第13部 ポーランドの村々を訪ねて!
1241年4月14日 ポーランドのコバレ
*)コバレで行き倒れ?
リリーとゾフィを待つ事一時間。俺は人間が出来ていない、待てないのだ。空腹には耐えられない。
人間は、腹減った、寒い、寂しい、金が無い。この四点で自殺までしてしまう。殺人も行うのか? と考えたが、自殺者に比べたらはるかに少ない。殺人には宗教が大いに関係していた時代だった。
俺は我慢できずに道端に寝っ転がる。ソフィアは女の子だ、へたり込んでいるが俺ほど行儀悪くは無い。
「あいつらは向こうで食っているんだ。きっとそうだ。殺してやる。」
おやおや、空腹で殺人は無いのではなかったかしら? 持論と違うようね。
ようやく二人は帰ってきた。
「お帰り! もう待ちきれなかったぜ。何かあったんかい?」
「な~に、大した事ではないよ。フェアリーハンターと鉢合わせしただけさ。逃げていたらお店が閉まってさ、開いている店を探しててこの時間さ。」
「あらま~、本当に大丈夫でしたのね。此処に居るのですもの!」
ソフィアが心配して言う。
「そうさ、リリーの魔法でどこにでも行けるから捕まらないよ。」
ゾフィの変身からノアの姿に戻って言う。
*)ゾフィの変身=ソフィア似の女の子の姿。ノア=いつものお気に入りの妖精のスタイル。
「お姉ちゃん、早く食べよう。私もお腹がペコペコよ」
リリーは右手の指を咥えて食べ物を見ている。リリーの視線は? ゲートの中の食べ物だ。
リリーはゲートの中に戻って料理を取り出した。次々に持ち出される料理に俺とソフィアは感動したのだった。でも? 微妙に欠けていたり少なくなっているのは不自然だ。
「お二人さんはもうご馳走様! していいんだよ。怒らないからね!」
俺は気にもしてはいないが、言わずにはおけない性格だから嫌味を言った。所々が齧られたり無くなっていたりしていたのだ。
「ダメよオレグ! そんな優しい言い方ではね。こうドスを効かせてこう言うのよ。ウオ~オ~~~~オゥオ~~オ~~ン!」
二人は怖気づいた。やっぱりお姉さまは怖いオオカミだ! 俺は図に乗り、
「怖いよ、ソフィア! この俺まで食べないでおくれ。」
「不味いからイヤだわ。リリーの方がましね!」
ソフィアはオレグよりもリリーが美味しいという。リリーは堪らずに美味しそうなパイを持って空へ飛んだ。だが直ぐに降りてきた。妖精では沢山食べられない。人間に変身して食べだした。最後にとワクスを取り出す。誰もお喋りはしなかった。無心で食べていたのだった。
「う~ふッ。満腹だ。幸せだ~」
「良かったね、オレグ! リリーが魔法を使えて。」
「ああそうだよな。リリー、これからも頼むね。」
「うん、任せてちょうだい。」
「なあ、ソフィア。グダニクスに誰か協力者が居たらいいね。フェアリーハンターと会いたくはないからさ。」
「居場所が決まるまでは是非とも欲しいね。そうしたら、毎晩お風呂にも行けるし食事も自由に出来る。最高だわ。」
「オレグ、至急作りなさい。可及的速やかに。迅速に!」
「なんだい、同じ言葉を並べてさ。頭は大丈夫だろうね。」
「私たちからもお願いするわ。この美貌ですもの、妖精でなくても捕まるわね。」
「んな事! あってたまるか。でも倉庫の番と情報収集には必要だな。よし! 探してみるよ。」
「リリー、落ち着いたらコルニクまで頼むね。」
「OKよ、オレグ。任せて。」
俺らはコルニクに向けて出発した。
1241年4月14日 ポーランドのコルニク
俺らはコルニクに向けて出発した。もう夕方になり宿屋を探すも、ここには無いという。野宿には毛布も何もないから、グダニスクに戻り宿を取った。毎日そうすればいいのに、ご苦労な事です。
1241年4月15日 ポーランドのグダニスク
*)ボブを再雇用?
俺は倉庫の番人と食事の協力者を探して回った。ハンザ商人の出入りする店や港を探したが見つからない。ボブがまだ帰りの荷が無いので滞在していたので相談をする。
「あ、あ、居た居た! やっと見つけたよ。」
俺はボブの前に座った。ボブは一言も話さずに食べていた。赤い唐辛子をまぶしたニシンを焼いたものだ。
俺たちはパブを数軒見て廻ってやっとボブを見つけたのだった。ボブの隣のテーブルが空くように睨みを利かせたいた。若い男女だから視線を浴びせると弱いのだ。気持ちを悪くさせてパブから追い出した。アベックさん、ごめん!
俺はテーブルを横にくっけてボブに話し出した。ソフィアに注文は一任する。三人で適当に、大量に頼んでいた。これでテーブルが三つくっいたのだった。
「なあボブ。まだ馬車が見つからないんだ。何とか出来ないものかね。」
「無理を言うな。まだ二日目だろう?それよりも俺の運ぶ荷物を見つけてくれよな。頼むぜ。なあ、兄ちゃん。」
「荷物か、空荷で帰ればいいじゃん。それか、俺の倉庫で番をしながら探してはどうだい。」
「ウォホゥホー!そいつあー、ありがてーな。宿代が浮くぜ。是非ともそうさせてくれないか。」
「心にもない事を言っちまったぜ。ボブと後は荷役の三人か。」
「いや、俺だけだ。三人は帰って行ったぜ。雇う事も考えたが、何せ帰りの荷物が無けりゃ雇えないよ。」
「じゃあぁ、おひとり様で、銀貨三枚でどうだ。」
「それはありがて~な。銀貨3枚をくれるのか。兄ちゃんは凄いぜ。」
「おいおいおい!ボブ!それは逆だよ。ボブが俺に払うのさ。」
「なあ、ソフィア、そう思うだろ?」
「ええそうよ、ボブ。ボブが銀貨三枚を払うべきだわ。」
「チェ!そうかい、夫婦してそうなんだな。いいぜ払ってやるよ。その代り倉庫の荷物が無くなるぜ。」
「そうだろうな。倉庫の荷物を売るだろうな。でもダメだ。」
「オレグ!そうしなよ。ボブにもここで売ってもらおう。いい考えよね。」
「ボブ!いいかしら?家賃は要らないわ。その代りにここの商品を売ってちょうだい。売れたら内容により歩合給で賃金を払うわ。」
「そうだな、共通するところもあるし、丸っきり損にはならないな。そうさせてもらうよ。」
俺はソフィアの意見に賛成した。ソフィアは続けて頼みごとを依頼する。
「ボブ、それからお願いが有るの。リリーとゾフィがお昼ごろに食事を取に来るから、毎日銀貨で十枚分の食事を用意して下さらないかしら。報酬は銀貨十枚から取ってちょうだい。銀貨十枚で私たちの一日分の食事を用意して。絶対の命令だよ、いいね。」
「これは請負かい?店と協力関係を結んで良いんだよな? だったらやるぜ。」
「そうね、予算の範囲内だから構わないわ。」
「よろしく頼むよ。大いに助かるからさ。」
「おい、リリー。お前はどうやって来て、持って帰るのさ、あ、ああん?」
「ボブ!ちょっとこさ、来てくれ。外で説明するから。」
「リリーも来てくれ。」
俺とボブ。そしてリリーの三人で路地裏に行った。ここで魔法を披露した。
「こうやるのさ、見てて。」
リリーはゲートを使い、移動して見せた。ボブは目の玉が飛び出し、口を大きく開けて驚いていた。最後に俺はボブを蹴飛ばしてゲートに放り込んだ。
「キャイ~ン。」
ボブはもやもやと見えるゲートに投げ込まれた。そして直ぐに戻って来た。
俺とボブ。そしてリリーの三人はパブに戻った。
「いやあ~驚いたぜ。出た先が俺の船だった。びっこらこいたでな。おっとこれはイングランドの方言だった。」
「ボブはやっぱりイングランドの生まれだったんだな。」
「そうだな、イングランド南部の生まれさ。」
俺たちの最終目的地が、まさにその辺りなのだ。詳しく話してくれるかどうか。俺は訊いてみる事にした。
「なあボブ! イングランドのどの辺りになるんだい、良かったら教えてくれないかい?」
「そうさな、ロンドンの南東方向のサウサンプトンという小さな寒村? いや漁港だな。」
「そうか、俺たちの目的地に近い所だ。」
「俺の実家はもう無いぜ。タダ宿にしようなんて出来ないぜ。」
「おう、それは残念だ~、ソフィアさま、どうしましょう~」
俺はふざけた口調で喋った。ソフィアは呆れた顔つきで、
「またふざけているんだから。オレグ? ボブに失礼よ、真面目に尋ねなさい。」
「いいよ、ネ~ちゃん。ちっとも構わない。田舎の出だからさ気にしないね。」
1241年4月17日 ポーランドのコバレ
*)念願の馬二頭
俺たちはまたコバレに寄った。リリーに空高く飛んでこの村を見渡した時に林の横の農家で、飼い桶らしい物が見えたというのだ。それも、大分経った昨日になって思い出したのだ。
だから確認しに行くことにした。
「もし馬が居たら買いたい。それも二頭だったらいいかな。」
俺は希望的な意見を言う。ソフィアは俺に相槌をしてくれるが、妖精の二人は俺をバカにしかしない。
「ジジババの村だ。開墾用の馬はもう要らないだろう。金貨を見せればイチコロさ。金貨十枚で十分だろう。」
「好きに空想してなさい。」
ソフィアは冷めたことを言う。俺はリリーに先に行け! と言った。
「な、リリー。先に飛んでさ、お馬さんが居るか、見て来てよ。俺はこのコバレを見ながら歩くからさ。」
「OKよ。ゾフィーはソフィアと居るんだろう?」
「うん、お姉さまを守ってるから。」
「何からソフィアを守るんだい。この俺さまからとでも?」
「ブー!」
俺はこの寂れた村の再生が出来るかを考えた。とにかく人・農民が居ないから農村の再生は不可! という結論に達した。
「なぁ、ゾフィ! ここは少し盆地になってるのかい?」
「東に大きい湖がいくつもあるからさ、地下水になって流れてる。周りは丘だからそうだね、盆地だね。」
「そうか、これが森の少ない原因だな。」
「オレグ! リリーから通信だよ。馬が二頭居るとさ!」
「おお! そうか。やったな。早く行こう!」
はやる気持ちで到着するも随分と痩せた馬だった。この主人に馬齢を尋ねる。
「そうかい、売っていいよ。この馬はまだ若いよ。俺らの老後の資金にと置いていたものだからさ。幾らで買うかね。」
「それはありがたい。金貨で六枚でいいでしょうか?」
「おい、婆さん。金貨で七枚だそうだ。売るかい?」
「おやおや、金貨で八枚かい? それで十分だろうて。これでようやく息子の所に行けるよ!」
「まぁ~、この老夫婦ったら!」
ソフィアは、金貨六枚で買う積りでいたオレグよりも、ずる賢いと思った。
「ねぇ? お婆ちゃん。この馬は若くはないよ。足腰も弱ってるわ。見てて!」
ソフィアは馬の横に立ち、馬の耳に何かを囁いた。すると、
「ほら見て下さいな! 二頭とも足がガクガクと、震えていますわ。これではもう立つだけで精一杯よね。でしょう? お爺さん。」
老夫婦は家に入ってなにやらヒソヒソヒー。
「そうですか、ワシらと同じですか。金貨で五枚でいいよ。来年には食べようと思っていたから。金貨五枚で贅沢して死ぬさ。」
「ありがとう、お婆ちゃん。リリー! 早く持ってきて。」
リリーはゲートから今日の昼食を取り出した。
「さ、お二人とも、たくさん食べてください。」
老夫婦は見た事もないご馳走に目が血走っていた。オレグは直ぐに金貨5枚を渡した。
「ありがとうお爺ちゃん。馬二頭頂いていくね。」
「おうさね、気をつけて帰りなされ!」
商談成立で四人は急ぎゲートを使いグダニクスへと帰った。次なる商談には?
「ねぇ? オレグ! 金貨五枚はくれるでしょう?」
「いや、3枚だ。ソフィアの手法には参ったよ。オオカミの声で囁けばさ、馬もそりゃ~足もガクつくというものさ。俺はそこまでズルくないぞ!」
「うん、判った。金貨四枚でいい。いいわよ。いいかしら?」
「とほほ・・・・・・。」
「やったね、ソフィア!」
「それもこれも、ゾフィーの知恵だね。ありがとう。」
「なんだい、ゾフィーの知恵かい・・・・・。」
こうして俺は馬二頭を手に入れた。そして蓄養に励んだ。
「人参だよ?タント、お食べ・・・。」
「ソフィア! お前さんが面倒をみるんだ。馬と仲良くなるんだぞ。」