第151部 大穴の中は?
1247年10月22日 ポーランド・トチェフ村
「オレグ兄さま、二人は別々にすべきだわ。でないとソワレは働けませんし第一にユール・ボードが出来上がりません。」
「それもそうだ、だったら四人の精霊を連れていくか。」
「頭陀袋には、それぞれ二人を押し込めるか。」
「だね!」
「シビル、お願いね!」
「あいよ、任せとけ!」
「きゃ、いや~。」
「あんた、熱すぎ!」
「好きよ~!」
オレグとリリーは石切り場へと跳んだ。
*)仄暗い穴の底から
マシュやレオンはロープを長く結んでいた。ロープの先にはやや大きい石を結びつけて穴に垂らしているところだった。
「おい、まだロープは軽くならないのか!」
「へい全然軽くなりません。まだロープを継ぎ足しますか。」
「そうするしかないか。」
そこにオレグから引きずられるようにして三人の精霊と不明な精霊がついて山にあがってきた。最後はリリーが続いていた。
「どうした、まだ穴の底には着かないのか。」
「はい、そのようです。オレグさんこのロープを手繰ってみて下さい。オレグさんは得意だと聞き及んでおります。」
「おうそれな、金貨だったぜ! いや、なにを言わせるのだ。どれ貸してみろ。俺が上げてみる。きっとそうなんだろう。」
「なにがそうなんですか?」
「あぁ、お前らはバカということだ!」
「レオン、お前はバカだそうだ。」
「ここはマシュのことを言ってなさるのよ。マシュがバカだ!」
「いいや二人ともだぜ。ロープの先には何を?」
「へい、小さい石を結んでおります。」
「軽いな、小さすぎたんだろう。これだけ手繰りあげてもまだロープの重みしか感じないぜ。いつになったら石の重みが加わるやら……。」
穴に垂らしたロープが半分は引き上げたころ。
「やっと石の重みを感じたよ。これだとどれくらいの深さだ? あ、ああん?」
「……おおよそ三mでしょうか。」
「やっぱりな。随分と無駄なことをしたものだ。マシュ穴まで階段を造れ、至急造れ。」
「へい旦那。」
「レオン階段に沿って杭を打て。そしてガイドロープを付けろ。」
「はいオレグさん。」
「リリー飛んで穴を見てくれないか。きっと穴の下は土砂で山が出来ているはずだ。崩れないか確認が出来ればいいのだが。」
「そうね中でも階段が出来ればいいのね。」
「地上から続いた階段だったらいいのだが。出来ればだが!」
「オレグ、任せて!」
妖精の姿になってリリーは飛んでいった。大地の妖精だから暗い穴の底でもきっと大丈夫だろう、と考えた時に、
「ドドドっ~・・・・・・!!」
と地響きと共に穴が崩れて大きい穴が空いた。適当な石が並んで階段も出来ていた。
「マシュ、ロープを持ってくれ。」
「いやでございます。中には半漁人が居ます。」
「んな者は居ないよ。レオン至急杭だ、杭を打て!」
「へい……ほらマシュ、手伝え!」
「お、おう、ロープを持つだけだぞ。」
「臆病だな~、物言わぬ石が相手だとこうなるのか。」
レオンは牛豚やパイソンを相手にしているから怖いもの知らずなのだろう。レオンはマシュをやや小ばかにした言い方だった。
「石だって割れる目を見つけるのは大変なのだぞ。」
「それではあいつ等にロープを結んでもらおうか。」
「おらおら、はようロープを結んで繋げておけ!! お嬢さまが通るんだぞ!」
マシュは大声で遊んでいる石工に命じて精霊たちにロープを結ばせた。
オレグは次の準備を始めた。
「火のウーグンスマーテ。松明に火を着けろ。」
「はいオレグさま。」
「風のヴェーヤスマーテ、穴に向かって空気を送り込め。酸欠で死にたくはないからな。穴に潜りだすまで送り続けろ。」
「はいオレグさま。」
「海のジューラスマーテは地底湖の探索な!」
「いやでございます。」
「嫌でも潜らせるからな。」
「ヤドヴィガさま、地底からなにか感じますか?」
「え、あ、はい。かすかに人の気配と不気味な気配も感じます。」
「そうですか、私の次に続いてきてください。」
「はいオレグ。」
その時穴の中からは、
「ブオォー、ブオォッ!!」
という不気味な声が響いてきた。同時に、
「ぎゃ~半漁人!!」
と、またマシュが叫んだ。
「ようマシュ。あれが半漁人の叫び声なのか? あ、ああん?」
「はい、さようでございます。」
「じゃぁ俺は……先にエリアスさまに声を掛けてくるか。それとエレナも呼んでこなくてはな。」
オレグは愛娘を抱いた領主のエリアスに挨拶して、横に立っているエレナの手を引いて戻ってきた。
「オレグさま、私はイヤでございます。勘弁して下さい。」
「ならん。第一にお前の働きが悪いんだ。浅い穴に怯えてしまってもう情けない!」
「そ、そんな言い方は良くありません。もっと可愛い娘を労わってください。」
「そのようなことは、仕事が出来てから言うんだな。まだ仕事前だ!」
「びぇ”~!!」
とエレナは泣き出してしまった。
「お前、鳥目か!!」
「そうでじゅ~暗いところは見えませ~ん。」
「だったら火のウーグンスマーテと同じく松明の後に続いてこい。」
「一番後ろでしょうか!」
「だな。」
「最後は怖いです。」
「レオンを連れて行くから安心しろ。」
「はい。」
「オレグさま、松明五本の用意が出来ました。」
「火のウーグンスマーテ、俺とレオンに渡してくれ。残り二本は予備に残しておくから持っていろ。」
「はいオレグさま。」
調査隊はオレグ、ヤドヴィガ、海のジューラスマーテ、ヴェーヤスマーテ、火のウーグンスマーテ、エレナ、レオンとなった。
「リリーは出てこないな、それとも出てこれないのかな?」
「オレグさま、怖いことは言わないでください。」
「なんだエレナ。怖いことはないからな。」
「そ、そうでしょうか~。」
エレナは声を震わせていた。
「わ、サダコ!!」
「びぇ”~!!」
エレナはオレグの大きい声で伸びてしまった。
「やっぱ置いていくか。中で失神されたら重い荷物になってしまう。」
「オレグの旦那、趣味が悪いですぜ。もうエレナさんには嫌われてでしょうね。」
「ま、そうだろうな。それでいいのだよ。」
「マシュ、ロープを二本垂らしておいてくれないか。」
「はい喜んで~!」
「ちぇ現金なやつだ。あいつを驚かせればよかったか!」
「そうですぜ旦那。今から簀巻きにして穴に落としましょう。」
「わ、イテ、イテテ!!」
マシュがレオンに向かって小石を投げつけている。
「マシュもうよせ。お前は連れて行かないから救護班として残っていてくれよ。」
「はい喜んで~!」
「旦那、長らくお待たせいたしました。子ヤギにたくさんの塩を詰め込んできましたが、なりはもう牛そのもです。」
「おうおう上等だ。よくここまで造りこんでくれた。これはもう立派な牛ヤギだな。俺の女房が子ヤギを見て言うのだよ。」
「奥さんの、ソフィアさんが……ですか?」
「いいや別の奥様だ。気にするな。」
「オレグさん、私たちが一生懸命に詰め込んだのですよ。」
「女のお前たちにはいつも苦労を掛けるな。」
「いいえ私たち、心の奥様ですから気にされないで下さい。」
「ソフィアさんが居なくて良かったですね。」
「あぁホントだな。貴重な娘が天国に旅立つところだったよ。」
「マシュ、簀巻きにしてロープで垂らしておいてくれないか。」
「お、俺は簀巻きにはなりません。」
「お前ではない、今届いた牛ヤギのことだ。これは地底の***への手土産になるのだ。これが無いと俺らが手土産になっちまう。」
「いったい***とは、なんですかい。」
「ブオォー、ブオォッ!!と、喚く奴のことだ。気にするな。」
「へ、へい。……さようで…?」
マシュに限らずオレグの行動には誰もが理解できずにいる。全員には命綱を腰ひもにした。
「おう、では地底の探検だ。捕まえて、第60部 マルボルク 恐竜の公園に持っていくぞ~!」
「オー!!!」x2
「イヤダー!!」x4
「半漁人!! 捕獲~!!」
とオレグが叫ぶと、周りの人間は、
「オー!!!」
と返事した。
「どうせドデカイナマズを捕まえて来るんだろう?」
とはエリアスの言葉だ。
オレグは松明を片手に階段を下りて行くが、リリーが戻ってこないのはどうしてだ? と思い悩んでいた。
「ここの鍾乳洞の水脈は、古代のビスワ川の水が流れているのかな。」
「きっとそうでしょうね。自噴井戸は遠くの水脈が流れているからです。たぶんに南の五百kほど離れた山脈が水源でしょうか。」
「よっしゃ~レオン、先に行く。最後は頼んだぞ。」
「殿は任せてください。いの一番に逃げることが出来ます!?」
「レオンよく言った! お前はトチェフから放追させたる。」
「そんな~!」
「牛に舐めさせてやるか。塩をたんまりと身体中に染み込ませればいいだけだから、安上がりだ。」
「旦那を一生恨みますよ!」
「お前の一生はそんなに短いのか、牛相手にならば三十分で死ぬだろうて!」
「そんな~!」「そんな~!」「そんな~!」 「そんな~!」
オレグは嬉々として階段を下りていく。次はヤドヴィガ。松明を高く翳す火のウーグンスマーテが続く。
「オレグさま、本当に半漁人は居るのでしょうか。」
「そんなものは居ないよ。もっと大きいモノだろうと俺は考えている。」
「そんな~!」
火のウーグンスマーテは心底怖がっている。
「だったら海のジューラスマーテに訊いてはどうだい?」
「きっと迷信と言うに決まっていますわ。」
「本当ですよ、バルト海では捕えられた半漁人が居るのでしてよ!」
心細い火のウーグンスマーテに加油する事を言うのだった。おまけに、
「油を注げばもっとよく燃えるでしょう?」
「あぁ納得だな。」
とオレグも悪乗りしたいところだが、ぐっと気を静めるのだった。先の方は暗くて見えない。光が届かないのだ。穴の下は3mとはウソだった。深淵がどこまででも続いていた。
「リリー居るかい。……リリー!」
「返事がありませんわ。」
「ヤドヴィガさま、どこからか人の気配は感じますか?」
「オレグ。まだ先に降りたところで少し感じます。気が弱いからきっと怪我をした石工でしょうか。」
「では急ぎましょう。」
「あ、オレグ。人の気配が消えてしまいました。残るはおぞましい……サダコ。」
「ブオォー、ブオォッ!!」
とまた大きく何かの叫び声が聞こえてきた。今度は大きく聞こえるから近いのかもしれない。
「レオン、松明を一本目印に灯して置いていってくれないか。」
「はいオレグさま。私が持っておりますので、今準備いたします。」
「あ、そうだったな。……みんな少し休憩にする。休んでくれ。」
「は~い。」
「レオン返事が無かったが、逃げてはいないかな?」
「オレグさま、レオンはもう居ませんわ。とっくに逃げたと思われます。」
「いや、もう食われたのだろう。牛ヤギの方が美味いのにな。残念だ。」
「風のヴェーヤスマーテ、どうだいこの洞穴は大きいかい?」
「はいとても大きいです。風も弱いながらも吹いております。」
「聞こえるのは水の流れる音だけか。」
「そう……ですわ。あらヤギも鳴いていますね。?? それと男の人が!」
「男だと??」
「これはフライングのレオンさんですね、谷底に落ちたようです。」
「フライングなら飛んでいたのかな。先回りしたんだ。」
「そうですね、光る水晶の柱が在りましたので、きっと欲に駆られてでしょうか。まだ先にはたくさんの水晶が在るというのにとても残念な人ですわ。」
火のウーグンスマーテには底知れぬ特技がありそうだった。レオンは先ほどの叫び声の時に驚いて落ちたと思われる。しかし火のウーグンスマーテは気づいても知らんぷりだったと考えられる。
「やれやれこの先、どうしたものか!」
「レオ~ンどうだ~、死んでいるか~!」x5x12
「は~い死んでおりま~す。」x3
レオンの返事には木霊が無いに等しかった。やはり底に居るらしい。
「オレグさま、松明の設置が終わりました。」
「よっしゃ~進もうか。」
「……。」
無言で返事が返ってきた。進もうとしていたオレグに命綱が拒否していた。オレグの腰ひもがピーンと張っていて先に進めなかった。
*)地底の大***
「こりゃ俺独りででも行かないならぬのか!」
「オ、オレグさま、すみません。足がいう事を聞きません。」
「私は、尻が上がりません。」
「私はめまいが・・・。」
「もう勝手にしろ。俺は独りででも降りていくぞ。リリーだって送った手前、探して連れ帰らねばならない。お前らとはここでお別れだ。」
話が進まないので苛立つオレグが啖呵を切って怒りだす。
「ここで死んでも俺は知らない。早く天上へ行け!」
「オレグさまそれって、……。」
「あぁそうだ。お前らは死んでしまえ!!」
「ブオォー、ブオォッ!!」「ブオォー、ブオォッ!!」「ブーー!!」
「誰だ屁こいたのは。」
「私……。」
「なんだお前か!」
「私、オレグさまに付いていきますから見捨てないで下さい。」
海のジューラスマーテが名乗りをあげた。後は・・・・・・無い。
「では海のジューラスマーテ。先に行こうか。」
「はいオレグさま。この先に待つ***を見てみたいです。」
「おうなんなら刺身にして食わせてやるぞ。」
「オレグさまのお刺身は、きっと美味しいでしょうね!」
「俺を食っても不味いぞ。あれはもっと不味いだろうが、食らえば長寿になるかも知れないから、この俺も楽しみだ!」
「あれって、なんですか?」
「トカゲかヘビだと思ってもいいだろう。足も四本から六本はあるかも知れないが、ま、ドラゴンだろうさ!」
「ブオォー、ブオォッ!!」「ブオォー、ブオォッ!!」「メーー!!」
「お、牛ヤギに食らいついたようだ、これで今日の目的は終わったも同然だ。残るは人命救出だけになったよ。」
「あの、誰もが倒せなかったドラゴンを倒せるのですか?」
「あぁそうだとも。水で腹いっぱいになったところに剣で一突きすればいいだけさ。皮と爪、それに角があれば高根で売れるだろうさ。」
「うんまぁ!」
「ブオォー、ブオォッ!!」「メーー!!」「ブオォー、ブオォッ!!」
「メーー!!」
「オレグ~~~!!!」
「あリリー。無事だったか。」
「はい怪我人も眠らせて結界に収容いたしました。だから早く地上に戻りましょう。」
「待ってくれ、谷底にはレオンも落ちてしまっているから、レオンを拾いに行かなくてはならない。」
「それでしたら召喚すればよろしいのですわ。」
「いやいやそれでは困る。リリーの魔法は秘匿だ。」
「もうすでに大地の魔法も使いましたわ!」
「あ、そうだった。ならばまたシビルに頼むしかないな。」
「はい、そうですね。」
「レオン、召喚!」
レオンが降ってきた。
「ヒェ~!! イテテ。……あ、オレグさん。」
「お前、また落ちたのか。大丈夫か?」
「え”、私はまた崖から落ちたのですか?」
「そうだ、俺の目の前に落ちてきたから間違いない。立てるか?」
「はい頑張って逃げます。」
「そうだな、レオンは何か見えたか!」
「はい底にはとてつもないデカい怪獣が居ました。」
「それは夢だ。明日には消えてなくなるから気にするな。」
「で、できません。貴重な体験です。忘れません。」
「だったら明日の朝に教えてもらうからさ、ここは地上に戻るぞ。」
「はい。オレグさん。……。」
「なんだ、……。」
「おんぶ、……。」
「x@\/+^\・・・。」
と言うリリーの魔法によりレオンは眠ってしまった。
「ではオレグ兄さま、地上へ飛んで帰ります。」
「あ、いや穴のすぐ下がいい。そこまで跳んであとは歩いたがいいぞ。」
「ではそのように。」
「ゲート!」・・・「三人を拾って、」・・・「ゲート!」
「よ~し一人にひとりをオブって階段を上るぞ、いいな。」
「は~い!」x3
リリーは地上から見えないところで五人を結界から出した。
「う、重い。歩けない……。」
「仕方ない、助けを呼んでくるから待っていろ。」
「は~い!」x5
「ブオォー、ブオォッ!!」「ブーー!!」「ガブガブ!!」「ガブガブ!!」
「ガブガブ!!」
と大きく水を飲んでいる音が聞こえてきた。
「一人、多いわ!」
「ヘッ!!」
「この女が多いのだな。」
「この女とはなによ。無礼罪で死刑にしてやるわ。」
「あんた誰?」
「私は王女のヴァンダです。」
「え”! パンダ王女?」
「お前は死刑だ~~~!! smokの餌になるがよい。」
( smok・スモク=ドラゴン)
性格は龍のごとし! 怒らせないならば、蠱惑の塊のような美女が居た。
「なによ私はヴァンダ王女ですよ!! 平伏しなさい!」
「リリー、どうしてこんな女を拾ったんだい?」
「だって石工と同じように倒れていたのです、私だって判りません。プイ!」
「グ~、グ~、グ~、キュルギュルグ~!!」
ヴァンダ王女の腹の虫が大きい声で鳴いた。
「ユール・ボードが出来上がっていればいいのだが……。」
オレグは物語の早い展開に一抹の不安を感じた。シビルとソフィアとこの王女、ガチの戦いが……聖戦の予感しか持てなかった。
「お前、そこの女だ、そうお前だ。谷底に横たわる男を拾ってこい。ワシの僕のゴンドラが腹痛で倒れておるでのう。」
「あの悍ましい龍はイヤでございます。」
「あれは女子には優しいのだぞ、男が行けばたちまち食われるだろうがな。ウッシッシッシ!!」
「ワレ、谷底のタンヘイをここに召喚す! 頭上に現れよ!」
「ギャフン!!」「お、クッションつきか~!」
ごつい男がヴァンダ王女の頭に落ちてきた。