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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
131/257

第131部 とある地方で伯爵が?


 1246年7月31日 エストニア・ハープルサル


*)ある地方豪族と伯爵


 ハープルサルはタリンの西におよそ80k行った所にある。ここにルイ・カーンが目を付けたのには理由があった。シャーレの小高い丘に立ち、


「どうだ、言い眺めだろう!」

「はい、汚い泥の海でございます。」


 北の方向の海には大きな干潟が発達している。異様な光景に見える。


「おれの邪魔をするお前、誰だ。見る方向が違う。北ではない東の海を見ろ。」


「東は陸です、海は在りません。」

「間違えた西だ、西の方向へまわれ右。」

「わ~とても綺麗な内海で天然の良港ですね。ここにもルイ・カーンさまの館を築かれますか?」

「あぁそれもいいな。その時はお前が支社長だぞ!」

「は?いぃぃ~? いやでございます。ルイ・カーンさまのノルマにはとてもついてはいけません。」

「こらワルス。そのようでは私の夫たる資格をはく奪するよ。そうね、ご主人さまのお嫁さんになります。」


 冬は強い西風が常に吹いている。ここの内海は西に口が開いていた。


「だが西に口が開いている。強風には弱いだろう。」

「ルイ・カーンさま、今日も良い天気ではございません。実は西には小さい島が在ります。」

「あぁ目先に見える、それがどうした。」

「はい、さらに先には大きい島がございます。ですから波と風が弱いのでございます。やはりここは良い港に変身いたしましょう。」

「そうか、見えないな~。」

「島がでしょうか、それとも未来の展望が、でしょうか?」


「街の探検に行く。お前ら飲み過ぎるなよ。」

「はいご主人さまが飲まなければ、万事OKでございます。」

「お前、俺の女房になったつもりか??」

「はい、うちの主人はも見限りました。カーンの名前を継ぎたいです。」


「チョベリ、グー!」と言うワルサ。パブなど無いことを知っている。数軒が軒を連ねるだけの街。


「さぁ続きといこうか!」


 冒頭からの、コピペ。愚話さえも無いらしい。困ったものだ。


 まだルイ・カーンはワルサとサワとの夫婦以上の関係を知らない。だから独り身の伯爵がサワに粉をふる。サワは逃げる意味で言うのだが事実は知らない。


「いけませんよご主人さま、こころに決めたお姫様がいらっしゃるではありませんか。」

「俺には居ないぞ?? あぁ、いや……今晩は飲み過ぎたのかな。」

「はい飲みすぎでございます。」

「サワが先ほど言った意味は俺の嫁に……。」

「は~て私、なんて言いましたか?」


 唯一サワは伯爵には靡かなかった。



 伯爵は転生していた。転生前の開示が出来る事情は、ワルサは伯爵の前世の二人の息子の長男。サワはその長男の嫁だ。建設ギルドの親父はオレグの父親である。これらの事実を知るのは、ワルサとサワのみ。


 建設ギルド長は、この時代には珍しい六十代のジジイ。孫が居ても不思議ではない。嫁は出てくるのかが不明。オレグには次男も居るがまだまだ出てこない。


 こんな辺鄙な村に行くのは嫌だというギルド長が、伯爵に従ったのは父子の関係は知らなくても、こころに響くものがあったのだろう。ギルド長の息子は十年前には死んでいる。チンギス・カンに立ち向かい殺された。ギルド長の息子の嫁は二人の子供と難を逃れている。その嫁も何処に居るのか出てこない。


 翌朝、ルイ・カーンはワルサとサワを伴って豪族のおさを訪ねた。手土産は山で捕えた野ウサギを二匹。


「ここは北欧でございます。二羽とは数えません。」

「へぇ~そうなんだ、知らなかったぞ。」

「だったら、いつからウサギに羽を使うんだ。」

「はい一千七百年ころでしょうか?」

「んん??」

「はいウサギは鳥ですので、羽と数えるのです。」



 豪族のおさは船小屋にいた。見ていると大きい網を持ち水溜りへと向かった。


「なにをしているのでしょうね。海とは反対の崖に!」

「先に見える水溜りに行くようです。あの池にはエビが泳いでいました。ほら、昨晩てんぷらで食べたエビですよ。美味しかったでしょう?」


「サワ、まだ面会の許可が出ないのか。」

「はい次長の許可待ちです。ここの次長はウサギでは靡かないのでしょうか。ご主人さま、金貨を三枚出してもよろしいでしょうか?」


「おう出したれ。事が早く進むのであれば潤滑油だ、十枚でもいいぞ。」

「ラビー次長さま、ラビー次長さま!!」


 サワが駆けて行く。サワが次長の名をラビーと呼んだ。


「おいワルス。ウサギを届けて機嫌が悪いのだろう。明日に出直すか。」

「さようですね、ラビーですのも。ここは嫁に任せて帰りましょう。」

「どこへ!!」

「はっ! そうでした、どこに行きましょうか。てんぷらを食べた家でもよろしいでしょうか?」


「そうだな、前章の補完だからそれでいいだろう。」


 帰ろうとする伯爵を急いでサワが追いかけてきた。


「ご主人さま~待ってくださ~い!」

「呼んでいます、引き返しましょう。」

「そうだ……。」


 ルイ・カーンよりも早くサワが話し出した。


「昨晩泊まった家が悪かったのです、あの宿屋は西側の宣教師の宿泊施設だったのですよ。西側の人間には開放していましたので知らずに泊まりましたが、敵対する者と見られてしまいました。」

「そうなんだ、俺だってそう思うだろう。もう、あそこには帰れないな。サワ、金貨で釣れたのか?」

「はいエビが十尾、今晩の主食です。村の集会所に宿泊許可がおりました。良かったです。また美味しいエビを食べれますよ。」


 このような寒村にお酒が在るのだろうか。西側からの購入はめているらしい。


「ご主人さま、今晩のお酒の心配をされてありますか? 大丈夫でございます。金貨五枚で五人分を買いました。」


 サワは大甕のドブロクを買っていた。飲んだこともないアルコールの高い酒だから男はすぐにダウンするはず。ちなみにサワはとある理由で酒豪だ。


「とても甘くて美味しいらしいです。良かったですね。」


 エビ料理というのが変わっている。長めの串にエビを三尾串刺しにして、煮たつ鍋に差し込んで煮えたら食べるのだという。


「鍋の中が油だったら天ぷらですね。でも新鮮な海の幸ですからきっと美味しいですよ。」


 家庭でこの料理をしたら、美味しいです。串に刺すのは肉だったり、魚や野菜だったりで。十cmの鍋に油を五cmほど入れれば十分に楽しめます。


「おいおい、この卓上でするのは危険でマネは出来ないぞ。」

「はい油を零しましたら大変危険ですね。良い子のお父さんはくれぐれもマネはしないで下さい。」


 通された集会所というのが夏だからいいのだが、四方の壁には多数の穴があり海や山が見えるのだ。下は板張りなのだろうか、流木を置いて草を厚めに広げた簡単な造りだった。中心に囲炉裏がこしらえてある。


「へ~これはまねてもいい造りだ。」


 次にルイ・カーンは天井を見た。二人は不思議そうにルイ・カーンを見る。


「そうか、こんなぼろいのには理由があるんだ、な~んだ。」


 この時に同じように天井を見たらルイ・カーンの言った意味が理解できただろうが、残念ながら現実主義の夫婦には、入ってくる漁婦(農婦があるなら漁婦も?)に気づき見あげていない。


 嫁は漁に出ないが母親は漁にでる。だから漁婦という漢字があってもいいと思うが、残念ながら誤字だとはねられる。漢字は漱石の時代くらいで止まってしまう。過去の誤字や当て字は漢字として登録されているが新しい漢字は登録されない。


 日本の文部省が悪い。新規の漢字は生まれないのだ。教育に反するからだろうが。ちなみに誤字はPCにより多数作られる。


「今、火をおこしますね。煙たいですが我慢されて下さい。」


 五十過ぎの女だが丁寧な動作で五徳ごとくに鍋を置いて水を差していた。煙たいのには慣れているとは決して言えない。慣れるはずがない。


「しばらく待って下さい。ラビー次長とここのおさを連れて来ます。」


 次に若い女が大きめの板に肉とエビ・魚を載せて持ってきた。長めの串も多数用意されている。若い女は見せるような仕草で串に肉を刺していく。エビもそうだが魚は大きいいので口から尾まで刺して、囲炉裏の灰に差し込んでいる。


 各人の前には五十ⅹ二十五cmほどの板が置かれていく。これらの準備が済んで男の二人がやってきた。 


「伯爵さま、こちらが村長むらおさで、この方が次長のラビーさまです。」


 サワが紹介した。こちらの紹介はしないから事前に伝えていたのだろう。


 村長むらおさが口を開く。伯爵は待つのが良いと判断したのだ。


「お前ら、ここに石の買い付けに来たというが本当か。」


 伯爵はゆっくりと口を開く。


「はい、よろしくお願いします。これと同じ大きさでしたら銅貨一枚で買い取ります。小さければ数個を銅貨一枚で買い取りします。」

「そうか、これにどれほどの値打ちがあるのか知らないが、海にはたくさん沈んでいると考える。そんなにか。」

「はい、採れるものでしたら全部を頂きます。」


 ここの住人は大きく口を開けて話さない。だから聞き取りにくい。言葉が違うのはご容赦願いたい。


「それと丘の上に二十軒ほどの家を建てたいのですが、そこの土地を譲ってもらえませんでしょうか、代価はお好きにどうぞ。」


「そうか、家一軒に金貨一枚でいいだろう。他は。」

「はい宝石の職人を他国から連れてきたいと思います。職人は宝飾加工の男とその嫁や子供でございます。か細いひ弱な男らです。」

「そうか家族で金貨一枚だ。他、」


「はい、これからは大事な相談でございます。この村に立派な住宅を建設しまして村の人たちに住んで頂きます。海には大きい船が停泊できる港も造ります。この村が街になりますので、どうか許可をお願いします。」

「他、」

「はい冬の仕事として村中の者を建設に雇います。給金として代価をお支払いします。」

「ほかか、」

「はい、大工らを五十人ほどレバル(現在のタリン)から連れてまいります、またそれらの住宅も造らせてください。後々は寄付いたします。」

「ほかかか!」


「はいデンマークは私の敵、かたきでございます。」


「わ~っはっはっは~~~~!!」


 村長は大声で笑い出した、次長も笑う。ルイ・カーンは認められた。


 次長は、


「ルイ・カーンさま、逐次ちくじの報告で承認を受けられて下さい。代価は要求するしないはこちらで判断いたします。武器の持ち込みは禁止させて頂きます。」


「して、物資の輸送は?」

「はい港を改造しまして船で往復させて運びます。よろしいでしょうか。また船の検査も都度にてお願いします。」


「おう承知した。」

「で、近づきは?」

「はい、この集会所の再建と、しばしの宿屋の代金として金貨二十枚を!」

「おう承知した。存分に使用するがいい。楽しみだわい。」

「はい天井も燃えないように造ります。」


 二人が見上げると、こんがりと焼けている。


 酒のドブロクと料理が各自に渡る。中央には?


「おうおうこれは凄い! 凄いぞ!」


 ウサギが丸ごと置かれた。これをどうやって食すのだろう。


 ワルサとサワが内緒話を始める。


「ねぇワルサ、ご主人さまと村長はご兄弟かしら。」

「いいや親子だろう、とても性格が似てるな。」

「そうよね~だったらジンベーザメさんはなんなの?」

「爺さんだろう? オヤジはシュモクザメだよ。」

「あ、間違えた。だったらこれは爺と孫だね!」

「んだな!」


「なんだ? ルイ・カーンはお疲れか?」


 ルイ・カーンは強い酒に酔い潰れていた。怒る村長なだめる次長。二人の女が仲裁に入る。


「いつもこうですの、お二人はゆるりとお食事を摂られて下さい。」

「はいとても美味しいです。」


 ルイ・カーンは小突かれてもど突かれても起きなかった。


 翌日の昼過ぎ、


「イテテテ……! このう、俺の鼻を挟んだな、今晩の肴にしてやる。」


 大きめのカニにルイ・カーンは起こされた。が、そのまま夕方になる。


 また昨日と同じように女が二人が入ってきて同じ騒動が始まった。そして別の騒動が起きた。 




*)怪物の中の女神像


 ワルスとサワがすぐにルイ・カーンの心配を始めた。


「ルイ・カーンさまはどうしたんだろうか。」

「私はドブロクを水で薄めていないわよ。でも、どうして?」


 昨晩のルイ・カーンはドブロクを飲んで大いに酔ってしまい寝転んでしまったのだが、今は昨日よりも飲んでいるはず。酔っていないのだ。」


「ほほう、これはこれは! 昨日は旅の疲れでしか?」

「あ、いや、もう普通に飲める。水の味はしないしなかなか美味いですな。」


 今晩の鍋には大きなカニが入っている。ただ焼き魚の代わりに赤い肉の塊が串に刺されて運ばれてきた。別に大きい肉も。


「ヴァルさま、ただ今上がりましたのでお持ちいたしました。」


 赤くて大きい肉の塊。


「おうそうか、獲れたのか!」

「はい、ここで使うには大きいですが……包丁です!」


 一mほどの長身の刀みたいな幅の大きい包丁だ。


「お前、先を押さえていろ、いいか力一杯にだぞ!」


 と言われてワルスが身を乗り出して包丁の先を押さえる。ヴァルは顔にしわを刻んで柄を握りしめて一気に下した。肉は簡単に切れた。新しい肉だけあってワルスとヴァルに血がはねた。


「おうおう、こやつも運がなかったのだな~。」


 と言うヴァル。生き物に哀憐を感じるのだろう。肉になった食べ物でも姿が目に浮かぶのだろう。


「肉に憐れんでおられるのですか?」

「そうだが、お前はどうなんだ?」

「はいパイソンを捕まえて絞めましたがそうですね、自分で絞めたことは一度もありません。全部他の者が処理したと思います。」

「失礼な事を言った。伯爵さまだからそれは当然か。先にこの肉を食ってみろとても旨いぞ。」

「?? さくらと同じ味がいたしますが血の味が少し強いですね、でも旨いです。なんという動物ですか? 馬ではありませんよね。」

「昼まで泳いでいたんだぞ、どうして馬が海で獲れるんだ。」

「え”、、魚でしょうか?」

「そうだ魚だ、クジラという馬の百倍もあるような魚だ。どうだ旨いだろう、旨いと言え!」

「はい言っているではありませんか、つい先日食べた老馬よりも旨いです。」

「お前、老婆を食ったのか?」

「人ではありません、考えた漢字です。気にされないで下さい。」


 ヴァルは次にワルサとサワの板にクジラの生肉を載せた。


「さぁ食ってみろ!」


 一口入れて目が白黒している。サワは理解できないがワルスには予想ができた。


「これが噂のクジラですか、信じられません。魚とは違う動物の肉です。」


 ルイ・カーンもワルスも馬の百倍というのはウソだろうと思い気にも留めずにスルーしていた。


「オヤジ~大変だ、怪物の胃袋からこんな物が出てきた。なんだか分からん。」


 オヤジと呼ぶからに慌てて入ってきた男は長の息子と思われる。


「チシャどうした。……それがその??」

「おう、そうだ、なんだか分かるか!」

「…………。」


 左には人物の立像が、右半分にはなんだかゴワゴワしたような形だった。


 ルイ・カーンにもワルスにも解らないが、上半分は女神像のように見える。だが下の方が解らない。彫り掛けの像だろう。


「あんたらは西の人間だ、見てくれ。」


 と、ひとしきり撫でまわした女神像を伯爵に手渡した。するとルイ・カーンは、


「オオオオオォォォォオオオ!!!!」


 手にした瞬間に奇声を発して卒倒した。この場の全員が伯爵に気を取られている間に彫り掛けの部分が人狼へと変わっていた。この事にいち早く気付いたのがサワである。サワにも女神像から不思議な感じが伝わってきていた。


「こ、これは、ルー・ガルー!!」


 ルー・ガルーとは男の人狼を意味する。横が女性の立像だからそう思ったのだろが、今は解らない。ルイ・カーンの横で慌てるワルサを後ろに引きずり、サワは主人のおでこに手を当てて気を送る。


「ご主人さま、死なないで下さい、戻ってきて下さい、ご主人さま!」


 サワから引かれて転んだワルスが、


「ルイ・カーンさま、起きて下さい、ルイ・カーンさま!」


 気が気ではない。ヴァルや給仕に来ている女もだが、ラビー次長も口と目を大きく開いて見ている。


「ご主人さま、死なないで……ご主人さま!」


 サワの額に汗が流れだした。サワは必死にご主人さまと呼び続けて気を送っているのだ。


「おいサワ、それでいいのか、大丈夫なのだろうな!」


 とワルスはルイ・カーンとサワの顔を交互に見るのだった。


「ご主人さまは大丈夫です、もう少しで戻られます。」


 と言うのだが、今度はサワに異変が起きた。


「ワ~~~、あ~~~~、いや~~~、ぎやぁ~!!!!」


 どしたのだろうか、サワも奇声をあげて後ろに仰け反ったというか、何かに弾かれたように飛ばされていた。サワは大きい口を開けて大きい目になり主人のルイ・カーンを見ている。


「ご、ご主人さま~……。」


 小さい声でそう言った。今度はサワの異変に驚くワルサはサワに寄り添う。


「待ってワルス。私はもう大丈夫だから、大丈夫……。」


 背中を押されて起き上がるサワ。そうして四つん這いになりルイ・カーンの元へ恐る恐る戻った。


「うう、ご主人さま~!」


 サワは涙目になり、先ほどのようにルイ・カーンの額に手を当てて気を送る。サワの驚いた表情がみるみる優しい顔に変わっていく。それから声を出して泣き始めた。


「う、う、ご、ご、ご主人さまー。…… まぁ、なんという運命なのかしら。」

「サワ、おい、サワ?」

「うん、もう大丈夫。大丈夫ですよ、ご主人さま。もう少しで私が受け入れてあげますから、もう少し……。」


「受け入れる?……。」


 サワは何を受け入れるというのだろうか。傍のワルスには解らない。


 サワの泣き顔が笑顔に変わった。そうして額に当てている手を放した。


「ご主人さま、このままゆっくりとお休みください。」

「サワ?」


 ワルスから呼ばれたが無視して、


「ヴァルさまお騒がせいたしました。主人は深い眠りにつきました。このまま休ませて頂きます。どうかお食事を続けられて下さい。ワルスも・・ね。」

「お前はどうする、ルイ・カーンさまについているのか?」

「いいえ私も一緒にお食事を頂きます。ただ、」


 と言ってルイ・カーンの顔を覗き込む。


「私の膝枕で休んで頂きますので、あとはワルスにお願いします。」

「あぁ、それくらいなんでもないよ。」

「だったら、あ~~~ん。」


 赤らめた顔になりワルスはサワの口に肉を入れてやった。 



*)壊れた女神像


 サワも女神像を手にした。異様な気が伝わってきたがそれもだんだんと弱くなった。


「ヴァルさま、この女神像は不思議な気もいたしますが、やはり……。」

「ワルス、これをヴァルさまに渡して頂戴。」

「いいよ、この像がどうしたのだろうね、なんともないぞ。」


 と言いながら像はワルスの手を介されてヴァルの手に戻った。


「なんだ、これは、壊れているぞ。ヒビが入っている、あららら!!!」


 女神像は長の手の中で少しずつ壊れていった。最初は人狼の部分が、次に女神の足元が、そして胴体、最後は顔だった。壊れた像は何も残らなかった。


「不思議な像だな~どうして壊れたのかな。」

「はい長い間海の水に浸かっていましたから、きっと空気に触れたからでしょう。ままある事だと思われます。」


 しかし壊れて消えていくことが他にあるはずもない。


「嬢ちゃん、伯爵さまはそのままでいいのか?」

「はい、のけ者にした方が可哀そうです、私は不自由で少し疲れますが、今はこのままで居ります。」

「嬢ちゃんが言うのだったらいい。さぁ怪獣クジラを食べようか。」

「はい、」x2


 飛び込んできたチシャも居残って食べだした。その間にもサワには主人であるルイ・カーンの半生が記憶が流れ込んでいた。時々泣いたり笑ったり、口を尖らせるサワだった。


「まぁ、なんという数奇な人生なのかしら!」


 食事が済んで男たちは女に引きずられて退席していく。


「こん人、食べ過ぎ、重た過ぎ!」

「そうですわね、うちのシャチもだわ!」

「あら、うちのウサギは軽いわよ。」


 ラビーのことである。細身であった。この女房が一際ひときわ大きい。



 全員が退席した後に、


「ワルスお願い。今晩だけだからご主人さまと添い寝させて頂戴。明日になってもご主人さまには内緒にしておくから。」

「お前が……言うのなら仕方ない。浮気はするなよ。」

「えぇこれは浮気ではありません治療なのです。ご主人さまは巫女から力を受けないと死んでしまうという、ジンクスが付きまとっていますから。」

「それは本当か?」

「ご自分でも分かりますでしょう? つい昨年まで死ぬような思いをして、この私から助けてもらったではありませんか、もうお忘れで……??」


「?……いや思い出した、あれと同じなのか? ルイ・カーンさまも人狼なのかい?」

「たぶん、そうだと思いますが、でもワルスとは大きく異なります。詳しくは解りませんわ!」

「そういうものか、俺はどうしたらいい。」

「はい気が散るのでしたら外でお休みください。」

「俺は気にはならないぞ、ここで寝ても何とも感じないぞ!」

「だったら外に出て下さい。」


「うん、そうする……。」

「ごめんねワルス。明日にはだっこしてあげるね!」



 翌朝早く目が覚めたルイ・カーンは、


「俺はどうしたんだろう……。」


 と言いながら辺りを見回した。横にはサワが寝ている。


「あぁサワ。ありがとう生き返ったよ。」


 のそのそと起き上がる。サワはルイ・カーンよりも先に起きるはずだった。


 暫くしてサワが目覚める。


「あらまぁ、不覚だわ。」


 サワは起きてルイ・カーンを探す。きょろきょろと探すでもなく、足が向いた先の岬にルイ・カーンは立っていた。サワはバツが悪そうに声をかける。


「ご主人さま?」

「あぁサワ。来てくれたか、ありがとう。」

「いいえ、とんでもありません。もうお身体は……。」

「すっかり良くなった。昨晩の事を聞いてもいいか。」


 ルイ・カーンは自分が倒れた後の事を詳しく聞きたいのだという。そういう意味での聞いてもいいか! と言った。尋ねたいという意味ではない。サワの気分次第で話してくれればいい、というルイ・カーンの思いやりだった。


「そうですね、ご主人さまはお倒れになって昏睡されただけですわ。なにもお話することはございませんが……。」

「ございませんが、なんだ!」

「ご主人さま、飲み過ぎて一気に酔いが回ったのですか? そうでしたら驚いた私たちにお詫びを言って下さい、要求します。」


「ありがとうサワ。一晩でも俺の嫁になってくれた。お蔭で生きている。」

「んまぁ! なんという事を言われますか、私はただ単にご主人さまが酔いで体温が下がり過ぎたら大変だと…そう、そう思ったから、」

「うん分かっている、もう、なにも言わなくていい。」

「ですね、もう夜の事は忘れました。」

「旦那はどうした?」

「はい記憶を消してやりましたわ、でないと納豆のようにいつまででも糸を引く性格ですので、こうするしか方法がないのです。」

「では、なにも?」

「言わないで下さい、お願いします。」


 にこにこした表情に戻ったサワは思いっきりルイ・カーンに抱き着いた。


「あれれ??」

「いいのです、これが最後ですよ。」


 と言いながら瞬く間にルイ・カーンの記憶を消した。


「サワ、無駄だ。」

「??……。」


 ルイ・カーンの記憶は今後一切サワには操作ができなくなった。記憶は消えなかった。ルイ・カーンといえば夜に温かい夢を見た覚えが残っているが、内容はすっかりと忘れていた。


「ご主人さま?」

「あぁ、あの島のはるか遠くに、なんだか懐かしい気がするのだ。あの島の先には何が在るのだろうか。」

「はい島の先には大きい島が在ります。でも、はるかかなたと言えば……ゴッドランド島でしょうか。その先はスエーデン、デンマークと続きます。」

「ゴッドラ・・……。」




 1246年10月1日 デンマーク領・エストニア


*)ルイ・カーンの変化


 ルイ・カーンは毎朝この岬に立ち海を眺めるのが日課となった。


「ルイ・カーンさま、今日も?」

「あぁ一段と強く感じる。あれは俺の?……。」

「お姫様かもしれませんね、そう、ソフィアさま。」


 ルイ・カーンははっとしてサワの顔を見た。それもとても驚いた顔つきでであるが、サワはそんなルイ・カーンを無視するがごとく遠くを見つめていた。


「サワ?」

「はい、そうでしょうね、私もそう思います。」

「サワ。」 

「??……。」

「……明日から西へ旅に出る。」

「はいご主人さま、調査に行かれるのですね?」

「……。」


         

 そのころソフィアのペンダントに……。   

      

「お姉さま、それは?……。」

「なによリリーこれは?……。」



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