第172部 ソフィアとリリーのダワ・駄話
「オレグ~お待たせ~来たわよ~。」
「ぎゃにゃ~!!」x2
「ギルゲーだにゃ。」x2
黒猫の姉妹は今度はキルケーを見て驚いて逃げ出した。黒猫姉妹はキルケーが寝込んでいる時に相当な悪事を働いたのだろと予想が出来る。キルケーは戻って十日は過ぎているにも拘わらず寝込んだままだと聞いている。ならばキルケーはすでに動ける以上に回復していなくてはならない。だったら答えは姉妹による、キルケーへの精気吸収作戦が続けられていたのだろうと判断できる。
1249年2月14日 エストニア・レバル
*)仲間の紹介
「これでは明日に持ち越す料理も無くなってしまいます。ここは公爵さまのご命令でなんとかなりませんか。」
「無理だな。第一にお前の部下がキルケーにちょっかいを出したからだろうが。だから親が面倒見るべきだろうが。」
「むふふふ……いいこと聞きました。今は公爵さまが親分でございます。」
「え”! そうなのか。いつからそうなった。」
キルケーは不味い男の精気を吸収して、今では口直しにパブの残飯処理に取り掛かっている。ペールは客が残した料理を集めて再度調理して出すのだろう。そういう言い方なのだから保健所も黙ってはおるまい。
「公爵さま、そろそろご家族をご紹介下さい。一応、お噂は聞き及んではおりますが、何分流れる情報は無いにも等しいものです。」
「ソフィア、お前、噂になるような事をしていたのか?」
「バコ~ン、それはオレグでしょうが。私は…そう、知りません。」
「俺の女房のソフィアだ。こちらはソフィアの妹みたいなリリーだ。どうだ、そっくりで驚いただろう。」
「はい、性格もぴったりでございます。」
オレグは姉妹に黒猫を紹介するのだが。
「ソフィア、リリー。ペールの部下のシン・ティと姉のベギーだ。」
「シンティは、シン・ティ(shee・tink)。人間の耳では判別できない高い声、超音波で唄う事ができる。キルケーが黒猫に変えたことで妖精としての資質に芽生えた。シンは魔女。ティは高い音を奏でると言う意味だ。」
「姉は白猫のはずだが、Veggey、ベギーという。これがまた誰にでも憑りつく事ができるし、相手からは死ぬほど魔力を吸ってしまう、たちの悪いしおれた屑野菜の魔女だ。」
「イヤです、もっと可愛らしく紹介して頂きたいものですわ。」
姉妹はやや、いやかなり不満らしい顔をしている。
「こちらはペール・ギュントと言うのだが、俺がルイ・カーンと名乗ってお前ら二人の救出大作戦で、執事を担当してもらっていたのだ。」
「はい、その節はお助けを頂きましてありがとうございました。感謝しかございませんが、今度は主人のお手伝いをよろしくお願いします。」
とソフィアは恭しくお礼を述べる。
「こそばゆいです。ルイ・カーンさまは私たちのご主人さまになられますので、この先もご協力いたします。」
「まぁ嬉しいです。私の妹は物凄い魔法を使いますので驚かないで下さい。」
「おうおう、それはとても楽しみです。お手並みを拝見させて頂きます。」
「まぁ、そんな!」
リリーを褒める姉に照れる妹。
「キルケーはいいな。」
と言うオレグに対してキルケーは、
「もう、私をのけ者にされないで下さい。」
*)キルケーの顛末
「俺の計画を話す前に聞きたいのだよね、長~い口上をね、キルケー。」
「イヤですわ。恥ずかしい。」
「そうです、はくしゃ、公爵さま。干からびていた所を拾われたとか、口が滑っても言えるはずがありませんでしょう。」
とベギーが補足説明を入れた。
「この女、この前の私の乳房を返しなさいよ、まだ少し小さいままなのだから。」
「それって、初めから型崩れしていただけでしょうが。違いますか?」
「な、なに~!! お前なんか三毛豚に変えたろうかぁ~??」
「お前ら下に行け!」
ベギーがキルケーの乳房に憑りついた事を言っている。命からがら逃げてきた先に大きくて美味しそうな丸いものが在ったから、飛びついて吸ったのは自己防衛だと言うのだった。
「オレグ、キルケーまで下に追いやってどうするのです。ここはキルケーの武勇伝を聞きましょうよ。私、寝ないで聞きたいです!」
「私はイヤです。憑りついて返り討ちに遭って、海に落とされたとは絶対に言えません。」
「あいつ、そんなに強いのか。キルケー、それ自分で言ってどうする?」
「はい、そこの猫とドラゴンの二匹でしたら、あるいは勝てるかと思います。それとご主人さまの魔力を二人に贈れば、ですが。」
「総当たり戦でようやく倒せるのかもしれない。先祖代々の吸血鬼の血筋だろうしな。」
「公爵さま、どうしても対峙するお積りなのでしょうか。ペールとしましてはできれば避けて頂きのですが……。」
「それは無理だな。行く先々で邪魔しに来るだろうさ。俺の血が欲しいのさ。」
オレグの言葉に反論するキルケー、
「ご主人さま、ドラキュンは男を好みません。ソフィアさまの血が欲しいのでございます。この私の綺麗な血液をそれも無造作にぺ、ぺ、ぺ、と、三回も吐き捨てたのでございますよ。もう頭に来ちゃったわ!」
「それ! 食いつく方が異常だと思うがな。キルケーが男ばかりを齧るから嫌われたのだろうさ。キルケーは見境なしの魔女だものな。」
「いいえ、えり好みはいたします。そこの女は絶対に要りませんがね!」
「ドギャニャ~!」x2
「バコ~ン。」x2
「それでドラちゃんはどこに飛んでいったんだい。ノルェーの森とか言うんじゃないぞ。序にヘルシンキも。」
「まさに、そのヘルシンキでございます。ご主人さまは何かしがらみでもおありになられますか?」
「大有りだぜ。ヘルシンキを造ったのが未来のグスタフⅠ世、スウェーデン王なのだよね。この俺にライバル意識むき出しで挑戦してくるのだ。俺がレバルを発展させるので焼きもちやいてさ、ま、可愛いとこあるかもな。1550年が創立らしい、俺はあと三百年は生きているらしい。」
「またまたバカな事を申される。では今現在はヘルシンキが無いのですね?」
「そうなるわな。だったら今のうちに穴ぼこだらけの土地にして水も溜めておけば開発も出来まい。ま、俺の二番煎じだからただの田舎の街にしか発展はしないだろう。」(と勝手に書きましたが、それが事実です)
「公爵さま、どうしても退治されるお積りなのでしょうか。」
「同じことを聞かないでくれ。俺に仇をなす存在になるのは間違いない。きっとあいつは六百年後から俺を潰しに来た、妖怪さ!」
話がドラキュラ伯爵に振れたのでキルケーは安心した。ドラキュラ伯爵からどうやって逃れたのか答えたくもないからだ。だが許してもらってはいない。
オレグは名を正式にルイ・カーン公爵と決めた。
*)ルイ・カーンの成り上がり
オレグこと、ルイ・カーンは名前を変えても考え方は変わらない、いつものように安近短なのだ。なんでもかんでもリリーと言っては、りリーの魔法に頼っている不埒な輩、変わりようがない。
「公爵さま。明日から活動開始されますか?」
「あぁそうだとも。頼りがいのある家臣が集まった。だから家族を呼び集めたのだよ。まだポーランドにも臣下とも言えないが、部下も派遣している。その家臣らを迎えにいく。」
「え~やだ~!」
「いいのだぞリリー。断るのならば箱を有効利用させて頂くよ。」
「もうお兄さまのエッチ!」
「リリー、それどういう意味よ教えなさい。てんこもりにして返してやるから。それも倍返しね!」
「いいえ、なんでもありません。」
「そう答えたくないのね。だったらオレグの身体に訊くとしましょうか。」
「え~やだ~! ソフィアのエッチ!」
「……。」
オレグに噛みつく気力がオレグのふざけた言葉で一瞬で萎えたソフィア。ただオレグは前の箱に手を入れた時にリリーの柔らかい胸を掴んだだけ~。
「ルイ・カーン公爵さま。お真面目に!!!」
「す、すまん。悪ふざけが過ぎた。」
「まだ続けられるのでしたら、私は……。」
「ペール、参加したいのね!」
「ソ~フィアさま!」
「はい黙ります。」
「ペールを怒らせてしまったようだ、本題に入ろう。明日はソフィアとリリーの二人でグダニスクに飛んで貰いたい。俺らはペールをギャフンと言わせたいからリリーの魔法の箱で行く。」
「そうね、その方が私の魔力も少なくて済みますから是非に。」
「グダニスクは遠いものな~。それにシン・ティを加えたら途中の海に出て落ちるという事もありえそうだし、キルケーの二の舞はごめんだ。なぁキルケー。」
「え”、あ、は、はい。その通りです。外は冷たい海しかありませんでしたから必死でした。」
「海に落ちてよく助かったものだが、どうしてだ?」
「そこの子猫に拾って貰いましたから助かりました。」
「そうよね、私たちは命の恩猫ですよね~!」
「それでキルケーはドラキュラ伯爵からどうやって逃れたのかな。そこんとこ詳しく。」
「鱈の干物に変えましたの。そうしましたら私の血を吸って元に戻ってたくさんぶたれました。ただそれだけです。」
「そうか、それは難儀しただろう。」
「でもでも公爵さま。私たちが網タイツ姿の干物を助けたのが10日前で。ねぇ公爵さま、ふくよかなお姉さまが攫われたのはいつの事でしょう!」
「ギク!!」
「そうだな、先月、いや先々月の二十日位だ……あ”!!」
「でしょうでしょう。どこか可笑しいところが有りそうです、よぉ!」
「ギク! ギク!!」
「そう言われたらそうなるな~、二か月もどうしていたのかな~。」
「ルイ・カーン公爵さま。明日のご予定を!」
「キルケーすまなかった。助けにも行かずに勝手にお前は無事に帰って来ると判断していたんだ。」
「公爵! さま。」
「明日は全員でグダニスクは飛んで銀貨を購入する。もちろん銀地金が在れば探して買いたいのだが無理だろうな。」
「はい。公爵さま、銀山を購入する方が安全に事は済みます。なにせドイツ騎士団が黙っておりません。もし不穏な事が騎士団に漏れましたらこの先それも一生危険が付いてまいります。」
「どちらにしても地金と鉱山は押える事は出来ない。地道に銀貨だな。あとはハープサルに寄ってドイツ銀マルクの鋳型とデンマーク金貨の鋳型を至急作らせてからになるな。」
「公爵さま、東のロシアの台地にも多数の鉱山が在ります。その内の一つでも銀山があるようでしたらどうでしょうか。たぶんでございますが、ロシアは台地は広いのですが、人口、つまり農民がとても不足しております。」
「あの国は、あの国から侵攻されていたから、農民も兵士も斃死して人がとても少なくなっているのだよ。」
「ルイ・カーン、いやジンギス・スカーンの侵攻ですね。」
「あぁ、あれで金や銀の鉱山が在っても工夫が居ない。たとえ他国から攫って来ても今度は食わせるパンが無い。おまけに金銀は掘れても西側に輸出ができるパイプも無いのだから、まさに三ない、なのだよ、ペール君。」
「そこで公爵さまが援助、開発、買取をして至福の至り…………。」
「ほひほう……。」
「公爵さま、もうすでに垂涎になられましたね?」
「あ、すまん。ついつい俺もゆだれちゃんになってしまった。ペール、出来るか!」
「はい仰せのままに。」
「それで、ライ麦は船に満載しなくてはならないな。」
「もちろんでございます。ライ麦とマルクの鋳型を持って行きまして、造らせた方がより安全かと!」
「東は西の穀倉が欲しいし、東は貧しくて西に送る産物も無い。山から掘るしか脳みそはないのだから、至急鉱山の調査に行くか。」
「御意!」
*)決死のダイブ
「キャッホー! お先にね~。」
と最初にシン・ティが箱に飛び込んだ。好奇心旺盛なのは性格か、性質か! それとも性なのか。いかにも子猫~という感じで無造作に飛び込んで行った。向こうにはソフィアとリリーが待って居る。箱のゲートから出た所は、それこそ先に飛んだ二人に委ねられている。暖炉の中ともしれないのに!
「いや、いやよ出口が地獄だったらどうすんのよ~! 犬の檻の中とか勘弁よね~あれ~れ!」
さぁな。出口が牛の腹だったら面白いよな? とはルイ・カーン。
「ギャァー、……あれ~!!!」
と二番手は姉のベギーだった。妹とは違い長い牢獄の経験があるらしい? ものの言い方で箱に入っていた。
「おうおう死ぬんじゃないぞ。次はむふふふ、ペールだわな。」
「いやだ、どうして俺がこんな小さな箱に入らなくてはならないのだ。殺す気か! それとも、それとも~……。」
「なぁペール。言葉が出ないよな、人知も及ばないよな。」
「公爵さま、平気なのですか。このような悍ましい夢のような事が現実では有りえません。私だけで船でまいります。」
「しょうがない、キルケー頼めるか!」
「はい公爵さま。頭と胴体の二つに分けるのですね?」
「そうするしかあるまい。なぁに途中で胴体と頭が繋がる……。」
「そんな事はありえません。死にます!」
「だから先に殺してやるよ。」
「ひ・・ひぇ~!!!!!」
「なぁキルケー脅し過ぎたのかな~、ペールのやつ失神してしまったぞ。」
「いいではありませんか、静かに葬れます。」
「では俺から先に行く。キルケーはどうする。」
「私は残りたいです。まだまだ産後の肥育が足りませんもの。」
「ゲゲゲ……。お前、伯爵の子を産んだのか!」
「秘密です。」
キルケーはオデュッセウスを自分とともに冥界へ送り、ここで一年の時を過ごした。そうして産まれたのが息子テーレゴノスであるが。
神話における異世界のおとぎ話。今の地中海が陸地であつた時代を生き抜いた人々を祀った話であろうか。海面上昇に伴いスペインのジブラルタル海峡から海水が流れ込んで、今の地中海が出来た。難を逃れた人々は東へ向かい、メソポタミア文明を一から作りあげたのかも知れない。
夢は大きく世界を羽ばたく。地中海こそが、かのムー大陸の発祥の地??? モーセも言いました。もう聞きました。……バカ申せ十戒!!!
「オレグ、あんたバカなの?」
「キルケー息子は可愛いのか?」
「もちろんです。いつもポッケに入れて持ち運んでいます。」
「俺、先に行くからペールを頼んだぞ。」
「はいご主人さま。」
何も存在しない魔の空間。暗くて冷たい。
「オレグ急速冷凍!! フリーズドライ!!」
リリーの境界から全魔力を抜かれたルイ・カーンは、干乾びてグダニスクに着いたのだった。パイソンの串焼きやリリーとは違い体重は五kまでの乾物に!
「フリーズドライはお節料理の技術として発達したのよね。時間かけずにお湯を掛けると、あ~ら不思議、お節料理になりました~!!」
「お姉さま、さ、早くお姉さまの愛情を注いでくださいな。」
「いやよ、それって私が日干しになるようなものなのよね。却下!!」
「もう、お姉さ魔~!」……「仕方ない、ここは***の血を注いでおきます。」
続いてペールが境界を通過してきた。魔力のない物は普通に届くらしい。
「リリー知らなかったのですか? 魔力持ちはすべて干乾びる、と!」
「はい知りませんです。第一に村の帳簿とお肉を送るのが目的でしたから。あとは野となれ山となれ地中海となれ! です。賞味期限はありませんわ!」
「これ、この三人はどうするのよ。」
「お姉さまは、どうされたいの、ですか?」
「闇に葬ります!」
「んまぁ!!」
*)トチェフ村のダワ・駄話
グダニスクに飛ぶのはいいがオレグの戦艦の居場所が判らないので、着地点はデーヴィッドとエルザのパブの二階、宿屋だった。
「エルザさん、これお願いできるかしら!」
「これ??……?? どうしたものかね~。猫にはマタタビを煎じたお湯をかければいいだろうさ。しかし公爵さまは~……、」
「ポン!」
「金貨をお湯で煎じて、そうして長く~浸けるのが一番さ!」
「ポン!!」「ポン!!!」と三人は手を打った。
「あ、な~るほど。さすが年の功!」
「今日から何拍するのかぇ?」
「未定です。……もう飲んでいてもいいですか?」
「随分と薄情だね!」
「はい!」x2
元気に答える姉妹だった。
「エルザさん、お兄さまの船はまだトチェフの港ですか?」
「あ~ぁ、なんだって? 聞こえないよ。」
「エルザさん、なにをしているのですか?」
「お土産の乾物をね、細切れにして煮物料理しようと思ってね、今、包丁を研いでいたのさ。味付けはどうしたいいかねぇ~!」
「ひ、ひ、ヒェ~!!」x2
オレグはエルザの手にかかるところだった。
「ソフィアさ~ん、リリーさ~ん。」
二階で伸びていたペールが目をさまして二人を探していた。そして大きな叫び声が響く。
「ぎょ、ギョェ~~~!!!」
「し、死体、死体が~!! ぎょ・ェ~~!!」
「あちゃ~、見られたね!」
「うん、見られたわ!」
「始末する?」
「そうしようか!」x2
エルザはパブを放置しデーヴィッドを迎えにいった。帰ってきた夫婦は恐ろしい剣幕でソフィアとリリーを追い出した。
「出て行け~~^!!!!」…と、
「グシュン!」
「寒いね。」
「今晩、どこ行こうか。」
「うん、家に帰ろう?」
「そうだね。」
「明日からはどうする?」
「そうね、オレグの倉庫の整理してすごそうか。」
「そうだね!」
「もう一つ、お館さまへのご機嫌取り!」
「やだな~。どの面下げて行くのよ。」
「もち、コーパルの面下げてね。」
「公爵さま~どこですか~、公爵さま~。」
ペールの声が途切れない。
という事でデーヴィッド夫妻のパブを追われたソフィアとリリー。家に帰るもお腹がグー”だもんね。
「オレグのパブで食い逃げしようか。」
「うん賛成。でもお姉さま、どうして?」
「いいじゃない、お芝居よ! リリーのハッタリはいつも最高なのよね!」
「お芝居??……ならば、お館さまのパブがいいわよ。ね? そうしない?」
「お金が在りません館に突き出して下さい、コーパルでご容赦下さい……なのかしら? ここは姉が悪者になるのかしら!」
「はい、お姉さま正解です。コーパルで女狐をエサにして、大物マグロを一本釣りにするのよ。」
「リリー誰がマグロなのかしら。」
「もち、ラバー”よ!」
「誰の?? 私には居ませんわ。……リリーに居るのかしら?」
「私ではありません。お兄さまから聞いたような事を思い出したのよ。グラマリナさまはよくお忍びで、グダニスクの別荘に行かれるのだと、ね?」
「そうなんだ、ここはお忍びで”がポイントなのね。」
「私が境界に押し込んだコーパルで、その居ると思われるお館さまのラバーを釣り上げましょう?」
まぁ、なんという大胆な提案をするリリーなのだろうか。
「会話は二人だけですので、適当に解釈されるはずですからこの先は、駄弁りでなくて厳密に行きましょう!」
「私たちevoluti、なんだわ。」
「リリー、その言い方では少しも”進化した”とは言えません。このタイミングでどうしてイタリア語が出てくるのよ。」
「うん、ちょっと気になったから使っただけなのよ。気にされないで下さい。さぁ頭を使って進化しましょう!」
家族の家を出て歩き出したらそこはもうオレグのパブの前だった。
「おやあんたたち、帰って来たんだね。寄って行くのだろう?」
「あ、女将さんこんにちは。今日はお隣に無銭飲食に行くところなのよ。女将さんのノルマを減らすには忍びませんもの。」
「いいのよ簿外にするからさ。なに亭主の勘定が損するだけでさ。」
「はい次回にお願いします。今はこちらの姫様の感情に損を与えたいのです。」
「はぁ女狐の……感情に? 損を?? ねぇ!」
「はい、少し寝込ませるかもしれません、……うふふふ……。」
不気味な嗤いで会話を絞めるリリーだった。女将は(首まで絞めるのではないだろう?)とニアンスを受け取ったのだが。
「リリー今回もとても前置きが長かったわよ、どうしてシャッシャと先に進めないのかしらねぇ。少しもevoluti、てはいません。」
「はいすみません。いざ! お館さまのパブへ!」
と散々な無駄な前置きでパブに行きついた。
「いらっしゃい! あらあらどうしたのよ。何かの間違いなのかしら。」
「いいえ今日はたくさん食べたくて寄りました。」
「そう……かい? もう貸切にした方がいいかねぇ。」
「さ、お姉さま、食べますまよ~。無駄で美味しくないメス猫の魔力を吸ってしまいましたから、お口直しにここはアイスワインをたんまりと。」
「そうね。リリーも長距離移動で疲れたでしょうから、とりあえず生ビールは一杯だけで終わりましょうか。」
「では女将さん、ここは貸切にして下さい。序に女将さんのご家族を招待いたしますわ。」
「リリーさん、ここは同類ならばいいのだけれど共犯は嫌だよ。」
「はいはい分かっております。最初はとりあえず生で、次はアイスワインね。お料理は、板書きを全部二人分ね。それでも材料は余るだろうからさ、お弁当箱に詰めて下さい。」
「あいよ、直ぐに用意するからね。他に誰か呼んだらどうだい。」
「そうね、お館さまを呼んで頂きたいです。」
「ちょっと、それは最後のはずよ。リリーどうしたのよ。少し変よ、疲れたの?」
「そうでした。……女将さん、もう他に呼ぶ人はありません。」
女将は厨房に入ると大きな声でメイドと料理人へ指示を出している。
「ほらほらあんたたち、支度中で料理も進まないだろうが、なんでもいいからカエルの塩焼きから作って出すのよ!」
「はい女将さん。」
「グエ、ビゲ、ギュエ!」とウシガエルの悲鳴が聞こえてきた。
「リリー、私、以前に食べた事があってね、その夜はカエルの大群に襲われた夢を見たのよね。だからもう食べないからね。」
「いいわよ、だったら鳥の塩焼きならいいのよね。ちょっと厨房へ行ってくる。」
リリーは大きな声で言って頼めばよいものをわざわざ席を立って鳥の塩焼きを頼みにいった。直ぐにリリーは両手に持って戻ってきた。
「はいお姉さま。大声だしては、はしたないです。カエルでなくて鳥さんの塩焼きが出て参ります。」
「そう、それならばいいわ。」
そう言ってソフィアに説明した。リリーの両手にはとりあえず生が握らされていたのだった。
「はい乾杯しますわよ。」
「かんぱ~い!」
「はいよ***の塩焼きね、待たせたね!」
女将はとある塩焼きを山のように盛った小皿をテーブルに置いた。
「今日は随分と細いのですね。」
「ソフィアさま、ここ最近エサ不足で痩せちまったんだよ。でも柔らかくて美味しいよ、た~んと食べてね。」
「はい女将さん。これ美味しいです。」
その夜ソフィアは大量のカエルに、何度も何度も襲われる夢を見たという。翌朝のソフィアの顔には大きなクマが見てとれた。
出される料理を食べては次々とお代わりを要求していた。
「もうだめ、食べれない。」
「おやおや、もう打ち止めかい。まだ食材は残っているのだよ。もっと作るかい? それとも本当にお弁当を作るのかい。」
「はい、残りは予定通りにお弁当でお願いします。でも黒パンは要りません。」
「あいよ、全部木の箱に入れておくからね。」
リリーは次々に木の箱に入った料理を境界へ押し込んだ。その仕草が見ていて変だと思ったソフィアがリリーに質問した。
「ねぇリリー。その境界って、どこに通じているのかしら。」
「そうね、鳥やカエルは猫に、お肉はお兄さまへ、ですわ。これだけ大量のお料理を三人の境界へ押し込んだのですもの、今頃は目覚めているでしょうか。」
出ていないはずのカエルの名前がリリーの口から出たのだがソフィアは気にしなかった。抜けていたのか。
「まぁリリーったら変だと思ったわ。そろそろ両手を上げようか。これ以上のお酒を飲だら酔ってしまって口が回らなくなりましてよ。」
「はいお姉さま。今コーパルを出して女将と交渉しますね。」
「?? リリー、コーパルは三個でいいの?」
「あ、これね、女将さんへの心づけですよ。ま、買収ですわね。」
「んまぁ。リリーはいつ、このようなズルを覚えたのよ。」
「いいじゃありませんか。それよりも今回はグダマリナ様には負ける訳にはいきませんのです。気を引き締めて掛かりますわよ。」
「ピョン、ヒク!」
「ピョン、ピク・ピク。」
「リリー身体の筋肉がピクピクしてきました。どうしてかしら!」
「それ、ケロヨンを食べたからですわ。」
「ケロヨンってなんなのよ。変なものではないよね。」
「ただのプロテインよ、筋肉を作る基になるものなよ。」
「ふ~んそうなんだ。私、強くなるのね。」
「そうよお姉さま、時期にウサギが来ますから、狩ってしまいましょう!」
「オー!!」
領主の妻をウサギ呼ばわりとはいやはやなんとも。
以後、ソフィアの目じりとコメカミがピクピクするのだった。すぐに女狐ことグラマリナがやってきた。当然共は無い。むしろ亭主と愛娘は置いてきた方だろうか。どこまででも強かな女なのだろう。
「それで無線で連絡したのは、……リリーさんの魔法なのかしら?」
「リリー無線が使えるの?」
「はい、あくまででも無銭飲食の無銭ですけれども。」
「へ~すごいんだ!」
「お二人とも何を言っているのです。このパブの料理をぜ~んぶ食らったというではありませんか。この代金は、そう……女将、いくらになりますか!」
「はいお館さま、……金貨一枚と銀貨十五枚でしょうか。」
「それは少ないですわ。いつも金貨五枚分の売り上げがあるはずなのよ。どうしてかしら?…なにが、でしょうか、ですか。ウソはいけません。」
「はい今日は特別な仕入れは起こしませんでしたし、食材の殆どは沼地の、」
「わ~ダメ! それから先は言わないで頂戴。ね? 女将!」
そうして女将はグラマリナの耳にささやくのだった。
「あ、なるほど、そういうご注文でしたか分かりました。いいえ、ここは領主権限で金貨三枚へ増額いたします。」
「え”~そんな~。」x3
「あ、女将さん、ご馳走になりました。私たちは隣の迎賓館の檻に行きますので引き続きパブは開店されてください。」
「そうですか、ここでのお話は無理ですわね。」
「すぐに迎賓館の鍵を開けて下さい。そして私への夕食を運んで下さい。お二人には特別料理を頼みますよ。」
「はいお館さま。……では参りましょうか。」
女将は恐れながらも先頭に立ち、三人を案内する。そう、グラマリナの表情がとても恐ろしく見えていたからだ。グラマリナはきっとこの前のリリーとの遣り取りで負けて、後日に悔しく思えたからだろう。
*)女狐vs狼姉妹
「私、妖精です。狼ではありません。」
とリリーは小題目を見てふて腐れる。狼姉妹というのが気に入らない。
「そうね、でもリリーは私に化けているのですもの。同じですわ。」
「それこそ不当な言いがかりです。でもお姉さまの妹として振舞っていますのでここは大人しく狼と呼ばれても構いません。」
「そう、ありがとう。」
「もう、お二人の相談は終わりましたか。」
「はいグラマリナさま。この度は無銭飲食でご迷惑をおかけいたしました。このパブではの特別料理を食べたかったものですから、お許し下さい。それもこれも私たち姉妹を一文無しで追いやったオレグお兄さまが悪いのです。ここの代金はコーパル五個でお支払いいたします。」
そう言ってリリーは境界よりコーパルを六個取り出して、より綺麗な五個をグラマリナに差し出した。グラマリナはリリーの右手の動きに視線を落としていたのだが、今はリリーの顔を見ては一言も言わなかった。
「あ、すみません。六個です。」
それでもグラマリナはリリーの顔を覗き込んで一言も言わなかった。
「はい承知いたしました。まだ不足でございますね。銀貨十五枚分しかコーパルは出しておりません。」
今度はリリーがグラマリナの顔を覗き込んで、コーパルを選ぶようにして二個や三個と順次取り出した。ようやくグラマリナの顔にほんの少し笑みが浮かんだころになってリリーは勝負に出た。
ジャラ~ら~ん、とコーパルを五十個は取り出しただろうか。これにはさすがのソフィアも大きく目を見開いた。
「な、なにをするのよ。ピク! こんなにたくさんのコーパルを出して。全部、グラマリナさまに献上、ピク! する気なの? ピクピク!!」
驚いたソフィアは顔面がピクピクとしだした。
「まぁまぁお姉さま。そおお怒りになられないで下さいまし。お顔に皺が増えましてよ。これは私の独断ですがお姉さまはリリーの味方ですわよね?」
「そ、そうよね、……、」
ソフィアは今度、目の横をピクピクさせているし、コメカミにも大きく交差点のマークが浮かんでいた。右足は貧乏ゆすりが始まった。大きく口を開かないで次の言葉が出てきた。
「こんなにたくさんものコーパルをやる必要がありませんわ。くず石で…そう、いいえ、そうですわ、ここはもっと出しなさいリリー、姉の命令ですもう三十個を出しなさい。」
「んまぁお姉さま、正気ですか。少し気が動転していませんか?」
ソフィアは目もコメカミも筋肉まで激しくピクピクさせているのだった。これを見たグラマリナは急に恐怖を感じたのだ。
「はい、先の分だけででも十分過ぎます。それではこの後の追加料理の代金として頂いておきます。」
「いいえリリー。もう百個のコーパルを出しなさい。」
「はいお姉さま。これに。」
リリーはテーブルにじゃらこらとコーパルを出した。
「グラマリナさま、このじゃらこらのコーパルは、そのう……グダニスクにお隠しの、あの御方へ献上いたします。つきましてはそのう~……。」
グラマリナの表情が固まるのが見てとれる。ここでリリーは嘘八百で攻めだすのだった。
「グラマリナさまは、グダニスクに大きな別荘をお建てになられたとか、風のうわさで聞き及んでおります。そこには毎週通われていますね、それもマクシムとの打ち合わせとか、エルザに会いたいとか、トチェフ村の必需品の買出しとか、とかとか申されてですね。まだ六つですね、それから琥珀のお店には毎回毎回顔を出されておいでです。さほど高価な琥珀でもない物に大金を叩いて、嘘八百の残りの数字の七百九十枚もの金貨を出されたとか、……ですわ。」
「い、いえ、いいいえ、全部ウウソです。私は確かにグダニスクに小さな館を建てましたが、ここここは私の隠れ拠点でして。」
「ええ、そうでございましょう。ご主人のエリアスさまはご存知ありませんね? それに、かのお館にはどこかの殿方がお住まいだと~か~、ぁぁああああ! まだ言いたいのは山ほどございますが、それを言いましたらグラマリナさまはモグラの穴に引っ込んでしまわれそうですので、これくらいにいたしますがまだ言って欲しいですか?」
「い、いえ、十分です。リリーにはスパイの才能が有るようですね。それで私になんの御用でしょうか? こんな面倒な三文芝居を見せてまでも。」
「まぁグラマリナさまは慧眼でいらっしゃる。これらのコーパルは大きくて琥珀と比べて損色はありませんわ。」
「いいえ遜色ないのならばいいのです。ですが損色なのでしょう?」
「えぇまぁコーパルですもの。それはどこまでいっても、やはりコーパルには変わりありませんもの。」
コーパルに目がくらんで思考が錯誤するかと思っていたリリーだった。だが予想に反してグラマリナは言葉のあやには引っかからなかった。リリーは方向転換、真正面からぶつかることに決めた。
「単刀直入に申し上げます。これらのコーパルを全部、ドイツ銀マルクで買い取って頂きたいのです。あの方にはそれができますでしょう?」
グラマリナは少しの間考え込んで黙り込んだ。今日は後ろ手の指は動いていない動くのは、目の視線だった。上や下、リリーの顔や、ソフィアの顔は見ないでいた。恐ろしい形相で顔を引きつらせているからなのだが。
「えぇ分かりました。全部銀マルクで買い上げます。ですが琥珀の市場価格での、そう半分にもならないかも知れませんが、よろしいでしょうか?」
「はい、そこはグラマリナさまが隠される貴族の方と相談させて頂きます。」
「それはできません。いいえこの私が拒みますので、ここは私が代理で引き受けます。よろしいですね選択とか言わせません。」
ここにきての強気なグラマリナにはどうしても逆らうことはできない。
「はい、ごもっともでございます。他、金貨でドイツ銀マルクを買いたいのですが? ご協力をいただけませんでしょうか。」
「両替の手数料十%……一応市場の交換手数料ですわ。支払って頂きます……よろしいですね!」
オレグが金にものを言わせて買いあさるとか、コーパルを投げ売るとかよりもはるかに安全でオレグの仕業! とか知れ渡ることがない。やや高くつく方法なのだがリリーは了承した。
グラマリナはさらに態度が大きくなって声も大きいが、
「それで私への手数料は同じく10%ですわよ、理解していますか?」
それを聞いたソフィアの筋肉のピクピクが一瞬で止まっていた。
「ギャ……。鬼!」
「なんと言われましてもこの場はビジネスですわ。損色はリリー、貴女のようですわね。」
「それは強者の驕りですね。今日はゴチになります。これも接待のうちに入りますわよ。領収書は出ませんが、」
グラマリナには、そのリリーが言う驕りは、グラマリナにとってのほめ言葉になる。やや人とはかけ離れている性格。罵詈雑言の丁寧な言い方は存在しないが、やや人を馬鹿にした言い方くらいではグラマリナは動じないし怒らないのであった。
「あ~そろそろ、ポーランド国王に税金の支払いをしませんと~!」
グラマリナには別の意味でも無理難問が迫っていた。ここに来ての濡れ手に泡? の話が舞い込んだのだ。当然に飛びつくのは道理、今回の取引額は無制限だと言うリリー。ならば金貨一千枚を五千枚まで増やせれば取らぬ狐の皮算用。グラマリナの皮算用になってしまった。その十%は多大な魅力のある金額だった。
「金貨五百枚、国に納税しましてもまだ手元には残ります!」
あぁ~グラマリナがドイツ国王から殺される事態に発展しそうだ~。
「グラマリナさまの情報は正しかったですわ。エレナありがとう。」
*)グダニスクのドイツ銀マルクの買占め
*)エストニアの地方豪族+ロシア対デンマーク+ドイツ騎士団の聖戦
*)ロシアの銀鉱山の買収
*)エストニア貴族の暗殺
*)ペールの貴族の成り上がり
*)ルイ・カーンの成り上がり
等々に続くのですが難しいようですね。このようなタイトルをつけては内容が伴わないでしょうか。
長い夜をお過ごし下さい。
ところで新しい章をUPしましたら六~九名ほどの方がすぐに読まれるようなのです。私は意地悪しまして、UPの時間を、昼、夕方、真夜中、最後は明け方に……。
それですぐにアクセスを頂いております。皆様はいつお休みになってあるのでしょうか。
疑問です「私、気になります」と千反田 える。折木 奉太郎は「そんなの、考えるだけ無駄!」と答える。