第130部 ルイ・カーンによる聖ドミニコ祭
1246年7月23日 デンマーク領・エストニア
*)ルイ・カーンの東方見聞の顛末
サワはギルドのオヤジに、
「シュモクザメさん、すみません。私が悪いのです。現場の事を思いいたっておりませんでした。明日には修正いたしますので今日だけ怒られて下さい。」
「あいよ、わしの可愛い孫だ、これくらいはなんでもないさ!」
(明日には修正いたしますよ、ごめんなさい、おじいさま!)
翌日になりルイ・カーンとその従者の二人が建設現場来た。
「おう、随分と出来たではないか、すごいぞ!」
「これは伯爵さま、それに御者さま!」
「私はワルサ。馭者です。馬の係りです。」
「はい、御者(ルイ・カーンの部下)ですよ、御機嫌よう!」
とサワが言う。ギルド長の孫夫婦の記憶はすべて無くされている。今はルイ・カーンの従者という記憶に変わって。
御者と馭者は同じ読み方でも二つの意味があります。一つは部下で一つは同じで馬車を扱う者です。ある作品に「女の従者と御者、それに兵士」と書かれてありました。主人は領主です。こうなると御者は部下か馬車係りか判断に困ります。女の従者が先にきていますので男は馬車係りでしょうか。ちなみに兵士はその領主の家来ではありませんでした。すると男の従者が居ないですね。
「建設ギルド長、俺はひと月ほど東と南に行ってくるが、パブと宿屋の建設は任せても大丈夫か。」
「あの一軒目と同じように建設すればよろしいのでしょうか?」
「あぁそうだ。内装は指示したところまででいい。今まで休み無く働いただろうから、なんなら休暇でもいいぞ。」
「いいえ休暇は取れません。伯爵さまのおかげで民家の建設が閊えております。休もうなんてこれっぽちも考えてはおりません。」
「ご主人さま、同じフレーム(文章)は使わないでください。」
「サワ、なにを言う。初めて言うのだぞ。」
「あ、すみません。なんだか三日前にも聞いたと思いまして。」
「三日前??」
と、ルイ・カーンはあいまいな記憶に頭を振る。
「ご主人さま、頭痛ですか?」
「そうだな、以前の記憶に混濁が見られる。どうしてだ!」
「きっと働き過ぎでお疲れなのです。」
「ワルスとサワ。お前らはいつから俺の従者になったのだ?」
「もうひと月になりますわ。」
「ひと月??」
「頭痛がひどくなりますから、もう考えるのはお止めください。」
「そうだな馬車は……。」
「はい、すぐに出発できますよ。」
「随分と早いな。」
「三日前と同じですのも。」
「三日前??」
1246年7月26日 デンマーク領・エストニア
*)ナルバ
「わ~ナルバですよ、ご主人さま。」
「サワ、いくら懐かしいからと騒ぐなよ。」
「だ~ってワルス。……ここで巫女として戦ったのよ。」
「そうだったな。でも今は1246年だ。」
ルイ・カーンには二人の会話は届いていない。いつものように街の見聞に注意を向けていた。
「ここはどうして内陸部なのだ?」
「はい海が無いからです。」
「それは!……そうだが、」
「はい、海沿いには建設できないのです。海面が高くなってしまい前の村が沈んだからでしょう。」
ナルバから北は低地で利用できないのだろう。道も造れないのなら発展の余地もない。適当な小高い丘があるのはここしかなかったからか。ナルバ川が運河として利用できる。当時は川が重要な交通手段に使われていて、川が在る処がいち早く発展していく。
「東へ向かってくれ。」
「はい、ルイ・カーンさま。」
三人は二日間馬車に揺られて東に進んだ。
「どこもかしこも森ばかりだ。オオカミしか生きられないな。」
「いいえ、そのような事はございませんが、住む人間が居ないだけです。」
「そうだな、人が出なければオオカミは出る!」
「はい戻りましょう。ここは道も在りません。」
東へ伸びる細い道は在る。だがワルスが言う道とは交易路、多数の馬車が通る道という意味合いだ。
「そうだな、ナルバ川を遡って南に行く。馬は食え!」
「え~嫌です。こんな可愛いお目めの愛馬です。食えません。」
「そうか、船に変身させろ。それが出来なければ馬刺しだ!」
「それはどれもこれも、みな同じです!」
三人は船でナルバ川の両岸を見て進む。
「そうか、」
「はい、人気がありません。ここも開発は出来ません。」
「ロシアには人が少ない。146,804,400人だがこの広大な大地にたったの一億と五千だ。これではね~。」
「そうですね、発展の余地がありません。他国を侵攻するしか富の生産が出来ないですね。」
「そうだな、人民の三千人を軍隊にすれば、」
「はい、二万とも三万ともの農民に匹敵しますもの。」
「だな、それだけの員数の富が得られるのならば、農地を増やすよりもさらに富国強兵が早くできる。」
「ロシアは将来のエストニアの最大の敵国になる。二・三百年も過ぎるとエストニアは無くなるかもしれないな~。」
「それは北に位置するスウェーデンにも言えます。北からの侵攻も考えられます。」
「そうだな、西のドイツも侵攻してきているし。」
「もういい、旅はここで終わりだ。エストニアに帰る。」
「ご主人さま、まだ十日目ですよ。物語が進みません。時代考察はどうされますのでしょうか? まさか!」
「そうだ、上のことを考えると面倒になった。東は面白くない。省略する。」
「ではどうするのですか。」
「ワルス、自分の頭で考えろ。」
「私でしたら、西のグダニスクからライ麦を購入します。」
「そうするか。ドイツ騎士団が農民を殺してくれるから、しばらくは移民の受け入れと農地の開発を優先します。」
「それは違うぞ、騎士団は農民は殺さない。大事な農産物を製造する奴隷だから殺したりすると自ら農地に立たねばならん。」
「そうですね、勉強になりました。きっと読者さまも……。」
「サワ、すまないが、また飛んでくれないか。」
「飛んで川に落ちろと!」
「それでもいいな。帰えるぞ。」
「いいえ、落ちるのはご主人さまですよ!」
「へっ!」
この貴族はほんの数日で東の発展は無いと感じとったのだ。
「なぁワルス。デンマークがどうしてエストニアを手に入れたのだ?」
「はいデンマークには国土がございません。ポーランドと違い国力が弱いが為にエストニアは侵攻されたのでございます。」
「そうか国力が弱いのか~、するとここはすぐにドイツ騎士団に侵攻されてしまいそうだな。」
「はい、デンマークは金欲しさに売却するでしょう。一億五千の銀マルクで。」
「それなら俺が買い取るか!」
「一億の銀マルクでですね。」
「そうだな、時期に金貨が数えられないくらい振り込まれるからな。銀マルクに両替できる方法を見つけるよ。」
エストニアの地方豪族は西側のキリスト教の布告をきらい、対抗手段としてロシアの手を借りたのだ。これにより内紛が続いた。
これに業を煮やしたエストニアはデンマークに武力の援助を乞い、そのままデンマークに乗っ取られたというのが顛末だろう。
デンマークの統治はエストニア地方の領主は気に入らないから従わない。働かないし人口も少ない増えない。
デンマークはドイツ騎士団にエストニアの領土開発を依頼した。それによりエストニアは飛躍して発展していく。その手腕はジンギス・カーンにより土地から追い出された南の他国の農民を手当たり次第に連れてきて開発に当たらせた。騎士団の力が増しデンマークはドイツ騎士団に叙任を授けるのだが、これはデンマークの国力が弱まることを意味する。勝手きままな貴族が多数増えて統治が出来にくくなった。
エストニアはデンマークを呼んだ。デンマークはドイツ騎士団を呼んだ。最終的にはエストニアはドイツ騎士団の領地となった。
1246年7月26日 デンマーク領・エストニア
*)デンマークの侯爵家は伯爵に鼻の下を伸ばす
「ルイ・カーンさま、お願いがあります。」
「なんだ、サワ。」
「はい、帰りましても、建設ギルド長には怒らないで下さい、でないと。」
「あぁそうする。可哀そうだしな。」
「ルイ・カーンさま、今後の計画が決まりましたね!」
「あぁそうだ。地方でくすぶる豪族を手なずけようか。」
「暗殺が早いと思われますが、どうされますか?」
「殺しはいかん、殺しは。俺はキリスト教は嫌いだ。」
「はい。では隠れキリシタンを援助されますか!」
「そうしようか、金とライ麦で改宗させる。」
「はぁーーーーー?? 意味が解りません。」
「教会を建てて回る。」
「それが、どのような意味があるのです?」
「侯爵には寄付が必要だ。」
「はぁ、それはそうです。伯爵の位は寄付でなりたつのですから。」
「だったら、どうよ。」
「はい、教会を建てれば侯爵は喜びます。地方豪族の生き残りは嫌いますが。」
「サワ、お前の魔法で住民の記憶を挿げ替えてしまえ。できるか。」
「はい喜んで……、と、言うとお思いですか! 出来ません。」
「そうか出来るはずだが。」
「ルイ・カーンさま、住民の目の前に金貨を積んでいきましょう。それを見せて農地を広げさせるのです。そこで出来たライ麦をルイ・カーンさまが買上げる。そうしましたらうるさい住民は黙って隠れてしまいます。」
「ご主人さま、隠れキリシタンの誕生ですね! なんと素晴らしいことか!」
ワルスはルイ・カーンと言い、サワはご主人さまと呼ぶ。
「ワルス、少し違う。積み上げるのは金貨でなくてライ麦の袋だ。金はあっても住民には食糧は売ってもらえないからな。金貨は役に立たないのだよ。」
「あ、そうですね。ライ麦の種も積み上げて開墾させる。」
「自給ができればもう、住民は大人しくなる……ですね!」
「そうだ、出来たライ麦は俺が買い取り、侯爵の袖には金貨を入れてやる。こぞってどこの侯爵も鼻の下を伸ばすさ、この俺にな!」
「でも、それには時間がかかります。」
「早くて三年だろうな。……三年は長いな~!」
「いいえ、すぐに過ぎていきますよ。」
「いや、あいつらには長すぎるかもしれない……あと五年だろうか!」
「ご主人さま、方向を決めるのに長すぎです。四千文字も使いました。」
「構わないさ、読んで苦労するのは俺ではない。」
1246年7月31日 エストニア・ハープサル
*)ある地方豪族と伯爵
ハープサルはタリンの西におよそ八十k行った所にある。ここにルイ・カーンが目を付けたのには理由があった。シャーレの小高い丘に立ち、
「どうだ、言い眺めだろう!」
「はい綺麗な内海でございます。天然の良港ですね。ここにもルイ・カーンさまの館を築かれますか?」
「あぁ、それもいいな。その時はお前が支社長だぞ!」
「は?いぃぃ~? いやでございます。ルイ・カーンさまのノルマにはとてもついてはいけません。」
「こらワルス。そのようでは私の夫たる資格をはく奪するよ。そうね、ご主人さまのお嫁さんになります。」
冬は強い西風が常に吹いている。ここの内海は西に口が開いていた。
「だが西に口が開いている。強風には弱いだろう。」
「ルイ・カーンさま、今日も良い天気ではございません。実は西には小さい島が在ります。」
「あぁ目先に見える、それがどうした。」
「はい、さらに先には大きい島がございます。ですから波と風が弱いのでございます。やはりここは良い港に変身いたしましょう。」
「そうか、見えないな~。」
「島がでしょうか、それとも未来の展望でしょうか?」
「街の探検に行く。お前ら、飲み過ぎるなよ。」
「はい、ご主人さまが飲まなければ、万事OKでございます。」
「お前、俺の女房になったつもりか??」
「はい、うちの主人にはもう見限りました。カーンさまの名前を継ぎたいです。」
「チョベリ、グー!」と言うワルサ。パブなど無いことを知っている。
*)プリムラの億り人
プリムラとは桜草の園芸種。ヨーロッパが主な生産国です。春に咲く最初の花という意味です。今日ネットで見た億り人。ザ・ササツの被害者らしい。この二つをくっつけました。
琥珀の産地はグダニスクとその東のカリーニングラード州、ロシア領である。どうしてかポツンと存在するロシアの飛地だ。植物片も混ざったカラフルで綺麗な琥珀。エカテリーナ宮殿の琥珀の間が有名だという。
プリムラ村は伯爵が見初めたハープサルの小高い丘に在る。ルイ・カーンが初めての、いちから造りだした集落。だからプリムラと名付けた。
ハープサルの街は1279年からになるらしい。このころはまだ小さな寒村に過ぎないのだろうか。地方の豪族にしたらそのような事はどうでもよい。
実に不可解な干潟・泥の海がある。薬用に使うというが有明の干潟とどう違うのかは不明。
ルイ・カーンは、
「へぇ~そうなんだ。ここの泥が売れるのか! では、さっそく瓶に詰めて諸国へ輸出しようか。」
「ご主人さま、それは無理でございます。まだ認知されておりません。」
「いつになれば有名になるかな。」
「はい、あと六百年! 後。」
「だよね~。サワ、他になにか特産品はないかな。」
「琥珀とコーパルが少しですが産出されています。このさいです。インチキをいたしませんか!」
「どんな??」
「コーパルを琥珀と言って売りましょう。住民には劣等品と言って買いたたく。」
「女の口が言う言葉ではないな。ワルサが言ったのだろう?」
「はい名前が、悪サ! ですもの。」
「お前、それを言う為に?」
「当然です。もうワルサが戻りますから話を聞きましょう。」
サワは海から上がる泥の物体を見てワルサが戻ると言った。
*)琥珀とコーパル
「え~と、ルイ・カーンさま。知識もありませんのでどのような報告でもよろしいでしょうか。これは村の女が髪飾りにしていましたので、見つけたのです。すわ! 琥珀!! と思ったのですが、柔らかすぎるので??? と思いまして。女から買い取りまして色々と調べてみました。」
「女は泣かなかったか?」
「はい、どうかお譲り下さい、嫁の頭に付けたい、と泣いて頼みました。」
「まぁうれしい! はやく頂戴よ、その琥珀。」
「もうない。酒に入れたり、火を点けたりして燃えてしまった。」
「ばこ~ん!!」 「アイ!!」 「ざけんな!」 「はい。」
「ワルサ、先だ。」
「はい、ここではミョウチクリンな泥が有名ですが、その泥に混じって見つかるというのです。ちなみに……。」
「そうだな、七月だから海水浴には良かっただろう。」
「生憎と引き潮でしたので泥浴でした。ですので十個は見つけて来ました。これらを見てください。」
「ひぇ~泥臭い!」
「そうですか~? 少しも臭いませんが、ルイ・カーンさまの気のせいですよ。」
「表面がざらざらしているから磨かないと優劣が解らないな。これをどうやって磨くのだい?」
「根気よく麻布で磨くしかありません。とても大変ですが、柔らかいだけあって完成は早いです。他に方法があればいいのですが。」
「そうだよな、水車が在ればいいのだがここには造れないな。」
「村の連中を集めて工房を造りませんか? 秘密の工房! なんと美しい響きでしょうか。」
「そうだな、豪族も手懐ける必要もあるからここに村を作るか。」
「サワ、なにか良い村の名前はないか。」
「はい、プリムラ”はどうでしょうか。ご主人さまの最初に花咲く村”という意味でございます。」
「おう、サワ、それはいいな。俺だったらプリマ村にする。」
「あんたはダサいからだ~め!」
「おいおい夫婦で先に行かないでくれないか。」
「ご主人さま? この村で億り人”になってください。ご主人さまでしたらすぐに億の金が稼げましょう!」
「億り人か~、なんだかいい響きだ、気にいった。村長はサワだ。」
「きゃっ! イヤだ。」
この地の豪族には本当の目的は言わずに、港の建設と村の住宅の建設を申しでた。ここで採れるコーパルを全量と引き換えにしたいと言った。それと丘に工房の村を造りたいと言うがこれも了承された。
ルイ・カーンは悪路は避ける意味で、海上輸送で資材の石や木材を嫌だと言う建設ギルド長も人足も五十人からを運んできた。
「お前の故郷だろう、ここに館と村を造ってくれ。あとは、海には港だ!」
「ボ~~~~ン!!」
と汽笛のような悲鳴をあげるギルド長のシュモクザメ。
「旦那、いや伯爵さま、どこでそれを!」
「んん? どうした、何か言ったか!」
「いいえ、な~んにも。」(この俺は地中海の生まれだ)と思うがどうでもいいことだ。
*)ひとりのどでかい女
横から見ると前に二段、後ろに一段と飛びぬけて出ている淑女がいる。名をシビュラ”と言うのだが、どうしてかギルド長と仲が良くなった。
「なぁギルド長、あの女を孕ませたのかい?」
「いいや最初からだよ、でかいケツはよ。」
「いやいや、それは後ろがだろう、俺が言っているのは前の二段目のでっぱりのことだ。確か以前はこんなに出てはいなかったと思うのだが。」
「あぁあれな、俺と毎晩毎晩に会っているからさ。気にするな。」
「あの女の家を、お前の宿にしているのかい?」
「いいや、伯爵さまに言われて建てたパブでだよ。」
「そうか~二階は宿屋だもんな!」
なんのことは無かった。シビュラという女は酒が好きで飲んだくれているのだ。それも仲良く二人で。お互いが名乗らずとも、地中海の産物というが分かったらしいのだ。このことは伯爵は知らない。どうもポローンとギルド長が女の心を射抜いたのだろう。女のシビュラは羊飼いの仕事をしている。このシビュラの髪飾りをワルサが見つけてしまった。
美容と健康に海の泥を身体に塗り付けていてとても美人なのだ。このでかい女が泥に飛び込んだら、琥珀とコーパルが宙に舞い上がるという。
「そんなのはあり得んだろう。」
とルイ・カーンは言う。
「いいえルイ・カーンさま、それが事実でございまして、村では、コーパル女と呼ばれているのです。」
「????。。。。。。……。」
理解できないという顔。
「コーパル一個で銅貨一枚」という立て看が多数海岸に並んでいる。
*)八月の熱い夏祭り
「はい、ガタリンピックでございます。」
豪族の長が号令をだす。
「今年から泥の中からコーパルを一番掘り出した者を優勝者とする。みんな頑張ってくれ!」
「伯爵さま、号令の鐘を!」
「カーン!」
ムツゴロウも逃げ出す熾烈な戦いが始まった。
「銅貨よ! 競争よ! 戦争よ!」
新しい琥珀の巫女が現れた。名はシビュラ。地中海のアポロンの神託を受けた巫女。ヒグマの先祖だ。
1246年10月20日 ポーランド・トチェフ
*)トチェフへの訪問者
ある日、トチェフ村に三人の男が訪ねてきた。なんでもカブの種子を買いたいのだという。オレグが居たらきっと疑義の念を持つのだろうが。残念ながら村の番人に該当する男が居ない。唯一は、
「ソワレと言います。が、それだけの為に?」
「はい、エストニアから出てまいりました。何か可笑しいでしょうか?」
「はい、そのような貧乏くさい取引には応じられません。」
「そうでしょうとも。ですのでこのような献上品をお持ちいたしました。どうぞご検分をお願いします。」
代表の男がソワレに手渡した物は黄色の小さくて光輝く宝玉・琥珀であった。
「こ、これは、ただの燃料ではありませんか。火に入れましたら良く燃えるのですよ。燃えなければ偽物ですね。」
「はい、もう少しお持ちしておりますので、どうぞ、確かめて下さい。」
「いや、その、……本当に燃やしてみます!」
「どうぞ、ご自由に。」
出し抜かれたソワレである。貴重な琥珀を燃やすと言えば動揺するから本物と思えるという判断が間違っていた。男はにやりと笑うが、床にひざまずき俯いているからソワレには見られていない。
「では、他に確認する方法がありますか?」
「はい、領主さまにお取次ぎをお願いします。領主さまにはこちらの特大のキャッアイでございます。」
「それはだめです、出来ません。もっと小さくて……そうあまり光らない物がいい。光るのはだめです。」
「そのような個体はございませぬ。モスキー入りの琥珀でよろしければ!」
「いや、それは……いいでしょう。領主さまにお見せいたします。」
「はい、トカゲと一緒でしたら恐竜も作れます。」
「残念ですね、マルボルクでしたらお高く売れたかもしれません。」
「ジェラシー、パークですか!」
「はい、うらやましくていつも指を咥えて見ておりました。」
「そうですか、第60部 マルボルク 恐竜の公園を読んでみます。」
「では隣のパブでおくつろぎください。明日には答えを持ってまいります。代金は私がお支払いいたしますので先の琥珀は頂きます。」
村での会見場としてオレグが小さい家を建てている。もう立派な館を建設したから、いきなり館に新しい客は招待が出来ない。また招待する必要もない懸案事項はこの小さな家で十分なのだ。
隣のパブとはグラマリナのパブである。領主自らが覗いて確認が出来る。入室した瞬間から面接が開始される。なんだか就職試験のようだ、姑息だ。こんな会社には入らないがいい。
顔を近づけて小声で三人は話し出した。
「おい、分かっているな、とにかく言動には注意しろ!」
「はい、承知しております。」
「よし、作戦開始だ!」
「お!-、……。」
「バカ、黙れ。もう逸脱しやがって、だから俺は連れてくるのが嫌だったんだ。だからさ!」
「はい作戦開始します。」
三人の密談は終わり普通の親父と息子のような会話を始めた。
「なぁトム。」
「なんだい兄さん。」
「ここの領主は物好きらしいよ。」
「なぜそう言いきれるのだい?」
「だってあの方が言っていました。」
「なんと、」
「琥珀を酒で磨くと!」
「あちゃ~そうされると物が偽物とばれるな、すぐに荷物をまとめて逃げるぞ。もう、すでに偽物とばれているかもしれない。」
「酒で磨くとどうなるのですか!」
「あぁ表面が溶けるんだ。こんなふうにな。」
「あちゃ~そうかい。だったら食い逃げで行こう!!」
この会話が普通ではありえない。コーパルを持ち込んでいたのだ。
*)コーパル(琥珀になり切れていない若い琥珀。アルコールに溶ける。)
コーパルを掴まさられたソワレは二度も騙された。
「ソワレ、玄関にたくさん塩を撒いておくれ!」
「はい奥様。」
「あはぁ~! これはお酒に溶けないわ、やったね!!」
ソワレが手にした琥珀は本物だった。同時に、
「これは本物だわ! ソワレには内緒にしなくちゃ。」
グラマリナもまた本物の琥珀だった。コーパルは低アルコールの酒には溶けない。事実はどうなのだろうか。
二週間ほどしてまた訪問者が来た。夫婦だという。ソワレは会うこともなく元騎士団の三人を差し向けて追い返した。
結果、トチェフは大きな損をしたし、プリムラ村は野菜の種を手に入れられなかった。
十月になりトチェフの村は活気づいた。オレグの部下たちは新しい水夫と共に船に乗り、ライ麦の購入と輸送をこなしていた。他……略。
ビスワ川沿いの土地も開発が進む、大いに進んだ。
「伯爵さま、これからどちらへ?」
「お前がドジを踏むから帰れないだろう。グダニスクへ向かってくれ。もう二人は船も購入している頃だろう。」
「船で帰るのですね。」
「ドジの三人組はそこで首切りにする。使えない男はもういらない。勝手にしやがれ。船には乗せてやらない。」
ルイ・カーンはワルスとサワに命じて少しばかりのカブの種子を買わせた。唯一デーヴィッド商会が扱っていたのだった。ライ麦の種子も購入した。
伯爵はこの地で大量の琥珀とコーパルを売りさばいた。グダニスクの琥珀が大暴落を起こした。良くできたまがい物が大量に出回るから、噂で広まれば直ぐに売りに出る。出ても買い手がつかない。さらに琥珀の価格が下がる。
「ようし、ここまで下がればいいだろうか。もう少しで-六十%だが、あまりがめつくと返って損をするだろう。二人で早急に買い集めてくれないか。値上がりも早いから港は売ったコーパルが多いからな、本物が多い街で買い集めろ。」
「はい。ご主人さま、幾らまでならよろしいでしょうか?」
「手持ちの金の全部だ、金貨が無くなるまで駆け引きを楽しんでおいで。」
「はい喜んで~!」
「お前らは村に帰りたいか、帰りたいのならば人を五人ばかし攫ってくれないか。琥珀の宝飾の職人だ。攫って船に載せておけ。」
「荷物として載せるのですね!」
「そうだとも、乗せたら逃げてしまうだろうさ。」
グダニスクは琥珀の産出が世界一だ宝飾の職人も多数いる。五人くらいが蒸発しても影響はない。
ルイ・カーンは馬車でグダニスクを見て回った。視点が変わると見えてくるものも違ってくる。琥珀の店があることを知らなかった。それも多いのだ。
「来年の春にもコーパルを出して仕掛けるか、うんうんそうしよう。」
ルイ・カーンは船に戻り、
「来年の七月の二十日から八月の十日まで、琥珀の出店・露店を出す。そこで今回の琥珀を大量に売り出す事に決めたよ。」
「ルイ・カーンさま、いよいよですね。でしたらもっと買い込みしませんと来年は面白くはないでしょうか。」
「4月になればまたコーパルを出して市中を乱す。あと一回だけだ。」
「あは~ん、ご主人さまもワルスに染まりました、ですね!」
「たぶんそうだろう。……俺が生きている限り露店は一生続ける。」
「パレードも? ですね!」
「もう、ドンタクにしてやるよ。」
「ポルトガル語で、お祭り”ですね!」
1260年から始まった聖ドミニコ祭の起源である。もうあり得ない。
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