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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
133/257

第133部 腰の抜ける大きい街、グダニスク


「可愛い! とても綺麗だ!!」


 チャカは、


「んまぁこのひとには困ったものです。まるで私と同じだわ!」


 チャカの口からはため息半分、諦め半分、そして自分の野望が飛んでいく思いにかられる。諦めることが出来ないチャカは、


「ばこ~ん!」…「ばこ~ん!」……「ばこ~ん!」


 と三度撲なぐるも結果は変わらなかった。


「わ、わ、わ~たしの負けです。こ、この男は差し上げます。どうぞご自由に骨の髄までしゃぶって下さい。」

「あ、いや、……まぁ、、もう、身の破滅だわ!」

「いい気味です。黄色いハンカチを家の外にに飾って下さいな!」

「はい、私、幸せになります。」


 開いた口も目も鼻も塞ぐ事が出来ないソワレとエレナ。


「ねぇエレナ、ここは耳の穴も塞ぐべきだわよね。」

「はいお姉さま。見ざる、聞かざる、言わざる、ですわ!」

「そうですね、お館さまはここに置いて帰りましょうか。」

「帰らざる日々、いい響きですわ!」

「らいらいらい麦、私の思い……ですね!」


 そんな事を許すグラマリナではない。三人ともグラマリナに掴まれて動けないのだった。


「ソワレ、グダニスクに別荘、別館を建てるわよ、秘密よ、戦争よ!」

「あっちゃ~!!!!               困ったわ!!!!!」




 一方、ルイ・カーンは海の方向、北が急に気になりだして帰るのだが。


「三人とも沖を通る船を追う。帰るぞ。」

「はい旦那さま、」「はい伯爵さま、」「はいご主人さま。」


 伯爵の塩サバ号の船足は遅かった。不思議な感覚が海上よりスエーデンの陸地へと変わった事により、追跡を諦めた。見知らぬ外国に上陸しても危険がいっぱいなのだ。


「死んだら今までの苦労が実らない……帰る。」

「はい旦那さま、」「はい伯爵さま、」「はいご主人さま。」


 どうにも冴えない伯爵が出来上がったらしい。




 1247年3月1日 エストニア・ハープルサル


*)腰の抜ける大きい建物


「伯爵さま、もう腰が抜けました。このでかい建物はいったい……。」

「造りもしないうちにか! そうだな、造ればわかるのだが、村長にはまだ秘密にしたい。」

「はい極秘に進めます。出来ませんでしょうがね!」

「あぁそれでいい。俺に訊けと言って済ませろ。」

「で、海の掘り込みは誰がするのです?」


 港の浚渫のことだが人間は海の中では作業が出来ない。


「お前、シャチだろう。ここは頑張ってくれや。」

「人間です、老人です、出来るはずがありません。」

「んん?? そうかぁ? 俺の時代は大きい港も造っていたぞ。」

「それいつの事ですか。」

「うん1900年だ! それから2020年もだな。」

「あり得ません、旦那は奇人です。」


「だったら、あそこの小さい入江に建造しろよ。」

「……?? えぇ、あの小さい入江でしたらへどろも掻き出す事が出来やしょう。決定でよろしいか?」

 

 村の大きな入り江の中ほどに横に伸びた小さな入り江がある。この入り江に大きな屋根付の、大きなクレーン付きの、家屋を造れというのだった。


 どんなに大きくて長い松の木を持って来ても造れない、それほど広い屋内の港を造るのが目的らしい。そのような与太話には誰も信じない。


「伯爵、いったいどのようにして建造を……。」

「そうだな、少し腰の曲がった松の木を多数用意してくれ。それと、大きめの鉄の補強材もだな。」

「へい承知いたしました。」


 建設ギルド長からして図面の大きい建物が出来るとは思っていない。お蔭で二年は街に戻れない、ど田舎での建設に従事することになった。伯爵は鬼と呼ばれる不本意な名前が冠されることになる。


 入り江の両岸には多数の石材が投げ込まれ、干潮に併せて石垣が建造されていくのだが、ビスワ川の港に作られた足踏みクレーンと同じ物が四基も建造されたのだ。これにより海中の無駄な石が全部陸揚げされた。海が深くなった。


 水深が四mもあればいいから人でも四mは自由に潜れた。岩にロープを結ぶ事も出来る。海の男は十分でも潜れた。足踏み式クレーンの実演を見て驚く者ばかりだった。(いくら夏の作業でも泳げるとは思えない。)


 だがこのクレーンを見て驚かない人間が居たのだ。


「おいおいそこの母親。赤子をクレーンで吊るすではない。」

「すみません、この子はこのクレーンで吊るすと喜ぶのです。」

「こんど遊んだら首から吊るすぞ!」

「ヒェ~!!」


 これらのクレーンを使いとても高い柱を四本も立てた。継ぎはぎの四本の松の木だがこれに梁を結んで横木を掛けて造られていった。


「最初の木材は細いのでいい。順次その木組みの下に骨太の骨格を造る。」


 腰の曲がった木材だ、ちぐはぐは置いておくとして天井が出来上がる。


「屋根材は長めのアシの束で作れないか、どうだろう。」

「はい港の集会所と同じようにですね。アシを集めるのがたいへんですが二年もあれば大丈夫でしょう。」

「おう二年か~あいつらにはさらに二年も待たせるのか~。」

「伯爵さま、どなたが待たれてあるのですか?」

「あ、いや、独り言だ、なんでもない。」


「お前ら全員に休暇を与える。30日間だ。グダニスクの祭りに招待したい。」


 信じられないギルド長は喜ぶ子分に押し切られて旅行に参加した。総勢で……? 計算が出来ない。


 伯爵は多数のコーパルとその売り子、買い子のチェリーちゃんを連れて琥珀の相場荒らしに出向いた。迎えるのがグラマリナと例の男、それにソワレとエレナの四人である。資金はオレグからのピンハネだ、一億は在るらしい。伯爵はその金の多さに予定の利益にも達しなかった。




 1247年5月21日 ポーランド・グダニスク



*)腰の抜ける大きい街、グダニスク


 お上りさんには刺激が強すぎた。四階も五階もある家が立ち並ぶ。住宅のかまどの煙突が完備されたから煙の心配が要らなくなった。だから住宅は横ではなく縦に伸び出した。土地の有効利用と煉瓦の有効利用だろう。それまでは煙突が無い家だから自然の換気でも、煮炊きの間はとても煙たい。その煙たいが煙突で解消されるのだから家は大きい集合住宅へと変貌していく。現代の街並みの原型が、今、ここから始まるのだ。


「オレグ式の煙突完備、日当たり良好! 風通しがいい優良物件!」


 ランドマークの看板が多数目についた。


「俺も有名になっ……いやオレグという男は有名だ、ガハガハはは~。」

「隙間だらけの家が? 売りに出ているのですか?」

「そうなんだろう。」


 そんななか、お上りさんの一行が飯台を出して琥珀ならぬコーパルという二級品、三級品の琥珀を並べて売りにだしている。見た目は琥珀と同じ。伯爵が攫ってきた宝石加工職人に作らせたどれも逸品の品だ。形はだが。


「おうお前ら、一番多く稼いだ者には家を建ててやる。庭付きの一戸建てだ。おおいに励め、多くを売りさばけ至上最大の命令だ!」

「伯爵、海外旅行なのでは?」

「そうだ、祭りに招待した。今日からお前らが祭りの主人公だ、この街にお祭りを興したい、励め!」


「おう!!」


 目先の変化を喜ぶ建設の従事者。目の色が変わってきている。まがい品を売らされているとも知らずに、大の男が大いにはしゃいでいた。


 売る方は値札があるから誰にでもできる。問題は買う方だ。戻ってくるまがい品を見分ける必要がある。宝石の職人が里帰りしてワルの片棒を担いでいるのだ、生きた心地はしなかったであろうが、エストニアには女房と子供が人質として残っている。伯爵に従うしかなかった。くすぶる職人に、


「お前、何が不満なんだ、衣食住が足りて金貨も蓄えた。これ以上何を望むのだ。」

「はい俺らの存在が知られると思うと、身体が動きません。」

「無理もなかろう、だから人目につかない裏方の仕事だ。家族のようにとても大切な仕事だ、黙って励め!」

「本当に真贋の鑑定だけでしょうね?」

「あぁ本当だ。正しく鑑定だけをしておれば良いのだ。」

「はい承知いたしました。」


 売り場が二十か所。買い取りの店が六か所、これらを伯爵が用意した。初めての露店、出店でみせが珍しくて人は多数集まる。


「おう、この琥珀は綺麗だな、幾らだ。」

「見てみろ、相場の半額でいい、買わないか。」

「半が……く!!」

「そうだ、どうだい嫁さんに。」

「ようし三個買おうか。なに一つは娘だ。」

「で、もう一つは?」

「ここでは言えないな~、お、お、おん**に遣るんだ、どうだ、凄いだろう。」

「ようし旦那気に入った、一個をサービスしてやるよ、小さいが我慢してな! おん***には大きいのがいいだろう、この小さいのは娘だな。」


「俺も買う、サービスしろ!」x10


 チェリーちゃんがどこの売り場にも顔を出している。街の住民が一人、二人と釣られていく。途中からはチェリーちゃんは要らない次の露店へと向かう。


 綺麗に加工されたコーパル。光輝いて見える。安いからと、どんどん売れて行くのだった。買う事が出来なかった住民たちは既存の店に押しかける。


「やい琥珀を安く売れ、港では半額だったぞ。お前んちは儲けすぎだ六掛けで売れ、いや寄越せ!!」


 激しい住民に威圧された亭主は涙ながらに安く売りさばく。


「おうお前、さっきは露店でたくさん買っただろう、帰れ帰れ。」

「あれは買う所があったので相場の六掛けで売ってきた。今は高値の七掛けで買うらしい。こそっとお前だけに、教えたぞ。」


「そうか、いいことを聞いた。ここの琥珀を半値で買って売れば儲けが出るのだな。」

「おうよ、だから値切れ、値切れ、かっぱらえ~!」


 人ごみで店の主人は捌けない。手に負えなくなってしまった。


「これもらうぞ、銀貨三枚でいいな。」

「亭主、これは銀貨一枚でいいだろう。」

「ご亭主、浮気しているの知っています銅貨一枚ね!」


「おうここは銅貨一枚でいいぞ! 銅貨一枚だ、どうかみんな買い占めてくれないか~!」


 もう琥珀が二足一文にまで下がってしまった。この連鎖が続く、いや多数の見てくれの悪い男らによって街中の琥珀店がやり玉に挙げられたのだ。


 グダニスクの琥珀が暴落した。いや暴落させられた。


「キルケーもういいだろう。明日からは多数の買いに入る。」

「真贋はどうするのよ。贋作も同じように買い上げるの?」

「もうここまで来たらみな同じだ。同じムジナだから、熱が冷めない内にパブの連中に夢を見せたれ!」

「うん分かったわ。買った琥珀を高値で買い取る店が在るのだと、教えるのよね。私にしたら相手は愚民だもの効果覿面(こうかてきめん)だわ。」


 伯爵らが飲んだくれている間に急変した。



 この騒ぎから半日遅れてあのグラマリナたちが参戦してきた。街の騒動に慣れるのに時間がかかり夕方の時間切れになった。だが諦めのつかない女だ、パブの近くに露店を出していた。


「は~い飲み代の金策に便利だよ~、琥珀を買い取るよ~、今なら銅貨三枚よ~早い者勝ちだよ~。」

「お前、金が少ないなら売ってしまえよ。明日また買えばいいだろう。」

「今日は飲みたい気分だな、よし全部売ってくるか!」

「おう、そうしろよ。」


 露店に出向いた男は、


「これ買ってくれないか。」

「う~ん銅貨三枚の全部で五個、十五枚だね。でもさ、他に売りたい人を連れてきたらさ、銅貨一枚、いや三枚を出すよどうだい。」

「ちょっとソワレ、そんなお金出してもいいの?」

「いいのよ、心配は無用よ、どんどん買い漁るわよ。」

「う、うん。……。」

「紹介料は一人連れて来たら三枚か?」

「それでもいいわ。でも琥珀五個で銅貨三枚ならどうよ! ここは酒飲んでいる場合じゃないわね。」

「そうだな、一人が琥珀十個も売れば俺は一人紹介しただけで六枚の銅貨が!」

「はいその大きい口に入れて・あ・げ・る・。たくさんの琥珀えものを紹介してね!」


「おう、すぐに連れてくるよ。待ってな。」


 男はパブに入ると……入れ替わりに多数の男が出てきた。


「俺の琥珀を買ってくれ。」x25

「ちょっと押さないで、順番だよ、順番。」


 このやり取りを影で見るグラマリナの後ろ手の指が動く。エレナに向い、


「エレナ、今から銅貨四枚で買いあげるように伝えなさい。」

「そんなにたくさん。よろしいのですか?」

「えぇ酔っ払いのジジイです。多少少なく渡しても気が付きません。」

「ですね、お姉さまに伝えて来ます。」


「おおおおお!!!! 今、相場が上がったよ。銅貨四枚だよ、四枚。早く来ないと店じまいだよ~。おう!! 琥珀が二十個!! 面倒だわ、銀貨一枚でいいわよ。」20x4=80・・8,000。 銀貨・・10,000。


「俺は琥珀二十個で銀貨だぜ~!」


これはチェリーちゃんだ。


「お、俺は二十五個だ、幾らだ。」25x4=100・・10,000。

「そうねぇ、銀貨一枚だが、銀貨に銅貨十枚を出してあげるよ。他はないかい十個以上は高く買うよ~。」


 ろうそくが五本、十本と、燃えて消えていった。この店が一つだったからどうにか持ちこたえる事ができたようだ。終いにはグラマリナがお面を被って露店に立つ。金庫番の? 男は銅貨を数える間もなく銀貨を数える羽目になっていた。


「お館さま~おらぁもう死ぬ~!」

「なにを言うのです。まだ宵のうちですよ。」


 琥珀と銅貨・銀貨が行き来していた。夜更けになりろうそくも愚民も消えてしまった。



 伯爵の方は、


「伯爵さま大変です。かくかくしかじか、琥珀のもじゃもじゃ!」

「あっちゃ~あの女にしてやられたのか~。」

「伯爵さま女は港で一つの露店です。俺らは二十店で買い漁りましょう!」

「だな、もう寝る。」


 伯爵が眠れるはずもない。次の日は睡眠不足で失態が続いてしまう。


「今日は売りの露店を十五店、買いの店を五店だ!」


 だからか肝心の琥珀は思うよに集まらなかった。逆だったら良かったのだ。きっと集まる方が多かったと推測できる。


 一方人手不足のグラマリナの一行はその穴埋めに馬車を使った。人の多い道路を、


「琥珀買いま~す。今なら銅貨十枚だよ~。」


 どんどん相場の金額を上げて買い漁る。馬の糞のように馬車に群がり付いて行く民衆。馬車は進むから馬の糞は途切れる事がなく黒山きんぱつが続いた。銀貨一枚、二枚……五枚!


 グラマリナの懐にはグダニスクの琥珀が六十%も集まった。伯爵にも六十%のコーパルが集まった。街中の琥珀が無くなり三日間のお祭りが終わる。伯爵が買った四十%が琥珀だがグダニスクの四十%ではない。同じ六十パーでも意味が大きく違う。


 デーヴィッド商会の隣に小さい琥珀の店舗が開店していた。琥珀の価格は以前の十%増しの金額。同じようにマクシムの館の隣には大きい店舗が出来た。価格は同じく以前の価格の十%増し。すぐには買いに来る人物は居なかったが、時期に増えだした。


 デーヴィッド商会の隣には馬車が横づけされて、大きい木箱が載せられていったらしい。それも馬車十台は下らないという。街中の琥珀の店舗が開店したのはその後の事。? 男の手持ちの琥珀とグラマリナが買い漁った琥珀。順次街に流れた。


 チャカも他人のふんどしに乗って買い漁ったらしいがとても少なかった。コーパルが大多数だと兄さんに指摘されていた。だが二級品を売りぬいたとマクシムに報告したら、マクシムは再度大笑いをしたという。最初の大笑いは二級品を買わされてしょぼくれたチャカの姿を見た時だ。この日、マクシムの仕事が丸一日も滞って船の手配が出来ずにトチェフから運ばれるライ麦が港に溢れたという。




 ルイ・カーンは敗北して船に戻り、


「七月の二十日から八月の十日まで、琥珀の出店でみせ・露店を出す。そこで今回の琥珀を大量に売り出す事に決めた。」

「伯爵さま、これのどこが大量なのです?」


 木箱が一つだった。それも小さい木箱が!


「んん?? そうかぁ? 小さいのか~この箱は。」


 グダニスクに琥珀御殿が建てられた。主人はチャカの兄。


「チャカ、あいつと離縁して住んだらどうだ?」

「なによ、ちょっと儲けたくらいで! まだまだ主人の館が大きいわよ、フン!」


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