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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第四章 国盗り物語
174/257

第174部 銀貨が通貨として使われている理由


 1249年3月17日 エストニア・ハープサル



*)銀貨が通過として使われている理由


 これはペールがドイツで入手した情報だが。銀マルク元の鉱山が判ったというのだった。だが難しいとも。


「公爵さま。ドイツが鋳造貨幣を有するのは、大量の銀が産出されるからなのですが、その第一位が南ドイツのアウクスブルクになります。」


「あぁ、そこか。フッガー家か。だがあそこは十五世紀から栄えだしたんだぜ。俺があの銀山を購入しておけば~、」

「鱈の肝臓ではいけません。今は細々と産出しているそうです。」

「タラ・レバではいけないのは俺も理解はしている、だがドイツには手が出せないな。ドイツに産まれなかった俺が悪いのだ。」



************************************************************


 どうしてドイツ銀マルクが有力な通貨になっているのか。それは単純に金よりも多くの地金が生産出来たこと。柔らかい金属なので加工しやすい。鉄のように錆びないなどの理由からだ。そうすると自国で銀がたくさん採掘できれば、なんぼでも銀貨を造る事ができる。ただではないが、ただで銀貨が造れるのならばもう最高だ。もっとも産業や商業にも他国と比較して、抜きんでていなくてはならないのは言うまでもない。金だけでは少なすぎるので銀なのだ。安易に金貨!とかを使うのは史実に反する。以後、訂正いたします。殆どが銀貨で決済される時代だった。(反省!)


 中世ヨーロッパ、今はドイツ銀マルクの時代。1550年を過ぎると経済は一変するが、ここでは皆さまへの宿題としようか。


 十六世紀からは大航海時代に入り状況は大きく波を打ち出す。

************************************************************


「はいそうですね、ドイツの銀山に手を出されましたら、ドイツ自体が敵となりますのでどうしようもありません。」


「それでは俺の計画が進まん。やはりここは東のツンデレに手を出すしか方法がないのだな。」

「ほほう、ソフィアさまはツンデレだとは思いませんが、公爵位に就かれましたら側室をご希望ですかな?」

「いいや一人で十分だからな。ペールがもったいぶる言い方の時は、有力な情報が口から出るのだよな。それでどのような?」


「はいエストニアから近い所にロシアの銀鉱山があります。ここでしたらレバルに居まして各地方への采配が出来まする。」


「ほほう、それはいい。最高だ!」

「はい、春のライ麦の収穫前ですので、この船のライ麦を武器にして……。」

「おうおう、乗り込むとするか。」


 ルイ・カーンはロシアをツンデレ”と揶揄したが、言い得ていると思う。褒めれば喜び協力するし、拒否すれば侵攻してくる。女子高のツンデレそのもの。苛めの番長、今も昔も。



 ルイ・カーンとペールの密談が終わるころにハープサルに到着した。ここではライ麦や肉、野菜を下ろしていく。代わりにコーパルと重たい石を積む予定だったが、今ではスレート瓦はここで作ることが可能になった。ここの工場の責任者のトーレスがルイ・カーンを出迎えて説明した。あのシュヴァイン・プ! が大いに役にたったらしい。


「そうか、シュヴァイン・プ! が働いてくれたのか。それは良かった。もっとも金貨の鋳造は棚上げ状態だったからな丁度よかったよ。」


「それと公爵さまには耳よりな情報がございます。お父さまが公爵さまにと新居を建設されました。どうぞご自由にお使いください。」

「え””! あのケチのジジイが、俺に屋敷をくれるのだと?!!」

「はい、村に一軒のスレート葺きの家がございます。」

「ほほう、あの妖怪、もうスレートをモノにしたというのか。そりゃぁ楽しみだ。直ぐに判るのだな。」

「はい、一望の元に!!」


 意味深な言葉で締めきったトーレス。公爵はこのトーレスという名前がいい加減だと気づく。『はは、なるほど!』と右の拳で左の手のひらを叩くペール。



 船尾ではボブ二号の指示の元に二人の男が働いている。ここは教育という名目で二人にやらせる作業らしい。ボブ二号特製のクレーンが稼働中なのだ。


「お~いボブ船長。どうだい、息子と一緒に働くのはよう。」

「あ~最高だぜ。これで酒が一緒に飲めればな!」

「お前の息子のための荷下ろしだ、励めよ。」

「おう、さ!」

(船長の息子が自立したら俺はクビになるのか!)と考えるボブ二号。


「今年も謝肉祭を逃してしまったな。肉も無かったんだ、なら謝肉祭とか行う必要はないだろうさ。」

「相も変らぬ屁理屈がよくも次々と出てくるものですな。感心いたします。」


「ペール。その謝肉祭なのだが、いつなのかはやはりHPには書いていないのが大多数だものな。」

「はい、年により変わるのですが、日本人にとっては所詮、他国のお祭りですので気にもならないのでしょう。」

「いいや違うと思うぞ。小さい所ばかり気にしてHPを書き上げるのだから、それも他人のHPを見て書いているからさ。何月何日から? まで。とか書いてないから、右に習えか倣え、だな。」

「それで、今年は?」

「明日からさ! オレグ歴で決まるのよ。お触れを出しておくか。」

「はい公爵さま。実は…二月二十八日で終わっておりますが……。」




 プリムラ村にペールと黒猫を案内した。今では綺麗な街並みへと変わっている。


「公爵さま、これは素晴らしい、とても綺麗な街並みですな。」

「(村と言え!)だろう? でも横一列の家しかなくてよ、裏がないんだ。」

「いえいえ、ただの草地にこれだけの家や工場こうばを造られたのですから、それは称賛に値いたします。」


「まぁな!」


「ルイ・カーン公爵さま。お久しぶりでございます。」

「おう、シュヴァインじゃないか。随分と俺のオヤジが世話になったようでとても助かったよ。仕事だが、もう暫く瓦の製造に携わってくれないか。銀貨の鋳型を完成させるまでだ。三日もあれば完成するだろう。」


「あ、はい。承知いたしました。それで私はご褒美を要求したいのですが、その後ろに隠されたモノに興味が出まして、」

「おうこれか。なかなか元気が良くてな、船では退屈していたんだよ。少し鍛え直してはくれないだろうか。」


「公爵さま、猫は水を嫌いますので退屈していた訳ではありません。」

「な~んだ、ただ怖かっただけか、か~っかっかか!!」

「ベー、公爵さまの意地悪!」x2


「さ、貴女たちを鍛え直してあげますわ! 来なさい、死の谷へ!」

「し、死ぬ! この人、私の愛の吸着が効かない!! そんな~。」


 ベギーの魔力吸収が出来ないらしい。




*)ハープルサル物資貯蔵計画


 プリムラ村のルイ・カーンの屋敷が見えてきた。家の鑑賞の為に歩を緩める。


「ペール。これは凄いぞ、今まで見た事もない瓦葺きの庶民の家だぜ!」

「公爵さま。また、お戯れな事を申されます。しかし確かにアシ葺きの家とは雲泥の差がございますな。私にも一つお願いします。」


「ペール、なにを言うのだ、このような見窄みすぼらしい家は絶対に与えない。お前に相応しい城を与えてやる。それまで我慢いたせ。」

「まぁルイ・カーン公爵さま。先だってはご冗談だとばかりに考えておりましたが本当でございますか。」


「この俺がウソを言ったことがあるか~?」

「はい、未達成のウソが多数ですが、未達成はウソには数える事は出来ません。」

「これはこれは手厳しいのう。ま、見ておれ。俺はお前も連れてのし上がってやる。」

「私も??」

「あぁ、まだ俺の息子の二人がデンマークのアンダーグラウンドで活躍している。この他にもまだ一人は居るからな。これで貴族候補が四人になる。どうだ、エストニアの貴族が四人では少ないか。」


「四つの領地に統合されましたら、機能は十分に働きましょう。」

「いや、大きい領地を持つ貴族から落としていく。雑魚は残して俺に対するゲップの憂さ晴らしをさせないといけない。」

「あぁなるほど、ガス抜き”ですな。……ごもっともでございます。領地を追い出してゲリラ作戦とか頂けません。小さい貴族に多数の人員を送り込んで、その穀潰ごくつぶしで貴族を弱らせるのですね。」

「そればかりではないが、穀潰ごくつぶしはあまり有効ではない。本当の狙いは烏合之衆うごのしゅうにしての、機能不全を狙う。」


「公爵さま~!」

「よせ気持ちが悪い。で、着いたぜ。前はともかく奥行きがありそうだ。横にはゲゲゲ……パブか!」


 丘を登り詰めた処に建つルイ・カーンの屋敷。その先は広大に広がるバルト海。その先にはフィンランドの大陸が見える。ルイ・カーンの屋敷先に在るパブ。此処はその雄大な景色が見える一等地だった。


「トーレスが言う一望の元に!! とはこの事だったのか。」


 パブの建物は絶景が良く見えるように向きを決めて、広く窓を解放していた。


「公爵さま、これって!」

「ペールよ、これ以上の事は言わないでおこうか!」

「はい。」


 なんのことはない。数本の柱が在って壁が無い、ただそれだけだった。大きい窓を造る技術が無かった。『ガラスは無いもんな~!』


「ここに庇を取り付けて、庭は整地してテーブルと椅子を置くとするか。」

「私、毎日食事に参ります。」

「いや来なくていい。お前が責任者になれ! なに号令を掛けるだけでいいさ。その他は俺との事後の打ち合わせがたくさん有るのだから。」

「はい、号令だけでよろしいのでしたら喜んで。」

「何で喜ぶつもりでいるのだ。もしや三食がタダだと考えたな。ここは全部有料にするからペールも金を払え。」

「公爵さまも、でしょうか?」


「あぁ勿論だとも。ここは公共のパブに決めた。俺が独占したのでは申し訳がない。プリムラ村で役員とメイドを決めて収益を独立させよう。」

「おお、それは素晴らしいお考えでございます。とすれば、私には!」


「お前は、無休で無給だ。」

「ム・キュ~!!」

「さっそく今晩から使おうではないか。理事長、頼んだぜ!」


 パブ・リムラと名づけられたパブ。安直なネーミング。お触れも出た。


『今晩から復活祭を行う。向こう七日間を休みとする!』


 この張り出しを見てプリムラの村中が騒ぎ出すのだった。女以外なのだが。


『急募! パブ・リムラのメイドを募集する。応、相談。』


「ペール。お前の初仕事だ、理事長、頑張れ!」

「そんな、ご無体な~!」


 ペールは村の女たちの面接を行いメイド五人と男一人を採用した。


「ほほうペールめ、先を見据えた人員を決めたな!」


 「ルイ・カーンさま~この調子では先に進みませ~ん。」とペールの声がバルト海へ向けて叫ばれた。この事が元になり海に小船を浮かばせて、そこまではっきりと大声が届いた者に賞金を出すという、大声大会が毎年の行事となった。謝肉祭の名物になり、エストニアでも有名になった……ってはいない。


 工場こうばは急いで閉められて、住民たちは家でお祭りの準備を始めた。しょせん何もない村だから、身を清めて一番のお気に入りの着物を着るくらいだろうと推測される。


『ルイ・カーン公爵さま。ここは運び込んだ食糧を!』と進言するペールに二つ返事で了承している。


「オレグ、ここからフィンランドが見えるってウソよね。目と鼻の先がどうして異国なのよ。あれはホルムシ島だよ?」

「すまない、読者へのヒップサービスのつもりだったのだが。許せ!」

「ええ?? 私のお尻がサービスなのかしら!」

「ソフィア、可愛い。」・…|…・(リップサービスね!)

「うんまぁ、」・・・・「ね!」


 リリーの多大な犠牲の上に立った今宵の宴会。幾つものファイヤーが消える事がなかった。ハープサルの住民も多数が参加していた。昼も夜も踊り明かして酒を飲むのだった。


「なぁペール。まだ着いていないようだが、明日には着くよな。」

「はい着くはずでございます。公爵さまが教会より購入されました、あれが!」




 1249年3月19日 エストニア・ハープサル



 さぁルイ・カーン。話を逸らす事無く進めるぞ!

 

 予定よりも一日遅れてレバルよりの船団が着いた。


「公爵さま、船団が着きました、三艘ですが。」

「おお三艘も来たのか。嬉しいぞ。これからお前の御殿を建設する。」

「え”ええ、私の城ですか!」

「ウソぴょん。ここに俺専用の配送センターを建設する。拠点のレバルが一番良いのだが、この政情が定まらない不安定な時代だからな。俺に騎馬ナス?? 牙なす、だ。その牙なす海軍は蹴散らす事はできそうだが陸軍には対抗する手段もない。だからさ!」


「はて、意味が不明でございますが?」

「そうだな、レバルに作った拠点へ陸から侵攻されたら、いくら俺でも直ぐに白旗を上げざるを得ないよな。そこは理解できるだろう。」

「はい、地方貴族が集団で攻めてきましたら私はケツを捲ります。」

「俺だってそうだ。だがこのハープサルの地に侵攻するにはどうしたらいい。」


「はい、船団を組んで海から侵攻しま、あ、……ですね。ここには絶大な威力を保持する軍艦がございますれば、攻められても敵は全部撃沈ですね!」


「そうさ、この地に軍艦を配置し俺の戦略物資を守らせる。最高だぜ!」

「はい、スパイも簡単に入れない陸の孤島。最高の戦略です。」

「そうさ、だからこのハープサルを軍事要塞にまで造り上げるのさ。」


「う~ん、ルイ・カーンさま~!」

「来るな、気持ち悪い。」

「おう息子、来たぜ。なのに『来るな、気持ち悪い。』はないだろう。」

「あ、オヤジ。いつも急な仕事で申し訳ないな。」

「なに、いつもだろうが。それで?」

「こちらは俺の執事だが、来年には貴族になっているから言葉に気をつけろよ。ペールだ。よろしく頼む。」

「ははぁ~お貴族さま!」

「これは俺の妖怪ジジィだ。よろしくな。」

「はぁ……妖怪”ですか。」


「息子。それで俺はどれ位の大きさの倉庫を建てたらいいのだ。また俺の孫の手伝いなのか。」

「リリーに頼んだが早いだろう。ジジィにはパブの壁を造って貰いたいね。」

 

 と自宅前での立ち話にルイ・カーンはパブを指さした。


「あれのどこが気に入らないんだ。だったら返せ。お前には遣らないから。あれは俺が考えて創り上げた最高傑作だぜ?」

「オヤジ、ありがたく頂くさ! それとここに見張り台は造れるか、高い搭で下の村や遠くの海を監視できる丈夫な搭を、さ!」

「おう任せろ。それで注文もじの読めない紙は有るのか?」

「いや無いよ。造りながら考えるよ。必要なのは鐘だな。」

「了解した。他には、」


「女たち専用の長屋が在れば嬉しいよ。」

「了解した。ここは家族にさせた方がいいのではないか?」

「いや、俺は要らん。」

「お前じゃなくて村の男どもにだよ。その方が逃げられなくて済むだろう。」

「オヤジ、えげつないぞ。」

「そういうお前と同じだろうが、あ、あ・あん?」

「いや違わない。俺は一千人からそうさせた、と思っている。」


「が~っはっは~、それでこそ俺の息子だ、が~っはっは~……。」

(ばかやろうオヤジが何を言うか!)



 リリーを呼んで打ち合わせをするというルイ・カーンを押し止めたのはペールだった。


「公爵さま、今遠方から着かれたお父さまではありませんか、それに積荷も傷んでふて腐れますぞ。いくら私ででも十人は多すぎてなだめる事は出来ません。」

「そうなのか~?」

「息子よ十三人になっているが、この俺でも嫌がる娘たちを積み込むのにはそれは苦労したぞ。運賃は二十人分を頂く。」

「それは難儀させて申し訳ない。倉庫で十分に働ける女だろうな。」


「あれはコンパニオンだ無理であろう。お前、倉庫で使うつもりだったのか?」

「そうだが。どうせ余っているんだしっかりと雇用しないとな。」

「俺はてっきりハープサルへの貢物だと思っていたぜ。」

「んなの、やれるか! 勿体ない。」

「でも、もう遅いよ。村の男たちは目を輝かせているぜ、まるでオオカミだな。」

「お、おう、もう遅いのか……。」(オオカミは嫌いだ。)


 十三人からの女たちはプリムラ村の集会所に押し込んだ。建設ギルドの男たちはハープサルの村の集会所に押し込む。でかい倉庫は港の横に建設するのだから地の利が優先される。オレグのトチェフ村から運んだ食糧はハープサルへ半分を売っていたから、残りの半分がどんどんと食いつぶされていくのだった。


「おいおい、クジラの在庫は無かったのか!」



 ルイ・カーンはロシアへの視察団を決定した。人員は、はて誰がいいのか決めなくてならない。その前に、ここに居る人員は誰が居るのか。そこからだ。


 ボブ船長と息子。ボブ二世と妻。キルケーとシビルと魔女の六人。黒猫姉妹のベギーとシン・ティ。ゾフィと三精霊。ソフィアとリリー。オレグとペール。これらがクルーだったか。


「いいえ私たちをお忘れです」とはソワレとエレナである。計=二十四人か。


 プリムラ村からはシュヴァイン、プ! が居る。これらを組み合わせての人員。


 ペールがリーダに副にソフィアを充てる。戦闘員はキルケーとシビルと魔女の六人。それにシュヴァインをカシラにした隠密のベギーとシン・ティ。上空で偵察が出来るエレナ。ソワレはまとめ役としての配置に就かせる。ま~損得会計のお局様か! 


「船は二艘でだ、みんな、しっかりと頼んだぞ。」「おー!」


 積荷のライ麦はきっちりと二艘分がリリーの境界より吐き出された。


「お兄さま、吐き出すとは言葉が悪~ございます。」

「ならどう表現しようか、取り出された、か?」

「はい、それで!」

  


 プリムラ村に建つ見張りの搭が伸びるにつれ、ルイ・カーンは毎日上っては周りを見聞していた。ようやくハープサル後方の山向こうを見ることが出来たのだ。


「お~すごい、凄いぞ。もうあんなにもライ麦の畑が広がり出している。」


 ルイ・カーンはその広大な土地が見られてほくそ笑んでいる。ライ麦の畑はまだ少ないが、その延長・伸びしろは無限のように感じた。…その感想は?


「俺がここの領主に成れたらな~!」


 ルイ・カーンは塔の高さをあと三mを追加させた。ここから眺めると女の尻を追う男の姿も見て取れた。


「いかんいかん出刃が目になっている。正しくは出歯亀だが銭湯も造ってやらないといけないな。……いやいや、ここは防塞の最重要な建物だ。出歯亀であってどうする。」


「オヤジ、出歯亀が出来る銭湯も造れるか!」

「もち、百点満点の最高傑作を造りますぜ! どこに建てますか。」

「岩山の麓になる。あそこには少しだが湧水が出るようだ。隣にはエビの養殖池が在るからいい見世物が出来るさ!」

「お前、なぁ~!」


 銭湯は崖と養殖池の間に建設される予定だ。『風呂は遠い方が趣が出ていい』に決まっている。石鹸もカサカサになる必要もあるし、先に出た者が冷える必要もあるのだから。


「そうか、ならば銭湯と村の間には……。」

「息子よ、赤提灯を建てろ、と言うでないぞ。」



 リリーの台地の魔法でどんどんと大きく膨らんでいく倉庫。土地が広いので平屋の造りになっている。倉庫の床にはなんと、瓦がビシッと敷かれていた。『オヤジ、やる~!』と感嘆する息子には非情の涙の雨が降る。


「どうだい、凄いのが出来ただろう。それにあのクレーンは凄いよな。俺の仕事場にも造って欲しいよ。」

「やだよ。自分で作れば、チッこいのを!」


 ルイ・カーンは四日から五日おきに入港するギルドの船を見て寒気を感じるようになった。もうすぐ五月になる。そう春のライ麦が収穫される時になってくるのだ。ペールと共にライ麦満載の船をロシアに送ったが、そろそろ結果と共にソフィアやシビルたちも帰ってくるころだろう。


「息子よ、一度〆るか!」

「何を!」

「お・か・い・け・い。」

「今日は寒いな~、ロシアから寒風が吹いてきそうだぜ。」

「俺が完封なまでに、いじめてやろうか。倉庫と銭湯、高い搭の高い請求書。船団の費用も有ったな。それに女のめし代……。これで……どうだ!」


 オレグ、卒倒、してしまう。


「息子め! また寒いダジャレだな。……『オレグ、そっとして、』おけ、か? 払う金が無いとは言わせないぞ。」


 超特大の倉庫が出来た。ハープサルのフロント事業が始まる。村が街に変わった瞬間だった。港に家が建つ。店が建つ。宿屋やパブも建ちだしていく……。


 オレグの野望が快感に変わっていく。



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