第150部 私にも分かりませ~ん!!
1247年10月22日 ポーランド・トチェフ村
*)シビルからの報告
「でだ、でかい穴が見つかったんだ!!」
「それがどうした!」
「でかい穴が……!!」
「なんだ、知らないのか!」
「ま、そういう事だ。村の連中が騒いでいたからさ、な?」
「なにが、な? だ。使えぬ女だな。」
「百聞は……先に見せたがいいか! でかい穴が見つかったんだ!!」
「リリー全員でトチェフに飛ぶぞ!」
「はいオレグお兄さま。それでこの三人は頭陀袋に入れてもいいでしょうか?」
「リリーこの三衣袋になさい。」
「お姉さま、同じではないでしょうか。」
「いいえこの三衣袋の生地は特性で、魔力を封じる力があるのです。だからリリーのお腹に入れても吐き気がありませんわ。」
「ありがとうお姉さま。でもこれはどこから?」
「もう忘れたのですか?・・あ~ぁ??・・う~ん??」
「あ! あの時の、私たち三人が頭から被せられた袋ですね。」
「そうです、あの袋ですわ。もらってきて正解でした!!」
「ゴミ扱いなんて、い、イ、イヤでございます。」x2
「いやに決まっていますわ!」x1
「真田の六文銭の紙の絵は入れないでください。」
とは海のジューラスマーテ、黒いローブを着た謎のオバサンである。ちなみにこの黒いローブとヴェールは最後まで脱がなかったという。聖職者が着るローブとはどことなく似て非なる。生地が薄くて透けて見えている。いったいどこが……??
リリーは、
「そのローブは、す、す、す、だね!」
「はい、アムピトリーテーから剥ぎ取った戦利品ですの。その証拠にあの女は全裸の絵や彫像しか在りませんでしょう?」
「そうね、よくポセイドンが怒って地震を起こしていたわ。」
「でしょうね、奥方のアムピトリーテーの裸を見て興奮したんでしょう?」
「まぁ随分と…下ネタですわ!」
リリーは恥ずかしいので正しい言葉使いになっていなかった。
(アムピトリーテーは五十人からの姉妹のなかの一人だったという。)
ギリシア神話よりの駄話。
「あんた、イルカなの!?」
「え”、あ”、へ?」
?)イルカ信仰
シュメール、バビロニア神話ではイルカは神獣であり知恵の神と称されていた。中略、ギリシア神話においてはイルカの殺害は大きな罪とされ、この流れをくんでいるのが太地町のイルカ漁の反対運動に繋がる。要は西洋はイルカを神聖視しているという事だ。
海のジューラスマーテがオレグを敵対視するのはクジラを殺して食べたからである。海のジューラスマーテは頭脳明晰、賢者の扱いにて進めるべきか!
リリーは全員を境界に押し込めて、……瞬時にトチェフに着いた。
「オレグ兄さま、久しぶりの境界のご気分はいかがでしたか?」
「懐かしい感じがしたぞ、目が回りそうだ!」
ソフィアに背中を押されてふらふらした足取りで出てきた。そのソフィアは三袋の三衣袋を引きずって出てきた。ゾフィは?……出てこない。
目まぐるしく移動を続けているオレグらの一行。オレグ以外はオレグのパブに集めている。
「俺はちょっとあいつに挨拶しに行ってくる。」
「オレグ、手土産が必要だよ。何にするの?」
「あのクジラの肉塊でいいだろう。リリー出してくれないか。」
「ん~~~出てこないわ、これは産みの苦しみだわ!」
「ん~~~、ん~~~、ん~~~、ぽ!!!」
と出てきた肉と妖精のゾフィ。
「んまぁゾフィ!!」
出てきたのはクジラの肉と肉に食らいついたゾフィだった。
「随分と小さくなったな、これなら俺一人で持てそうだ。」
「いやだ、俺が全部食うから駄目だ!」
「ソフィア、厨房から家伝の宝刀を持ってきてくれないか。」
「いいわよオレグ。四十年物の出刃包丁だね!」
そう言いながらソフィアは一刀両断に切り分けた。
「歯型が多いな、ま、いいか!」
オレグは五十cm位の布に包んで背中に結びつけた。
「オレグお兄さま、これも持っていってください。」
リリーは小さな包みをオレグに手渡した。
「あ、これな! ありがとう。」
館に着いたオレグを出迎えるのはグラマリアだけだった。エリアスやメイド、愛娘さえも石切り場へ行っていた。
ややほっそりとしたオレグを見て一言。
「オレグ、目は回りませんのかしら??」
「はい、グラマリアさま、私の生還祝いがまだですが?」
「あら、なんのことかしら。ご自分で始められたらよろしいでしょう? それでしたら私も参加してあげてもよろしいですわ!」
「グラマリアさま、これ珍しい珍味でございます。」
「オレグのことだからそれは嫌味ですか?……あ、あん?」
「グラマリアさま厨房に行きましょう。この肉を焼いて差し上げます。」
「それは……大きい肉ですね、……なんですの?」
「まぁまぁ、出来てのお楽しみです。」
オレグはまな板にクジラの肉を載せて薄く切り出した。二cm角にして先ほどリリーから渡されたブドウの枝を突き刺して串焼きの下ごしらえをした。
この館は贅沢に造っているからかまどの火は絶えることがなかった。というよりも一度火を落としてしまえば、後々の火起こしがとても面倒な造りになってるのだ。早い話がとてもでかいかまどなのだ。火を落として再度火を入れても料理ができる温度になるまで半日はかかってしまう。もう一つ。隣室のお風呂の火力も担っている。この方式はメイドたちにはとても受けている。
その頃の石切り場ではマシュが大穴の所までおりて異様な大きい声を聴いた時だった。
「ブオォー、ブオォッ!!」
「ぎゃ~半漁人!!」
「おうリリーのやつ、岩塩も入れてくれているな、ありがたや。」
オレグはクジラの串焼きを作ってグラマリアに食べさせた。
「まぁこれはとても美味しいわ、馬よりもおいしい、い。」
「グラマリアさま、いつ馬を食べたのですか!」
「あ!」
グラマリアは話をはぐらかして、
「オレグ大変ですなのですよ。異世界と繋がってしまいましたわ、もうどうしたらいいのか、解りません。」
「解らないのは私の方でございます。異世界とはなんでしょう?」
「地底都市が現れたのですよ、どう? 驚きましたかしら!」
「ただの大穴でしょう? それのどこが地底都市ですか、実際に検分をされましたのでしょうか? あ、ああん?」
「いいえ私は聞いただけですが……。住人が六人も居るとか!」
「??? 落ちたのは五人ではなかったでしょうか?」
「間違えました七人です。その身なりがとても私たちとはかけ離れていまして、その、」
「先はもう結構です。どうせ半漁人が~居た~!と言うのでしょう?」
「は、はい、そのとおりでございます。ひらひらしたヒレのある服装で、水中を泳いでいたとか!……ありえませんですわね。」
「今から行ってきますよ。今晩は魚のお刺身ですな!」
「そのようにならない事を祈っておりますわ!……もちろんオレグが刺身にならないようにですが……。」
*)半漁人!?
オレグはパブには寄らずに石切り場へ直行した。パブへ寄って行くには遠回りになるからだ。グラマリナが言うことは信用できないのだ。
村はライ麦の収穫で忙しくなる季節だ。種まきがずれる分収穫もずれてくる。最初の種まきは畦道に沿って行われる。順次奥に向かって播種されるから、遠くは収穫が遅くなる。だから畦道から空いた畑地には自ずと搬出の道が出来る。
「この道を進めばライ麦畑ワープが出来るな。」
オレグはライ麦畑の中を突っ切って直線的に石切り場へ向かった。三人の農夫が麦の刈り入れをしている。
「これはこれはオレグさま。お手伝いでしょうか?」
「おうみんな、頑張っているな。この秋の収穫はどうだい!」
「はい例年に比べて麦角がありませんでした。これならばより高く売れるでしょうか。」
「おいおいこの俺にライ麦を高く買えと言うのだな。」
「い、いえいえ、滅相もない。いつも買い上げて頂いておりますので感謝の言葉しかありません。」
「いいぜ今年は高めに買い取らせて頂くよ! で、この畑地は空けるのか?」
「はいこの秋はカブを植えるようになります。」
「カブが大きくなったら豚の放牧だな。これからも頼んだぞ!」
「へい。」x3
少し先に視線を向けると石切り場の作業場の建物が見える。石切り場はその建物の裏手になるから、この位置からは見えない。村から通じる道には数人の農夫らが何やら運んでいるらしく、手押し車も見える。その後ろにはオレグの病院の農婦らだろうか、三人がついていっている。
石切り場の作業場の建物の右には、オレグのブドウ園が広がっていて、やや茶色の葉っぱが風に揺れている。その隙間から見える白い物が見えるのは、ブドウの房を包んだ保護用の布きれだ。
「おうおう爽快だな。今年もたくさんのブドウが収穫できるだろう。」
「だんな~!!」
酪農のレオンがオレグに気づいて手を振っている。農場から長いロープでも運んでいるのだろう。
「オレグさ~ん、早く来てくださ~い~!」
酪農のレオンは手押し車を止めて待つ気でいる。
「おう!!」
オレグは息切れか大きい声が出なかった。
「待たせたな、今日はどうしたんだ。」
「俺も詳しくは知りません。ただ山が崩れて地の底に落ちたとかなんとかと聞きました。」
「ちょっと旦那!!」
「ちょっとだからいいだろう?」
「では急ぎますよ、お尻は我慢してください。」
「お~! あっふぇ!! ひぇ~! ごっふぉ!」
これはオレグの悲鳴だ。荷台に乗って尻の痛い悲鳴が続く。
「旦那、着きましたよ。そこの石に座って尻を冷やしてください。」
「お、おう、そうさせてもらうか。」
石工のマシュはレオンの到着を待っていたから、石切り場から飛んでやってきたのだった。
「遅いじゃないか。」
「…あ! 旦那、大変です。石工の五人が地に落ちました。」
「大丈夫なのか? 怪我とかは無いのか!」
「それがまだ詳しくは分かりません。地の底にロープが届かないのです。だから降りる事が出来ませんので……。」
「エレナが飛んで降りたのではないのかい?」
「そうですが、穴は大きくて深いので明かりが無いからとすぐに昇って来ています。」
「それで呼びかけとかはしたんだろうな。」
「はい、ですが返って来るのは木霊だけなんですよ。」
「だったら全員は絶望だろうな、これは参った、カミさんが悲しむだろうな。」
「いいえ、それが喜んでいるようなのです。本心かどうかは知りませんが。」
「金貨一枚でも出してやるか。」
「それでオレグさん。お連れの方々はどうされました?」
「パブで休んでいるよ。俺らもグダニスクで色んな事があってさ、病人も出ているんだ。こういう俺も体力が無くなってしまってな。」
「お疲れのところ申し訳ありませんが、穴を覗いて頂きましょうか。」
「落ちないのか?」
「はいしっかりと命綱を結んでおきますよ。」
「い、命綱??」
「はいオレグさまが一番乗りで穴に降りて頂きます。」
「俺が死んだらこの村は終わりだぞ! それでも俺を降す気か!」
「もちろんです。エレナさんもすでに待機なされてあります。」
「とても嫌な気がするのだが、それって俺だけか!」
「まぁまぁ、なにはともあれ半漁人さまもお待ちでございます。」
「その半漁人は本当なのか!」
「地底では川のように水が流れています。その川からは不気味な声が聞こえるらしいのです。」
「エレナがそう言うのだな?」
「いいえ、私が穴を覗いた時に聞こえたのでございます。」
「それは落ちた男の声ではないのかい?」
「それはありえません。おおよそ人の声とは思えない叫び声でした。」
「だったら俺はお断りだ。お前がボスだからマシュ、お前が穴に降りろ。」
「私だって岡山の日咩坂鍾乳穴の大学生行方不明の二の舞にはなりたくありません。」
「地底湖が在るならば、ムヒひひぃヒヒ!! あやつを降ろすか!!」
「あやつとは、いったいどの女の人ですか?」
「なにグダニスクで知り合った女だ。?? どうして女だと分かるのだ。」
「はい、オレグさまの周りは女だらけですから今度もきっとそうだと判断したまででございます。」
「おい女だらけとは……まぁ、間違いはないな。呼んでみるか。」
「そうでございましょう?」
「だが俺はスカートチェイサーじゃないぞ。」
「はいはいそれも理解しております。」
マシュによるオレグの分析は正解だった。
「リリー俺を召喚してくれ~!!」
「わっ! 旦那、もう地の底に行かれましたか!」
オレグの身体は消えてパブの一室に現れた。
*)精霊たちのざわめき
「ブオォー、ブオォッ!!」
「ぎゃ~半漁人!!」
と、大穴の上でマシュが叫んだ時だ。
時間はオレグと別れた時から一時間後まで遡る。
リリーがゾフィをたしなめている。
「ほらほらゾフィ。もうお腹はもういっぱいでしょうが。このまま食べ続ける気でいるのかしら?」
「当たり前だろう? 明日からは戦争になるかも知れないんだぜ! ソフィア姉さんもそう感じるだろう?」
「う、うぅ。……。」
ソフィアは珍しくしっぽを出しておまけに毛を逆立てている。これは己に恐怖を感じた時の仕草なのだが、いまだ誰も見たことがないので理解できない。ただゾフィだけは不吉の前兆だということが理解できた。
「あらあらお姉さま、お腹が痛いのですか?」
「う、うん、下っ腹がつんつんと差し込んだように痛むのよね。う、うう・。」
ソフィアと同時に精霊たちも顔を蒼くしている。ゾフィの精気をたくさん食らった二人がもうお腹を空かしたとは思われない。それに先ほどまで赤ワインを飲んでいた海のジューラスマーテも、赤ら顔から精気が抜けている。ただシビルだけは気にせずビールを飲んでいるのだが。
「風のヴェーヤスマーテ、火のウーグンスマーテ、海のジューラスマーテ。三人ともどうしたのです!」
「リリーさま、良からぬ物がこの村には居ます。」
「者が物だけに、良からぬモノとはなんですか?」
「リリーさまは気が付かれませんか? このおぞましい邪悪な気が感じないとはどうしたことでしょう。」
「はい私はどうということはございません。が?……それがなにか?」
「リリー、私はなんだか寒気がするから二階で寝ているね。」
「まぁお姉さま。まだ飲み足りませんでしたか? でもお大事にね!」
「う、うん。リリーも身体を休めたがいいわよ。それに食事も摂って頂戴。」
「はいゾフィから奪って頂きますわ。ご心配には及びません。もしかして?」
「馬鹿ね~懐妊ではないわよ。ただの悪寒よ!」
「あら残念。私は何も言っていないのにね。お姉さまには心当たりがあるのですね?」
「昨晩は……でへ!」
だが昨晩は女たちだけでの酒盛りだったはず。
「さてお姉さまは休まれたし、ここの三精霊はどうしたものか! あららオレグお兄さまから召喚の命令だわ。どこに落として差し上げましょうか!」
とリリーはオレグの着地点を考えて、
「オレグ召喚! と、これでいいわ。」
すると二階から大きな悲鳴が!
「きゃ~オレグ。なんでここに居るのよ!!」
とは、ソフィアの悲鳴だ。
「もう裸を見られたじゃない! このバカ! おたんこなす!!」
「おたんちんですまなかったな……お前! どうしたんだ!?」
「うん少し寒気がしたからよ、オレグ、身体を温めて頂戴な!」
「あぁ今晩な。それまで休んでいてくれ。」
トントントン・・・・。とオレグが階段を下りてきた。
「リリーいじわるするなよ、思いっきり叩かれたじゃないか。でも裸体のソフィアに会せてくれてありがとうな。」
「いいえ、どういたしまして! それでお姉さまのご様子は?」
「大変、怯えているんだよ。こりゃ~大変だぜ!」
と少し動揺した様子のオレグだった。
「お兄さま、何が起こっているのでしょうか?」
「あぁそうだな。地の底から誰か目覚めたんだろうよ。ソフィアの天敵なら誰になるんだろう。」
「必ずしも天敵とは限りませんわ! たとえばソフィアお姉さまのお母様とか?」
「バカ言え! あの母親は結婚が破断して処女で死んでいったぞ。」
「まぁ処女受胎のマリアさまがお母様でしたかしら?」
「そこは突っ込まないでくれないか。俺も詳しくは知らないんだ。それよりも俺の倉庫から豚肉をたくさん取り出して、ユール・ボードを……そうだな、五テーブル、いや七テーブル分を用意してくれないか。」
「まぁたくさんのお客様がお見えになるのですね?」
「それは分からんが人数は多くなるだろうさ。それとそこの三人を厄払いで連れていくからリリーは石切り場まで跳ばせてくれないか。それとここの女将とメイドたちを呼んで至急ユール・ボードの準備を頼む。」
「ここはシビルに任せて私もお供いたします。たぶん私の大地の魔法が大いに役に立つかと思われる案件ではございませんか?」
「そうだな、シビルでは心もとないからソワレを呼んで頼むとするか。」
「我! ソワレをここに召喚す!」
「ぎゃ~!」「イヤン!?」
「誰が落ちて来たんだ?」
「さぁ誰でしょう。ソワレと?……。」
ソワレと共に現れたのは修道服に身を包んだ、ヤドヴィガという年齢は二十歳を超えたと見える女性だった。二人とも年齢が同じなのか!
「あらまぁお母様、こんな所でお遭いするのは偶然でしょうか。」
「おやおや親不幸の娘ではありませんか。ここで遭ったが百年目ですわ。しっかりと親孝行をさせてあげますわ!」
「ま、待って下さい。百年しましたら私は生まれてきますので、その時に親孝行はいたします。ですからお母様は死なないで下さいまし。」
「百年後?? 意味が解りません。」
「はい、そうでしょうね。私はお母様と死別してこの時代に来ました。ところでお母様は今どこに居るのです?」
「トシェブニツァのシトー会の修道院よ。」
「違うわよ。ここはポーランドは北よりのトチェフという村なんだよ。」
「お前が帰ってきたんじゃないのかい?」
「私はまだまだ生きています。」
「??????」x4
「おいおいリリーさん。こいつらはどうしたんだ。」
「二人とも同じなのでしょう? 私にも理解出来ません。」
「リリー。もしかして今までが二個一だったとか?」
「それもありかもしれませんわ、オレグお兄さま。」
「ああ、そうだったわ。私はヴァンダ女王を探す旅に出ていたのです。エルジュビエタ、ヴァンダ女王を知りませんか?」
「し、知りません。ここは遠い異国ですわ。」
「同じポーランド国でしょうが。そのポーランドの女王さまです。」
「ちょっとお待ちください。ヤドヴィガ様。あなた様はソワレのお母様なのですか? それと、ヴァンダ女王さまとはどういう関係でしょうか?」
「ヴァンダ女王さまは、私の母になります。」
「ソワレ、あんたはお姫様なの?」
「え”、あ。……ま、そうです……。」
リリーの質問に答えるソワレだった。
「ソワレさん、お願いがあって召喚したのです。お母様と水入らずでユール・ボードの準備をお頼みいたします。」
「あ、い、いや、ここは、私、逃げ出したいのです。私は母とは仲良くありませんので!」
「おうシビル。こいつらを逃がさないでくれないか。賓客を迎えに行ってくるまででいいんだ。頼んだぞ。」
「おう任せな。なんなら二階で寝せていてもいいが?」
ヤドヴィガとは百年後のポーランド国の女王。とてもふくよかな美人。
ヴァンダ女王とは、八世紀頃のポーランド国の女王。伝説の姫君。ポーランドの首都クラクフを建国した王様の娘。今は精霊として存在。
1200年当時は七つの公領に分かれていた。1138年にボレスワフⅢ世は、后と四人の息子に王国の領土を分割させて相続させていた。当時の首都のクラクフ大公領をさらに長男に継がせていた。長男は二つの公領を統治していた。当然のように内紛は起こり1240年ころよりモンゴルによるポーランド侵攻を受けて国は疲弊していく。ただポーランド自体は神聖ローマ皇帝の一国に過ぎない。
「エルジュビエタ、久しく見ない間に大きくなったわね。」
「お母様こそ死んだ時のママの姿ですわ。こんなにお綺麗だったとは思いませんでした。死別したのは私が五歳だったかもしれません。」
母娘で意味不明な会話が続いている。エルジュビエタとはソワレの本名である。
「オレグ兄さま、二人は別々にすべきだわ。でないとソワレは働けませんし第一にユール・ボードが出来上がりません。」
トチェフに大穴が空いて変な方向に話が進んでいる。来賓とソフィアの関係はいったいなんなのだろうか。
「私にも分かりませ~ん!!」