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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第四章 国盗り物語
170/257

第170部 リリー vs グラマリナ


 1249年1月23日 エストニア・レバル



「ボブ船長、よろしくな。」

「おう任された~!」


 オレグの船が港から離れていく。改めて入港した港を見てオレグは、


「そうだな、入港した時は懐かしくて景色を見なかったぜ。」


 そうしてオレグは三百六十度回って「わ!」んは言わなかったが驚いた。


「なんだいこの無駄に広い港に無駄に多い船はよう。動かさないのは損だろうがこの船の持ち主の顔が見たいよ。」


 と独り言で館の帰途についた。



*)黒黒の姉妹


 さてさて今日まで放置されていた、オレグ侯爵邸はどうなっているのか! 本館と使用人用の旧館の二棟が並んでいる。


「あ~俺も他人の事は言えないな~、放置の船と放置の館。いったいどちらが高くつくのやら。部屋の調度品は残っていますように!」


 無神論者のオレグの言葉に耳を貸す神様はいない。神様はありでも神殿かみどのとは言わないな~! どうしてだ??


「旧、侯爵邸、ただいま販売中!!」

「な、なんだこの看板は! き~あのランドマークのカーレフの独断か! ここは俺の神殿なのだぞ~!」


「売値が金貨五千四百枚?? なんだか懐かしい気がしてきたぞ。」


 館の代金、金貨六千枚に対して銀貨四千枚しか払っていない伯爵だった。


「そうか、あの時の不足分か、か~カーレフのやつ酷いことをしやがる。」


 自分の行いは棚にあげて言うのだから、購入した時は銀貨の袋に小刀を入れて脅したという事はない。ないのだが、どうして安く買えたのかは不明。


「どうしてこの館が金貨六千枚なのだ? ち、ち、ち、ち、ち~ん! この眼下に広がる途方もない空き地が俺のものだったのか~!」

「そうか、俺は屋敷の代金しか考えなかったものな~、不足分は腹って蹴ってやるか~。」


 どういう意味だろうか、腹すえて踏み倒すとでも言いたいのだろう。


 オレグは一二の三で右足で蹴りを入れた。看板の柱は細くなかったが、オレグの力は怪力にまでなっているから根本から折れて屋敷の門柱にぶつかる。


「カ~ン!」


 門を潜って庭に入るとよく手入れがなされていた。


「この館の管理はよくできているな~。あのランドマークがさせているのか?」



「お、ご主人さまのお帰りだ!! それ、お迎えに行かなくては!」x2


 とは黒猫の姉妹の、shee・tink、シン・ティと姉のVeggey、ベギーだ。この妖精はイングランドのかた田舎のとある島の出身で、馬のダービーが好きな住人だそうだ。これにキルケーが居れば昔の賑わいに戻るのだろう。


「伯爵さま~!」x2


「……?・・・?……? 白黒しまいではなかったか!」

「はい、キルケーのお姉さまに意地悪をしましたので、そのお返しに黒黒にされてしまいました。」

「どっちがどっちだと、お判りになりますか?」x2


 今は黒猫の瓜二つになっているのだと自負する姉妹。元伯爵は、


「左が姉で、右は妹だ!」

「ブー!」「どうして?」

「どうだ、正解だろう。」

「それは偶然です。まぐれです。」

「あ、お前たちにはパブの弁償金を払ってもらう。いいか、しっかり働け。」

「はい、……そのう~お犬さまはご一緒ではなかったのですか?」

「あ、あれはパブで住み込み女中メイドになっておる。今頃はそうだな、もえもえキュン! とでも言っているころだろうか。」

「へぇ~役にたっているんだ。でもね~パブに来る男にはしっぽは振らないから、それ! ありえませんわ。」

「ハハハそれは言えてる。お前らは一晩の騒動でよく見抜いたな。」

「はい今頃は弁償金が膨らんでいるのでしょうか。」

「いいえシン・ティ。違うと思う。伯爵さまへの損害金が膨らむ前に解雇するはずよ。明日は私たちも気を引き締めてかかりますわよ。」

「そうだねベギー。明日はこの広い館で暴れまわることが出来るね。」


「おいおいおい、もう物や家を壊すのは勘弁してくれないか。出来ないのであればキルケーのエサにするからな。」

「あら黒タイツのお姉さまはもう帰っておられますが、なにか?」

「ええっ! キルケーが戻っているのか!」

「はい十日ほど前ですが、かなりお痩せになられて。それで私たち姉妹で看病して差し上げましたら、どうしてか怒られて黒黒にされてしまいました。」


「どうしてですか、伯爵さま。」x2


「むむむムムム・・・・・・・。それは姉妹でキルケーの残りかすを吸いだしたからだろう? 違うか!」

「はい、そうですか。ですから私たち姉妹を黒黒に変えて、そのままお倒れになられたままなのですよ。伯爵さま~!」

「いい、イヤだぜ。俺も近寄りたくはないよ。俺はまだ死にたくはないからな。」

「いいじゃありませんか、この前私たちが精気を吸ってもお変わりが有りませんでしたでしょう?」

「あぁ確かにな。無事であったが事キルケーのATMにはなりたくない。」


「では打ち合わせどおりに、今晩、・・・・・・。」x2


「あぁ、なにか言ったか?」

「はい今晩、お夜伽にまいります。」

「そうかぁ! でも間に合っている。殺されたくなければ俺には近づくな! あれは怒ると怖いぞ~。」




 1249年1月31日 ポーランド・トチェフ村


*)トチェフ村


 旅立ったのがついこの前のような気になるのだから、我が故郷に帰ったと実感出来るのである。エレナが小鳥遊に変身してグダニスクから、それも待てないというから、グダニスクに入港する遥か前から飛びだっていた。言い訳が、


「早くお館さまに知らせなくては!」


「嬢ちゃんも行かなくていいのか!」

「はいボブ船長。私がこの船から降りたらどうなりますかしら!」

「そうだな、ビスワ川を上れなくなるか。入り江に着いたら頼むぜ、嬢ちゃん。」

「あの子、鷹から落とされなければいいのですが。」

「トンビのことだろう? あれは結構獰猛だからな、でもカラスの集団にはからっきしダメダメだからな。」

「そうですわね、オレグお兄さまが鷹ならば、私たちはカラスでしょうか。」

「あぁそれ! 言えてるぜ!」


 リリーは獲物を見つけて追跡して、きりもみ状態で落ちていくトンビを見てそう思ったのだろうか。逃げる小鳥を襲う時はトンビは飛ぶというよりも、バタバタして落ちるという状態になる。小鳥を逃がしたり捕まえたりしたらそこで改めて通常飛行に戻る。命からがら難を逃れた小鳥はさらに下に向けて逃げていく。


「今年は雪が多いのかしら?」


 遠くは地平線しか見えない。灰色の世界は少しだけ白が多いように見えた。


「そろそろオレグの冷凍庫の雪にも魔力を補充しませんと。それに今からバラの木を鉢上げしても大丈夫かしら!」

「あ、リリーさま。バラの木は少しですが、大きな鉢にも植樹しております。明日は軽めの鉢に替えて持てるようにさせますわ。」

「まぁソワレ、ありがとう。とても嬉しいです。次回には全部持っていきます。それに、少し剪定した枝は全部境界に入れておきますから。」


 久しぶりにバラの手入れができるのか、と思うとこころがなんだかウキウキとしてきた。


「嬢ちゃん、そろそろだけれども、任せていいか!」

「いいとも~!!」

「しっかし、こんなデカい船が川を遡上するのかね~。」

「ボブ船長、前があるでしょう、前が!」

「嬢ちゃん、ありゃぁ~川を下った時だが、俺たちが寝ている間だったものな~前があると言われても理解ができんよ。」

「ふふふ、起きていても理解は出来ませんわ。」

「そうだろうよ。きっと、な!」


「ボブ船長、出てきて下さい。懐かしいトチェフの村が見えますわ!」

「ばぁろう、着くわけがないだろう、お屋敷の瓦屋根でもみえ・・・・・・。」

「あ、下船の準備をお願いね。……ボ…ブ…船長?……。」


「うひゃ~! もう村の港じゃないか。」


 シビルは船倉から出てきたところをリリーに見つけられて、 


「リリー、また俺を使うのかぁ~?」

「はいシビルさん。お願いしますね。でもボブ船長の記憶は消さない下さいな。いつもいつも驚かれるのは迷惑ですので。」

「ケッ、そんなもん。馬に食わせろ!」


 港には大勢の農民が集まっていた。農閑期というのがその理由なのだが、実はグラマリナの案で緊急に農民が集められた。


「決まっていますわ、オレグの機嫌をとるためだすわ!」

「だす?? ……お館さま、だすからオレグさまは今回……。」

「えぇえ、そうだすとも……ええ? 来ていないのだすか!」

「そう何度も申しておりますが、お館さまは聞く耳がありませんので。」

「エレナどうして早く教えなかったのだすか! …私、帰りますわ。」


 グラマリナは、プイプイとしだしているが、館に帰るようには見えなかった。(コーパル。)(コーパル。)(コーパル。)(コーパル。)「コーパル。」

「お館さま、コーパルをお待ちですのね。声に出ております。序に顔にも。」

「ソワレはいい仕事が出来ましたでしょうか、心配だわ、あ~心配!!」

「まぁ、それではお館さまの人望が増えないはずですわ。」

「エレナ、そこは気にしないでくれないか。あれのお蔭で村は街になりつつあるのだからさ。」

「はいエリアスさま、それにアリスお嬢様。私はアリスお嬢様に期待します。」


 アリスはまもなく五歳になる。ふくよかな赤い頬の顔が可愛い。


 他に色黒のガキンチョとその母親の姿があった。


「今度は船に乗ってみたいかい?」

「うん、俺、船に乗りてぇ!」

「そうかい、船にのるのなら、特別いい名前をつけてやらないといけないね~。」

「俺、クルーになりたいから、トム・クルーズがいい。」

「トム?? お前、猫年生まれだったかな。子年はジェリーというものな。」

「やいババァ、トムとジェリーじゃないぞ。おめ~の息子だ、可愛がれ。」



 全員が下船しエリアス、グラマリナ、アリスの家族が出迎えた。ソワレの姿が無かった。リリーに頼み込んでオレグのパブへと飛んでいたのだった。ソワレの姿を目で探すグラマリナ。エリアスは横目で見ながら笑っている。


「ママはまた逃がしたの?」

「そうだね、またしても逃がしたようだね。ママはドジだからね~。」

「ふ~んそうなんだ……。」


 親子の会話とは思えない内容だ。


「ねぇ女将。歓待の準備が出来ているかしら。私も手伝うわよ。」

「そう、ふらふらした船酔いの女は邪魔さ~ね。帰って寝ろ!」

「んまぁ。私、お邪魔かしら!」


 ソワレと女将の会話でメイドたちは含み笑いで堪えている。ソワレは意味もなくパブの端から端へよろよろしながら歩いていた。


「あ、お前、お前の前に椅子置きな。」

「はぁ、ここでよろしいので?」

「もう少し右だね。そこがいい!! そこがね。」

「ではここに。」


「まぁ~椅子をありがとう。」


 ソワレはそういいながら腰かけようとして大きく尻もちをつく。


「あ~椅子が動いたよ~、お尻が痛いよ~!」

「女将さん、先ほどの位置が良かったのでは?」


 椅子は動かないのだがソワレの身体が逸れてしまったのだ。ナイスな女将。


「あんた、情景の描写はいいから、早く客を呼んどくれ。」

「あ、はいはい。直ぐに。」

「私、二階で休みま~す。」 


 とソワレはグラマリナから逃げていく。コーパルの手土産が無いのだ。




*)リリー vs グラマリナ



 グラマリナが勢いよくパブの扉を開けて、


「皆さまが着かれました。準備はいいですか~。」

「ヘッ!」「えっ!」「ハッ!」「おおおおおお・・・・ですわ。」

「お館さま、今日はオレグさんのパブでございますよ。でぇも…お館さまの驕りでよろしいのでしたら、直ぐに準備はいたしますが~ぁ?」

「え、あ、そう。隣にいきます。驕りは勘弁よ!」


 グラマリナはいそいそとオレグのパブへクルーたちを案内、いや、追いやったのだ。


「ここは会場ではありません。お隣でしたわ。」


 と言った時にはほぼ全員がオレグのパブに入っていた。


「ギギギ・・・・!!!」


 ここでもゾフィと三精霊は屋外に置いて行かれた。


「ケッ、ここででも冷遇かよ!」

「ゾフィさま、私が火でお温めいたします。」


 と言うのは火のウーグンスマーテ。



 ギギギ・・・・・と言いながらパブに入ってきたグラマリナに、リリーが挨拶の代わりに抱き着いた。


「お久しぶりですわ~グラマリナさま~! 随分とお若くなられましたね~。」

「んまぁ! それ、娘のアリスです。」

「あらあら、そっくりで見分けが出来ませんでした。オホホホhhh……。」

「リリーさん、今までどちらに? 港では見かけませんでしたので、その…。」

「はいオレグお兄さまの倉庫に行っておりました。もう随分と放置しておりましたし、前回帰郷した時は魔力の補充は抜かしておりましたので、直ぐにでも魔力を込めて新しいお肉が冷え、いえ温まらないようにと、いの一番に。」


「それで、いかがでしたでしょうか?」

「はい、たくさんのビールが在りましたので、少し飲んでまいりました。それよりもグラマリナさま、お館さまの倉庫にはたくさんの麻の布が在るのかと、そう思いますが、少し売っては頂けませんでしょうか。」


「はいはい、喜んでお分けいたします。他には?……。」

「はい、麻糸もたくさん欲しいです。それも、ごつい物を!」

「絹の反物はどうですか?」

「あ、あれは、もうごりこりでございます。とうぶん西には侵攻致しませんので必要ございません。暫くは東の貧乏領地で、いや、なんでもありません。」

「もう、なんですか、貧乏領地とは? いえ懲り懲りになられたのは理解できますが、あの時の絹の反物の代金は保留になっておりますわ。お忘れではありませんかな~!!」

「あ、あれは前に帰郷した時、お兄さまがお支払いになられたと思いますが、違いますか?」

「あの時は、その行方不明の皆様が無事に帰られましたので、つい、嬉しくてわ~すれておりました~わ!」

「んまぁ、それはグラマリナさまらしからぬ行いでしたわね。もう時効かと思いますが、どうなのでしょう。オレグワインやトチェフワイン、それにアイスワインがたくさん収穫・製造できたのだし。」

「ワォ……そうですわね。ですがピアスタさまにはオレグに代わり、ノルマいいえ、ロイヤリティーを払っておりますのでお相子です。」

「あ~良かった。私、金貨は十枚程度しか持っておりませんのよ。」


 グラマリナは沈黙で考える。考えた。


「その金貨十枚で麻製品をたくさん?」

「あ、それは別です。麻布に対しては、金貨五百枚を用意しておりますのでその範囲内で購入させて頂きます。」

「はいはい喜んで。まぁまぁリリーさんも、見ればとても美しいお美人さんになられて~私と正反対ですわ~。」

「あ、グラマリナさまにはエストニア特産の美容液をたくさんお土産でお持ちしております。これを身体中に塗れば、それはもうお肌がすべすべになりますので是非お勧めいたします。」

「まぁまぁ、それは嬉しいですわ。それでどのような。」

「はい、どろのような、です。」

「はて、聞き違いですか、それはどのような……。」

「はい、どろですもの。」

「へ~……そうなんですか。それは楽しみです。で、どこに。」

「はい、グラマリナさまの銭湯の湯船にたんまりと……。」


「では後程入浴後に……。」


 宴会の後はグラマリナの悲痛な雄叫びと悲痛なお顔の泥パック姿が・・・・。


「では商談は明日になさいますか? それとも今すぐに織物工場で纏めますでしょうか。」

「もちろん今すぐですわ。行きますわよ、これは戦争よ!」

「まぁまぁ、はいはい。口癖はお変わりございませんですね。」

「もちろんですわ。金貨で五百枚分、(500x100,000=500,000,000)それは無理です。金貨五十枚分もありません。」

「では、その、お仕事に差し支えない程度で、金貨四十枚でどうでしょうか。」

「はい、この倉庫の全部お持ち帰りください。」

「ありがとうございます。つきましては金貨で五拾枚を先払いでお支払いいたします。製造をお願いしますね。」

「も、も、もち~ろんです。急ぎ製造させて頂きます、です。」


「まぁまぁ、うふふふ……。」


 リリーの嗤いが不気味だった。


「グラマリナさま、とても良い商談でしたわ……。」

「ええ、えぇ……。」


 グラマリナがリリーから呑まれる瞬間だった。


 別な所でも熱いバトルが行われていた。ボブ船長vs女房と息子の戦いが。


「あんた、今まで私をホッタラカシにしてたんだよ。この責任どうしてくれるのさ。だからね……、おまけにこ~んなに子供が増えちまったさ!」

「お、俺が恥ずかしいから描写はや、やめてくれ~!」


 村の幼い子供を五人も連れて来て、これは私が生んだ子だよ! と言って迫るのだった。ボブの息子は一人だけだが。同じ歳の子を五人も産めないのだが。そう、女房は産むではなく、生むと言っている。旦那を貶める策略を生んだのだ。



*)マルサの女



 その翌日からがとても大変だったリリーは。農場やビール工場の視察。ブドウ園ももちろん視察するが枯れ木のていで意味不明だった。他には各工房の視察と自噴井戸の確認。村の井戸もそうだが、用水路と洗濯小屋、銭湯も補修が必要かと思い隅々まで観察した。


 リリーは、


「まぁまぁ、御機嫌よう!!」


 と不気味な笑顔で工房らの男にに挨拶していくのだった。挨拶された男たちはとても怖がっている。


「さ、最後はオレグのワインとビール。それと保管庫・食器等の移動の記録の確認だわ。全員が文字を書けるとは思わないがいいわね。」

 

「ほらほら帳簿を全部出しな!」

「ヒェ~!」


 と言いながら全員は帳簿を出すのであった。


「ま~物の在庫と帳簿の数は同じだわ。素晴ら……。」

「……。」

「あらあらやっぱり。記入した文字は同一の筆跡ね。あの女狐だわ!」


 文字の記入が苦手な男に代わりグラマリナが任意の数字を入れて、その数字に合わせて物をちょろまかせていたようだった。自分の行いは棚にあげているのであるが、少なくともリリーが魔法で倉庫から大量に召喚した分は帳簿には記載されない、はず。


「そうよ、そのはずよ。なのにぴ~ったりと一致している。これはいい証拠になっているわ。お兄さまに一日だけでもお見せしないと。」


 そう言ってリリーは一方通行でオレグに全部の帳簿をゲートで投げやった。添え書きは『明日には全帳簿を召喚いたします。写本してください』だ。一枚目は……二枚目は?


「マルサの女は怖いわよ~!!」


「ソワレは館の帳簿を閲覧しているけてども、さ~て蛇が出るか、またしてもドラゴンが出るか。楽しみだな~!」


 三日三晩の奮闘のソワレは眼窩が窪んだ、ゾンビの姿でリリーの前に現れた。


「ひゃ! ソワレさん。ゾンビのゾワレになってしまったのかしら。直ぐにオレグのパブで魔力を封入してあげるね。」

「ぞうど、ぞろじぐ……。」

「で、結果は?……んん??……う~ん??」

「はい腹黒女でした。タイ焼きよりも限りなく腹グロです。」

「そうタイ焼きは美味しいのに、食えない女なのね!」

「はい、私も据え膳で食えないです~!」


 二人の横のテーブルには夕食以上のご馳走が並んでいるのに、リリーの寒い冗談の攻撃でソワレは食べられないのだった。『もうダメ!』


「あらあら、死んじゃったかな。」

「あのクソ女にやられたのかい。ソワレも可哀そうに……。」


 オレグが雇用する女将はグラマリの事をとても嫌っている。


「そりゃ~商売の敵でもあるし、あの女は何かにつけて私の新メニューをちょろまかして、まねるからね~とことん困っているのさ。」


「あ、女将さん。このクジラの肉は独占できますわよ。」

「そりゃ~楽しみだわい。ブドウの枝での串焼きかい?」

「はいとても美味しいですわ……。それにステーキとお刺身ですね。」

「おうおう、ゆだれが止まらないよ。」

「はい山椒の実と岩塩も在るからさ、美味しく焼き上げてね!」

「全窓開けて匂いを隣のパブに届けてやるさ~ね。リリーさんには館の部屋に届けてやりなよ。」

「まぁオレグお兄さまが見込んだだけの素晴らしい女の人ですわ。」


「そろそろソワレにも、オレグ酢を嗅がせて起こそうかしら。」

「グ・しゃん!」

「あ、生き返った!」

「あ~腹へったぜ!」

「え! あんた、誰!」

「俺かぁ~? 作者。」


 リリーたちが帰ってきたのを聞きつけてギュンターとユゼフもトチェフ村に戻ってきた。


「あ、ギュンターさま。帳簿を拝見させて頂きますわ!」


「村の倉庫の実物が少なすぎます。残りはどこに?」

「もうお忘れでしょうか。ビスワ川に沿ってたくさんの倉庫を借りております。そこはグラマリナさまでも手出しができません。安心されて下さい、ネズミに払い下げた以外は全部……残っております。お代官さま!」

「まぁ、ギュンターさま素敵です。越後屋さんです。」

「むむムム・・・・・・・。褒められていないような~。」


「でも、オレグお兄さまのハンザの口座には莫大な……。」

「はい、手も付けられずに残っているかと……。」

「これを全部引き出せば……。」

「はい間違いなくハンザの商館は倒産するかと思われます。」

「このお金でオレグお兄さまはどうされるのでしょうか。」

「対、デンマークのヴァイキング用の対抗船団を創設されるのか、と思いますが。」


「まぁ、まだまだ私たちの恨みを晴らし足りないのですね?」

「相手は六つほどの領地を持たれている公爵さまになるのでしょう。まだまだ金額は少ないと思いますが、どうでしょうか。」


 ギュンターは説明を求める。


「はい、今はドラキュラ伯爵さまらしいのですが、そうなのですか?」

「いいえ、そこまでは存じておりません。南の山のそのまた南の国で不穏なのろしが上がっているらしい、という事までです。」

「そんな、遠くの国をも相手にするのでしょうか。お兄さまにはもう少しだけ優しくしてさしあげませんと……いや、もっと優しくして……。」


「はい、できる限りお願いします。」





*)帰りの荷物


 翌日には牛や豚、ニワトリ、それに新鮮なカブなどを用意させるのだった。


「パイソン二十頭、豚五十頭、ニワトリ百頭。カブ五十kね!」

「ニワトリは頭だけですかい?」

「頭は紐を通しておいて呪術に使うからさ。」

「へ、へぇ……。」

「出来次第にオレグの倉庫に納品して頂戴。」

「へ、へぇ……。」


「残るはゾフィの砲弾だよね。鉄と石で適当に注文しておきましょうね。」


 リリーはオレグの倉庫に行き、食器とライ麦をビスワ川の倉庫に移動させるように命じた。私で移した方が早いのだけれども、ここは農民のお給料になるようにしなくちゃね!


「今晩は女狐の対処方法が、お兄さまから指示があるはずだからまだ忙しいのかな。それと館の物の在庫の調査のソワレの働きの努力の結果の次第のかしら!」


 リリーの頭が壊れたか! のの連発だった。


 夜遅くにオレグがリリーを呼んだような気がした。


「お兄さま、帳簿の閲覧が済みましたのね。明日が楽しみだわ。」



*)オレグの奮闘


「く~リリーのやつ、俺に帳簿の丸投げか~、それになんだなんだ、これは俺への夜食のつもりか~ぁあああああ!!!」


 リリーがゲートで届けた帳簿の他の添え書きには、『ゾフィの魔法で焼きました、食べて下さい』ワインとクジラ肉の串焼きと牛の串焼きがあったのだ。


「パイソン一頭を材木での串焼き、こんなの食えるか~!!」


「オレグどの、私が頂きます。」

「おうおう食ったれ。食ったれ。」


 漁夫の利のゴンドラだった。


「お前、それ食ったら俺をトチェフまで運べよ。」

「返品いたす。ワシはヴァンダ王女との会食がありました。ワハハハ……。」

「チッ、使えね~!」


 オレグの頭がはっちゃけた。ワインの飲み過ぎでだ、いや違った。ワイングラスは無かったから帳簿を見て怒ったのだろう。過去リリーが抜いてきた倉庫の物資も含めてナグラマリナの所為にされてしまった。


 グラマリナも被害者になるのだろうか。


「く~あいつ、ビールとワインの本数と売上金額をよくもま~、こんなに抜いていやがるとは。」


 オレグはピアスタに支払うべきロイヤリティーを忘れていた。酒に関しては実に五十%の売り上げ金額しかオレグには振り込まれていなかった。


「これは帳簿の金額だけだからな。実物を抜いた証拠は~充填用のワインボトルの購入本数と出荷本数が、ええええ!!!三十%も違っている。」


 グラマリナは被害者になるのだろうか。金額の管理だけでなく販売も担っている。それにオレグの従業員にはらう給料さえもオレグは忘れていた。


 もうオレグは一睡もできずに朝を迎えた。



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