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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
17/257

第17部 オレグの計画

***********************************************************


 ワールシュタットの戦い。それは、バトゥによるモンゴル帝国軍の東欧侵攻である。ポーランドの農民は大多数が殺害されたが、運よく逃げ切れた農民もいた。この被災者を救護と言っていいのか分らないが、ドイツ騎士団が農地の入植者として集めた。


 モンゴルによる侵攻は、1241年より1287年まで三回行われている。三王国と三騎士団の六万の軍勢でモンゴルの七万人を迎え撃つ。モンゴルの損害は軽微で迎え撃った王国軍は被害甚大、三回とも侵攻で撃破されてしまった。

***********************************************************


 1241年5月3日 ポーランド・トチェフ



*)農民の移植者計画


「デーヴィッドさん、ポーランドの南部では戦争が起きていますよね。その被災者の難民をドイツ騎士団が率先して集めているらしいじゃありませんか。ですので私どもの所にも移住して頂こうと思っているんです。」


「そうですね、いい考えかもしれません、領主さまに相談してみます。」

「はい、お願いします。その前にですね、受け入れの家屋をどうするか? 検討して報告しようじゃありませんか。」 


「先に住宅を用意しませんとけませんね。ごもっともです。オレグさんに何か秘策がお有りですね?」

「はい、農民の10人程を住宅建設に回したいのです。森から建設の木材を切り出して乾燥させます。」

「これを夏場に用意しろ? ですか。」

「そうです。冬の長い期間は殆ど仕事はありません。総員で住宅建設に取り掛かるのです。」


「住宅は戸建てではなくて、五~十軒を横長に作るのです。そうする事により建材の節約が出来ます。おまけに暖房の薪木も節約されるんですよ。」

「横が住宅ですから、暖房の節約になるんですね?」

「そうです。」


「いい考えですね。軒が連なれば木材も兼用で節約ですね。本当にいい考えです。」

「この長い住宅を作れば、直ぐにでも入植者は仕事も生活もできます。そして、真っ先に入植者には住宅建設をして頂きます。」


「おお、そうすれば農作業も現状維持ができて、生産性も落とす事は無いと。」

「はいそうです。このようにして人口を増やして頂きたいですね。ここまでの内容で領主さまには、お話をお願いします。」


 これらの事を、デーヴィッドから領主のエリアスに決済をお願いした。結果は二つ返事で即実行するように命令が下される。他にもやりたい事があるなら相談に乗るとも言われた。俺は人口が増えた分を全てを農業に回すのではなく、この地が発展して生産性が上るようにしたい。輸出できる特産品はすぐにでも欲しいのだった。俺は領主に頭の中の青写真を話す。



*)ライ麦パン量産計画


 俺はその日の夜、領主のエリアスとデーヴィッドに、こと細かく話した。


「次に、増えた入植者で新しい仕事を立ち上げたいのです。最初はライ麦パンの製造です。おいしいパンをぜひとも作りたいのです。」


 デーヴィッドは身を乗り出してきた。


「で、どのようにするのですか?」


「今のパンはライ麦の粉が粗いので美味しくはありません。申し訳ありませんが本当の事です。」

「私が持ち込んだパンは柔らかくて美味しかったでしょう?」

「はいそうですね。私の国のパンは少し硬いので、オレグさんのパンはぜひとも食べたいですよ。」


 エリアスは具体的な方法を早く聞きたいらしい。


「その方法を早く教えてくださいよ。」


「はい。ライ麦を人力で挽くのではなく動力で挽くのです。」

「動力とはなんですか?」


 今でもデーヴィッドは身を乗り出している。俺は得意気になって、


「川に水車小屋を作ります。水車の回転で動力を作りライ麦の細かい粉を作るんですよ。このライ麦粉に小麦粉を混ぜればとても柔らかくて美味しいパンが焼けます。これは何としてでも作るべきです。」


「ちょっと、待ってください。水車とはなんでしょうか?」


 キャイ~ン、そうか水車を知らないのか! と、俺は心の中でつぶやく。説明はかなり面倒だ。作者はしばらく考えた。


「え~と、水車というものはですね~。」


 説明できる言葉が浮かばない。俺は棒きれを五本ばかり用意して、紐で結んで簡単な模型を作った。


 そして、


「デーヴィッドさん、この棒の両端を持って下さい。私は片一方の棒を持って動かします。いいですか、私が動かす所は水車でいうならば、羽根になります。この羽根が動けば、デーヴィッドさんが持っている棒が回りますよね。この棒に、もう一本の棒を着けると? どうなりますか?」


「そりゃ~、動くでしょう。」

「そうです、動きますね。私が持って動かした棒が、水に浸かる棒で、こちらの棒が、小屋でライ麦を粉にきあげるのですよ。」


 デーヴィッドは解らいと言うが、領主のエリアスは、


「よし、分った。全面的に支持しよう。俺は恥を忍んで親に協力を求めてでも作りたい。だから水車小屋は造ってくれないか、なんとしてでも頼むよ。」


 領主のエリアスは直ぐに理解した。エリアスは、もしかしたら何らかの知識があったのかもしれない。俺は簡単な模型を作ることにする。




*)ワクス量産計画


「はい喜んでいたします。次はワクスです。」


「ソフィア。ワクスをお二人にお願いします。できたら私にもお願いね!」

「オレグはいいの。飲まずに口を動かしなさい。」


 厳しいソフィアであるが、本当の事だ。エルザにも飲んでもらう。エルザは領主に雇われているメイドさんだ。エリアスのお気に入りの女性。


「な、なんですか、この飲み物は。実においしいではありませんか。」

「これは、ワクス、といいます。ライ麦と麦芽を発酵させて、その上澄みを冷やした飲み物です。」

「ほほう、ワクスですか。これはぜひにでも飲みたいですな。」

「少し面倒ですが、簡単に作る事ができます。」

「そうか、ぜひとも主力の産業にさせてくれたまえ。」


 俺は、はい、と言って最初の議題である入植者の話しに戻した。




*)人口増大計画



「入植者の希望予定の人員はどれ位でしょうか?」

「そうですな、村の人口には全部で五百人は欲しいですね。だからあと三百人位が増えるといいかな。デーヴィッド、どうだい、300人で良いかい?」


「自然増も勘案しませんといけません。最初はエリアスさまの奥様とお子さまが先です。」

「いやいや、ワシは後でいいぞ。ならばデーヴィッドが先に嫁を貰え。子だくさんがいいな。」

「はい、ありがとうございます。エルザを頂きます。」

「キャッ! それは・・・」

「おうおう、好きにせ? いやいや、エルザはやらぬ。ワシのもんだ。」


「旦那さま! 身分が違います。お許しください。」


「いや、ワシの嫁にする。デーヴィッド、手を出すんじゃないぞ。」

「旦那さまには貴族の娘さんを探してまいりますので、その方をお嫁さまにしてください。」


「ゴホン! 話は逸らさないでください。デーヴィッドさんのお考えをお聞かせ下さい。」

「オレグさんすみません。真面目にお答えします。おおよそ二百五十人の百二十家族がいいのではないでしょうか。単身者には夫婦になって頂きます。」


「はは、それはいい。夫婦にしてしまえば住宅も少なくて済むな。」


 エリアスが嬉しそうに答えた。


「そうしますと、最低で百二十戸分。長屋にして十六戸程度ですか。」

「16戸ですね、大丈夫ですか? 大変過ぎるとかありませんか。」


 俺は少し考えている振りをした。少し間を置いて返事をする。


「領主さま、一人だけですが村に呼びたい者がおります。長期雇用になりますがよろしいでしょうか。給料としてのお金が必要になりますが。」


「何の仕事をさせるのですか?」


 領主は少し意味が解らないのだろう。尋ねてきた。


「はい、住宅の建設と水車小屋の建設です。それとライ麦の輸出にも役に立つ人材です。」

「そうか、おいデーヴィッド。この村には家の建設は出来る人間は居ないのか?」

「はい、残念ながら隣村に引張られてしまいまして、もうおりません。他の村でも同じかと思います。」


「そうか、知識のある者もいないのだな。」

「はいそうです。今までは空き家への入居で済みましたが、これからは新築していくしか方法がありません。」


「オレグ、では必ず連れて来てください。命令です。」

「はい、喜んで!」


「もう一度、水車小屋について聞きたい。教えてくれ。」



*)水車小屋建設計画


 なんだ、領主のエリアスは理解していると思っていたが、違っていたか。がっかりするぜ! と、心でつぶやく。


 俺は水車小屋の建設場所と、利用の方法を説明した。


「難しく考えなくていいですよ。今は人の手でライ麦を潰して粉を作っています。人でなくて水車に粉を作らせるのですよ。人はライ麦を臼に入れるだけ、取り出すだけ! になるんです。女子供といわずに小さな子供でライ麦の製粉ができるのですよ。大の大人の仕事でなくなるのです。」


「子供で出来るのか? それはいいな。ライ麦を粉に挽く時間が有効に使えるそういう事だな? オレグ。」


「そうです、ライ麦の運搬には大人が必要ですが、運搬の量を少なくすれば、大人も必要ありませんよ、領主さま。」



「いっそ、領主さまの仕事にしますか?」


 少し笑いながら、ソフィアは冗談を言った。領主も笑い返す。


「ソフィアさん、いい事を仰いますな。でも私は暇ではありませんよ。」


「すみません、領主さま。ソフィアにさせますので安心してください。」


 ソフィアは自分に話しが振られたので、ブーっと膨れてしまう。一同は笑ってしまった。直ぐにソフィアも笑い出す。これもソフィアの場を和ませる方法だ。俺は水車小屋の規模、建築様式を話し出した。


「領主さま。水車小屋の規模と建築資材ですが、作る所はもう決めております。村に一番近い水場です。いつも利用しているところですね。」

「ああ、あそこですね。」


「はいそうですが、水はやや上流より水路を作りまして水を流します。其処に煉瓦を土台にしたやや大きめの小屋を作ります。」

「煉瓦造り? だと。なんで煉瓦なのだ。」

「はい、増水で小屋が壊れないようにするためです。この地は沢山雨は降りませんが、上流の雪解け水が多い時期は、幾分増水で流が激しくなります。」


「そうですな。丈夫に造らねばならぬな。」


「ですので、人出も多く必要になります。だからその人員を入植者で賄いたいのです。是非ともお願いします。」

「資材一式は、オレグが用意するのか?」


「はい、私目にお任せくださいませ。直ぐに実行に移ります。」


 領主は頼む、詳細はデーヴィッドに言ってくれ! という。俺は明日から計画の着手するといって、あてがわれている部屋に引き上げた。


「さ、水車小屋の図面を描かなければ。」

「模型もね! オレグ、がんばって!」



「オレグ! まだ寝ないの? 灯りが眩しくて眠れないよ。どうにかして!」

「はいはい、水車小屋の図面を描いているんだ。我慢してくれないか。」

「イ・ヤ・ダ! 眠たいのに眠れないよ。」

「リリーは、ソフィアと一緒に寝てくれないかい。」

「オレグに付き合うよ。あと少しでしょう?」

「そうだよ。水車の羽根の形を考えているのさ。これが決まれば終わりだ。」

「その羽根の先は、何か付けるのかな。」

「いいや、この羽根で水の流れを受けて回すだけなんだ。だから、先には何も付けないよ。」


「オレグ! やっぱ眠たい。」

「眠たければ、顔洗ってこい。二番目の村には、小さい滝が在っただろう。」

「そうだね、でも鏡魔法は使えないから、パス! この部屋にも洗面台を作れないかな。そうすれば毎回井戸水を汲み上げないで済むしね。」


「そうか、井戸から水を汲み上げるのね。」

「オレグ。水車で井戸の水を自動で汲めないの?」

「川の水ならば汲み上げる事はできるぜ。」

「オレグ。それいい! とても良い考えよ! 水車で川の水を汲み上げてさ、村までといを引いて水を流せないかな。出来るよね。」


「ああ、そうか、水車の副産物になるな。村に水路を作って、水を流そうか。そうしたら、いつも川に行く必要が無くなる。女と子供も楽出来る!」

「ありがとう、リリー。いいアイデアだよ。これも作るとしよう。」

「オレグ。もう寝る。」

「ああ、お休み、リリー。」




「ここに湾曲した所がある。この部分に直線で水路を作って水を流す。例え、増水しても小さい流れだ。止水版で仕切れば水の流れは弱くなるさ。」


「煉瓦で造って、二連水車にしようかと考えている。1つは常時ライ麦を挽くのさ。もう一つは動力として使う。川の水を屋根の高さまで上げて、村まで水を引く。そうすれば、水汲みの労力が不要だ。な?」


 水車小屋の具体策が決まった。


「ボブを捕まえに行くか!」

「お、お、俺は、獲物ではないぞ!」


 と、ボブは心で叫ぶ。



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