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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第四章 国盗り物語
176/257

第176部 プリムラ村での実演


「アウグスタさま、ルイ・カーン公爵からの勅命です。リガの地で水夫を多数雇用してレバルへ来なさい!!」

「ははぁ~しかと承りました~。」


「おいおいアウグスタ。二つ返事で大丈夫なのかい。俺も協力しようか?」

「ニコライはいいのよ。それよりもこの拠点を動かすのだから、早く店子たなこを決めなさい。それと私の貴族服をたくさん買うのですよ。」

「それ、早すぎないか? ここで買ってもレニングラードでは似合わないよ。」

「ばかね~レニングラードにはこの港から送り出しているのよ。知らんかったとは言わせないから。」

「俺、知らんかった~!」


 冗談を言うニコライをバシビシと叩くアウグスタ。もうやる気まんまんだ。そのお手並みは? 次を書きながら考えます、です。


************、次の出だしが出てこない、こないのだ。pc見つめても・・。さて困った。こういう時はオレグの時事解説とか、ジジ臭いからボツ!




 1249年5月18日 エストニア・ハープサル



*)ハッピーウェディング


 レバルから連れてきた女たちの十三人が嫁いでしまった。驚異的な速さで。先着十三名様おな~り! 確か三月の十八日に着いたような? という事は二か月で叩き売られたのだろうか。プリムラ村で五名。ハープサルで八名。


 嫁いだ女たちは村人から盛んに尻や腰を叩かれる。公然の行事、御幸近くになりて……、だ。要は早く子を産め”という。他人からはすれば面白い、ただそれだけ。


「おいおい港でまた女がからかわれているぜ。」


 村の丘に建つ高い物見の塔からは村中の人間の行動が丸分かりする。


「カーンカカン。カーンカカン。カーンカカン。」


 港に船が入港する合図だった。総数は三艘。定期便と公爵の関係する船が二艘なのか。


「キンコンカン、キンコンカンコン。キンコンカンコン。」


 一つの船には大漁旗がはためいている。


「お~い嫁が来たぞ~!」

「おいおい、それ本当か!」x?


 ごく一部の人しか知らないハッピーウェディングの鐘の音なのだ。また公爵が教会より買い上げた女たちなのだろうか。今回は男の子も居るのだろう。


「村の入居者だ、歓迎すっぞ!」


 村長むらおさは喜色の笑顔で港に立った。ボブの息子がクレーンで階段を吊るし桟橋へと繋げた。ボブJrも立派にクレーンを扱うようになっていたが、いつも疲労困憊の顔つきだった。


「だってまだ七歳だもん!」


「息子よすまないな、体重が軽いので石を背負わせてクレーンのペダルを踏ませるのだから。親父を許せ!」

「いいよ、俺がクレーンで吊れるのはこの階段が精一杯だものな。」

「石を背負わなくても、その分ライ麦は普通に下ろせるからいいだろう。」

「そうだね、大人の半分以下だけれども……。」


「キンコンカン、キンコンカンコン。キンコンカンコン。」

「のど自慢なのか? この鐘の響きはよく似ているぜ!」

「だろうな。他では聞くことは無かったし。でだ、どうだ?」

「いいぜ、いいぜ。若くてピチピチだよ。」

「お前、急ぎ過ぎたな、今回は俺の番だからな。」

「俺、昨日離婚したから俺も参加できるよ。」


 プリムラ村から一人のジイさんが下りて来るのが見える。たどたどしい足取りでだが。村一番の長老だという。だから仕事はない。出来るのはパブの理事長くらいだろうか。座って会計をこなしている。


「おうおう、よ~こなすった。村まで案内するよ、手を引いて登ってはくれないかな~。」

「えぇ~やだ~。こんな爺さんの手は握りたくはないよ~!」

「ふん、じゃじゃ馬めが。このワシを怒らせたら会計は倍じゃぞ!」

「えぇ~やだ~。こんな爺さん……あんた男だろう。ジジイを担ぎな!」


 女は隣に居た男に命令していた。今回は女が八人と男が五人。皆が皆、家族と死に別れた者たちだけだった。風の便りで教会の職業斡旋の話を聞きつけて来た者たちだろうか。教会から人を買うのは建設ギルド長のオレグの父親が担当させられている。すっかり教会の顔となってしまった。


「く~オレグめ、いつもいつも俺に不快な事を押し付けやがる。俺も男だ、味見くらいは許されるだろう!」


 と言うわりには手を出しきれない。


「お前、俺を誰だと思っていやがる。ジジイを担げだとう? あ、ああん??」


 女が指名したのはギルド長だった。いつも重い材木を担ぐから、まぁ、苦手という事は無いが人は重たいし、なにより口が悪い。


「紐で引っ張ってやるよ。だから夕食は無料な!」

「あぁ、いいでいいで、たんまりと食いな。」

「えぇお爺ちゃん。私が手を引いて登っていくね!」

「おうおう、これはありがたい、じゃが無料にはせんで!」

「なにさ、このクソじじいが、死んでしまえ!」


 こんな性悪女はきっと教会へ売られた口だろう。女の先が地獄だろうとギルド長はつい考え込んでしまった。事実、最後まで売れ残りとなる。


 この夜、独身の男女を交えて宴会となった。新入りの女は嬉しい悲鳴と共に夫が決まっていった。残り一。


「明日は集団結婚式だぎゃ~。」




 1249年5月18日 ロシア・リガ


*)水夫の募集(アウグスタvsソワレ)


 アウグスタはソワレとエレナの二人を交えて、水夫募集の案件で協議を始めてはいるのだが、素直に対策と方法がなかった。この世はギルドの世界。リガから水夫を他国へ売る船乗りギルドは在りはしないのだった。困り果てるアウグスタ。ソワレはアウグスタに丸投げだから、差し迫って困ってはいない。


 ソワレは『あんた、二つ返事だったでしょうが』が殺し文句として毎日毎晩のように連呼されていた。


「そうよ、言ったわよ。それがどうしたというの!」

「アウグスタさん、開き直りはよくありませんわ。それで毎日毎晩対策会議を行っていますでしょう?」

「なに言うのよ。この、ただ飯食らいが!」

「むっふ~そう嫌わないでくださいな。じきにいい考えが浮かびますわ。」

「そんな事あるか。どこかの村を襲って男を攫えばいいのでしょう!」

「あぁその手がありました。直ぐにソフィアさんを呼びましょう。そうして近くの村を全壊にして男を伸して持ち帰りますか。」

「そうね、それしかないのだわ。」

「追い立てて教会へ押し込むのよ。そして慈愛・博愛の名の元に買い受けましょうか。これはオレグさんの手腕なのだけれども、雇う金額よりもリーズナブルになりそうな気がするわ。」

「それ無理だから。リガはロシアででもレニングラードに次ぐ第二の都市だから求人はあばかん有るのよね。あばかん、ね!」


 アウグスタは目を細めでソワレを見つめている。活き活きとした表情だな。

 

「アウグスタ、怒るわよ。……あ・バカ、ん。それ、私へのあてつけかしら。」

「いいえ~、そのものだから安心して。喧嘩なら受けて立つわよ。」

「う~負けるからいい。私、バカでいいわ。」

「そう、素直でいいわよ、可愛いわ!」


「あ、そうだ! 沖合を通る船から強奪しようか。男をふん縛ってさ、船で逃げるのよ。いい考えだわ。」

「そうね、そうよ。キルケーを召喚しましょう。あの女に働いてもらうわ。それで万事が解決よ!」

「ソワレ。どうやってキルケーさんを呼ぶのよ。」

「いい魔法のアイテムがあるわ。この箱にお手紙を書いて入れるとリリーの元に届くのよね。直ぐに書いて送れば直ぐにキルケーは着くわ。」


 という、ハチャメチャな提案を出したソワレ。意味も分からずにアウグスタは同調した。心配そうなエレナはぐっと我慢のいい子だった。


「ほら書いたわよ。ここはアウグスタが責任者だから、右手に手紙を持って箱に腕まで入れて手紙を離すのよ。簡単なのよ。さぁ入れて頂戴。」


 エレナは黙って見ているが、ソワレがアウグスタごと箱に入れてしまうのではないかと、心配している。


「ほらほら、腕を差し込んで、肘もね、ほらほら・・・・。」

「アレレレ・・・・・・。」


 とアウグスタは箱の境界に引き込まれてしまった。慌てるエレナにすまし顔のソワレ。エレナに対して横を向いて知らん顔。微笑んでいた……不気味に。


 結果は直ぐに判った。リリーから返事が来た『お姉さまが大変なので、ゲートでキルケーだけを送るね』と書いてある。同時にキルケーがソワレを直撃する。


「ぎゃい~ん、」・・・「キルケーさま参上!」

「ぎゃ~殺される、死にたくないわ~。」

「女には手を出さないわ、男はどこ、どこに居るの!」

「え、あ~驚いた。いつものリリーのいたずらね。それであの女はどうなったのかしら。」


「あぁ、あれな、干からびて届いたが、ソフィアの顔を見るなり飛びかかっていたな。その後はまたしてもドッグファイトになってるさ。気にしないから先はどうなるのかな。死~らない。」


「んまぁ、どうして動けるのかしら。活動のエネルギーはいったいどこから?」

「きっと赤眼の魔女という二つ名で、別にエレルギーが供給されたのだろうね。その証拠にソフィアのペンダントが赤く光ってさ、それからオオカミの姿になって、後はいつもの事さ!」

「ふ~ん、赤眼の魔女とソファアのペンダントがね~。」



*)赤眼の魔女


 直ぐに血相を変えた女が届いた。髪をふり乱したアウグスタだった。ここが何処だか判らないのか、キョトンとしている。直ぐに目の前のソワレに飛びかかった。


「このう~よくも!」  「キャン!」


 ソワレは一撃の元に轟沈した。面白くないのは面白くないアウグスタ。怒りが収まらない様子。エレナとキルケーは速攻で逃げ出していた。ソワレが箱に入る番になってしまう。


「途中でブタになりやがれ!」


 と豚足もろとも投げ込んだという。後日本人から聞いたのだから間違いは……ないだろう。


「ギーーーーギリギリ……。」


 アウグスタの歯ぎしりが夜まで続いていたらしい。翌朝はリリーが船と魔女の三人を携えてやってきた。


 ソワレを除く全員で船で沖に出てリリーが船員を目視で召喚した。すかさずにキルケーが物静かなウサギに変えるのだった。エレナはウサギを檻に入れる役。船員が居なくなった船では、まぁ、あまり気にもしない様子。


「おい、また一人海に食われたようだぜ。塩撒いて清めておくか!?」


 効率は良くないから港に停泊しては水夫を攫ってウサギに変えていく。五十羽から集まった。リリーはキルケーに、

     

「エサはパースニップ(白い人参)で済むから男は元に戻さないでね。」

「あいよ。リリーもだいぶんオレグに感化されて性格も悪くなったね。この前までこの俺さまを散々罵って、おまけに大事な蛇足を切り刻んでいたくせに。」

「あぁ、あれはお姉さまよ、私ではないわ。」

「同じだろう。酷い仕打ちには変わりないよ。」

「うふん、そうね。そう思うわ!」


 と白状したのだ。本来リリーとは百合で、無邪気・純粋・清潔・誠実を意味している。それが極悪非道の行いをすつのだから大いに違和感が漂う。



「あんたたちの話はなんなのよ。私には少しも理解できないわ。」

「あらアウグスタ。居たのね。少しも会話がないのだから、海に食われたかとついつい思ってしまったわ。クラーケンが居たらいいのにね。」

「ブ~!!」……「ベ~!!」



 翌日からニコライとアウグスタの引っ越し作業が……瞬時に終わった。ウサギのように目を丸くする夫婦だった。リリーの境界に全荷物が仕舞われた。


「ソワレ、生きているかな!」


 ニコライとアウグスタ。リリーとキルケー。魔女の六人で二艘の船でレバルへ帰る。もち、ウサギの五十羽も一緒に。ニコライがリガで商材を積んでいたが何を積み込んだか。長さが二mの図太い三十cmもの角材が四本と、ねじを切った大きな鉄の棒。それに鉄で作った丸いハンドル。他少々だった。分解されたままの状態で船に載せられた。


「これは伯爵さまに売るんだ。銀貨三千枚でね。」


 三千万とは高価だ。これをニコライはタダみたいな金額で購入した。費用は船賃と人足代がかなり多めにかかっていた。


「何せ、二週間でドイツから取り寄せたものね! 高いわ。」


 オレグは泣いて喜んだ。貨幣の鋳造にとても便利だったから。



*)プリムラ村の実演


 ニコライの荷物がプリムラ村に下ろされて十人ほどで丘の上に引き上げた。


『これも人足の給金のためよ!』とリリーの言葉である。まぁいつもの事。


「あれ~オレグお兄さまはいらっしゃらないのかしら!」

「公爵さまはレバルですが、お帰りは三日先でしょうか。」

「いいわ、直ぐに呼び戻してあげる。」



 ニコライは持ち込んだプレス機を何度も何度もハンドルを回しては、金型が下りて行くのか確認していた。最後は我慢できなくて自分の銀貨を二枚、型に入れてプレスのハンドルを回した。見事に一枚の分厚い銀貨が出来上がった。


「ムフフ、これは大正解だよ、うん、これは……。」


 傍で夫の仕事を見ているアウグスタは、


「我が夫とはいえ、いささか不気味ですわ。あの機械がどうして銀貨三千枚もするのよ。理解出来ない。せいぜい金貨で一枚ですわ。」

「何を言う。これは銀貨三千枚だぞ!」


 銀貨鋳造の工員は大きく目を見開いて見学していた。実演ですでにマスター習得が済んでいた。実に良く考えられて作られていたのだった。


「貨幣製造プレス機。」


 オレグは実演されて造られていく銀貨を見てニコライに一つ返事で、


「買う。」

「はい、銀貨三千枚です。」

「直ぐに造って払う。」

「ヘッ、あ、あのう、代金は……。」

「今すぐにできる。明日まで待ってくれ!」

「ガチョ~ン!! こんなの在り得ない。自分で銀貨を造れば良かった!」

「ニコライ。私が思っていたのが正解だったわね。バカね!」


 ニコライは贋作の銀貨で支払われたから少しも嬉しくなかった。これに気を良くしたオレグは、村中の支払いを新銀貨で払っていた。


「わぉ、これ! 最高!」


 とルイ・カーンが燥ぐ。


(オレグのバカ、天罰で死んじゃえ!)ニコライのこころの叫びだった。家族は皆ニコライに同情をするのだった。ルイ・カーンの株価は下がりっぱなしに。


 ペールは喜んではいる。いるが、こんなにたやすく銀貨が出来るのを見て少し思い悩んでしまった。


「これだけの銀貨の価値を自身で維持できるのだろうか」と思いあぐねる。



 ルイ・カーンも同じ事を考えているが、そこには色々な商品を動かして富を得る姿の、自分自身の夢のような姿が見えていた。こうなればもうオレグは商人ではない。本当に国を盗って治めないと人間が壊れてしまいそうだった。


 国を治める。ただそれだけでは済まない。多くの人民の命を左右する事にはまだ気づいていなかった。デンマークが、ドイツがルイ・カーンの富を狙って侵攻して来る事に気づかない。エストニアが危機に陥るのは時間の問題だった。オレグは派手に事を興し過ぎた。事業を起こすとは意味が違う。


 オレグは今日、この日を境に落ちる・墜ちる・堕ちる。


 オレグは叫ぶ、


「ちょ~っと待った~~~!! 俺は落ちないぞ、絶対に墜ちて物語は終わらせないからな~!」……「 俺は読者に呼びかける。俺を維持しろ~。」と。


 畏怖を感じたオレグはその後は元気が抜けてしまう。


「オレグ兄さま、今日はどこに居たの? ですか。」

「あぁぁ??」

「……ですか!」

「今日はな、ロシア攻略のためにトチェフのブドウ園とワイン工場さ。なんでかと言ったら、ロシアは一に酒、二に賄賂だもんな。一番安く出来るワインからアルコールの強い酒が造れないのか研究中なのさ。」

「ふ~んそうなんだ。私が村人に訊いたらレバルだと返事がございましたが? 私も同行してもいいかしら! 本当はどこですか?」

「訊かなくていいよ、ゲートで送ってくれ。トチェフへ行く。」


「お前たちは先にレバルまで行って、俺が来るまで待ってはくれないだろうか。合流後にレニングラードへ向かう。先にトチェフへ行って研究したいんだ。」


「は~い了解で~す。」

「ニコライ、アウグスタさんを連れて行きたいが、よろしいか!」

「えぇ?? どうしてですか。……あ、はいはい、お貸しいたします。食べないで下さいよ。いいですか!」

「分かっている。俺はまだ死にたくはないし。」

「よろしいです。……アウグスタ。頼めるか!」

「もちろんです。伯爵さまの身辺護衛は任せて下さい。」



「ゲート。トチェフ村!」



*)プリムラ村での実演



「お兄さま、これで簡単に儲かるとはお思いではないでしょうね。」

「い、いや。俺もこれほど簡単だとは思わなくてさ、少し身体が震えている。物事に後が怖い”があるよな。これからの俺の人生がどう転ぶのか!」

「お兄さまは転んではなりません。サクセスストーリーに乗り突っ走るのですから、弱音も二度寝もできません。」


「ふ~んルイ・カーンさまも、小姑には大変な思いをされてありますね。」

「だろう? 俺が生きていられるのもリリーのお蔭だから頭が上がらない。他にもたくさんの借りがあるからな~。」

「その借りは返せないのですね?」

「最近、どうしてか俺の魔力が上がって魔力で返せると判明したんだ。今度からちょいちょいと返させて頂くよ。」

「お兄さま、それって今後の仕事でこき使うという意味ですわね。そりゃ~魔力が多いと気分もハイになって気持ちがいいのですけれどもね。」


「ふ~んそうなんだ。で?」

「イヤですよ私、アウグスタさんとは遣り合う事はいたしません。す~ぐ負けますからね。」


「いや、リリーが上手投げで勝よ。」

「まぁ、やはりルイ・カーンさまはご家族思いでいらっしゃるのですね。」

「当たり前だろう? もうあんな奴に渡してたまるか。」


 リリーとアウグスタが争えばソフィアとアウグスタのようには絶対にならないのが見てとれる。リリーがゲートで逃げるか、逆にゲートで冷たい海に相手を落とす事ができるので勝負にはならない。」


「着きましたわ。アウグスタさんは初めてですので領主さまには、」

「面倒はいやですのでご遠慮させて頂きます。しっかし~これ程の大きい農園をお持ちだとは~。う~~ん素晴らしいです。羨ましい!!」

「まだまだ広げる事が可能なのだが、ワインの製造と販売が大変でね。現状維持で精一杯なのさ。」

「そうですわね、販路の途中にデンマークとドイツがありますもの、西には安易に輸出が出来ません。」


「そうなんだ。今後はフランス・イタリア・イングランド・スペインが最大の消費地になるからね。こんな北ではどこかの東のジジイに突かれて、散財させられるのが落ちだから。」

「それでルイ・カーン伯爵さま、エストニアを落とされる本当の意味とはなんでございますか?」

「あぁデンマークさ。デンマーク領エストニアを俺が絞めめて、デンマークに喧嘩を売るのが目的さ。じきに後悔させてやるよ。」


「海軍まで創設してでしょうか。」


「まぁな。銀貨を元手に多くの船を建造して一気に攻め込む。ただそれだけだがな。それでデンマークの国力が落ちれば、こちらがいいように海峡を通過出来るようになるのさ。」

「そうですわね、デンマークのヴァイキングはバイ菌ですので排除したいものです。それが出来る国や組織が現れましたならば東側はこぞって戦争に参加しましょう。」


「アウグスタさん、もう少し考えて話したがいいですよ。お兄さまが近郊の国々をただで助けることはいたしません。きっと船団を元手に海賊行為をするに決まっています。」

「まぁ、それが本当でしょうよ。私は伯爵、いや公爵さまでしたわね、大いに賛成いたします。通行料はタダのように低いはずですからお安いものです。」

「へ~そうなんだ。商人はなんでもお金で解決するのですね。」

「まぁね!……で、リリーさん。公爵さまに付いてきてどうされるのでしょう。」

「貴女の見張りです。私は赤眼の魔女の監視役です。」

「んまぁ、ルイ・カーンさま!」


 アウグスタはルイ・カーンの顔を覗き込んだがルイ・カーンは返事をしない。それは不正解だと言っているようなものだ。何かを企む顔。


 今は五月中旬で新芽もだいぶん伸び出している。だが、はるか先の方は緑緑と色濃く見えている。畑の区切りでブドウの樹の成長が変わっていた。


「あれ? お兄さま、ブドウの成長が違いますね。どうしてですか?」

「俺が考えたブドウ即席成長方法だ。肥料とは別に早く大きくさせたくてね。どうだリリーとアウグスタ、手伝ってくれないか。」


「ガチョチョ~ン!」x2

「鵞鳥が食いたいのならば、今晩用意してやるよ。まぁ俺でもようやく捕まえる事が出来るようになってさ、面白いぜ~。」

「まぁバッカじゃないの?」……「あらまぁ、すみません。」


 アウグスタがオレグを完全にバカにしている。


「フォアグラが旨いんだ。今晩用意させるからな。一口食べてくれ。」



 トチェフ村での実演が始まった。オレグの膨大な魔力を台地に注ぎ込むのだ。


「いいか、こうやって土に穴を掘り右手を差し込む。自分だけではとても出来ないので、いつもは誰かにさせるのだが、右手をまぁ~埋めてしまう訳だ。」


「お兄さまの足ではいけませんの?」

「あ、その足があったか! いいことを聞いた。では右足を穴に埋めて、やっぱ手にする。リリー土を掛けてくれないか。」

「はいじゃい、後ろ足で砂掛けて~。」

「おいおい、真面目にだな。」

「はいじゃい、後ろ足で土蹴って~。」

「もう~!」……「いいぞ。」

「はい。じゃ~ぁ、実演を。」


 オレグはブドウが大きく枝葉を伸ばすイメージを台地に送り込む。直ぐにはブドウの樹は反応しないがオレグ自身は確かな手応えを感じる。


「これだけだ。簡単だからやってみてみて! あの先に手洗い場が在るから。」

「随分と簡単に言って下さるのですね。私の赤眼の魔女としましても、このような下品な恰好は好みません。第一にミミズ……が……ぎゃ~ゃ~ギャ!」

「あ、それな、今晩のおかずに出来るから追い出すなよ。」


「オレグお兄さま、やはりこの四つん這いの恰好では嫌です。私としてはブドウの樹にじかに魔力を送ります。その方が簡単ですよ。」


「リリー、どうなるのか試せばいいさ。その方法は後が大変になるかもね。」

「それ、どういう事かしら。私は台地の妖精ですので、これ位…れ…れ!」


 リリーが魔力を送り込んだブドウの樹はみるみる大きくなってしまった。片やアウグスタの方のブドウの樹は直ぐに反応しないがオレグと同じだろうか。


「いやぁ~んお兄さま、ごめんなさ~い!」

「やっぱりな、だろうと思ったぜ。やはり俺のやり方で根っこに魔力をやって根の活性を高めないとね。きっと旨いブドウは実らないさ。」

「そうですよね……。」


 オレグは一列だけに魔力を送った。次はビール工場でのワインの蒸留の作業になる。ワインを加熱するとアルコールが蒸発すると考えたオレグ。だが蒸発した気体のアルコールをどうやって回収するのかが判らない。


 オレグは工員にワインの加熱を始めさせる。そうして暫く持つようにと言う。


「ワインを煮詰めるとどうなるのですか?」

「あ、あ、アウグスタ。甘くなったソースのになるよ。舐めるかい?」

「いいえ、結構です。」

「いい香りだろう。この立ち込める湯気にアルコールが含まれるからさ、これをな? どうするかだよ。」

「全部集めればいいじゃありませんか。」

「アウグスタ、それをどうやって集めるのかな?」

「大きなタライとか鍋とか。」

「アホか! そんなのでは出来ないと分かっている。」


 ブランデーはワインを加熱して蒸気を大きな鉄の窯に送り込んで冷却すれば出来る。出来るが、この時代には大きな鉄の窯というか、球体が造れない。とうとうオレグには蒸留が出来なかった。


 赤い目を光らせてアウグスタはワインの作業工程を見学している。初めて見る作業内容に目が赤から白黒に変わる。


「まぁ、アウグスタの顔が笑えますわ。」

「ふん、なんとでも言え!」


 アウグスタはリリーの相手をする余裕は無い。ただただ色々な作業が面白く見えるのだからしようがない。最後に見たのが潰したブドウを樽に入れて置いた発酵ずみを絞る作業だった。力まかせに麻布を絞る男に目が~ではなく絞りかすに目をやった。


「公爵さま、この絞りかすはどうされるのでしょう。」

「それな、家畜のエサと農園の肥料に回しているが食べても不味いぞ。」

「そうですか、でもこのカス。まだまだワインが残っていますよね。」

「ま~当然そうなるわな。勿体ないとは思うがこれ以上絞る方法が無くてね、」

「いいえ、有るではありませんか。銀貨の鋳造でのあの大きいプレス機が!」


「わ~ぉ、あれで絞るのか、それは名案だな。さっそく家具職人に作らせよう。うんうん、それはいい、とてもいいぞ。」


「それと公爵さま?」

「ん、なんだ。他にもなにか言いたいのか。」

「はい、あの絞りかすに新しいブドウを潰して混ぜれば、もっと早くワインが出来ませんでしょうか? 向こうの男に訊きましたらブドウを潰して樽に入れるだけだと申していましたわ。これって都度に発酵菌を湧かせるのでしょう? でしたら発酵菌が残る残滓ざんしをブドウと混ぜれば早くワインが出来ると思うのですが。」


「お兄さま、それ、いい考えですわ。もしかしましたらそのう、少しアルコール分の強いワインが出来るかも知れません。」

「あ~。なるほど、な~。さっそく実行させようか。樽が判るようにして……。」


 オレグが作業している男を集めて指示を出している。きっと分量とかを打ち合わせしているのだろうか。


「う~んオレグお兄さま、長いですわ。もう私、グーです。」

「ですわね、先にパブへ案内して下さらないかしら。それとお宿も。」

「あははは、そうですわね。私たちだけで行きましょうか。今日はきっとおご馳走ですわ。」

「半分期待でおります。何が出るのでしょうね。ワインを飲んだ鵞鳥ガチョウとか?」

「それ! 言えてるかもしれない。他はなにかしら!」


 その夜は本当に鵞鳥料理が出てきた。鵞鳥の腹を裂いて、さらに裂けるだけ肉を裂いてワインの残滓ざんしを詰め込んで、ちょ~時間釜で蒸し焼きにしたものだった。ワインの色と香りがしみこんだ、ま~綺麗とは言えない肉が出来ている。岩塩と香辛料も良くしみ込んでいる。


「おう女将、出来ているか、俺特製の鵞鳥料理がよ。」

「あぁ、とっくに食べられてしまったよ、来るのが遅いのだもの。ま~た工場に残業を押し付けて来たんだろう?」

「まぁな。いつものことだ。さぼるのも残業するのもな。」

「そうだね、ここは見張りが居ないからね。ギュンターさんもライ麦の買い付けで超超~忙しいようだよ。」

「だろうな、俺が多数の布石を打ったから実りも多いのさ。今度ゆっくりと文句を聴いてやらないとな。二人して出て行かれたら俺が困るしな。」

「あ~あの親子なら来ているよ。奥の部屋だよ。あんたも入るかい?」

「ついでが有れば声を掛けてくれないか。それで呼ばれたら俺も会合に参加させてもらうさ。それよりも、妹と可愛くない女が来ているだろう。」


「そうだね、親子と一緒に入ってしまったよ。どうするね。」

「そうさな、俺に用があればリリーが呼びに来るだろうさ。俺は独りのんびりと過ごさせてもらおうか。」

「あいよ、クジラの塩焼き。それとすまないね~鵞鳥でなくてニワトリだよ。」

「おうおう、このニワトリも鵞鳥と同じ味がするよ。今度から……? もしかして今までは……。」

「そうさね、当たり前だろうが。この村には鵞鳥はいないよ。」

「ガチョ~ン!」

「それからさ、ワインを煮込んだものからソースを作ったよ、肉に掛けて食べてくれないか。味見を頼むよ。」

「いいぜいいぜ。辛口トークを見舞って……いや。これ! 旨いや。」

「そうかい、それは良かったよ。今度からメニューに加えるよ。」

「おう、そうしてくれ。明日に少し持って帰るから用意できないか。」

「いいよ、十分に用意しておくよ。」

「あぁ、よろしくな。」


 オレグがパブに造った防音の特別室からは誰も出てこなかった。アウグスタもリリーも居ないからその部屋に居るのは判っている。が、出てこない。


「あんた、独りで寂しいのだろう? 魔女を横に付けようか。」

「んなもの、要らないよ。いつもの料理とワインを出して貰えればいいだけさ。」

「あいよ、たんまりと食べておくれ。」


 オレグは酔ってしまい一人で自宅に戻って寝ていた。アウグスタとリリーはギュンターとヨゼフ共々宿屋に宿泊していた。



*)戦車さえも飲んでしまうロシア軍


 一夜明けたらオレグは元の、いつもの、ふてぶてしい顔に戻っていた。昨晩のブドウカスのソースが効いたのか。


「俺は~~ルイ・カーンだ~~!!」


 朝一番のおんどりよりも強い叫び声を上げていた。


「おやおや卵を産んだのかい。今朝は卵かけごはんにしようかね。公爵さまになられているらしいからお祝いだね!」


 この女将。オレグの母親かと、つい勘ぐってしまった。オレグに対しての面倒見がとても良いのだ。


「それと娘ん子は、こりゃぁ、酷い二日酔いじゃろて。どんぶりでミソ汁じゃな。それとあのオオカミ女は、そうじゃのう、牛のき***がいいじゃろ。」




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