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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
122/257

第122部 オレグ編 コペンハーゲンの海上戦


 1245年2月28日 デンマーク・コペンハーゲン


*)オレグの目的は?


 バルト海の西の唯一の島、ボーンホルム島を過ぎた頃にシビルはシビレを切らせて尋ねてきた。


「でだオレグさんよ。どこに船を着ければいいのかな。」


やはり機嫌が悪いようだ、ぶっきら棒に尋ねてきた。


「あぁ! んん?? コペンハーゲンに頼むよ。刺客を潜入させる予定だからさ、その下準備を行いたいのだよ。」


 刺客? と、そうと言われても理解できないシビル。


「運河を一望できる場所にマイ・シャトーの建設を考えているんだ。」

「だったら私をそのマイ・シャトーで雇っておくれ!」

「そうだな、マイ・シャドウには最適かもな!」

「シャドウ?? なんじゃそれ!」


 不安な面持ちのボブ船長は、


「なぁ兄ちゃん。運河をこの船で突っ切れ”と言うんじゃないよな。そんな事をしたら矢がいくつ飛んで来るのか見当もつかないぜ。」


「もちろんそう言うに決まっているだろう。だてに魔女を八人も十人も乗せているのじゃないぜ!」

「ボブ船長、あたいの全力を見せたるさかい運河の真ん中を走ろうや!」


 戦闘が好きなシビルが話にのってきた。ボブはボブで開き直ったように、


「そうかい、もう、なるようになれ! この俺さまも全力で舵をきってやるよ見損なうな……だぜ!」


 そう言いながらも、もうエーレスンド海峡に差し掛かる。


「なぁ兄ちゃん。コペンハーゲンの水道・運河は北から入るのかい?」

「ボブは船長だろう。お前が決めろよ。逃げ足を考えて判断しろよな。」

「この時期は北西からの風が強いから、北からの侵入になるな。」


「そうか、だったら見つかるまではゆっくりと南下してくれよ。運河沿いに二つの城を築きたんだ。その場所のめどが立てばいいだけだから。」

「シビル、どうだい、力は満タンか!」

「エンピツ……いや、エンプティだな。」

「しゃ~ないな。ボブ北よりに進んでくれないか。スェーデンの岬で停泊して休憩と魔女らにエネルギーの補給を行う。」


 オレグの判断が後々のデンマークとの争いに結びつくのだった。敵に行動の時間を与える格好になるのだった。


「了解した、北北東に進路をとれ~!」


 そう言うとボブは魔女のケツを蹴とばし始めた。


「キャッ、イテ!」

「でかい尻だ、俺の足が痛いよ。」

「ふん、なにさ。このおたんこなす!!」

「バコ~ン!」「バコ~ン!」「バコ~ン!」「バコ~ン!」「バコ~ン!」「バコ~ン!」


 とボブは怒り狂って魔女を蹴りだした。


「キャイ~~ン!!」x9+2


「あたしらは関係ないだろう、このおたんちん!」


 アンナとカレーニナは怒りだした。


「ケケケッ。」


 とボブは笑っている。


 オレグはエレナに、


「なぁエレナ。空からの偵察を頼めるか。」

「はいオレグさん。偵察に行ってきます。そのう、後でいっぱい飲ませて下さいね。お約束ですよ。」

「役に立たないヤンがたくさん積み込みしているから、自由に飲んでいいよ。ソワレもな!」

「うんありがとう。」


「今日はここに停泊する。灯りを点けることはできないから、早めの夕飯にしようか。アンナとカレーニナ?」

「はい承知しました。」


 と、オレグは名前を呼んだだけだが二人は夕飯の支度を始めた。


「すまね~今日は俺らにも飯を食わせてくれ。もう腹ペコで死にそうだ。」


 げっそりと痩せた二人の男が船倉から甲板に出てきた。


「お前らは声が聞こえないと思っていたら寝ていたのか? 働かずに?」


 ヤンとサローがお腹をこわして寝ていた。ルシンダはそんな二人を看病していたという。


「お前らの日頃の行いが悪いから腹をこわすんだ。明日からはこころを入れ替えて働いてもらおうか。」

「へい、飛んで来る矢を全部落としてみせます。」


 馭者はオレグから渡された丸薬を本当に二人に飲ませていたのだった。オレグはこの事はすっかり忘れていた。


「あっ、そうだったのか。うん、そうかそうか。二人ともゆっくりと飲めよ。さもないとはらわたが捻じれてまた痛くなるからな。」


 陸から遠くない処に錨を降ろした。偵察のエレナが戻ってきた。


「オレグさん、ここは絶壁だし陸は森になっているから夜襲の心配はいらないよ。安心して眠れそう。」

「そうかありがとう。船倉で休んでくれ。もう女どもは宴会を始めていると思う。そして早寝早起きで頼むな。」

「うん分かったわ。」


 船倉からアンナとカレーニナとルシンダが上がってきた。


「夕食の準備が出来たわ。取りに来て頂戴。」


 とアンナが言う。


「おう、お前ら行け!」

「へい!」x6


 オレグは馭者とまだ役にもたっていない男、そう元ドイツ騎士団の四人に命じた。


 辺りは暗くなり、夕飯の時間はあわただしく過ぎていく。


「俺とボブが最初に見張りに立つ。次は誰だい?」


 オレグの視線は元ドイツ騎士団の四人に向いている。


「へい、あっしらが行います。」x4

「そうか頼んだぞ。」

「次は誰だい?」


 オレグの視線はヤンとサローに向いていた。ルシンダが返事をした。


「私たちの三人で見張るわ。」

「そうか、頼んだぞ。」


「なぁ兄ちゃん。下が騒がしいが、いいのかい?」

「まぁいいだろう。明日の朝からはまた女の尻を蹴ってくれよ。」

「割れない程度にしとくよ……。」


 船倉ではドンチャン騒ぎになっていた。


「お前ら、唄え! 踊れ!」


 とシビルが命じていたのだった。


 交代の夜中になっても四人は起きてはこなかった。


「くそ~あいつらはどうしてやろうか……。」



*)コペンハーゲンの争い


 オレグらはコペンハーゲンの天然の運河に差し掛かった。見えるのは木々だけであった。


「ボブ、ここはまだ開けてもいないのか。」

「そうだな、十k進んだ奥の広い湾に漁港が在るはずだ。たぶんそれまでは同じ景色かと思うがな……。」


 この運河を南に下ると港が在るという。オレグは安心したかのように、


「エレナ、すまないがまた頼むよ。」

「今度は何かな。丘の上の偵察??」

「あぁそうだ。向こうに見える小高い丘の左右を見てくれないか。丘の奥が平たく開けた土地が在ればいいのだが。」


 エレナはいつもの鳥の姿になって空高く舞い揚がる。揚がったかと思ったらもう降りてきた。


「オレグ、恥ずかしいから見ないで。」

「だったら船倉に行けよ。」

「あっちはブ男が居るから嫌なの。」


 エレナは鳥から人間の姿に戻る時に一瞬だが裸になるという。


「そうか……全員後ろを向け!!」

「へ~い……。」

「オレグいいわよ。」


 オレグは振り返った。そこにはいつものエレナの姿があった。


「お前、いつもは裸にならないのだろう?」

「うんリリーの服を忘れてきたから普通の服では、変化についてこられないのよね。リリーの服が無いと不便だわ!」

「へ~初めて聞いたよ。でだ……。」


「あ、うん。右手の丘がいいみたい。丘の向こうには教会が建っていたわ。道路もあるしここは最初に拓けると思う。」

「そうかありがとう。今度案内してくれ。城の建設の目安をたてたい。」

「うんいいわよ。」

「それとね、この先には小さい島が在るわ。」


 この島はスロッツホルメン島という。橋はまだ無いらしい。


「そうか……島かぁ。」

「牧場として開けた島だからちょうどいいのじゃないかな。小高い丘もあるし天然の要塞にもなると思うな。」

「だな。でもリリーが居ないと開拓が遅々として進まないだろう。それに橋を架けるのも大変だろう。」


「ほら、そこはこう考えるべきよ。公共工事としての貴族の株が上がるはずよ。……ネ!!」

「そうか~民衆に金をばらまく口実になるな。これで人民のこころを掴め! という作戦か。」

「はいな。魔女たちを総動員すればなんとかなるさ~!」


 そんなこんなとエレナと話し込んでいたらボブが、


「おい兄ちゃんこの先は幅が狭くなるぜ。用心して進むか、それとも全力で進むかい? あの小屋を見て判断してくれ。」

「なになに? あの小屋は兵士の詰所かい?」

「らしく見えるよ。窓の作りが小さいし矢を放つにはちょうど良いような……。」


 ボブの説明に納得したように、


「おい、ヤンとサロー、出番だぞ。」

「オレグどの任せて下さい。この盾で全部受けて見せます。」


 そうは言っても男の二人でも五人でも多数の矢は防げない。


「シビル魔女らに爆弾の準備をさせとけ。」

「いや、もう空に飛ばせたがいいだろう。窓には矢のような棒が見えるし、船からは早めに出さないと矢が飛んできて飛べなくなるよ。」

「そうか、ここは任せる。シビル、突風を頼むよ……沈まない程度で!」

「あいよ、任せな。」


 シビルは魔女らに向って、


「お前ら、石を抱いて舞い揚がってくれ。あの小屋から矢が飛んできたら石を落してくれよ。」

「はいシビルさま!」x8


「ボブ船長。もう加速してもいいか!」

「おう舵なら任せろ。いつでもいいぜ!」


 非戦闘員は船倉に避難させる。


「おいおい、ルシンダが一番に避難するのか?? お前は確か……人狼の巫女だったと思うのだが……。」


「そんなの気にしな~~~~い!!」

「まぁいいだろう。運河を運任せに通るだけだから関係なかろう。」


「アンナとカレーニナはシビルに魔力を送ってくれ。」

「はい。」


 楽天的なオレグはこの後の戦いが死闘になるとは思ってもいなかった。


「ボブ、どうだ! 無事に抜けられそうか。」

「あぁ追い風もあるし早足で抜けれるよ。シビル次第だがな!」


 シビルは、


「ふん! 船長の舵捌き次第だよ!!」


 と共に相手の力量に依存した言い方をしている。」


「おいおい二人とも仲良くしてくれよ。でなきゃこの危機からは帰れなくなるかもよ。」

「縁起でもない、そのような事があってたまるか。帰ってオレグの酒を全部飲んでやるよ。」


「あぁいいぜ。帰れたらな!」


「俺は兄ちゃんの前で、かぁーちゃんといちゃつくところを見せてやりて~。単身赴任の辛さを見せてやるよ。」

「あぁいいぜ。無事に帰れたらな! ……ボブの嫁さんを頂きに行くよ。」

「よせやい。ただし新しい嫁を持ってきたら、この限りにあらず!!」

「お前の家には畳の部屋は無いだろう。違うか?」

「だな。」


「お~いエレナ。また偵察を頼めるか。」

「もう嫌だよ。矢が飛んできたらどうすんのよ。」

「どーすんのよ、と言われてもなぁ、どうも出来ん。」

「だったら偵察は却下よ!」


「オレグ~魔女が石を落とし始めたぞ。」

「矢は魔女までは届かないよな。」

「あぁ、大丈夫だ。だがこの船に降りてくる時はどうかな。」


 川岸の小屋では大きな音と共に兵士の逃げる声が多数聞こえてきた。


「ふんバカめ! この俺さまに矢を放つからだ、ザマね~な。」


 オレグは戦況を軽く見ている。


「オレグさん後方から船が多数追ってきますよ。前方は待ち伏せかな。停泊したままだよ。」


 偵察は嫌だと言っていたエレナが戦況の報告にきた。


「すまないエレナ。この事はあの二人に説明してくれないか。突進にてもいいのかが知りたい。」


 エレナはシビルからボブの順に話した。


 シビルは、


「正面突破する。串の準備をするから船倉から馭者を呼んできてよ。」

「うん分かった。呼んでくる。」


 シビルは元ドイツ騎士団の四人と馭者の二人に船首に丸太を二本取付させる。


「ほらほら港で説明しただろう。早く組み立てろ。」

「シビルさん波しぶきで作業が出来ません。少しだけ速度を緩めて下さい。それと港では何も説明は受けていませんよ……でしたよ?」


「あれぇ~? そうだったか?~。」

「そうですよ~な~んもありませんでした。」


 それはそうだろう。誰かが書かない限りは何も存在しないし事実もありえないのだ。きっと将来は訂正された物語が完成するか?……と思われる。


「シビルさ~ん。石を待たせて下さい。船までは降りれませ~ん。」

「しゃ~ね~な~。今、空に放り投げるから受け取れよ!」

「は~い……      ・         ナイスな投球ですわ。」

「そ~か~??」


「オレグさん。右舷に網を張るから手伝ってくれよ。」

「ボブ船長。お前は舵を頼むよ。俺とこやつらで張ってやるよ。」

「しっかり張ってくれよ。さもないとハリセンボンになってしまうよ。」


 オレグが言うこやつらとはヤンとサローの二人である。だが、


「お前らは使えね~な~。海が怖いのか、あ、ああん??」


「だ、だ、誰もビビッてはいません。落ちるのは嫌だと考えているだけです。」

「それが怖いという事だ。おかでしか動けないのかい。」

「いや、その。膝が笑っているだけです。笑う膝が悪いのです。」


 膝が笑うとは、例えば重たい物を全力で走って運べば、足はガタガタと震える事がある。この事を膝が笑うという。


「膝のせいにするな、いいから早く網を張るぞ。もう時期に矢が届くぞ。」

「あ、はい。膝を叩いて頑張ります。」


 船首では丸太を取り付けているから柱を立てることが出来ない。


「お前ら、まだ時間がかかるのか。はようせい。」

「だったらお前も手伝え。」

「いや俺らは網を張る係りだ。丸太の取付はできない。」


 馭者はヤンとサローに、仕事を押し付けようとするが共に逃げ出した。


「つ、っかえねな~!! グラマリナにはなんと報告しようか。」

「私が船首の柱を立てます。」


 とソワレが名乗り出た。


「おう、ふ名乗りと同等だな。」

「船乗りと一緒にしないでください。私はあんなに獰猛ではありません。」

「いや文字を変えておいた。だから一緒ではないぞ。」

「違う文字でも発音は同じです。……日本語ですのも。それよりも使えない二人はクビにしてください。」

「あぁ女帝さまに報告しておくよ。国へ帰すようにとね。」

「船室の女もお願いしますね。トチェフ村では迷惑ばかりを私に押し付けるのですよ。もううんざりしています。」

「そうか、では三人まとめて海に沈めるのはどうか?」

「殺すのは忍びません。敵に渡してしまいましょう。」


「お~いサローとヤン。お前らは捕虜になってこい。」

「オレグさん嫌ですよ。殺されます。」

「だったら、あの二人には迷惑を押し付けるなよ。」

「はいルシンダさまがきっと努力いたします。」


 とバカを言っている間にも右舷への網張りも終わってしまった。


「ぎゃ~たくさん飛んでくるぜ!」

「騒いでも同じだぜ、お前らも船倉に隠れていろ!」

「いやです。私たちも戦います。」


 サローとヤンは首だけを出して言うから無能とオレグから思われている。


 右の岸辺から矢が飛んでくる。網が無ければ船はハリセンボンになるところだ。ボブが前方を見るように催促してきた。


「兄ちゃん前の船団をみてくれ。中央が割れて通り道が出来たぞ。俺を怖がって道を空けたのかな。」

「そうだな。もう其処を通るしか方法はないだろう。」

「おいシビル。全力を出せ!」

「はいな。ボブ後は任せたよ。」


「あ~任せろ。」

「オレグさ~~ん!」


 とエレナが叫んだ。


「なんだ、どうした。」

「うん左右に割れた船にはそれぞれロープが張られているよ。きっと海中にはロープが在ると思う。」


 オレグは考えたが判断が出来ない。後ろからも船団が迫ってくるから、気が気ではなかった。


「ボブ。中央にはロープが張られている。どうする!!」

「どうするもこうするも、一点突破に決まっているだろう。」

「ロープに絡まって敵の船を引きずれるのか?」

「な~にこの船は頑丈だ。十艘くらいは平気だろう。」

「バカ言え、船足ふなあしが落ちるだろう。そうしたらすぐに全方位に囲まれてお陀仏になるとは考えないのか! このお***ん。」


「おうおう言ってくれるじゃないか。ちくしょう~め!!」


 ボブは両手に唾を吐き手もみを始めた。


「シビル左の船団に突っ込む。丸太の槍は出来たか!!」

「あぁ串の準備は出来ている。ボブ、刺す肉はどの船にするね。」


「あ~あ~お前ら! 本気であの分厚い船団に突っ込む気か!!」

「はいな、オレグは船倉に隠れていればいいよ。すぐに矢が飛んで来るぜ!」

「んな! バカな! 俺はお前らとは心中したくはない。」

「兄ちゃん、嫌でも俺らに付き合うしかないのだぜ。死にたくなければりき、いや脳みそを出せ!!」


 ボブはオレグの底力を信じている。いつもいい計画を出しては敵となる相手をねじ伏せてきたのだから。今回もそうなると思っていた。


「アルベルト、デニス、ハンス。と名無し。丸太をもう一度確認しろ。緩んでいたら即手直しだ。」

「はいボス!」


 シビルは元ドイツ騎士団の男にボスと呼ばせる気らしい。このままだとあの四人はシビルの子分になりそうだ。


「ボス大丈夫です。」

「そうか、次は船の前にも網を張ってくれないか。」

「へいボス。二重に張っておきます。」


「あいつらの二人よりも良く働くね。気に入った。」


 とはオレグの評価だ。サローとヤンは評価が下がる一方だった。本当におかでないと使えない。


「おいシビル。船足ふなあしが遅くはないか?」

「当たり前だろう? 船速を落さないとこちらの準備が出来ないだろう、この*****が~。」


 どいつもこいつもこの*****という言葉が好きらしい。こういう時に言われるのは、やけに癪に障るオレグだった。


「くそ~ここは俺の知恵で凌いでやる。今に見ていろ!!」


 シビルは空の魔女らに大声で叫んでいる。


「今、爆弾を上げるから受け取れよ~。」

「はいボス。」


 と言っているらしい。オレグには聞こえなかったがシビルは、


「そうかそうか。俺はボスか!」


 とにやけている。だから魔女らもシビルをボスと呼んだと思えた。シビルは次々と石を放り投げている。上手い具合に受け止めていた。だが?


「ザブ~ン、ドブ~ン。」「ドブ~ン、ザブ~ン。」


 と四個の石が落ちてきた。

「こら~石は受け止めろ~!」


 とオレグは叫んだ。


「すまね~オレグ。石を二個多く投げ上げたのだ。」


 とシビルが謝った。


「なんだ、ただの誤砲か!」

「いいや、そうでもないぜ。今度は敵の砲撃だぜ。俺らの手の内は前回の戦いでばれているから、敵さんもまねているのさ。」


「ザブ~ン、ドブ~ン。」「ドブ~ン、ザブ~ン。」


 と石が落ちてくるも当たらない。オレグは空を見上げた。


「ありゃ~……。こりゃ~たまげた! 魔女による空中戦か。」

「シビルどうするね。このままだとデンマークの船は沈められないよ。」


「アンナ、カレーニナ。出動だ、ロープを持って飛んでくれ。」

「はいボス。これで相手の首を切って落としてきます。」


 シビルが二人に持たせるロープの中央には長い刃物がついていた。それをたやすく持って空に向かう。


「ゲゲ!!」

「オレグ、そう驚くな。間もなく魔女の首が落ちてくるから隠れていろ。」


 と言い終わる前から、


「ぎゃ~。」「ギャァ~!」「ぎゃ~。」「ギャァ~!」


 と魔女の断末魔の声と血の雨が降り注ぐ。


「ふん! ザマね~な。所詮、物まねのサルだ!!」


 一人の魔女が降りて来て、


「ボス、次の石を投げて下さい。あいつらは敗退して逃げていきます。」

「あいよ、今度は余分に投げないからね。」

「はいボス。      ・       お届けものです。」」

「なんだい、……。     おお! これは……!」

「はい飛行の魔石です。これで船をも浮かせられます。」


「んなばかな! 船が浮くものか、ありえない!!」


 シビルも一個の魔石を持っていたが、やや小さいので小舟しか浮かせる事が出来なかった。この事はアムステルダムでライ麦の陸上輸送に使った手段だが、オレグは居なかったし見てもいなから知らないのだ。


「オレグには教えなかったが、俺の飛行の魔石で船を軽くしていたのさ。だからこうやって早く動けるのだよ。」

「その飛行の魔石が二個になると船が飛ぶのか?」

「あぁその通りさ。海に浮いて奔れるぜ!」


 ポカンと口を丸く開けたオレグには、もう何も言えないかのようだった。シビルはボブに向って、


「ボブ船長いい物が手に入った。このまま真っ直ぐに進んで中央突破だ! 海のロープの心配は要らない。飛んで来る矢だけ注意してくれ。」


「アイアイサー!!」


 シビルは空の二人、アンナとカレーニナに降りてくるように合図を送る。一直線に落ちてきた。


「そんなに早く降りなくてもいいのよ。」

「はいもう……魔力がありません。」

「そうかい、だが……。」


「ぎー、ギャァァァ~!!!!!」x2

「おいシビル、何をする。二人を殺す気か!」


 シビルは二人の服をめくってパンツを剥いでいた。そして両手の中指を立てて二人の尻の巣に突き刺す。さらに悲痛な叫び声に変容した。


「ギガ!、、、ギャァァァ~!!!、、グエェ~!!」x2


 二人の魔女の顔面は蒼くなり口からは長い舌が飛び出した。両の目からはとどめもなく涙を流して…      ・     顔は赤くなり 喜んでいた。


「魔力回復魔法さ! どうだい、元気になっただろう。」

「はいシ    ビ    ル   ・     さ    ま    。」


「オレグ! この二人にビールを飲ませろ。すぐにエネ満になるぜ!」


 オレグが事の顛末にオロオロしながら船倉からビールを持ってきた。長い舌はそのままで、オレグ目がけて可笑しな顔をした二人がオレグ目がけて突進した。


「ヒェェェ~、ひや~!!」


 ビールを持ったまま逃げるから悲惨な最期を遂げてしまった。船尾に逃げたオレグは二人に絡まれて身動きが出来ずにひっくり返っていた。


「グビグビ。チュウチュウ!!」


 と飲み干されるビール。あたかもオレグの生気が吸われるようだった。


「どうだいオレグは最高だろう?」

「はいボス。お代わりをお願いします。」

「もうだめだ。嫁さんに知れたらお前らが吸われてしまうぞ。」

「それは困りますから遠慮させていただきます。」

「さ、俺に魔力を送れ。船を飛ばすよ!!」

「Yes,ma'am。」


「シビル待ってくれないか。まだ船尾翼を出していないぜ。」

「船尾翼?? この船につばさが??」


 オレグは知らないと言って戸惑うのだった。


「船長、時間はどれぐらいだ!」

「おう、一分で出せる。」

「ちょうどいいよ、俺の魔力も気も籠るのにはいい時間さ。アンナ前においで。カレーニナは後ろに抱き着きな!」

「Yes,ma'am。」

「…………ボブいいかい、俺は準備が出来ちまったぞ!」

「ちょっと待ってくれ、船尾翼を出すにもそこの二人の魔力が必要だったよ。」

「ほぎゃ! しょうがないね。出すだけだからお前ら直ぐに行って戻れ。」

「はいボス。」


 船尾の甲板に頭と胴体を突っ込んだ格好になる二人。


「おめ~ら、いいか……。」

「はい……割れない程度で……。」


「ぎ、ギャァァァ~!!ァ!!ァ!」x2

「これくらいでは割れないだろう!」


 とボブは二人の尻を蹴とばした。


「もうボブさまは……・・人だわ!」

「そうかい、今晩にもう一度やるか?」

「はい、お願いします。」


「?……・・・?」


 オレグには理解できない。


「ほら早くしな。…… ボブ、船尾翼は出たかい。」

「あぁ十分だ。あとはシビル頼んだぞ。もう飛ぶんだ、舵とかは関係ないからな。」

「あいよ任せな!」

「?……・・・?」


 やはりオレグには理解できない。


「いっく、で~~~!!」


 シビルの掛け声とともに船の速度が増す。増す。ますます増す。船首が浮く。次に胴体が浮いた。もう、海と接しているのは船尾翼だけになった。


「?……・・・?」


 オレグにはますます理解できない。


「いっ、け~~~!!」


 とシビルは声を荒げる。すると、アンナとカレーニナも同じく、


「いっ、け~~~!!」x2


 空からも、


「いっ、け~~~!!」x8


 船は船尾翼に魔法が籠る。籠る、魔力が増える。


「ゲゲ!!」


 やはりオレグには理解できない。


「シビル、イグニッション、オン!!」


 アンナとカレーニナの二人がシビルに指を刺した。


「あんn!!」


 とシビルが悩ましい声をあげると、船が浮いた、飛んだのだ。水面すれすれだが高速浮上で移動するから、海上のロープはもう関係はない。飛んで来る矢は風圧で軌道が逸れて全部が全部海に落ちる。


「ボブ、網を収納してくれ。このままだと船速が落ちる。」

「おう任せろ。……おい兄ちゃんも手伝え!」

「あ、あ。俺の事か。すぐおろしにかかる。」


「いや~初めてだとはいえ、これは最高だぜ。……こんなスピードは俺は知らないぜ!!」


 船首に立ったボブが感嘆の声をあげる。ボブは?、


「俺もシビルの口と鼻に指を差し込みて~!」


 ボブがバカを言っている傍からデンマークの船団が流れるように過ぎていく。甲板の船倉のハッチから首を出していたルシンダは、


「ギャッハ~、これはすげ~!!」


 とはしゃいで出てきた。


「ルーシー……さ、ま~!」


 怖いのか従者の男はべそかいてルシンダに縋っていた。


「お前らは海では使えないね~。」

「そんな~ルーシーさま~まで……。」

「もう、その名前で呼ぶなといつも言っているだろう。黙れ!」

「はいルーシーさま。」

「……・・。/」(バコ~ン)


 空高く飛んでいる魔女も矢を回避して船を追いかけているように見えた。


「ケ! あいつらはもう一度根性を叩き込んでやる。」


 船よりも遅く飛ぶ魔女にシビルは業を煮やしている。シビルの後ろに抱き着いているカレーニナが脱落した。船速が落ちる。デンマークの船団を過ぎたとはいえ、敵の目の前で速度は落とせない。



「アンナ、もう少し頑張るよ。」

「はいボ……ス。」


 アンナも魔力切れで後ろにのけぞった。


「オレグ、それにボブ。二人を労わってやりな。」

「お、おう、任せ……。」

「お二人は私どもが看病いたします。船には舵が必要でしょう?」


 とエレナが声をあげる。


「そうだな、船は飛べないんだ、操舵するな。」


 追いかけてきた船団が、お仲間の船のロープに絡まってしまう。それから船は着水して通常の航海に戻った。ボブは男らに向って顎を振る。オールを漕げ! という指図だ。


「ケ!ケ!ケ!……。」


 と不気味な笑いをしているのは誰だろうか。


 空の魔女も順次、


「ボス、すご~い!」「ボス、素敵です!」「ボス、大胆です!」


 と降りて来て感想を述べている。


 オレグは、


「んな、バカな~~!!」


 と大声で叫んだ。


 ソワレはオレグに、


「オレグさんも海では形無しですね。」

「いや~面目(めんぼく)ない。」


 オレグはコペンハーゲンを過ぎて右の方に砂州が発達した入江が在るというので、そこに停泊するようにボブに命じた。


お粗末でした!!

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