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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
140/257

第140部 リガのニコライ・ハーシュホーン という男

 テーブルトークの形式で書きました。主語は適当に、考えずに読まれて下さい。中身が軽い分、退屈しないはずです。いよいよ、ソフィアたちの救出が開始されます。たぶんですが……。


「領収書を頼む。足十本だ!」

「へっ?」

「今日は足十本”だ、そう書けばよろしい。」

(ピーナッツ八個はこのフリードだったのか~、そうか~!)と領収書の一枚の相手が分かった。映画ロッキーの音楽の出だしが聞こえてきそうだ!


「ではペールさまをお借りいたします。」

「あぁしっかりとな。」

「はい、ありがとうございました。」

「ルイ・カーン。船は別料金だ、分かっているな?」

「いいえ全然!」

「ペール、また領収書を持ってこい。」

「はいピーナッツ八個”ですね。」

「ルイ・カーン。ピーナッツ八個だ、安いだろう。」

「はい司教さまよりもお安いです。」

「んん?? なんだ、司教がどうした。」

「ペールさま? あ、あ? ん??……?」

「いいえ、わ、そう、私は何も存じません。」

「ペールさま、ここは貸にて、お願いします。」

「承知いたしました、伯爵さま!」

「ペール、どうした。」

「はい、ルイ・カーンさまの指摘が鋭いもので……。」

「?……?……。」


 フリードには、ルイ・カーンとペールの会話の意味が理解出来なかった。(この領主の頭はピーナッツ”か!)とルイ・カーンは考えた。



 1247年8月22日 エストニア・レバル


*)ベン・シー


「ペール、フリードさまの奥様の名前はなんだい。」

「はい、ベン・シーさまでございます。」

「ベン・シー? まさか、あの?」

「はい、バンシーの異名になりますでしょうか。」

「まぁ、なんとも素敵なお名前でしょうか。」

「これで、フリードさまも私も安泰でございます。」

「それはどうかな?」

「どうしてでしょうか?」

「ペールはスウェーデンに連れて行って貰えるのかい?」

「いいえ、行きたくはありません。退職金を頂いて次の侯爵カーンさまにお仕えいたします。ただそれだけでございます。」

「フリードさまが、ご健勝なうちに頑張ろうか。」

「はい……それで、こちらの三姉妹の方が従者さまですか?」

「とても残念だが、そうなってしまった。」


「ところでトチェフには荷物と勅使と手紙は?」

「はい、昨日に発たせております。」

「二万箱か~間に合えばいいのだが。」

「?……二万箱でございますか?」

「まだ秘密だ。」

「はい、楽しみでございます。」



*)ゴットランド島へ


 1247年8月19日


 トームペア城から帰ったルイ・カーンは人選に悩んだ。運が良ければ頼もしい奴らを加えることが出来るが、と思う。


「ここはうちの参謀に相談するか。」


 参謀とは狡猾なキルケーの事になる。他には使える男も居ない。伯爵は本部のパブへ向かった。


 伯爵がキルケーを見て開口一番が、


「キルケー喜べ! 殴り込みだ! 戦争だ!」


「まぁキラキラした旦那さま、素敵です!」

「おべんちゃらは要らない。ゴットランド島へのり込む。兵隊が欲しいが有能な者は誰になる。できれば……だ!」

「はい、わたくし、ただ一人でございます。ただ……。」

「そうだろうな、お前は魔女で悪魔で妖怪だから最高だよ。……は、外せるか!」

「まぁうれしい褒め言葉ですわ!……は、無理でしょうか。」

「ムギュ~!」


 トームペア城に忘れてきた姉妹が白爵の目の前に、それもいきなり現れた。


「侯爵さま~!」x2

「俺を殺さないでくれないか。いつもお前らは突然だから心臓に悪い。」

「侯爵さま。どちらへ行かれるのですか?」x2

「まだ伯爵だ、」

「あら? そうでしたか?」

「ムギュ~!」


 この二人はトームペア城での会話を聞いていたのかと伯爵は思った。侯爵とはゴットランド島で使う階級なのだが。


「キルケーこいつらを境界に押し込んでくれないか。邪魔でしょうがない。」

「さすがに私でも、この二人には勝てません。呪われてもよろしければ……。」

「うぅ~!! 寒気さむけが走る。また風邪を引いたようだ。」

「そうですね、昨日は二十二度でしたが今日は十一度、少し寒いですね。」


 日本からしたら羨ましい気温だ。


「んな訳があるか!」


 と伯爵は怒ってしまう。


 なし崩しで従者はこれらの女三人になってしまった。


「旦那さま、船は一艘だけでしょうか?」

「お忍びという条件だからスウェーデンの船で行く。」

「どうしてデンマークの船ではないのですか?」

「あのバカの差し金だ、金をケチっているのだろう。?……いや違うな。マティルダの警戒を解くためだろう。ペールに訊けば判るか。」

「帰りは仕入れて来るから傭船が多数かもしれない。」


 出港の八月二十二日になった。ペールとの会話が先ほどになる。


「ペールさま、またお菓子を下さいな。」

「何もございません。逆に出して頂きたいものでございます。」

「こらメス猫。ペールの方が来賓になる。敬え!」

「はいご主人さま。」x2


 ペールが持参したのは修道服。ルイ・カーンは寄付とするデンマーク金貨の八千枚。それに多少の手土産のコーパルになる。琥珀も積んでいるがこれはヴィスビューのハンザ商館で売る予定。他に使い道ができなければという条件がついている。エストニアが発展するのはこれからであるからまだ産業が少ないのだ。持って行く物が無いのが本当だ。


「では伯爵さま、リガに寄りまして何か買って行きましょうか。」


 リガとはエストニアの南の国でロシアで二番目の都市になる。歴史も古くて綺麗な都市だ。ドイツよりもドイツらしい街”と呼ばれている。


「そうだな、バルト海の真珠”と言われているから真珠でいいか。」

「そのような産物はございません。猫の家に単独の商人が居ります。そこでシベリアの毛皮と東洋の陶器などを買いましょうか。」

「どうしてだい?」

「はい、私もラトビア人ですので。」

「そうか、だったらしこたま買って応援するがいい。」

「ありがとうございます。」


 猫の家と聞いて姉妹がピ~ンと尻尾を立てた。


「お二人とも、猫の家の銅像とそっくりでございます。」


 猫の家は五階建ての大きな館で今はオフィスビルとして利用されている。


 ここの主は根性のある商人だった。名前がニコライ・ハーシュホーンという。ルイ・カーンと運命の邂逅となる。いや、と! したのだ。 



*)ニコライ・ハーシュホーン


 ニコライ・ハーシュホーンはロシアの都市のリガにして偉大な商人だ。リガの商業ギルドに加入できる資質を持ちながら、ラトビア人というだけのヘイトでギルドに入れて貰えなかった。猫の家の名前の由来である屋根の猫の銅像は、嫌いなギルドに尻と尻尾を向けて据えてしまった、というからなんとも勇ましい。


 年齢は二十六歳とまだ若い。オレグの前生の二人の息子の次男になる。俺と違い成績優秀なのだが短期でもある。父に師事して商人の勉強をして実力を付けたというが、父は大した商人ではなかった。ただの血の気の多い至らぬ男でバカな喧嘩をしかけて殺されている。だったら母が優れていたのだろうか。謎にしておく。これだけで物語を考えて、否、考える。


「ペールさん、なにかヒントを下さい。」

「んなのも当然ありませんよ。第一にこの商人の名前すら判らないのですからどうして詳細など……。」

「少しでいい。」

「では奥さまはアウグスタ。若くて白のドレスが良く似合う人。ただ残念なほどの****。」

「その先はいい。言われなくても判るよ。細身の金髪美人。」

「それから商人になる前は、煙突掃除人で財をなしたとか。」

「その煙突掃除人は起業したのかい?」

「はいそうのように聞いております。当時、煙突を掃除する職業の人は居なかったので、小さいながらも生活の糧になれば、という事で始めたそうです。小さかったので掃除がし易かったのでしょうか。」

「親はどうしてたんだい?」

「はい父親は血の気が多くてあのジンギス・カーンに挑んで殺されたとか。」

「おいおい、そのジンギスは俺の親父ではないぞ。カーンはたまたま付けた名前だ。」

「本当でしょう? か?……。」

父無ててなし子でとても頭の良い子供だったのでしょう。それでラトビアの人気の煙突掃除人”という事で道行く人からボタンを触られたとか。なんでも触れば幸運が訪れるという伝説まで作られたそうです。」

「んなバカな!」

「今でも煙突掃除人は人気者なのですよ。」

「それはいつの時代だい。」

「はい2020年のことですが? それに日本人観光客へは、百万本のバラという曲を演奏してもらえるそうです。聴きに行きませんか?」


「百万本のバラ?? なんだかアイネが居そうな気がするよ。」

「バラの花は多いそうですが。」

「花屋にだろう。生垣はないのか。」

「無いです。とても残念ですね。」




  1247年8月22日 ロシア・リガ


*)ロシアのリガの街と人々


「分かったもういい。それでロシアのリガには明日の夕方に入港できるのかな。」

「はいもう少し早いと思います。……? もう飲みの算段ですか?」

「あ、いや、あの連れがくたばっているのだよ。」

「あらあら、お二人も! 猫は水に弱いですものね。」

「いや姉の方だけだ。妹は前の航海で慣れたと思う。」

「そうですか、只の食あたりかもしれません。道に落ちていた肉を食べてありましたし、きっとそうでしょう。」

「ぬぬぬ・・・・なんとハシタナイ。あとできつく叱らねば……。」


「ペール、土産は決めたよ、百万本のバラの花束にするよ。」

「おお、それは素晴らしい。ですが、しおれ・・て・・・しまい・・・ます。」

「なに大丈夫だ、冷蔵設備も完備だ。」

「まさか!」



 早くも翌日になりロシアのリガに入港した。


「街の観光にこの港を回りましょうか。」

「まさか、丸いのか??」

「はい、リガという名前の由来になりました。リガとは円という意味からきております。」

「円い港?」


「ヌヌヌ・・・・。なんだいあの人々は、花束を持っているのが多いぞ。それに道端で楽器ののののの演奏が……。」

「はい、とても愉快な人たちですよ。人懐っこくて素敵な人々です。」

「ほにゅ~!」

「おや、新しい言葉ですね。」

「……。みんな、鼻が高い!!!!」

「十分に驚かれましたですね。ラトビア人は鼻がとても高いのです。」

「ペールはここの生まれかい?」

「はいさようでございます。」

「ウソだ、鼻は高くない。」

「はい、小さい時に階段から、そのう、鼻から落ちまして出鼻をくじきました。」

「そうなのか、だから執事止まりなのだな。」

「お恥ずかしい限りでございます。」

「それ、作者に声を大にして言ってやれよ。」

「それはできません、言えば直ちに消されます。」

「そうか、そうだよな。」



 街に入り宿屋を探した。北欧に共通な赤い屋根の建物がとても少ない。


「どうしてだ。」

「では赤い屋根の意味をご存じで?」

「すまん、全然だ!」

「代わりに赤い壁が多ございますが。」


 冬は雪が降っても風で飛んでいく程に降雪は少ない。


「俺からすれば傘は不要。」

「まぁ、ご存じではありませんか。」

「まぁな! ん~なんだ、あれだな。」

「はい??」

「素焼きの鉢の色だな。」

「そうでございます。高温で焼き固めたのではないのです。煉瓦と同じなのです。」

「そうなんだ、しら、いや。この時期にはまだ瓦は存在していないんだぞ!」

「はい、そもそも雨が少ないので、高温焼結の必要がございません。」

「古い中国のまねの技術なのだから、そうなってしまうのか。」


(当時の焼き方は薪を燃やして、熱と空気を送って焼いていました。だから今の窯元のような密閉はしておりませんでした。高温ではなかったのです。)


「ただ日光が弱い。夏だというのに全体的に暗い感じがする。」


「そうでございますね、ですので気分を高めて乗り切るのです。その証拠に歌と踊りの祭典が催されます。」

「それはいい。エストニアにも広げる事にしよう。」

「スクエアダンスでですか??」

「よく判ったな、俺が好きなんだよ。」


「タリンからリガを通ってリトアニアのビリニュスまでの六百kを、なんと二百万人以上が手を繋ぎ唄って独立を勝ち取ったとか!」

「ソ連からの独立だろう? あれは立ち会う事が出来ても見て回る事が出来なかったよ。壮観だっただろうな~!」

「はい、とても有名な実話でございます。」

「1989年の事だよな。……俺、脱帽したよ。」

「私、唄いました。とても鼻が高いです。」チャンチャン!?


 ちなみにラトビア共和国の現在の人口が二百万人です。六百kは東京=広島でしょうか。これを読まれてこころが温かくなりましたか?



 ニコライ・ハーシュホーンという男。とても壮大で聡明なのだろう。


「いえいえ気が小さい、嫌味の強い人格らしいです。」


 オレグとよく似ている。


 スウェーデンの水夫らには金を渡して放置した。伯爵の子分でもお国の住民でもないから感情など湧いてこない。だから放置なのだ。するとメンバーは男二と女が三、合計が五人になる。


 宿付のパブを見つけて左右に分かれて入店した。同時に伯爵は宿泊の依頼を行った。


「あいよ五人だね。……三部屋かい? ダメだ、二部屋にしとくれ。」

「それでいい。女とはできるだけ離してくれないか。」

「あいよ、間を二つ空けておくね。」


「お前ら姉妹はキルケーに纏わりつけ。俺には近づくな。」


 キルケーは一瞬嫌な顔をするもニッコリとほほ笑む。姉妹は面白くないのか伯爵を睨んでいる。


「あの二人が居るととても疲れるのだよ。」

「旦那さま、それはベギーの所為ですわ。ベギーが伯爵の精気を少しずつ吸い取っているからです。」


 伯爵はベギーを睨んで顎を上に振った。向こうへ行けというのだ。そういう訳で三人の女はパブの隅っこまで離れた。


「伯爵??」


 とベギーは言って可愛くほほ笑む。


「ケッ、バ~ロウ、近づくな!」


 と口では悪く言うが顔は向けていない。つまり怒ってはいない。



「女将、俺たちには六人前の料理を頼む。女には人数分でいい、ダイエットだ!」

「あいよ。でも、それはあんまりだろう?」

「時期に判るさ!」

「ん ??」


 女たちは料理の少なさに文句を言わずに食べている。話題は取り留めのない事ばかりだ。


「女将さ~ん、二番テーブルに三人前の追加が入りました。」

「おやおや、あの二人は良く食べるね~木皿を引いてきておくれ!」

「女将さん? あのテーブルには在りませんよ。女将さんが片づけましたか?」

「いいや、なにも、ふう……。」


 とても忙しい女将が様子を見る為に配膳に行く。ふう、ふう言っている。


「あんたら、よく食べるね~美味しいのだろう?」

「あ、いや、俺らは少しだけだね。ビールとワインは飲んだけどな。」

「変だね~でも、持って来たからた~んとお食べ!」

「はい、口にはいるのならば、……・・・、ね!」


 女将が両手に持った皿を置いていくが目を離した隙に無くなっている。


「おや、旦那、隠して食べなくても??……。」


 女将が置いた皿は全部無くなっていた。


「おかしいね夢のようだよ。ここの皿はどこに?」

「あの三人姉妹のテーブルだな。ここは仮置きのテーブルらしい。すまないがあと五人前を頼む。俺らも食べたいよ。」

「んまぁ! 金さえもらえればなんぼでも持ってくるよ。いいかい?」

「いいぜ、たんまりと頼むよ。」


 ペールが伯爵に奇妙な事を尋ねた。


「伯爵さま、キツネ憑きでございますか?」

「いいや猫憑きだな、あの二人が瞬時に持っていくのだよ。」

「あらら、私も食べさせて頂きます。」

「早く掴んで唾を掛けておくといいよ。」

「少し下品ですが……ペッペッ。おおう、皿が無くなりません。」


 このやり取りを二階で見ている人物が居た。


「うふふ……面白い人たちだわ!」


 今のオーナーの若い女である。


「しっかりと実演して見せて、この私がのこのこと出向くとでも?」


 この若い女。メイドが来た時に、


「ねぇ女将に来るように伝えて!」

「はい奥さま。ただちに。」


 メイドは急ぎ片づけて階下へおりて行く。入れ替わりに女将は足早に、


「はい奥さま、ご用件は。」

「あの五人のお部屋は五階に変えてちょうだい。奥には私が泊まるわ!」

「はい承知し、いえ料金はどのように。」

「普通でいいわよ、五割増しがいいわ。」


 女将はにっこりと、


「まぁ、私のお給金がとても増えますわ!」


 人の顔と懐を見て考えて料金を決める。基本料を超えた金額は女将の給金に変化するという、摩訶不思議なシステムを取り入れている。部屋の良い悪いはあるみたいだ。ただし給金が入るのは客が払えばの、話だが。


「さぁキティちゃん。いらっしゃい。」


 女将は、


「前金だと逃げられるかもしれないから、後金あときんにしようかね。」


 指を折り始めた。


「……なんだ片手で足りたよ。もっともっと飲ませなくては!」

「金貨五枚ごっつぁんです。あ~忙し、忙し!」



*)金貨十枚の宿代と+α


 金貨一枚で十万円に決めている。この五階の部屋代は金貨一枚。高級ホテルなみなのか俺は知らない。時代に乗れていないのだ。それが五割増しというから一人が十五万の代金。だがこの女将は先ほど金貨五枚と言っていた。おかしい。倍の金貨二枚を徴収しようとしているのか。


 メイドの二人が五階の部屋に案内した。最初の一室を五人が全員で覗く。


「わ~とても綺麗で~すてき~!」

「それに、ひろ過ぎでしょう~!」


 こういう時は女が声をあげるのだ。男はニタッとして女の顔色を見るのが相場。


「ここはお嬢様方のお部屋になります。……殿方のお部屋のご案内をお願いね。」

「はいメイド長。」

「さ、お二人さまは、奥から二番目になります。街の見晴がとても素敵ですよ。」

「別名が、逃走防止の見晴らし”と言うのでしょうか?」

「もう嫌ですよお客さま、見晴らしが本当に素敵なのです。港の船が出て行くところがご覧できます。」

「あ~そうだな。……おいペールさん。俺らの船が出て行くみたいだ。明日からどうするね。」

「ほにゅ~!」

「まねるな! 朝には戻ってるのか?」

「答えは、いいえでしょうか。三人には知らせますか?」

「船の荷物はどうなっているかな。」

「特に金貨八千枚ですね。」

「すぐに三人を差し向けるか!」


 伯爵は酔いもあるが慌てて三人に船が逃げた”と話した。


「すまないが火急の要件だ、俺の金貨八千枚と修道院の服、それにお前らの荷物を奪還してきてくれないか。男らはキルケー自由にしていいぞ。」

「はい旦那さま。」

「はい、伯爵さま。」x2


 女たちは瞬時に消えてしまった。きっと全部と+αで帰ってくる。


「なぁペール。俺らは飲み直しするかい?」

「そうですね、安心して食事ができますでしょう。ここは牛ステーキで!」

「決まりだな。すまないが頼めるか。」

「はい、喜んでお持ちいたします。ここは八人前が必要でしょうか。」

「またあいつらにエサを与えるのかい?」

「おそらく与えた方が快くお休みが出来ますよ。」

「伯爵さま、正論でございます。用意されますように進言いたします。」

「ありがとうございます。これで一枚かと、いいえ失礼いたします。」


「俺を無視して決めないでくれ。」


「お客さま、朝食はどのように?」

「あいつらに食われてしまうのには勘弁できない。部屋でたのむ。とくにあの底なしの女たちには二人前でお願いする。」

「はい喜んで~十枚ゲットですわ!」


 追加の食事ができたであろう時刻になった。


「お、お、お客さま、ステーキはなんとか二人分、か、確保ができました。」

「他はあいつらに奪われたとか!」

「はい、すぐに消えてしまいました。」

「少しおかしくないかな。いくら魔力の補充だからと食いすぎだろう。」

「伯爵さま、もしかしましたら。」

「そうだろうな、キルケーがメイドたちを連れてきたのだろう。」

 

 すぐに女将が入ってきて金額の追加と明日からの予定の確認を始めた。


「はい、お隣は五人が追加になったよ。」

「むぎゅ~!」

「あんたら、明日はどうするね。また泊まるかい?」

「明後日も頼むよ。それで?」

「伯爵さまなんだってね、細かいところを気にしたら嫌われるよ。」


 伯爵の口封じが実にうまい。


「それでボスはどこに居るんだい? 会わせろや!」

「ボス?……あぁ奥さまのことかな。隣室に居られますが?」

「そうか、そうだろうな。」

「お呼びいたしますか?」

「あ、いや。止めておく。失礼にあたるだろうからそのうちに時期がくるだろう。」

「はいな、ではお休みね。」


 女将が出て行った。見渡してみると綺麗な部屋であった。いたる所に花瓶が置いてある。これは壊させて高い金額を弁償させると言う卑怯な手段だ。


「ガチャ~ン!」


 女たちは早速花瓶を壊したと思われる。なんとも不気味な音が聞こえてきた。



*)早くも、ラスボス?


「ペール。あの船の騒動は誰がけしかけたのかな。」

「フリードさまではありません。ですので推理もできません。」

「水夫に訊くか!」

「無理でしょう。もう休みましょう。」

「だな。」


 キルケーは、


「もう久しぶりの男だわ~あ~、、、し・あ・わ・せ・!!」


 ラスボスの若い女は戸口まで来るも自室へ戻ってしまう。どこの戸口?


 1247年8月24日


 朝の目覚めがとてもすがすがしい伯爵。開窓一番ラトビアの街を見た。


「おうおうとても綺麗だな。俺でもこれ位の街が造れたらいいのだが。それに船は……港に戻っているな。」


 伯爵としたらまだ小さい村を少しだけ大きくさせただけだ。


 ふと伯爵が左の部屋の窓を見た。そこには朝日に当たる綺麗な金髪が風に揺れていた。両手で頭を掻いているような仕草。きっと洗髪したから乾燥させているのだろと思った。見えるのは髪だけでお顔は拝見できなかった。


「ラトビア美人か!」


 大声で言ったのではないのに伯爵の言葉が聴こえていた。


「ラトビアは交通の要所以外は発展しそうにないな。かなりの人々が殺されたに違いない。」


 ここでもキリスト教の布教により多大な人民が消滅していた。


「やっぱ、キリスト教は悪だな!」


 当時のラトビアの国名はテッラ・マリアナ、という。Terra Mariana 。地球のマリアナ、という何とも素晴らしい名前だった。マリアにナがついている。naの意味はなんだろうか。キリスト教に由来した名前。六司教の公国に分けられている。リガはその大司教になる。


 マリアナとは女性の名前だから、Terra Marianaとはきっと宇宙人の男が名付けたに違いない。


 白い鯛焼き、餡がない。



 1247年8月30日 ポーランド・トチェフ


*)トチェフのブドウ畑


 八月になりブドウの実も色づき始めた。酪農家のレオンとマルチンは急な布掛けの命令に辟易してバテてしまう。


「だってよ、あいつらは使えね~し、俺らは限界まで働いたぜ? なのにどうだい、金一封も出やしない。公務員はいいよな~!」

「そう怒るな。雇われの狭い身だ、我慢だ!」

「村の女たちがそれだけ裕福になったという証だな!」

「裕福になれば女は働かないんだな、俺は知らなかったよ。」


「ところでレオン、今日の呼び出しの用件を聞こうじゃないか。」

「このブドウが色づいて甘くなればさ、箱に詰めてくれとさ。」

「この小さな箱に? なんでだい。面倒だろうが。」

「これも仕事だ、二千箱のご所望だ!」

「に、二万は…こ?? え”~~!!」

「俺は間違えたか? 二万個だな、マルチンが正しいよ。」

「誰がどうやって、摘んで箱に入れるんだい?」

「大きい房を収穫して、二房をこうやって入れて終わりだ。」

「わ、分かったよ、で、どこに届けるのかな。」

「当然外国に決まっているだろう。最初はデンマークとスウェーデンらしいよ。」

「領主さまも随分と顔が大きくなられたな。」


「そうだなマルチン。こっちに来てくれ。」

「なんだ?」

「これだ、長い板、釘、ワラ。揃っているよ。なんでも昨日届いたそうだ。」

「そうだ、と、気安く言わないでくれないか。誰が作るんだい。」

「俺とお前の二人だ。さっき女は使えないと言っていたではないか。」

「前言撤回するよ、また女たちを集めようぜ。」

「そうだな、誰が買うんだい?」

「どこかの伯爵さまらしいよ。金持ちはいいね。」


「ところで、ノコギリはどこに在るのだい?」

「鍛冶屋だろう。」


「二万個か~いったいいくらで売れるのかな。」

「たぶん、ただだ。」

「たたたぁ~!」

「すると? 伯爵さまとは!」

「だだだ~!」

「そうか、当然そうなるわな。」



*)トチェフ村のより


 グラマリナのパブの横には、やや大きめの会議室兼迎賓館が在る。ここに関係者が集められている。村の集会所も兼ねているのだろうか。


 領主夫妻、ソワレ、エレナ。オレグ商会からは、ギュンターとユゼフ。運送を担うボブ船長とシビル。農場からはレオンとマルチン。イワバからの飛び込みで領主のピアスタお嬢さま、来賓だ。


 このような寄合は村では初めてとなる。今まではすべてがオレグとその家族が担っていたのだから集まる必要も無かった。十一箱のブドウも用意されていた。


 奇妙でちぐはぐな会合が始まった。デンマーク国王からの押印付の強引な内容だったのだ。侯爵が関わる事件だからとピアスタが緊急で呼び出された。この姫殿下は貴族との繋がりがあるから知恵を出せという事だ。


 オレグは居ないがオレグ商会の管理するブドウ園。ギュンターとユゼフが呼ばれる。後は出荷と流通だから決定の上意下達じょういかたつで済む問題。


 ブドウ二万箱の送り先がグダニスク経由のゴットランド島まで。納期が切羽詰っての十月十日に決められていた。


「グラマリナさま、最終納期までは一か月もありますが、ブドウの出来が良くなるのはまだまだ先になります。」

「レオンとマルチン。四万房のブドウが揃うのにあとどれ位ですか?」

「おいおいグラマリナ、第一に四万房のブドウが収穫出来るのかい?」

「それは問題ありませんわ。オレグの農園で収穫出来るのは、十万房を見込んでおります。ですから問題はございませんが……。」


 ギュンターがグラマリナの後を話す。


「はい余裕でございます。ですがワインの製造に回せるブドウがそれだけ減るのです、より利益のあるアイスワインが大きく減る見込みでございます。」


「領主さんよ、そのデンマクからの内容はなんと書いてあるんです?」

「ボブ、少しもいい事は書いてありません。箱になる材料を送る。ついてはデンマーク国王へ納税として献上せよ。なのですよ。」

「領主さんよ、オレグの旦那が一番損をするのでしょうが俺らとしては……ん? あ、あ?? もしかして船賃が出ない~!」

「いいえボブ。船賃はお支払いいたしますが利益抜きで見積もって下さい。出来なければ……。」

「ケッ、ばぁろう!」

「ボブの件は終わりました。レオン、摘果としての問題は何がありますか?」

「人員の問題ですね、今年は布掛けいたしましたので出来はとても良いと思いますが、その布を取り除く作業があります。短気集中の作業ですので女は二十人を賦役として採用をお願いします。木箱の制作には男が十人は必要です。」

「はい承知いたしました。直ぐに手配いたします。」


「忘れていました、ボブ。二万箱は船に詰めますか? それにゴットランド島へは直に行けますか?」

「あぁで~じょうぶだ。軽いからゴットランド島までは……五日もあればいいぜ。」

「はいはい、では次に、」

「グラマリナ。ちょっと待ちなさいよ。その勅使はどこから来たのかしら。」

「はいエストニアのトームペア城のヴィルヘルム家、フリード侯爵さまからですが、なにか?」

「なんでデンマクの国王じゃないのかな。理由は?」

「ピアスタさま、いくらデンーマクが嫌いだからといって、デンマクはないでしょう。」

「いらぬお世話だ。嫌いなのは他にも居るし。横棒が違ってるし。」


「解りませんわ!」

「それ! 本物か?……。見せて頂こうか。」

「はい見分をお願いします。昨日のギュンターの見立てでは本物です。」


「う、う~……。うん本物です。だが、なぜにトチェフなのかしら?」

「グラマリナ、お前、どこかで恨みを買っていたな?」

「え? なんでしょうか、私には少しも心当たりは、…存じませんわ。」

「ふ~んグラマリナ。どこかで聞いたのだが、グダニスクで。」

「あれは第一回聖ドミニコ祭に参加したまでです。なにも不都合はございません。」

「それならばいいけれども。……その前には??」

「それも問題ありませんわ。少し儲けた程度でございます。」

「別荘を買える程もかい?」

「はい、今後はトチェフからも出まして、グダニスクでも仕事をいたしますわ。」

「ふ~ん、」


「こらグラマリナ。それは本当か、俺は聞いていないぞ。」

「はい、まだ先の事でございます。頓挫する事案でもありますから、エリアスに相談するにはまだ早ようございます。」


 グラマリナは随分と大物に成長している。エリアスに対して動じずに堂々と切り返えしていた。


「まぁ! グラマリナったら。」

「うふん!」

 

「ギュンターとユゼフ。今回の事件で出来るだけ損失を出さぬように手続きをお願いしますよ。」

「はいグラマリナさま。」


 蚊帳の外となったのが数人居た。


「私たちには声も掛からなかったわ。」

「そうね、後が怖いわね。」

「覚悟しとけよ、きっとろくでもない用事を言いつけられそうだ。あっはぁ~ん!!」

「シビル、隠れて飲み過ぎだよ。」x2



 1247年9月24日 ポーランド・トチェフ


*)ブドウの収穫


 レオンとマルチンが大忙しだった。男には木箱を作らせねばならないし、女たちにはブドウの布を取り払ってもらわねばならない。指示が少しでも滞るとブドウの樹に隠れて休んでいる。指示待ちの人間ばかりだった。


 マルチンが愚痴を言い、


「オレグの旦那が居たらな~。」


「お~い、レモンとマルチーズ。とてもいい物を作ったぞ。いくらで買う?」


 レオンがヘンリクを見つけて、


「おう家具職人のヘンリク。どうした。」


「俺らに金は無いよ、ギュンターさんに言いなよ。」

「それが払ってくれなくてさ、お前んとこに行け! と言われたよ。でだ、これ作ってやったぞ感謝しろ。」

「おうおう感謝、感謝。……荷車に敷き藁?……俺らの休憩所か!」

「バカ言え! これはブドウの房を載せて運ぶのだ。ワラで果実に傷も入らない第一に運搬がとても楽になるぜ。」


 家具職人のヘンリクがとても細長い荷車を作っていた。


「それはいいナイスなアイデア。すぐに俺らを運んでくれ。疲れてあんな遠くまで歩けない。」

「これ五台を頼むな。お礼はちっこいブドウの実だな。」

「二十粒で百九十八円とか?」

「十%の消費税が抜けている。二百十八円だ。」

「いいぜいいぜ、今回は貸にしておくよ。」

「ありがて~!」


 熟したブドウの房を丁寧に摘んでいきオレグ商会の冷蔵倉庫に一時収納した。おおよその二万房が収穫出来たころから順次箱に詰めていくが、


「グラマリナさま、女をあと十人貸して下さい。」

「人手が足りませんか、ソワレに言って集めさせます。」

「はい、オレグさんの倉庫に集めて下さいまし。」

「あいよ。」

「え”っ!」


 ブドウを詰めた木箱は丁寧に、そしてゆっくりと港の倉庫に移される。


「あ~これが全部ワインだったらな~!」

「実を食って腹でワインを作ればいいだろう。」

「ボブ、そんな事は出来ないよ。ちんたら運ぶのに疲れたよ。」

「魔女が運んでいるのだぜ、どうしてシビルが疲かれるのだ!」

「箱を数えているよ。グラマリナに指の使い方を教えてもらってな……。」

「ばぁろう。働け!」



 港に二万箱の贈答用のブドウが積まれた。ホッとするグラマリナ。他の者も顔が緩んでいる。みんなが安心した。


「ボブお願いしましたよ。ギュンター、ビールは言われた通りの数量で積んでいますね?」

「はいグラマリナさま。万端でございます。」


「では、みなさん、積み込みを……開始!!」


 総員が? 10+20+10+6=四十六人で。ブドウ箱リレーで積み込みを行った。


 エレナがシビルに大きめの木箱を託した。


「なんだい、これ!」

「はい中にはリリーさんのバラの花が多数入っております。もしもの時にお役に立てばと思いまして。」

「あぁ分かった。リリーに会えるようだったら使わせてもらうよ。」

「はい、きっとお役に立てますわ。」


 グラマリナはテーブルに小さな木片を多数用意していた。箱リレーが始まるとその木片も右から左へと動くのだ、次はまとめて左から右に移動していた。両手の指が動く、動く。この作業が二時間も!


「二時間でした、後はユゼフ!」

「はい、テーブルに用意が出来ております。」


「わ~い宴会だ~!」


 残った者は港で手を振りながら口はしっかりと肉を咥えている。


「ケッ、俺らは魔女の六人を乗せて航海かよ。」

「いいじゃないの、ビールはたくさん積んでもらったわ。」

「俺のワインは在るのか!」

「はい、たんまりと!」

「倉庫から流れたんだな、それはいいぞ!」

「ゴットランド島で売るのかしら?」

「あぁ俺の古巣だ、手土産とそれから、」

「あのに贈るのね?」

「……なぜだ!」

「それくらい、大した事ではないわ。」

「むぎゅ~ん。」


 ボブやシビルが楽しい思いをしたのは、ここまでだった。


 

 ゴッドランド島ではリガのニコライ・ハーシュホーン夫妻とルイ・カーン侯爵が出迎えた。


「え”っ?」

「あんた、生きていたの!」

「おう、これから戦争だ!」


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