾ってまるでオスだな!」
「えぇそれはどうかと思います。性転換が出来るのでしょうか。魚ですら最初子供がオスになり、大きくなってメスになります。ここは順番が違います。」
「だったら鮒はどうなんだ、あいつらは全部メスばかりだぜ?」
「はいフナはメスだけですが、そのうオスはドジョウやオイカワ、鯉、ナマズという事です。まるで魔女そのものですな!」
「その逆はないのか、フナからナマズが産まれるとか!」
「はいキメラというのでしょうが、存在はいたしません。」
「自然はよく出来ているな~、で?」
「はい、オカマかと!」
「ははは・・、それな、いい。面白い。城主のフリードはオカマだった?」
「側室が美男子だったのでしょう!」
ペールとルイ・カーンの漫才が続いていた。他の者は首謀のキルケーを簀巻きにして城を引きずり回っていた。シビルは、
「あんた、随分と大それたことができるのだねぇ~、俺にはまねが出来ないね~。ソフィアも犬っころに変えてもらえば?」
「シビル、うるさいわね。こんなに簡単に城を落とせるなんて国王が聞いて知ったら、キルケーは最重要機密兵器の扱いになるわね。」
「だろう? それもこれも愛する『バコ~ン!』ご主人さまの『バコ~ン!』為ですもの。私、なんでもいたしま『バコ~ン!』『バコ~ン!』す。」
不埒な言葉が聞きつてならないソフィアはキルケーを四度も殴っていた。
「ソフィアお姉さま、ハリセンで殴っても音ばかりで効果はありません。ここはひとつ、うちでもこづちで!」
「?? あぁ、打出の小槌ね! それで叩いたら何がでるのよ。」
「頭から火花が! ですわ。」
「そうね、火花は出なくても見えますわね。ですからここは金銀を出してもらいましょうか。」
「いいえ、ここではリリーの打出の小槌で昼食を出してよね。食べるものはぜ~んぶネズミが食べてしまっています。」
ここでも漫才であった。シビルはもちろんだがキルケーは笑って流す涙を拭くことも出来ない。今は全員が厨房の横の食堂に居る。
ルイ・カーンはとても信じられないような指示を出した。
「ペール、あのデカいカバを消せ!」
「魚異??」
「キルケー、ペールは魚が希望だそうだ。マグロに変えてくれ!」
「ギョギョ!!」
「ペール。マグロだ、解体せよ!」
「御意!」
「キルケー、キティを元に戻せ。そしてシンデレラに作り変えろ!」
「トンデレもない。」
「ペールの妃にしたい。」
「私もお願いします、是非にご主人さまの『バコ~ン!』きさ『バコ~ン!』きに『バコ~ン!』して『バコ~ン!』下さい。」『バコ~ン!』『バコ~ン!』
ソフィアの六連発だった。食堂のテーブルに並んだ昼食は正午の鐘の音と共に消えてなくなった。
「お姉さま、キルケーを鐘で叩くからお食事が消えてしまいましたわ。」
「あら、リリーは本当に打出の小槌を使って出したのね。」
「はい。」
「オレグ、あんた飲み過ぎよね!」
「イヤです、私は死にます。殺して下さい。」
「シビル、遣れ!」
「は~い死ンデレラにするのね!」
突然泣きわめく女が出現した。黒い灰を被ったシャムネコが真っ白なドレスのシンデレラに変身していた。
「ルイ・カーンさま、まるでおとぎ話のようです。」
「ペール。このまま王座に着いてトームペア城の城主になれ!」
「はい喜んで~。」
誰かの夢なのだろうが覚めなかった。