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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
14/257

第14部 四番目の村で!


 1241年5月2日 ポーランド・トチェフ


*)夢の村、トチェフに向かえ!


俺らの旅も、この先は四つ目の村になるか。ここはグダニスクからだいぶん離れている。少しは期待が持てそうだ。そう考えながら不慣れで脱輪してしまう。


「ドジ! 下手くそ! オッチョコチョイ。ボケナス。」

「まだボケていないよ。ナスとは何ですか?」

「ナスはナスよ。野菜の茄。」

「何処に茄があるんだい?」

「インドや中国、日本にあるわ。」

「ここには無いんだね?」

「そうよ。ここは寒すぎて栽培が出来ないの。」

「ここに無いのならば、俺は、雑草魂、だ。間違えるな。」

「うう! 負けた。おたんこなすに、また負けた・・・。」


「早く俺と代われよ。荷馬車を持ち上げないとねいけね~し。」

「ええ、いいわよ。頑張ってね? ダーリン!」


「無理だな! 誰かが重くて挙がらない。ゾフィ! ノアになって手伝え。」

「え~、イヤだよ。それよりもさ、車輪の下に土か石を入れなよ。そこにくわが有るだろう? しかも沢山。」

「ああ、そうするよ。便利な荷車だね。何でも揃ってるから。」


 ドジな俺は、車輪を埋めてしまった。これでは余計に上がらないだろう。俺の頭の上からは、非難の声が降ってくる。荷物が重すぎてどうにもならないようだ。


「ソフィア! 馬に休息を取らせてくれないか。お二人さんには、昼飯の準備だ。美味いのを頼むぜ!」

「アイアイサー。」

「さ、リリー。美味い物をどこかのパブから持って来て?」

「ええ~、またチョロまかせて? 来るの?」

「お金を置いてくればいいよ。銀貨10枚でいいよ。これで夕食の分までは買えるからさ。テイクオフ!」

「リフトオフ! ラジャー。」


 ソフィアはずるい! 自分では何もしやしないのだ。何がテイクオフ! だ、働けっつうの。


「そうよね~、いつもごめんなさい。」


 心の声がいつも聞こえるが、みょうに感がいいのか分らない。馬に水を与えながら、ブラッシングを掛けている。お馬さんは気持ちがいいのだろう、道の雑草を食べ始めた。


 遠くから荷馬車の音が聞こえだした。これはラッキーだ、お手伝いをお願いしよう。俺は道の方の荷馬車の横で寝転んで馬車を待った。


 農夫の馬車と、リリーのテイクオフが同時になった。この飯で協力を依頼した。


「すみません、脱輪させてしまいました。お手伝いをお願いしたいのですが、よろしいでしょうか。」

「あらあら、休憩中かと思っていました。それはお困りでしょう。」

 

 そう言って農夫が二人降りて来た。馬車の左側に回り状態の確認をした。


「三人でかかれば大丈夫でしょう。」

「はい、お願いします。一人では重くて上がりませんでした。」

 

 三人は掛け声と共に踏ん張った。


「そう~れ!」


 三人でも上がらない。


「あんさんは、何を乗せとるとね! 重すぎですわ。これでは馬も可哀そうだわ。」

「農機具の類と塩、胡椒とかです。鉄器具が多いですね。」

「そりゃ! 重たかですばい。」

「ごもっともです。」


「そしたらば、あんたは縄を積んでなさるか?」

「ああ、有るよ。これで何をするんです?」

「あんたは馬を馬車に着けてくれ。俺は縄を馬車に繋いで引っ張るのさ。奥さんは馬の手綱をお頼みしますよ。」

「ええ、任せてください。」


 農夫は手際よくロープを結びつけて、もう一人の農夫に馬車を進めるように言った。


「あんさんは俺と荷馬車を持ち上げるんだ。気張れや!」


「そうれ! どりゃぁ!」


 馬車は動き出した。無事に穴から上がった。


「この穴は落とし穴だな。誰かが掘ったんだろう。みょうに深い。深すぎる。」

「あんさんが、わざと落ちないと、落ちない所にあるぜ? な、どうしてだ?」

「面目ない。うちの綺麗な嫁さんを見つめていたからさ。」


「はは、面白い事を仰る。頼りになる奥さんですな。」

「もう嫌です、私を見ないで下さい。恥ずかしいです。」



 俺は、ソフィアに助け舟を依頼したのがバレテしまう。頼りになる、とは、そういう、なんと言いますか、俺を庇ってくれ! です。ソフィアは窮地の俺を庇えるほどに優秀! という意味ですね。




*)農夫は見た事も無いご馳走に驚く



「さ、ソフィアがお昼の用意をいたしました、ご一緒にどうぞ。」


俺は感謝のお礼に昼餉に誘う。


 二人は食事の内容を見て驚いた。生まれて初めてのご馳走に見えているのだ。ま、当然だろうか。農村に居たら都市の食べ物は口に出来る筈は無いのだ。


「なんですか、この料理は。奥さんは凄いですね。おらも欲しいですよ。こんな料理を作る嫁子を!」


************************************************************

 ポーランドは、家庭で料理を作るのが普通であります。とにかく、食べ物を大事にするお国柄です。日本みたいに外食に出かける習慣はありません。家庭料理が出来る娘は、優秀! という評価を頂きます。

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「あら、そんな! いやですわ。」

「いやぁ~凄いですわ。本当に一緒に食べてもいいですかい?」

「はい、沢山食べて下さい。リリー、お皿を出してくれないか。ナイフとフォークもね。」

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 ナイフとフォーク

 中世ヨーロッパでは、まだ、ナイフとフォークは使われていない。すべてが手づかみで食べていた。日本はお箸を使っていたから進んでいる。スパゲティは、手づかみで上に持ち上げて、大きく口を上に開けて口に入れていたのだ。


 したがって、熱い料理は基本無いのだ。スープは皿に注いで、手でお皿を持ってすすり飲んでいた。コーヒーカップにお皿が在るのは、このマナーのせいで残ったもの。当初は、カップからお皿に注いでお皿から飲んでいました。


 中世ヨーロッパの居酒屋は、パブばかりではありませんが、レストラン等の店のテーブルは全てが二人分の椅子しかありません。一つの料理を一つのお皿で二人で分けて食べていました。3人だと、一人が溢れてしまいます。


 普通にフォークを使うようになるのは、18世紀になってからです。フランス料理がお皿に盛られているのは、この時代の名折れだとも思えます。日本みたいに熱い料理がありませんもの。基本が冷えた料理! です。

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「はい、これ。どうぞ! 召し上がれ!」

「これは何ですか?」


 ナイフとフォークを差し出したが、使い方が判らないという。


「ナイフとフォークといいますが、使わないのですか?」

「俺たちは、なんでも手づかみで食べますだ。」


 そうか、ナイフとフォークは使えないんだ。これはキリスト教の教えによることだった。神聖なものは手で掴め! なのだ。ですので、この物語には、もうナイフとフォークは出てきません。だって、キリストさまの教えですもの。


 小さなテーブルには、沢山の料理と皿が並んだ。農夫たちは喜んで食べている。この事がきっかけでこの後村の長老に合わせてくれたのだった。


「この黒パンは、肌理きめが細かくて美味いですわ~」

「いや、普通と思うんですが、何か違いますか?」

「奥さんみたいにやわらかくて美味しいです。」


 硬いパンが農夫に投げつけられた。農夫の頭にあたり、農夫は両手で頭を覆ってソフィアに謝った。ソフィアの両手には、まだ皿が2枚握られていたからだ。


「ヒェ~! ごめんなさい!」


 もう一人の農夫が、


「兄ちゃん達は商人かえ。何処からお出でなすったんで?」

「グダニスクからだね。この農機具と塩などを売って回っているのさ。」

「それは大変でしたでしょう。」

「ええ、もうお尻が痛くて痛くて、泣きそうな位に大変です。」

「いや、尻は知りませんが、どの様な農機具を積んであるんで?」

「後でお見せいたしますよ。さ、全部食べましょう。」

「リリー、お水も頼むよ。」


「ソフィア、器に注いでくれないかい?」

「ええ、いいわよ。」


 と言いながら、水ではなくクワスを注いだ。冗談を言った農夫には頭に掛ける動作をして見せた。農夫は急いで頭の上に容器を持ち上げる。


「おいおい、ソフィア! もう止めないか。」

「だってこの人! 嫌い。」


「なんですか? これ! とても美味しいです。こんなの飲んだ事はありません。」

「これは、ワクス、といいます。ライ麦と麦芽を発酵させて、その上澄みを冷やした飲み物です。」

「俺たちは知らないや。良かったら教えてくれないかい? 領主さまにも飲ませてやりて~な。」 


「ここの領主さまは、どのようなお人ですか? ハンサムな方でしたら、ぜひ紹介をお願いしますわ。」

「あんた、浮気をお望みですか? 領主さまはとても綺麗な娘さんが大好物らしいですわ。」


「キャッ! いやだ。私ったらはしたないわ。」


 両手には、またしても投げる準備をして、皿を二枚持っている。顔はブーとした表情をしていた。


「か、可愛い奥さんだこと。」


 農夫はお世辞を言ってかわした。


 女は男共の潤滑油になるようだ。男から情報を引き出すのに長けている。心にも無い事を平気で口にする。この事は男にとって、嘘と本当の見分けが出来ない。つくづく男はアホに思える。ワクスのアルコールが高かったのか? ソフィアの質問に答えてくれた。


 ソフィアは次の質問をする。


「それで、ここの領主さまは? どのようなお人ですか?」 


「ここは領主さまが新しいのさ。なんでも、ドイツ騎士団の指示で来たとも言っておられたね。でも、どこか違う感じさね、遣る事成す事がワシらと違うんだ。」


「どう違うんだい?」


「ワシらはライ麦を作付してたんだがね、今年は新規開墾の土地にだけにしか、作付を認めなくてさ。」

「じゃぁ、来年の税金が払えないじゃないの?」

「そうなんだ。でも領主さまは、税金は免除すると言われてさ。な、変だろう。」


 ここの領主は、連作する事で収穫が悪くなると知ってるんだな。とすると、まだ何か作付で指示を出してるとかありそうだ。


「今までのライムギ畑には、休耕にして牧草を植えさせたとか? かな。」

「ああそうだ。牧草にして豚の数を増やせ! と言いなさる。」


「馬は農耕の動力源になるんですよ。いいですか? 人間がくわで耕しても大した耕地は管理出来ません。後でお見せしますが、馬に大きな耕作用農器具を曳かせて、畑を耕すのです。人は疲れない、広い農地を耕せる、したがって、収穫が上るのですよ。」


「へぇ~そうですかい。じゃぁ、豚を放牧するとは? どういう意味です?」

「うん、豚や家畜が草を食べて糞をするだろう? この糞が肥料になるのさ。」


「すると、豚の糞が肥料になり、休耕して土地が痩せないから、収穫が上がるのですかい?」

「大まかには、二倍にはなると言われてるよ。ただし、刈取りを丁寧に

 すれば、という条件が付くけどね。」


***********************************************************

 旧来は、耕作地と休耕地と二分する二圃制だった。これを、春耕地と秋耕地、そして、休耕地の三等に分する。休耕地には家畜の飼育を行い、冬の牧草も育てる。これが三圃制で、導入されたら反収は増加する傾向になる。この農法で飛躍的に収穫が増大して、食糧増産で人口が急速に増えて行く。

***********************************************************


「ワシ等はそろそろ戻らなくてはならんで、一緒に来なさるか? 村の長老に紹介をいたしますが。」

「はい、是非ともお願いします。」


 俺ら四人は村に案内されて辿り着いた。お日様も少し傾いてきた。4月はまだ寒いので、早く宿屋に入りたいのだ。



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