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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
123/257

第123部 オレグ編 コペンハーゲン潜入


「オレグさんも海ではかた無しですね。」

「いや~、面目(めんぼく)ない。小鳥遊たかなしですわ~!」

「私は鷹ではないですわ。ただの小鳥です。」

「およよ!! 間違えた! かたなしだったわ。」


 オレグはコペンハーゲンを過ぎて右の方に砂州が発達した入江が在るというのでそこに停泊するように命じた。ここから数人でコペンハーゲンに潜入するという。メンバーはエレナ、ソワレ、ルシンダ、サローとヤン。魔女らは合計六人選んで元ドイツ騎士団の四人と馭者の二人に決めた。シビルとボブは船を守る必要があるから残る。


「おう兄ちゃん。もう運河を抜けるが、このままお前さんがいう処の砂州に向ってもいいのかい? 追っ手の心配もあるだろう。」

「そうだな、船長の意見はどうだい。」

「俺は~一度沖に向って飯食らって夜まで待つね。砂州に停泊したらとんぼ返りしないと今度は捕まっちまうぜ。いや沈没になるだろうな。」


「だな。船長に従うよ。俺は上陸してコペンハーゲンに潜入出来ればいいのだからさ。」

「そりゃ~兄ちゃんの都合だろう、それでも、あの疲弊した奴らを見て考えてくれよ。」


 ボブが言うように確かに魔女はケツまくって? 疲れて転がっている。脳筋のヤンとサローは陸に揚がれるから喜んではいるが、馭者や用心棒の元ドイツ騎士団の四人はもう不安そうにオレグを見つめていた。


「てやんで~今日と明日は休みにしてやるよ。」


「わ~い!!」x6


 と魔女らは裾を直して喜んでいた。


「お前らは役者か! 色仕掛けが通じる俺さまではないぞ。」




 1245年3月3日 デンマーク・コペンハーゲン


*)コペンハーゲン潜入


 予定通りに砂州に到着した。


「こっから歩いて上がりな。」

「だったらせめて丸太を岸近くまで伸ばしてくれないか。」

「桟橋が無いんだ、贅沢言うな!」


 とシビルはつっけんどんに答えているが、この事実に対しては誰も解決策を持っていない。


「いいだろう! 寒中水泳だ。ハドソン川の戦闘を思い出せ、クマっ子と一緒に泳いだだろう?」

「私はそんなこと知らないわ。でも伝って降りるしかできないね。」

「当たり前だ、これでも干潮の時刻に併せてきたんだ。贅沢言うな!」

「どうして干潮なのですか?」

「エレナ、お前は海を知らないんだな。船は砂地だが思いっきり乗り上げているのだから、お前らの体重が減っても船は動けないのだよ。」

「座礁したら動けませんから私たちに押せと命令されるのでしょう?」


 やはり何も知らないルシンダが言う。


「止せやい。俺は船を押すとかはできないぜ。」


 同調してオレグも言うが、


「なにしばらくは船は見つかるまい。潮が満ちれば船は沖へ流れるさ。」


 と後に説明が続いた。エレナもルシンダも、


「な~んだ、そうなのか。」x2


「しかしなぁ~……。」


 水深は干潮でも満潮でも関係がない。船はおおよそ二mが海の中だからやはり寒中水泳は避けて通れなかった。


「なぁボブ船長。あそこの岩場には船は着けられないか。丸太を伸ばせば渡れそうな気がするよ。」

「さんせ~い!!」

「バカを言うな! 船は砂州に乗り上げて動けない。解っているか~? 見つかる前にさっさと下船しやがれ!!」

「解せないぜ。もっと俺らを労わりやがれ!」


 ボブの解釈に理解はできるが、冷たい海に入るのは嫌だ。ボブとシビルは嫌がる連中を手当たり次第に海に放り込んだ。シビルとボブは凍えている連中をみて、ボブがシビルに言った言葉は、


「なぁシビル。魔女らに陸へ運ばせたが良かったかな。」


「いいのいいのよ。些事に関わってはだめです。もっと大きい事案を考えておきましょうね。」

「そうだな、あいつらには魔女が扱えないな! 知らないとはやはり損なのだ。」


 なんの事はない。魔女が六人も居れば人ひとりは吊るして運ぶことが出来るのだ。それ位は余裕だろう。この事に対して魔女やオレグも気が付かなかった。


 シビルは魔女に向って、


「ほらほら、お前らも海に入って行けよ!」

「Yes,ma'am。」x6



 砂州を歩いて足跡は残せないので全員が裸足で冷たい水際を歩いてきたのだった。もちろん服も濡れているから体温はどんどん奪われる。これだけで披露困憊の状態になり、岩場でようやく冷たい海から解放された。


 男と女に分かれて岩陰で着替えを済ませる。


「木箱に入れても下の服はきっと濡れているな。」

「下は食糧だから多少は大丈夫だと船長が言っていました。」


 木箱を抱えて運んだ、アルベルト、デニス、ハンスと名無しが言う。


 ルシンダは男の二人の頭の上で長く横になって運ばれた。


「ルシンダさま、気持ちいいですか。」

「あぁ最高だ。こうやって運ばれるとは思いもしなかったよ。」

「はい私も気持ちいいです。ルシンダさまの柔らかいお*りが、ですね。」

「しょうがないね~、ヤン、今日だけは許してあげます。」

「サロー私の胸はどうですか?」

「はい、手をもみもみと動かしたいです……。」

「あ~そこそこ! きく~!!」

「ですが背中に凸はありません。背部痛のツボを押しました。どうでしたか!」


「もっと~!!……あ~、そこそこ! きく~!!」


 空の上からはエレナが鳥に変身してこれらのやり取りを見て笑っている。




 コペンハーゲンに向う途中に羊の群れにぶつかった。


「あらあらまぁまぁ、もこもこがたくさん!」


 とエレナが先の方に群がる羊を見て言った。


 その羊の群れに差し掛かると、


「こりゃ~旨そうだ。」


 と言ったオレグに羊が返事をした。オレグには、


「だぁ~!!」「メェ~!!」 だぁ~!!」 メ~!!」「メ~!!」


 と聞こえた。


「ふん羊の分際で、このう~明日には食ってやる。」


 と言いながらオレグは、通行の邪魔だから、ドケ! と言わんばかりに羊のケツを蹴とばす。だが羊はよろけるも、その場所から離れない。


「なんだいこいつらは。草も無いのに何を食っている?」

「オレグさん、この子らは地面を舐めていますよ。もしかするとここには岩塩が埋まっているのかもしれません。」


 博識のソワレがそう言った。


「あ~岩塩か。そうか、そう……、ああ?? 岩塩だとう~!」

「はいオレグさん。間違いありませんわ。ここら辺りは窪んでおります。だから羊が塩を食べて窪んだのでしょう。」


 オレグは先に小高い丘があるのでそこに向った。辺りを見回すと草地が先には遠くまで広がっている。後方の海辺の方は全体的に低地だった。


「なんだそういう事か、金になると思ったが残念だ。」


「ソワレ、残念だ、岩塩じゃなさそうだ。ここは低地で海の水が溜まっていたのが干し上がってしまったのだろう。だから泥に塩分が残っているのだ。」

「あら残念ですわ。羊を使って岩塩を探すのは常識ですもの。」

「お前は山師か!」

「いいえ悩ましい……だけです?」

「いややましいの間違いだろう。」


「オレグさん、もう冗談がお好きですね、先に進まない時には特に多く冗談や言い回しがありますもの。」

「そうかぁ? いつもソフィアはそうは思っていないぞ。」

「はいソフィアさんははっきりした性格ですから、きっとオレグさんをバカだのなんだのと言って張り倒していますね。」


 エレナが小声でソワレに囁く。


「ねぇソワレさん。ソフィアさんの名前は出したらいけません。きっと泣き出してしまわれます。」

「あ! ほんとだ。もう目が潤んでいるわ。」

「でしょう~??」


「……・・。……。」


「あれじゃもう、武人の女房じゃないか!」

「ソワレさん、音信不通なのは奥様ですよ。それがどうしてオレグさんを女房と言われたのですか?」

「あ? あぁ、普通は戦に出た亭主を待つのが女房だよな。ここは逆転しているのさ。帰宅を待つのは旦那だもんな。」


 武人の女房とはそういう意味だ。


「はぁ、そういう例えもあるのですね。では私が帰らないときは、ソワレさんが女房役になるのですね。」

「いいや、すぐに駒を取り換えるだけさ。トンボの**もトカゲの**も無いだろう。」


「はい、しっぽ”という部分がないです。ソワレさんは酷い人です。」

「だな。良く覚えとけ!」

「はい覚えました。私も一生オレグさんについていきます。」

「そんな~エレナ~!!」


 エレナはプイと横を向いてオレグの方に歩いていった。だがソワレは気にも留めない様子。



 エレナはオレグの横を過ぎてルシンダに話しかける。


 エレナは上申した。


「ルシンダさま、今日はこの近くで野営いたしませんか?」

「どうしてだ、出来るだけ先に進むべきだと思うが?」

「はいそうですね。でもオレグさんが奥様を思い出してしまわれました。羊を捕えて食べさせてあげたいのです。」

「塩気の効いたマトンの肉か~俺も食べたい。」

「おだまり! この食いしん坊の……。」

「はい……ヤンです。」


 上陸初日の昼下がり……。早くもこの場所に野営が決まった。


「オレグさん、俺たち四人組が家を探してきます。」


 と言う元やくざ。農家を物色しにいくのだろうか。


「アルベルト、金で解決しろよ。押し入りはするな。」

「はい潜入のための古着も必要でしょう。努力してみます。」


 程なくして四人は戻ってきてオレグに言った。


「この先に数件の農家がございました。」

「……。」

「はい金を積んで交渉いたしました。……です。」


 四人は成果を報告したくてにこにこしているがオレグは聞く気が無い。


「……・・……。」


 あの四人が探し出した農家の軒先には白い飾り物が下がっていた。一つは頭の骨だと一瞥で判断できた、……ならば頭で考えたら残りは胴体の骨! ソワレは見た瞬間にビクついた。


「きゃ!、わっ!」


「あぁこれはカラスの骨さ、私らのうちでは魔除けに使っておる。どうだい、お前さんが悪魔でなければこの魔除けは怖くはないだろう。」

「い、いや。怖くはないが、……さすがに……恐ろしい。」


「ぎゃ~っはっは~お前も気が小さいおなごだね。死に別れた亭主の骨を見たらどうするね、卒倒するのかえ、あ、ああん??」


「ウグ、ぐぐ・・・・。」


 マクシムの一脂まとわぬ姿を想像したら、一言も返せないソワレだった。


「男には脂はないよ、あるのは女だけだ……よう?」

あぶらねぇ~。私はぺしゃんだから、男かえ?」


 残念なほどに胸が無いソワレ。


「あ~。マクシムに嫌われたのは……この胸のせいかしら。」

「ソワレ、そう思ったがご自分のためです。決して探究心が溢れていたから嫌われたと、お思いにならないでくださいね。」

「んまぁ!! この子は言うようになったわね。ちょ~っと、マクシムの身体を調べようと寝ている時に服をひんむいただけじゃない。それがどうして?? 悪いのかしら。」

「服だけかしら?? 脳みその中を覗くからですよ。違いましたか?」

「ウグ……!」

「だったら元旦那のマクシムさんの骨の姿を想像してみなさいよ。どうです? それでも服を脱がせてみたいですか?」

「もういいです。服の下は骨だなんてどうして想像が出来ましょうか。」


「ぷ、わっはっは~!!」


 ソワレは大声で笑い出した。頭脳はエレナ以上のはず。それがエレナにより打破されたのだ、ソワレからしたらここは大笑いをする場面だ。


「ぷ、わっはっは~!!」


「バコン、バッコ~ン!!」


 ソワレは憎きエレナを殴り飛ばす。


「おうおう空まで飛んだか……。いや逃げたか!!」

「ここは火葬はいたしません、土葬ですから死人の骨は見る事は出来ませんわ!」

「あ、そうか。土葬ならば後ろ足で砂を掛ければいいのか!」


「バ~ン!」


「バカこくでねぇ~!」


 と農婦がソワレの背中を強く叩いた。


「このバチ当たりが!!」


 ソワレはどうしてマクシムをそこまで嫌っているのかは誰も知らない。この私ですら……??



 夕餉ゆうげは豆料理だった。突如オレグは怒ってちゃぶ台返し……。


「バァ~ン!!」

「なんだいこの大きい豆に中位の小豆、それに小さい粒は、これも豆か??」


 オレグはテーブルを蹴り慌ただしく外に出て行った。


「おいおい、なんだ。だんなはどうしちまったのかい??」


 ルシンダの従者のサローが気に掛ける発言をした。オレグの飯台をもろに受けたから驚いている。


 ソワレはこの家の女房に料理に意味があるのか、尋ねた。


「はいソラマメは亭主、次に小さいのが女房。小さいのはガキ! を意味しております。今日は亡くなった夫の命日ですので、このような豆料理にいたしておりました。」


「それって、まさか……。」


「そうです亡くなった人と再会を念じた料理でございます。私の生まれはポーランドでございますが、なにか?」


「…・・…。」

「まぁ、!!!」

「いや~~~~!!」

「どうなすった?」


 と驚きを隠せない農婦。ソワレは顔面蒼白になって、


「どうしよう、オレグさんはこの豆料理の意味を知っているのだわ!」


「あわ・あわ・あわ・泡……。」


「ソワレさん、慌てて泡を噴いている時ではありません。すぐにオレグさんを現生に引き止めないといけません。」

「オレグが縊死いしすると……言うのですか!!」


「あ~ありえますわ!! これは一大事です。山狩りです。戦争です!!」

「まぁ~どこかで聞いたようなフレーズ。たぶんまだ生きているでしょうね。」


 二人の会話を聞いてもピンとこない理解できない農婦。と慌てる二人に、この騒動の始まりに気づく者はいない。


「なんだいこやつらは。……食い気だけか!」

「はいな、そのようですわ。オレグさんが飛び出した事すら気づかないなんて。なんて薄情な……。」


 ソワレは一段と語気を高める。


「あんたたち、オレグが出て行ったわよ、少しは心配しなさい。」

「オレグ?? あぁ旦那は豆が嫌いなんだ。心配はいりません。おおかた隣の家にお邪魔しているでしょう。隣は……今日焼肉ですよ。」


 ソワレとエレナは隣の家に行った。木戸まで行くと、


「んまぁ!!……とてもいい匂い!!」


 オレグは銅貨を出して住民と交渉している最中だった。


「羊は冬の貴重な食料だ。去年はとある島に放牧していたが、ごっそりと盗まれてな大損したんだ。だからお前さんにいくら金を積まれても食わしてはやれない。……とっとと出ていけ!!」


 オレグは心当たりがあるので急に蒼くなった。


「亭主、すまなかった。これは匂い代だ、とっておけ。」

「おやおや金貨一枚では済ませませんよ~。さ、さ、上がって肉を食べて下さい。一皿金貨一枚でどうですか!」 


「…・・…”。」(俺よりも強欲だこと!)


「まぁ、!!!……ほんとだったわ。」


 このやり取りを見たソワレは呆れた声をあげた。オレグは、おとなしく金貨三枚を払って肉を食べたという。


「俺は羊で大儲けしたんだ、金貨四枚とは安いものさ、が~っはっは~!!」


 オレグの農場にはこの農家の羊とその子供がたくさん居るのだ。そう、ソフィアに頼んで上陸したボルンホルム島でしこたま羊を捕えていたのだった。


「……捕まえたのは山羊だったような??」

「いいえ羊でした。」


 とオレグには天の声が聞こえた気がした。


 オレグは元気になった。ちなみにこの農家の羊は近くの島に放牧するという。


「島だったら羊は逃げることが出来ない。だから時間ができて副職が出来る。」


 というのがその理由だ。陸地では常に羊を見張っていなければならない。腹を空かせた人間オオカミが居るので大変らしい。


 この農家が遠くの島に羊を連れて行けるはずはない。近くの砂州の島の事なのだろうが、オレグにはその事に気づかなかった。



 1245年3月10日 デンマーク・コペンハーゲン


 オレグらは無事にコペンハーゲンの街に入ることが出来た。


「うっひょぉ!! なんだか寒気がしてきた。気のせいかな~。」

「はいオレグさま。私たちもとても寒いです。」x6

「私は寒くはありません。」


 と言うのは、海に入らなかったルシンダだ。魔女の六人は総じて寒いと言う。


「風邪かな~っと思ったら、駆けつけ三杯です。」


 ソワレがパブを見つけて飲みたいので暗に誘っているのだが、オレグは、


「ここは宿屋を探してくれないか。洟水が垂れてどうしようもない。息ができない。」


 と言うのだった。


「オレグさん風邪ですか?」

「いや分からない。たぶんそうだとは思う。思うが……なんだか魔女の呪いが発動しているかもしれない。」


 ソワレはエレナに、


「この街の魔力の根源を探してちょうだい。魔女の呪いが発動しているとも考えられるわ。」

「私もそう思います。ですが、せいぜい気分が悪くなるだけで実害は無いでしょう。」

「それならばいいのですが。でも、どうしてそう言いきれるのですか?」


「だぁって雪が降っているのは私たちの頭上だけですもの。村には全くにもって少しも降っていませんわ!」

「まぁ。私たちは歓迎されているのでしょうか??」




*)一軒の離れたパブ


 村はずれに一軒のパブが在るとエレナが報告した。そこは森の入り口でもあるし村からの出口でもあった。ならば村の入り口? にはならないらしい。


 オレグはエレナに訊いたが答えを知らないという。


「だって、ここのママから聞いた事なのよ。私だって理解できなかったわ!」

「それってどういう意味だい。さすがの俺でも理解できないぜ。」


 馭者の一人が知っているかのように、


「老人と病人を送り出すという意味でさ。」


「びぇ~!!」


 と全員が怖がってしまう。それを見て馭者は笑うのだが、後でウソだと言った。


「おい、ビビらすなよ。余計に寒く感じるよ。」

「はい、雪は降りやまずに、しんしんと……。」


「きゃ!、わっ!」


 と又してもソワレが大きい声で驚いている。全員はソワレを見て、


「ぎゃ~!、わ”っ~!」           「ドクロ!!」


 と言いようもない言葉が飛び出した。


「なんじゃい俺を驚かすんじゃないよ、……ドクロだと??……ふん、ちゃ~んと肉もこの通りついておるわ!」


 ぎすぎすに痩せた色黒の老婆が現れた。だが見えるのは顔だけで胴体は物に隠れて見えなかったのだった。頬は痩せて肉らしい肉はついている風には見えない。頭にあるはずの髪の毛すら、カビが生えた饅頭のようにうっすらと生えている。産毛……??


 垣根から現れた胴体はすごくほっそりとしていた。腕は肘が大きくて二の腕は肘以下の細さだった。


「ちょうど良かったわい。重たいからこのザルを持ってくれないか。」


 全員は目を大きく見開いて、口は顎が外れたかのように大きく。ソワレにいたっては、


「あわ・あわ・あわ・泡……泡……。」


 老婆はソワレを見て、


「こやつは癲癇てんかんだね。……どうれシャモジを口に入れてやろうか。」


 と言いながら木で出来た何かをソワレの口に突っ込んだ。


「いいえこれは違います。ソワレはカニの生まれ変わりで、、、、。」


 と、エレナが慌てて言う。


「じゃぁお前が持て。今日の晩飯だ。」

「はい~??」


 ザルに入っていたのは大きい毛ガニだった。


「今日はいつもより寒かったから、浜に毛ガニがたくさん上がってきたのだよ。わしの頭と同じだよ。」


 と老婆はカビの生えたような髪を撫でつけた。毛ガニの毛のように見えた。冷え込んだ日には毛ガニが上がるという。事実だ。


「なぁ婆~さん。今晩泊めてくれないか。宿屋を探しているんだが、俺らはよそ者だからどこも泊めてくれなくてさ。」


 先ほどの馭者が前に出て言った。


「ガ、ハハ・・はは・・。」


 老婆の冗談にようやく笑い出した男がいた。ヤンだった。


「女将、このカニは湯がいて頂くよ。その手伝いをしてやろう。」

「そうかい、助かるよ。」

「だったら俺も手伝う。」


 サローも名乗りをあげた。オレグは洟水を垂らしているので一言も話せないでいる。魔女らも同じく。


 老婆は空を見上げて、


「あの方がお前らを歓迎しろ、と言ってなさる。さぁ早く中にお入り。」


 と言った。


 真っ先に入ったのがエレナだった。


「キャ!」


「私の姿を見て驚くとは、失礼ですぞ!」


 そこにはちいさな妖精ノーミードが居た。老婆は身長三十cmほどの小人で農婦の服と三角帽子を身につけている。


「いらっしゃい。」


 奥からも老婆の妖精ノーミードが出てきた。同じ顔形をしている。


「ごんばんは、おぜわになりまず。」


 鼻声で発音が出来ないオレグが真っ先に挨拶をした。


「オレグさん。オレグさんは小人さんを見て驚かないのですか?」

「驚いたら失礼ですよ。森の妖精さんたちです。謂わば小さな魔女さんです。」


「ほらほら入り口で突っ立ってないで入った、入った。」


 三人目のノーミードが玄関先で怒鳴りだした。


 三人の小さな魔女。老婆の妖精ノーミードだ。ウィンビー、トロール、コナスチャという名前。見分けは到底できない。うりみっつだ!


 骸骨に見えた老婆とそっくりだから不思議そうに見ているソワレには、


「先ほどの老婆はわしら三人が合体した姿じゃ。」


 と言って笑った。


 小さな姿で物を浮かせたり飛ばしたり。すべてを魔法でこなしている。


「まぁ、ファンタステック!!」


「長い夜になった。あとはご想像に任せて……。」



 うついけんしはしんけいつう、の解答を忘れていました。昨日の神経痛

の痛みで思い出した。

 宇津井健氏は神経痛”になります。名前の違和感だけで済まされたの

でしょうか。もう、宇津井健も知らない人が多いでしょうね。

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