第156部 プリムラ村の億り人
「おう出航だ! ここから逃げるぞ。」
「あの女はどうすんだい。ここに置いていけばリガはたちまち崩壊するよ。」
「後始末にドイツ騎士団が来るから放置だ!」
「へ~ご立派な言い訳で!」
ソフィアとアウグスタは、オレグが出航したのにまだ二人でドンパチと睨み合っていた。
1247年12月1日 エストニア・ハープサル
*)再びの嵐の夜?
オレグがルイ・カーンとして初めてこの村を訪れたのは1246年7月のことだ。その後は目まぐるしく月日が過ぎて、今では家族で過ごせるようになった。
大きい帆船が予告なしにここハープサルの港に入港した。遠くからでも良く目立つ船だから多くの村人が港に集まった。甲板に立つオレグ。
「ルイ・カーンさま!」
と港の桟橋で大声をあげる女が居た。オレグは誰だ? と思いながら下船の準備をしている。
「シビル、桟橋が下過ぎて橋板が使えない。どうしたらいい。」
「そういう事はボブに言えば!」
「??……ボブ二号だな、よしきた。」
「ボブ二号、自慢のクレーンで橋板をどうにかしろ。」
「旦那、こないな辺鄙な村に立派な使えない桟橋の港を良く知っていましたですね。」
「うるさい黙れ!」
「へいへい、もうしばらくお待ちください。折り畳み式の階段を至急造ります。」
せわしく働くボブ二号の横に来たのはキルケーだった。
「ボブ。この港と村はオレグがフロント事業で開発して創ったのですよ。」
「オレグの旦那が? が、が、が、・・・・・。」
「舌を噛んだらいけません。口は閉じてください。」
「あああああああ・・・(顎が外れた・・・・)。」
「ばこ~ん!」
「顎は嵌りましたか?」
キルケーはボブの顎を下から殴っていた。
「あご、あご、あごとうさん。」
「それがお礼の言葉ですか!」
「す、げ~な~!」
オレグはリリーのゲートで先に下船したかったが、
「オレグ、それは駄目だよ。」
とソフィアに止められた。アウグスタは、
「この女を先に落とせばいいのです。」
「なにを~!」
「べ~!」
二人の乗船後は目立った争いは起きていないが仲が悪いのは変わらず。
「お姉さまたちは仲が悪いのではありませんわ。」
「リリー、二人の口が悪いと言いたいのだろう?」
「はいな、」
港には懐かしい顔ぶれとともに長老の顔が見えた。集団から少し離れた所に数人の男女の姿があった。
「おう、あいつらも元気な様子だ。安心したよ。」
あいつらとはオレグが造ったプリムラ村の住人、琥珀の加工の職人とその家族らだった。一人の女は赤子を抱いているのが見えるが、
「おかしいな、まだ結婚させて一年未満なのだがな~!」
それはサワだった。やや太っていたし風貌が農婦のように見えたからだ。また気づかないから後でルイ・カーンとしてサワから追及される。
「旦那、階段が出来ました。今クレーンで下ろしますので一番目は誰が!」
「そうだな、ここは一番重いボブ二号だ。階段の安全を確認してこい!」
「なんで私が……はい、行ってきます。」
「バキ!」 「あれ~~~~!!」 「ドッボ~ン!」
十二月の凍てつく北の海に落ちたボブ。生還できるだろうか。
長が女たちを呼んで指示を出している。
「お前たち、あの広い集会所に歓待の用意をしろ。」
「はい、すぐに。」
村人も段々と仕事に戻っていくのだった。
「ソフィア、リリー。ここは俺が初めて造った琥珀の村になる。」
「わ~オレグ。凄いわ!」
「あ、いや、あの丘の数軒の家だよ。」
「まぁお兄さま。ご冗談を! あれらの綺麗な家はなんですの?」
「あ~あれも建てたと思う……。」
村人が十人ほどになったころにようやく階段が出来上がった。オレグが先に降りるよりも早く駆け上る若い女がいた。先ほどの桟橋で大声をあげた女だった。
「ルイ・カーンさま!」「ルイ・カーンさま!」「ルイ・カーンさま!」
と言いながらオレグに抱きついた。
「なによ、このメス豚!」
「なに~! この……メス犬!」
初対面のこの二人。ソフィアとアウグスタと同じ轍を踏む。
「俺は知らないぞ。」
オレグはソフィアにおどおどしながらも若い細身の女を見つめる。
「ルイ・カーンさま! 私です。」
「こら、オレグ。このヒグマは誰だい? あ、ああん?」
「ルイ・カーンさま! 私です、シビュラでございます。」
「あ~あ、あの?、シビュラ~~~~???」
「はい、そうです。旦那さま!」
「ごら~オ・レ・グ・・・・・・。」
「あんたは誰よ、海に落ちれば!」
「それいい! バカ犬にはお仕置きね。オレグさん。この人は?」
ソフィアがオレグを怒り、シビュラがソフィアに盾を突く。それにアウグスタが参戦した形でオーバーヒートした。
「おいおいおい、・・・・・。リリー!!」
「はいお兄さま。ただちにこの三人を飛ばします。」
「頼んだぞ~。」
オレグは逃げていくのだった。遠くへ飛ばされた三人は夜になって集会所に現れた。
「遠すぎて帰り道が無かったのよね~。」x3
「あらあらまぁまぁ、すっかりお仲良しさんですね~。」
「誰が!」x3
ぴったりと息が合っているのだった。オレグは、
「教祖さまとお犬の巫女さま、それに熊の巫女さまです。」
と紹介したから三人は、
「教祖、犬、熊の座は、戦って決めるわよ。」
「もちよ!」x2
「リリーすまない。もっと遠くへ飛ばしてくれないか。」
「もうイヤです!」x3
「おうおう、もうすっかり仲がいいじゃないか。」
「リリー、シビル、キルケー、ごはん!!」
「はいはい、今準備いたします。教祖さま!」
「イヤイヤ、今準備いたします。お犬の巫女さま!」
「かわいい、今準備いたします。熊の巫女さま!」
横から見ると前に二段、後ろに一段と、飛びぬけて出ている淑女が細身の淑女へ変身していた。
「ルイ・カーンさま。私、頑張りましたのよ。お嫁にして下さい。」
「あらあらお兄さまは、どこに行ってもモテますですね。」
「なにを~このメス熊。」
「うるせ~メス犬。」
「おう、俺も混ぜろ!」
船酔いから解放されたゴンドラが名乗りをあげた。
「お前は男だろう、すっ込んでいろ。」
とアウグスタがゴンドラをはじき出した。
「ガゥ!」 「グゥ~~~!」 「ウォ~~~ン!」
三人の女は唸り声を出すのだった。村人はすべて逃げ出すのだったが一人いや二人が残った。
「ほら、私の可愛いベイビー。私たちも参戦するわよ。」
サワとサワの愛娘は三人に幻覚を見せて戦いに臨んだ。
「お兄さま……、」
「幻覚だろう? なに大丈夫だ、経験した俺が言うのだ心配ない。」
「ま、幻覚を見せるキツネ巫女ですか!」
「ゾフィ、この三人にあの三人を憑かせろ。」
「おう、いいのかい。……こりゃ~ご馳走だろうて!」
舌舐めずりのゾフィの目が輝いた。
「あぁ思いっきり頼むよ。村が崩壊したら困る。ましてや……船がな。」
「おうヴェーヤ、ウーグン、ジューラ、思いっきり吸ってしまえ!」
「わ~い!」x4
ヴァンダ王女は母娘に憑りついたのだった。これらの五人はエストニアに着くまで寝込んでいる。後に追加で一人が増える。
サワは昨年の事を夢見ている。クジラの胃袋から見つかった不思議な像でルイ・カーンが卒倒した時の出来事だ。
「そうだ、思い出したわ。数奇なご主人さまは最愛のご家族を奪われていたのでした。そうですか、この女性の方がご家族でしたか~。ご主人さま、再会できまして良かったですね。」
とルイ・カーンの半生が記憶が思い出されていた。
すると、サワに憑りついた海のジューラスマーテが涙を流し始めるのだった。
「う~ルイ・カーンさま、クジラのことは海に流しますね。あの立像は私が無くした物。……そうですか、ルイ・カーンさまの中に入りましたか。もうご主人さまとお呼びいたします。」
*)ドッグインできない?
「すごくでけ~な~……なんだいこの倉庫は!」
ボブ船長が見た最初の一言。オレグが建設した屋根付きの港だ。
翌朝になりボブ船長がオレグを探していた。この新造船はやはり規格外だ。オレグが小さな入り江に建てた大きい屋根付きの港には入れないのだった。今でも屋根葺きが終わっていない。他にも手を付けて放置されたような箇所が多いと見えるのだった。
ボブ船長が村人に尋ねるのだが。
「なぁオレグを知らないか。少し指示を仰ぎたいのだが。」
「ルイ・カーン伯爵さまでしたら、丘に向かわれる処を見ましたからプリムラ村でしょうか。」
「なんだい、そのプリプリ村とは。」
「プリ村、間違えた、プリムラ村は琥珀の村ですよ。あの小高い丘に家が見えますでしょう? あの村のことです。」
「あそこか、ありがとうよ。」
「兄ちゃんからの指示ではドッグに入れろだったが、マストが閊えて入らないんだよな。どうして入れたいのか訊きたいよ……。」
*)再度のプリムラの億り人
サワとシビュラを寝かせてしまったのでコーパルに関しては、ワルスと琥珀職人らとのやり取りしかできなかった。ただ、ワルスからは睨まれてつっけんどん扱いで反応が返ってこないので苦労した。
オレグはグダニスクで琥珀の祭典を始めたと言ったら、みんながみんな、オレグが聖ドミニコ祭の起源になったと知って驚いていた。
「ルイ・カーン伯爵さま、コーパルが一万個も出来やした。」
「おう、そんなに出来たのか。それはなにより。」
今日はソフィアやリリーはいないから突っ込みが無い。だがキルケーがいた。
「ねぇご主人さま。これは全部私に売らせてくれませんか?」
「それはいい。」
「どういいのですか?」
「お前、魔法で売りさばくから任せられない。愚民とのやり取りがおもろいんだ。俺の楽しみを奪うな。」
「そうですか残念です。では、そのコーパルを私に売って下さい。」
「そうかぁ~金貨二百枚でどうだ。」
「買いました!」
「おい、そこの女たらし。キルケーに原石の一万個を渡してやれ。」
「これは今から加工するのですが、よろしいので?」
「えぇ原石の方がいいのですよ。ほら、こうやって私が二個を握ると。」
「むにゅむにゅ、るる・・・る・ぷにゅぴにょ。」
「?……。」
「ほ~ら出来ましたわ。……これ素敵でしょう?」
コーパルの原石が一つの大きいマーブル模様に合体・変化していたのだ。
「こ、これは素晴らしい。俺に売れ。」
「はい金貨一枚です。五千個ですから金貨五千枚!」
「むむむ・・・・・りりり・・・・。」
「ならばお前、コーパルを溶かして作れ。」
「鍋に入れて溶かすのですかい? 燃えてしまいますよ。」
「そうか、出来ないならいい。俺、損した気分だ。」
「ガ~ハッハッハ~!」
大笑いしながらボブ船長が琥珀加工の工場に入ってきた。
「兄ちゃん、またしても損こいたのか!」
「う、うるさい。黙れ。」
「ボスは都合が悪いといつもそうやって怒鳴るんだから、もう正直だね~。誰にでも分かってしまうよ。どうにかした方がいいぜ。」
「う、う、う、うるさい。黙れ。」
ここで採れるコーパルを全量を買い取る約束だが、
「なぁワルサ。本当にここに在るだけか?」
「はい加工済みが一万、原石が二万個でしょうか。都合三万個ですね。ですが原石は小さいのばかりです。」
「おう兄ちゃん。どうすんだい?」
「ぐぐググ・・・・。う、うるさい。黙れ。ネックレスにして高く売る!」
「みなさん、ここにおいででしたか。随分と探しましたよ。」
と村長が工場を訪ねてきた。
「あ、はい。これだけの石を集めて頂きありがとうございました。」
「なんのなんの。まだまだ俺の家には在るぞ。買うかえ”。」
奇妙な声でオレグに買えと言うのだ。
「はいお約束ですので全量頂きます。今から伺いますが……。」
この村長が案内したのは家ではなくて、入り江の奥のやや大きい内海だった。
「どうだ、クジラだ、釣るか!」
見るからに大きそうな黒い身体が水面に浮いている。
「いいえ、欲しいのは石です。石が在るのですか?」
「そうか残念だ。だが、お主の考えで養殖をしておる。海が荒れてもここで漁が出来るので、村中で喜んでおるよ。」
「それは良かったです。いいアイディアでしょう?」
「あぁ、とてもいい。そのお礼じゃて。あの小屋に石が置いてある。全部、主にくれてやろう。ありがたく受け取れ。」
「えぇ! あの小屋に……ですか。喜んで~!」
「俺には学がない。数えることが出来ぬが、あばかん”在るぞ。」
小屋の床に広がるコーパルの海。ざっと十万個は在りそうだった。
「ご主人さま、もっと売ってくだ~い!」
「黙れ、うるさい。山に帰れ!」
とキルケーを邪険に扱うオレグ。
「おう兄ちゃん。これでオレグのプリムラの億り人が出来たな。」
「ボブ、ちょうどよかった。これを全部俺の港に運んでくれないか。」
「それはいいのだが、船が港に入らないぜ!」
「え”!……。」
*)????
「え、あ、入らないのか。どうにかするよ。」
「いったいどうやって……?」
「どうにか、だよ。」
「オレグお兄さま、昼食のお時間です。」
「おう、リリー、待っていたよ。戦利品だ。結界に仕舞ってくれ。」
「まぁ……こんなに……。戦利品??」
「それと、今日の夜は盛大に俺の港の落成式の祝賀会を行う。村長今日は祝日にして女たちを貸してくれないか。村中を招待するよ。」
「おうおうおう、そうかい。だったらクジラを絞めるかいのう。」
「出来るのか!」
「そこのお嬢さんには、なに、容易いだろうて!」
「え、私が、なんですの……? 意味が分かりません。」
リリーがコーパルを仕舞い込んだのが終わるとオレグは、
「俺の港に行く。付いてこい。」
と言いながらさっさと先に歩き出した。ボブ船長とシビルしか知らないオレグの港。ボブ船長は、
「みんな、見たら驚くぜ!」
とあたかも自分のことのように誰にでも話しかけている。この入り江からは大きい岩山が在るから見えない。
「なに、船と比べたら小さいさ。」
このオレグの一言が効いたのか、全員はボブの話を信用しなかった。大きい船に乗っていたから、この船よりも小さいと言うからには、倉庫程度か、と思うのは当然だろう。
「おう、見えてきた。あれだ!」
港の建物の入口にはあの帆船が停泊していた。その横の港の構造物は、
「ぎょぇ~!:」
「すんげ~!!:」
「なんですか、あのとてつもない大きい建物は!:」
「俺の港だ。どうだ、大きいか!」
「はい!:」x?
「まぁお兄さま。このような立派な建物! あの三人を萎えさせて正解でした。あれが跳び回っていましたらとっくに潰れていたかも知れません。」
「だな、本当に俺も良かったと思うよ。つくづくな!」
オレグらに気づいたシビルが船から跳び下りた。
「ボブ、どうだった?」
「あぁ、兄ちゃんがどうにかするとは言うがよ?」
「リリーがするんだろうよ。お手並み拝見だな。」
「オレグ、この船をどうやって入れるんだい?」
「あぁその事は、」
「リリーに相談!!」x2
「またしても私ですか、少しは代価をお支払いになってください。」
「ゾフィ、ゾフィ~。居るのでしょう?」
「あぁ、どうした三百五十歳。」
「まぁ失礼な。そこの赤いバラのつぼみを摘んで私に投げてちょうだい。」
「鉢ごとだな。」
「バカ言わないで、つぼみでいいのよ。」
「もう開いているぜ?」
「それならなおのこといいわね。早く……。」
「ほらよ……受け取れよ。」
「えぇいいわ。ありがとう。」
「で、オレグ兄さま。どうしたいのかしら。場合によっては魔女に援助をお願いするわ。」
「そうだな~今後もあるしさ、船を中に押し込むよりも、建物をさらに大きく丈夫に出来ないかな。」
「う~ん、中に在る木材は全部使うわよ。それに近くの立木・・・少ないわ。もっと多く持ってきてちょうだい。」
「ボブ、そういうこった。すぐに頼む。」
「なんでぃ、俺、俺、俺、おれ、おれ、おでばっかりが小間使いかよ。」
「あ、ボブ。ここは私が用意するわ。この広場に人を入れないように見張りをお願いね。」
「おう任された!」
「まぁ現金なこと!」
「まぁボブとは、そういう男だ。」
「それでお兄さま。松の木はどこに跳べばいいのですか?」
「あ~実は……。」
「知らないのですね。役に立たないわ! 少し建物を見て考えます。」
「あ、あぁ、すまね~。」
「なぁ兄ちゃん。なんでもかんでもあの嬢ちゃんに頼る気かぁ~?」
「そうだな、俺は無力だ、銭金の勘定しか出来なくてな。」
「だろうぜ、少しは嬢ちゃんに頼るのは止めておけよ。そのうち逃げられたらどうすんだい。」
「リリーは家族だ、逃げたりしない。」
「だといいがな……。」
「ドカドカ!! ザワザワ、ドカン、ドカン!」
と大量の松の大木が降ってきた。
「きゃ~潰されてしまう~!」
「あ、いっけね。避難させるのを忘れていた。」
オレグ一行以外の村の連中のみが騒いでいる。
それからリリーは姿を見せないのだがすぐに魔女六人が降ってきた。
「あれ~!!」x3
「いや~ん!」x3
「リリーさま~!」x6
と慌ただしく魔女は港の建物の中に消えていった。
「バキバキ、メリメリ! ズンズン!! メリーバキ、ズン!!」
「まるでメリー・ポプキンだな。」
「おう兄ちゃんも随分と古い人を知っているんだな。俺は知らないよ。」
「んなことはあるか、俺の話にちゃんとついてきているじゃないか。」
「悲しき天使だよ、あの嬢ちゃんは、な!」
「ついでに言わせてもらうがメリーホプキンだぜ。母国のウェールズ出身の金髪の俺の妹だ!」
「(バカ言え!)ほにゃ! 知らんかった。」
港の建物が成長した。
「バキバキ、メリメリ! ズンズン!!」
おおよそ五mは背が高くなっただろうか。
「オレグ、どうがじら!」
息を切らしたような、しわがれ声でオレグに話しかけるリリー。魔女らは、
すでに広場で転がっている。
「あ、あぁ、気にいった……ありがとう。」
「私、もう動けない。船の部屋に運んで頂戴。」
「もちろん、お姫様抱っこでな!」
「うん、うれぴ!」
「ボブ、シビル。仕事だ。俺らをクレーンで揚げてくれないか。ボブ二号は今でも高熱で動けないのだろう?」
「あぁそうだったぜ。今、特性のタラップを下す。いや、ドッグに入るのが先だ。ここでは海にしかタラップは下せない。」
大きい帆船のマストは余裕で建物の中に入れた。
「ボブ二号が動けないのが残念だな~。」
オレグはボブ二号にコーパルの研磨の風車を造らせる予定だった。
「あ~ここに柱を立てていたのに……背が足りなくなっている。」
オレグは建物に入りっきりで夕方まで出てこなかった。
「オレグ、落成式の宴会の準備が出来たぜ。」
「おうシビル。どうだい、この図面、凄いだろう!」
「俺には理解できない、クソだ!」
オレグは次なる大型船でも造るのか、それとも建物の改造か。その図面とは。
「オレグ、あの魔女は放置してていのかい?」
「あ、忘れていた。」
その夜の宴会は、
「え~い面倒だ、省略、しょ~りゃく!!」
いちばん楽しんだのは入り江でクジラと泳ぐ海のジューラスマーテだった。一晩中泳いで遊んでいた。翌朝は、
「あんた、逃がしてあげるね。」
「無理でございます。あなたのご主人さまが私の代わりに殺されます。」
「んなことはないわ。ご主人さまに買い取ってもらうからさ。」
「でしたらこの入り江にはヴァイキングの隠し財宝が沈んでおります。今、引き揚げますので、これを使って下さい。」
「そうね、あんた一人では交渉とか出来ないのよね、代わりに私がするね。」
「はい、しばらくお待ちください。しっぽで陸にはじき上げてみせます。」
「そう、だったら私はご主人さまを呼んでくるわ。」
このクジラはヴァイキングの隠し財宝の金銀を陸に上げていた。
「オレグ、これと引き換えよ、クジラを私にちょうーだい!」
「おいおい……おい、これを俺にくれるのか!」
「はいそうですよ? この中で今晩はいい夢を見て下さい。」
これは誰がが見せた夢なのだろう、(俺は騙されない)とオレグは思った。翌朝の入り江では全員で大騒動になっていた。すっかり冷え切ったオレグが高熱を出し寝込むのだ。
「おいソフィアさんの横がいいだろう。」
「そうですわね、ここは温まるように真ん中がよろしいですわ。」
とはキルケーの言葉。左右二人の女に挟まれてオレグが熱を出している。
ゾフィは、
「俺が火球で温めてやる。」
「こんがりになるから駄目です。ここは私が。」
火のウーグンスマーテが名乗りをあげた。五人は逆らうことも出来ずに次から次にと精気を吸われ続けていたという。
「いいわ、いいわウーグンスマーテ、どんどん吸い上げなさい。」
火に油を注ぐようにキルケーが一人で燥いでいる。