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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第三章 オレグvsアルデアル公
160/257

第160部 ソワレの秘密


 1248年12月20日 エストニア・ハープサル



*)女王と公爵


「ぎゃ~熱いじゃないの!」

「おう、0,五秒だったな。三分くらいはガマンするかと思ってたがな。」

「そこにおいででしたかヴァンダ女王さま。さ、話してください、ドラゴンの私を討伐封印したという勇者の事を!」

「なんのことかしら。私は知りません。」


「お母さま、私、思い出したことがございます。」

「なんだい、どうしたのかしら!」

「私、ヤドヴィガ(=ソワレ)の時に悪魔に襲われて、黒いマントのおじ様に助けてもらったような……そう、今日とは逆のような記憶が蘇ってきました。お母さま、この記憶はなんですか?……さぁお母さまも思い出してください。よもや忘れました、知りません、なんのことかしら! な~んての返事は絶対受け付けませんわよ?」

「あ~ら、なんのことかしら。私には記憶がありません。」

「お母さま、失礼いたしました。先ほどの言葉に『私には記憶がありません。』も追加させて頂きます。」


 このソワレの言うことを聞いてゴンドラは、


「おうそうじゃ。討伐された日に幼女の生贄を食らう時だったわい。美味そうな娘を食らおうとした瞬間に俺様が食らったのは一閃の棍棒だったわい。不意を突かれて伸ばした舌を切られて不覚にも俺は倒れてしまったんだ。倒れていた時に全身を撲殺されたように、なにもついていなかったぞ。」


「あらゴンドラ。可笑しな言い回しをするのね。そのまま死んでおれば良かったのに残念だわ。そうね、なにはとても美味しく頂きました。ですから死してなおこのように私は生を謳歌いたしております。」


「あ、あ・あ・ああああああ!!!!!」

「あれ?……私、?……、可笑しなことを?……あ、あ・あ・あああああ!!!」


 ゴンドラはヴァンダ女王を指さして、ああああの驚きの言葉を大声で叫んだ。これに続いてヴァンダ女王もゴンドラを指さして驚きの声を上げた。キョトンとした二人の沈黙が続いてヴァンダ女王が、


「もう、あれはお前に返したではないか。恨むではないぞ。」

「いいえパンダ王女! 私はあの勇者となにを食らったという女は、絶対にぜ~たいに許しません。そりゃ~二百年の間にヴァンダ女王の精気を吸わせて頂いたので一つは復活いたしましが、それとこれは別です。」


「そうだったのかい、あの時の生薬はお前の…………。」

「フン! なにを今さら。」

「脚気で瀕死の私を救ってくれたのが私の騾馬ラバーでした。そうあの時は『お前の娘を連れて、万能薬を手に入れてくるから待っていろ!』と言われて、今にも死にそうだったのを必死にこらえていました。」


「そうよお母さま。私、黒マントのおじ様に連れられて暗い洞窟に置き去りにされました。そして、」


 ソワレはきりっとした目つきでゴンドラを睨んで話を続けた。


「そして言われたのです。『お前の母を助けたいと思うなら、これを持ってここから動くな』と。あれは人間の生血いきちだったようでした。暗くてとても怖かったのですが『お母さまの命、お母さまのご病気が治るのならば…』と心に念じて必死に我慢して耐えたのです。幼かった私は死ぬほど怖くてそうして、このバカ・スケベゴンドラに食べられそうになったのです。私はすぐに気絶しましたから、起きた時はお母さまのお元気な寝顔の横でした。そうです段々とはっきり思い出してきました。」


「ヤドヴィガ(=ソワレ)。公爵さまは確かにお前の記憶は全部、お前の生血と共に飲んで消し去ったと言っていましたが、どうして思い出したのです。」


「ビェ~~~!!!!」……「ドタッ!」


 ヤドヴィガ=ソワレはあまりの驚きで失神してしまった。幼女の全身の血を吸われて生きているはずはない。だったら今流れている血は誰のもの。そう思った瞬間に血の気が引いて卒倒したのだ。


「あれは私の、そう、元気になったときの血なのです。そうですか、お前が今も生きているのは私の生血を受けたからでしたか……。」


「ゴンドラ。私は知りませんでした、公爵さまから頂いた丸薬がお前のなにだったのですね、お前は私の命の恩人ドラゴンですのね。」

「ぬぬぬヌヌヌ……今さら知らなかったでは済まさぬ。ムムムむむむ……。」

「ではどうします? 私と娘を改めて食べてしまいますか?」


「何を言うか! 串刺しにして塩振って、焼いて食らってやるわい。」


「そうですか、串刺しはヴラド二世の別名でもありますね、串刺し公というのが公爵さまの別名でした。処刑はすべて串刺しにしたそうですから。ですが、お前はどうして串刺しにならなかったのかしら。図体がデカかったからかしら。変ですね~。」


「そんな処に突っ込んでどうする。この二つの目が縦に割れているのがその串刺しに遭った証拠だわい。ぬぬぬヌヌヌ……。」


 顔を真っ赤にしてより大きく怒り出すゴンドラだった。人型が維持できそうにもなくて、背中からは小さい羽が出てきた。大きくて固い鱗で覆われたドラゴンに串を刺せるのは、そう、両の目しかなかった。舌と下は切断されていたから?


「リリー大変だ、ここの全員が殺される。ゴッドランドの山奥にでも、そう、あの魔女の砦に熨斗のしの焼き印を入れて届けてくれ。すぐには戻ってこれないだろう。」

「はいは~い! ただちにゴンドラさんを逆召喚の転送をいたします。ですが?」

「そうか、贈り物の返礼が届くのか、だったらお前らを拉致した魔女の親分がいいだろう、あの方の事を訊きたいしな。」


「ただちに。ゴンドラをチョベリグ~。……憎き魔女と入れ替え召喚!!」


「えぇ~いワシはすぐに飛んで戻ってくるからな~~~、あれ~~~!!」

「消えたね、」「うん、消えた!」

「ホント消えてしまいました。で、この不細工な女がそうですか?」


 ここが何処だか解らないからキョトンとした、そうキョンのような顔だちの魔女がネグリジェ姿で転がっていた。


「なんだ、もう真夜中なのか?」


 オレグの一言であれから随分と時間が経った事に気が付き、


「グ~グ~!!」


 と全員の腹の虫が騒ぎだしていた。だがソフィアは腹の虫が収まらない。


「オレグ、どこ見て言ってんのかな~。そんなにこの女のネグリジェ姿が~?」

「ちゃうちゃう。お前の方が若くて綺麗だよ!」


「ここはどこ、私はだぁれ??」

「あんたは私たちの敵なのよ、大人しく簀巻きにされなさい。」x2


 と手早くソフィアとリリーが召喚された魔女を括ってしまった。


「ほ~ら、イモムシちゃんの出来上がり~!」


「俺、こいつをボコってもいいか、積年の恨みを晴らしたい。」

「ゾフィ、それは私たちも同じなのよ。」

「まてまて、その恨みは私もですぞ。」


 と四番目に名乗りを上げたのがシーンプだった。


「だったら俺は五番目か、家族への虐待。俺は許さん。」


「へ!、あ!、ん???・、あああああ~~~~お前ら~思い出した。砦をぶっ壊した、あああ~~~~!!!!」


 目が覚めたようで過去の事を思い出して騒ぎだすも、身動きができない。


「騒がしいので猿ぐつわをしておこうか。夜食が不味くなる。」


「そうね、娘のヤドヴィガ(=ソワレ)が起きる前に夕食を済ませましょうか。もう硬いお肉も柔らかくなっていますでしょう。少し臭いますが……。」

「なによ、ソフィアの所為じゃありませんからね。」

「おイヌさまではありませんわ。捕えて皮をいだ灰色****のことですわ。」

「リリー気を使って文字を伏せたようですが、私は気になりませんからね、私は……ええ、そう、それは我慢します。それで赤いの頂戴。」

「えぇそうですね、今クジラの肉を出します。」

「俺もそっちがいい。あれは食いたくない。」

「オレグさん、どの鍋にも毒もオオカミの肉も入っておりません。あれはウソですのよごめんなさい。」


 と言う魔女兼メイドだが実際には自分ら魔女の食べる鍋には入っていた。魔女にとっては精力のつく肉らしいのだ。


「そうか安心した。だが念のため鍋の肉は食わん。ここの肉は全部ボブらに回してやれ。」

「おういいぜ。全部俺らが食ってやるよ。サンQな。」


 と言いながら魔女に向かって手招きをしている。


「外が随分と騒がしいな。」

「はい、村人がお椀とお箸を持って集まっているようです。皆さん昼から何も食べておられないようですし、ここは肉の出処を秘密にしてあのお肉を全部食べて頂きましょうか。」

「でもよう、あとで知ったら卒倒しないか~? あの領主さまの下僕だ~、俺らは罪作りだ~と言ってよ。」

「大丈夫です。ここは便利なシビルに任せましょう。」


「よせやい。俺さまは便利屋じゃないぞ。」



*)炊き出し


「これはこれは村の皆様、正気に戻られましたか。無事でなによりです。」

「侯爵さま、俺らを許してけろ。知らないとはいえ侯爵さまを毒殺しようといたしました。ワシらを助けて頂いた恩とともに、ワシらはそこのクサフグを食べて幸せ気分で死んでいきたいと思います。」


「よせよせ死んでなにになる。仏様とは言わないでくれよ。神様にもなれないんだから、今晩は朝まで宴を開いて気を持ち直して頂きましょうか。ちょうど私らも今から遅い夕食を頂こうとしていたところです。」

「は~ありがたや、ありがたや。」

「リリー人数が多いから俺も手伝うよ。俺、クジラでも焼くか。」

「そうしてくださいな。でも今回は豚さんです。」

「ボブさんたちはたくさんの野菜を切ってください。サボったら具~にします、」

「魔女のメイドたちはお鍋と配膳の用意ですね。お肉は見えない所で、ですよ。いいですか、まだまだ肉は在りますから惜しみなくぶち込みなさい。」

「は~いお嬢様!」

「まぁ冗談でも嬉しいわ!」

「シビル、適材適所ね!」

「あいよ、でもよビールとワイン。少しもったいなくはないかい?」

「いいのよ、もうすぐ新年ですから、クリスマスはとばしてしまいましょうか。ここはどうでもいいようなお国柄なのですから。」

「へ~い。」


「お姉さま、そう突くじってイモムシをイジメないで下さい。食後の楽しみにとっておくべきですよ。」

「あんたも残酷なことを言うのね。少し遊ぶ程度だから許して!」

「そう懇願されてもリリーとしても遊びたいに決まっているでしょうが。」

「うん、わかった。」

「ゾフィたちは……役にたちそうもありませんね。放置します。」


「それにしてもこの集会所にはたくさんの鍋が在りましたかしら。かなり多いように思いますわね。」

「あ、火のウーグンスマーテ。お手伝いしてくれるのですね、ありがとう。」

「いいえ、チャッカウーマンですから火は任せてください。」


 そうやってリリーの指示に従い臨時の宴会が進んでいった。酒が進む頃にはやれ肉がない、野菜がない、魚がないだの、リリーは一息もつけないありさまになってしまった。酒はシビルの担当になっていたからその分だけは助かった。


「え~~いうるさ~~~い。全部出すから適当~に、しろ~~~~~!!!!」


 リリーはついに爆発して境界よりありったけの肉と野菜、魚等を出して外に全部投げ出してしまった。


「ほら、ほうりもん”よ! 適当に切って食べて頂戴。」

「お~!! すげ~ホルモン鍋か!」


 少し意味が違うが、ま、いいだろう。外に投げれば全部が全部ホ~リモンになってしまうというものだ。


「ふ~ぅ!! 疲れた。」



*)女王と侯爵 その2


 リリーは疲れてしまい最後には集会所の内部に結界を張ってしまった。


「オレグお兄さま、私もう動けません。新年までお休みを頂きます。」

「おう、いつもありがとうな。今日のお礼は何がいい。」

「はい黒川温泉にゆっくり浸かりたいです。」

「コロナが流行っているが、いいのか?」

「あ、そうでした。……来年にいたします。」


 オレグとリリーの会話が終わると一斉にヴァンダ女王に視線が集まった。


「な、なによあなたたち。私は大人しくしているではありませんか。尋問ならばそこのイモムシにお願いしますよ。」

「あ、これは明日からのお楽しみにとっておきます。さぁヴァンダ女王さま。女王さまと公爵さまのご関係は?」

「もう全部お話しいたしました。なにもありません。」

「逃しませんわ、お姉さまそこのソワレさんを起こして頂けませんか? そう、今お姉さまが足の裏をツンツンしていますからついででしょう?」


「そうね、ここは母娘おやこ対決で進めていきましょうか。ところでリリー、この場を仕切っていますがお疲れではなかったのですか?」

「そうです、とても疲れています。ですがここは疲労回復の娯楽ですわ。後はソワレさんが進めてくれるでしょう。」


 リリーは不気味な笑みをひた隠ししているようで小さな嗤い声が漏れていた。


「いやよ、娘は起こさないで下さい。お料理がもうありませんわ。」

「大丈夫。まだお汁カスがあります。ですからご心配には及びません。」

「まぁ……・し・……。失礼な!」


 リリーは境界の収納より可笑しな壺を取り出して気絶しているソワレの鼻先に数滴垂らした。


「ひゃ~ぎゃ~しぬ~!!」・・・・「ん~……。」「バタッ!」

「おいおい、また気絶させてどうすんだい。」

「今度誰かで実験してみます。もう一度垂らしてみましょうか。」

「いやダメ、止めてください。娘が不憫ですわ。」


 リリーの嗤い顔を見てヴァンダ女王が慌てて制止したのだった。

(これってゴンドラの脇の臭いと同じだわ!)


「リリー、それって、まさか!」


 オレグの鼻を衝くような異様な臭いが立ち込めてきたのだった。


「はい、オレグ兄さまのブドウで作りましたの。丸い甕にブドウの枝を敷き詰めてその上にブドウを、そう潰れたブドウを置いて栓をいたしておりましたら、たまたまこのような物ができましたが。」


「リリーそれって俺が喉から手を出して欲していた、あの臭いと同じようだが、知っていたのかい?」


「いいえ全然。今初めて聞きました。何を欲していらしたのでしょうか。」

「酢酸というらしい。文献でも読んではいたが、そのう、強烈に鼻を衝く臭いで薄めて料理にも使えるらしいのだ。」


「お兄さま、その臭いを嗅いだのはいつの事なのでしょうか。」

「遠い、み・・・・。」

「んん?? 遠いみら?……詮索はやめましょうか。オレグお兄さまは舐めますか……?」」

「あぁ、いや、このとんすいに少し入れて、それから鍋の汁カスを入れて混ぜる。……ん~!! いい味が出る、すっぱぅて旨いぞ!!」


 オレグはゆだれを垂らしているから発音ができていない。


「えぇホント。私お腹空いているから頂戴、ちょうだい!」

「ソワレ正気に戻ったのか?」


 ソワレはオレグから器を奪い取って、鍋に残った小さな肉と野菜くずをさかんに掬い取って喉を鳴らしなが飲んでいた。


「リリーもっと食材を入れなさい、早くしてもうお腹が空いて死にそう~!」(あのまま死んでいればよかったのに。)と心で呟くリリー。


「もう私はなにもかも掃き出して持っていませんわ。少し疲れが増えますが船の倉庫より召喚してあげましょうか。」

「うんうん早く、はやく。は・や・く。」


 ソワレは黒くて大きき目を潤ませてリリーの方にとんすいを差し出している。


「ドバドバ、バッ、チャ~ン!」

「リリーその壺も寄越しなさい。」

「んまぁ~……。」


 オレグの目の色が変わった。


「リリーその酢酸をたくさん作ってくれないか!」

「もう無理です、ブドウが在りません。」

「ワインとその枝と壺の中身を混ぜれば作れるさ!」

「ええ?……えぇ、さっそく明後日から作りましょう。」

「いや、明日からだ。」

「私、明日まで休ませて頂きますぅ。もうオレグには付き合っておれません。とても疲れました。……ゲート!」


 そう言ってリリーは船の寝室に飛んでいったようだった。ソワレは美味しい鍋が満喫できて、ヴァンダ女王は説明をしなくてすんだからかホッとしたようだ。


オレグは酢ができるので喜んでいた。


「新年の鍋には間に合うかな~!」


 オレグ、ゆだれちゃんと同じだね! でもでも自然発酵だから直ぐには出来ないよね~!!


 これによりブドウとブドウの枝を利用した食酢が作られるようになったとさ。めでたしめでたし。



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