第175部 私、リガも領地にしてみせます!
1249年4月29日 エストニア・ハープサル
*)ロシアへの視察団
「ルイ・カーンさまの野望が快感に変わっていってはダメです。これは目的ではありません、いいですか、あくまででも手段であって目的ではありません。」
と帰ってきたペールが、ルイ・カーンをたしなめる。大よその一か月間もの長旅だった。陸路ではないので夜盗等の心配はなかった。盗賊にも人的被害を出す戦いを避ける意味で夜盗に変化していた。朝目が覚めたら物が無かった、とか。
「おいおいペール。どうしたんだ。今はお前のお説教を聞きたいのではないのだがな~。」
「はいルイ・カーンさま。申し訳ありませんでした。ドイツで得た情報はガサでした。ただ単にロシアの輸出港だったのです。」
「だから言っただろう? ツンデレだって。それなりの金品を積まないと靡かないのだと。」
「はい、ごもっともでございました。それで船一艘分を一掃しまして、得た情報によりますと、サンクト・ペテルブルグの北へ千六百キロもの船旅でようやく陸に上がり、それから二百キロをも馬車で揺られて着くらしいのです。」
「おいおいおい、それって俺に野盗になれって言うんじゃないよな。」
「もちのろんです。輸送にも鉱山の露天掘りにも多大な人員が必要になります。未来ではそのう、大小の湖を川や運河で繋げていますが、今は湖と湖の間は馬車輸送に頼っております。」
「そうかぁ、それは残念だった。てっきりレニングラードから川で遡った処とばかり考えていたよ。」
「はい小さい鉱山は在るのですが、必ずしも銀ばかりでは無いとの事でした。」
「それで結果はどうなんだ。」
「はい、ライ麦の裏輸出で銀貨の二千枚分の買い付けが出来ました。」
「おいおいおい、おい。それはすげ~じゃないか。それが船一艘分なのか。」
「いいえ、ライ麦で八万袋になりました。」
40,000x150=金貨 60枚
80,000x150=金貨120枚・・・銀貨1,200枚
仕入れ原価の5/3になる。諸経費を入れても5/4。ライ麦を普通に卸しの販売をしてもおおよそマイナス三倍の損になるのだった。(ここは推敲いたします)
計算したオレグは「ムギュ~!」となる。
「今回は撒き餌か!」
(1240年当時のロシアの貨幣がまだわかりません。)
「ペール、銀貨二千枚分の地金が簡単に買えるのならば、レニングラードの倉庫には扱えない位の地金が眠ってはいないのかい?」
「はい、そう…なるのでしょう。今回は中クラスの責任者でしたので、高価な取引になったかと思われます。軍上層部にパイプを作れば多大のライ麦の輸送の指示が軍の元で出来ますので、かなり安価で銀地金が購入できるかと。」
「銀の輸送よりもライ麦の輸送の方が大変だろうさ。」
「ルイ・カーンさま、そういうことでございます。それと冬の輸送手段が雪で閉ざされてしまいますので、この時期が一番の保管量かと。」
「雪が解けて鉱山から一気に運ばれるだろうな。ごもっとだ。」
「ですから動くのは今かと思います。」
熱弁を続けるペール。
「レニングラードまでは銀で満載。帰りは少量の物資では鉱山の人間は養えない。決まりですな。ここはレバルの港に係留しています、たくさんの船にライ麦を満載して送り付けましょう。なぁに現物を見ればいちころで公爵さまに靡きましょうぞ。」
「ペール、今なんと言った!」
「船に満載して?……はて、なにが引っ掛かりましたでしょうか。」
「み、みみ、港に係留中だよ、あの船は俺の物なのかぁ~~~??」
「はい、さようでございます。もう資金は使い果たしましたので新造船はありません。……が?」
「へ! ウソ!」
「あぁルイ・カーンさまは、レバルの造船ギルドを買わせた事を、もしや?」
「そうだった、ような……。忘れた!!!」
「私をずっこけさせないで下さい。嵐の日にも沈まないように私は管理してまいりました。よもや、お忘れだったとはなんと嘆かわしい!」
「す、すまなかった。ごめんちゃい。」
「公爵さまはこのような事態を見越しての、造船ギルドを買収されたのかと考えておりましたというのに。……泣きたいですわ。」
「すまなかった、すまなかった。ごめんちゃい。ごめんちゃい。」
レバルからレニングラードまでは約三百五十キロほどの距離にある。ロシアが唯一の西側に面したポート都市として栄えだす。ただし、ロシアには都市を創るだけの財貨が無かった。人が少ない台地は凍り耕作地が少ない。在るのは森と山。まぁ直前にモンゴルの侵攻を受けたし、以後も受け続けるのだからそうなるのが当然だった。
だからロシアは考えた。他人の褌で都市を創設しよう!!
「俺もレニングラードへ行く。馬をひけ~ぃ。」
「ヒヒ~ィ! ……公爵さまが狂われた~!」
「だったら俺の金を使って海上輸送を牛耳ってやろう。おいペール。また造船ギルドを買い取れ。軍艦なみの大型船を建造する。」
「おい誰か、船のこぎ手を集めろ、……ソワレとエレナ求人を出せ。」
「ソフィアさまではいけないでしょうか。」
「ソワレに任せたい。」
「はい、ハープサルから集めますか。」
「いや、あそこはライ麦の開墾をさせたいから却下だ。 ああああ~~そうだ、レバルとリガがいい。あの地のル=ガルーを使え。だからお前にしか頼めないのだよ。」
「はい、承知!」
ソワレはソフィアを一瞥してルイ・カーンに返事した。少し笑みが零れたか。毀れるのはソフィアのプライドか! 頭にカチンときたソフィアは、
「オレグ、私も行く、リガへ行きたい。」
「ソフィアは俺とレニングラードへ行って貰いたい。第一にお前がリガに行けば船の全艘が沈んでしまうだろうが、どうかな?」
「う”~ぐや”じい”~!”」
「レニングラードにはまだ見ぬ姉妹が居るかもよ。」
「うん行く行く。レニングラードに行きたい。」
ソフィアはソワレに舌を出して、
「べ~!!」
『まぁまぁ、うふふ。』と笑ってやり過ごすのはソワレにエレナにリリー。
レニングラードはキエフ大公国分裂後のちょうど百年目にあたる。今から伸びていく都市へと発展する。ハンザ同盟にも加入する、後ろには広い台地が広がっているから。それは使えないシベリアの台地ではない、中央アジアや東アジアに繋がる道が広がる。モンゴル帝国が造ったからだ。このことにより東からいろんな物資・技術が運び込まれる。そう、悪魔という物までをも運び込む。
「レニングラードの拠点には、ニコライとアウグスタを着任させる。」
「公爵さま、もしかして四人の貴族候補の方ではありませんか?」
「あ!……だった。まぁいいだろう。まずはペールが最初だし。それから俺の息子を呼んで最後がニコライにする。決めた!」
オレグが至急プリムラ村に戻り銀貨を鋳造してみたら、銀貨の重量計算ではドイツ銀マルクの三千枚分になった。
「?? ロシアの銀貨はドイツよりも大きいのか? それとも……。」
結果は……それともの方で不純物が多いようだった。重量の比較をしたら一目瞭然だった。この試作品は直ぐにソワレに持たされた。
「重量でも色ででも、見分けは付かないさ。」
「公爵さま、強く叩いて銀貨を出来るだけ薄く造っていますだ。」
*)リガの港町
ソワレとエレナが魔女の三人と共に船でリガの港に着いた。
「わ~とってもとっても賑やかな港街なのね。すごいわ~!」
「そうねエレナ。ここは初めてなのかしら。」
「えぇそうよ!」
と笑顔が$100¥のエレナ。田舎のトチェフとは雲泥の差が有ると感じたのだろう。グダニスクはとても大きい街なのだがまた別の雰囲気が漂っている。グダニスクはどちらかというと商人と貨物の街。でもここリガは町民の街~という感じがする。
「私、この街”とても好き!」 「ドスン!」「イテテ!」「ごめんなさい。」
「そうでしょうとも、この人出で賑わうのは、他の街では在り得ませんから。」
「あら、どうしてそうまで言い切れるのかしら?」
「はい、まだ、ここにはバカどもが侵攻して来ていませんから。人も商人も露店も自由に、生き活きとしていますでしょう?」
「生きとし生きる者でしょうか?」……「はい!」
「えぇとても驚きました。いたる所で楽しそうな歌声が聴こえるのですもの、私も大空で囀りたくなりましたわ!」
「まぁまぁ、それはいいですね、是非、空高く舞われて俯瞰されて下さい。」
「それは後程にいたします。……ありがとうございました。」
燥ぐエレナが通行人の男にぶつかり、思いっきり足を踏んで、しかも重くは無い体重を掛けて踏んでしまった。男は思わず、痛いと言うが、それほど痛いというのではなく、思いがけない可愛い少女にぶつかられたので驚いたのだろう。(鼻の下、長い!)
バカどもが侵攻してのバカとはドイツ騎士団の事である。リガはロシア領なのでドイツ騎士団の侵攻はまだ先の事。
少女は直ぐに$200¥の笑顔で謝る。これに気を許した商人らしきの男が街の解説を勝手に始めた。(ばかやろう!)と一喝してもいい場面なのだが、それだと笑顔が$100¥の少女が悲しむだろうか、思い遣る商人のこころがそこに有った。
「あんた、獲物よ!」と、言って商人の女房が嗾けたのが本当なのだが。この少女の素性は会ったばかりでは見破るのは不可能なはず。だが商人の男は「是非、空高く舞われて俯瞰されて下さい。」と言った。
これはエレナが妖精だという事を見破った一言なのだろう。それには気づかないエレナ。エレナにしてみれば今までの周りの人たちが異形なのもが多かった所為でもあるのだろう、常日頃が身に沁み込んでいるから気にもならない。
「どうだった?」
「たぶんアウグスタへの客だろう。いつお前を見つける事が出来るか観察しておこうか。つくづくお前も不思議な女だな~。」
「いやですよ、私が不思議な女だなんて。いたって普通です。」
「そぉかぁあ~? どこかの奥さまと遣り合って船も沈めたというのに。普通では在り得ないのが普通だろう。」
「あら、あなたも普通だと申されるのですもの。やはり私は普通ですわ!」
「??……そうかなぁ!」
とニコライはアウグスタの言葉巧みな話し方に、言いくるめられてしまった。だがニコライは美しいアウグスタにゾッコン”なために信じてしまう。綺麗な女性は病気を持っていない”のだと。
「さ、伯爵さまのお迎えの使者が見得ましたから露店は閉めましょうか。」
「そうだな、帰って黒猫の看板を磨いておくか。」
「私、いまでも十分に綺麗ですよ?」
「あぁ???……いや、看板娘の看板ではないよ。屋根の上の看板。テケテケ? いや、テカテカと光るようにどこからでも見えるようにだよ。」
「あらいやだ、私ったら。そうね伯爵さまですもの『黒猫の風見鶏を探せ!』と指示されていますよね。」
「そうだよ、嬢ちゃんも後で空から探すと言っていたからね。屋根に上った序に粟の粒ででも撒いておくか。おやつにはいいかもな。」
「ダメです。パン屑になさいな。」
リガの港の風景を考えたらここまで書けました。次は露店を! 結果は無理でしたな~!
「オッホン!」
ひょこひょこと跳ねるようにして歩くエレナ。
「もうエレナったら、すでに雲雀の妖精の地が出ていますよ。鳥は歩けないのですもの。」
「ぶ~! でもカラスは歩けるよ?」
「あれは鳥ではありません。鴉・烏、牙が在って、鳥の字から一つが抜けた、そう悪魔の使いですから。」
「へ~そうなんだ。ではオウムはどうなのよ。」
「あれは人殺しの邪神の使いです。人語を話す気が荒いケダモノです。」
どうして鴉には牙があるのだろうか。どうして鳥の字から一つが抜けたのだろうか。
「ほ~お~いい所に目を付けましたな。」「鳳凰??……なのかしら?」
烏は黒くて目がどこに有るのか判らないから、一つの棒を抜いたのが漢字の成り立ちだそうだ。鳳凰の鳳もカラス、大きな鳥だそうだ。あとは検索願います。
エレナが顔を出す店は穀物を扱う店。綺麗な飾り物を扱う店。楽器を扱う店なのだろう。食べ物と衣装とひばりが奏でる演奏の器具か!
「これ、これ欲しい。ソワレ必要経費だよ。これ買って!」
「なによそれ。……、」
「ガチャン、チーン。」
とすでにレジズターの音が聞こえた。
「お会計は、チョ、ベリー高い五百銀マルクでございます。」
「なによその金額。高いですわ。」
「はい望遠鏡ですもの。高い所から見下ろすから高いのは当たり前よ!」
「だったら低い処から上を見上げなさいよね!」
「ルイ・カーンさまへのお土産ですか?」
「物見の塔から見渡す道具ですわ!」
「いいわ払ってあげる。……オッチャン、私にも一つ下さい、合わせて九百銀マルクよね!」
「いいえ一万二千銀マルクになります。お姉さんが選んだのは万華鏡で!」
「万化・脅!! ただの脅しよね?……はい五百銀マルク。」
「まいどあり!」
「もうここから離れるわよ。次はお昼の昼食よ、ここでは戦争なのよ!」
黒々と人が集まる有名な某レストランテ。ソワレはガイドブックで情報を仕入れていたのだろうか。あいにくのお昼の時間だったので並ぶ人が多い。それも並んだ客が女だけ”とは、いったいどういうお店なのだろうか。
「私、マッチョが好きなんです。」
今度はエレナがソワレを引きずって先を急ぐ。
「もうお姉さま、如何わしい店には行きませんよ。経費では落ちませんからね。」
「あらやだ。経費の領収書が出ないなんて思いもしませんでした。次は先を右にいって”お姉さま”のパブね。」
「パブならいいわよ。私もお腹が空いていますし。」
「お帰りなさいませ、お嬢様!!」
「まぁ~私がお嬢様!!」
「バコ~ン!」「ここもダメです。」「いや~ん行きたい、行かせて~!」
こんどはソワレの頭がイカレ出したようだ。この通りの店をピョンピョンと跳ねて、ところ構わずにドアを開けては首を突っ込んでいた。
「らっしゃい。ここは最後に行きつくお店ですわ。ゆっくりされて下さいね!」
「チュ!」……「ぎゃ~!!」
ソワレは一目散になって逃げだした。いかつい男が出迎えるお芸の店だった。汗たらたらで逃げ出したソワレはようやくまともなパブへ行きついた。
「らっしゃい、お二人さんかえ?」「はい。」
「この街には悪魔も居るのね。」
「あら、あのお店もマッチョだったわね。お姉さまがマッチョを好きだったとは思いもしませんでした。」
「……。”・・”。」「もういいわ、ここで休んで黒猫を探しましょ。」
「そうですわよ、お姉さま。」
冷たいワクスを持ってきた女将は、
「あんたたち、魔女男の店に顔を出したのかい?……。」
「魔女男~?!?」
「あそこはね、・・・・・・なのだよ!……以後、気をつけな、」
随分と美しいリガの街を冒涜したかのような在り得ない風景だった。
*)ニコライとアウグスタ
店先にパンくずを撒いて雀を歓待しているニコライに、
「このザルと紐と棒を仕掛けて置いてね。」
「またかい? 俺の楽しみが無くなるよ。こんなにかわいい雀を食うなんて。」
「これもね、あの貴族が欲しがるからさ、だから捕獲するのだよ。」
「町民のエサを欲しがる貴族はどうかと思うがね~。」
とアウグスタは現実的だった。
ニコライはリガの商業ギルドから締め出されていて、今は一匹オオカミになって活動している。ゴッドランド島での戦いで大いなる自我に目覚めたニコライ。少々の苦難は何とも思わなくなっていた。(うちの恐ろしい女房を食わせにゃ~)というのが本音らしい。後に続くのが(俺が食われてしまう!)だろう。
街の通りは街並みと人の波? 建物は看板が在る店か。お花は無い。だから特定の人物を釣る為のザルだった。上を見て歩く旅人はいない。だから黒猫の風見鶏は視線には入らない。
視線の先を見ているのは風景と人の表情だろう。通行人も風景に含まれるから、ここでは買い物に夢中になる旅人という意味か。奇異に映るのは見ていてとても楽しいものだ。自分もつい釣られてしまい嬉しく思う。
(こんなに釣れる女は他に居ないわね! ちょろい。)
こんな人通りが多い通りで人が避けて通る道に差し掛かると、思わず不審に思うのが人の性。直ぐに問題を探して解決したいに決まっている。
「私、気になります。」
「ねぇ、あの人たちが避けて通るのはどうしてかな。」
「そうね、人は迷惑そうに一瞥しているね。」
「あの先は?……あ~! 港て足をふんづけた男の人! あ~~~!!」
そこには港でぶつかった優しい男が紐を持って座っていた、先にはパンくずに群がる雀の群れとひばりが一羽。
「あ~やって鳥を捕まえるのかしら、」
「いくらなんでも、あれじゃ~ね~!」
アウグスタの目的は達成した。ひばりが縄、いや罠にかかった。(なわ・わな)
「あれ~? おじ様、どうして雀を捕まえるのですか?」
「あ、いや、これは女房が持たせたのだからさ、俺にも理解が及ばないのだよ。でもこうやってまたお嬢さまに出会えたのですもの、お店に入りませんか? ささどうぞ、どうぞ。」
「いいえ早く雀を捕まえてください。ささ、どうぞどうぞ。」
「あんた~早く捕まえて連れておいでよ。…お茶入れたよ。」
「あぁ~直ぐに案内するよ~。」
と奥からアウグスタの声が響く。ニコライはエレナの手を握りしめて離さずに店へと入るのだった。嫌がるふうでもないのだが口では、
「イヤです離して下さい。ここはいったい何のお店ですか? 強引が許されるお店でしょうか。都の迷惑条例に反しています。す~ですからね!」
「いえいえお嬢さまたちをお待ちしておりました。ここは私たちの商店の名前は、え~とアウグスタ、なんだっけ。」
「黒猫だよ。」
そう言いながらニコライの元にアウグスタがワクスを持って現れた。
「あらあら、ここがあの~有名な黒猫ですか!」
「はいな、お嬢さま。それでご用件とは?」
「ゲゲゲ!」「見つけたね。」「いいえ、見つかったわね!」
「そっか、バレたのね!」「だね、」「どうする?」
「ここは何かの間違いで妖怪に捕まったのよ。」
「うん、ここは公爵さまの紋所を出して、」 「逃げる!」
「それは伯爵さまが意とする事とは反しませんか? な!」
そうニコライから言われてシュンとなる二人。上目で見つめるエレナが可愛いのだが、ソワレは以外にも怖い顔を作っていた。以後押し黙ってしまう。エレナの土壇場劇が続く。
「そう警戒されなくてもいいのですよ。それよりも早く公爵さまの紋所を出して下さい。あのお方ですからきっと驚くモノをお持ちでしょうか。」
「ただの金貨です。唯の!」「そう、只の金貨よ!」
「?はて? どういう意味でしょうか……早くお見せ下さい。」
ソワレが恐る恐るエレナに金貨を渡す。エレナは元気に金貨をニコライに差し出すのだった。が、右手のグーに金貨は残ったままだった。この差はなんなのだ。
「おやおや、私をまだ信じて頂けませんのですね。」
「いいえ後ろのお方が気になって怖いだけでございます。ニコライさまはどことなくシーンプさんと同じ感じがします。だから怖いのです。」
「あぁ懐かしいです。シーンプさんはお元気なのですね。あの人は女にはとてもモテないのですから、今は恐ろしい手段で女性を確保していますでしょうね。」
「ギク! はいごもっともです。あの人は女の敵ですわ。」
「ほほうそれは素晴らしい、意味ではないのですね。」
エレナvsニコライ
「ちょっとニコライ。紛らわしい事は言わないで頂戴。……怖くはありませんよ。それに、私はとてもこわ~いオオカミですから!」
「はい安心しました。お姉さんは怖くありません。始祖さまの方が何倍も何倍も怖いです。」
「まぁソフィア様はそんなに怖いのですね?」
「えぇ最近は激情する事が多いのか、よくしっぽを出されます。」
「えぇえぇ、そうでしょうそうでしょう、あれは頭なしでとても抜けていますのでこの私にも勝てないのですわ。お~ほっほっほ・・・・・。」
「お妹さんとか、黒猫姉妹にはとても勝てないようです。でも物凄い姉御肌で、なんにでも首を突っ込んでよく計画の邪魔をされています。」
「そうでしょう、えぇそうでしょうとも。」
「だったらお姉さまは別人です。私は公爵さまからはとても聡明なご夫婦と聞き及んでおります。とてもオレグさまの奥さまをバカにされますので、お姉さまからおば様に年上扱いいたします。」
「お姉さまの年上、……おばさ、まぁ!」
「私たち、どうしてこの大きな建物に迷い込んだのかしら。」
「なに、屋根の風見鶏があなたたちお二人の足音を聞き分けてここに導いたのでよ。な~んも不思議はありませんわ。」
「いいえ、ジュウ分に怪しいです不思議です。いいえ嫌いですわ。」
「あらどうしてそうなのかしら。どこがでしょうか?」
「私をヒバリという鳥扱いにしたからです。」
ヒバリvsル=ガ・ルー
「アウグスタ。ここは君の負けだよ。二人に謝って終わらせなさい。」
「だぁ~ってニコライ。悔しいではありませんか。一緒にソフィアをバカにして大いに悪口を言えるのだと、それはもう、とても楽しみにしていましたのよ。それが、それが、」
「でもソフィアさんが来たらアウグスタ。お前はこのリガを壊しまくるからさ。だからこの二人をルイ・カーンさまが寄越したのだろう?」
「えぇ、まぁ、そうだとも考えられますわ。」
「それで右手に握る金貨をお見せ頂けますかな? お嬢さま方。」
「お嬢様ですって。エレナ早くコーレグ金貨と銀貨を渡しなさい。」
「え?…あ、ホント。私ったら握りしめたままでした。これ公爵さまが造られた金貨と銀貨です。これを使える国を創るのが目的らしいです。」
「ぎょぇ”~!!! ニコライ、ビックリ!……アウグスタも早く驚きなさい。」
「どれどれ……、贋金だね! これを使うのかい?」
「あ、い~~~~!!!」x2
確かにニコライは驚いたが、アウグスタはいたって普通にこれは贋作だと切り捨てたからソワレとエレナが、アウグスタの言葉に対して逆に驚いてしまった。
「アウグスタ、君は驚かないのかい?」
「こんな使えない金貨でどうして驚け”と言うのさ。これってその辺の金貨とおんなじだろう?」
「はい、ごもっともでございます。我が君よ!」
このアウグスタの言葉にがっかりとしたソワレとエレナ。確かにオレグは贋金を造って流通させようと画策しているのは間違っているだろうが、だったら王の座を簒奪するのは間違っているのか! という理屈に行きつく。共に王を排除するのが目的、いや手段であって、王位に就く事こそが目的なのだから。
「おばぁ様って、覇気がありませんのね。これでは旦那さまのニコライさまが、どおりで、ぜんぜん、うだつも、顔も、上がらない訳です、よ、ね~!」
「そお~ですよ、ニコライさまが、お可哀そう!」
「ウグウグ!!」
と唸るアウグスタ。
「・……”・・”。」
と言葉も出ないニコライ。
「国を盗るという公爵さまが、どうして私たちをここに派遣したのか、ぜ~んぜん、まったく、これっぽちも、私の毛先ほども、無いのですね~、あ~残念です、」
「わ~!」x2
「ええ!? 私が伯爵さまのお目に敵っているのですか!」
「はい、ロシア第一位のレニングラードでハチャメチャに、ご夫婦のニコライさまとアウグスタさまに力を揮って戴けないか、というのが公爵さまのお願いらしいですよ。ご夫婦のご協力が得られない時は、デンマークの二人の息子を呼び寄せるという意向です。そしてニコライさまとアウグスタさまが成功されましたら他の三人の方と同様にエストニアで貴族、大きい土地の領主に据えたいと、申されてありますのよね~、あぁ残念ですわ~!」
「おいアウグスタ。ここは乗るか蹴るか!」
「これが?……。」
「お前が妃になるのだよ。」
「はい、若き美人の妃。なんという甘美な響きでしょうか。私の方がなりたいのを我慢しているのですよ。」
「私、妃になります。妃になりたい!」
「はい決定的一言、頂きました~。あとはまっしぐらに突き進むのですよ、いいですかアウグスタ。」
「はい喜んで精進いたします。消尽しまして他者を限りなく排除いたします。」
こうなったらアウグスタはとても強い存在になる。かのソフィアさえにも引けを取らないのだから。
「私、リガも領地にしてみせます!」
と在り得ない言葉を言うアウグスタはとても強い赤い目を光らせた。
「この人、赤眼の魔女なのね!」x2
アウグスタの二つ名の異名が決まった瞬間。名づけたソワレとエレナの二人の魔力が無くなっていまい寝込んだ。
この時にソフィアのペンダントが眩しいほどに赤く光り輝いた、らしい。
「アウグスタさま、ルイ・カーン公爵からの勅命です。リガの地で水夫を多数雇用して登ってきなさい!!」
「ははぁ~しかと承りました~。」