第165部 ソフィアの悲劇と魔女の悲劇
1248年12月23日 エストニア・ハープサル
*)ソフィアの悲劇とWの悲劇
「ごめんなさいね。随分とお待たせしちゃって。」
「どうぞお構いなく。あのままお忘れになられて構いませんわ!」
「そう拗ねないでください。今日から毎日お腹をさすって可愛がってやりますから、ほら、三回まわって『ワン!』……さぁ早く……出来ないの?」
「んなこと……できるか!」
「ようソフィア。呼んだかい?」
「あっゾフィ。ゾフィの活躍とても凄かったってね。良かったわ! 姉としてもとても鼻が高いわ。」
「ち! お前、生まれる前から鼻は高かっただろうが。お姉さまなだけに!」
「ちっこいゾフィに言われたくないわ。フン! それでね、この私がリリーから貰った犬のペットを紹介したいの。……ほら、三回まわって『ワン!』。」
「ヴァイキングが負けちまって落ち込んでいるのだろう?」
「だから元気付けようと芸を仕込んでいるのよ。」
「この魔女、全員集めて十本の手で腹を揉むのか? んなことしたらあのバカがとても喜ぶぜ!」
「そうなのよね、でぇも、この前ぶっ叩いてもろに首を飛ばしたじゃない?」
「あのバカ、それ位ではめげないぜ。また首絞めてちょん切るかぁ?」
「お前たちなにを言っているの、イヤよ! 早く解放しなさい。ドラキュラ伯爵さまが黙っていませんわ。」
「フン! ドラキュラは自分ではなにも出来ない腰抜けだろうが、だからオオカミや漁民それにヴァイキングを寄越すのだろうが。」
「ドラキュラ伯爵さまはたくさんの領地を持っておられますので、お忙しいのですからね。それに拠点は遠いのだし。」
「ほほう、その拠点とは、ど・こ・か・し・ら・ね・?・?」
「知らないわ、あの方も知らないというのに、どうして下々の魔女に教えるものですか。考えてみなさいよ、その犬の小さなオツムで!」
「バコ~ン!!」
「えぇ? 誰のお頭ですってぇ~!!??」
「犬のお頭に決まっていますでしょう? 漢字で書けば同じだもの。」
そこにニコニコ顔でヴァンダ王女とゴンドラが現れる。ゴンドラも”機嫌がいいのだった。
「どうしたのですか、ミルチャ?」
「お母様!」
「ケッ、ぷ、ぷ、ぷぷぷ……。ギャ~ッハッハッハ~ぎゃ~~~!!」
「バコ~ン!!」
「え~い、うるさい!」
突然笑い出した魔女をソフィアがぶんなぐる。
「ギャ~ッハッハッハ~、でも、ギャ~ッハッ~、これ、笑わずにはいられないよ~。もうお腹が痛い、痛いよ~、ギャ~ッハッハッハ~。」
「だ~って、あの方は男だぜ? ギャ~ッハッハッハ~、……あ! しまった! やってもうた!」
「ふ~ん今の言葉に重大なヒントが隠されていますのね。」
「いいや、可笑しすぎて下っ腹に力入れ過ぎてよ、漏らしちゃったよ。ちょこっと妹を呼んで替えの下着を貰えないかな。」
「バコ~ン!!」
「え~い、うるさい! そのうち乾くさ。」
「か~!わ~! クサ!」
ゾフィがにたにたと嗤っている。
「うるさい、冗談はよしとくれ。」
「なにが冗談よ!」
「そこの女男が言っただろう?」
「あぁこれ、男女だよ、それで……乾くさ……か~わ~くさ。臭!」
「ソフィア、そうでした、ミルチャはルーマニアでは男の名前です。だから……今思い出します、私の娘のむすめ~は~??? ヴァシリッサは奥方の名前だし~え~~と~~、」
「もうお母さま!」
「ケッ、ぷ、ぷ、ぷぷぷ……。ギャ~ッハッハッハ~、ぎゃ~~~!!」
「バコ~ン!!」
「え~い、うるさい!」
ソフィアは、またしても笑い出した魔女をぶんなぐる。
「ギャ~ッハッハッハ~、でも、ギャ~ッハッ~、これ、笑わずにはいられないよ~もうお腹が痛い、痛いよ~、ギャ~ッハッハッハ~。」
「うるさい、黙れ!」
「お前らが、母娘?……母娘だと~? 笑わせるな~よ。何かの間違いだろ、それ!……ぜ~ったいに変だぜ!」」
「ねぇお母さま!……私、お母さまが出来て嬉しいのです。お母さま?」
「ん~~~~間違えたわ!!」
「ぎゃ~パンダのうそつき、チャイナに帰れ!」
ヴァンダ王女の言葉に驚いたソフィアは女王を罵る。そうしてわんわんと泣き出した。
「だってそうだろう?? ギャ~ッハッハッハ~、でも、ギャ~ッハッ~これ、笑わずにはいられないよ~。」
「ワ~ン、ワ~ン、ワ~ン。」
「お前、三回まわって泣けば!!」
「えっ!」
それは先ほどソフィアが魔女をからかった時に言ったことだ。
「でもソフィア、私は貴女のお母さんではありません。ヴァシリッサを手籠めにして作ったジンギス・カーンの娘なのよ。」
「そ、そうですか、ルイ・カーンが私の父親でしょうか。」
「それ、カーン違いよ。……ね!」
「バコ~ン!!」「バコ~ン!!」「バコ~ン!!」
ソフィアはあまりの衝撃に我を忘れて、無意識に魔女を三回殴って泣かせていたのだ。『ワ~ン、ワ~ン、ワ~ン』と。
ソフィアの先祖の名前が判ったと思われたが、またしても不明に戻った。それにヴァシリッサとジンギス・カーンの娘なのかも謎だが、
「ヴァシリッサとジンギス・カーンの娘なのは間違いありませんわ。」
「はい、それでいいです。パンダラッチャン女王!」
「んまぁ!」
ソフィアの悲劇だった。
「さぁ魔女、お前の名前は? あ、ああん?」
「Wです。」
「Wだけなの?」
「はいそうです。私たちは、W・X・Y・Zと呼ばれています、四人のうちの一人です。他に呼び名はありません。」
「おうソフィア。連れてきたぜ、火の精霊。」
「ではこのWがヘロヘロになるまで精気を吸わせてもらえるかしら。死ぬ間際までお願いね。」
「いいよウーグン。できるよな。」
「はいお任せ下さい。この私が足腰が立たないまで精気”を頂きます。」
「お前の足腰が立たなくなってどうすんだい。」
「この魔女さん、吸っても吸いきれないほどの魔力をお持ちですので、私はそのう真ん丸になって動けなくなります。」
「だったら他の二人も必要か?」
「でしたら、三等分で!!」
「ではゾフィ。それでいからお願いね。」
「あいよウーグン、先に乳房を吸ってろ。二人を呼んでくる。」
「いや、イヤ、やめて。お願いだからしわしわのお婆ちゃんにはさせないで、ねぇお願い。なんでも喋ります。」
「ほほう! なんでも話すのよね。さぁ最初はあの方とは?」
「はいミルチャさまです。」
「なんだ私ではないんだねって、誰だい。そのミルチャという男はさ。」
「はい、ヴラドⅡ世さまとそこのヴァンダ王女の子供です、そこの浮気女の息子ですわ!」
「んまぁ私の息子が生きているのかしら。」
「ドラゴンの長いものを食ったようだから長生きなのでしょう?」
「やいやいやい、きさま!……俺の長いもの”なのか!」
「そうだよ、まだ残っているかもよぉ~~??」
「グググ・・・・・・!!!」
「ゴンドラ。怒らないで。またリリーに飛ばされるわよ。」
「構わん、この女食ってやる。生血なんて生温い。」
「カプっ!!」「あれ~!」
「ゲゲゲ。俺の血の味が混じっている。」
「するとなんですか、この魔女はミルチャの娘かです~!?」
「あ、バレたぁ?」
「まぁ愛しいヴラド二世さまの娘なのね。お母さまはどなたかしら。」
「知らない、どっかの腐れ魔女だと聞いているわ。……ホントよ!」
オレグはゾフィと火のウーグンスマーテを使って蕪村、いや不遜な事を考えた。なので船に居ないゾフィらをふらふらして探していたら、居た。どうしてか集会所の裏手だった。
「お前たち、随分と青春しているのだな。みんなで魔女ちゃんをリンチにするってかぁ?」
「なんだ、バカが来た。オレグのためにだな、こうやって俺が手を汚しているんだよ。来るな、どっか行け!」
「お前、ノアなのか?」
少し背の小さいブサイクな男が魔女の襟首を掴んで今にも殴りそうな勢いで静止していた。
「どうぞ続けてくれ。俺には無関係だ、そこのスケ番の命令なのか?」
魔女のWは三分の一の精気を吸われて随分と縮んでいる。
「そこの年増の女教師はヴァンダ女王なのか!」
「そうね、この魔女は私をバカにしたから、可愛がっているだけよ。顔は殴っていないわよ。」
「おいノア。お前、いったいどこを殴るつもりだい?」
「顔。」
「邪魔したな、二人には話があるからまた昼過ぎに出直すよ。スケ番とノアにだがな。」
「ケッ、俺には用はないぜ。他所に行きな!」
「だったらそうする。よろしくな!」
とオレグはすでに背を向けて歩いていた。右手は少し上に上げて振っていた。
「キザなやつ!」
「う~ん、オレグ、素敵だわ~!」
年増の女教師に扮した女王は特別感想はないらしい、無言だ。
昼過ぎたころに一人のプリムラ村の青年がオレグを訪ねてきた。
「こ~しゃく、こ~しゃくさま~。」
昼食のワクスを気管に入れてむせて、そうして収まったらシャックリをしていたところだった。
「あ、いた居た、こ~しゃっくりさま。探しましたよ。出来たんです、出来たんですよ~おおおお!」
「おお、そうかそうか。出来上がったのか。これは今後が楽しみだわい。直ぐに鋳造に入るとするか。」
「はい、……。」
「それで鋳型は二つか!」
「そうです、二つも在れば細々と作ることが出来ます。」
「それで候爵さま、しゃっくりは治りましたね!」
「あ、・・・・・・ホントだ、ゴル、助かったぜ!」
このゴルとの出会いは昨年になるか、その時の経緯だが。
このゴルという青年はコーパル職人で彫師でもあったのだった。小さい所も馬鹿丁寧に掘り進んでいる。その技術の繊細さにオレグが彫り込んだ?いや、惚れ込んだのだ。それで攫ってきたのだが暫くして、
「お前、仕事がトロイからクビにする。」
「ええぇぇ~! そんな~今まで一所懸命に仕事をしてきたのに~。」
「それがダメなんだ。こんな二級品を作るのに一所懸命ではダメなんだ。だからお前はクビなのだ。オヤジのようにちゃらんぽらんで仕事が早い者が俺には欲しいのだよ、解るか?」
「あ、あん? 全然。」
「こんな処で一所懸命に仕事をされたのでは俺の儲けが無い、いや少ないのだ。オヤジみたいに数をこなしてくれないと困るんだ。なにせ十万個ものコーパルが在るのだから。」
「十? じゅう! 承知しております。ですが手抜きはしたくはありません。」
「ま~いい。次の仕事を任せる。この紙に書いた模様の鋳型を掘れ。個数は多い方がいい。出来るな? 寸分も違わぬものが、出来るな、作れるよな!」
「は、はい。お時間を頂ければ十個でも。」
「よし、お前には特命を出す。この大きさで鋳型を作れ。金*を作るからな。」
「はい、特命、戴きました。」
そうして今日という日が来たのだ。
「ソフィア、ゾフィ。今朝の校舎裏で言ったがそこの魔女は俺が頂く。よいな。」
「こんな食べかすのゾンビはもう要らないわ、オレグの好きなようにして。でも抱き枕にはしないでよ。」
「こんな魔女を抱いて寝たら殺されるだろう。それよりも俺の長大な作戦本部に起用するのだよ。嫌だとは言わせないぞ。」
「やいオレグ。誰もイヤだとは言っていないだろう。でもよ、どうやってこの阿婆擦れ、すれっからし、をどこで使うのさ、それに紐はどうやって結んでおくのかな。」
「プリムラ村で使う。紐は多分大丈夫だ、目的はオレグ金貨の鋳造さ!」
「ゲゲ!!」x2
ソフィアとゾフィが驚くのむ無理はない。どこぞの候爵は自国の通貨を鋳造しているし、自国で作れるのならば鬼に金棒というところだ。
ヨーロッパではユーロにして商業圏を作ったが、いかんせん、自国で自由に印刷が出来ない。こうなると国の経済がやや傾きかけると、にっもさっちも出来ないものだ。これが自国で金が刷れてユーロと両替ができれば、直ぐに国の経済が傾くことはない。北欧の小国ではなおさらだ。輸入が多くて輸出が少ないならば、金は無くなってしまう。
共通の通貨には恐ろしい危険が潜んでいる。日本みたいに経済が大きくなれば刷り放題でいいのだ。北欧の小国と書いたら失礼だとは思うのだが、大きい国に人口は金と同じように流れていく。今後は苦しい国の財政となっていくだろう。だから自国で産業を興して国の元で育てて国営にするしか方法がない。
一方、このずるいオレグには国はないが金がある。毎年毎年ライ麦を購入して西に輸出ができれば、なんぼでも外貨・金貨が手に入る。蓄財はいったいどれ位になっているのか、オレグでもつかみきれていない。そう、どんぶりなのだ。しかし手持ちの金貨は沢山持っているし、ヴァイキングの財宝も手に入れた。
今後はこの地のコーパルを西に輸出すれば、どんどん現金が入ってくるのだ。持ち腐れにしておくのはもったいない。
悪貨は良貨を駆逐する、だ。これは金本位制でしか成り立たない。オレグが自分の通貨を流して、ライ麦一袋をオレグの通貨では一枚で売る。他国の通貨では一枚と半分だったらどうよ。当然金貨一枚の方がいいに決まっている。
ま、先に国中にオレグの金貨を流して流通させる必要があるのだが。ここは天才詐欺師のオレグの腕の見せどころだろう。
オレグは金貨の両替にコーパルを使う予定でいる。だがその前に、コーパルとオレグ金貨、名づけてコーレグ金貨を大量に流す国を、そうエストニアを選んでいた。
「こ~しゃくさま、候爵さま、夢から覚めましたでしょうか?」
「あ、ああ。俺は……を見ていたのか。あ~覚めないで欲しいものだ。」
「いいえ候爵さまは夢を実現されるのですよ。夢で終わらせてはいけません。」
「あ、お前が言うとおりだ。金型が終わったら俺の右腕にしてやろう。」
「はい喜んで~!」
(ま、俺のカバン持ちな!)とこころで呟いた。同じ右腕だ問題は無い。
魔女、Wの悲劇はここから始まる。
「お前、火の魔法が使えるよな。」
「ふがふが……。ふ~がふが!」
「頬の筋肉も無くなっているのか、直ぐに俺が充填してやる。だから俺の言う事を無条件で呑め。出来ないのならばこのまま一生懸命、生き永らえる方を選べ。どうする。」
「ふがふが……。ぶがぶが!」
「おうよしよし。部下部下になると言っているのだな。」
他の者は理解できなので唖然としてる。
「では口が聞けるようにしてやる。」
と言ってオレグは魔女のほっぺを二度殴った。
「これでいいだろう。どうだ!」
「ふがふが……。ぶがぶが!」
「それでは同じではないか。俺の力量が不足なのか!」
「オレグさんオレグさん。口が利けるようにしてやって下さい。口が聞ける訳はないでしょう。」
「あ! ホントだ。シーンプは博識だな~!」
「オレグさんが貧相なだけです。」
「プププ……。」
プププと嗤うのは誰だろうか。
「シーンプ、お前だな。この計画にはお前は入っていない。早くイングランドに帰れ、帰省しろ!」
「いいえ、この娘たちを嫁にするまでは帰りません。しっかりと寄生させて頂きます。」
「ふん……寄生獣めが!」
今度は魔女Wの両手を取って、オレグの気力を送った。
「あらあらまぁまぁ、膨らんでいくわ、胸は膨らまないでいいのに。」
「……? ……? オレグ、その魔法はどうしたのかしら?」
「ソフィア、これは俺の気力だ、お前らの魔法とは違うのだ。分からないだろうが解ってくれないか。」
「いいえ全然。理解不能です。」
「ズン、ズン、ズン、・・・・・・・ズン、ズン。」
「Wさま、めでたく復か~つ!」
「よう、よく膨らんだな。食い過ぎだろう。あちらの要望でちっぱいにしたが、」
「いいえ、オレグさまには、まだまだ魔力は残っております。」
「えぇ~~~!! オレグに魔力ですと~!!」
「はいオレグさまには財産と同じくらいの魔力が存在しますわ。」
「えぇ~~~!! オレグさま、ですと~!!」
この場の全員が驚いた。さらに全員が驚くことといえば、
「はい私、オレグさまの物になります。ご自由にお使い下っさって構いません。添い寝だっていたします。寝首もきっと可愛いでしょうか。」
「い、い、いや、添い寝は要らぬ。コーレグ金貨の鋳造に携わってくれないか。命は俺が全力で守るから。」
「まぁ~~~~嬉しいです~~~~~、オレグさま~~!!」
「ばこん、バキ~ン!!」
「黙れ、泥棒猫のブタ! ル。」
「?……ブタ??」
「いいえ間違えたわ、シュヴァインでいいわよね。」
「ブ~!!」
「おうW。とってもいい名前だぞ。これはうけるぞ、シュヴァイン!」
「もうオレグさま、私と結婚して下さい。」
「オレグもブタれたいのね。シュヴァインにされたいのね。どうしてこんな貧相な貧乳をオレグのトリコにしたのよ。」
「胸の成長はソフィアに回しただろうが、それ以上に何を望むのだ。」
「もう知らない、知らないわ。」
「おうシュヴァイン。プリムラ村に行くぞ、付いてこい。」
「は~いオレグさま。私、一生懸命に働きますわ!」
「あぁ、もちろんだとも。死ぬまで頼むぞ。」
キルケーが人間を豚にして楽しんでいるが、オレグにいたっては、キルケーよりも扱いは悪いようだ。呼び名は同じでも、食われることなく一生働くのだから。そのシュヴァインはまだ全部を話していないのだがうやむやになってしまった。
「シュヴァイン、最高!!」
*)オレグの金貨
ゴルが掘った鋳型の二つは、かなとこだった。この二つの穴に溶かした金を流し込んで、直ぐに上からもう一つの金型を押し込んで金貨を作る方法だった。
「やっぱりゴルはクビだ、この方法では表裏が合わない。偽物と直ぐにバレてしまう。改善できなければ海に投げ捨てる。」
「いくら不良品だからと海に捨てるのはもったいないです。再度鋳潰して金貨にしま……せ……んと?? え~!!捨てるのは私のことですか~!」
「ま、そうなるわな。で、どうする。」
「でしたら上の金型を鉄板に溶接して、鉄板には丁番を着ければいいのです。」
「分かった、直ぐに十ま枚ほど作って持ってこい。」
「ですが、この中世ヨーロッパでは鍛造、叩いて作るのが普通です。多少向きが変なのが普通なのですよ。だから先ほどの方法が理にかなっております。」
「そっか、ではそのようにしてくれ。」
オレグは届いた金貨と、別に懐から金貨を五枚ほど取り出して比べた。
「おう本当だな、向きが違うな。しかしどれもこれも傷だらけだ。この金貨に至っては十分の一が無くなっている。削ったものを十個集めれば金貨がおおよそ一枚は出来る。そうか、そうなのか。そのうちに実戦してみるか。それに比べてコーレグ金貨の出来が素晴らしい。」
と感嘆しているのだった。
こうしてやや高級な金貨が作られていくのだった。
「最初が肝心。しっかりと作ってそのうちに銀を混ぜればいいのだな。」
ようやくエストニアから物資を積んだルイ・カーンの船が到着した。嵐で来れないのは判っていたがこれでは遅すぎだろう。オレグは以前の候爵の服を着て船を出迎えた。船員は驚いてシャキーンとなって働いた。
「おうお前ら、遅かったな、これはお前らの駄賃だ。祖国で使ってくれないか。都合百枚を用意した。ギルドに持って行くのは御法度だぞ。守れない時には、そう……で、……だぞ。」
「へ、へい。承知いたしました。ですが、なにと交換したらよろしいので?」
「こ、交換!!……。シュヴァインを買って持ってこい!」
「へへ~~っ!」
「次はもっと早く来いよ。」
「はい、承知しました。」
十日が過ぎて次の船が入港した。
「お前ら、前回とクルーが入れ替えになったのか!」
「いいえ、それが、あいつらはどうしてか、贋金を持っていましてね、それでどうしたかと言いますと、」
「あぁ、どうしたのだ。」
「はい商業ギルドで豚を百頭買おうとしてですね、」
「ふんふん、」
「贋金で捕まりました。あと十日で打ち首ですね、ホント可哀想に!!」
「あちゃ~それはいかん。部下の命は粗末にできない。」
「そうですよ旦那。ぜひ助けてやって下さい。金貨1000枚で保釈らしいのですが誰も持っていませんし、だからと勇志を募ってカンパをしても半分も集まりませんでした。」
「そりゃ~いかん。リリー、おいリリー、居るか~。」
「はいは~い、お呼ですが、いったい誰を?」
「あぁそれな。少しまずいことが起きたんだ。前のクルーをここに召喚してもらいたい。出来るか!」
「えぇもちろんです。魔力は十分ですので、え~と十人ですよね。」
「あぁそうだ。十人だ。いけるか!」
「……んとこドッコイしょ!……十人をここにしょ~か~ん!!」
「ぎゃ、ふん、だ!」x10
「おうお前ら、どうしてここに居るんだ、今頃天国だったろうに。」
「ここがその天国なのだろう?」
首の締まる直前の者がそう言った。
「お前ら十人はプリムラ村の住人になって金貨の鍛造で働いてもらう。家族、不倫、呼びたいものは全部ここに迎えてやるぞ。どうだ!」
「選択の余地な~し!」x10
「誰か、ボランティアであの女を嫁にもらってくれないか。な、いいだろう?」
「選択の余地な~し!」x10
「んまぁ、それ! どういう意味かしら? 十人とも呪ってやる~ぅ。」
「選択の余地あ~り!」
「おうすまんな。あれはまだマリアさまだぜ!」
「うっしっし~!」