号外(第166部) 白いハンカチの木
12**年5月3日 とある王国の王都
*)白いハンカチの葉
「オレグ陛下、ソフィア王妃さまが見つかりません。」
「また妹と脱走して市井にまみれて遊んでいるだけだろう。」
「でも問題が……。」
王宮も昼過ぎてオレグも眠くなるころになる。北欧の夏は短い。青葉がこれ程大きく開くとは思ってもいなかった。特に、緑の葉っぱに隠れるようにして花が開くというのはありふれたものだが、樹木に至っては目立たない、地味で控えめな色で咲くものが多い。そんな樹木にも例外があった。それは俺が見たこともない木の特徴を文献で読んだことから、その物語が始まった。
北欧の夏の気温は一時的とはいえ、30度を超える。だが、残念なことに王宮の造りが良くない。夏涼しくて冬はより寒くなるというのが普通。そんな残念な王宮に居るのは身体に良くはない。いいはずはないのだ。
「あ、は~! また湖のある別宅かな。あそこの台地は緑と共に白い花が埋め尽くすと聞いたことがあるぞ。」
「陛下、その言いぐさはどうにかなりませんか。」
「なる訳がないだろう、今後もありえない。」
話を打ち切るがごとく、家臣が述べるであろう提案を先に打ち砕くのが常なのだから。どうせこの家臣も、たまには休暇でその湖畔の離宮で休暇を! と言うつもりだったのだろうが、王のオレグにしてみたらいつもの事であり、些事にすら該当しないというものだ。……その下卑た口のいいようが。
「かように根を詰めて、金貨を数えることが楽しいのでしょうか。」
「当たり前だろう。他に楽しいことがあるのか?」
「ですから湖畔の離宮に行かれて。のんびりと釣りを楽しまれるとか!」
「その湖で金貨が釣れるのであれば、行こうかという気にもなるのだが、実際はどうなのだ。」
「はい、虹が釣れるように手配いたしております。」
「虹とか銀には興味がない。」
「ですので、今は白いハンカチの季節になりまして、多数の木々に白いハンカチが花開いておりまする。」
これを聞いた所為なのかは分からない。オレグは黙り込んでしまった。暫くして開いた口からこぼれ出た言葉は、
「そうか、あいつらは朝から出かけたんだな。それは問題だな。そして戻るような気配すら起こさせないこの爽やかな日だまりが、そう感じさせるのか。」
「はい、さようでございます。」
オレグは執務室の机に張り付いていたのだが、家臣により引き剥がされて今は広く造られたベランダに立っている。横のテーブルにはもう冷え切った紅茶が一客載っている。オレグの視線の先は、少し遠いであろう湖畔の離宮だろうか。
「ワクスになさいますか?」
「そうだな、その方がいい。今日はなんだか暑い日になりそうだ。」
「いいえ、十分に暑い日でございます。」
「だったらメイドに命じて、着替えとバスケットを持たせて馬車で向かわせろ。」
「はい、直ちに!」
「間違いない。」
オレグは一言そう言った。省略された言葉は『湖畔で間違いない』だろうか。それを察して家臣は、
「はい、直ちに向かわせます。ですので、……。」
「その先は言わなくてもいい。判り切っておる。」
オレグは家臣の言葉を遮ってしまい、家臣は閉口したのだった。そこに、
「コンコンコン。」
「入りなさい。」
「失礼いたします。ワクスをお持ちいたしました。」
これを聞いたオレグが言ったのは皮肉か!
「お前、メイドに持たせて廊下に待機させていたのか。少し早すぎはしないか。」
「いいえ、そのようなことはいたしませんし、第一に、」
「気が付かぬのが普通なのだろう、どれ、直ぐに頂くとするか。」
振り向いたオレグが目にしたのはトレンチャーに載ったワクスだったが、すぐメイドに視線を向けた。メイドはやや下を向いて、ベランダまで止まることなく歩み寄り、そうして立ち止まった。
「お前、誰だ。……初めて見るように思うのだが。」
「はい、ソワレと申します。……、……以後、よろしくお願いします。」
ソワレというメイドが話す途中で一呼吸おいていた。それは王から声が掛けられて緊張したからか、そうしてどのように返答していいか判らずに、名前を答えたがいいのだろうかと、迷ったのかと家臣は感じた。それほどにソワレが一呼吸おいたのが不自然だったらしい。しかし、家臣は執務室に居るのでベランダのソワレの表情は見て取れないのだった。見えるのは、そう、王が少しハッとした表情だけなのだから。メイドは自己紹介のつもりで名前を言っただけだった。だが、このメイドは途轍もない自己紹介を置いて出て行った。
「ソワレ、そこのテーブルに置いて下がりなさい。」
「はい、承知いたしました。では、ここに!」
ソワレは家臣を背にしてテーブルの前に立ち、軽くお辞儀をしてトレンチャーごとワクスを置いたのだ。マナーとして家臣と王の間の線に入るのはありえない。その仕草を見ていたオレグは、普通は言わない言葉が口から突いて出たのだ。
「ありがとう!」
「えっ!」
「いいえ、どういたしまして。」
「……。」
『えっ!』と言ったのは家臣の方だ。『……。』もだが。ありがとうと言う陛下は初めてだったのだから。
家臣は少しむっとしてしまった。家臣とはいえ王宮では位は高い。その自分に背を向けて王にお辞儀をするというのは、家臣に対して甚だしく不作法に見てとれる。いや、はっきりとした処罰の対応を後程与えるべきなのだろう。
「ギュンター、許してやれ。あれはあれでこの俺に気を使っての事だ。忘れろ。」
「しかし、……はい、承知いたしました。メイドには何も言いません。」
「あぁ。そうしてもらいたい。そして、以後は俺の専属で頼む。」
「はぁ~~~~~~~い~~~~!!!!!!!」
家臣のギュンターは心底驚いて大きな気の抜けた返事をした。そうして考えた。(あのメイド、何かを言ったのでもなく、顔は見えなかったが王様に色目を使う? それは有りえぬか。ならば、……。)
「ギュンター、もういいであろう。俺の勝手を許せ。」
「はい、」
「俺も明日は湖畔に、昼食を摂りに行くから準備いたせ。」
「えええ!! なんと、なんと。……喜んでお供いたします。」
こうしてソワレの挨拶は完全に王様の意を得たのだった。トレンチャーのワクスの下には、一枚の白いハンカチの葉がコースターのように敷かれていたから。これをどうして家臣に見られないようにしたのかは、その隠された意図にオレグは、最後まで判らなかった。
白いハンカチの葉の意味が理解出来たのは、そう湖畔の離宮の多数のハンカチの木を見てからだった。男女間の別れとか、上司に贈るのは、もっと働けとか? でも違った。
ソワレのデビューである。
夕方に戻った姉妹は、
「オレグ、お昼のバスケットをありがとう。遊び過ぎてお腹はペコペコだったの。妹の分もお礼を言わせてね。湖に落ちましたわ! うふふふ。」
「俺ではない、ギュンターに礼を言ってくれ。」
「もう、申しました。そうしましたら、同じことを言われました。」
「そうだろうな。明日は俺も行く。」
「えぇ、そ、そうなさって下さい。……でも、どうしてですか?」
「近くに在りながらも、一度も足を向けないからか気になるか?……。」
「あ、いえ。なんでもありません。そう、……あの地は!」
*)湖畔の離宮
前の湖畔の離宮は、湖の反対側にある山の麓に建てられたのだ。そこからはこの王宮が湖に写り映えして赤の屋根と白い壁、湖の青と空の青と白。その横には緑の木々が清々しく風に揺れて気持ちがいい。そう、綺麗な眺めが堪能できた。夕日が当たればなおのこと綺麗に見える丘の上の王宮。
だが、この湖畔でオレグの母は縊死していた。第一王妃にも関わらず自害した。オレグの父が次の王妃を娶ったのだが、この二人が画策して死に追いやったというのが正解だった。前王がどこかに隠していた妾を王妃に据える方法としてだ。
中世ヨーロッパの王位争いとかは、兄弟や親子で王位を争うとか、普通にありえたのだから。この事実を知ったのはオレグが成人する、二年前の13歳の時だが。その後、オレグは憎しみを耐え続けて15歳の誕生日を過ぎて父親と後妻を事故に見せかけて殺害したのだ。それも同じ湖畔の離宮でだ。
だからこの離宮はオレグが王位に就いて直ぐに放火して焼いてしまった。家臣らは先の王妃と共にご両親も亡くなられたから、いい思い出にならないからと、焼き払ったのは当然か、と同情も誘わせて。そうして二年後に今の地に離宮を建てさせたのだった。だが、完成しても落成式には不参加。ちょっとした王宮の催しものにも当然のごとく参加しなかった。だから一度も足を運んだ事がないのだ。
『あぁ、先月の28日は母の命日か!』
白いハンカチの葉は、それを意味していたと、オレグはこの離宮に来て思いついた。メイドのソワレにしてみれば、王様の予定など判りはしない。だから、この離宮に足を運んでもらうという確証もなかった。いや、オレグにしてみたら昨日にこの白い葉を見た瞬間に頭をよぎったために、メイドに『お前は誰だ』と、問うたのかも知れない。
このハンカチの木はオレグが興味を持ち、取り寄せて開花させた。そしてオレグの母がとても喜んだという事実を残して。翌年の開花を待たずに母は殺された。
今は昔。最初の木は燃えてしまって、今は複数の小ぶりな木を取り寄せた植木。
ギュンターは今年もハンカチの木の花が咲いたので、いの一番に知らせに来たのだと、オレグはようやく理解した。しかしソワレがこの家臣に見えないようにした事実が判らない。ギュンターは、父が何処かの子爵か男爵家から引き抜ぬいた優秀な人材だ。王宮の事はギュンターに訊け、という感じだ。ただし、王宮騎士団には関与させてはいなかった。今も昔も、
「お兄さま、早く、早く。お姉さまが首を長くしてお待ちですわ。」
「おや、リリーの首も長くなっていないか~?」
「まぁ、イヤだ。恥ずかしいでしょう?」
ソフィアはオレグの妻で王妃。19歳になる。17歳で嫁いできたが晩婚だと方々から言われていた。最近は、いや去年からは言われていないようだ。言われたからと、いちいち夫に言うのは間違っている。妹のリリーまでも王宮に入って来たのには理由がある。リリーは16歳になった。二人とも色白で可愛い。そのように物語を進めるのは、黄色人種のみ? だが違うだろうか、白雪姫もしかり。
「オレグ、今日は金貨を釣りに来たのでしょう?」
「いくらなんでも金貨は釣れないだろう、金貨で、釣るのだから。」
「糸の先に金貨が在れば、同じですわ!」
「おうおう、ソフィアにはそう見えるのか、まぁ~事実だからな。」
「まぁ、可笑しい。お兄さまったら!」
二人の会話を聞いて笑うリリーだった。屈託のないいい大人の女になっている。
「リリー。『お前までまでここに連れてきて良かったのだろうか!』と、俺は常々自問しているのだがな~。」
「はい、お姉さまと一緒に過ごせますので幸せですよ。でも、お兄さまの第二夫人には絶対になりません。」
「それはそうだろう、そうなったらソフィアが黙ってはいないし。」
「オレグ、それはどういう意味ですか。私は、そのう、構いません…です……。」
先細りした言い方は、ソフィアが恥ずかしいという意味になるのだが、王妃の座は死守する気はないらしい。
「だぁ~って、可愛い妹ですもの。」
「陛下、早くお昼のおご馳走を釣って下さい。」
「そうせかすな。いくら王宮の食事よりも安全だからと言うのは、理解はできる。だが、魚にも都合があるだろうし、今日はお昼寝かも……。」
「また、そのようなみょうちくりんな!」
「ブドウの枝は用意しているのか。」
「はい、32本ほど、……。」
「それ、多すぎないか。この湖には5匹くらいが泳いでいるだけだろう。」
「いいえ、50匹でございます。それを32匹釣って頂きます。」
「こんな四角に仕切った網に50匹も!」
「そ、そのような下卑た言い方はもう、おやめ下さい。手の内を晒さないで下さいませんか。奥さまから私が笑われてしまいます。」
「もう、十分に笑われているのだが、いいのか。」
「良くはありません。でしたら、私が釣りあげます。」
「いや、ここは二人に任せよう。料理人を二人付けてやってくれ。」
「はい、呼んでおります。……ワルス、サワ、頼んだぞ。」
「ソフィア、リリー。水に落ちるなよ。着替えは用意されてはあるだろうがな!」
「まぁ、失礼しちゃう。」
「そうですよ~、お姉さまは良くても、私には失礼ですよ~!」
「まぁ、リリーったら、また泳ぎたいのですね!」
「キャッ!」
「王妃さま、これは、王妃さまのネックレスを少し切りまして、釣り針を結んだものです。」
「まぁ、良くできていますね、これでオスのニジマスを釣り上げるのですね?」
「……、……。」
「いいえ、お姉さま。このキラキラで若い娘のマスを釣るのです。」
「むぎゅ! ……、……。」
ワルスとサワには、この二人に返事すらも出来なかった。池の仕切りに入れられてはや20日間、餌を貰っていない。ニジマスはどんどん釣れていた。
オレグは臣下を連れて湖を散策した。
「今日はギュンターが来るはずではなかったのか。」
「はい、さように聞き及んでおりましたが、急に行けなくなったから、私に行って欲しいと、夜の夜中に連絡が入りました。」
「そうか、どうしたのだろうか。俺が居ないのでへそ出して寝ているとか、」
「いいえ、けっしてそのような。」
「奴に弁護は要らぬぞ。ちくったりしないからな。」
「告げ口はどうでもよろしいのですが、あのギュンターさまにはお気をお付け下さい。良からぬ噂がございます。」
「なんだ、それ!」
「はい、巫女を呼んで祈祷させているとか!」
「それは物騒だな、で、何をする気なのかな。」
「まぁ、なにを暢気な。……、お世継ぎ、……。」
「あぁ、そう、・・・今なんと!」
「お子様のご心配でございます。ですので、今晩は寝所を共にされて下さい。」
「そうだよな。俺はいつも遅いから、寝室にたどりつけないな~!」
*)王宮の大騒動と、する宣言(臨時挿入閑話)
ここではギュンターの声が飛び交っていた。石工と大工、家具職人が総出で働かされていた。
「工期は半日、陛下がお帰りなる前に完了させるのですぞ。」
「ギュンターさま、それは無理でございます。」
「そんなことは理解しておる。ドアと窓とカーテン。それと大きいベッドが在ればそれでいい。後は後日で構わない。」
それは、執務室の突き当りの書庫だった部屋である。ここを静かに丁寧に物を運び出して清掃した。今日は思いっきり大きい音をたてて、壁を壊し、ドアを取り付けいる。外壁を壊し、窓を作っている。下からはベランダを作っている。
「ここを第二の寝室にする!」……宣言だ。
今までちまちまと片付けていただけだったから、思いもしなかったのだ。王様の居ない間に工事をすればいい、ということを!
『それが、今日という日だ。』
再び湖畔の続き。
オレグは仕事人間として生まれたのか、金貨を数えるのが日課となっていた。治水工事に金貨1,000枚。道路拡張に金貨500枚。この春のライ麦の収穫で得る金貨が、さ~て、お天気次第なのだが~、と、収支の計算なのだ。金貨を数えるというのは、当たっていよう。そういうオレグがここに離宮を金貨一万枚を出して建設した意味が理解できない。しかし、大臣たちは造れ、造れ~、子を作れ~、うるさいので建設させたのだった。大臣らにしてみれば、目的が手段になってしまった感はあるが、本当の目的は奥手の夫婦の営みにあった。こんな事には気づきもしない。夫婦と妹も。まだ若い”という証なのか。
ハンカチの木は、日本では馴染みが少ないかもしれない。ここ西洋に至っては奇跡のようなものだった。中国原産の高木で、標高が2,000mの山地に自生している。(白いものは花弁ではなくて葉に分類される。北欧に渡ったのかは架空。)
「オシップにはここの管理を任せっぱなしですまない。初めて来たのだが、とても気に入ったよ、ありがとう。」
「なにを申せられますか、このような私にお礼などと、おこがましいです。」
「そう言うな、お前だって大切な臣下のひとりなのだから。」
「ありがとうございます。来年もまたきれいな花を咲かさせますので、是非お出で下さい。」
「あぁ、そうさせて頂くよ。私の庭でもあるのだから。特にギュンターにはそう報告をしておこう。」
「それは、……あ、はい、よろしくお願いします。」
オレグがギュンターの名前を出したのには意味がある。この別荘、いや離宮はやや手を抜いた箇所が存在する。離宮から見える範囲は手が行き届いてはいる。だが、その実、全部の管理は出来ていない。予算、特に人員が不足しているのだと判断したのだった。それでオレグは大蔵省のギュンターの名前を出した。そのギュンターに毎年行くから、と言えば、予算は倍増するのは目に見えている。それでオシップはありがとうございます、と、頭を下げたのだ。オレグはそれについて返事はしない、妥当ではないからだ。
「もう一周したのか!」
「はい、見える範囲は広いのですが利用しているのは、僅かでございますから。」
遠くから姉妹の黄色い声と、慌てふためく夫婦の料理人の声が聞こえてきたのだ。
「あいつら、料理人に迷惑を掛けやがって、」
「いえいえ、それが私たちの仕事ですから、お気にされる必要はございません。」
「いや、そういうものだろうが、違うだろう。」
オレグは木陰を回れば東屋のある湖畔に着くのが判っている。だからその先の方を見ながら進むと一人のメイドが目に入った。同じようにメイドも自分に気づいて直ぐにお辞儀をしていた。それも、やや長くであった。オレグは直ぐに顔を上げるのだろうと思ってメイドの頭に視線を落としていたが、期待外れであった。そう頭を上げないのだ。
「あのメイドはソワレだろうか。」
「はい、存じませんが、初めて見るかと思います。」
「ならばそうだろう。では、何しに来たのかな。」
「はい、食材の配達と給仕でしょう。他に居るのは厨房の者たちだけですので。また、メイドは一人で十分とも思います。」
「そうだな、余計な人員は無駄になるな。」
「お帰りなさいませ。」
「あぁ、」
ソワレはオレグが近づいてようやく頭を上げて、ひとこと言っただけだった。オレグが近づくまで辛抱強く頭を下げ続けていたのだ。オレグが返すのも一言。
「お兄さま、これ! 見て下さい、こんなにたくさん。」
「お帰りなさいませ。」
キャッキャ言いながら、オレグが帰って来たのにも気づかない二人だった。続けて料理人らが、『お帰りなさいませ、』と言って頭を下げるのだった。
「オレグ、明日の分まで用意いたしましたわ!」
「ほほう、ソフィアに負けたニジマスが居たのか!」
「はい、食いしん坊のオスばかりですわ!」
「??……、オス??」
「はい、リリーには若いメスばかりだとか!」
「??……、それ、逆だろう。」
「まぁ、……でも、そうですわね。殿方から見れば!」
料理人は畏まりながらも急いでニジマスに串を通している。途中からは二人になった。ワルスが串に刺したニジマスを10本、皿に入れてオレグの前に持ってきた。そして一言。
「お願いします。」
オシップは失礼な料理人だと思ったのか、『こらこら、王様に毒見をさせるのか!』と、慌ててワルスに言い寄った。だがワルスは動じることはなかった。
「オシップ、この魚は俺が焼くのだ、それで塩コショウを見るように差し出されたのだから、怒るでない。」
「陛下がですか!……あ、はい。失礼いたしました。」
オシップはオレグが調理するとは、隕石が降っても思いもしない、誰も考えも出来ないことだろう。オレグはニタニタと笑いながらそのオシップを宥めている。オレグの目は皿に盛ったニジマスに向いていた。この様子が可笑しいので、料理人は笑いたくとも笑えない、苦痛に満ちた笑いを腹に押し込めるのが精一杯だった。
「まぁ、お兄さま、お趣味がよろしくありませんわ!」
「そうなんでしょうか、臣下を可愛がるいい夫だと思いますが、」
「お姉さま、見る視点がずれておいでですわよ。それはご夫婦の時だけでお願いします。ここは王宮でなくてもまだ離宮ですのよ。」
「リリー、そうたくさんの言葉を並べてソフィアを苛めないでくれないか。俺にとってはとても頼りがいのある妻なのだから。」
「だあって、私が面倒みないと、とてもつまらないお姉さまですのよ?」
「だったらリリーが最高の女だってか?」
「もち、ろんですわ。『おっとりの姉にこの私あり、』ですもの。」
「ワハハハハ……。」
もう、先ほどから居たたまれない料理人だけでなく、オシップも含めて大笑いになったが、ソワレだけは目頭だけで笑ったようだった。
*)昼食会
オレグがニジマスを焼いていて、料理人とソワレが忙しく立ち振る舞っていた。
「陛下~、陛下~!」
と遠くから呼んでいるのは、来ないはずのギュンターだった。それに、護衛の兵士が三名。着くなり開口一番、
「オシップ、護衛も付けないでどうしたのだ!」
「も、申し訳ありません。今後は確実に。」
「もう、よい。だが次回はないぞ。」
「ギュンター、ここは離れてはいるが、王宮なのだから良いではないか。」
「ですが、街門を出ております。いくらなんでも許容は出来ません。」
「あ、それは俺が悪かった。今後は護衛とギュンターも連れて行くよ。」
「私はどうでもよろしいです。ですが、このような楽しい場所には是非とも!」
「まぁ、ギュンターったら可笑しい!」
「はは、さようでございましょうか。何分、陛下が外出なさらないもので、私から城下に出るのはさすがに気が引けまして。」
「いいえ、全然。」
「そ、それは王妃さまが、わる……。」
「ギュンターは、最後まで言えないのね。」
「言わないだけです。こころでは毎日のように王妃さまに対して呟いております。」
「わぉ、言ってくれるじゃないの。」
「はい、お褒め、ありがとうございます。」
「ソフィア、防波堤になってくれてありがとう。もう、津波も引くだろう。」
「わ、私が津波ですか! 言いえて妙でございます。はい、兵士を連れて参りましたので、津波は沖に帰ります。まだまだ今日は忙しいもので!」
「そうか、残念だな。」
「はい、ですので、一本は頂きます。」
「二本でもいいぞ。」
「はい、昼食抜きで励んでおりますので、もう三本を! と、ワクスを一杯。」
ワクスを運んだのはソワレだった。そうして大臣の耳元で小さく囁いた。
「護衛なら見えない処に5人を待機させております。」
「え!」
目を点にしたギュンター。少しの間黙り込んだ。そうして察した。木偶は不要!
「では陛下。楽しい休日をお過ごし下さい。無粋な兵士は私の護衛ですので、連れ帰らせて頂きます。」
「ギュンターは大蔵大臣なのだから当然だろう。」
「陛下~、もっと危機感をお持ち下さいよ~! 陛下は少し家臣を可愛がり過ぎですので、もっと王の威厳をですね、も……。」
「その先は耳タコだから、言わなくていい。」
ギュンターは右手を振って兵士に帰る合図を送った。兵士は終始無言で立っていた。『おう、とても美味しいですぞ!』という右手には串が一本。残りは兵士の右手だった。
「あんなのが傍に三人も、居られたら堪るものか!」
「はい、ごもっともでございます。」
「生煮えでしたが、大丈夫でしょうか。」
「餌のミミズが旨いだろうて!」
「お兄さま、リリーにも早く下さい。」
「魚なら5匹は焼いてやっただろうが。」
「いいえ、7匹です。可愛いのでつい食べてしまいました。いいえ、違います、お肉の事です。お姉さまばっかりに分けている感じです。」
「いいえ、事実でございます。陛下には今日にでも目的を達成して戴きたいのです。ですので聖女さまにはご辛抱を!」
「そんなのつまんな~い。オレグお兄さま~!」
「オシップ。ワクスの与えすぎだ、自重してくれないか。」
「いいえ、あれほどに大声でお遊びになられましたので、喉の渇きは相当だと? 思います。それにお魚の数が多いので、岩塩も相当な量をお口に入りましたでしょうか。」
「ふ~む、それはいかんな。拙いな。」
「いいえ、とても美味しいです。」
とんちで返すソフィアは天然なのだろう。それに引き替え超が付くほど現実的なお嬢様がリリーで、別名、聖女さまとも呼ばれている。物事に欲のないソフィアは損して、現実的で要求が多いリリーは得なのだろうか。オレグに至っては金の猛者と自分では揶揄している。だからギュンターには受けがいい。いつも白いハンカチが贈られている。オレグには意味不明なのだが、ギュンターには大いに意味のある贈り物らしい。
「陛下、こちらを聖女さまには焼いて頂きたいのですが。」
本日、二つ目の言葉になったソワレ。そのソワレが出した物は、白い果実の、そうリンゴだった。
「これ、焼いて食べるものなのか!」
「はい、美容と健康にとてもとても有効でございます。後程陛下にも召し上がっていただきます。」
ソワレの言う美容と健康とは、リリーに向けた口上なのだとは理解できる。そうして焼き網に載せられたリンゴはオレグが焼いていたが、男の力の所為かポロポロと崩れていくのだった。
「ソワレ。」
「はい、承知いたしました。」
ソワレは木の枝、先を平たく削ったもので、上手に掴んで裏返している。それを見つめる6つの目。いや、オシップを含めると8つになるのか。十分に焼けたリンゴは茶色の飴色になった。これとは別に黒パンを焼いていた。そのパンは薄く切られている。
「さぁ、聖女さま。出来上がりました。とても美味しいですよ。いくらでもありますので、たくさんお召し上がり下さい。」
「えぇ、ソワレ。ありがとう。……わ~! これ、すごく美味しい!!」
「え、ホント。私にも頂戴!」
ソワレは目じりで笑ってソフィアの分を手早く作り上げる。
「さ、王妃さま、熱いですので焼けどにはご注意下さい。」
「あ、はい。……はい、とても美味しいです。こちらがお肉よりも好きになりました。ソワレ、次回もお願いしましよ。」
「はい、畏まりました。ですが、毎日お出しする予定です。よろしいですか?」
「ええ!! 毎日、でしょうか。本当に……。」
「はい、陛下には後程ご了承を戴きますので、ご安心下さいませ。」
オレグにはこのソワレがただのメイドには思えなくなってしまった。そう思ってソワレを見ていたら、隅っこでたくさんの細切れの黒パンを焼いていた。と、少しばかりの肉もだった。オレグはいささか不信に思えたが、黙って見届けようと思い注視することにした。ソワレはその後も二人にはリンゴを焼いてパンに載せて差しだしている。もう十分食べたであろうと判断したのか、今度は先ほどの細切れの黒パンを皿に盛っている。細切れのパンとは、二人の姫に出された黒パンの、硬い部分、通称パンの耳だ。山盛りのパンの耳は少量の肉と共に三皿に盛られた。
「ワルスさま、これ、頂いていきます。」
「あぁ、遅くなったと口添えを頼む。」
「はい、ありがとう存じます。きっと皆も喜ぶでしょう。」
「あ、冷めないうちに早くな!」
「はい、ありがとうございます。」
そう言ってソワレは木々の陰に隠れてしまった。だが直ぐに姿を見せたと思ったら、対角上の木立の陰に隠れた。そうして直ぐに表れたソワレの手には、一皿しか持っていなかった。この皿はほかの二皿に比して少ないのだった。そうして、遥か遠くの、離宮の入り口の方に歩いて行った。見えなくなった。
オレグは少し考えた。そうして導き出したのが、護衛の昼食だった。犬に与えるとか、一瞬考えた自分が恥ずかしいと、改めて情けない自分が居たのだと思ってしまった。ソワレはやや少しして戻ってきた。そうしてワルスにお礼を言った。オレグとして、いや王として、一言を掛けたいと思って、
「ご苦労だった。」
「え! あ、はい。勝手なことをいたしまてすみません。以後は別な方法で、い、」
「いや、あれでいい。俺には感謝しかないのだ。文句は言えないよ。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
そう言ったソワレの目じりには少し潤んでいたようだ。次は陛下とその侍従とばかりにたくさんのリンゴを焼きだした。一度に焼く量としたら、それは多すぎる程の量になる。リンゴばかりではないのだ。もれなく黒パンに載せて出されるのだから。(こいつ、動揺しているのか!)と、オレグは感じた。
当時の領主は黒パンが普通だった。そうして毎食の黒パンは貴族の取り皿と利用されていた。取り皿の黒パンには当然お肉の汁とかが付着して味がしみ込む。それらの黒パンは神の恵みとして、使用人やメイドの食事となるのだ。翻って国の王族では黒パンは食べない。肉の料理が普通なのだが、高級な小麦粉で焼いた白パンが出ることも多々である。他はスープだったりだが。だから王宮では残ったパンや肉は捨てられていた。
だがオレグは公爵、王さまなのだから黒パンはありえない。それでもあえて食べる貴族も少しは存在していたという。金貨を数える堅実家なのだ。オレグは一切の贅沢はしない主義だった。家族の時はだが。これがひとたびどこそこの貴族が来れ普通に貴族らしく、大きな肉の塊を焼いて出していた。
「陛下、骨に残す肉が多すぎます。」
「あ、これが俺流なのだ、気にするな。贅沢、ぜいたく。」
と、いつも言われては言い返していた。もちろん残る肉は全部下々に分け与えられるのだが。大きい豚の丸焼に比して等分にされて皿に載るころには、『さらに小さくなるのが不思議だ』と、よく陰口をたたかれていた。オレグの捌くテーブルの下には、大きいバケツでも置いてあったのだろうか。口癖の贅沢とは、聞く方が、『陛下は贅沢だ!』と思えればそれでいいのだ。客に贅沢をさせるのは惜しいのだろうか、謎である。陰口も高い評価の一つらしい。
楽しい家族との昼食会は終わりをつげる。ソワレだけが後の祭りの状態になる。
「あ~、私としたことが恥ずかしい!」
ソワレの顔の形が変わるのを覗き見しているオレグの顔も、含み笑いがとうとう他の者にも聞こえてきた。
「オレグ。どうしたのですか? 今日はオレグも参加して頂いたのでとても有意義な一日がおくれましたわ。お陰でリリーもとても喜んでおります。」
「ソフィアからそう言ってもらえるとは、考えもしなかった。今までの行いを反省するとしよう。」
「いやでわ、まだまだ先は長いのです。これからも夫婦ででも妹は誘って下さい。お願いですよ?」
「随分と妹思いなのだね。」
「だぁって、夫をどれだけ思っても叶えて頂けないのでしたら、当然そうなります。これは夫としてのオレグが悪いに決まっております。」
「ワルス。後は頼んだぞ。」
「はい、陛下。今日は離宮へのご訪問をありがとうございました。」
「ソワレ、護衛の兵士はどうするのだ。」
「はい、ぶしつけではございますが、付かず離れずでございます。」
「では、残った物は全部あの三名に。」
「はい、承知致しました。」
「ワルスさま、馬車の用意は出来ておりますか?」
「はい、一応は……。」
「ソワレ。馬車は要らない。歩いて帰る。それくらいは許して貰えるだろうか。それとも、護衛を置いて先に帰れと申すか。」
「はい、今日はいつものように爽やかな風が吹いております。陛下にはお分りになられるかどうかは別でございますが。」
「ソワレ、言い過ぎですよ。陛下に謝って下さい。」
「いいえ、先ほどたくさん笑われました。その仕返しです!」
「ソフィア、いいのだよ。これもソワレのお小言の一つさ。気にしなくても良いのだ。執務室ではもっとヒドイお小言が並ぶのだからな。」
「まぁ、オレグったら。私はのけ者なのでしょうか!」
「そうとも言える。今度からはソフィアとリリーも来るが良い。ギュンターが手ぐすねを引いて待って居るだろう。」
翌日からは、昼食が三人で行われるようになってしまった。ソワレとしてはとても残念なことだろう。
「いいのです、私は別室でエプロンの裾を噛んで耐えてみせます。」
オレグとしても、ここ数日が異様に見えた日々だった。ひ弱な男ではいけないと悟ったオレグは、昼食の量を増やして家族への感謝とした。
「今まで殆ど昼を食べなかった。心配を掛けてすまなかった。」
*)両親の命日
両親の命日の日になった。オレグの心が一番重くなる日。
オレグは、ポーランド人の父と、ベラルーシのやや高位の母から産まれたので自分はベラルーシ人だと自負している。だが、父と継母の行いは許せない。特にこのベラルーシというお国柄なのか、歴史が悪いのか、過去遠くからこの国を他国から守りきれなかった先代たちの国王が悪いのか、とにかくベラルーシにおいて、王族とはすべてが、ポーランド人であったり、リトアニア人だった。
「自国の国民が、王位に就いたためしが無かったのだ。どうしてだ!」
と、常々考えていた。俺の半分の血はどうしようもないが、憎いと考えていた。今でこそオレグは王位に就いているが、簒奪で得た位なのだからその点父とは違うが、家族を殺したというのは、父と同じことをした、父と同じだとも考える。唯一、自分を慰めて気持ちを押し留めているとしたら、それは母の敵を討てた、という事だった。自責の念は無いが、気持ちのいい仇討とはありえない。
「俺はこの国の産まれのソフィアを娶った。いずれ産まれてくる子供は俺の血を半分受け継ぐが、それでもポーランドの血は薄まる。薄まるのだ。」
自室の執務室で飾りのない書棚の、色んな本の背表紙の色を見つめて思いにふけっていたら、現実に引き戻された。
「コンコンコン。」
「入れ。」
「陛下、先王さまの弔いに参られました、ご家族の方々がお見えになられました。今、応接室へお通ししておりますが。」
「そうか、いつもの時間ぴったりだな。パンと塩を出して歓迎の意を伝えてくれないか。俺は、そう、俺は今は欠席したい。」
「はい、承知いたしました。ご両親の命日で気が滅入っておられますと?」
「あぁ、それがいい。どうしても夜の懇親会は避けられないのだから、出来るだけ会いたくはない。」
「はい、その旨お伝えいたします。どれほどの脚色がよろしいでしょうか。」
「それを俺が言うと思っているのか。ふざけるな!」
「はい、とてもお元気なようで、安心いたしました。いつものように、90%は私とソフィアさまの脚色で、流しておきます。」
「あ、ソフィアにはすまない、と、一言添えておいてくれ。あれも、貴族の一員ではあるが、とても心苦しいであろうから。」
「それは、リリーさまが付きっ切りでソフィアさまと一緒に居られますから、たぶん大丈夫ですよ。」
「あぁ、そうであって欲しい。」
先王の家族はこの王宮にきたら、目をぎらつかせて物を目踏みして、あわよくば頂いて帰ろうとする、厚かましい家族が多い。元はポーランド国王の二男だったのだから、長男が王位を継ぐからどこぞの貴族のような、少し大きい館で一生を過ごすはずだったのが、棚ボタでベラルーシの養子に迎えられた。それから一気に戦争により王は死んでいまった。王家の子供はその先の戦争で初陣に出させたが敗退、戦死した。残った娘に婿入りしたのが父なのだ。そうこう考えると、先王の死すら怪しく感じられる。ポーランドの王家が画策しても、不思議ではない。親子や兄弟で王位を争い、場合によっては暗殺も行われるのだから。
「もう、白いハンカチの花は散ったか!」
「コンコンコン。」
「……? 入れ。」
「はい、失礼いたします。紅茶をお持ちいたしました。」
「あぁ、ありがとう。外のテラスで頂こうか。運んでくれ。」
「はい。」
「今日は何人だ。」
「ご家族の方が9人と従者が5人でございます。」
「いや、8人と6人だろう。一人見分けがつかないのが居ただろう。」
「ええ?……、あのお姫さまですか?」
「いや、男の方だ。こう、なんだか身体がごつい、兵隊の隊長らしいのが。」
「はい、いらっしゃいました。あの方は、」
「あれも従者になるだろうか、続柄は、あ、いや、ここで話すような事ではないな。許せ。」
「まぁ、聞きたいのですが、後日に、……。」
「そうだな、少し気が楽になったよ。ありがとう。」
「それはよろしゅうございました。私のお役目も果たせました。」
オレグは熱くもない紅茶を口に運んだ。メイドのソワレは動こうとはしなかったのが気になる。
「もう、いいぞ。」
「はい、失礼いたしました。」
と、言って頭を下げて出て行く。
「なんだ、あいつ。紅茶が熱くないのも、意味を持たせているのか?」
それは後に判った。残った紅茶を一気飲みにしたのだった。
「なんだ、俺が一気飲みすると分かっていたのか! すると、二杯目が有るのかが楽しみだ。」
変な期待をソワレに込めてしまった。
「あ~、いかんいかん。妙に気になる女だ。さて、気休めは終わらせて、今日の対策を考えるとするか。」
それは父の側室とその息子の事であった。この二人は外していい関係ではなかった。両親が死んで弔いも済み親子で国に帰らせたのだが、その親子は夕方には到着する予定なのだ。この昼前に着く父の家族らと、遅れて到着する父の側室の家族には、あまり繋がりは無いように思えるのだが、とても気になってしょうがないのだった。
「同じポーランドの王都から来るのに一緒ではなく、別々に来る。可笑しい。仲が悪い関係ではなかったはずだが。」
オレグには、これから先がどうのこうのとは、思い至らないのだった。
「コンコンコン。」
「ソワレか? 入れ。」
「……、失礼いたします。」
ドアをいつも以上に丁寧に静かに閉めて、
「あのう、どうして私だと?」
「俺の優秀なメイドだ。それ位は判る。昼食だろう?」
「はい、ドアの外に持たせておりますが、お運びしてもよろしいでしょうか?」
「熱いのだろう? 早く持ってまいれ。テーブルでいい。」
「はい、承知いたしました。それで、」
「そうだな、テラスで紅茶を飲んで待ってくれないか。お前に頼みたいことが出来たのだ。なに、直ぐ掻き込むさ。」
「いいえ、それはよろしくありません。どうぞ、ごゆっくりと。」
黒パンの耳を取り除いて、肉と野菜を挟んだだけの簡単な料理。それに深皿に盛った熱いスープ。が、いつもの執務室で食べる昼食なのだが。と、ワクス。
「一品多いが、この皿の小さい肉は、鵞鳥か!」
「はい、宮廷で美味しそうに歩いていましたので、奮闘いたしましたわ。」
「ははは、それは愉快だ。ソワレに捕まる鵞鳥はおるまい。」
「まぁ、失礼です。謝って下さい。」
ソワレこそ失礼な物言いなのだが、その顔の表情といい身振りといい、憎めないのだった。
「そうか、捕まえたのか。それで、どっちが勝ったのか!」
「もちろん、鵞鳥さんですわ。突かれるのが怖くて庭師に叩いて頂きました。」
「そうか、これは美味しいぞ。食べるか!」
「いやですよ、恐れ多くも陛下のお食事ですから。」
「そうか、ならば今日は完食するしかあるまい。」
「そうですよ、いつもいつも、お残しされますから私の料理が美味しくないかと、勘ぐってばかりです。今日は、お側において頂きありがとうございます。」
この会話ののちにオレグは昼食を摂った。
オレグはソワレの感謝の言葉には、無言で答える。少し落ち着くようにして、ワクスを飲んだ。ソワレはテラスのテーブルの横で律儀に立ったままだった。歩けば床の板の音がするから直ぐに分かる。音がしないから動いていないことになる。オレグからは少し首を捻らないと、テラスのテーブルは見えない。
そう、ソワレに返答するためには立ち上がる必要があるのだ。身体を捩じって返事をするのは可笑しく見える。
オレグはソファに深く座り直して頭を天井に向ける。暫く一点を見つめて意を決した。
「ソワレ。」
「はい。」
オレグはソファから立ち上がり、横のままでソワレの名を呼んだ。
「実は夕方になって、父の側室が俺の弟と共に来るのだが、終日、二人の世話をお願いしていいか。いや、これは命令だな。俺から執事には申し付ける。俺はあの二人が何を考えているのかが理解出来なくて、だからいつもどういう顔をして会っていいのかが判らないのだよ。可笑しいと思うのだろうが、頼む。」
「はい、ご用件、しかとお受けいたしました。それで、」
「あぁ、33歳と15歳だ。」
「そうですか、もう15歳になられますかか~。」
「?……。」
「お子様はお一人なのですか?」
「そうなんだ、俺が小さい時に幼児だった弟にな、お湯をかけてさ。それからは『もう子供は産みません』と言わせたらしいのだ。」
「まぁ、陛下らしいですわ。とても安心いたしました。」
「そんな俺の、幼児虐待事件を聞いてか?」
「はい、ご家族思いなのだと。」
「よせ、その言い方は嫌いだ。……では頼んだぞ。」
「も、も申し訳ございません。出過ぎた事を申しました。お許し下さい。」
「そういう事だ、理解が出来ただろう。」
「はい、もう十分に、でございます。」
「そっか。」
「失礼いたします。また明日のお昼には参ります。」
オレグは軽く右手を振って応えた。ソワレが言っている時は既に、後ろを向いて執務の机に向かっていたのだから。ドアを閉めて出て行くソワレを感じとって、大きく伸びをした。
「く~今日は特別、憂鬱だな~。」
と、にこやかな顔をして言うのが、滑稽であった。
「俺は性格が変わったのか?」
*)ミサ
いつものように司教を呼んで開祭の儀が行われる。このミサに出席はしたくないから欠席してのだが。昨年は毎回毎回、20分おきに誰かが呼びに来たのだが。
昼過ぎの宮廷の教会で司教の言葉が流れている時間になった。例年通りにオレグは欠席している。だが、変わった点があった。オレグを呼びに来たのは大臣だけで他は誰も来なかった。ソフィアやリリーはオレグの事を知っているから、ピラッとも姿を見せない。というか、ただ単に不機嫌な夫や兄に近づきたくないのが、本音かもしれない。そんな事はどうでもいい。結果がすべてのオレグにとっては。
「今日は大臣だけだったな。静かでいいや。」
ミサとは、死んだ者を生贄とする意味があるのだが、キリストに生贄を与えるとでもいうのだろうか。供物は生贄の代用品であろうが、(きっと?不明)
「俺が殺したんだから、ミサには行けない。大臣が喪主だ!」
と、思っている国王なのだから。
「どこも、不思議なことはない。」
「執務室の前が騒がしいのか?」
と、オレグは手を休めて聞き耳を立てたが、人の声は聞こえなかった。
*)晩餐会
こればかりはいくら国王の権力でも、欠席は許されないだろう。
「あ~、いやだいやだ。とうとう時間になってしまった。そろそろソフィアが角を出して来るころだ!」
「オレグ、まだ着替えてはいないのでしょう?」
ソフィアのドアのノックの代わりの言葉が聞こえた。
「あぁ、まだだが。……もう時間か。」
「そうですよ~、嫌でも行きますわよ。メイドを50人用意いたしました。」
「王宮に50人ものメイドは居ないだろう。どこに居るのだ?」
「はい、10人力のメイドが5人ですもの。50人ですわよ。それくらいに、今日の敵は強いのですもの。」
「この俺が?……。」
「さ、みんな、襲いかかってちょうだい。多少の礼儀違反は私が許しますから。」
「おいおい、それはないだろうーが~! 国王は労わってくれ~!」
「はいはい、リリー、強制の呪文をお願いね。それも一番強い呪文ね。」
「はい、お姉さま。……では、行きます。」
「オレグお兄さま~!」
リリーは思いっきりオレグに抱き着いた。
「わ、わ、わ、わ~ぁ!!!!」
「はい、すっぽんぽんになりました。この服を全部着るのですよ。いいですか?」
「はい、ちゃんと着ます。」
「陛下、遅いではありませんか。ご来賓の方々はシビレをきらしてお待ちになられてあります。お詫びの言葉と共にお入り下さい。……、その顔ではダメです。こうやって、きりっとした表情で臨まれて下さい。」
「こ、こうか、では、大きい声で入ろう。」
「皆の者、待たせたな。」
会場のざわめきが一瞬で収まった。
「国王さま、遅いのでお呼びにまいろうかと、みなで相談していましたのよ。」
(うるさい、妖怪ババァ!)とは、オレグの心の呟き。
「伯母上、申し訳ございません。服を思いっきり汚してしまいまして、さらに着替えるのに時間を取られました。」
「まぁ、そうでしたか、でも、私が持参していた服が無事で良かったですわ!」
「はい、ありがとうございます。サイズはぴったりでございます。」
(え、うそ。俺のウソがばれたのか!)とは、オレグの心の呟き。
「ソフィア、この服は?」
「はい、申し上げた通り、伯母上さまからの献上品ですわ。聞いていませんでしたか?」
「あぁ、聞いていない。絶対に聞いてはいない。お蔭でウソがばれたではないか。どうしてくれる。」
「それは私の所為ではございません。国王さまが地雷を撒いてご自分で踏まれただけでございます。」
若い国王は、老齢の来賓や家臣たちに、王たる威厳を示さなければならい。こんな苦痛な事が他にあるのだろうか。宴会にいたっては倹約家の国王からしてみれば、豪華な食事を用意する。これまた国王には苦痛で顔が歪んでしまう。
「おお、国王さまが凛々しくなられましたぞ!」
オレグは大きいナイフとフォークを持って、大きい豚の丸焼きや牛の大きな部位を切り分けていく。もちろん、いつものように骨にはたくさんの肉を残しながら。
「ほら、次持ってまいれ。まだまだ足りない。お客人がお待ちだぞ。」
綺麗な服のメイドたちが料理を運ぶ。料理人は部屋の入り口で采配をしているだけである。料理を出す順番はメイドたちには理解が及ばない。大盤振る舞いによる国王の威厳。
「クソ食らえ!」である。
肉の切り分けが終われば、ようやく落ち着くのだが、国王とかはまだまだ忙しいのだ。肉の次は酒を振る舞わなければならない。
オレグは来賓の顔を見る事はできるが、ゆっくりと眺めて顔色を伺うことは出来ない。まぁ、その所為で晩餐会中は憂鬱にはなれない。顔色よりもテーブルに料理が在るのか、お酒が在るのか、を見て判断しなくてはならない。
「クソ食らえ!」である。
おべんちゃらを言いに来る者があれば、にっこりとほほ笑まずに追い返す。
「クソ食らえ!」である。
「あ~ぁ、煩わしい、……。」である。
例え、この食事の時に国王暗殺の計画が語られても、聞き分ける事は出来ない全く無防備になる一瞬でもある。毒を盛られるのは堪らないから、料理人が出す物以外は口に出来ない。隣のテーブルにたくさん残っているからと、持ってくる貴族が居て受け取っても、決して口には出来ない。
こんな他人が来るような宴会では、銀食器で対応する。だが、銀食器の意味を理解する者は、気にもかけてはいないのが実情だろうか。皆、同じだから。
「陛下、陛下。少し不審な動きが感じられます。ここは、少し席を立たれたら いかがでしょうか。私が思いっきりワクスを零しまして、テーブルの料理を全部入れ替えさせます。」
ソワレというメイドは良く人を観察できるようだった。この一言は予想外にオレグの心に響いた。
「いや、俺がふざけた振りをして周りに掛けていく。お前は俺を制止させるようにして料理を床に落とせ。」
「はい、承知いたしました。」
オレグは来賓の者から笑われるのだが、気にせずにワクスをぶちまける。
「陛下、陛下。もうお止め下さい。陛下、・・・うわ~、すみません。私が料理を零してしまいました。直ぐにご用意させて頂きます。」
「おうおう、構わん、構わん。だが、俺は中座するからその間に頼むぞ。」
「はい、陛下。申し訳ございません。」
この料理を片付けて配膳する間に来賓らの顔色を伺った。笑わなくて、しかも口を歪めるであろう人物を探した。
「居た! ポーランドの国王の息子と、国王の側室だけが笑っていない。」
ソワレはすかさずメイドたちに命じた。
「この料理だけは別で保管なさい。決して払い下げてはなりません。全部私の部屋に運んで頂戴。」
「はい、メイド長。ご指示のようにいたします。」
ソワレは口だけでなく、メイドの行動にも目配せて、料理の行方を目で追っていたのだ。
「うん、大丈夫だ!」
「メイド長。」
「あ、これは私が食べるのではありません。可愛い子ブタに食べさせるのです。」
この意味はメイドたちも理解していた。だが、今まで子ブタが死んだとも聞いた事は無かった。だからソワレは心配したのだった。もし、誰か少しでも隠し持ったのならば恐ろしい結果もあり得るのだから。
「はい、承知いたしました。」
「それと、あなたたちは全員交代なさい。新しい料理は交代の者に運ばせます。」
「はい、承知いたしました。」
料理が随時運ばれたので、ソワレは休憩中の国王を迎えに行く。
「陛下、ご用意が整いました。」
「ありがとう。少し遅れて行こうか。」
「はい、それがよろしいでしょう。」
「犯人は見つかったのか!」
「はい、ポーランドの国王の息子とお付の国王の側室でございます。」
「そうか、見送る時にきつく睨んでおくよ。」
「この二人には夜食として、引いた料理を飾りたてて運んでおきます。」
「死んだら困るだろうが。俺が返り討ちの毒殺にしてどうする。」
「はい、すみません。国王さまが毒殺されと事になりますね。」
「だから、はっきり言って持って行けばいいのさ。」
「まぁ、なんと申しておきましょう。」
「そうだな、『お二人のお忘れ物です、』とででも意味が通じるだろう。」
「はい、承知いたしました。『これは陛下からの差し戻しです。』と、追加で申しておきます。」
「ハハハ……。愉快じゃ。」
国王毒殺は、闇に流れた。そう、子ブタが死んだ……、悲壮な叫び声と共に。
*)犯人捜し
ひと波乱を起こしても良かったのだが、ここは『大人の対応で!』と、ソワレから言われた。国王毒殺は一人の家臣にのみ報告される。宮中に要らぬ憶測を侍らせて回る必要はない。この処置は当然王妃やその妹にも伏せられた。
テーブルを乱したことについて、『オレグは大声で申し訳ない、』と謝った。来賓の者たちは笑って、皆は口々に何かを言っているが、オレグは聞こうとはしなかった。
「クソ食らえ!」である。
宴会も後半になると、貴婦人は席を立つ。食べすぎた腹のベルトを緩めるためである。だからこれらの事は着替え”によりカモフラージュするのが常である。
「おやおや一段とお美しくなられましたな。」
「まぁ、嬉しいわ。さぁ、飲みましょう。」
と、言ってコップを差し出す貴婦人。差し出されたコップを満たすべく、貴族はワインを注ぐ。
「それで、この春のライ麦の収穫はどうでしたか、・・・・・。」
「はい、この春が過ぎると息子も18歳に・・・・・・。」
縁談の打診が始まることもある。
「クソ食らえ!」である。
開宴から二時間が過ぎたであろうか。大臣が国王の元に来て耳打ちをする。
「陛下、そろそろお時間でございます。」
「そうか、ソワレをあれの後ろに待機させておけ。会話を聞き逃すなと伝言を。」
「あれ? でございますか。」
「そうだ、あれと会話と言えば分るから早く行け。」
「はい、承知いたしました。
大臣はソワレに伝言を伝えるために、一度中座した。ソワレは国王の傍に居ればいいのだが身分も違うし、家臣が居ても場違いででもある。大臣がソワレに耳打ちしていてそれに頷いているのが、横目で確認できた。ソワレはしっかりと国王の方を向いて見ている。意味が伝わったことを確認したオレグ。すぐに家臣が戻る。
「陛下。伝えてまいりました。」
「ああそうだな、、俺のせいで肉が無くなったのだな。」
「まぁ、喜んで居る者も多数ですが、今日は来賓の方々にはお詫びの事で締めて頂きましょうか。」
「それもテーブルの食材を早く払い下げないと、皆も腹を空かしているだろうし、これ以上ブタ共に食わせるのは忍びない。」
「陛下、お言葉が悪~ございます。もし態度にでも出ればなんといたしますか。」
「なに、いつもの事だろう。気にする輩は最初からここには居ないよ。」
「まぁ、それもそうでしょうが、出口に土産の品々をご用意しておりますれば、私の指示にてお配りをお願いいたします。」
「恒例とはいえ、嫌じゃのう。」
「陛下!」
「……。」
「ご来賓の方々様、申し訳ございません。私が料理をぶちまけたせいで厨房の料理までもが無くなってしまいました。つきましては長旅でお疲れでございましょうから、お部屋をご用意させております。ここはお休みして戴ければ、そのありがたいのですが。」
「はい陛下。今宵はご馳走をありがとうございました。」
皆々は億劫な感じで席を立つ。ソワレはポーランドの国王の息子と国王の側室の女の後方に、白いテーブルクロスを折り畳んだ状態で持ち屹立している。連れが居る者は連れと話しながら席をたつ。相手が婦人ならば男が先に立って、婦人の椅子を軽く引いている。オレグが観察できるのはここまで。
「さ、陛下。出口でお見送りを!」
「そうだな、しっかりと握手をして見送ろう。」
「はい、しばしの我慢を。」
「うむ。」
オレグは来賓と握手をしながら、大臣から言われるままに来賓の代表に土産を手渡していく。
「クソ食らえ!」であった。最後の客を見送ってオレグは急いで元のテーブル席の椅子に座った。すぐさまソワレが傍に付く。遅れてソフィアがオレグに労わりの言葉を掛けに来た。
「陛下!」
「ソフィア、今日はご苦労だった。二人して休んでくれ。なぁに、俺はこれから食い残した料理を頂くのだから。」
「まぁ、それ、本気で言っているのですか? でしたらお部屋に運びましょうか? それとも、た・わ・し?……。」
「いいや、今晩は疲れたから寝るよ。床掃除は勘弁してくれないか。」
「まぁ、ほんとに酔ってはおられないのですね。ご一緒いたします。」
「いや、ここは大臣と相談したい案件があるから、二人は休んでくれ。これは命令だ!」
「あ、はい。申し訳ございません。」
ソフィアはいつになく険しい表情の夫の顔を見たのだった。いつもは自分に対して優しい笑顔で居てくれるのだから。この表情の差は大きい。執務室では難しい顔をする時もあるのだが、ソフィアはいつもいつも執務室には行く事はない。部屋から出てくるオレグを自室で待つのが常だから。それでも難しい顔が今回はとても険しいようになっていたのだろう。ソフィアに続いてリリーも退室する。
「ソフィアさま、リリーさま、申し訳ございません。お休みなさい。」
とソワレが深々と頭を下げている。
「はい、ソワレ。オレグをお願いしましたよ。」
「ありがたいお言葉、痛み入ります。」
とソワレはさらに深々と頭を下げるのだった。
ソワレはソフィア姉妹を見送ると急ぎメイドたちに命じた。
「あなたたち、ここは陛下や私たちの三人にして下さい。後で私が厨房へ参りまして指示をだすまで、入室してはなりません。」
「はい、メイド長。承知いたしました。後はお願いします。」
「あ、ごめんなさい。他の者にも伝えて頂戴。」
「はい、失礼いたします。」
メイドたちが出て行く。ソワレは念のために会場入り口に、入室禁止の札を掛けるという徹底ぶりだ。そうして屋内の扉の前にも椅子を置いてしまった。
「これでよろいいでしょう。陛下、」
「大臣、どうだった、あの二人の素行は。」
「はい、私にはこれという仕草は見せませんでしたが。」
「だろうな。それで、ソワレは何か二人の会話が拾えたか。」
「はい、一言で申せば、『残念だった!』でしょうか。毒を仕込んだ方法の手口が判りませんが、どうしてばれたのか、怪訝そうに話していたようにも思えます。ですが、故意に主語を省略しておりまして、私からはそれ以上の判断が出来ません。」
「そうだろうな、ばれるような方法だはなかったのだろうが、ソワレが良く気づいてくれたから俺が生きているのだろう。だから嬉しいぞ。」
「はい、お役に立てて光栄でございます。」
「陛下、ではあの二人はいかがいたしますか。帰りの道中で野盗を差し向けるのも、一考かと。」
「そんなことはよしてくれないか。国としての対応が疑われる。やるなら他国でやってくれ。他に何か手はないのか!」
「はい、あの二人の部屋には、あの部屋”をあてがいました。聞き耳が出来ます。」
「ならば早く行け、聞き漏らすなよ。」
「はい。直ぐに。」
「ソワレ。このような宮廷の裏側で、さぞかしがっかりしただろうな。」
「いいえ、いたって普通かと思いますが。」
「ワハハハ……。これが普通だと言うのか、ソワレこそ異常だとも、そうさ。ワハ、アハハ~!」
「そう、何度も笑わないで下さいまし。本当にバカにされたようで、気分がよろしくはありませんわ。」
「すまん、すまん。だが、ソワレ。ここに来るまでどこに居たのだ。」
「内緒でございます。お話は出来ません。」
「私、お腹が空きました 、これ、頂きますので怒らないで下さい。」
「おうおう、食え。そうして、なにかヒントを考えてくれないか。銀の器には異常が見られなかったから、肉の内部に仕込んだのか。」
「はい、先ほど下げさせました料理を再現させております。なにぶん、ブタさんが即効で死んでくれたのならば判断が出来ますが、こればかりはどうしようも。」
「ないわな。当然だろうさ。肉は一口で食べるものではないから、一口で口にすものはこの中でなにになる。鵞鳥のゆで卵でしょうか。柔らかいので中に入れるのもたやすいでしょうし、手で隠せる大きさででもあります。」
「そうか、まだ卵が残っているのであれば、また子豚に食べさせてやれ。」
「はい、しかと。」
「きになっているのだが、その下げた料理はメイドはくすねてはいないだろうか。自分では食べなくても、家族に持って帰るとかしてはいないか。」
「はい、その点はしっかりと見極めておりますゆえ、ご安心ください、」
「では、ソワレ。探りに何かを持って行ってやれ。反応を見たい。」
「そうですね、国王さまからのルームサービスとか、普通ではありませんもの。」
「普通でない者が言うのだ、いたって普通に聞こえるから、やはり普通か。」
「はい、ご来賓に皆さまには、明日の朝食はお部屋に運ぶように手配いたします。」
「あぁ、よろしく頼んだよ。」
これは今日、8時間かけて書いた次回作の物語の第1部になります。この人狼夫婦と妖精ツインズの旅が終わりましたら、新しい物語のスタート部分にいたします。ですが、まだこの人狼夫婦と妖精ツインズの旅は、あと1年は続いているかも知れません。その先も? この物語も時々更新で、ようやく1年が過ぎたばかりですし・・・。なろうに書き始めて今月で1年と5か月になりました。
ちなみにこの小説家になろうの作品は、読み切ったのは一つ、他二作品は途中で放棄、今は気になった作品を読みかけています。ですので私の文章としてはすべて37年前の高校生レベルで止まっております。難しい単語は少ないペーペーです。今後もよろしくです。