第136部 トチェフ村の大きな水溜り
復活祭に合わせて日付は少し遡るがいよいよ水田の季節となった。水田では群れになったシラサギたちがエサを求めて歩いている。はぐれの個体も居る。場所により大多数でコロニーを作る。もうすぐしたら親鳥の数の三倍もの鳥が田んぼに集まり一緒にエサを摂り、やがて子供らは巣立っていく。
梅雨入り間近……マジか!
1247年4月25日 ポーランド・トチェフ村
*)オレグの目的と水路の建設
グラマリナはオレグが居ないので考えあぐねていた。これがエリアスには思いあぐねていいるように見えたのだ。考えと思いは意味が大きく異なる。
グラマリナの問題は、畑地に流した水溜りの件だった。オレグがビスワ川と自噴井戸から水路を作り、村の生活用水を確保したことから始まった。排水の当初の目的は畑地への灌漑用水だったはず。しかし、オレグは途中で増え続ける水の処理に広く畑地に流していたのだ。
グラマリナにはその行いが問題になるとは思えなかった。はいはいと排水を了承していた。ただエリアスの従者の時のデーヴィッドには将来の方向が示されていたのが幸いだった。
グラマリナが農民から尋ねられて考えだしたのだが、それから数日後にそのデーヴィッドが館を訪ねて来たから考えあぐねていた件を話した。
「ねぇデーヴィッド、庭先の水溜りはどうにかならないかしら。」
「娘さんのいい遊び場ですが……? あぁ、排水先の畑地の大きな水溜まりの事ですね。あれはもういいかもしれません。次の畑地に切り替えましょうか。」
「どういう事かしら、私に説明してください。」
「はい、これはのちには水路を建設して、ビスワ川に流してしまう計画でした。」
「えぇそうですね。そうしないといけません。ですがドイツ騎士団の侵攻の防衛には大きく役に立ちました。」
「あれはとても良かったですよ。幾分でも防備が楽にできました。え~とグラマリナさまは、あの池の目的はご存じないのですね。」
「考えあぐねるとは、問題を解決したいとあれこれ考えていることです。」
「おいおいグラマリナは水溜りの利用方法が多数あるから、どうしよかな~と、金貨に換わる方法はどれがいいかな~、と思いあぐねていたのじゃないのかい?」
とエリアスが割って入る。
「んな訳はありません。馬や牛が水飲みに来るのならばいいのですが、豚が来て糞をしますから汚くていけません。」
「グラマリナさま、オレグさんの目的はそれなんです。豚のフン!」
「まぁどうしてですの? 私には理解できません。」
「はい今年には造りかけの水路を完成させましょうか。追加の工事で次の畑地に排水を送ります。次も同じ水溜りを作ります。」
「また豚さんの遊び場にするのですか?」
「そこは同じようにそうなりますね。でも今の水溜りは水が無くなり肥沃な畑地に変わるのですよ。グラマリナさま? 肥えた土地でしたらライ麦はどうなりますでしょうか?」
「はい、たくさんの麦穂が出来ます。そうたくさんの麦穂が!」
「ですから収穫が2倍にでもなります。」
「いいえ豚の糞ではせいぜい一,五倍です。それがどうして二倍になりますか? 同じ糞ですよ?」
「水です。水が養分を運んで土に恩恵を与えるのです、私たちの排水にはいろんな肥料になるものが溶けています。これも畑地に撒くように施肥ができるのです。」
「んまぁ……そうなんですか。水にそんな力と使い道が有るなんて!」
「そうです、オレグさまは途中で気づかれたのでしょう。あのまま水を送り続ければのちには肥沃な土に変わるとですね。」
「ほほう、オレグは先の事を考えていい仕事をしますね~。」
「エリアスさま、これはエリアスさまが招いた大きい富でございます。どこの駄犬の骨とも分からない男を採用された、エリアスさまこそ先見の明があったのです。」
「デーヴィッド、それはほめ過ぎです。エリアスはただ単にオレグの口車に乗っただけですよ。それにオレグに対してはけなし過ぎです!」
「奥様、それは言い過ぎです。グラマリナさまこそオレグさまに絆されてお嫁にきたのではありませんか。それもこれもエリアスさまがグラマリナさまを見初めた慧眼でございます。」
「エリアス、あなたは私に一目ぼれをしたのでしょう?」
「いやいや、グラマリナが俺に惚れたのだろう?」
「なにを言われますか、エリアスはエルザを?……あれ?? れれ……。??」
「ゴホン、ここは痴話ではありませんね。」
分が悪いと感じたグラマリナは話を切った。エリアスは今でもエルザを好きだと思える時があるのだった。
「デーヴィッド、排水溝の工事内容は解るのでしょうか?」
「はい、樋を通す経路は分かりますが、農民に工事の指示や監督は出来ません。その内容は……そうソワレさんにお教えいたします、以後の工事はソワレさんにやらせて下さい。」
「そうですか、賦役としてライ麦の収穫の後に行わせましょう。」
「デーヴィッド、他にオレグの指示はありましたか?」
「はい、とても重要な事を言われてありました。」
「して、どのような?」
「はい、復活祭です。ここトチェフ村でも復活祭を行うべきだと、言っておられました。」
「復活祭はイマイチぴんと来ません。どうして復活祭なのでしょう?」
なんのことはない、デーヴィッドがグダニスクの復活祭でビールやワインを販売して、しこたま儲かったから復活祭の話を持ってきたのだ。オレグはな~んも関係ない。ただデーヴィッドが言うよりもオレグの名の元に! なのだ。
「はいトチェフ村でもキリスト教になびきませんと、東側の教会の侵入があるからな~と言う理由でございます。」
「グラマリナ、教会はドイツ騎士団よりも力、幅を利かすからやっかいだぞ。オレグがいう意味はうわべだけでもキリスト教を受け入れています、ということが見てとれればいいのだろう。だから復活祭を行うかなのだようよ。」
「エリアスさまそのとおりでございます。領主さまにおかれましても、教会の建設も視野に入れて下さい。小さくてもいいのですよ。」
「そうですねこの村には財がありませ~んと知らしめるためにも。」
「いや~グラマリナを尊敬するぞ。」
「東方教会の復活祭は今年は4月19日でございますれば、すでに……。」
「ですね、来年の2021年の 5月2日から始めましょうか。イベント会社のオレグが居ませんから今年のイベントは全部デーヴィッド商会が仕切って下さい。」
「グラマリナさまそれは出来ません。当商会はグダニスクで仕事をしている関係で、グダニスクから離れることはやはりできません。」
(グダニスクがより多く儲けられるからできません)というのが本音のデヴィッドである。口には出せる言葉ではない。
「そうですか、……とても残念です。オレグが居ないと不便ですね。」
「そうですね、村長はいますが金も地位も与えていませんからさせる事ができません。この村に新しい商会を作りますか?」
「おいおい、いい人材を忘れていないか?」
「あ~ぁ、あの人ですね。」
「おうそうだとも、あの爺だよ。」
「爺さんですか?」
「グラマリナ、ギュンターだよ、それにユゼフも居るし、ここはギュンターに頼んではどうだろうか。」
「エリアスさま、それはいいですね、名案です。オレグさんの顔も潰れませんし、オレグさんが帰られたらきっと喜ばれるでしょうか。」
「では今年は前祝で、今度の日曜日に復活祭をいたしましょう。」
「デーヴィッド、飲み会だけの復活祭ですが、出来ますでしょうか?」
「いいえギュンターさまに依頼されて下さい。若い私ではおこがましいかと存じます。いかがでしょうか。」
「はい承知いたしました。オレグのお金でぱ~~~っと開きましょう。」
「グラマリナ、お前はいつから悪になったんだい?」
「あ~らエリアスがそのような事を言うなんて! 賛成されますでしょう~?」
「……、……。」
「……。……、、、、、」
次の日曜日とグラマリナは言うのだが、次とは明日が日曜日なのだ。
デーヴィッドは、
「グラマリナさま、明日では早すぎます。」
「そうですね、ギュンターを呼んで頂戴。」
「はいお館さま。お呼びですね!」
どこからともなく湧いて出たギュンター。
「かくかく、しかじか、○書いてチョン!」
「グラマリナさま、承知いたしました。万事滞りなく進めます。」
1247年5月3日 ポーランド・トチェフ村
*)うわべだけの復活際
「ギュンター、急ぎの仕事でしたがよくこなしてくれました。」
「はいお館さま、これしきなんともございません。たくさんの支援金を頂いたからですね、物資の購入が早くできました。」
「いいえ、ギュンターがデーヴィッド商会から購入されたからです。デーヴィッドには色々と申しつけておりましたから、デーヴィッドもよく仕事を引き受けてくれました。ここには居りませんが。お礼を……。」
「お館さま、礼など言われるのはいけません。労うだけでよろしいのです。」
今の村の住人がどれくらいまで増えたのか、誰も知らない。
ボブ船長とシビルの二人が荷物の運搬を頑張ってくれた。それも往復だ! デーヴィッドがボブ船長を抱き込んだ。
「ボブ船長、工場からビールとワインとワクスを俺の倉庫に運んでくれないか。」
「おう任せな。でもよ、こんなにたくさんの酒が売れたのか?」
「そうだとも、トチェフ村の復活祭にだすんだ。」
「なんで運んでまた持って行くんだ、運ぶ必要はないだろう。」
「あぁそうだな。だが運ばないと俺の儲けにならないんだよ。だからさここは運んで協力してくれ!」
「いいぜ、俺も運んでなんぼの仕事をしているんだ、喜んで運ぶぞ。」
「荷物は船に載せたままでいいから、ちょろい儲け話だろう。」
「ああちょろいぜ!……ものすごくな!」
シビルが人足に指示を出していたが、疑問に思いボブに尋ねた。
「ボブ、この酒は船に載せなくていいのか? 港の倉庫に、本当に倉庫に運ばせるだけだな?」
「あぁ今回はそれでいい。船に載せてグダニスクと往復するだけだ、酒を積み込む必要がどこにある!」
「んだな、魔女を使ってオレグの倉庫から港の倉庫に運んでおくよ。」
「魔法で頼むよ、くれぐれも馭者には頼むなよ。」
「おうガッテンだ!」
復活祭に向けて多くの肉やソーセージ、卵、チーズが解禁されるのだ。トチェフでは普通に食べているがいまだに問題にはなっていない。グダニスクからの食品がオレグの冷凍・冷蔵の倉庫に運び込まれる。
お祭りや出し物、催し物の会場はこの倉庫の前と決まっている。
「村の全部の胃袋に入れるんだ、足りないでは申し訳ない。」
とグダニスクでデーヴィッドが言う。このようなまやかしにギュンターが気が付かないはずはない。デーヴィッドの行いがグラマリナの指示とばかりに思い込んでいた。
「姫さまにも困りました、お館さまが出す金もきっとオレグさまからピンハネされたお金でしょう。ここは我がお金を取り戻すのです、ユゼフさま! ナンボでも、そう悪い事をしてでもオレグさまのお金を取り戻しますぞ!」
「爺、分かっています。肉の箱には筋肉と皮、それに骨を入れて硬く箱を閉じております。どうせ開梱するのは私ですので任せて下さい。」
「だがユゼフさま、骨や皮は出せません。結果として良い肉を出すのですがどうするのです?」
「ギュンター、異なことを言うではないか。知っての通りの水増しします。」
「では伝票の数字も水を差すのですか?」
「はいもちろんです。ですがこれでも少なすぎる回収ですね。」
「そうですね、もっと多くの金を回収する方法がありませんか?」
「ソワレさんを抱き込んで、偽の伝票で支払いをして頂くとか。」
「それもありですがバレる確率が高いものです。ソワレさんには気づかれない方法でないと危険です。」
「なにか良い方法はないだろうか!」x2
二人は考えあぐねていた。伝票に水を掛けて文字を滲ませる。それでいいのか?
「あとは口八丁手八丁でございます。」
「爺は口が上手いからな~俺は手八丁口下手だし~伝票の改竄は得意だ。」
1247年6月29日 ポーランド・トチェフ村
*)エストニアからの依頼
「姫さま、大変でございます。あ、グラマリナさま!」
「ギュンターどうしました、血圧が上がりますわよ?」
「はいグラマリナさまには、エストニアにお顔が在りましたか?」
「いいえ生まれてからはこの顔よ。どうしたのかしら?」
「はい先ほど港に船が着きまして、そのう、船に満載できる食器を買いたいと来ているのでございます。」
「いいではありませんか、積んであげなさいよ。……? 出来ないのですか?」
「今はユゼフに交渉させております。出来ればご同行をお願いします。とてもハンサ、いや、精悍なお好みの、いや、とにかく。」
馬車に揺られてエリアスと愛娘の??(アリス)も一緒に乗っている。
「それがですね、ぜひ奥さまに直にお渡ししたい献上したい品があるので館に連れて行けと、わめいておるのでございます。」
「エストニアには親戚も知り合いの貴族もおりません。エリアスはどうなのですか? お父さまのご兄弟とかは?」
「いやまったく居ないはずだが、エストニア?……あれは今はデンマーク領だろう。開拓の真っ盛りだと思うが……?」
「そうでございますか、エリアスさま、そんな情報をどこから?」
「いや気にするな。大したことではないだろう。」
今日はどんよりとした曇天だ。
「いやなお天気ですわ。」
「そろそろ梅雨入りの時期ですね。」
「この国には梅雨はありません。年がら年中干からびております。」
北欧に限らず雨が少ない。山もない。雨が降らないから土地が太らない。大地に供給できる栄養素が流れてこないからだ。森を切り拓いて開拓しても麦を植える関係で土地はやせ細る一方だった。三圃農園が考え出されて少しは変わった。
水夫たちは豊かな農村を見て驚いたという。
「着きました、あれらが、??……。」
「まぁ宴会??」
「いいえあのどす黒いのが献上品らしいです。なんでも海の魚の肉の塩漬けだとか言っておりました。」
「はて? なんでしょうねエリアス?」
港の倉庫からワクスを運んできて塩抜きをしている。ビスワ川の水は綺麗に見えてもここは中流、いや下流に近い。どのようなバイ菌が混じっているとも解らない。なのに用水路で引いて洗濯に使っている。
この用水路には仕掛けが在って川から百mの所に沈殿池が設けられている。泥とごみがここで沈殿して取り除かれる。次も小石ばかりを敷き詰めた池を通している。ここでより小さいごみを濾し取るというのだ。水路にも小石が敷き詰められていた。たくさんのカワニナも生息している。だがカワニナは食うな”と言われている。
今は塩抜きが済んでワインに浸している。ワインのよい香りが漂っていた。ボブ船長らが近くで火を熾して焼肉用の網を焼いていた。そこで焼くのだろう。
「船長、お館さまをお連れいたしました。」
エストニアの船長はエリアスを見て次にグラマリナを見た。歩いて行く先は、
「これはお美しい奥さま、今日は足を運んで頂きありがとうございます。」
伯爵がこの船長を選んだのが良く分かる。グラマリナ好みのハンサムボーイ。グラマリナがうっとりとする様子が見てとれる。
「あはん、いや、これはなにをしていますのかしら?」
「はい海で獲れた大きい魚の塩漬けを調理するところでございます。トチェフ村でもこの肉を買って頂けないかと持参いたしました。これは調理の実演です。」
エリアスはこの調理の焼肉というのがあの男と良く似ていると思った。しかしエリアスの思考はそこまでであつた。グラマリナはもう匂いに釣られている、魅了されてしまっている。
ギュンターは、
「あちゃ~もう落ちてしまわれた。胃袋で物事を判断される事が直りませんですな~! エリアスさまは?」
エリアスも同感だった。愛娘に至ってはすでに指を咥えてしゃぶっていたのだ。
「遺伝とは恐ろしいです!」
すでにハンサムな船長にいいように料理されている。もうまな板に載った鯉も同然だ。ここには鯉の頭を殴る棍棒が無いだけだが?
ボブ船長が木の器を全員に配っているがエストニアの船員は断っている。それは当然なのかもしれない。
「この肉は皆さまへの献上品なれば、私どもは食することは出来ませぬ。」
「おう船長、遠慮するなよ、これは牛の肉のステーキだ。食べてくれ。」
ボブ船長は船員には牛の肉を、そして自分らトチェフの人間にはクジラの肉を配って回る。
「さぁお館さま!」
エストニアの船長はグラマリナの前に立ちそう言った。だが顔はエリアスに向けられていた。小賢しいのは伯爵の指示があるのだろう。
「まぁ~とても美味しそうだわ!」
「はい脂身の無い特上の肉でございます。プロテインの塊りでございます。」
「でしたら太らないの?」
「はい館まで歩いて帰られましたら、身も引き締まりましょう!」
「すてーき、だわ~!」
「??……?」
エリアスもギュンターも言葉が出ない。
「おお! この肉はとても美味しいです!!」
とエストニアの船長食い気も早い。続いてグラマリナも、
「わ~! この肉はとても美味しいです!!」
と同じことを言うのだった。
「エリアスさま、ここはアリスさまとお遊びになられて下さい。しっかりと夕方までは時間がかかりますでしょう。」
とユゼフがアリスを抱いてこの場から離れた。ユゼフに対してアリスは、両親の次に好きな人間だと思っている。
「アリスさま、水車小屋に行きましょう。あそこはくるくる回るおもちゃが在りますので面白いですよ。」
「ユゼフ、あそこはよしてくれないか。手を挟んでしまうよ。」
「そうですね、では屋外の製材所に!」
「ユゼフ、そこもよしてくれないか。腕が無くなるよ。」
「そうですね、では鍛冶屋に行きましょう!」
「ユゼフ、そこもよしてくれないか。服が燃えて無くなるよ。」
「では、ビスワ川に、」
「ユゼフ、そこもよしてくれないか。命が無くなるよ。」
「???……ですね。」
という間に試食会が済んでいた。
「グラマリナさま、伯爵さまのご推薦なればお気に召されたかと!」
「はい大変気に入りました。箱は全部置いて帰りなさい。」
「いえいえ、まだこちらの特産品の食器の購入がまだでございます。」
「そうでした、どれほどを購入希望でしょうか?」
「船に満載で! お願いします。」
必死で肉に食らいついてビールもすでに飲んでいるシビルが呼ばれた。
「なんだい、今いいところだったのにな。」
「シビル、この船に載るだけの食器の箱を運びなさい。」
「この船に……? 了解した。木箱で百二十箱程度でしょうね。おいギュンター百六十個は在るのかい?」
「おやおや増えているではありませぬか。二百個までは在庫がございます。本当に積みますか?」
「構うもんか、全部積んでしまえ!」
「ではシビルさま。オレグさまの倉庫から百箱をお願いします。」
「あいよ任せな!」
「ユゼフ、港の倉庫から積み込みの指示をお願いするよ。私は金の打ち合わせにはいるからね。」
「はいしっかりとお願いします。」
だがエストニアの船長は、
「木箱一つに銅貨、いや大銅貨三枚ですね。」
「いいえ大銅貨4枚に銅貨を8枚です。」
「それはお高い。大銅貨四枚に銅貨三枚、いや大銅貨四枚でお願いします。」
「これはこれは、そのお値段ではオレグ商会の利益がございませぬ。ここは大銅貨四枚に銅貨を、」
「ギュンターさま、クジラの肉の独占販売を了承いたしますので、ここは、」
「そうですか、で、クジラの肉のお値段は?」
「一貫で銅貨八枚でございます。」
「ふ~ん……牛よりも高いですな、ここは銅貨四枚です。余所では知りませんがこれが妥当でしょうか。」
「う~ん……銅貨五枚までならば、伯爵さまの了解が得られますでしょう。」
「その伯爵さまとは? いったい?」
「それは秘密でございます。」
「成金ですか? 四枚です!!」
「いいえエストニアには掛け替えのない大切な伯爵さまでございます。」
「そうですか……。では、クジラは銅貨で四枚。器は大銅貨で四枚で!」
「はい承知いたしました。ではクジラの肉が五百貫、一千八百七十五kございますがよろしいでしょうか?」
「五百貫で銅貨・二千枚、金貨で二枚ですな。」
(一貫=3.75k)
「どうです、お安いでしょう? 今後は時価でお願いします。」
「了承した。今後もお頼みいたします。」
ギュンターはその後がどうなろうとも、知った事ではないと了承したのだ。後には高い価格で買う羽目になる。この独占契約というのが、ポーランド国のすべてを含んでいたのだ。クジラを扱う所はまだ存在していなかった。
クジラの肉が次々と下されていく。小さい船だと見ていた船が浮き上がり今では大きな商船になっていた。
「こんな船でよくもビスワ川を遡上出来ましたね。」
「はい奥の手がございます。」
今度は木の器が二百ケースも積まれていくのだった。船は元のように沈んで小さく見えた。クジラが金貨二枚。食器が金貨で8枚。
お互いに、
「卸しだと、お安いですな~。」x2
小売りだと十倍にはなる。
「儲かってしょうがないですな~!」x2
「ここは、領主さまには内緒ですよ!」
「もちろんでございます。今後ともカーン商会をよろしく!」
「いいえオレグ商会をよろしく!」
「グラマリナさま、この後は会見の館で!」
「そうですわね、パブの別館に行きましょうか。」
エストニアの船長は小さな木箱を二つを持って行く。
「あのう、水夫も全員?」
「えぇお連れなさい。」
「はいありがとうございます。」
小さい木箱には琥珀と判別が困難なコーパルが収められていた。
小さな会見の家なのだがソワレとエレナが待機していた。グラマリナは奥の部屋に通させる。
「船長、いい仕事が出来ましたか?」
「はい、上々でございます。それで、もし上手く商談ができたのならば伯爵さまから、この木箱を二つ渡すように言われました。これをお納め下さい。」
「まぁ……なんでしょうか?」
「グラマリナ、それは受け取らない方が賢明と思うが?」
「エリアス、な~に大丈夫ですよ。商談は済んでおります。今更なにか覆るのでしょうか?」
「それもそうだな。グラマリナがいいのなら俺は何も言わない。」
「ありがとう存じます。」
と船長はエリアスに頭を下げるのだった。この男は船長なのだろうか。これらのやり取りが妙に板に付いている。この点がエリアスには気に食わない。
「まぁ、綺麗な琥珀ですわ~!」
グラマリナの両手で指折り数えられている。口で数えるのが憚られたのだろう。
「三十個ですか?」
「いいえ二段の六十個でございます。それも二つ。」
「まぁうれしい、二つも!」
「はい二つでございます。」
エリアスは細君が急に金の亡者に見えてきて、
「俺は館に帰る。後は知らぬ!」
とやや不機嫌になり帰っていった。それでもグラマリナの目の色に変化は変わらなかった、らしいのだ。
この密談はエストニア産のコーパルの商談になった。これは伯爵によるリベンジで七月二十日から八月十日までの蚤の市、露店に向けてのコーパルの供給が目的だった。一見しても琥珀にしか見えない。目を皿にしても琥珀にしか見えないのだ。欲の塊りのグラマリナには全てが琥珀なのだ。
「これらの琥珀を卸販売でございますので市価の半額にて販売いたします。いかがでしょうか? 個数にして五百個ですが。」
五百x銀貨4枚(二万)。金貨で二百枚。これは買いだと即決された。
「まだお持ちですか?」
「はいご希望でしたら、さらに一千五百個ございます。」
一千五百x銀貨四枚(六万)。金貨で六百枚。
「そうですか、金貨で八百枚ですね。」
(80,000,000)ルイ・カーンの損失が補てんされる。赤字は一億だが、旅費を含んでの一億だ。80,000,000もの金が手に入るのなら、一気に儲けになる。さらには、七月二十日から八月十日までの蚤の市でも、大儲けが約束されたのも同然だ。
「はい、喜んで買上げます。」
グラマリナは先の儲けの二億から八千万もの、金貨八百枚を差し出した。同時にこの家の金庫に二千個のコーパルが運び込まれた。検品は夜中では済まなかった。
「おうおう、今日はグラマリナは帰ってこないのだな~!」
金貨 銀貨 大銅貨 銅貨
100,000 10,000 1000 100