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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
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第16部 領主との懇親会


 1241年5月2日 ポーランド・トチェフ


*)懇親会


 俺はダイニングに案内されている筈? なのだが・・・・。


「ねえ、エルザさん。どうして二階に行くんですか?」

「はい、二階を通らないといけないんです。すみません。」

「行けない? の間違いでは?」

「いいえ、そう指示を受けていますのです。」

「どうして一階に下りるんですか?」

「いいえ、そう指示を受けていますのです。」

「どうして、こんな長い廊下を行くのですか?」

「これが通路だからです。」


 俺は長い廊下を歩かされた。途中、途中には部屋のドアがあった。こんなにも大きい屋敷だった? かな。外からは小さいように見えたのだが・・・・・・。


 メイド服のエルザはドアの前で立ち止って、中の様子を窺ってドアを開けた。


「到着いたしました。どうぞお入りください。」


 俺よりも先に領主が来ていた。同じ廊下を通るのであれば、後数分はかかる筈だ。可笑しな屋敷だ。メイドは主人が居るのかを確認していたのだ。


「どうです? 当家の屋敷は。広いでしょう。オッホッホッホー!」

「ええそうですね。随分と歩きましたよ。お部屋も沢山ありました。凄いですよね。エルザさんもお仕事が大変でしょうか。」

「いいえ、けっしてそのような事はありませんわ。」


 メイドのエルザが答えた。リリーとゾフィはすでに食卓に着いていた。


「待たせたな、ソフィアの残り!」

「なによ! オレグ。残りで悪かったわね。ゾフィ! 蹴飛ばして!」

「お姉さま、はしたなくて出来ませんわ。お姉さまこそおしとやかにできませんかしら。私はハズ! です。」


「まあまあ、姉妹の喧嘩は、お仕舞にされてください。さあ、オレグさん、こちらにどうぞ。」

「エルザ、オレグさんを席に案内して!」

「はい、ソフィアさまはお隣です。どうぞこちらへ。」

「ありがとう。」


 テーブルには沢山の料理が並んでいた。一人当たりに4品? だろうか。リリーが用意した物もあるが、鳥の丸焼きは大きい。感嘆した。


「凄いお料理ですね! 感激しました。道中は草の葉っぱばかりでしたので、とても嬉しいです。」

「オレグさん、そのような事はないでしょう。」


 と言ってエリアスは笑った。


「デーヴィッドくん、持ってきてくれ。」

「はい、ご主人さま。」


 デーヴィッドはエリアスに頼まれていたホットワインを持ってきた。


「エルザさん、温めた器を頼む。」


 エルザはデーヴィッドよりも先にオレグに向かった。


「さ、オレグさん。グリューワインです。初めて飲まれるかと思いまして、急ですがデーヴィッドに用意させました。」


 グリューワインは、クリスマスなどにシナモンなどのスパイスを利かせて飲まれている。いわゆる贅沢品だ。


 オレグは先に香りと酸味を確認した。


「クチュクチュ、ゴクッ!」

「おお、とてもおいしいです。ありがとうございます。」


 本場ワインの味見は、日本人からすれば下品ではしたない感じがする。注がれたワインを一口含み、口の中で空気と一緒に音を立ててクチュクチュさせる。次に口の中の空気を鼻から出すのだ。なんでも鼻でも香を嗅ぐらしい。


最初には当然、グラスに注がれたワインの香りを確かめる。


 デーヴィッドは、エリアスよりも先にソフィアへワインを注いだ。


「さ、ソフィアさんも、どうぞ。」


 それから主人のグラスにワインが注がれた。この順序はさすがに違うと思うオレグだった。理由? 理解出来なかった。


 ここのテーブルは特注品だ。大人が十人も座れるのだった。台所へ通じる扉の横には小さな二人用のテーブルが置いてあり、エルザと庭師が着席している。


 この部屋は通常は使わないという。いわば、来客専用だ。また、エリアスは家族は居ないが、使用人も同じ部屋で食事を摂るのが正しいと思っている。デーヴィッドはエリアスと同席する事は無いという。当主は庶民派である。台所で揃って食事をする。台所では立場が逆? 主が小さいテーブルで使用人らが

大きいテーブルなのか? 大きいテーブルは、調理もかねていたのだった。



 エルザはエリアスの合図毎にワインを注いで回った。その後はエリアスの合図は無くなった。それは、エリアスだけは忙しそうに、肉の切り分けと配膳であまり席に着く事が少なくなったからだ。


「エルザ。また持ってこい!」


 エリアスは酔いが回ると言葉がぞんざいになるようだ。今度は庭師が席を立つ。持って来たのは、鳥のローストだった。庭師に急きょ用意させたから、最初は間に合わなかったからだ。ローストは焼くのに時間が長くかかるからだ。庭師が丁寧に焼いたというから凄くおいしかった。



 ここでもエリアスは、大きい鳥のローストを切り分けるのだが、言っては悪いが上手ではなかった。経験不足が原因だが。



************************************************************

 中世ヨーロッパでは、大きい肉は当主が自らの手で切り分けるのが習わしなのだ。主の統治能力を誇示するために、大きなナイフで人数分に平等に切り分ける。これこそ統治能力を表すのだ。統治能力は領地の管理能力で、肉の切り分けはその場の最高権力者の役目・仕事でした。


 またこの時期には、私たちが思うお皿がありません。黒パンを五日ほど乾燥させたものにお肉を盛るのです。食パンにお肉を乗せる? とでも想像して下さい。食パンがお皿なのです。黒パンが買えない庶民は平たい木の板を利用しました。この黒パンのお皿は、高貴な身分の者は食べずに使用人の食事へと払い

下げていました。下級とかになると、そのまま食べています。


 スープはパンや板では飲めませんので、深めのスープ皿にスープを入れて皿からじかに飲んでいました。前にも書いていると思いますが、中世ヨーロッパでは、食事は全部手づかみで食べるものでした。


 ナイフとフォークは近世ヨーロッパ時代から利用されるようになりました。大きい肉を切り分けるナイフこそが食器でした。


 トランショワール(お皿のパンです。)とは別に食べるパンが用意されます。


 スプーンは紀元前から存在していましたが、中世ヨーロッパの聖職者は、宗教上の考えから、道具を使うのは神への冒涜だと考えていますから、食べ物に触れてよいのは人間の手のみになりました。


 ローマ帝国は優れた文化があったんですが、後世には引き継がれずに、キリスト教により断絶された! という事ですね。


 中国では陶器の発達が著しいのですが、この磁気の文化がヨーロッパに伝わるのは、十七世紀になってからです。


 テレビドラマや映画やアニメには食事の風景がありますが、すべては ”うそ”です。手づかみで食べるとか、撮影しませんよね?

************************************************************


 オレグは目覚めて1か月しか経っていない。まだ世間には疎い? どころか何も知らないと、言っていいだろう。ソフィアも同じだ。だから、エリアスから世情を尋ねられて答えようが無かった。逃げの一手である。逆にエリアスとデーヴィッドへ質問攻めにしようとした。


 攻撃こそ最大の防御だ! これは敵陣地を落せたら? という仮定だ。落せなかったら負けである。


 オレグは飲み過ぎて酔っ払っている。質問する内容は考えてきた。が、直ぐには言葉が出ない。オレグはそおっと右手をソフィアに伸ばした。もちろんテーブルの下である。


「キャッ!」


 ソフィアが小さい悲鳴を上げた。


「バシッ!!」


 倍返しのお礼がオレグの頭上に響いた。オレグは物とも思わずに伸ばした手でソフィアの膝を撫でている。今度はオレグを殴らずに、オレグの手に何かを握らせた。ようやくオレグの手がソフィアの脚より離れた。


「ありがとう、ソフィア。」


 小さな声だから他の者には聞こえない。ここからオレグの声が大きくなった。


「エリアスさんは領主の立場から、何か望まれる事はございませんか。」

 (カンニングペーパーは作者こそ、とても欲しいものだ。)


「ええ、この村が繁栄すれば他には望むものはありません。」


「エリアスさま、それでは答えになりませぬ。具体的な事項を仰らないとですね。たとえば・・・、」


 デーヴィッドも何も思い浮かばなかった。オレグはちらっと自分の腹に目をやった。


「では、この村のですね、・・・そう未来の鳥瞰図とか、考えた事はございませんか。なんでもよろしいのですよ。」

「あー、あー、そうですな。でも今は止めましょう。頭が冴えている時にお願いします。でないと、とんでもない事をうっかり口走ったら、大変ですわ。」


「あははー。」


 エリアスは大きな声で笑い出した。


「そうですね。それが一番でしょう。」


 オレグは落とせずに負けてしまった。



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