第159部 ソワレとエレナの行方
リリーとシビュラはオレグと共に、プリムラ村でコパールの加工と工員の管理で忙しく働いている。オレグの傍らで酒を飲んでいるキルケーに、
「なぁキルケー、あの琥珀を作ってくれないか~。」
「リリーに頼めば!……リリーにもできるはずよ。」
「いや、あの魔法は出来ないそうだ。木以外は専門外らしい。」
「そんなはずはないわ! だってあの子、バームクーヘンが作れるもの!」
「ドーナッツがどうしたって??」
中身の無い会話がのんきに続いていた。
リリーは常々、琥珀が石であると思っていたからキルケーが言う「リリーにもできるはずよ!」の言葉を信じなかった、いや信じる事ができなかったのだ。
ソワレとエレナは……姿が見えない。村から出て行っているようだった。
「なぁ、ソワレとエレナは何処に行った?」
「さぁ……!」
「あ、キルケー、レバル(=現在のタリン)に戻ったら、男、充てがうからな。」
「酒にも琥珀の加工にも飽きたから、絶対だよ?」
「ついでに、琥珀の作り方を~。」
「ダ~メ!」
1248年12月19日 エストニア・ハープサル
*)灰色オオカミの巫女は、ラク~ンが化けているのか!
リリーはシビルが作るような琥珀を作りたくて、コーパルを握りしめて念じるも、どうしてかバームクーヘンにしかならない。
「リリー、それがいいだろう。中に紐を通せばネックレスになるぜ。」
「こんなのはダメよ。玉石に穴を空けないとネックレスにはならないわ。」
木を輪切りにしたような形のお菓子、それがバームクーヘンなのだが、それだと木の枝の縞縞のようにしか見えない。
「ソワレはいい考えを持っていそうだわ。ねぇ、お兄さま・ソワレを知りませんでしょうか?」
「あ、そうだな。……昨日も見た覚えがないな~!」
「私は二日前でも見たような記憶がありません。も~っと前からだわ。」
「これってもしや、……あの生贄の娘がそうなの?」x3
「軽夫が間違って連れてきたのはゆだれちゃんですから、贄の娘はそのまま生贄になったままです。」
「リリーが言うとおり、そうだろうな。隣村から捕まえたというのだが、もしかして、エレナだったりするかもしれない。」
「私、生贄の娘の顔は見ていないわ。」
と細見になったシビュラが言う。
シーンプの上の娘が「あれはソワレお姉ちゃんだよ」と言った。
「え”ぇ!!」x3
不自然なまでの出で立ちで娘が立っていた。出るところが違う。
「お前! 服を全部脱げ!?」
「ちょっとオレグ。こんな小さな娘を裸にするつもりなの?」
「あぁもちろんだ。こんな胸と尻が出た娘が居るものか!」
「あ! ホントだ。ポッケも大きく膨らんでいるわ。」
「これ、パパへのお土産なの。ここで盗ったのじゃないわ。」
「それって、長老のおじばばから貰ったのか!」
「うん、お姉ちゃんを連れてきたらあげるよ、と言われて連れていってたくさんの石をもらったの。おじばぁちゃんに褒められたのよ。」
村中や山の中を探してもソワレとエレナは発見できなかった。
「あの灰色オオカミの巫女はラク~ンが化けていたのか! 騙された!!」
ソワレとエレナが不自然にいなくならないように、ゆだれちゃんは常々二人に化けていたらしい。会話は村人だけにして、オレグやソフィアにはそれこそ遠目の姿しか見せていなかった。
「なんだい、よめとおめ、だったのか! だから綺麗に見えていたのか!」
(よめとおめの漢字を考えてください、ついでに意味も!)
*)村人が・・・・・・居なくなった
夜になりオレグはシーンプに娘の躾で文句を言いに行った。といっても夕食では集会所で一緒になるのだ、席を立てば目の前にいる。
「なぁシーンプ。随分と仕込んだ娘になっているな。」
「は~いオレグさん。毎日話し聞かせていますので、もう一端の商人の娘にまで成長いたしました。」
上の娘はシーンプの横にちょこんと座っているが、下の娘はまだ親が抱いていないと転んでしまうほどの幼子だ。シーンプは胡坐を組んでその上に座らせている。
「俺、全然褒めていないんだが……。お前、いったいこの娘になにを教えているのだ。まさか泥棒もか!」
「ちょっとオレグさん。いきなり何を言うのです。こんな小さい娘ですから、その、善悪の判断は出来ませんよ。ですがいつも付きっ切りで世話していますから、人のものを盗るとはぜ~ったいにありえません。」
オレグは上の娘を睨んだら、
「びぇ~!! パパ~ ごのジイ~、ぎらい~! びぇ~!!」
と泣き出してしまった。発音はまだまだできていない。オレグははっとした。
「この娘、まだ話せないのか!」
「そうですよ、オレグさん。うちの子はいったい幾つに見えますか!」
「三歳か!」
「そうですよ、このマーリアが何を盗んだというのです、ソフィアさんのオッ!」
「行数に合わせるためにとはいえ、文字は省略せんでもいいだろうに。いくらなんでもそれはありえないが、……そうこの子にはありえない…そんな~!」
「えぇそうですよ、オレグさんはなにかと勘違いされたのでしょう。」
オレグは昼のことを考えた。娘に眼とばしながら……も。
「びぇ~!! パパ~ ごのビイ、ぎらい~! びぇ~!!」
「ソフィア、昼の娘はこの子ではないのか。似ているが何も話せそうもないぞ。」
「あら変ねぇ、同じ子だよ。でも違うわ。昼の子は?」
「ママ~このビイがいじめるの、怖いよ~。」
「うるさい黙れ、このガキンチョが!」
「ビ~~……。」
またしてもソフィアの一言で黙り込むよくできた子だ。
「ちょっとソフィアさん。いくらママではないにしろ、慕ってくる幼子に黙れはないでしょう。」
「あ、ごめんなさい。ついいつもの癖が出てしまいました。お許し下さい。」
「ぶ~!!」
と膨れ顔でソフィアを見返すシーンプ。
「オレグ、二度も騙されたわ! あれもラクーンなのよ。今頃はプリムラ村が襲われているかもしれない。」
「えぇ!!~~~~!! なんだって~~~。」
キャッキャッと笑うマーリアと意味が分からないという表情のシーンプ。反対にぶ然とするオレグ。そうして居るはずのゆだれちゃんを目で探した。リリーはすっ~と姿を消した。
「いない、居ないぞ!」
「あ、ホントだ。さっきは居たよ。オレグが騒ぐのでこれ幸いにと逃げたのかしら。」
「バカ言え!」
夕食の準備や配膳はメイドの魔女が行っている。
「ソフィア、村の女たちは居ないのか。」
「えぇ今晩は用事があるとかで、食材だけ置いて帰りましたよ。だから……でも変ですね~。」
「あの二人は?……。」
オレグの問いかけに答えたのがソフィアではなくてシーンプだった。
キルケーとシビュラも居ないが、その二人はプリムラ村に残って琥珀職人と仲良く食事を摂っている。
「そうですよ。でもその実、キルケーから琥珀を守る為にシビュラは残ったのだと思います。」
「そうだよな~、琥珀が多すぎるのも問題があるな~。」
「そうお思いになるのなら、オレグさんもプリムラ村に残ればよろしかったのに。第一にどこかの貴族さまが金貨に欲を出したのがそもそもの間違いなのです。」
「て、手厳しいぞ、シーンプどの!」
「ふん、なにをいまさら。江戸の敵を長崎で討たせていただきます。」
「娘の事は俺が悪かった。ソフィアに謝らせるから許してくれ。」
「バカおっしゃい! どうして旦那の悪行に妻が謝るのですか。」
「そうよオレグ。ここは男らしく二人に謝りなさいよね。」
「あらマーリアのお母様。ご同罪なのですよ、お分かりでしょうか?」
「いいえ、全然!」
「ママ、おしっこ!」
「うるさい、黙れ!」……・・(ジワ~~、ホンワカ~!!)
ボブ船長とボブ二号、それにシビルが三人で向かい合ってどぶろくを飲んでいるが、オレグらにはなぜか関心を寄せていなかった。他にはゾフィと三人の精霊もそうなのだ。ただボブ二号の嫁は、オレグのご機嫌取りで忙しく立ち振る舞っていた。
「****、そこはいいから俺の元に戻ってこい! そこに居ても点数稼ぎにはならないぜ!」
「お~い、****。」
ボブ船長がボブ二号の妻の名前を呼んでいる。
「なによあんたたち。私の名前も発音できないかい?」
「いや、俺、知らないんだ!」
「あら、そうだったわね。この先も名無しでいいわよ。」
「おうありがて~助かるよ。」
「船長、俺の嫁に手を出すな、絞めるぞ!」
そこにヴァンダ王女とゴンドラが戻ってきた。
「なんだか楽しそうね、でもここは私に力を貸してくれないかしら。」
「おう、お前らのヴァンダ王女さまのたってのお願いだ。協力してくれ。」
二人の言葉に反して顔は真顔で、それもやや苦痛に歪んだようにも見えた。
「随分と静かだったがゴンドラ。今までどこをほっつき歩いていたんだい。」
「お前らが悪いんだ。ソワレとエレナの二人が行方不明だというのに、知らなかったでは済ませぬぞ!」
「こらゴンドラ。それはお門違 いというものです。ここは家族の問題ですのよ、判っていますか?」
「それはそうでしょうが、それ以前に仲間としての役割もありますから、ここはやはり……。」
「そう、なにも気づかないオレグが悪いのです。」x2
ヴァンダとゴンドラは息を合わせたように言ったのだ。オレグは痛いところを突かれたのか、返す言葉を探しているのか、
「……、・・・。……。」
「オレグ。村の人々が居ないわ。そう、子供と爺婆の臭いしか感じないのよ。たぶんあの岩山の上に集まっているのかしら。」
「……、・・・。……。」
やはりオレグには口から出る言葉は無かったが、むんずと勢いよく立ち上がって開口一番に、
「ソワレとエレナを助けに行く。みんな手伝ってくれないか。」
「当然です。」x4
「え~。俺いやだ。」x4
「私たち、協力いたします。」x6
ボブらは当然と言うがゾフィらはイヤだと言う。魔女兼メイドの六人は裾をたくし上げているが、
「おう、お前らの袖は足についているのか?」
「あんたたち、恥ずかしい姿はやめとくれ。うちの主人が鼻血だすから困るんだよね~。全部ひん剥かれても知らないよ!」
「いや~ん!!」x3
「いつでも歓迎よ!」x3
「帰っての楽しみだ!」
と言うのが、そうゴンドラだ。
「イヤです!」x6
文字数を減らしたいのでx3とかx6 というように書いているのだが、真面目に書いた方がよいだろうか。
*)オレグの鍋の具材は・・・・・・であった
「オレグ急いで! 村人はプリムラ村をめがけて進んでいるようよ。村が襲撃されちゃうわ!」
「きゃっ、痛い~い。」
「あら、お姉さま。座布団にしてしまいました。ごめんなさい。」
血相を変えてリリーがソフィアの上に落ちてきた。うまくゲートが使えなかったのだろう、それほどの事件だろうか。
「お、お兄さま、なにのんきに解説しているのですか、お兄さまの村が襲撃されたらどうするのです。」
「あそこにはキルケーが居るから、今頃は……最後まで言わせるな。」
「でも、ゆだれちゃんが居ますから、キルケー対策はできていると考えた方がよろしいですわ。かれこれ十日間は一緒に過ごしましたから、こちらの手の内はバレていましてよ。」
「俺の知ったことか、お前らが勝手に魔法を見せたり解説をしたんだろう?」
「うぐ~……そうです、すみません。」
オレグは流し目で、
「なに大丈夫だ、こちらには奥の尾がある。」
ここにいる全員がソフィアに熱い視線を送った。
「い、イヤよ。いや。なんで、わ、わ・わ・たしを見るのよ。」
「お姉さま、三倍のオオカミさまに変身されてください。至急、プリムラ村にゲートで投げてあげますわ。……なに、お一人ではありません。」
「トカゲでしょう? イヤ、いやだわ、羽も気持ちが悪いわ!」
「オレグお兄さま!」
「OKだぜ、俺が許可する。リリー蹴飛ばせ。」
「はいは~い!」「ばこ~ん!」
「お兄さま、」…… 「ばこ~ん!」
ソフィアに続いてゴンドラも蹴飛ばされた。
「あいや~!!」x2 と仲良く飛んでいく。
「リリー、ゲートで送るのでなかったのか!」
「あら、お兄さまには言われたくはありませんわ。」
「おいおいお前ら。天井に穴を空けてどうすんだい。」
「ボブ、明日修理を頼む。明後日には台風十号が迫ってくる。金貨十枚だ。」
「お~喜んで~!。」
「どうして村人は俺の村を襲うのかな。」
「きっとアルデアル侯の下僕が村人を洗脳しているからでしょう?」
と専門家のシビルが口にした。
「シビル、その洗脳を解くとか、できないか。あいつらは夢遊病なのだろう?」
「それはできるわよ、簡単だけれども……できないわ。」
「簡単ならば至急に魔法で解放してやれよ。」
「オレグ、あんた! バカだね。今すぐに村人を解放したらアルデアル侯の下僕に噛み殺されてしまうわよ。ここはしっかりゆだれちゃんと下僕を退治しないといけない重要な問題なのよね。」
「そうだな……?? そういう問題か。」
「第一に今夢から覚めたら村人も困惑、いやパニックになっても知らないわ。」
「リリー今度はゲートでお願いだ。」
「はいは~い。準備は出来ております。この床に鍋の中身を全部入れて下さい。オオカミの前に落としてみせます。」
「どぶろくを入れて落とすのか?」
「いいえ毒薬ですわ。フグを入れておりますのよ。お兄さまたちは食べなくて良かったですね!?」
「むぎゅ~俺たち毒殺される直前だったのか~!。」
「見れば判るものを。だから知識のない魔女兼メイドに準備をさせたのです。」
「だがボブは生きているぜ。」
「俺を死なせるなよ。このとおり生きているぜ。なにフグは全部オレグの鍋にあの女が入れていたものな、ガ~ッハッハ~~!」
「ボブ、お前はクビだ、女、明日はお前が具材に決定だな。」
「ヒェ~!! お許しください。私はなにも知らずに……。」
ボブ二号夫婦は逃げ出す。
「リリーあの二人は最後にゲートに投げ入れてくれ。プリムラ村で鍋に湯を沸かして待っている。」
「お兄さま、ご趣味がよろしくありません。」
リリーの指示で慌ただしくフグを煮込むメイドたち。魔女たちはざわめいて、
「全部、捨てるのよ!」
残念そうにフグを全部鍋から掬ってゲートに入れている。
「これ、本当に食べたら死ぬのでしょうか。」
「ダメよ、ボブ船長が正しいのよ。あのオレグさんが私たちを釜茹でにすると言い出したらどうするの。」
「私は、う、嬉しいわ~!」x3
そこにフグの毒殺とか知らないヴァンダ女王が口をはさむ。
「あんたたち、死ぬほどオレグが好きなのかしら?」
「はいヴァンダ王女さま。でも、私たち死ぬほどゴンドラは嫌いです!」x6
「んまぁ!!……私のことは女王さまとお呼び!」
「はいパァンダ王女さま!」
「あとで仕返しよ、ドラゴンよ、戦争よ!」
「ねぇスープだけでもだめなの……??」
*)プリムラ村が・・・・・・ 襲撃される?
「ねぇスープだけでもだめなの……??」
「しつこいわね~あんたも具材に花を添えるのよ!」
「あれ~!!」
煮立った鍋の具材と共に一人の魔女がゲートに放り込まれた。
「りりー構わないからあそこの四人を強制転送させてくれ。次は俺からシビル魔女の順でいい。ボブ……はクビだから海にでも跳飛ばせ!」
「はいお兄さま。後は任意ですね?」
ヴァンダ王女は恐ろしいのか、この場から逃げ出そうとするもリリーが声をかける。
「あら、子分をお見捨てになられますか?」
「いいえ私は、そのう、お茶飲みに行きたいだけですの。」
「では最後に予定しておりますわ…………とても楽しみです。」
「いいえ、それには及びません。私は龍脈を通って山に登りますわ。」
「それは大変ですね、山には水脈すらありませんが?」
「……あ、え、……ですか! 別室で作ってきます。」
リリーは魔女らを最後にして全員を転送した。
「我、ここにボブ夫妻を召喚す!」
「あれ~!!」 「さ、罪滅ぼしに行きますわよ。これは戦争よ!」
プリムラ村の入口の広場では。
リリーとボブ二号夫妻がプリムラ村に到着した頃にはゆだれちゃんと人狼の巫女が対峙していたが、ドラゴンの姿がなかった。どうしてか!
「お姉さま、素敵です!」 「ドス~ン!」
というリリーの一言が言い表すソフィアは、全長が三mにもなっているのだ。予定どおりにボブ二号夫妻は大きな鍋に落ちていた。飛び散った具材と共にオオカミが横たわっている。されど残るオオカミは十頭はいるだろうか。
「ガゥルル~~!!」
「グルグル~~~!!」
ゆだれちゃんは人の姿でいる。おぞましい鳴き声はオオカミたちだ。負けじとソフィアも唸り返している。
「ガゥルル~~!!」
「グルグル~~~!!」
時は半分の月が昇るころである。東風の夜風は凍えるように冷たい。大陸の冷気を沢山含んでいるからだが。暫くして風は止み直ぐに西風へと反転した。大気が湿って重たく感じられた。そう海風へと風向きが変わったのだ。
「ウォ~~~オ~~ン・・オ~~~ン!!」
ソフィアが遠吠えで叫ぶ。夜空の月は朧月になりやがて見えなくなってしまった。ゆだれちゃんが灰色オオカミに変身した。
「グゥオォ~~ン、オ~オォ~~ン!!」
「ウォ~~~オ~~ン・・オ~~~ン!!」
「ウォ~~~オ~~ン・・オ~~~ン!!」
と返すソフィアは小さくなり、やがて裸の姿に戻ってしまう。
「お姉さま、さ、早く服を着てくださいな、夜風が生温くなりました。」
夜空の月が見えなくなって辺りはより暗くなるなずなのに、妙に白っぽく見えている。
「オレグ気をつけて、夜霧が出るから貴奴が姿を現すかもしれないわ。」
「そうか、初対面だな。いったいどのように挨拶をすればいいのだろうか。」
「簡単よ……クソッタレ”で、い・い・です・・わ。」
「随分と仲の良い挨拶だな、他にはないのか!」
「ア、ア、アルデアル侯は、ド、ドラキュンと呼ばれるの嫌だそうです。」
ソフィアは恐怖か畏怖の念か声が震えている。
「リリーお願い、ドラキュンが現れたらあの三姉妹を投げつけて頂戴。精気を吸えるかどうか試してみたいのよ。」
「ゾフィが怒るわね、ゾフィはどうするのよ。私は噛み付かれて怪我しちゃう。」
「ゾフィはダメ。一度お気に入りで捕まっているから、次は絶対に捕まえて離さないと思うわ。」
「お姉さま、ドラゴンは何処に居ますの?」
「ソワレとエレナを迎えに行っているはずなのよ、でも戻ってこないの。きっと向こうでも村人やオオカミと睨みあっているかもね。」
「グゥオォ~~ン、オ~オォ~~ン!!」
と二回目の遠吠えを放ったゆだれちゃんは反転して、頭を高く上げて大ききい耳をそばだてている。その後で後ろを振り向いて再度ソフィアを睨んだ。
「グゥオォ~~ン、オ~オォ~~ン!!」
灰色オオカミの姿のゆだれちゃんは、付き従うオオカミを連れて岩山に向かって走り出した。
「お兄さま、アルデアル侯は贄の所ですわ。きっとドラゴンと相対峙しているのかも知れません。私たちも急いで行きましょう。」
「たぶん大丈夫だ。村の集会所に戻るとしようか。」
「オレグ、なにを言うのよ。ソワレを見捨てるの?」
「ゴンドラが守って、ついでに届けてくれるだろう。それよりも俺は腹減った!」
「んまぁ・・!」
「不謹慎です!」
*)霧に隠れたアルデアル侯
「ふっふっふふ・・・。」
ソワレとエレナを背中で守るドラゴンの姿があった。
「う~なんという大きさだ、このでかい我よりも大きく見えるぞ、いったいどういうことだ、俺が小さいのか!」
と自分の姿に自信がないドラゴンは後ろに隠す二人の女を見た。
「おう小さいぞ。これだと俺は大きいはずだが、あの雲のような影が大きい過ぎるのか。………えぇ~~いこの俺がビビっているのか!」
「ガァウ~グオォ~!!!」 「ギャァウ~グゥオォ~!!!」
恐怖に怯えて叫ぶドラゴンだが声が震えて声が変わってきている。
「この俺が~怖いだと~!」
ドラゴンは後ろに隠す二人の女をそれぞれの両翼に仕舞って恐怖を我慢した。
「ドラゴンさん怖いの?」
というエレナの問いかけに、
「いいや,ただの武者震いだ心配はいらぬ。安心せい。」
「ふっふっふふ・・・バカめ~!」
霧に浮かんだ黒い人影はますます大きくなってきた。その黒い影の向こうには松明を手にした村人が迫ってきているのが感じ取られた。
「ギャァウ~グゥオォ~!!!」「ガァウ~グオォ~グルグル……。」
ソワレは、(ホント、このドラゴンは使えませんわ!)
「ソワレさん、生贄になっておきながらその言いぐさは酷くありませんか?」
ドラゴンの両翼に守られながらも陰口をたたいている二人だった。
「私、何も言っていません。……少し臭いのですが……。」
「ガマン、我慢!」
謎の黒い影は、
「お前たち贄は逃がしはしない。今に下僕が三十匹は来るだろう、そして洗脳した多数の村人には手も足も出せまい、」
霧に包まれて薄ぼんやりと見える松明の明かりが、段々と鮮明に見えるようになってきた。
「ねぇエレナ。村人は操られているのかしら。」
「そのようです、シビルさんがビビらなければすぐに洗脳は解かすことができるはずなのですが、ありゃ~尻だして頭を両手で覆って隠れていますのね。」
「またですか~、あんたが馬鹿チ~ンと言ってなんとかしなさいよ。」
「私、そのような下品な魔法は使えません。小鳥遊ですから!」
ソワレは、(ホント、この雲雀は使えませんわ!)
「聞こえていますわよ。……フン!!」
「お前は誰だ、どうしてワシの女に手を出す。」
「ドラゴンが知る必要はない。そこの村娘を置いてとっとと立ち去れ。」
「この娘は俺がとっとっと!」
「??、ととと?? お前、誰だ、どこから飛んできた。もしや……?」
「俺の名前、しっとっと??」
「いや知らぬ。だが南に封印されし孤高の女たらしのドラゴンが居たというが、あれは俺の親父がなにを成敗したと聞いたぞ。」
「なに、二百年で元に戻ったわい。だからこうして生娘の生贄を探して勝手に頂いておるのだ。お前こそ帰って寝ろ!」
「ぎゃ~!! イヤ~!!」x2
「ほらほらそこの娘が嫌がっておるではないか、そこに据えて逃げるがいい。」
「なに、ちょっと、なにが当たっただけだ、喜んでおるのだ!」
ドラゴンは両手に花で喜んでいるのか! ついにドラゴンの反撃が始まった。
「お前、この女が生娘だと言うのか? あ、あぁん?? こいつは二百歳のババァだぜ。俺の女王さまの愛娘なんだ。知らないのか!」 「ばこ~ん!」
「に、二百サイ?? の、ババァ??」
「そうだぜ、見た目は若いがどこかのハンザ商人に捨てられていた女だがな~!」
「バコ、ばこ~ん!」
「後家か~??」…………「そんな女は要らぬ、旨くない、脂ののった若い女しか俺は好まぬ、…ぬぬぬヌヌ……。」
「ばこ~ん!」「なにが二百歳よ!」「ばこ~ん!」
「え~い痛くも痒くもない。静かにしていろ二百歳。」
「エレナ三百歳!」
「三百??……バ~バには用は無い、むむむムムム……。」
「侯爵さま、ただいま参上いたしました。……して?」
「お前、帰ったら俺のエサにしてやる。よくも俺に恥をかかせたな~。」
「なにを言われます。私は指示通りに生贄を用意して、ここで守ってきました。なんの落ち度もありません。」
「そこの女二人が五百歳だというが、気が付かなかったのか! それに片方は後家だという。もう一品は妖精なのだ、知らないとは言わせぬ、ぬぬヌヌヌ。」
「ソワレ、お前は後家だったのか! まだ十九歳ではなかったか!」
「いいえ全然。あんた、バカなの?」
ゆだれちゃんはソワレとエレナの年齢を外見でしか判断しなかった。ソワレとエレナの、さばのつく自己紹介を簡単に信じてしまったのだ。
「キ~~!! 騙しおって。お前たち、こやつらを食べておやり。」
「おう俺に挑もうとするのか、逆に食らってやる。もちろんお前のご主人さまもな。あんな妖怪ジジイ食ったところでは腹を下すだろうが、クソまみれになって出てくるからいいだろう、ワ~ッハッハ~、ワ~ッハッハ~!!」
「ク~……俺は帰る。村人を嗾けてこやつらを殺してしまえ!」
「はい、仰せのままに!」……「かかれ~!」
「フム、フフン、……フフン!」
ドラゴンは身体が大きいので鼻息でオオカミたちをあしらっている。
「お前ら、ワシの鼻息だけで飛んでいくのか!……話しにならん……バ~カめ!」
*)女王と侯爵
集会所に戻ったオレグたちは反発する女たちを無視して、
「おい魔女っ娘。腹を空かせているんだ。早くしろ。」
「オレグ、それはあんまりじゃないかしら。オレグの腹の都合で二人の救出を取りやめにするなんてあんまりだわ。そう、あんまりだわよ。」
「私はオレグお兄さまを信じますわ。ところで腹を空かせているのはあの二人のことですよね?」
「それに特大も居るからな~、リリーまたクジラを出してくれるか!」
「はい境界の中で塩振っておきました。後は焼くだけです。」
「ほほう、それはいい。?……いや、塩は不味い両生類は死んでしまう。生のままがいい。」
「あれは爬虫類です!」
オレグは村人を洗脳から解放してやりたいから、リリーにシビルを境界より取り出すよう頼んだ。
「リリー、尻を見つけて取り出してくれないか。」
「しり?……尻……あ、お尻さんですね。すぐに取り出します。」
リリーは境界に手を入れて尻隠さずをゴソゴソと探し出したが、
「変ね~どこにも白くてつるりとしたものには触れませんわ。」
「だったら酒樽の中はどうだい。」
「あ、ホントだ。一つだけ重たいのがあるわね。…よっこらしょ、お尻ちゃん、可愛いお尻ちゃん出ておいで!」
「すっぽ~ん!」
「これ白くないです。もうピンクに染まっています。」
「それはいい、いや、それでいい。……シビル。至急村人の洗脳を解いてくれ。もうお前の嫌いな者は居なくなっているぞ。」
「え? ホント!! どこどこ。」
「お前、あれを探してどうする。もういいからお前の旦那が困る前に夢魔法で村人を解放してくれないか。」
「あ、オレグ。おはよう。もうオオカミは居なくなったのか!」
「あぁ、そこに寝ているので全部だ。じきに肉塊になる。」
「そうね、あの裏切り旦那が戻るのね。村人はすぐに解放してやるわよ。」
シビルは村人の覚醒に大規模な魔法を放っているころ、隣室の暗闇から一人の女が出てきた。
「あ~すっきりしたわ~!……。あらオレグ、お帰り。」
厠から出てきたのはヴァンダ女王だった。すかさずリリーが皮肉を言う。
「随分と溜めておいででしたのね。」
「そうね~二百年分かしら。ところで私の可愛い下僕はまだかしら。」
「まぁそうでしたか~、女王さまには私と違う境界の魔法が使えるのですね!」
「は~い、これって便利ですよね~たくさん詰め込めて。ホント便利だわ~。」
「ゴンドラさんはもう空高く飛んでいますから、そろそろそこの穴の下からは離れた方がよろしいでしょう。」
「ええ? ここが?……ヒェ~!」
「ドッカ~ン!」 「ギュエ~!」 「ただいま~!」x2 「ギュエ~!」
「やっと解放されたわ!」「ギュエ~!」
と三人が見事なタイミングで天井の穴から降ってきた。パンダの敷物ができあがった瞬間だつた。
「フン! バカ女はこれでいいのだ、フン、フン!!」
解放されてにこやかになった女二人に対して、あきらかに不機嫌だという顔をしたゴンドラがいた。
「よう、早かったな。今、鍋ができるからな。」
「おうすまね~! ところでヴァンダ王女はどこかな。一言文句を言わないとならない事情ができた。」
「下のパンダの敷物だが? なにいきり立っておるのだ。」
「ヴァンダ王女とさっきの侯爵さまとの関係なのだ。」
やはり怒っているのか敬称を付ける相手が逆になっている。
都合が悪いのかパンダの敷物になったヴァンダ王女は元に戻らない。
「リリーお湯をかけてやれ、三分で膨らむだろう。」
「はいは~い。時間かけずにお湯かけて! はい三秒!」
「それ書いていいのか!?」