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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
132/257

第132部 デーヴィッドからの報告


 1246年11月1日 ポーランド・トチェフ


*)デーヴィッドからの小さな報告


 グラマリナに琥珀に関する小さな報告が上がった。


「グラマリナさま、グダニスクで事件とは言えないような奇妙な事件が起きました。今日はそのご報告でございます。」


 大量の琥珀のまがい物が売買されていた事を報告した。


「琥珀の偽物ですか?」

「はい琥珀は琥珀で間違いありませんが、柔らかい品質の二級品でございます。お酒には溶けることはございませんのですぐにはまがい物とは識別が出来ません。ただ私たちには判別が出来なくても見る人が見るとすぐに分かるそうです。」


 グラマリナは先の3人の男が持ち込んだ琥珀を思い出す。


「それはお酒のアルコールには溶けないのですか?」

「はい溶けるほど酷いものではない、ということでした。ですが男と女の二人組がいい物もそのまがい物もすべてを買い漁っていた、というのですよ。なにか臭いませんか?」

「そうですね、オレグがやりそうなことですが、オレグはかようなまがい物は売りに出すことはいたしません。己の信念に背くような事柄は嫌います。」

「では買い漁るのは? どうでしょうか。」

「同じです、買って売るのでしょう。やはりまがい物と知って買うが売りはしないと思います。」


「そうですね、やはりオレグさんとは違いますか。第一にオレグさんは行方知れずですし生きておられたら連絡もありましょう。」


 当事者の夫婦がせっかくトチェフに来たというのに、ソワレが会わずに追い返していた。この事実は領主のグラマリナに報告をしていない。デーヴィッドは街の中を男と女の二人組を探してみたが見つからなかった。闇の中の出来事になった。


 グラマリナとデーヴィッドの会話を横で聞いていたエリアスは、


「あ、それは別に……。」


 と、言いかけて黙り込んだ。


「どうしたのですか? エリアスにはなにか思い浮かんだとか?」

「いいや思い過ごしだ。気に障った事を言った。」


 エリアスには事の真相が琥珀を格安で手に入れる方法だと考えた。


「デーヴィッド、琥珀は値崩れしたのだろう? それはどれほど値を落したのだ。」

「はいおおよそ六十%は安くなりました。ですがあの二人組が買い漁りましたので三日後には元に戻りました。どこかの富豪が大量に売りに出したからでしょうか。」

「そうか、その富豪はグダニスク市長と関係のある人物だろう。多分に街の琥珀の価格維持を目的とした、損を覚悟の売り出しだったのだろうよ。」

「あ~なるほど。エリアスさま。」

「デーヴィッド、今日は館で飲んでいけ。久しぶりに相手を務めろ。」

「はいエリアスさま、喜んでゴチになります。」

「んま~エリアス。どうしたのですか。」


 女房と飲むのはくちゃびれたと言いたいのだが本心からは言えない。


「あ、いや、たまにはグダニスクの時事討論を行いたいだけさ。」

「あらそうでしたの。では私はエルザと一緒にいたしますわ!」

「なにエルザが居るのか!!」

「んも~私とよりもエルザを選ぶのですね? ここにエルザが居るとでも??」

「あ、いや。デーヴィッド、エルザは来ていないのか。」

「はい当然でしょう。商会の留守番とパブの仕事がございます。」

「あぁそうだな……、」


「エリアス、残念でしたわね?……。」


 カマを掛けたグラマリナ、まんまと引っかかったエリアス。エリアスはバツが悪そうに自室へ引き下がる。


「デーヴィッド、続きをお願いします。」

「はいこの事件はもう一度あるかと思います。そうですね来年の春!」

「ですか……、」

「グラマリナさま、その時は琥珀が半値です、買い漁りますか?」

「もち当然です。その時はすぐに来なさい。金貨を託します。」

「お館さま自らお出でになられませんか? 裏で操る人物と会えるかもしれません。もしも会えましたらビジネスのチャンスがあるかもですよ。」


「えぇえぇ、そうでしょうとも。そうに決まっています。楽しみです。」

「エリアスさまにはなんと?」

「言うはずはありません。でしょう?」

「はい、お館さま!」


 グラマリナには琥珀に関する小さな報告が大きく膨れ上がった。


 グラマリナは夫のエリアスとは対照的に大きい態度で自室に引き上げた。それを見送るデーヴィッド。


「あぁ~お館さま~!」


  ……‥は奇妙な声で見送っていた。


「琥珀、私の琥珀。どうか本物でありますよう~に!」


 三人の男から貰い受けた琥珀の真贋を確かめたく思う。


「ソワレ、ソワレはどこに居ますか?」

「はい奥様。なんのご用でしょうか?」

「わらわをグダニスクへ連れて行きなさい。すぐにです。」


「はいお供いたします。」




 一方のルイ・カーン伯爵は、


 大方の仕事の諜報も終わり、グダニスクからエストニアへ帰ろうかと準備を進めている。


「おい今日はなんだか寒気がする。用心の為にもう一泊して帰る。」

「まぁご主人さま、大丈夫でしょうか? コレラでしょうか。」

「ルイ・カーンさま、もう二泊はどうでしょうか。少し調べたい事案がございますので。……マラリヤですね!」


「あの琥珀を損覚悟で売り出した人物か? 俺は伝染……温度ではないぞ。平熱はかなり低い低体温症なだけだ。」

「はい特定して今後は事前に対処しませんと。今度はこちらが大損となるかもしれません。で、その体温は?」

「そうだな、損はしないがこちらの手を読まれたら儲けがなくなる。三十四度だ。」

「最低でも素性なりでも。名前が判ればいいのですが。」

「最低が三十四度だ、以上もないが……身体の節々が痛いでのう。」


「おおおお寒い。そうしようか、ドブロクを飲んで寝る。」


 歯科医院でいきなりおでこに……、


「低いですね。」

「汗かいて歩いてきました。それ、壊れています。貴女のおでこに。」

「お~三十六,四度。壊れているのは俺か!」

「ご主人さま熱が出ています。平熱は確か……三十三度です。」

「サワ助けろ~。」

「もう……イヤでございます。あれが最後です。」



*)グダニスクでのルイ・カーンは?


 日に日に増えていくハンザの口座の金額を眺めてにんまりと。伯爵はその口座の残高を見るだけで、取引が増えていくことが分かる。ビスワ川沿いの都市や街のライ麦をオレグ商会にけしかけた事が成功していると判断できた。


 デーヴィッド商会の動きと、マクシムの海外への輸出とオレグ商会のライ麦の動きの調査が目的だった。琥珀の買い付けは謂わばなりゆきだ。馭者の男がへまをしたのが事の発端。


 ルイ・カーンは宿屋に戻り窓からグダニスクの街と人の動き、荷馬車の荷や台数を眺めて過ごした。港の様子が見えればなおの事良かっただろが。


「港の宿屋はな~もし見つかったらな~。」


 と困るらしい言いぐさだ。


 ドアを少し開ければ階下のパブの様子が見える。階段の突き当りが宿泊の部屋だった。客の声が聞こえる。


「ご主人さま、夕食をお持ちいたしました。」

「おう今日はなんだ?」

「ブドウの串でのパイソン焼でございます。」

「ほほうこれは美味そうだ。……これは?」

「はいデーヴィッドさまからの差し入れでございます。」

「ほにゃ! あり得ない……。」

「これは、トチェフ名産のアイスワインでございます。」

「う、うそ、だ~。あり得ない。」

「この木の器も、あり得な~い!!」


 ワルスは伯爵と食事しながら掴んだ事柄を報告をしている。



*)珍女の乱入


 それもふたつ。


「ルイ・カーンさま、今パブに来店されました方は、確か?」


 苦虫を出されて食べた伯爵は大いにしかめっ面だ。


「あぁトチェフ村のグラマリナさまだな。なんでここに来るのだ。」

「はいライ麦の様子の見学でしょうか。」

「いいや違うな。領主が来ていないんだ。目的はお忍びだと思ったがいいだろうし、それに……従者の女の二人が気に入らない。」

「はぁあの二人。とても可愛らしい娘さんと……お姉さまでしょうか?」

「俺は会えないからとにかくあの二人にだけ接触は避けるように。サワにも言っておいてくれ。」

「はい承知いたしました。」

「で、サワはどうしたのだ。」


「はい港のパブで諜報活動をいたしております。」

「何用で?」

「はて、なんででしょうか。存じません。」

「お前がそれを言うのか。夫というのは間違いなのか?」

「ルイ・カーンさまはお分かりですか?」

「もうよい。それよりもあの人物の素性は判ったのかい?」


「はい、ここの市長さまの弟さまらしいという所までです。名前が知られていないらしくて、街では市長の弟で通っています。」

「では両親や兄弟とかはどうなんだ。」

「はい両親はこの街の元市長です。もう引退しておりますので、めったには街には出てこないそうです。ひとり妹が居ましてハンザ商人の嫁になったばかりだそうです。」

「んん? もしかしてマクシムか?」

「はいオレグ商会のライ麦を一手に引き受ける豪商ということですね。」

「そうか、マクシムの……。」

「ご存じですか?」

「そうだな、名前はよく聞くな。随分と羽振りもよいらしい。」

「では引き続き調べてくれないか。」

「はい承知いたしました。その前に。」

「あぁ下の姫さまの動向も頼む。」



 ワルスは部屋から出て行きパブの客席に移った。ワルスは会話を聞くだけにしろと伯爵からは指示が出ている。ワクスを頼んで酒類は飲まない。注文の品は硬くて美味いものは頼まずに聞き耳を立てられる柔らかい串焼きにした。


「チリンチリン、」


 とワルスの器の氷が音をたてる。


「あれれ? 俺の器に氷は無いぞ。」


 そう思って見上げるとサワが立っていた。あり得ない氷をワルスのワクスに入れたのだった。


「おい。それはなんだ?」

「目覚ましの氷だけど、要らなかったかしら?」

「いや、横の美女の事だ。眠気を覚ます……美女だな。」

「うんそうね。港のパブで会ったのよ。この人は……? 何処でしたっけ。」

「覚えなくていいわよ……うんうん、可愛い亭主ね、頂戴!」

「だめです。この人は私が付いていませんとすぐに死んでしまいます。」

「その呪いは私が解いてあげるから頂戴。」

「呪いを解く?? 意味が分かりません。詭弁です。」


 サワには呪いという意味はすぐに理解できた。だがこの女の素性が知れないのだ。この女はサワを一目見て纏わりついてきたのだった。宿屋に帰ると言うと、


「そうなんだ、だったら私も行く。連れてって!」

「嫌よ!」

「連れていけ!」


 と騒いでしまうから根負けしてここまで連れてきたという。


 二階のドアの隙間から覗いている伯爵は、ゴキブリを食べたように、


「あちゃ~これは一大事だ、なんでここにキルケーが来たんだ?」


 満身創痍の寒気が走った。


「うぐ~関節が痛いこれは困った。」


 ルイ・カーンはグラマリナばかりでなく、キルケーも現れたから酔いが一気に覚めるのが自覚できた。


 そのキルケーが二階を睨む。ルイ・カーンは恐れ慄いた。


「バレたか!」


 しかしキルケーはすぐさま微笑みで返した。


「く~~~~~!!!!!!」


 ルイ・カーンは歯がゆい思いに駆られた。


  

*)二人の悪女は仲が悪い


「あらあらここで盗み聴きかしら? いったいどういう事が知りたいのかしらこの私に任せなさい。」


 ブルブルブルルル……ワルスもサワも大いに首を振った。


「そうですか、私が横になれば首は縦に振っていますわ。」

「そうトンチを言われましても、ここでは酒を飲んでいるだけです。」

「そうですか~これはお酒ですか? 変わったお酒ですね、ワインを飲みましょうよ。ここは(ピー・・・)の驕りでしょう?」

「ピーは放送禁止用語でしょうか。」

「あなたたちには? でしょう。私は全然・全く・少しも関係はありません。早くあなたたちのご主人さまを紹介なさいな、お二人からはとても、そう、とても懐かしい方の匂いが漂ってきますわ。」


「俺、そんなにニワトリの匂いがしているか?」

「私、子豚をだっこしたのが分かります?」

「そうですね、他にもパイソンや羊、ヤギ、犬、猫もですね。」

「それは貴女の家のペットでしょうが。一緒にしないで下さい。」


 ときつい言葉になるサワ。ワルスがほんの一瞬グラマリナを見たから騒動にまで発展した。


「そう、あの女ですね、私が訊いてきます。しばし……。」

「ちょっと、待ちなさい。」


 サワは小柄のキルケーを年下だと思い込んでいるからため口。キルケーの口を封じた。


「おいおいサワ。俺の焼き鳥を食わせるな。俺んだ!」

「いいじゃない、どうせ不味い鹿肉でしょうが。」

「いいじゃないか、安い鹿だ、今では害獣だぞ。」

「それはそうだけれども、二階で美味しい物を食べたでしょう?」


 その言葉を聞いたキルケーは、グラマリナから目標を二階に変更した。


「こら!! 大人しく肉を食っていろ。というか帰れ。」

「え~嫌です。ここはお供いたします。いや、ぜひさせて下さい。手土産はそこのお姫さまの目的は……琥珀です、先日の琥珀が本物かどうか知りたいと考えてあります。」


 その一言でワルスはグラマリナの目的が理解できた。


「よく分かりました、ですが、あ……。」


「なによあんた、誰なのよ、私のこころを覗いたわね。」


 グラマリナがソワレの制止を押し切って席を立った。すぐにも小柄の女に次の文句を言おうと構えている。


「いいえ、私は覗いてはいません。」

「そう言うだろうよ、ドロボーは自分がドロボーとは言わないわ。」

「まぁはしたない。どこぞのお貴族さまの言葉ではありませんね。」


 言葉の応酬が続く、続くのだった。二人の女は一歩も引かない。従者の二人と伯爵の従者は仲良く席に着き、嵐が過ぎるのを待つ。


「あれは放置しても、そのう、よろしいので?」

「はいお館さまはとてもお強いです。これくらいは大丈夫ですわ。」

「ねぇソワレ。もう十分だよ止めに入ろう?」

「あの方は貴族さまでしょうか?」

「はい小柄の女性はどこの誰とも……そう知りませんわ。」


 と元気よく答えるサワだった。ワルスは伯爵の命令が、怖い怒号があるかと二階に視線をやると、ドアがピシャリと締まった。


「サワ、お怒りです。ここは逃げましょう。」


 二階から降りてきた女将が、


「あんたたち外に行きなさいよ。二階の方が迷惑すると言うてますわ。」

「あ、はい。代金は二階に!」

「あいよ早く逃げな。ここは時期に収まるさ。」


 グラマリナはソワレから襟を掴まれている。逃げる二人にはキルケーが袖と襟を掴んで離さない、それどころか二階へ引きずっていくのだった。小柄の女だというのにその強い力に二人は抵抗できないでいる。


 ソワレは男女の二人に詫びようとするが、グラマリナではなくエレナが強く押し留めるのだった。


「お姉さま、あの女には近づいてはいけません。人間ではありません、怪獣です、悪魔です。」

「んまぁ! 悪魔ですか!」

「そうです、親戚ですわ。」


 エレナが言う親戚とは? 誰と誰が親戚だというのだろうか。


「グラマリナさま、ここはこころ穏やかにいたしましょう。まだお顔が知れる前でございます。お淑やかにされて下さい。笑顔そとづらが大事ですわ。」

「まぁ私としたことが、はしたないですね。」

「そうですよお館さま。」


 一階の騒動が収まり今度は二階に騒動が移る。今度はエレナが小鳥になって二階の窓から侵入しようとしたら大きく弾かれてしまった。サワにはそういう芸当はできない。そうすると残るはキルケーの結界になる。


 二階のドアを蹴破り侵入したキルケーは夫婦を未だに引きずっている。伯爵は恐怖のあまりベッドの後ろで頭を抱えて震えて……いる。


「あらあら、それでも隠れているのかしら。」


 と言いながら笑うキルケー。この様子を見た二人は伯爵の怖気づいた姿に呆気にとられた。


「ルイ・カーン伯爵さま……。」


 とワルスが言うと、


「おやおや、今は伯爵かえ?」

「ヒェ~~、」

「ご主人さま、どうされましたのですか、この女はちっこいです。」

「お前、俺がちっこいだと~!」

「ヒェ~~、」「だってそうじゃない。」「ヒェ~~、」「本当だもの。」

「ヒェ~~、」「ヒェ~~、」「ヒェ~~、」


 とサワと伯爵が交互に悲鳴をあげる。


 怯えてベッドの陰から出てこない伯爵に詰め寄るキルケー。怯えてベッドの陰から出てこない伯爵に不審を抱く夫婦。


「(ピー……)さま、お懐かしゅうございます。今はルイ・カーン伯爵さまですか、この私を雇って下さいまし、きっとお役に立ちますわ!」


「お、お、お…前は山奥で暮らしているのだろ、そこに帰れ。山羊の所に帰れ!」

「いやですわ~(ピー……)さま、せっかくシビルに頼んで出て来ました。ここは大人しく……。」

「ヒェ~~、」「ヒェ~~、」「……。」


「あんたたちここは二人にして頂戴、出て行きなさい。これからお楽しみなのよね!」


 二人は言われるがままに部屋から出て行き、ルイ・カーンはキルケーに屈服させられてしまった。


「ヒェ~~、」「ヒェ~~、」


 部屋から聞こえる伯爵の声がときおり響いた。


「ヒェ~~、」「ヒェ~~、」


 真夜中でも夫婦は入れてもらえなかった部屋の扉が今朝は開いていた。


「おう新しい仲間を紹介する、キルケーだ、よろしく頼む。」

「どうしてですか。そのようなけだもの”を!」

「仕方ないだろう、俺の匂いがサワに付いていてバレたのだから。連れて行かないと何にされるかわからん。」

「悪魔憑きですね。……ところで、何にですか。??」

「なににって、ニワトリ好きか?」

「はい食べるのは好きです。でも食べられるのは嫌です。」

「だったらここは黙って従うしかないだろう。」

「はい……    そうですね                 はい。」


 サワは理解できたがワルスは全く理解が出来ない。だから一言も話すことが出来なかったという。


「ところで伯爵さま、やや子はいつ生まれるのですか?」


 ワルスはそちらの方が気になるらしい。結婚しても子づくりを許して貰えない男の僻みだった。サワとしては子供が欲しくても、サワの力が娘に継がれるのでどうしても子供は作れない。その事は一応話してはいるがワルスは信じないのだ。


「ワルス、それはすまない、俺の野心が成就するまでだ。我慢してくれ。」

「イヤです、我慢できません。」

「キルケー頼む。」

「は~い喜んで~!」

「ぎゃ~助けて~。俺はサワ一筋なんだ~!」


 ワルスはキルケーから追い回される。


 キルケーは、


「ルイ・カーンさま、ビスワ川の黄金地帯の下準備ができました。今度は何を!」

「1260年から始まる、聖ドミニコ祭の準備だ、来春から行う。」

「はい承知いたしました。かの男はいかがいたしましょうか。」

「そうだな、再利用が出来るから放置だ。羊に変えるなよ。」


「伯爵さま、かの男とは、トチェフで失敗した二人の男でございますね。」


 と言うワルスは元の人格に戻っていた。


 ここでルイ・カーンは海の方向、北が急に気になりだした。


「三人とも沖を通る船を追う。帰るぞ。」

「はい旦那さま、」「はい伯爵さま、」「はいご主人さま。」


 エストニアでの健闘を祈るとしてルイ・カーン一行には退場して頂く。問題はまだ終わっていない。グラマリナは手っ取り早くマクシムを訪ねて尋ねる事にした。その翌朝である。マクシムは夫婦で事務所に居た。事務所からは多数の声の大きい男たちが居る様子。


「さ、ソワレ、行きますわよ、突撃よ、戦争よ!」

「はいお館さま。」

「エレナ、ノックしなさい。」

「はいお姉さま、直ちに。」


「ノック、ノック、ノック、」


「ヤイヤイガヤガヤ!ワイワイ……。」


「ノック、ノック、ノック、」…「ゴン、ゴン、ゴン。」「ドン、ドン、コン。」

「ハ~イ! イタっ!」

「あ、親戚の人!」

「?? なんですか? 貴女は……。そう親戚さんですか。うるさいですが部屋に入りますか?」


 エレナが出くわしたのがマクシムの嫁だ、秘書兼御用聞きだろうか。


「お館さま、今ここは取り込み中でございます。この女史の方をテイクアウトをいたしましょう。」

「まぁ、ここにはコロナウィルスは居ませんわ、お高いですよ?」


 人の顔色を窺って値段をつけるハンザ商人の嫁。あれと同等かそれ以上だろう。マクシムにはとても良い伴侶を得たというべきか。


「あんたの鼻が高いのは見て分かるわ。……そうね、顔貸して頂戴、貴女あんたでいいわ。少し訊きたいだけだから。」


 グラマリナはいきなりブーストを掛けた強い言い方で応じる。ソワレはエレナが言った親戚”という言葉が気になった。


「可愛いあなた、小鳥遊さんかしら?」

「??……えぇ、別名美空ひばりと言います。今日はさえずれません……ですね。」


「なにを話していますか、相手はこの私ですわ。さぁ近くの公園に!」


 マクシムの嫁は、名前? をつけていただろうか。そうだ思い出した、拳銃チャカのような名前だった。


 そのチャカは事務所のドアを閉めてグラマリナを足から頭までゆっくりと見上げるのだった。(中肉中背、お腹の肉が弛んでいる!)

「んまぁ失礼な、でも否定はいたしません。」


 と言うグラマリナ。


「私はまだ何も言っていませんが? 分かるのですか?」

「えぇそうよ、視線がお腹で一時停止しましたから、そうでしょう?」


「いいえお腹に隠している小石を見ていただけです。三階の私の貴賓室へまいりましょう。あそこは静かですから大声を出されても誰にも聞こえませんでしてよ、笑顔そとめんぴのお姫さま!!」

「んまぁ失礼しちゃう。この腹グロ女のゲス野郎!」

「私、女でございます。褒め言葉を痛み入ります、骨まで感じましたわ!」

「そう頭のネジも緩んだのかしら? それとも跳びましたか?」

「はい月にまで届いたかもしれませんわ!」

「新記録ですね、この鉄面皮ライダー!」

「ウグ!! とても気になる痛い処を突きますのね、このタレ乳!!」

「貴女と違って大きいのですよ、まだ垂れていませんが!」


 ソワレとエレナはこの場から逃げ出したかったのだが、グラマリナが二人の襟を掴んで離さなかった。頼もしい従者が居てのグラマリナだ。消え入るような声で、


「お館さま?」……「もう止めませんか、ここは私たちがお世話になるのですから。」

「いいえこの女は気に入りません、とことん……。」


「グラマリナさま、……、……。」


 ソワレがグラマリナに耳打ちするとグラマリナは言葉を切った。同時にチャカも大人しくなった。


「あらまぁ奥様でしたか、失礼いたしました。」

「いえいえグラマリナさま、私の方こそ失礼をいたしましたお許し下さい。」


 この二人、仲が悪い。言葉遣いがよそよそしくなっただけ。


「私はマクシムの秘書でございます。または嫁のチャカと言います。」

「まぁそれはそれは、マクシムさまの奥様とは知らずに、大変なご無礼を。私はトチェフのグラマリナでございます。」

「はいご高名こうめいは拝聴いたしております。よろしくお願いします。今日はライ麦の件ですね。」

「あら都合が悪い案件でしたでしょうか?」

「いいえいいえ、いつも主人がお世話になっております。ライ麦の輸出はとても順調でございます。」

「あらそうですか、なによりです。安心いたしました。で、貴女のお兄さんの事でございます。」

「私に兄は居りませんわ、何かの間違いでは?」


「おうチャカ、邪魔するぞ!」

「まぁお兄さま!!」

「なんだ客か、また出直す。」


「お兄様、お待ちください。お話がございます。」


 と、呼び止めるのがグラマリナ。


「今は取り込んでおります、またお願いします。」


 と追い返すのがチャカ。


 男は振り向いて、


「どうされましたか?」

「はいグラマリナでございます。」


 男はその一言でマクシムの商取引の手ごわい相手だと思い出した。


「はいはい、オレグさまの裏ボスの奥様ですね!」

「それは素晴らしい冠を頂いておりますわね。」

「あ、いや、つい、すみません。で、ご用件は?」


「はいニセ琥珀の事で教えて頂きたいのです。よろしいでしょうか?」

「はい石の真贋でしたら判別が出来ます。それでよろしいですか?」

「はい、ぜひとも鑑定を!」x2


 グラマリナとソワレが同時言い、そして二人で顔を見つめ合う。


「んまぁ、」x2

「どうして、」x2

「これを見て下さい。」x2


 出された琥珀がコーパルだと見抜いた男はお土産代わりに答える。


「ご安心されて下さい。はい、本物でございます。」


 二人の女は安心したように相好を崩してほほ笑んだ。


「グラマリナさま、良かったですね。こちらはピー****。」

「こらチャカ。私のことは内緒にしてください。いつも言っているではありませんか。いくらグラマリナさまでも明かす?」


 時すでに遅し。グラマリナの窪んだ眼窩がんかの奥、二つの赤くて鮮やかな秋波ビームを男に向って放っていた。


 グラマリナは床に届くようなスカートの両端を摘まんで、いや撮んで顔を軽く横に傾けてニッコりとほほ笑んでいた。それは人を愚弄するような笑顔だ。男はいちころでそうグラマリナに靡いてしまった。


「可愛い! とても綺麗だ!!」


 チャカは、


「んまぁこのひとには困ったものです。まるで私と同じだわ!」


 時期にグラマリナの莫大な資金が流れる事にまで大きくなる。グラマリナの浮気が始まる可能性が……。また、チャカの野望はまだ判らない。


      

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