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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第四章 国盗り物語
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第177部 ロシア軍へのワイロが完成す


 一夜明けたらオレグは元の、いつものよなふてぶてしい顔に戻っていた。昨晩のブドウカスのソースが効いたのか。


「俺は~~ルイ・カーンだ~~!!」


 朝一番のおんどりよりも強い叫び声を上げていた。


「おい、うるさい。黙れ!」

「なにを~この~!!」



 1249年5月18日 ポーランド・トチェフ村



*)戦車さえも飲んでしまうロシア軍


 翌朝、オレグの雄叫びで目覚めたアウグスタはつい窓を開けて怒鳴っていた。リリーはオレグの声を聴いて安心した。そして顔を洗いに二人で階下へ降りる。階段を下りた踊り場でオレグと女将の会話が聞こえてきた。


「おい、うるさいとは女将、いったい誰が怒鳴ったのかな。一言文句を言ってやらない気が収まらない。」

「あ~ごめんよ。あれ! 俺だわさ。許してケロ。」

「う~女将だったのか。もっと若い女だったような。」

「失礼しちゃうね、あたいもまだまだあんたには負けないよ。どうだい一丁!」

「いや止めておく、気が狂いそうになるから。それに脳みその空気が抜けるから、軽いめまいを感じるよ。」

「ふ~んだらしがないね。でもでも……今日は昨日よりもとてもいい顔になっているね。」

「おう、そうかぁ?」


「あらあらお兄さま。お母さまみたいな女将に鼻の下を伸ばさないで下さい。どうしてもというのでしたら私がお相手いたしますが?」

「よせやい。……あ、それと、昨晩はギュンターとゾッコンだったらしいが、?」

「あ、そうですね。偶然お会いいたしましたので、懐かしくてアウグスタをけしかけようと画策したまでですよ。それにお兄さまとギュンターさんを会わせたくなかっただけです。お蔭様でお兄さまの苦情や小言、悪口にそれから~え~と。」

「そうだろう、でも全部俺の悪口を聴いてくれてありがとうな。」


「オレグ、違うよ、リリーは情けないあんたの顔をギュンターさんに見せたく無かったんだよ。このおたんこなす。」


「え”、あ”、う。……すまん。」


「女将さん、それは違いましてよ。ギュンターさんがお兄さまの悪口を言いやすいように隔離しただけです。……それだけですからね!」

「はいはい、若いのに苦労しているのだねぇ~。頭が上がらないよ、ね?」

「ね!」・・「ねっ!」・・「ねってば!」・・「ねったらば、ねだよ。」

「え”、あ”、う。俺の事か!……すまん。」

「女将さん、あまり朝から怒らないで下さい。ようやく元気になられたのですもの。この顔つきでレバルに連れて帰りたいのですわ。」

「あ~はいはい、どうぞごかってに、だよ。朝ごはんが出来たよ。もう一匹はどうしたね。」

「知りませんわ。朝クモを見て卒倒したようです。あれれ? ゴキブリだったかしら。」

「そんなのはうちには居ません。そうかえ? だったらこの料理、誰が食べるのかな。愛情込めて煮立てておいたのにね。」


「はいはいはい私が食べます。そこのメスには遣らないで下さい。」

「おや、とても元気じゃないかい。別室のお酒の全部を飲んでまともだったのはあれだけだったが。」

「はいこの人。赤眼の魔女さんです。とても怖~いお姉さんです。もしかして今後は顔を見せるかも知れませんので、その時は面倒をおかけします。」


「アウグスタと言います。」

「ふ~ん、またまたどうして、勇ましい女性じゃないか。フランスかい?」

「そうです。今はロシアに居ます。」

「あちらはお仲間がいっぱいだといいね。……はい、ようやく温めが終わったよ。精がつくからさ、オレグにはあまりちょっかいを出すんじゃないよ。」

「ふん、あの女の亭主だもの、好みじゃないわ。」


「おいおい、ソフィアの亭主で悪かったな。」



 朝食を済ませた三人はブドウ園へと向かう。昨日の成果が見て判るとオレグは説明している。


「俺がな、くわに躓いてブドウの畝に右手を差し込んでしまったんだよ。その時に恥ずかしかったから、つい叫んだのさ。」

「なんと叫ばれたのですか?」

「あぁ内緒さ。判るだろうが。」

「いいえ全然分かりません。考えも及ばない、そうですね~。」

「公爵さまですもの、言いたくない時もあります。リリーさんはあまり公爵さまを追い詰めないで下さい。きっとソフィアババァのスカートに首を突っ込まれたのでしょう。きっとそういう落ちに決まっています。」


「ギク! ……おいアウグスタ。今頃ニコライとソフィアはよろしくやっている頃かな。」

「ほうら、ね! 白状なされました。……ニコライは生真面目過ぎるのでこの際手ほどきを受ければいいのです。でももし、ニコライが押し倒される事がありましたら、甲斐性なしですから逃げ出して行くでしょう。」


「アウグスタ、よくも逃げ出すニコライを取り押える事が出来たな。どうやったんだい説明していただこうか。」

「まぁいやですわ。私も内緒です。」

「どうせ酒で酔わせて足腰を押えていたんだろうさ。」

「ギクギク!! もうイヤですわ。そんなハシタナイ事は致しません。ちょ~っと逃げるニコライに右足を差し出しましたら飛びついてきたのです。」


「はは~んアウグスタ。あんたはウソつきですわ。私、聞いたから知っていますわ。お兄さま、じつはですね、ぶ……。」

「わわわ~、わ、あ、あ、あ~~~~!!」


 と慌てふためくアウグスタだった。リリーのからかいもなかなか板についている。ただカマをかけただけなのだが。


「それでゴホン! あ、あ、ワインのアルコールを上げる意味は何でしょうか。そろそろ本題に戻りませんと、皆さまがお待ちです。」


「そうだね、昨日も言ったが、ロシア軍は貧乏だから酒の配給が少ないのさ。だから賄賂に酒を贈るととたんに喜びそして靡くのさ。」

「へ~そうなんですか。ではお酒が無い寒~い日にはどうしているのでしょうね。私、気になります。」


「あ、あ、あ~それな、寒いと酒を飲んでカロリーを補充するのだが、酒が無くなれば何でも手当たり次第に飲んでしまうのよ。だから戦車の燃料は飲めないが、冷却水の不凍液を飲んでしまってな。戦車を壊しまくるのさ。」

「まぁそれは本当なのですか?」

「もち本当さ。アウグスタみたいに見境なく倒れた男に吸い付くのだよ。」


「それ違います。押える時にぶんなぐっただけです。」


「まぁアウグスタさん、ひど~い!」

「きゃ! 私に何を言わせるのですか。も~も~も~!!!」


 緑緑のブドウ園を見て回った。昨日の畝のブドウが大きく枝葉を伸ばしていた。


「今日は三人で残り全部に魔力を送るよ。」

「はいアウグスタ、魔力全快!」

「リリー魔力は半分。」

「俺、魔力、120%!」


 視察を終えてビール工場に戻り、


「アウグスタ。最後の工程を見せていないから案内するよ、昨日は夕方前だったから作業が終わっていてな。」

「あらそうでした。それがこの少しだけ不快な匂いがするのですね。」

「たぶん、そうなのだろう。最後は飲んで死なないようにワインを加熱殺菌をするんだよ。冷えたら樽に入れて熟成させるのさ。」


「出来立てを飲みましたら本当に死ぬのですか?」

「まぁな。腹壊して運が悪ければイチコロさ。」


「あ~トット。俺が指示していたワインはどうなった。」

「はい、指示されたように加熱の窯に蓋と煙突を立てました。その煙突の先をとても冷やしたワインの樽に入れたままです。昨日、一昨日と二日は過ぎましたから飲んでみますか?」

「そうだな試飲するか。…少し熱くなっているがホットワインで旨いだろう。どれどれ……ゴクゴク……。……。」

「グピ~!・・・」・・・「ドテっ!」 「オレグ、オレグ。」 「オレグ。」

「まぁ公爵さまが死んだわ!」「嫌な事は言わないで!」「オレグ兄さま。」


「魔力、オレグを家に、ゲート!」

「んまぁ、私を残して二人で消えてしまったわ。も~も~!」


 リリーはとっさにオレグを自宅に飛んでベッドに寝かしつけた。一人残されたアウグスタはも~も~言いながら後を追ってオレグの家に急いだ。


「旦那さまはこれを飲んで失神したがなんだろう。」・・「ゴクゴク……。」

「グピ~!・・・」・・・「ドテっ!」


 二人目の死亡者が出た。


 家に着いたリリーはオレグをベッドに寝かせて氷室から雪を召喚した。桶に水と雪を入れて頭を冷やす冷たい水を作った。


「オレグ兄さま。」「オレグ兄さま。」「オレグ兄さま。」

「バタ! バン。」「ドタドタ。」「公爵さまが死んだわ、それとも?」

「アウグスタ、うるさい、黙れ、飛ばすぞ!」「ひぇ~、リリー怖い!」

「オレグ兄さま。」「オレグ兄さま。」「オレグ兄さま。」


 リリーは呼び続けながらオレグのほっぺを叩いている。蒼いオレグの顔に紅がさしてきた。


「りりーあんた、叩き過ぎなのよ、少しは加減しなさい。」

「え、あ、そうですね。私が殺すわけにはいきません。」

「この際です、え”~い!」


 最後の手段としてリリーはオレグの口にリリーの口を押し付けて、一気にリリーの全魔力を注ぎ込んだ。オレグは身体をピクピクピクさせながらぴくぴくしている。


「もうお兄さま~、戻ってきて~!」


 リリーは必死にオレグを呼び戻そうとしている。ヒクヒクするオレグの顔がようやく赤くなりだした。オレグが飲んだワインはビールジョッキのまるまる一杯。それを一気に飲んだし、熱燗でもあったからアルコールが一気に回って気絶した。


「あ、あ~俺は倒れたのか~、」

「そうですよ、お兄さまが悪いのです。直前に運が悪ければ死ぬなんて、言うからですわ。私、とても驚きました。そうです、お兄さまが悪いのです。」

「そうか、すまなかった。あのワイン、度数が高くて気絶したようだ。でき・・たぜ、アル・・・コールの高い・・・・・・・ワインが・・・・・・。」


「もう公爵さまは起きませんわね。それよりもリリーさん?!?」

「え、なにかしら。」

「これ、貸しにしますよ。二人には黙っておきますから、貸しは二つかしら!」

「えぇ、いいわよ、貸し三つででも。……これ、内緒よ!」

「どうしようかな~、」

「もう~、も~も~も~!!!」         「意地悪!」



 オレグが考えても出来なかったワインの蒸留が思わぬ所で完成していた。やや意味が違うだろうが、結果、度数の高いワインが出来たのだった。以後、倒れた男が試作改善の奮闘をしてアル中で★になってしまった。死因は試飲。


 対、ロシア軍へのワイロがここに完成したのだ。


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