第139部 シン・ティの覚醒と白い猫
1247年9月6日 エストニア・レバル
*)出戻りのシン・ティ(shee・tink)
キティ嬢の誕生会は無事に済んだ。ただ単に期日が合わずに省略したに過ぎない。また詳細は考えもしなかった。
伯爵がキティ嬢に黒猫を届けて十一日になるだろうか。奇妙な噂が聞こえてきたのだ。どうしてだろうか、城主のフリードが寝込み、キティ嬢にはなんと、ネコ耳が出たとかなんとか。
「そりゃいい、親子でネコミとネコミミだ!」
「旦那さま、それでよろしいのですか? 伯爵としての計画はどうされますか!」
「あのシンティがいないんだ、きっと上手くいくさ。」
「まぁ、呑気な!」
色々と教授したいと思っているキルケーなのだが、伯爵は聡いのか鈍感なのかいまいち判断が出来ないでいる。シンティが計画に組み込まれたからすでに計画は狂いだしている。なのに伯爵は大丈夫と言い張る。
「旦那さま、黒猫を引き上げましょうよ。あのまま放置しましたらきっと死んでいまいます。可愛そうです。」
「猫は死なないだろう、だって九つの命があるのだから。」
「いいえ猫ではありません、バカとキティ嬢のことです。きっと夜中に怖い夢を見せられているのでしょ。」
「それは、キルケーの役目だろう? だからあれは琥珀に取り囲まれた夢を見て。ウハウハ! で、キティ嬢は子猫に変身して夜中に遊んでいる夢を見て……いないのか?? あ、ああん??」
「小娘は知りませんが、あれは私の魔法をはるかに凌駕した魔法により、悪夢を見て眠れないのでしょう。その魔法が誰の所為なのかも判りません。」
「お前でも理解できないのか、まさか黒猫の怨念とか!」
「それはあり得ません。従順なこむす、いいえ純粋なコネ子ですもの。そう、それはあり得ません。」
キルケーの語気が弱まる。キルケーはシンティを黒猫に変えたがこれは伯爵の意向、計画とばかり思っていた。この前の計画の時に泣き出したシンティを伯爵が見て、それから伯爵はキルケーの顔を見た。「はい、承知いたしました。」と返事をしたのだが、黒猫に変えろ、という意味ではなかったのだろうか。
「旦那さまは、あの黒猫に何を期待してらっしゃるのですか?」
「なにも。だってあのトームペア城に取り入る方法を、黒猫作戦に決めたのだからさ。来月の誕生会から顔を売って仕事の足掛かりを探すのさ。」
「トム……?」
「ジェリー!」
「まぁなんと。シンティはもう関係ないのですか! ジェリーは出てこない?」
「そうだな、別に食われてもいいよ。」
キルケーは子猫が黒い毛糸玉で遊んでいるかのように頭の中が縺れだした。毛糸玉がほどけて縺れたような感じだ。
キルケーは右手で黒猫と毛糸玉の邪念を振り払う。残ったのはシンティが皿に載せられて食卓に並ぶシーンだった。伯爵が悪い、食われてもいいと言うからだ。
「旦那さま、黒猫ルンルンはシンティでございます。呼び戻しますわ!」
「ぎゃ、シンティだったのか!」
「はい。可愛いシンティです。きっと毎晩あの男の胸の上で寝ていたのでしょう。だから猫の恨みの重さで悪夢を見る羽目になっていたのですわ。」
「そうか、シンティの両親の敵だものな。」
「可愛そうだ、親の敵の館で泣いているかもしれない。」
キルケーはシンティの事をコネ子と言っている。もううどん粉と同じなのだった。こねてこねて食べたいのだろう。皆さま、惑わされる事がないように! コネ子、素通りされて下さい。気づけなかった方、次の問題をお楽しみに。
伯爵の思いとは裏腹にアベコベだった。その実、
シンティは、シン・ティ(shee・tink)。人間の耳では判別できない高い声、超音波をあの男の耳元で唄っていたのだ。キルケーが黒猫に変えたことで妖精としての資質に芽生えた。シンは魔女。ティは高い音を奏でる、と言う意味だ。名前通りの魔女なのかも知れない。
「では、すぐに呼び戻します。」
「あぁ、そうしてくれないか。」
*)戻ってきた猫が二つ
キルケーが奥の部屋に向う。常時結界が張ってあり人はそこに部屋が在るとは認識できない。ルイ・カーンはキルケーから説明を受けなくても知っている。
「俺が図面を描いたからな!」
下手に**がついた図面。その図面はルイ・カーンの頭の中に入っている。他にも種と仕掛けが在るのだろうか。
「あの部屋を使うのか!」
「はい、あの部屋は異次元を通じて別の世界に入れます。そこに出てくるドアを開けましたら、そこはもう目的地なのです。」
「それは便利だ、どこにでも行けるのか? 異次元を通じて別の世界とはなんだ。」
「はい、私が行って見た場所だけですが。五次元ですわ!」
「ならば、どうしてトームペア城に行けるのだ。五次元とはなんだ。」
「それはシンティの目を通して見ているからです。判りません。」
「そうか、それはいい。どうでもいい。……だったら俺を騙していたのか?」
「いいえ、とんでもありません。黙っていただけですわ!……教えると、」
「そうだろうな、俺は黙っていなかった。」
「はい!」
「正解か。」
「んう??」
キルケーはニッコリとほほ笑んで部屋から出て行くと、ドアも開けずにいきなり飛び込んできた。
「おう早かったな。これも、あの異次元のドアを開けてこの部屋……に、」
「は、はい、旦那さま。お助け下さい。殺されます。」
キルケーの耳に黒猫が、キルケーの胸に白猫が憑りついていた。
「なんだ!! 二つもか!!」
「はい、二つです、早く手をお貸しください。殺されます。」
「こらこらシンティ、キルケーから離れろ。白も離れろ!」
伯爵は右手でシンティを掴む。左手でキルケーの乳房を掴む。
「旦那さま、そこに猫はおりません。私の大きい乳房でございます。」
「おおすまん。左の胸がとても大きかったので猫かと思ったよ。右は? お前、しぼんでいるぞ。」
「えぇ~! そんな~私の自慢の乳が……、」
そう、白猫が憑りついて精気を吸っていてもう無くなりかけていた。
「ちっぱいで、可愛いぞ!」
「ちっぱい、言うな!」
「え”……リリー!」
シンティは黒猫のままだが、白猫は女の姿に戻っていた。
「お前はどこかで見たような? ちっぱいだ。」
「ちっぱい、言うな!」
「誰だ!!」
「?? え、あ、ほ、そうですわ。初めまして伯爵さま。私はそうですね……、Veggey、ベギーと呼んで下さい。」
「野菜がどうした、それがお前の?」
「はい名前です。シン・ティの姉ですわ。」
ベギーと名乗る女はキルケーを見て考えた。乳房を吸って小さくさせたからバツが悪い。でも数日で戻るのだから、由と言う。
「今日はお助け頂きありがとうございました。お蔭で大切な家族のシン・ティとも会えました。なんとお礼を述べればいいのでしょうか。」
「フン!! お乳のお礼も言いなさいよね。乳飲んで大きくなれたのですから。もう全身を吸われるのかと思いましたわ。」
キルケーは本当に怒りながら小言を言っている。
「驚かせてすみません。」
とベギーが謝るも、キルケーは左右の胸の乳房を見ている。
「えい!」「バン!バン!」
とキルケーはいきなり自分の大きい乳房を気合いと共に大きく二回叩いた。
「あらあらまぁまぁ……。」
「ほほう、これは凄い。だが半分の大きさだ。また膨れるのか!」
二つの乳房が胸に揃った。
「今晩、旦那さまとベッドに入ればすぐにでも……。」
「安心した、時期に大きくなるのだな。」
「はい、旦那さまの希望する大きさまで!」
「ゴホン、あのう~……。」
「はい、キルケーですわ。で、なにかしら。」
「はい姉妹の再会をお許し下さいませんか?」
「もう、会っているではありませんか。」
「はいそうですが、猫のままですし~、言葉が通じません。」
「シンティは話せますわよ、シンティ!」
「おねぇ~~~~さ~~~ま~~~!!!!!!!」
「まぁ、」
「ね!」
「でも、これでは。」
「キルケーからかうのはもうよせ! 戻してやりなよ。」
「はいですわ。」
シンティが黒猫から解放された。
「あ~ん会いたかったです~。」
シンティが抱き着いたのは伯爵にだった。
「シンティ、間違えているぞ。」
「あらら……。おねぇ~さま~!!」
「シン・ティ、会えてうれしいわ。シン・ティを見た時はビックリして、」
「お前ら出て行け。館にでも帰れ!」
「まぁご主人さま、冷た~い!」
「フン、知るか!」
伯爵は小娘たちの黄色い声が耳障りだった。二人はシュンとして部屋を出るも瞬時に館のシン・ティの部屋にいた。
「おいキルケー、あの女はなんだ。」
「たぶん、孤島の妖精ですわね。他人の精気を吸って蓄える。それも無尽蔵にですわ。私の乳房はそこいら辺の魔女の十倍の魔力があります。それを短時間で吸い尽くしたのです。ニモ・イン・ジャガですわ。」
「ウソ言うな。あれでも姉妹なのかい。」
「母親が違うだけでしょう。」
「父親ではないのか?」
「違います、男は皆、屑の塊りです。」
ルイ・カーンは、黒の毛糸玉が縺れた塊りに思えた。
「黒色のスパゲティだな……。ジャガイモか!」
「ふふふ、でしょうね!」
トームペア城では逃げた黒猫で悲しむキティ嬢。キツネ憑きがとれて良くなったフリード。以前の生活に戻った。
「お父さま、早く黒猫を捕まえて下さい。」
「そうだな、またあいつに頼むか。」
「ベギーの母親には会えるのかな。」
「それはどうでしょうか?」
*)二人の姉妹
トームペア城のフリードから呼び出しが届いた。二人の姉妹はじゃれつくからルイ・カーンは手を焼いている。
「お前らの前世は猫なのか?」
「いいえスラブ人です。」
「そうか、俺と同じかもしれないな。」
「はい、きっとそうです。」
「伯爵さま。それでなんと?」
「決まっているだろう。決まっていないのは二人の内の一人だ。」
「もう嫌です。黒猫は嫌いです。」
「私も白猫は懲り懲りです。人間がいいのです。」
二人の妖精の性格は、人間を惑わす、いたずら大好きの唄が好き。怒らせるとどのような危害を及ぼすかが予想もできない危険な妖精。
キルケーが言っていた。
「あの妖精は可愛いのですが、怒らせるととても危険です。」
と聞いている。どのようにとは二つしか知らない。耳元で聴こえない声で唄うと気が狂う。それに憑りついて精気を吸ってしまう。他は恐ろしいので訊くに聞けない。
「二人に仕事だ、黒猫を探せ!」
「はい直ちに。明日には戻ります。」
「いや、いつでもいいぞ猫以外はな!」
「は~い、」
瞬時に姿が消える。
「あれはあれで便利だが、これはこれで心臓に悪い。いきなりだものな、驚いて心臓が飛び出る。」
トームペア城のフリードを訪ねるにあたり、黒猫以外の手土産を考える。
「コーパルはまだ早いし、金貨をやるにも、まだ王室の情報は届いていないだろうし、他には、……牛肉は要らないだろうし、……。」
姉妹から聞いたトームペア城の情報には面白いものは無かった。奴隷がどうの娘がこうのと、本当につまらない女の視点で語られたものばかりだった。
「ノー・タリン、か! 使えないな~。こういう時はトームペア城で検索!」
タリンの街の中心部に位置し、今は国会議事堂として使われ……。
「木造の改築だものな……? あれれ、おかしいぞ。俺が通された広い城はいったいなんだったのかな? 木造ではなくて大きい煉瓦でできた……。異世界だったのか、それとも未来??」
伯爵もノータリンの頭で考える。
「そうだ、ベギーは今までトームペア城のどこに居たのかな。それにどうやってここにこれたのだ!」
エストニアはキリスト教ではない異教徒だ。それが布教というありがた~い、名のもとに異教徒が制圧されてできた街だ。
「お城に異世界の門が在るのか! フリードはスウェーデンの貴族になりたいとも言っていたぞ。デンマークは何を目的にここを制圧したのだい?」
「それに地元の人間は反抗するからと大方殺してしまうし、農地は少ない。工業もない。なんでだ?」
「そうか、ドイツ騎士団がキーになるのか。農地の開拓か! だったらライ麦の種子がいいか。」
と見せかけの十袋程度を用意した。
「あとは口からの、だな。だが、どうしてフリードはここに来たのだ? 目的は? やはりまだ何も解らん!」
「本部で飲んで夢見るか!」
それは現国王を貶めるための作戦を練るのと、その行動の蓄財を目的としていたのだ。本国のデンマークから遠いこの地では、何をしてもバレないのだと思いこの地に来ている。この事をルイ・カーンはまだ知らない。
ただの悪代官なだけだ。後にルイ・カーンは逆手にとって、デンマーク王を殺害させるのだが、まだまだ先になる。
「おう、もう朝か。なんだかとてもいい夢をみたぞ。」
黒猫がふたつと白猫はひとつ、ルイ・カーンの横で眠っていた。
「ビィェ~!!」
「ふぁ~~、おはよう伯爵さま!」
目覚めの悪い伯爵は、黒猫とライ麦の種子を見本として一袋を持ってトームペア城へと向かった。
「これは伯爵さま、お待ちになられてあります。少しお待ち下さい。」
門番は主語を抜き丁寧に応対して係を走らせた。すぐに執事のペールが走って来た。
「ルイ・カーンさま、お待たせいたしました。おやおや今日はお二人を。」
「金魚のフンだ、気にするな。ここに置いていく。」
「ビィェ~!!」「ビィェ~!!」
「どうぞお連れ下さいませ。中でお菓子をご用意いたします。」
「はい、ありがとうございます。」x2
伯爵はシン・ティが抱いている黒猫の素性を尋ねなかった。誰だろうか。
*)クヌート家
クヌート家はご先祖さまが王様だった。今は王家から弾かれて侯爵、いや男爵に見える程まで身をやつしている。現国王のエーリクⅣ世が遠いこのエストニアへと飛ばしたのだ。自称クヌートⅠ世。家系が途絶えているはずが、どこからともなく湧いて出たような王家の系図を持っている。エーリクⅣ世はクヌートⅠ世が王座を簒奪するのではないかと、いらぬ心配をして似非貴族を追い出した。
そのクヌートⅠ世がトームペア城を訪れてフリードと雑談をしている。ルイ・カーンはこの二人が居る会見の間に通された。
「ルイ・カーン伯爵さま、中にはクヌートⅠ世侯爵さまがお出でになられありますのでご留意ください。」
「そのクヌートⅠ世さまは、王家の家系なのでしょうか?」
「ご本人さまはそう名乗られてありますが……。」
「ありがとう良く分かった。注意してかかります。」
「では、中に、」
「コン・コン・コン。」
「おう入れ。」
「失礼いたします。ルイ・カーン伯爵さまをご案内いたしました。」
「フリードさま。クヌートⅠ世さま、初めまして、ルイ・カーンと申します。よろしくお願いします。」
「おう、おぬしがかの有名な伯爵か。……どこかで会わなかったか?」
「いいえ初めてでございます。私が侯爵さまとお会いできるはずはございません。」
「まぁ、それもそうだが。」
「フリード、この伯爵を抱き込みたいのか?」
「そうだ、この成金にエサを与えて中央に橋を架けたいのだよ。俺ら二人では貴奴(エーリクⅣ世)に警戒されるからの。こやつを隠れ蓑に使うのさ。」
クヌートⅠ世とルイ・カーン。
「ルイ・カーン。お前は金が稼げればそれでいいのか?」
「いいえ、私は今の王家を潰したくて、はらわたを煮立てております。」
「ほほう、これは意な事を言うのだな。」
「はい、意に叶うのでしたらこの私をお使い下さい。なんなりと、いいえ十分な働きをお見せいたします。」
「これは頼もしい。して、今は何を望む。」
「はい、王家の動向と裏に隠れています、あの方の情報が欲しいのです。」
「魔女・マティルダの??」
「いいえ、もう一人隠れた人物が居ります。マティルダさまはその手先だと思いますが、違いましたか!」
「ルイ・カーン。お前はどこまで知っているのだ。俺は知らぬぞ。」
「はい、昨年まで追い回されましてこの地に逃れてまいりました。当時の魔女たちと共にマティルダさまもあの方の”と、いう言い方をされておりましたが。」
「あの方??」
「はい、それ以上は存じません。それとマティルダさまは今何処に?」
「スウェーデンだと思われるが、フリード。どうだい。」
フリードとルイ・カーン。
「俺の計画が成就した暁には逃げ延びる国だ。マティルダさまに付いて行き、スウェーデンの貴族になるのだ。」
「フリードさま、マティルダさまは魔女ではないのですか?」
「いや違うぞ。ブランデンブルグから嫁いできた立派な姫君だが。」
「はい、そのマティルダさまとは面識がございますが、もう一人の魔女マティルダさまには、すれ違った程度でございますれば、まったく素性も実情も存じないのでございます。」
「その魔女のマティルダが、お前の敵なのか?」
「はい、たぶん半分なのでしょう。あの方を調べたくて王室の実情を知りたいのでございます。」
「お父さま!!」
「おうキティ、来たか。黒猫が届いたぞ。……ほれ、早く寄越せ。」
「ほら、ルンルン、お姫さまの元に行きなさい。」
「ニャン!」
「ニャン! じゃない。行きなさい。」
「ニャ~ン。」
と黒猫はお姫さまに抱かれた。
「キティ、父は今大事な話をしている。部屋に戻りなさい。」
「はいお父様。」
キティは退室したのでルイ・カーンはフリードに尋ねた。
「フリードさま、キティ御嬢様には先の会話が聞かれたと思いますが?」
「まだ小娘だ、心配は要らぬ。」
「ならばよろしいのですが、私は心配でなりません。」
「どうしてだ? ワシの娘が、魔女マティルダの手先だというのか?」
「はい、どうして魔女のアイテムの黒猫を愛するのでしょうか?」
「あれも魔女の家系だ、本当だ、心配は要らぬ。」
「へっ!」
「ところで、こちらでは白い三毛猫を飼っておられましたでしょうか。」
「三毛猫は随分前に居たような気もするが、最近は知らぬぞ。妃の猫がそうだったかもしれないが、それが?」
「はい、前回お伺いした時に見かけたような気がしただけでございます。」
「魔女は白とか三毛は使わぬだろう。」
「お妃様はどうして白を?」
「ただの気まぐれだろうて。」
「ありがとうございました。」
シン・ティは些細なことで両親が殺されたと言う。これは領主のフリードではなく、妻の魔女が殺した事になる。フリードには奴隷を殺して喜ぶ性癖は無いようだ。悪いことを画策する男に奴隷への些細な感情はあり得ない。
ベギーはこの妃から三毛猫に変えられていた。しかしどうやって逃げ出せたのかは不明。ルイ・カーンはこの妃とも会いたいと思うも、
「藪蛇だったらな~。」
と有もしない先の事で憂える。
*三者三様
フリード、クヌート1世、ルイ・カーン。
ルイ・カーンはこの二人を相手に引けを取らない。(早く二人の性格と計画を知らねば。)と焦る気持ちが先に出る。
クヌートⅠ世とルイ・カーン。
「クヌートさま、名案がございません。」
「そうか、ここに来てネタが切れたのだな。では新しいネタだ!」
「はいクヌートさま、お願いします。」
「あの魔女マティルダは、ゴットランド島に居るようだ、何かこころあたりがあるだろうか。」
「えぇ……ゴットランド島でございますか。随分と訪れた事がありません。なぜでしょうか。」
ゴットランド島はバルト海に浮かぶ小島。魔女マティルダがゴットランド島を狙う意味は解らない。
「あれは、あの島を自分の物にしようと思っているらしいのだ。どうだ驚いたか、驚いたと言え。」
「はい十分に驚きました。きっと教会や修道院を建立されて住んでおられるのでしょうね。???……。」
「あの魔女が修道院に? あり得ない。」
「花嫁修業なのでしょう、私は大人しい可愛い女です、と言うのでしょうね。」
「はは、それは面白い、愉快だぞ。」
ルイ・カーンが西の方に気を感じていたが、おそらくゴットランド島がそうなのだろうと考えた。
「クヌートさま、ゴットランド島には何か伝手がございませんでしょうか?」
「あれが金を欲していたのは修道院の建設だったのか。そうだな、行けば嫌うだろうからどうしたものか。」
「私が寄付に出向いても……よろしいですが?。」
フリードとルイ・カーン。
「ルイ・カーン。それは名案じゃ。すぐに行け、今から発て。」
「そんな、急には出来ません。」
「船ならば国の船を出すぞ、どうだ!」
「そ、それは嬉しい限りでございます。傭船で向かうよりも国賓扱いがゴットランド島では優位に働けましょう。」
「そうか、国賓待遇か。クヌート、おぬしも行け。」
都合が悪いのか、ルイ・カーンは慌ててクヌートの言葉を遮る。
「あ、いえいえ、ここは私と従者でまいります。帰宅がいつになるのかが見当がつきません。」
「ルイ・カーン。ウソも下手だな。ここはお前に任せる。して、俺らは何を用意したらよいのだ?」
「はい、修道服とデンマーク国の金貨でございます。この金貨は私では用意が難しゅうございます。私の金貨と交換という事でご用意をお願いします。」
「イカほどだ!」
「手の指、八本の八百枚です。」
「足の数ほど必要か、十本を用意する。お前も一千枚を持って参れ!」
「はい、明日に持参いたします。それと、私の出立には三日は必要でございますれば、」
「あい分かった、こちらからはペールを出す。これで良いか?」
「はい十分でございます。」
「ペールはとても利口な男だ、きっと役に立つだろう。」
「重ねてありがとうございます。」
翌日、
「あっは~んフリードさま。金貨が二百枚不足でございます。」
「良く数えろ、足の十本だ!」
「はい確かに、足の数、受領いたしました。」
「領収書を頼む。足十本だ!」
「へっ?」
「今日は足十本”だ、そう書けばよろしい。」
(ピーナッツ八個はこのフリードだったのか~そうか~!)と領収書の一枚の相手が分かった。
「ではペールさまをお借りいたします。」
「あぁ、しっかりとな。」
「はい、ありがとうございました。」
ルイ・カーンはゴットランド島へ乗込むと決めた。