第137部 第一回 聖ドミニコ祭
ルイ・カーンは敗北して船に戻り、
「七月の二十日から八月の十日まで琥珀の出店・露店を出す。そこで今回の琥珀を大量に売り出す事に決めた。」
「伯爵さま、これのどこが大量なのです?」
木箱が一つだった。それも小さい木箱が!
「では琥珀はどうするのだ。」
「熱して溶かします。それに亜麻仁油を混ぜて琥珀ニスとしてコーパルに塗ります。コーパルの表面が琥珀になればいいのです。」
「おう、お前には名誉職を与える。褒美はなにがいい。」
「嫁っ子です! ニスを塗って磨きます。」
「あ、・・?」……「ほにゃ!」
の続きを開始しなくては。VSグラマリナ。
エストニアの館と三軒のパブは全面休業の張り紙がある。伯爵は留守の不安もあるので便利屋さんに依頼した。だがその実。
「ギルド長、すまないがグダニスクに行く。ついては留守番を頼む。」
「伯爵さま、お任せ下さい。無事に守ってみせます。」
意味が通じない。伯爵が出て行ってからギルド長は張り紙を下して勝手にパブの営業を始めていた。残っている地元の女将とメイドを集めて開店した。エストニアに行ったメイドたちは全員が教会から買われた孤児たち。
やや大きめの船が三艘と? たくさんの荷物が積み込まれている。一番大きいのは汐クジラが二つ?? 他は日持ちするような黒パンやワクスやビールの類。
1247年7月20日 ポーランド・グダニスク
*)第一回 聖ドミニコ祭
オレグ商会も無事に春のライ麦の出荷を終えた頃。グダニスクに奇妙な張り紙が街中に溢れていた。六月の初めごろには存在していたというが。それが七月に入ると溢れ出していた。
「第一回 聖ドミニコ祭。」
グダニスクで琥珀の大売出し。
琥珀の露店が多数出店。焼肉の出店も多数!!
あなたも、琥珀を買つてセレブになりませんか!!
安いよ、安いよ、一個がたったの銀貨一枚だよ!!
○ ○ ○ ○グダニスク司教さま、承認!!○ ○ ○ ○
三人の男が手当たり次第に街の家に張っていく。住民は見つけ次第に剥すも直ぐに別の場所に張られていく。この時代には紙は無いのだが……。
あまりの多さにこの張り紙も市民権を得た。教会に多大な寄付が寄せられたという。
1247年6月10日 ポーランド・グダニスク
この張り紙を見たデーヴィッドは数枚の紙を持ってトチェフへ走った。
トチェフの館に靴音がせわしく響く。
「ウグイス張りですわ! とうとう琥珀に日の目が……。」
デーヴィッドが廊下を走る音が響き、グラマリナの読み通りにその日が来る。
「万々歳ですわ!」
息せき切ってデーヴィッドがグラマリナの部屋になだれ込んだ。
「? デーヴィッドどうしましたか?」
「……。ハァハァ!……。」
「はいはい、これを飲んで!」
白い液体は、
「これはアリスさまのミルクです。」
「いいえ牛さんです、いいやヤギかしら。」
「はいグラマリナさま。大変です。この紙を見て下さい。」
「これはなんですか、」
表情が変わらない。大物へと成長したか、グラマリナ。
「はい、グラマリナさまが待ち望んだ琥珀の蚤の市ですが?」
「デーヴィッド。どこが蚤の市ですか、あ? あん??」
「ですから、その琥珀の露店売り?? グラマリナさま、それは裏面ですが?」
「まぁ私としたことが、まぁ、まぁ、どうしまひょ!」
「オレグ、ウォンテッド!!!!!」
裏面の文字を見て今度はデーヴィッドが大声を出して驚いた。
「? デーヴィッドどうしましたか?」
「そ、それは、オレグさんの手配書!」
「ですね、それがどうしました?」
「グラマリナさまは、それを見て驚かないのですか?」
「どうしてですの? これは私が! あ、本当ですね、すっかり忘れていました。昨年の手配書ですわ。」
「昨年の? 私が知らない間に……こんな……。」
「でもどうしてかしら、迎賓館の倉庫に収納しておりましたのに?」
「この紙は新しいですよお館さま、また隠れてなにかしてありましたね?」
「いいえ私は、な、なにも、そう何も知りませんわ!」
三人の男がたまたま見つけて盗んでいった手配書。
「魔力! ブラック・スモーク!!」
「グラマリナさま、私の頭が黒ずんでまいりました。外の風に当たってきます。」
「はいはいお大事に!」
グラマリナの魔法が発動した。
「私、今、なにか口走ったようですが、なにを? まぁ、なんででしょうか??」
これがグラマリアの恥じらいの言葉なのだろう。時期に恥じらいも無くなる。
*)帆掛けの曳航船と漁火
曳航される無人の船。伯爵が奇妙な仕掛けを施していた。帆は魚網でとても風を受けて進むものではなかった。夕方近くになり伯爵が、
「誰か、あの船にこの灯火を掛けてきてくれないかな。」
「どの男にその灯火を持たせましょうか。」
「あれに持たせたらどうだ?」
「あれでは解らん。」
「この男はだめだ、海に投げてエサにしよう。」
「は~い!」
この男は海に入れられて無事に曳航船に上がり漁火の灯具を曳航船に飾った。
「お~い、灯火は出来るだけ高くにな~!」
「お~い、右だ、もっと右。」
「いや~、左だもっと左!」
何が右で何が右なのだろう。
「バカ言え! 帆は左に傾けろ!」
「だから漁火は右だ。」
翌朝、
「お前、あの船に行って魚を持ってこい。」
「伯爵さま、どの船に魚を積みました?」
「いや俺はどの船にも積ませてはいないが、あの船にはもう満載だろう。」
「伯爵、どこに魚が自らマナ板に載るのでしょうか?」
「だったらお前。名指しだ、あの船からたくさんのトビウオを箱に入れて持って来い。」
「どこに飛んで灯に入る魚がいますか!」
「あは~ん、そこには居るのだよ?」
「わ~ん!! 大漁だわ~ん。」
「ワルス、刺身にしてくれ、サワ、吸い物にな。」
あの女が気に入らないサワ。膨れたままだ。
「おいサワ。この腹の膨れた魚はなんだ?」
「はいクサふぐというらしいです、ねこまんまのえさに作りました。」
「それを俺に食わせるのかい?」
伯爵はサワの頭が壊れている事に気づいた。ねこまんまのえさとは、主語が省略されているだけだから意味は通じるが、サワの気持ちは通じない。
「ワルス、お前らは下船だ、あの村に下す荷物と一緒にな。」
「伯爵さまお許し下さい。サワが伯爵さまに毒を盛ったとか!」
「そうだ、お椀にてんこ盛りだったぞ。だいたい一口食べたらしびれるのだぞ。どうしてだい。」
「あ、あれはカノトフグです。煮物に入れると美味しいです。」
「カナト!」
「フグです。」
「お前らは名前を変えろ、カナとフグでいい。」
シンテイとキルケーはお腹を上にして大笑いに興じた。伯爵は怒り、
「お前らも悪いんだ、二人には曳航船に乗り魚を開いて帆に干してこい。」
「キルケー、出来た干物は異次元の氷の世界に収納しておけ。」
この二人も膨れてしまう。
伯爵の機嫌の悪くなったのはフグのサワの所為だ、という事で、女たちは一致団結。サワ夫婦はキルケーによりハープルサルへ瞬時に下された。それも一日も早めにだ。港を出て十二時間も経ってはいないだろう。
「キルケー荷物も投下したのならば、ハープルサルのでかいクマの女をこの船に乗せてくれないか。あの木箱と一緒にな!」
「はい、コーパルは戦争の玉ですもの。残らず積んでみせます。」
木箱は二百ケース。コーパルは六十個入りで合計が一万二千個? もの凄い数にまで膨れていた。サワがコーパル職人に妻を六人も当てたのだ、いい仕事をしているのだろう。女たち六人は、せっせと玉を磨いたとい事がでかいクマ女により報告された。男の職人はすっかり玉抜きにされて、仕事が出来なくなったとも??
「もう、男は要らないな!」
トビウオ漁は全航海中続いた。
リリーとソフィアの会話。
「お姉さま、胸のペンダント。水色の宝石が光らなくなりました。」
「そうね、代わりなのかな、黄色が光だしたわ。」
*)水車小屋のデーヴィッドは行方不明に!
気が抜けたようなデーヴィッドは足が向くまま水車小屋に来ていた。
「ガタっ、」
「誰だ!!」
「ニャン!!」
「にゃんか、お前も独りなのか?」
「いいえ、デーヴィッドさまをお待ちしておりました。」
「ぎえ”~! 黒猫が喋ったぁ~~~!!」
「捕獲!! 完了!」
「ぎえ”~! 捕まった~~~!!」
「キティ、捕獲はできたわね。」
「はい、アイネ。用意万端だよ。」
「ではバラのお花も……そうね十五本でいいわ。」
「口で茎を折るのが大変なんだぞ。そんなの出来るか!」
「バカね~まだ何にも言っていないでしょう。キティ、バラの花を二十輪、至急用意なさい。」
「ほら、だろう! しかも増えているし。アイネはどうするの?」
「うんデーヴィッドをオレグに造り変えるのよ。もうすぐグダニスクに着く頃なのよね。面白いと思わない?」
「思わない。趣味が悪いね。」
「悪いね~今頃気づいたのかしら?」
「いいや前世からだね。でも、デーヴィッドの代役はどうするのかしら?」
「服は要らないから、川に捨てておくわ。」
「入水にしちゃうの?」
「そうね、水車の歯車に入れてもいいわね。」
「お、ぉ、俺は殺される~!」
という差し話は先に進めないので止めます。将来のヒントに残す事にいたしました。次は、伯爵の出番。
*)ブリリアントカットのコーパルに鑑定書付
ブリリアントの意味はさんさんと輝く、目にもあざやかな、という意味です。ダイヤのカットの名前にもついています。原石を磨いただけでなくいろんな形に加工した宝石ですね。
光り輝くコーパルの粒。一番見とれたのはキルケーではなくて、
「これ、キルケーさまの瞳と同じ赤だわ。」
「そうね、私と同じくとても綺麗だわ!」
シンティとキルケー。キャッアイを見つけて言っているのだろう。猫は光輝く物に目が無い。伯爵が紙に書いた形に、あのでかいクマ女が形の近い石を見つけて加工したものだった。丸やダイヤ、ハートもあるし、ひし形に三角形。等々。これらには金属のキラキラした鎖が付けられ、ネックレスや指輪にも加工されていた。コーパルの単石よりも、これらの装飾金物加工の方が高価で取引される。
ラウンド・ブリリアント・カット。エメラルド・カット。スター・カット。バリオン・カット。オーバル・ブリリアント・カット。サンフラワー・カット。他にもダイヤモンドのブリリアント・カットがある。
これらは単石で並べてその輝きで金額を決めている。これを二十個三十個と並べたら単品の琥珀よりもはるかに輝いて見えるというものだ。宝石店でダイヤの指輪を買った。当然鑑定書がついてきた。ダイヤと鑑定書の金額が同じなのだ。鑑定書が無ければダイヤの金額は半額の価値しかない、と言われたのだから同等の金額になる、はず。これは誤った解釈だろうか。
伯爵が考えたのがまさしくこの鑑定書なのだった。羊の毛皮(羊皮紙)に色や大きさや形、価格を記入して尚且つ教会の紋章の印まで押していた。この羊皮紙と教会の印がコーパルと同等かそれ以上に価値のあるものだった。
街の者は見たことも聞いたこともない。言われなければ気づかない、教会の紋章の意味。琥珀と鑑定書があれば表示価格で売買を約束されたような意味を持つ。しかし売る方は表示の金額よりも安くはなるだろうがそれはそれ。
「この琥珀、鑑定書がついて倍のお値段なのかしら?!」
「聖ドミニコ祭が終わっても、鑑定書の金額で買い取るよ!」
と言いながら売り込んでいる。一般の琥珀の相場よりも少し高いが、じわじわと売れていくのだった。伯爵のコーパルの鑑定書付は、元が元だから琥珀と比較して琥珀の二~三割増しで売られる。
一人の貴族の婦人か、マドモアゼルが露店に顔を出す。
「まぁ~この琥珀は青くて綺麗だわ~!」
これはエメラルドなのだが区別は判らない。
「おう、そこの綺麗なマドワセル。いかがですか?」
「まぁ~マドモアゼルなんて、初めて呼ばれましたわ!」
ただの惑わせる”なのだが、フランス語みたいな発音で言うから聞き分けは出来ない。最初はエストニアのメイドがさくらになって買うので、時期にこの鑑定書も認知されていく。
「ねぇ、この鑑定書付の琥珀を買って下さらないかしら、そこの赤が急に欲しくなったのよね。……オ・ネ・ガ・イ!!」
「御嬢さん、今日も買い物かい? いつもお世話になっているんだ、鑑定書の金額で買い取らせてもらうぜ!」
「ありがと! また明日も来るからね!」
「おいおい、赤の琥珀はどうすんだい。」
「だから明日にね!」
こういった売買の所を見れば、俺も、私も、となる訳だ。
別名、ウィンザー効果、という。他人の言葉が信憑性を持つ。今のネットのように他人が発信した情報は信頼されていく、実にバカげていると思う。商品の評価レビューがそれに値するが、残念ながらこれもさくらが横行している。
「私、鑑定書付の琥珀を買っているから損はしないわ。」
「そうなのよね。同じ価格で買い戻してくれるから助かるわ~!」
「そうそう、急に目移りしても安心なのよね~。」
「だから、私たち鑑定書付なのよ!」x3
「ネ~ちゃんの鑑定書は胸かい? それとも尻かな!」
「まぁお下品な! 失礼しちゃう。」
「作りおっぱいだろう? 形を作った琥珀と同じじゃね~かい?」
「まぁ……そうかもしれないわ……。」
「キルケーさん、もっと大きく作って頂戴。またしても小さくてバカにされましたわ!」
「そうね、お腹のお肉か二の腕のお肉を使うわね。」
「バン!バン!」「バン!バン!」「バン!バン!」
「これでいいわ。」
「わ~大きい、ありがとうキルケーさま!」x3
羊皮紙というのがシンティがお国で作られているから作ったまでの事。使い方は未定だった。この羊皮紙の利用方法を伯爵が考えた。インクは魔女のキルケーが。ルイ・カーンが考えた事だ、大方、一年で文字は消えるのだろう。
キルケーはとてもいい内職を考えた。
「旦那さま、今日はこれでお休みさせて頂きます。私、やりたい仕事が見つかりましたのですよ、オホホ……。」
「それもいいが、あまりデカいと肩こりが酷くなるから注意しろよ。」
「女は見栄だから、肩こりは我慢する生き物なのよ。心配は要りません。」
「女はそんなにデカい胸を好むのか?」
「はいそうでございますわ。」
キルケーのテントの看板には、
「貴女の胸、大きくしてあげます。金貨・一枚でお望みの大きさに作ります。」
大入りの大繁盛”となった。
伯爵は出番が無かった。次はグラマリナか。
*)荷馬車とコーパルとエレナのドレス
グラマリナは伯爵と違い荷馬車による移動販売を行った。荷馬車には木を斜めに立てて三角形の飾り棚を作った。これに木箱を張り付けて琥珀を並べたのだ。広い面積に光るコーパル。だれもが琥珀だと思い込む。グラマリナには伯爵のような知恵は無かった。在るのはエレナの綺麗な看板娘だけ。
「エレナ、笑顔で釣るのよ、命令よ、戦争だわ!」
「はいお館さま。私が一千個は売ってみせます。」
「よろしく頼むわね。残り……は、」
「はいお館さま、ソワレが売ってみせます、五百個ですが。」
「んまぁ、すると……。」
「お館さまが……ですわ!」x2
荷馬車は大繁盛だ! 金髪の頭が切れることがなかった。次こそ伯爵が、
*)クジラの山
汐クジラのはちみつ焼き。串に一口サイズの肉が三個。これを大銅貨(500円)一枚で販売している屋台が出ていた。ワクスとビールが銅貨一枚と銅貨三枚。これは珍しい食べ物だけあって人が集まるが、クレームがついた。
「おいおいここでクジラの販売はデーヴィッド商会だけなんだぞ。」
「おう兄ちゃん。そんな事は通らないぜ。こちとら生活が懸かっているんだ、今更中止できるか!」
「ならばこの独占販売の許可証があるんだ、これがそうだ。見てみろ!」
デーヴィッドが見せた許可証にはルイ・カーンの印が押されていた。
「はい承知いたしました。ここはクジラを持って帰りまして、伯爵さまに怒られておきます。」
「いやいやここに置いていけ。これらは俺が全部売ってやる。」
「はい五百貫で銅貨・二千枚、金貨で二枚です。」
デーヴィッドには金貨二枚とかなんでもないが、
「デーヴィッドさま、船にはこの二十倍の肉がございます。」
「えぇ!! 二十倍?」
「はい五百貫x二十倍=金貨四十枚です、お安いでしょう?」
「分かった、全部下してくれ、買い取る。」
「ありがとうございます。はちみつが五百貫、金貨百五十枚でございます。」
「う、うううぅぅぅ……。」
相場の金額なのだが焼肉用に水で二倍に薄めたはちみつ。デーヴィッドは嵌められたのだった。クジラがまるまるの二尾が、曳航されていた。
「あんた、またポカかいな。」
「エルザ、すまん。」
「もう、あたいが全部売ってやるよ。」
エルザは蜂蜜に胡椒を混ぜて焼き上げた。バカ美味! クジラの甘辛胡椒焼きはグダニスクの名物料理にまでなった。結果、大儲けに繋がった。伯爵の読み通りの展開になる。(クジラには注意されませんようにお願いします。)
「でだ、ルイ・カーン伯爵はどこに居るのだ?」
「んな人は居ません。居るはずがありませんよ。」
「へぇ? どうしてだ!」
ルイ・カーンはこの祭りのグダニスクでは顔を出せない。
「さぁ、どうしてですかね~。」
*)青い房のブドウの樹
ルイ・カーンはトチェフ村のブドウ畑の視察に来ていた。ブドウの樹の成長がとても気がかりだったのだ。
「キルケー農園の後ろに跳んでくれないか。見つかると困るからさ、ね!」
「もう旦那さまは、お忍びしなくても堂々と正面から視察すればいいのでしょうに。私が魔法で顔を変えてあげますわ。」
「できるのかい?」
「えぇ任せなさい。お好みの顔は?」
「童顔で頼む。」
「プッ、ブッハッハ~!! 伯爵さまに童顔は似合いません。白髪の金持ちの老紳士が女には一番モテるのですよ。」
「なんでだ?」
「ハンサムで若い男は大概がビンボーな男なのですよ。だから色目を向けられても女は靡きません。」
「そういうものか、だったら中間で頼む。」
「では、私の好みでいいですね?」
「黒犬はごめんだ。気が狂う。」
「犬にはしませんよ。私が乗る馬ですわ!」
「むむムム……馬鹿にするな!」
六月も中旬になる。ブドウは綺麗な緑の房を多数実らせてぶら下がっている。
「マスカットのようだな、とても綺麗だ。」
「そうですわね……。」
「キルケーには分からないか。」
「えぇそうね。私に判別できるのは男の顔だけなのよ。他に取り柄がなくて惨めだわ!」
ブドウの房は見れば見るほど目に入ってくる。遠目には葉の色と変わらないから最初に見えた時は、実りがないのかと心配したのだ。
「う~ん満足だ。これが俺の夢なのかな。」
「違うでしょう。まだまだ大きい事業が残っていますでしょ?」
今年のブドウの生産調整の伝令が飛んだ。多数の大きい実の房は少なくしろ。代わりに二級品や三級品を作りなさい。今年は高価な房は売れないのだという。コロナで消費が見込めない、お中元として出しても売れないのだから、個人の自宅用に低価格品を作れ”というのだ。もちろん私はスーパーの百九十八円を買うだけだ。
四十粒程度だが年に一度のおご馳走?? なのだ。近くの山に入れば多数栽培されていて夜に行けば食べ放題?! 栽培農家が多い地域に住んでいる。通りすがりに眺めるのが毎日なのか。」
この日、ルイ・カーンは農場から離れなかった。
「俺の小さな夢だ。もっと大きく咲かせたい。」
アイスワインだけでは物足りない。しかし職人でもないルイ・カーンには考えることは出来ない。知識が無いのだからどうしようもない。
「ジエチレングリコールを混ぜるか!」
ここはドイツではない。ロシアでもない。ポーランドだ。国は関係ないか。不凍液を少し混ぜるととても美味しい。
緑の大きい実。八月には摘果されて市場に出て行く。感慨深く見ていたら虫が飛来して実を突いている。
「液を吸っているのか! こいつ、……。」
実を見てみると小さな傷が目に止まる。この傷が在る実は大きくなっていない。それがここにもあそこにも在る。
「これは虫を防ぐ必要があるな、しかし……どうやって。」
「人みたいに、服を着せればいいのです。」
「あ~?? 服?? なんだ、それ!」
「はい服ですよ、出来るでしょう?」
「おう判ったぜ、キルケーありがとうな。早速指示をだす……?」
「はい旦那さまは今、行方不明なのでございます。ここは私に任せて下さいな。魔法で農夫に伝授させますわ。」
「すぐに頼む。虫は早めに除外しないといけないな。」
「農婦を多数雇用することになりますが、よろしいですね?」
「おう構わん。ギュンターに指示して……。」
「それも私が?」
「なんだ、キルケーは金持ち老人に弱いのか。」
「いいえ、嫌いなだけです。」
「さっき言った言葉と違うのだな、どうしてだ。」
「昔男だったのでしょう? 今は枯れております!!」
「そういうのもか?!?」
トチェフの村中の布や服が集められてある一定の大きさに裁断されていく。この布でブドウの房を丁寧に包んでいく。気が遠くなる作業に女たちはめまいを起こすのだった。
「麻布を大量に作らせる必要が出たな、ギュンターに……。」
「はい伯爵さま、まだ行方不明のままです。村に帰りますか?」
「いやまだ帰れぬ。あの三人と他を助けるまでは、な。」
このころにゾフィが一人で脱走していた。
「お姉さま、ゾフィは上手く逃げたかしら。」
「はい、きっと逃げていますわ。それと宝石がどれも光っていませんわ。」
「ほんとですね、あんなにたくさん光っていましたのに不思議です。」
第一回、聖ドミニコ祭の勝敗は、ルイ・カーンの工夫とコーパルの形の加工でグラマリナに大きく差をつけて勝った。グラマリナは苦戦を強いられて値引きを起こしたからか、その後の価格が低迷していった。
グラマリナは購入価格の金貨の八百枚は超えるも、四百枚程度の利益しかなかったらしい。ルイ・カーンはグラマリナの八百枚とグダニスクでの売り上げの金貨四千枚を手にした。クジラの代金は別途だ。にんまりとしたのがエルザだった。解体中に、
「このクジラ! とても大きいわ!!」