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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第四章 国盗り物語
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第169部 エストニア・レバルに立つ


「オレグお兄さま、もう莫大な損をされていますわ、きっとそう思います。ドジで間抜けなお兄さまですもの。」

「ケッ、うるさい!」

「岩に文句言ってくださいな。ケツ岩に!」

「ケッ、うるさい! もう、ケツには入れさせないからな。」

「まぁお兄さま、ケツの穴が小さいのですのね。」


「そぉかぁ??」




 1249年1月18日 エストニア・レバル


*)エストニア王都・レバル



「今日はワルスのパブへ雪崩れ込むぞ~!」


 オレグは港に着いての第一声だった。これを聞いた全員は元気になるはず! が、そうはいかないのが社会のルール。


「ばかやろー、俺たちを見捨てるってか~!」


 ボブ船長が港に着いての第一声だった。これを聞いた全員はシュンとなるはず!


「ボブ、すまないな~、オヤジの接待が優先なのだ!」

「ケッ、そんな妖怪ジジイは放置しろ。もう用はないだろう。」

「ボブ船長、明日は建築資材を載せてハープサルへ行って頂きます。代金は、な、なんと、ボブ船長にお支払いしてよいというのですよ。」


 ギルドマスターがボブ船長に向かって叫んだ。


 見えない甲板ではゾフィの怒りの炎が立ちだして周りは赤く滲んで見える。


「みなさん行ってらっしゃ~い!」


 ボブらは最低限のクルーを引き留めて、甲板で白いハンカチを振っている。


「オヤジありがとうよ。傭船料の半分をボブに渡してくれ。」

「バコ~ン。」

「オレグ、ケツの穴が小さいわよ!」


 ソフィアがオレグの尻を引っ叩いている。


「オヤジ全部を渡してくれないか。それと帰りはどうするね。空荷だと安くはならないぜ。」

「そこをなんとかするのが、息子だろうが。」

「そうしてやるか。次の出航は五日後にする。ボブらを至急呼び寄せるからな。」

「そうして貰えば、俺も心苦しくはないよ。」


 ボブ船長らも残らずパブへ走る。


 ワルスのパブに着くと貸切の札が多数下がっていた。看板には『熱烈歓迎』の文字が貼られている。きっと誰にでも使えるということだろう。歓迎される名前が書いてない。書いても読める者が少ないからだろう。


「おう今日は大勢で世話になるぜ。」

「これは公爵さま、むさっ苦しい処へようこそ!」


 吃音で公爵を迎えたワルス。オレグがパブのドアを開けたらワルスの声と共に、


「いらっしゃいませ!」x6


 六人のメイドが待機していた。それぞれは笑顔で立っているのだが頬に流れる汗の跡が残っている。直前まで忙しく立ち振る舞っていたのが見て取れる。


「おうおう誰も居ないのか、随分と儲からない店だな。」

「はい、まだ時間が早いだけですよ。直ぐに満杯になります。」


 オレグ、ソフィア、ソワレとエレナ。シーンプと娘の二人。ヴァンダ王女とゴンドラの九人がオレグの一行でギルドマスターらは総勢で八人。計十七人。


 直ぐにボブ船長、ボブ二号と妻。ゾフィと風・火・海の三精霊と魔女の六人。総勢で三十人の大所帯になった。パブには入れないので貴族専用の入り口の外にテーブルと椅子を置いて準備していた。もちろん出迎えるのはワルス一家だ。


 外のテーブルに追いやられたのがゾフィと三精霊。混ぜるな危険! という意味らしい。ゾフィはそれを理解しているので苦情は言わないが顔つきがはっきりと物語っている。(ケッ、いつも貧乏くじでイヤになるぜ!)だ、そうだ。


 メイドたちが一斉に二階へ走る。そうして両手いっぱいに料理の載った皿を次々と下してきたのだった。最初からテーブルに載せておけばいいと思ったが、がめつい男どもだから料理を見て、国盗いすとりゲームが開始されるのは明白。このような騒動を事前に避けるには料理を置かない。これに尽きる。そうして人の顔を見て配膳をするのだった。豚肉、魚、鶏肉、牛肉、特製のクジラの刺身が配膳されていく。位の低い順にだろうか。


 これらの料理はテーブルに載って五分ほどでメイドがお皿を引いていく。


「最初は硬い筋肉が良かったかな~。」


 とはサワの一言。


 宴会は真夜中まで続いた。あ、私、夕食前ですので省略させて頂きます。空腹で文字を埋めて行くには酷すぎます。あ~ワイン飲みて~!



「公爵さま、夜も更けましたのでそろそろお二階へ行かれませんか?」

「サワそうするよ。ソフィアの面倒は頼んでいいか。」

「はい大丈夫でございます。ごゆるりとお休みください。他の人は暖炉の火を落とさないようにして放置いたします。」

「ありがとうな……。」

「ダメです。私も二階へ案内しなさい。」

「あ、王女さま。侯爵さまとご一緒に? いたしますか?」

「いやです、オレグの尻子*にはなりたくありませんから別室です。」

「あ、はいはい。女性専用のお部屋にご案内いたします。」


 オレグとヴァンダ王女が階段を上がると、


「は~い侯爵さま!」「ニャン!」x2

「おうお前ら、……誰だぁ~??」

「お待ちしておりましたのよ~!」x2

「そこの子猫、オレグに近づくでない。」

「だ~ぁれ? このおばさん。」

「んまぁ、おばさんではありません。ヴァンダ王女です! オレグは好きなように料理なさい!」

「変なおばさ~ん。」 「きゃ~~~~!!」x2 「ギャ~~~!」


「ほれ、ざま~見やがれ! 泥棒猫!」


「うれしぃ~魔力が充填できるのね~!」x2

「ヘッ、ウソ!」


 とは、この変なおばさんがつぶやく。


 この二匹の子猫はオレグから魔力を吸われるのではなく逆に吸っていた。


「ゾビァ~助けて~ケロ!」


 オレグの悲痛な叫びでソフィアが二階へ駆け上ったら、腹這いのオレグとオレグの背に乗る黒猫の二匹が居た。


「ガァググルル~! ガァゥ~~!!」「ガァググルル~! ガァゥ~~!!」

「ぎゃ~^~^!!!」x2


 唸るソフィアを見て階段を省略して階下へ転げ落ちる黒猫の姿があった。二匹は大きい目を見開き、背を大きく丸めてテーブル席を飛び越えて行った。


「あらあらまぁまぁ、あの顔遭わせは不味かったのですね。どうしましょ。」


 未知との遭遇である。黒猫とソフィアは面識がない。黒猫にしたらソフィアはオレグの部下としか見ていなかった。


「ガァググルル~! ガァゥ~~!!」


 と唸りながらソフィアも階下へ一直線。やはりリリーが居ないと直ぐにドッグファイト、いやドキャ・ファイトが始まってしまう。酒を飲んで自意識を失ったソフィア。かろうじて人の姿は保っているが、お尻から伸びていた、尻尾が!


 ソワレとエレナが駆けつけ、エレナがパブを煙で充満させて、ソワレがソフィアの尻尾を掴み二階へ放り上げた。そして猫は外に蹴飛ばすのだった。


「ガァ、……ク~ン、ク~ン!!」 「ニヤン!……ギャン!!」x2


「ソワレさん、エレナさん、ありがとうございます。助かりましたわ。」


 サワが二人に駆け寄ってお礼を言う。そして二階へ駆け上がりソフィアをオレグの部屋に放り込んだ。勢いよくドアを閉めた。ソフィアの尻尾を廊下に出したまま。


「ぎゃ~痛い、いたい~!」「わぁ~、私のしっぽが切れた~!!」  


 と部屋をのた打ち回っている。サワは直ぐにドアを開けて、


「ちょ~っと毛先が切れたくらいで騒がないの! そこで大人しく反省しなさい。」

「ふぁ~い!……。」「バタン!」


 サワは今度はオレグを摘まんでソフィアに思いっきりぶつけるようにして投げ込んだのだった。


「公爵さま、じゃじゃ犬さまの尻子玉、全部抜いて下さいまし。」

「おう喜んで~!」

「いや、オレグいやよ、来ないで、ぎ、ぎゅわ~!!!」


 二階は静かになった。が、今度は外に蹴られた黒猫二匹は、おぞましい三体の精霊に驚いて店内に逃げ込んだ。それからそれからテーブルの上を飛んで撥ねて大騒ぎへ発展した。こうなったらコーレグ金貨と建築ギルドの出番となる。


 ギルドマスターはワルスに、


「店主、明日から店内の改装工事に取り掛かっても良いか。」

「はいお願いいたします。前よりもきれいになれば嬉しいです。」

「おう任せろ~!」


「ガンガンガン。」「お開きですよ、」「ガンガンガン。」「お開きですよ、」


 とワルスとサワの元気な声がフライパンの響きとともに。店内は壁にも穴が空き、仕切りは全壊、テーブルもほぼ全壊に。出入口は大きく二つが開いたまま。もうここで酔って寝れなくなってしまった。


「馬小屋に押し込んでしまえ!」

「公爵さま、それでよろしいのですか?」

「いいよ、いいのだよ。それで……。」



 翌朝、オレグはボブ船長を捕まえて仕事の指示を出す。


「ボブ仕事だ、ジジイを降ろしたらトチェフへ行ってくれ、そこで酒と食器を在るだけ積んできてくれないか。帰りにはプリムラ村に寄って石とコーパルを満載で頼む。」


「おう喜んで~!」


 船にはソワレとエレナも乗船した。トチェフ村で積み込みを任せたいからである。あそこの領主は金に目がくらみもう信用が出来なくなっていた。用心深いオレグのグラマリナ対策であった。


「プリムラ村の嬢ちゃんはどうする、乗せていくか!」

「あぁそれがいい。リリーの境界も倉庫もからも同然だから、俺の倉庫や農場の肉類を補充させる必要がある。今は最高の魔力を保持しているだろうからさ、しっかり補充させてくれないか。」

「あぁ分かったよ。他はなんだ、それだけではあるまい。」

「まだまだたくさんあるからさ、紙に書いておくよ。」

「そうやって思い出したように言うのだろうが。……俺、字が読めないんだ。」

「そりゃ~大変だな。今まで傭船の契約とか字が読めなくてよ。」

「いいや、オレグだけの文字が下手過ぎて俺には読めないんだ。嬢ちゃんに頼めば大丈夫か!」

「むぎゅ~!!……。」


 返す言葉がない。だがオレグの文字は普通に読めるはずだが、どうしてボブだけ読めないのだろうか。事実は逆だった。読める者が少ないのだ。


 今回のクルーのメンバーは、ボブ船長、ボブ二号、ボブ二号の嫁。シビル。ソワレとエレナ。ゾフィと三精霊の、風のヴェーヤスマーテ、海のジューラスマーテ、火のウーグンスマーテ。それに魔女兼メイドが六人。途中からリリー。


 五日後に建設ギルドの資材調達も終わってオレグの船が予定通りに出港した。というか、壊されたパブの改築が終わったからなのだが。


 オレグはギルド長のシュモクザメとの打ち合わせや出航の準備の為に、このワルスのパブに泊まり込んでいた。


 丘の上の館に帰るのは船が出てからになった。



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