第149部 三人の精霊
なんと、そこには霧に包まれた大きな外洋船が目の前に現れた。
「オレグさんへの感謝の贈り物でございます。ちょうど船も無くされたので最高の贈り物だと確信いたします、が?」
1247年10月22日 ポーランド・グダニスク
*)オレグの城
「おいおい、褒めるべきは愛する奥さまにだろう。この難い演出はまさか、」
「はい私が頼みましたが、どうなるのかは訊きませんでした。もう三日前から眠れなくてヒヤヒヤしましたよ。全てがチャカの演出でございます。」
「マクシムさん、どういう言い方をしたんだい。」
「はい、オレグさんへのプレゼントだから包んでくれ、と。」
「よくも、こう……上手く包めたものだ!」
「……ですね!」
オレグは船を眺めて沈黙する。しばらくして、
「高かっただろうな、この船と……は。」
「はい、船の二艘分の金を掛けました。」
「半分は奥さまへの材料費と報酬だな。」
「ま、さようでございます。」
「オレグさん、これはボブが生還するまで内容は秘匿ですね。」
この船の大きさは通常の外洋船の一,五倍もの大きさだった。マクシムは船の装備を秘匿と言うが。
ノアは子供の様に燥いでもう船に乗る気でいる。
「オレグ、俺、先に船へ行ってもいいか。」
「あぁいいよ。何か要望があれば言ってくれ。対処するよ。」
「大きい煙突が欲しい、それも鉄で出来た長い筒がいい、それを五本かな。」
「おう了解した。鍛冶屋のレフに頼むよ。」
「リリーはなにか欲しい物があるかい。」
「そうね、大きい三重になった木の箱が欲しいわ。中身は秘密ね。」
「ソフィアはどうだい。あるかいな。」
「オレグとの愛の巣が欲しい。」
「却下だ。」
ゾフィとリリーの目的はなんだろうか。
「この船、ビスワ川には浮かばないよな!」
「そうなりますね。オレグさんは川で使う予定は無いでしょうに。」
「いや改造したいのだよ、一年でも自立航海が出来るようにね。」
オレグはニタッと笑い、さりげない顔で不気味な事を言った。
「どういう理由でそのよな考えに行きつくのですか!!」
とマクシムには考えられない事言うオレグに訝しがる。
マクシムは船上にボブの姿を確認して、
「あぁボブさんが起きました。みなさん船に上がりましょうか。」
と言いながらマクシムを先頭に、オレグとソフィア、リリーが続いて橋板を上ろうとするが、橋板を半分程進んだ海の上になるとオレグが急に立ち止まる。
「あ、あ、足が震えて歩けないな。」
「オレグ、どうしたのかな。ホントに歩けないの?」
「マクシムさん、この船はなんで動くんだ。櫂の穴は無いし風だけかい?」
「そうですね、櫂は使いませんから別に動力がございます。」
「魔女かい?」
「まぁ似たようなものでございます。妖精でございます。」
「妖精を捕まえたのか!?」
「いいえデンマークの船から頂いたのございますが、故郷を追われて帰る処が無いので保護していたのです。オレグさん所のシビルさんの働きを見て思い至ったのですが、本人たちも協力するとは言いますが、こればかりは、そのう会って頂きませんとなんとも。」
「なんとも歯切れの悪い紹介だな。……俺に会ってくれるのか。」
「それは船に上がればいいのですが、オレグさんに協力するのではと考えております。」
「ソフィア、リリー。何か感じるかい。」
「オレグ、何も感じない。」
「お兄さま、二体の精霊のようです。私たち妖精とは別の存在になります。」
「ゾフィはどうしている。見えるかな。」
「うん見えない。もう船の中に入っているようだよ。」
「なにせ金食い虫ですので、この際……。」
「なんだ、マクシムの厄介払いかい。俺に厄が回ってこなければいいのだが。保証はないのだよな。」
「はい、船と引き換えですので何分格安ですし、」
大きな船をプレゼントされたがイワク憑きときたものだ。
「きょ、今日はいい。このまま宿に戻してくれないか。足がすくんで動けない。リリー今日中でいいからシビルを召喚してくれ。あとはエレナとゾフィが居ればいい。揃ったらまた船に上ってみるよ。」
「オレグゆっくりと、そうそう動けるわよね。」
「いや無理だな。足が上がらない。」
「マクシムさん、ここには三体の精霊が居るのか。」
「あ、いや、二体のはずですが、増えているとは考えられません。」
「足元に居るようだ。橋板の下は海だから海の中だろう。」
ぶざまな恰好のオレグを見てボブ船長が声をかける。
「おうヘナチョコ兄ちゃん、どうした早く来いよ。」
「ボブ、また今度な、なんだか急に体調が悪くなってしまったよ。」
「熱でも出たかい。いつでもいいから呼んでくれよな。」
「わ、分かった、……あとで呼ぶから頼むな。」
「おう任せろ!」
「そ、ソ、ソフィア、俺を後ろに突き飛ばせ。そうでもしないと動けない。」
「分かったわオレグ、……ゴメン!」
「ばこ~ん!」「あれ~~~!!」「ヒュ~ン。」「おう、良く飛んだな~。」
*)三体の精霊
精霊は妖精とは違い時々人間にいたずらをするという。
「まぁ~大変、オレグを拾いに行かなくては!」
「お姉さま、しっかりね~。」
「マクシムさん、私たちだけで行きましょうか。」
「リリーさんはなんともないのですか?」
「はい、ですが、チャカ奥さまは?」
「えぇ、あれは船が怖いと言いますので近寄りません。」
「?……そう、ですか。ここは私一人ですね。」
リリーは橋板をゆっくりと上っていく。
「ここは異常は無いわ。……船も! 異常ないわね。ゾフィはどこかしら。」
ゾフィの声が聞こえる。それも近くに居るような感じで聞こえた。
「リリー。……船室だよ、それも一番下だね。」
「一番下って、どこかしら。」
リリーは正面のドアを開けて入った。壁には隙間が開けられて程よい光が差し込んでいるが、奥はかなり暗く感じる。
「目が慣れるまで一休み、と。先の階段を下りるのね。」
下は船倉で荷物を置く所だ。リリーは広い船倉に下り立った。
「一番下に行くのはどこからかしら。」
「リリー後ろだよ、後ろのドアを開けて下りて来て。」
「ここだね、ドアを開けて下りる、と。……あれぇ?」
「あっ!……まぁ、とても綺麗な精霊さん。……私はリリー、大地の妖精になります。初めまして。貴女たちはお二人でしょうか?」
「こちらが、ヴェーヤスマーテさん。風を司る精霊さんで、そしてこちらが、ウーグンスマーテさん。火を司る精霊さんだね。」
「リリーさんですね、始めまして。」x2
「まぁ、まぁ、まぁ~。……なんと可愛らしい!!」
リリーは二人の精霊に見とれてしまった。
「ちょっとノア。あんたは両手に花なのね!」
「うん、そうなんだ。俺に妹が二つも出来たよ。」
「二つもって……。それってもしかしたら私にも二人は妹になるの?」
「そうなればいいね。?……半分こにはしないよ。二つとも俺んだ!」
「はいはい分かりました。……ねぇあなたたち、オレグにいたずらしたのかな。オレグ兄さまが動けなくなったのよね。」
「いいえ私たちはマクシムさんから、オレグさんに協力してこの船を動かすように頼まれています。ですから新しい主人さまにお仕えする予定ですので、いたずらだなんて、おこがましい事はできません。」
「ですよね。二人の他にもう一人とか居ないのですか?」
「海には、海のマーテ、ジューラスマーテが居ます。その女の子がいたずらしたのかもしれません。」
「ジューラスマーテ?? 海の生き物の守護霊さんかしら。でもどうして。」
「オレグさんが、なんか、海の生き物を虐待したのかと思います。きっとどこかでその虐待を見たのでしょう。それでここまで付いて来たのですわ。」
「そうなんだ、でも私たちは離れ離れになって最近ようやく再会出来ましたから分かりませんわ。帰りまして問いただしてみます。」
「リリー俺たち三人を境界に入れてくれないか。パブに戻って食事をしたいんだ。俺はもう腹ペコで動けないよ~。」
「あら虐待されているのはあなたたちなのですね。マクシムさんを怒らないといけませんわ。」
「それはいけません。マクシムさんは私たちの命の恩人です。そのう、食事はなんでもいいのではありません。ただ……。」
「腹ペコで動けないのは俺なんだ。実はこの二人に精気を食べられているようなんだなぁ。」
「ノア、それであんたは左右に抱きつかれているの!」
「そうみたい。」
「そうなんだ、チャカさんがこの船を怖がって近づかないのはそういう理由だったのですね。三分前までは気づきもしませんでしたわ。」
「人間の精気は美味しいからと、ついつい食べ過ぎて★にしてしまいますので、マクシムさんには近づけません。」
「ヴェーヤスマーテ、ウーグンスマーテ。人に近づくだけでもダメですの?」
「はい、ですから船でもこの一番奥で結界を張っておかなとなりません。」
「だったら私のお腹の境界に入れたら今度は私が二人の餌食になるのかしら。もしそうならゴメンだわ!」
「リリー、おいらが付いているから大丈夫だよ。こうやって四六時中くっ付いていたら、他の人は大丈夫なんだ。」
「ノア、このさいだから大きく減量なさい。十cmの大きさになれば私のポッケに入れて可愛がって、序にいじめてあげるわよ。」
「ノーサンキュゥだぜ! 俺が萎れる前に連れて行ってくれよ。」
「仕方ないわね、憑りついて食ったら殺すわよ!」
「はい、憑りついたりしませんです。」x2
*)トチェフ村の出来事
時を同じくしてトチェフ村では五人の石工が行方不明となっていた。石切り場で働く男たちだが五人まとめて小高い山に行って戻らないという。
「マシュさん大変だ、山に行って戻ってこねぇ~だ。」
「何がどうした。石の掘り出しに行った連中の事か。」
「はい昼になっても帰って来ませんので呼びに行きましたら居りません。」
「居りませんって、探したのかい。家には帰っていないんだな。」
「はい女房らにも訊きましたが知らないと言います。序にもう帰って来なくてもいいと!!」
「そりゃぁ大変だ、トンビにでも攫われたのかな。それともUFOか!」
「んなもの最初から飛んでおりません。石の掘り出しで大きな穴が在りました。とても大きい穴です!」
「穴は掘るものだ、デカいとは良く働いたものだ。ビールを出さねばなるまい。」
「ありがとうございます。……早く下さい。」
力自慢の男は脳にも筋力が入っていた。要領が得ないのだ。
「仕方ない、ビール持って探しに行くか。案内しろ。あ、それとそこのお前。館に報告とソワレさんを呼んで来い。エレナ嬢ちゃんもだぞ。」
「はい至急報告と呼び出しに行ってきます。」
マシュは不機嫌そうに、
「港の拡張工事で忙しいのにアイツらはどこでサボッてやがる!」
トチェフ村の港の敷地の拡張工事が行われている。檻が在った所に倉庫を建設するのでその港と倉庫間に敷石を設置しなければならないのだ。
今度は鉄のレールを施設するから全部が全部平坦に作れと言われている。カリカリしながらマシュは案内の石工に付いていくと、まぎれもないドデカい竪穴が空いていた。
「これが穴なのか。」
「はい今朝は在りませんでした。だからあの五人が掘ったとしか思えません。」
「こんな穴が人間の手で掘れる訳がない。第一に掘り出したという土や石はいったいどこに在るのだ。」
「あ、在りません。そうですね何処でしょう。」
すり鉢状にほげた穴。中心部には丸くて暗い穴がある。そこに全部が落ちたと判断するのが筋だろう。
「こりゃぁ大変だ、全員が落ちたに違いない。は、早くソワレさんが来ないかな。いやエレナ嬢ちゃんに穴の中を見てもらうのが先か。」
「マシュさん、ロープを用意するかぇ!」
「あ、お前はいい事を言うのだな。すぐに全部のロープを持って来い。短いのは持ってくるなよ。」
「へ~い!」
*)ヴェーヤスマーテ、ウーグンスマーテ
オレグの方ではオレグが腹ペコになって騒いでいる。
「おいソフィア、酒と肴を出せ。」
「もう十分に飲んで食べたでしょうが。」
「あぁ皿にはこんて盛りの漬物が残っているんだ。ごはんはこれで掻き込むからさ、肴を……。」
「出るとでも、思っているのですか? 六月は売り上げもないのですよ!」
「ころっとナイスな発言・・、もう黙ります。」
六月に入り急激な売り上げの減少にあっています……、いや、遭いました。もう七月の二十三日になるというのにお先真っ暗です……。
リリーがパブに着いた。
「き、気持ちわり”~ぃ!」
リリーは境界よりノアと二人の精霊を吐き出した。
「ガチャン!」 「ガタタン!!」 「ダダダッ!!!」
とチャカが皿を投げて急に席を立って走り出した。
「なんだアイツ。」
「あっ精霊さま!」
とマクシムがつぶやく。
「オレグ兄さま、二人の精霊を連れてまいりました。」
「三人じゃないのか!」
「はい、ここはヴェーヤスマーテ、ウーグンスマーテの二人だけです。序にこの萎れたのがゾフィですわ。」
「この小さいのがゾフィなのか、水を飲ませればいいのだな。」
「そのようです、飲ませるとシャキーン! となります。たぶんですが。」
ノアは二人の精霊に支えられてパブに入ってきて、
「ビールとメシ。肴もたくさんくれ! 赤のワインも多めに頼む。」
「ヘイ! らっしゃい……?……? ヒェ~!!」
パブの女将も跳んで逃げて行く。
「なんでぃ女将はどうしたんだ。」
「はい逃げていったのです、私もここはチャカの元に行きます。」
「ガタン!!」 「ダダダッ!!!」
と、マクシムも急に席を立って走り出した。
「なんだアイツ。ら!」
「オレグさま、始めまして!」x2
「私はヴェーヤスマーテと言います。風を司る精霊でございます。」
「私はウーグンスマーテ。火を司る精霊よ。」
「以後よろしくお願いします。」x2
「お、おう、お前らは双子かい、息がぴったりだな。で、その風と火がどうしてここに居るんだ。マクシムから迫害を受けたのか!」
「はい私たちはデーン人に捕まり捕虜になっていました。そこにマクシムさんが通りかかりまして、助けて頂いたのでございます。」
「遭難したのか?」
「はい**が★になりましたので、もう動く元気も無くなりまして漂流しておりましたのです。」
「食い意地を張ったからだろう、? でも、おかしくはないかい。お前らは船を動かせるのだろう?」
「それは得意でございますが、船倉に押し込まれておりましたので、とても操船は出来ません。」
「ま、それもそうだな、舵をとる**も★にしたんだ、当然と言えば当然か。」
「はい、私たちを哀れとお思いになられて、雇用をお願いします。私たちの二人がいませんと、あの船は動かすことすらできません。」
「すまないね、俺には魔女も船長も居るんだ、精霊は要らない。」
「そ、そんな、オレグさま、私たちを見殺しにしないで下さい。」x2
「なぁ~に俺が動かしてやるよ。後で見せたるわい。」
「そんな~!!」x2
ノアは小さい姿の妖精から女の子のゾフィに変身して猛烈な勢いで食事をしているから、周りのテーブルに在るも物が全部ゾフィの前に集められた。
「おいソフィア、裏の厨房から全部持ってこい!」
年上の姉にため口で言いつけるからソフィアはむくれるも言われた通りに何かを運んで来た。
「これでいいのかしら。」
出されたのは生クジラの肉の塊りだった。
「あっ、これ!」
「そうだねヴェーヤスマーテ。これが海のマーテが怒る原因だね。」
「ウーグンスマーテ。これを焼いてくれると嬉しいのだが出来るだろう。」
ゾフィよりも先にオレグが注文をつけた。
ウーグンスマーテは、
「オレグさま、このクジラさんはどうされました?」
「これはこの前のエストニアから二頭を曳航してきた内の一つだろう。大きいからまだ残っていたんだな。」
「オレグ、そのクジラの恨みだぞ!」
ゾフィは意味不明な言葉をオレグに投げた。
「それがどうした、これも金儲けの手段だ。気にするな。」
「海のマーテのジューラスマーテが、そのクジラが曳航されるところを見たのでしょう。だから怒ってオレグさまにいたずらしたのですわ。」
「俺はその、なんだ、ジューラスマーテには用がない。引き取ってもらおうか。」
「でもジューラスマーテは言うことを聞きませんわよ。ご主人さまが対決なされてジューラスマーテをねじ伏せれば、あるいは従えさせる事が出来るかもしれません。他の手段は……海には近づかないという事だけです。」
「海は俺の仕事場だ、近づくなと言われて、はいそうですか、と返事ができるか! 俺がぶっ叩いてやる。連れてこい!」
「もうそこに来ています。ちまちまとワインを飲んでいるオバサンがそうでしょう。きっと無銭飲食していますわ。」
「まぁオバサン!」
オバサンと言われた女はそう一言発してまた飲み始めている。この女が来たのが気づかなかったと思うオレグ。
「そうなのか?……ち~っとも聖女さまには見えないぜ!」
黒いローブを頭から被っている。オレグたちには背を向けているから、見えるのは動かしている右手の手首から先の白い手だけだ。
「ふん!」
と鼻を鳴らしているオレグ。ソフィアは気にしながら見ている。リリーは無視しているようだった。ゾフィと二人の精霊が気になるからだろう。
これらの三人はロシアの精霊だという。リガに居るニコライとアウグスタと同郷になる。ラトヴィアは精霊の一大産地なのだそうだ。
「私たちも知らないふりだね。」
「そうだね、問題に首を突っ込むのはごめんだもの。」
と危機回避のヴェーヤスマーテとウーグンスマーテの二人。
すると海のジューラスマーテを相手にしようとする者は誰も居ない。当の本人は物静かにワインを飲んでいる。
*)静寂を破るシビルの登場
先ほどまで賑やかだったパブ。精霊の登場で三人が跳んで逃げたし無愛想なオレグを気遣ってか他の者は黙り込む。
「リリーシビルを召喚できるか!」
「うんこの時間はまだ飲みだしてはいないと思う。だからとても怒ると思うわ。」
「ほほう、それは珍しい。楽しみだ。」
ワインの飲み過ぎかオレグも人が変わってきた。
「シビル、我の元へはせ参じよ! シビル、降臨!!」
「キャッ! 俺様は貴族の扱いかえ、嬉しいね。もう飲んでもいいのかい。」
シビルの現れたテーブルにはワインの空きビンが多数転がっている。リリーはその一本を掴んで口に運ぶ。
「我、ワインを召喚す!! 来たれオレグのワイン!」
「おうリリーすまないね。これは特上のワインだぜ。」
「いいのですよ、シビルには助けて頂いた恩義もありますので、たくさんたくさん飲んで下さい。そし……??」
シビルは左手にワインのボトルを持って席を立ち、可愛い精霊の前に立つ。この様子を見てリリーは言葉を切ってしまった。
「お前らは……どこかで?……わ! 来るな、近づくな!!」
シビルは慌てて後ずさるのだった。
「おやおや天下のシビルさまも、そのお二人には苦手かな。」
「あ、あぁ、こいつらに関わるとロクなことが無い。とんだ疫病神さ。ところでオレグ。ここで精霊と一緒に何してんだ!」
「なに、大した事ではないよ。俺が迫られているだけさ。」
「逆ナンかい? 羨ましいね。だけどソフィアが黙ってはいないだろう。」
「あ、いいや。それがとても無口なんだよ。きっと舌を抜かれたのだろうね。」
「そんなタマじゃないだろう。きっと利用方法を考えているのさ。いったいどうしたいんだか。」
「厨房で出刃包丁を研いでいないかな。今晩は精霊さまの活き造りか!」
オレグは裏の厨房を見つめてそう言った。
「ヒェ~~~!!」x2
*)シビルからの報告
「おう、オレグ。報告することがあるんだ、どうだ聞くか!」
「お前も前は厄病神だったんだ、きっとろくでもないことだろう?」
「まぁそういう事だな。実はトチェフの村が大変なんだ!」
「それで?…………。」
オレグと家族。シビルと三人の精霊たちがパブから姿を消した。
「こら~金払え!!」
女将がひとり大声で叫んでいる。