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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
126/257

第126部 貧乏神がトチェフ村を訪問す!


 1245年11月2日 ポーランド・トチェフ


*)イワバからの使者


 イワバのピアスタお嬢様が音信不通のオレグを訪ねてくるのだった。訪問の要件は事前に通知された。


 要件というのが十日ほど前にピアスタの使者が館を訪ねてきて、メイドがグラマリナに取り次いだ。


「奥様、イワバのピアスタ様の使者と申される方が見えておりますが、こちらへお通しいたしますか?」

「そうですね、Aルートで応接間に案内してちょうだい。」

「はい畏まりました。Aルートでご案内いたします。」

「あ、お前。少し待っていろ。」

「はい領主さま。」


 エリアスはメイドを引き止めてグラマリナに話し出した。


「おいおい、グラマリナまで俺と同じことをするのかい?」

「当然です。せっかくオレグが大きい館を建ててくれたのですから、エリアスと同じ事を私もいたします。」

「だったらトラの絵の衝立ついたてが必要だろう。」

「いいえ、お坊さんではありませんから必要ありませんわ。」

「いやいや衝立は同じ廊下を分からないように区別するものだろう。無ければばれてしまうぞ。」

「あらあらそうでした。トラを絞めあげる問題ではありませんね。急いで用意させなくては。」


 メイドは言われるまでもなく理解していたのだが、ここは領主の顔を立てるために、


「奥様、そうでしたわ衝立が必要でした。至急用意しまして配置場所に置きます。使者の方にはもうしばらく待つように伝えておきます。」

「はい、そうしてちょうだい。」

「畏まりました。」


 メイドは出ていく。Aルートとはオレグだ最初に旧館を訪問した時に、エルザからグルグルと館を歩かせられたことがあった。その方法で使者に館が大きい、広いと思わせる事である。単なるいたずらだ。


「エリアス、ピアスタはお嫁を貰うのかしら。」

「いやいや婿を貰うの間違いだろう。だがここは違うと思うぞ。」

「いいえ、じゃじゃ馬は早く嫁に行けばいいのに。行かず後家というのも迷惑だわ!」

「おいおい随分な言い方をするんだな。」

「人間じゃありませんから、これくらいで丁度いいのです。」

「人間じゃないのか、俺は知らなかったぞ。」

「えぇそうですのよ。」

「そうなのか、どこが違うのだい。」

「はい、しっぽが有ります。」

「しっぽ?? テールがか!!」

「はい……。」


 二人は会話を続けながら応接間へと向かった。夫婦の居る居間とはかなり離れた場所にオレグが造っていたのだ。グラマリナはオレグに遠くて不便だわ! と言った事があった。


「グラマリナさま、いつどこの使者が来るのかが分かりません。」

「えぇそうでしょうとも。ですが……。」

「はいその使者が安全とは思われないで下さい。使者が暗殺者だったらどうしますか。居間とは離れていた方が安全でございます。」

「そ、そうなんですか~。」

「特にグラマリナさまは、反感を買う性格でいらっしゃる。」

「んまぁ!!……。」


 両者は同じ位に応接間に到着した。グラマリナはメイドの足音で判断が出来る。


「エリアス、まだ使者は応接間に着いてはいません。ここで少しお待ち下さい。先に私だけでまいります。領主は遅れるくらいがちょうど良いのです。」

「そうか、だったらメイドをここに呼びに来させろ。」

「はい、そういたします。」


 と言いながらグラマリナはさっさと歩いていた。グラマリナは横着な態度であるが、エリアスは稼ぐグラマリナに頭が上がらない。しかしグラマリナは他人の前では猫の子になってしまう。オレグやルシンダには地なのだが……。


 メイドは足早にやってきた。


「エリアスさま! 奥様が大変でございます。」

「なに~ぬぬぬぬ・・・・・。         ねの。」


 グラマリナは使者から渡された手紙を読んで口から泡を噴いていた。倒れそうなグラマリナを一人のメイドが支えている。泡を吹くという事ではないらしい。


「グラマリナ、いったいどうした!!」


 エリアスが廊下の使者を無視して部屋飛び込んだ。使者は部屋に居たら失礼だろうと廊下に退避していた。ま、逃げ出したというのが正解だ。


「エリアス、大変です。ピアスタが葡萄酒の売上金のロイヤリティを集金に来るというのです。」

「バージリンがどうしたのだ。あ、ロワイヤルティーか!」

「そんなお茶はありません。まだ先の未来です……そう、大変です。」


 エリアスは出されている紅茶を無理やりグラマリナ飲ませると、グラマリナは大きく咳き込んだ。エリアスは使者に向って、


「グラマリナは新型コロナに感染した。手紙の要件は確認したが移るといけないのでここで帰ってくれ。」

「では十一月十二日のご訪問はよろしいのですね?」

「あぁ大丈夫だ。俺がどうにかする。だからこの事は内密に頼む。」


 と言ってエリアスは懐から銀貨一枚を取り出そうとしたが……無かった。


「あ、俺は紐だから金は持っていないんだ!」

「あ、はい。今日の事はご訪問の許可を頂きました、とだけ伝えます。」

「そうしろ。早く帰れ! その前に飯を食っていけ。腹には何も入ってはいなのだろう。もう準備は出来ていると思う。」


 エリアスはメイドに向い、


「おい、出来て……。」

「はい、ご案内いたします。さ、エリアス様は早く奥様の元へ!」


 メイドはエリアスの言うのを止める速さで返事をしていた。このメイドはソワレが見つけてきた村の女だが、ビシバシと鍛えたのか、とても優秀だった。


 グラマリナは金貨惜しさに寝込んでしまった。けっして新型コロナではない。




 1245年11月10日 ポーランド・トチェフ



*)イワバのピアスタお嬢様


 グラマリナは毎日が眠れなかった。夜は……明けても暮れても考えるのはこの難局をどうやり過ごすか! いうことを考えていた。だから眠れないのだ。いつもは村に居て館に寄り付かないルシンダが見舞いにきた。


「グラマリナさま、お加減はいかがでしょうか?」


 と言うのだった。家の位はルシンダがはるかに高いのだが、居候をしているから下手にでているのだ。ルシンダは枯れても侯爵の娘である。侯爵という爵位もすでに無いのかもしれないのだが。


「あ、あ~~~~!!!! ルシンダ!!           が、居た。」


「はいルシンダでございます。??」

「ルシンダ、お願いがあるの。言うことを聞いてくれますよね。」


 ルシンダと呼び捨てである。歳はルシンダが少し上のはずだがそれでも呼び捨てだ。


「はい私にできる事でしたら。」

「ルシンダの妹のピアスタさまが来るのよ。出迎えてちょうだい。私はコロナで応対ができないのよ。姉妹でしょう? ね~、お・ね・が・い。」

「はいはい承知いたしました。」


 約束の十二日になった。ルシンダはビスワ川の港で待っていた。川向うで手を振る女性の姿が見える。ピアスタと見てとれるからルシンダも手を振った。


「わ!」

「キャッ!!」


 ピアスタは瞬間移動の魔法が使えるようになっていた。だから視認できる所には瞬時に跳んでいける。今はそのルシンダの目の前二十cmに居る。当然ルシンダは大きく驚き後ろにるのだが、ピアスタは前かがみになって、わ! と言った。


「お、驚かさないでくださいな。寿命が縮みます。」

「んん?? それだけ??」

「毛穴が見えないわ、綺麗になったのね!……どいて頂戴、息が出来ないわよ、鼻息が荒い……。」

「ふんバーカ。」


 と言いながらピアスタはルシンダの胸を押した。


「キャッ!」「ドテ!」


 ルシンダは尻もちをつく。


「お姉さまはお痩せになられたのですね。厚みが無くなっていますわ。ついでに体力もね!」

「どうしてそのような事が分かるのですか! もっと貴族らしい言い回しをできないのかしら。」

「自由に生きていますからそれは無理です。それで?……。」


「はい?……。」

「だから、……。」

「はい案内するわマスクは三重にしなさいよ。さもないと、り患してケモノになります。」

「ノが抜けていますわ。り患したら周りからノケモノにされますもの、世間はとても冷たくなりましたね。ホント、息苦しいったらありゃしない。」

「ついでに食も細くなってこのように……。」

「へぇ~お姉さまはそうなんだ。気までもが弱くなられましたね。」


「あら、随分と大きくなりましたわね、このむら。」

「そりゃぁイワバに比較すればでしょうけれども、村は大きくなりました。」

 

 道路を歩くだけでも村とは思えない文化の高さが見てとれる。みすぼらしい農家も段々と垢抜けた、そう綺麗な住宅が増えているのだった。当時は住民を増やす事で精一杯だったから、戸数優先で長屋を建設したのだ。移民もだんだん富を蓄えて戸建の家を新築しだしている。旧住民は? 覇気がなくて狭くて小さい家に住んではいるが、隣には子供が建てた大きい農家が建っているのだ。


 住民の目が萎えてはいないことにピアスタは気づいた。


「へぇ~教祖さまは素晴らしい仕事をされてありますね。でも私にはの評価しか出ないけれども。」

「ピアスタ、オレグはよく仕事をしていますわ。下の評価は可哀そうよ。でも、どうしてゲなのかしら?」


「葡萄酒の契約が履行されていないのよ。ここのオレグワインは貴族では人気が高くて有名なのよ。なのに十年契約のロイヤリティを昨年から滞っていますのよ。もうオレグが儲けるばかりで頭にきちゃう。」



「オレグのロイヤリティ・・??・・。そんなの知らないわ。」

「お姉さまは知る必要はないのだけれども、オレグはどこに隠れているのかしら。あら? 逃げているのね。」

「オレグは……、デンマークにソフィアとリリーを探しに行ったきりで今は行方知れずなのよ。」

「あらどうしてなの? お姉さまは何も知らせてくれないし、ここのグラマリナさえも時事通信は寄越さなかったわね。……そうか秘密主義なのね。」


「そりゃ秘密にしますよ、オレグが行方不明と知れ渡ってごらんなさい、諸国やドイツ騎士団がこぞって侵攻してきますわ。」

「騎士団?? あんたたち、ドイツ騎士団と対等に競り合っていますの????」


 いつもちょこちょことドイツ騎士団からはいじめられるイワバにしてみれば夢のようである。


「諸国とはどこよ。」

「ブランデンブルクには、大きく恨みをかっているらしいわ。ピアちゃんも覚えていますでしょう?」

「えぇルーシー、あの魔女の事件とハーメルンのほら吹きね。覚えているわよ、あれから私の人生も大きく変わったのですもの。でもルーシーは変わらない。いや……退化しているのね。」


 ルシンダは返す言葉もない。事実である。オレグの用心棒に雇われても全く役にたった覚えもなかった。


「そうかもしれないわ。魔法もろくに使わないしね。」


「で、その不良男はどうして行方不明なのよ。詳しく話しなさい。」

「こんなところではできないわ。でも、あえて申しますと。」

「ふんふん。」

「かくかくしかじか! です。」

「うんうん良く分かったわ。この私にも少しはその絹織物で責任がありそう。でもどうして今まで黙っていたのよ。毎回は出来なくてもデンマークの海上戦には行きたかったな~、だっていろんな魔法を覚えたのですもの。」

「そうねピアちゃんがいたら、デーン船もデンセンオンドで沈めることができただろうね。」

「失礼しちゃう、私のテレポートがどうして電線音頭なのよ。」

「うん?……とても似ていると思うわ!」

「ふん!!」



*)美味しんぼ


「女将さ~ん、来たわよ。お願いね。」

「あいよ。奥へ入ってちょうだい。暖炉にも火を入れておいたからさもう暖かいと思うよ。」


 この部屋はオレグが特別に造らせた密会用の小部屋だ。煉瓦積みで厚みのある重工な部屋だ。小窓もない木材も使用してはいないから格別の底冷えはこの時季には堪える。


 ここの暖炉は格別でパンが焼けるのだがそれだけではない。とことん秘密漏えいを重視しているから、暖炉の造りが変わっているのだ。そう、食べ物を保温できる、なま物を調理できるというのだ。


「なま物はここに入れると自動で食べれるようになるのよ。スープは冷えないようにこうやって離れた所において。パン生地はここね、すぐに焼けるわ。ここの網にはお肉を置いて……。」

「もういいわ。出来ているのかしら。」

「うん、お肉は牛だからレアでいいわ。ニンニクも焼けているわよ、これ、包み焼が美味しいのよね。」

「早く頂戴。」

「この扉を開けると冷たいビールとワクスがあるの。まずは生で一杯かしら。」

「うんうん……もうじれったい!」


 ピアスタはお皿を前に置き両手には、ナイフと串を握っている。足はじたんだしながらルシンダが料理を運ぶのを待っている。ピアスタも運んだりすればいいのだがしたこともないのだろう。本当に貴族のお姫さまだ。


 ルシンダは初めてオレグから接待された時の、そうドキドキした事を思い出して今は妹のピアスタに料理を作ってふるまっている。(楽しい……)小さい子供の時は二人並んで料理が出てくるのを待つ、そんな

思いが鮮やかによみがえってくるのを感じた。


「ねぇ~ルーシー……。」

「はいはい、これは牛の……。」

「これね、私の領地から盗んだパイソン。」

「そんな無粋な言い方をしなくても。これは子牛です! イワバの牛さんではありませんわ!」


「ふふ~ん、もうオレグの虜になっているのね。へぇ~そうなんだ。ルーシーがこの村を出ないのはオレグが居るからなのね、そ~なんだ~!」

「もう茶化さないでちょうだい。ほら、食え!!」

「照れない照れない。」

「照れているわよ。だって照り焼きだもの。特性のたれで焼いたのよ。」

「タレって、なによ。」

「うん牛の血に蜂蜜と玉ねぎの摺りおろしを加えるの。まだあるわ。塩に胡椒、塩は岩塩ね。人参に山椒の葉に……。」


「もういいわ。言えないのね。」

「私だって食べるだけですし、全部口からの。」

「でまかせね。でも美味しい。ルーシーの言う事は当たっているわ。少し血の匂いと味がする。」


「美味しんぼはこれくらいにして、どんどん運びなさい。」

「待ってちょうだい。鍋に肉と野菜、それに特性のスープを入れてトチェフ特性のお料理を作るからさ。」


 頬杖のピアスタ。にこにこと姉の動作を見て楽しんでいる。


「で、どうなのよ。」

「デ~ン!」


 と大きい銅鍋をピアスタの前に置いた。


「これ、オレグ特性の銅なのよ。おいしいのよね~。」

「んまぁ、どうに銅をかけて持ってくるのね。」

「そうね、私もオレグに染まっているのかしら?」


「このテーブルはなんなのよ。この窪みは??」

「あ、いっけな~い、炭火を入れておくのを忘れたわ。ここに焼き網を置いてねお肉を焼いて食べるのよ。すぐに火を入れるわ。」


「なに、この進んだ食文化は!!」




*)可哀そうな二人の?


 食も進んでルシンダはオレグの事情を話し出した。


「事の発端はピアちゃんね。絹の反物を高く売りに行ったのが間違いの元だったのよ。それからソフィアがどんどんと深みに嵌って、今ではそのデンマークの魔女に捕まっているのよね。」


「んまぁ、なんでそのような……むごいわ。今でも仲の良い夫婦は離れ離れ?」

「だからオレグが家族を救いに行動して、途中でデンマークの反感を買って戦争になって、オレグはデンマークに潜入したのよ。」

「そんで、」

「それで魔女の居る場所を見つけて襲撃しようとしたら、」

「オレグが居なくなったのね。」

「そうなのよ。きっと魔女に捕まったのだと推測は出来るのだけれども、その証拠も足取りも全く。」

「分からないのね。そうか~自分が居たらきっと役にたったのでしょうね。」


「それはどうかしら。」


「なによ、その言い方。怒るわよ。」

「ハリセンボンみたいに? 膨らんで??」

「見たことも聞いたこともありません。針千本なんて知りません。」


「それでね、オレグが不明なままトチェフに帰ったのだけれども。」

「それは仕方ないわ。オレグがデンマークに居るとも居ないとも分からないのよね。だったら帰るのが正解だわ。」


 ナイスなルシンダ。ピアスタからグラマリナやワインの事をすっかり抜いてしまっていたのだ。だが、このままピアスタは帰る事はない。同じく金の亡者なのだから。


 話し込んで話し込んでとうとう夜になった。ここは暗室だから外の景色も分からない。時計? そんなものは無い。


「あらあら、もうろうそくが無くなったわ。」

「ルーシーそれって、もしかしたら……。」

「そうね真夜中だね!!」

「んまぁ!」


 気が付くと薪も無くなっている。


「私の部屋に案内するわ。さ、行きましょうか。」


 とルシンダがドアを開けようと押すのだがドアは開かない。


「あら、どうしたのかしら。開かないの。」


 ピアスタはドアを眺めて考えた。


「私に任せなさい!!」


 ピアスタは肩からドアに体当たりした。


「ぎゃ~イデ~……。」


 ドアの外はパブの中だが二人の男が転がっていた。この二人が門番として部屋を守っていたらしい。飲み過ぎて寝ていて……こともあろうか、ドアに寄りかかっていたのだった。女将は気さくな性格だからか、気にも留めずに帰宅していた。


「お前たち、ここで何をしていたのです。」

「そ、それは、当然、門番でございます。」

「だったらその辺の転がっているものはなにかしら?」

「女将が片づけて帰らなかったからで、あります。」


「ふ~ん。そうなんだ。明日の会計が楽しみだわ~!」


 サローとヤンはゾクゾクと寒気を感じた。


「酔いが覚めたようね、部屋まで連れて行きなさい。」


 ルシンダもピアスタも酔って歩けないようだ。ピアスタの突撃はどうだったのかは謎である。

 

「ヤン、お前は力持ちだから重いピ・・」

「バッコ~ン!」

「やいサロー、この私が重たいだと? 今に思い知らせてやる。お前が私をお姫様だっこして運びなさい。」

「ひぇ~お許しください。もう黙っております。」

「ばぁ~ろう。初めから黙れ!」


 もう典型的な酔っ払いであった。二人の男は赤い顔になってそれぞれ二人をお姫様だっこで部屋に運んだ。


「こら~お前らもここで寝ていけ!」

「それはお許し下さい。」

「ならぬ、抱き枕だ!」


 翌朝は二人の男の顔には青あざとコブが多数見られた。パブの女将は、


「おやおや、昨晩はお楽しみだったのかい?」


「はい、それはもう、結果がこうと分かり切っていますので、もう、ox*-;**でございました。」

「はい、お姫様は最高です。」


「今晩は精進料理を作るはめになるのだね~!」




*)ピアスタとグラマリナ



 いよいよこの章のクライマックスに突入か。


 酔いすぎて不覚をとってしまった二人の女は、裸で目覚めた。横にはでかい男が同じく裸で寝ている。当然の結果は、


「あ~ん、もうお嫁にいけな~い!」

「なによ、行く気がないくせに! 私は赤ちゃんが出来たわね。どうしよう!」

「だったらヤンを婿にしなさい。」

「嫌よ、あんな無粋な男は!」

「私の従者をバカにしないでちょうだい。あれでも力も強くてたくましいのだからね。頭は~バカだけれども……。」


 気丈な二人の姫のく先は、


「当然、館の露天風呂ね~!」x2


 となった。今回はお得な入浴シーンは……ありませ~ん。


 そんな二人を影から観察していたのはもちグラマリナだ。


「あらあら、朝からお風呂ですか、居候でご機嫌ですね。」

「まぁまぁ、旅の疲れは取れましたでしょうか? ピアスタさま。」

 

 グラマリナはピアスタにはさまをつけている。姉妹でこうも待遇が異なることを知ったピアスタは、


「こらグラマリナ。私の姉を愚弄することは許しません。善処なさい。」

「は、はい、ピアスタお嬢様!」


 ピアスタの昨晩の腹いせが始まる。


「ところでグラマリナ。オレグが行方不明とは本当でしょうか?」

「はい、それは本当でございます。」

「で、コロナとは?」

「はい、すっかり良くなりました。昨晩まで寝ていたから良くなったと思いますが。まだ熱が引きません。」

「まぁそれはお大事に。吐き出すものを吐き出せば、すっきりしますでしょう。それで??」

「はぁ、それで……ですか。」

「アイス***。」

「***ワイン。」


「なんぼの幾らでしたか? あ、あん??」

「は、はい。オレトチェ・ワインは製造が一千本。販売が金貨・一千枚でございます。」

「で??」

「他のトチェフワインが三千五百本、金貨で二千枚でございます。」


「ほひおひ! なんと素晴らしい!! ほひおひ!……いやいや、私のロイヤリティは販売の三十%ですわ。でしたら??」

「はい、金貨九百枚でございます。」

「それはいいですね~、早くここに山積みになさい。」


「はい、直ちに用意させて頂きます。」


 可哀そうなのはグラマリナだ。ピアスタのロイヤリティは確か二十%だったはずだが十%も盛られている。このことはグラマリナは知らないから言われるままとなった。グラマリナは自分の隠し金庫から金貨を持ってきた。それも重たいからと二回に分けてであった。


「これは今年の分です、そう今年の!」

「はい、ら、来年はまだまだ多くの製造を予定しております。」


 オレグが夢見たブドウの樹よりも二年も三年も早くものになっていた。


 昨晩の二人の会話は。オレグとピアスタとの契約はというと。


「オレグとの契約は十年ですね、でも初期は投資の方が高くつくので五年間は無料にしていますわ、私はそんなに鬼姫ではありません。」

「でもピアちゃん。それはグラマリナは知っていますの?」

「えぇ十年のロイヤリティは、ですね。でも五年の無料とは知る由もありませんわ、お~ほっほ~!」


「ねぇピアちゃん。その二年とか三年も早いとかグラマリナは知らないのよね。それでいいの?」

「はいな、読者は読み返せば判りますが、果たして読み返すかどうか、要は、」

「要は??」

銭婆グラマリナが知らなければそれでいいのよ。私が最近になってオレグのワインと知ったのよね。それで調べたらたくさん売られたとか。」


「ふ~んそうなんだ。でも本当に今日は集金に来たの?」

「相手の出方次第だね、でも、今ここに居ないのが逃げている証拠だわ。明日はう~んとふんだくる。」

「んまぁ!!」


 ここで今日に戻る。



 という訳でピアスタとの契約は、1242年5月。今は1245年11月。頭が良いと思われたピアスタは抜けていた。倉庫にはまだ多大なワインが残っている事に気づいていない。


「はい、ら、来年はまだまだ多くの製造を予定しております。」

「そうでしょうとも、さすが、私が見込んだオレグですわ。来年も楽しみです。」

「はい来年は事前にお知らせをいたします。今宵はごゆるりと過ごされてて下さいまし。」



「えぇそうさせて頂きますとも。……さぁお姉さま、帰りましょうか。」

「はいピーちゃん。」

「んまぁ、子供の時と同じに呼ばないで!!」

「多弁なピーちゃん!」


 残ったグラマリナはしおれてしまい、エリアスと愛娘に慰められてはいるが、立ち上がるまでは何か月かかるのだろうか。



「お姉さま、この金貨は全部お姉さまに差し上げますわ。」

「ピーちゃん。それは多すぎます。」

「半分子にしたいのかしら。」

「それでも多いわ。」

「これはルーシーお姉さまの自立資金よ。私のお金ではないわ。オレグに感謝なさい。」

「感謝ですね、オレグの捜索資金にいたします。」


 館では大きな雑音が、


「キ~~~~~~、あの女はなんなのよ~、も~~~~~~~!!!!!!」


 グラマリナに罰が当たった。しかし、したたかな女は残りのワインのラベルを張り替えてしまうという行動に出るのである。倉庫に眠るアイスワインを見てほくそ笑む不気味な女が、出来上がったという逸話が出来上がる。


 ほくそ笑む、とは、なんという美しい日本語だ!


 今宵には立ち上がるというグラマリナだった。


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