表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
15/257

第15部 領主との面談


 1241年5月2日 ポーランド・トチェフ


*)トチェフ


 俺らはゴットランド島、ヴィスビューから1か月かかってトチェフに着いた。ここは小さな村で、人口は二百人足らずの駆け出しの農村だった。


 ここは、かのスケベ親父の子孫のモンゴル侵攻・ワールシュタットの戦いの直接の影響は受けていない。


 人口がまだ少ないし、若い村だから開拓も進んではいなかった。半分以上が森林で、草地と湿地が意外と点在している。森林を切り開いて農地にするのだが、簡単には出来るものではない。入植者を募って人口を増やしていくしか方法は無い。自然増を期待しても百年は待たねばならない。


 森林を焼畑で開墾とか無理がある。火を点けたらヨーロッパ全体が燃えた? のでは、話にならない。木株の撤去は、自分も経験はあるが、匙を投げたくなる。もっとも山の開墾は子供で小さかったから、記憶が残っている位だ。自宅の切り株が難儀して放置だ。


 村の家々は総じて小さい。茅葺みたいな屋根が見える。窓は2つもあれば良いのだろうか。玄関のドアは嵌めこみのような感じがする。壁は丸太を木材に加工した、積み重ねる工法だ。丸太小屋? という事か。(1200年代の民家・農家は史料が無いので想像するしかない)


 炊事用の木材や暖房用の木材は、外の壁に沿って積み上げてあった。これでは宿屋とか有りはしない。リリーに毎日世話になって、何処かの宿屋に泊る事になる。荷物の番は必要だし、野宿はやはり俺の仕事か。



「もう直ぐ着きますさ。家から煙が登り出したから急ぐよ。」

「はい、俺は少し遅れて付いて行きます。先に行ってください。」

「この馬車を見える所に置いておくから見つけてくれ。」

「はい、分りました。」


 俺の荷馬車は重いので早くは進めない。今日もリリーに手伝ってもらう。


「ノア! 空に上がってあの馬車の行先を見てくれないかい?」

「おらぁ、イヤだね。リリーに頼みなよ。」

「ノアはいつもいつも、いうことを聞かないね、ホントこのバカ息子は・・・。」

「リリー! ご指名だよ。馬車の行先を見てくれ。」

「うん、いいよ。ノアはまたいうことを聞かないんだね。」

「そうなんだ。こいつは役に立たん。飯抜きの刑! に処す、だね。」

「ふん!」


 と、ノアは横を向く。


 暫くしてリリーは降りてきた。


「この道を真っ直ぐね。家が全部で70軒くらいかな? 在るよ。馬車は道沿いに止めて在る筈だよ。」

「ありがとう、行けば分るね!」

「そうね。でも、左の道に進むんだよ。」

「真っ直ぐで左折する????」


 オレグはこの村を想像してみる。農家が七十軒もあるのだから、村の人口は約百八十~二百二十人ほどか。大人の働き手は六十人。女も六十人。子供が四十人。残るは老人だが、三十人もいるかな。子供の働き手は十人か。



*)村長


 少し時間が掛かったが、長老の家に着いた。長老は在宅で出迎えてくれた。


「あんたら、よう来なさった。寒いけん、はよう家に入りんしゃい。」

「馬車はここでよろしいですか?」

「ああ、そこでいいよ。馬は水場が、ほれ、そこにあるから飲ませてやりな。」

「はい、ありがとうございます。」

 

 先ほどの二人は、長老の家の隣だった。直ぐにあの二人も顔を出した。


「早かっただな。こちらが村長さんだ。聞きたい事あれば尋ねてくれ。」

「ええ、ありがとう。そうするよ。」


「夕餉前にお伺いましてすみません。私は行商をしております、オレグといいます。こちらは妻と子供たちです。どうぞよろしくお願いします。」

「おうおう、もう、可愛い娘さん達だ事。あんたは、こんな娘を行商に引張り回しておるんかい。罰当たりですな~」

「いいえ、私たちは大丈夫ですよ。好きで付いて来ていますのよ。ご心配を

 痛み入ります。」


 ソフィアは老人に向かって、私たちはただの物好きだと言った。


「そうですか、物好きさんでしたか。それは失礼いたしました。」


(ブー! )ソフィアは長老へ向かって、アカンベーをした。


「ユーリイとユルコーから少しだけ話を聞きました。何やら、農機具を販売なさるとか。」


「はい、今は農機具と塩、胡椒の販売ですね。」

「息子のためにとても必要なものがありますじゃ。」


「そうですか、他にご要望があれば何でも揃えてきますよ。」

「おお! それはありがたい。先は息子の嫁ですな。」

「はは、それはまだ無理ですね。ですが、いずれは用意いたします。」

「オレグ! 嫁を物みたいに言わないでよ。感じ悪い!!!!」


「お嬢さん、そう言って下さるな。嫁が居ないとジジィは生きては行けぬでな。この先、飢え死にするしかないよ。」

「あら、可愛そう。オレグ、直ぐに連れてきなさい。命令です。」


 長老は顔をゆるめて昔話を始めた。


「ここの開拓を十年前から始めましたが、当初はワシとこの二人の親の2家族から始めました。苦労が多かったですよ。鋤や鍬しか無くて、人間も居ない。開拓者を募っておりましたが、集まらなくて。」


「では、ここの領主さまは? いつからですか?」

「はい、人が集まらないので、ビドゴシュチまで行きまして、はい。そこの領主様に来てください! とお願いしたんです。」

「そしたら来てくれたと?」

「はい、領主様が二十家族くらいを連れて来て下さいました。」

「そうですか。でも今はもっと多いのでしょう?」


「はい。二十家族ではまだ少ないので、入植者を募りましたら、十家族が集まりました。その後はまた領主さまが四十五家族を引き連れてみえました。」


「そうだな、ここは苦労が多いので隣の村に越したのが、数家族ありました。」

「行かんでくれ! とお願いしましたばってん、イヤだ! ゆうて越して行きましたとです。」


 二人の兄弟が補足説明をしてくれた。


「今の領主さまは、何かと便宜を図って頂いております。」

「そうでさ、まずは、農地の拡張から! と、新規農地を開墾しております。」

「でもさ、器具は少ないし、馬も少ないで、なかなか進みません。」


 長老に続いて二人の兄弟が補足説明をしてくれた。



「あんさんが、領主さまに農機具と馬を売って下さらんか?まずはそうすっとワシ等も大いに助かるでのう。」


「それは俺としても大いにありがたいです。是非とも紹介をお願いします。」

「は、はい。」

「いや、うちの親父が向かっていますさ。もう話しも出来てる頃じゃな。」

「おう、それはいい。でかしたぞ、ユーリイ。」

「ヘヘ~ン、だ。」

「ユーリイ、大丈夫だろうね。あの領主さまは、・・・。」

「大丈夫でさ。家の親父だぜ? きっと、もう言い包めているよ。」

「それなら良いがのう。」


 ここの家族が最初に入植したから、村営には腐心しているのだろう。言葉からは、村が第一という気概が伝わってくる。


「ねぇ、オレグ! 決まればいいね。グダニスクを出てからもう1か月だよ?」

「そうよ、お馬さんもきっと喜ぶよ!」

「なんで馬が喜ぶんだい! 馬が疲れた、とでも言ってるかな?」

「ああ、そうだよ。もうイヤだから逃げ出したいと、言ってたね。」

「それは大変だ。機嫌取りをお願いするよ、ゾフィや。」


 ノアことゾフィはイヤだと言って横を向いた。向いた先には、繋がれた馬がゾフィを熱い眼差しで見つめている。ゾフィはぞっとした。




*)領主との面談


 暫くして馬に乗って若い男が到着した。柔かい蹄の音がした。蹄鉄を打込んでいないと優しい音がするのだ。蹄鉄は? 少しは持って来ているな。俺は頭の中で考えていた。男が入ってくる。


「ここに行商人が居ると聞いて馳せ参じたが、貴方さまですか。」

「はい、オレグと申します。」

「私は、デーヴィッド、ともうします。主の使いの者です。」

「よろしければ、直ぐに主の館に来てもらいたいのだが、いかがか。」

「はーい! 喜んで~!!!!?」

「ソフィア! 直ぐに馬車の準備をお願い。日暮れ前には着きたいし。」

「任せて! オレグ。二人とも手伝いなさい。」

「は~い!」

「イヤだ!」

「天邪鬼!!!!のゾフィ!」


 馬車の準備が出来たので、オレグは使者に声を掛けた。


「デーヴィッドさん、行きましょうか。」

「はい、ご案内いたします。」

 

「やったね! オレグ。商談成立に成ればいいね。」

「うん、そうだね! ソフィア。よし、全部売り込むぞ。」



 オレグ達は機嫌よく領主の館に乗込んだ。ここの領主は、とても若かった。デーヴィッドとそう変わりは無いのだ。少しインテリっぽい感じはするが、決して鼻に掛けるような言いぐさはしなかった。


 外から見たら館はとても大きかった。館の周りに、カーテンウォールの城壁があって、建物は見張り台を兼ねた縦長い建物だった。外から見たら大きく見えたのだ。


 建物自体はそう大きい方ではない。むしろ、やや小さ目? だろう。これも、領主の采配だろう。開墾中の農園に大きい建物は嫌われようし、第一金は無いだろう。農民への配慮がなされているのだ。


 さすが、領主だ、来客用の部屋も用意している。当たり前か。家族は居ないようだ。賄いの女の人と、庭師兼用務員の男が一人。合計で四人がこの館の住人だ。領主は女好き? と兄弟は言っていたが、本当ではないようだ。


「ようこそお出で下さいました。とても広い館ですので、迷われないようにお願いします。」

「デーヴィッド、案内しなさい。」

「はい、ご主人さま。」



 俺らは応接室に通されて少し待たされた。なんたって迷うほどに広いらしいのだから。この部屋の什器備品はそれなりに高価なようだ。きっと親からせびってきたのだろう。大きい肖像画が掛けられている。領主の父親か爺さんだろう。


一応貴族の風格はある。所々に今まで物を置いていたという、日焼けの跡ががある。きっと金が必要な時に、売っていたのだろうと推測が出来た。じゅーたんに残る丸い跡が物語っている。



「お待たせいたしました。エリアス、といいます。」

「お初にお目にかかります。行商のオレグと申します。よろしくお願いします。」

「こちらの三人は、ソフィア、ゾフィ、リリーと言います。」


「どうも初めまして!」


 二人は、スカートをつまんで持ち上げて挨拶をした。ソフィアはミニスカートだから、ひだをつまんだだけで頭を横に倒して挨拶をした。可愛い! とオレグでも思った。ソフィアはオレグを見て笑った。


「そうかしこまらなくてもいいですよ。私のほうが若いのですから。今夕餉の準備をさせています。暫くお待ちください。」

「二人とも手伝いに行きなさい。」

「ソフィアは馬車に食材が乗っていますから、持って行きなさい。後で戻ってお出でよ。」

「はい、ご主人さま。行ってまいります。」

「よしてくれ! 気持ち悪いが?」

「はは、そのような事はありませんぞ。それなりの働きをすればいいのですよ。もう立派な商人では有りませんか、な?」


「はは、立派なはまだ形容できません。駆け出しですよ。しかも、二か月の新麦ですから。」

「米でなく、麦ですか。なるほど! 米は栽培出来ませんものね。」

「デーヴィッド、農園の鳥瞰図ちょうかんずを持って来なさい。」

「はい、ただいま。」


 デーヴィッドは隣室へ出て行って直ぐに戻って来た。すでに用意してあったのだ。これも一つの自己アピールか。この俺さまも最大限にアピールをするか。


「見て下さい。この図面を。横線の部分が農地です。縦線が開墾中で来年には農地に出来そうです。そして、格子の線が森林や林です。この森を半分は農地に転用したいと計画しております。」


「ここが、村の集落ですか。この村の広さから判断すると、おう! これは広いですな。これだけあれば人口は1,000人は収容出来そうです。是非とも実現されますようお手伝いいたします。」


「いえいえ、こちらこそお願いしたい所です。何せ、無い無いづくしですので農機具を販売して頂けるのはとても助かります。」


「はい、ありがとうございます。」


 俺は嬉しさのあまり緊張して、ごく普通の返事しかできなかった。沢山買ってくれとは、まだ言えないだろう。

 

「他にも提案できる事項もございますれば、いずれお話しいたします。」

「デーヴィッドには、農機具の買い付けに大きい街に行かせたのだが、何処も売り切れで参っていた所でした。」

「第一、農民には開墾せよ! と、言いながら物資の供給が出来ないのだから、領主の面目が立たないのですよ。」


「いやいや、農民の方は領主さまを尊敬されてありますよ。いい領主さまが見えたので嬉しい、と。」

「それは、税金の免除をしているからですよ。」

「いやいや、普通では無税とかはできませんよ。来年からは税収がありますから期待して下さい。」

「ほほう、それは頼もしい。オレグ殿が税金を払って頂けると?」

「はい、利益税を領主さまに、たんまりと・・・。」

「ねぇ? オレグ。別名、袖の下とか?」

「ゴッホ! ゴッホ、ゴホ!」


 オレグは急いで咳をした。だが領主はソフィアの言葉の意味する事は無視してオレグの意図する事を説明した。


「ソフィアさん、決してそのような事は起こりません。第一にオレグさんに支払うのが私で、その見返りに私に金品を私に渡すとか、可笑しいでしょう。ぜひともオレグさんには、この村でなく他の村でも稼いで、税金をこの私に納めて頂きたい。」 


「あ、そうか。越後屋ではないんだ!」

「?? なんですか? それは。」

「ゴホン!」



「で、先ほどの提案とは?」


「ソフィアさん。馬車から持って来た紙を出してくれ。」

「はい、これ。多分必要かと思って持って来たわ。」


 一枚の紙にはこれから述べるオレグの言葉が書かれてあった。オレグは紙を広げて説明を始めた。


「はい、来年以降収穫出来たライ麦の販売をお願いします。ほぼ全量は買い付けできます。これらライ麦を西ヨーロッパやロシアに販売いたします。」

「それと、ライ麦の製粉でパンを作る技術や発酵食品の製造方法とかですね。」


「おお! それはいい。是非とも指導をお願いします。いや~、これが出来れば農民にも美味しい食事をさせる事が出来ます。この私の事は二の次で構いませんので、農民の所得の向上や生活の向上にご尽力をお願いします。」


 オレグの初の商談が成立する。鳥肌が立っているのが分る。きっと身震いをしているだろう。立って歩けるか? 自信が無いように思えた。まだ詳細は今後になるが、少なくとも荷馬車を空にしたいと願う。領主の顔を見ずに農園の図面ばかりを見つめていた。俺の自信の無さがそうさせるのだ。やはり俺は

半人前だ、早く大人になりたいと願った。


 賄の女の人が呼びにきた。可愛いメイド服を着ていた。主の好みか、綺麗な娘さんだった。


「旦那さま、夕食のご用意が出来ました。」

「分った、直ぐに行く。」

「この娘は、エルザ、といいます。」

「さ、オレグさん、行きましょうか。」


 俺はメイドさんに、ダイニングルームへと案内されて行った。主人は自室に行ってから来ると言っていたが、何だろう。ダイニングでは二人がにこやかにして待っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ