第121部 オレグ編 デンマークの首都は何処だ!!
当時のデンマークは国土が広かった。コペンハーゲンは出来たばかりの田舎の港村だ。では当時の首都は何処だろう? ネットでは疑問に応える書き込みはありはしない。第一に同じ疑問を持つ輩がいないのだ。
だから歴史と第二の人口を有する街を探した。だが歴史の説明にはなんらも記入が無い。普通は首都の選定の年くらいは書いてあるのだが……。
当時はキリスト教の布教が先行した都市が大きく成長している。これは国王を垂らしこんだ者が優秀だったからとも思えるが、皆さまはどうお考えでせう。
デンマークはデーン人の国として栄えだした。ユトランド半島がその国になる。ここに東岸、すなわち冬の季節風をもろに受けない東側に都市が集中している。地政学的にも東は重要だったのだ。西高東低、日本もそうだが外国でも西高東低が出来上がっている。それも大昔からだ。人間の性からかもしれない。
この地では本当に東風が常に吹いているような気候になっておりまする。
西はフランスで消費地で栄え、東は食糧の供給地として栄えた。
日本のそれは地価=住宅の価格と比例している。都市の西は住宅の価格が高くて東は相対的に安い。皆様も織り込みチラシを見て頂きたい。ただ、一戸建てを購入したくてチラシを集めていては本末転倒だ、チラシ集めが目的となる人が続出するようでもある。
西は嵐の影響が強すぎて都市の建設には向かなかった。温暖化による海面の上昇には人間は勝てるはずもない。この時代の日本でも多くの土地が水没している。現在でも四年前と比較して二cmほど海面が上昇している。気象庁のHPに記載されている。
前座が長くなった。1240年ころの都市の目星はオーフスと判断した。948年に司教座が命名されたし、第一に商売につきもののバルト海の貿易の要衝にまで発展しているし、デンマークの第二の人口を有している。異論の有る方はぜひとも教えて頂きたい。
現在のコペンハーゲンは、漁村が作られて防塞上の城塞が造られた。それが1417年に城塞はデンマーク王の管轄へと移譲されて発展したのだ。ここは教会の許可を得て城塞が築かれ大きく発展した。いわば、デンマークとはかけ離れた独自の発展を遂げてきた。ロスキレ司教からの買い取ったのかは不明だが、その後も発展して今の首都へと変貌していった。1417年はまだ百七十年も先の事だ。
今は1244年なのだから。
ちなみに風車で水を汲みだす=0メートル地帯=海面上昇による低地に変わったという意味になります。初めから低地を埋め立て・開拓したのではありません。昔は大きな土木工事は出来ません。これから先は水没して行くかもしれませんね。そうしましたら大きい原発を建設して電気で排水を強行して行くのでしょう。
余談ですが、今一生懸命に消費している石油は使い切れば、また自然と再生産されていきます。温暖化で海の氷が解けましたら海流がなくなり水溜りになります。ここで陸地には一時間に百五十ミリとかの大雨になりますので、陸地からの栄養塩が大量に海に流れ込みます。これらの栄養塩で大量のプランクトンが生息した、淀んだ海へと変化します。あとは自ずと死の海になりプランクトンさえも死滅して、プランクトンは海底へと沈んでいきます。
これが何億年後には石油へと変化していきますが、地殻変動が伴わなければそのまま死の惑星になったままになるでしょうか。地球滅亡ですね。太陽は後に自滅して地球を呑み込みますが、その前に地球の生命は終わっているかと考えます。
皆さまも思いを馳せて下さい。両極の氷が無くなれば海流が止まります。死滅したプランクトンはメタンガスを発生させますから、地球温暖化に拍車がかかりますので、4億年くらいでは寒冷化にはならないでしょう、か?
ソフィアとリリーは、1245年1月14日に幽閉された。それからひと月の歳月が流れる。
1245年2月16日 ポーランド・トチェフ
*)オレグのハンザの手形が奪われる
ソフィアやリリーが行方不明になってどれくらいの時が過ぎただろうか。ここまで音信不通になると悠長なオレグですら心配になるものだ。リリーに呼びかけても返事もないのだ。遠くに離れていても空に向かいリリーと叫べば一時間以内に返事しながら現れたものだった。
「リリーどこに居る、聞こえたら返事してくれ!!」
と思い出す度に声に出すオレグだった。
「くそう~ブランデンブルクからリンデンへ向かって、マティルダの母に会ってそれから北のデンマークへ向かったまでは追跡出来たのだが……。」
しきりに悔やむオレグだった。オレグが得た情報は操作されていて多くの間諜により嘘の報告を受けていた。そういう意味では魔女のマティルダは優秀だ。
グダニスクではある出来事がオレグの身を襲った。オレグがトボトボと街を歩いていたら、階上の窓から汚物をしこたま被ってしまったのだ。まだトイレの文化は窓から投げ捨てるという時代だ。
「まぁ! ごめんなさ~い!!」
「ごら~なにをする。お前も落ちてこい。殺したる~!」
「お許しください。すぐにお湯の準備をいたします。どうか身を洗わせてください。服も洗濯してお返しいたします。」
若い母だったから気を許してしまった。
「お母さん、この人だぁれ?」
三歳くらいの娘が居たせいなのだが。
「これは主人の着物です。着替えてお待ちください。」
「いや俺はハンザ商館に行かねばならない。だから服は綺麗に洗って返してくれないか。俺の一張羅だから服が変わるのは困る。」
「本当にすみません。」
「娘の**に栓してやろうか!」
「おじちゃん、私のう**でごめんなさい。」
「く~この~う!!」
オレグは泣きそうな幼子に語気を緩めてしまった。オレグは身ぐるみを置いてハンザ商館に行くはめになったのだ。そう、大事なペンダントも置いていったから後々の禍にまで発展してしまうのだった。汚物はそのペンダントを目がけて故意に投げられたのだ。
オレグは軽く湯あみと着替えを済ませてハンザ商館へと向かった。
「遅れたがジジイは怒っていないだろうか。」
面会した館長は驚く。
「オレグさん、その似合わない格好はどうされました。」
「街で***を掛けられてしまってな、その家の男の服だ……ダサいか!」
「あぁ~ある意味十分に商人らしい格好だよ。ギャハハハ!!」
と笑い転げた館長だった。ここの館長とはあまり会話をした覚えはないが、不思議と砕けた会話がなされた。
オレグの顛末を聞かされた館長は大いに同情したし、商談もオレグの言い値で通されたのだった。
「オレグさん、ハンザの手形のペンダントは再発行いたしましょう。でないとすぐの代金の決済が出来ませんよ。」
「前のはどうしたらいいのだい。」
「明日には戻るのでしょう? だったら明日に返却されてください。交換の費用はそこの男に持たせますから心配はいりません。」
「そこの男……??」
「はい、そこに立っている男です。私の息子です。」
「なに? 館長の息子?!?」
「はいその服を見た時は驚きました。先日に息子に買ってやったばかりの服でしたから、……もう驚きましたよ。」
館長の息子も自分のお気に入りの服を着た男が居たので、驚いて見ていたというのだった。
「うちの嫁が粗相をしましてすみませんでした。服は弁償いたします。勿論ハンザの手形の交換費用もお支払いいたします。」
館長は息子に向って、
「息子よ、交換の金は高いが払えるか!」
「はい仕方ありません。お父さんがいい仕事を回して頂けるものと信じて待とことにいたします。」
「そうかそうか。すぐにデンマークの仕事を振ってやる。家に戻って嫁を慰めてこい。今頃は洗濯も終わって泣いているだろう。」
「そうですね、そういたします。オレグさん帰りに寄ってください。夕食の準備をしてお待ちしております。」
「いや明日に寄るよ。服は臭いが残らないように頼むな。」
「はい承知いたしております。お父さん。オレグ様にも実入りの良い仕事を回して下さいね。」
「おう任せておけ。ドイツ騎士団への物資の販売を頼むとしようか。」
「あぁ、あれは……はい。私は辞退いたします。」
と息子は自分がもらう仕事だったから残念がる。
「息子よ、すまない。」
「いや俺は騎士団は嫌いだから仕事は要らないよ。」
「でしたらロウソクを五百本お譲りいたします。これも息子持ちですから大丈夫です。」
「いや、それも要らない。」
「だがしかし……。」
館長はどこまででも食い下がって、迷惑料としてロウソクを五百本、オレグに押し付けてしまった。
「トチェフに届けておきます。」
「そうか、領主に届けてくれ。」
翌日オレグはかの家を訪ねて着替えを済ませる。ハンザの手形は念入りに調べたが異常はない。ハンザ商館で残高等を調べるがこれも異常はなかった。
「ではオレグさま、新しい手形に全項目の事項を移し替えますので、少しお待ち下さい。…… ? ……すぐに終わります。」
オレグが事務員を睨むとそういう返事が返ってきた。時間はものの五分で終わった。
「オレグさま、書き留めた内容と新しい手形の内容を確認されてください。昨日の代金の決済分が増えているはずです。」
オレグは八十ケタの暗証番号を打ち込んで確認した。旧の手形は残高がゼロになっていて、新しい手形には昨日の代金に旧手形の残高が加算されていた。
「新しい暗証番号も通ったし残高も合っている。名前も確かに刻まれているから大丈夫だ!」
「はい無事に移行出来まして安心いたしました。次は……。」
「おうハンマーでここを潰せばいいのだな。」
「はい、ここの磁気の黒い部分だけで十分です。」
「ガッチャ~ン!」x4
と念を入れてオレグは四回も叩くのだった。オレグのペンダントはこうやってボロボロにされたが、ソフィアによって付けられた昔の傷は残っている。
「よろしいでしょうか?」
と女史は右手を伸ばす。
「あぁ大丈夫だ。これは返却するよ。」
とオレグは大事だったペンダントの手形を女史に手渡した。
「これはギルドにて処分させて頂きます。」
「お、おう……。」
オレグはデーヴィッド商会の馬車に便乗して戻ることにした。
「俺は朝から何も食べていないんだ。早く村に着いてくれよな。」
「旦那、すみません、急に荷が増えましたので馬車の荷物を積み替えをしております。暫くお待ちください。」
馭者はそう言いながら身体を動かしている。オレグは増えた荷物がロウソクとは知らないし、デーヴィッドはギルド長からの依頼でろうそくをトチェフへ届けるだけで、ロウソクとオレグとの関係は知らない。
「こら! なんばてれーっとしょうるとか、はよせんか!!」
「すみません、もう終わります。」
デーヴィッド商会の荷物をやや多めに下す必要があったから、その取捨選択に悩んで遅くなったのが顛末。オレグは早く戻りたいから悪態をついていた……。
「エルザ、馬車が出たら塩を撒いておけよ。」
「はいな。……あんた、今日も売り込みのノルマ達成させてよね。二人目も要るのだから。」
「お、おう、そうか。昨晩にできたのか……。」
エルザはただ単に二人目が欲しいという意味だったのだが、デーヴィッドには二人目が出来たと勘違いした。出来たとか一晩で分かるはずもない。その夜からデーヴィッドはエルザにやさしくなった。
「新婚当時みたいで嬉しい。ま、当分は嘘でもいいか!!」
オレグはというと、馭者を罵倒しながらろうそくの荷の上で寝ていた。トチェフに戻ったら即行で銭湯に行った。まだ臭うような気がして堪らなかったという。
「いや~これで臭いも取れるだろう。極楽ごくらく。」
*)俺の嫁と妹はどこだ!!
オレグはグラマリナに呼ばれて館に出向いた。
「オレグ、ろうそくが八百本届きましたが、これはいくらで売るつもりでしょうか?」
「八百……本!」
「はい八百本です。」
「代金は……そうですね、銭湯の一年分で構いません。」
(どうして銭湯なのかしら?)と訝るグラマリナはグダニスクの事件は知らない。
「そうですか、金貨が動かないのでしたら銭湯は無料にしても構いません。費用は掛かりませんもの、オレグには恩を売っておきます。」
「はは、ありがたきお言葉でございます。でも恩は要りません。」
それからグラマリナはソフィアとリリーの事に話を振った。
「俺も旅に同行すれば良かった。」
と毎日のように悔やんでいるとオレグは言う。
グラマリナは、
「いいえ、そのように悔やむ事と、今回の出来事とは違いますよ。オレグはしっかりと考えて行動してください。」
と言うのだった。それはオレグでも頭では理解しているつもりなのだが、こころはそうは思っていない。
「ですがグラマリナさま、こんなに呼んでも返事が無いと不安でございます。」
「そうでしょうが、オレグにはしっかりとして頂きたのです。ちなみにリリーからはどれくらいの連絡が在ったのでしょうか?」
「はい一月の五日くらいには倉庫の肉やソウセージが無くなったりビールが消えておりました。たまに手紙も置いてありましたが……かれこれ三十日間は何も無くなる事はありません。」
「そうですか、……二十四日間ですね……?」
「二割引き?……??」
オレグの言う三十日間とは二十四日間であった。怖ろしいグラマリナの直感だ。
「手がかりはないのですか?」
「それは俺が聞きたいことです、グラマリナさま、何かヒントがありませんでしょうか。」
「ありませんでしょうか、と言われれば、ありませんと答えます。無いでしょうか? と尋ねられましたら、無いと答えます。」
「では、手がかりが在りますか?」
「はい、先の絹の反物の預かり証には『これからデンマークの首都へ行きます』と書いてありました。ヒントになりますか?」
「グラマリナのバカ! もっと早く教えてくれれば良かったのに……。」
「あ~らごめんなさいね。オレグを試したかったのですもの。」
「ではまたエレナとソワレをお借りしますがよろしいでしょうか?」
「はいルシンダと従者、それにアンナとカレーニナも同行させなさい。きっと役に立つでしょう。」
ルシンダは顔色が変わった。不安に思うサローだがヤンは旅に出れる喜びに満ち溢れていた。
「金食い虫は必要ありません。二人の他はアンナとカレーニナだけで十分でございます。」
シュンとなるルシンダだった。
「おかしいですね、ここにはルシンダもサローもヤンも居ませんが?……。」
「隣室に居ますでしょう?」
「あらあらまぁまぁ、うふふふ……。」
「オレグ、私も連れてゆけ!!」
「る、ル、ルシンダさ……ま……。」
オレグは上記の7人とは別に元ドイツ騎士団の男の四人も同行させた。馭者の二人は別途に雇っている。合計で十三人の団体になった。
捜索隊が組まれていよいよ出発となる。
「おいお前ら、水物が多すぎないか?」
「オレグの旦那、ビールは水物ですが……、」
「そうか、ヤンの指示だな。」
「はいさようでございます。お許し下さい。」
「だったらビール樽にこの錠剤を入れてくれ。なに、ただの下剤だ。死にはしないさ。」
「は、はい……承知いたしました。」
オレグはケト土の丸薬を馭者に渡した。ケト土とは沼の底の土の事である。菊の盆栽には利用される栽培のアイテム。オー157の巣窟だ、きっと効果は絶大だろうか……。
オレグはビスワ川を下って北へと向かいマクシムを訪ねた。
1245年2月19日 ポーランド・グダニスク
「マクシムさん、ボブ船長はまだ居るか。」
「こ、これはオレグ殿、どうされましたか?」
「マクシムさん知っているだろう、俺の嫁が行方不明なのだよ。どこに居るのか知らないか。」
「えぇ、たぶんにデンマークに居られるはずですよね。違いますか?」
「いや違わないと思うが判らないのだよ。音信不通でな、かれこれ30日も探しているのだよ。」
「はい二十六日前は、ゾフィさんとシーンプさんが急に見えて、デンマークの裏事情を教えて頂きました。そのお二人はオランダで別れましたが、そのまま神聖ローマ帝国・リエージュ司教領・リエージュへ向かわれました。」
(26日前・・・??)
「そうか、マクシムさんがデンマークのヴァイキングを破った日だな。どうだ俺の船は無敵だっただろう。」
「はいオレグさま、船を串裂きにしておりました。」
「串刺しだろう? それはいいがシビルと他の魔女は居るのか!!」
「はい今は沖縄でバカンス中でございまして、三日後には帰りますが?」
「では明日まで俺は待っていようか。船は健在か!」
(健在?…船を健在かと言うのかい?)とマクシムは思ったが、あえて、
「はい修理は全て完了しております。明日にでも出港は可能です。」
「だったら全艘を借りようか。デンマークに戦争を嗾ける。」
「オレグさん落ち着いて下さい、それは無謀ですよ。船員は兵士ではありません、ただの水夫ですよ。」
「なんくるないさ~! どうにかするよ。」
「で、代金は? どうやってお支払いを?」
「来春のライ麦の代金と相殺で頼む。金はたんまりと、懐に入っているだろう? ちがうか。あぁ??」
「違いますが……違いません。人助けに私も出資しましょう。傭船の半分は私が負担いたしましょう。」
「そうだな、俺の船の傭船代は金貨五十枚では少なすぎだろう。」
マクシムは背筋が凍る思いをした。
すると、
「ハックション、ハックション、ハックション。」
「風邪か。コロナウイルスの肺炎はお断りだぜ。」
「ただのスペイン風邪でございます。」
「いや、それも恐ろしい病気だぜ。もうここには来ないよ。」
「はいそうされて下さい。借金取りにはいい口実ですよ?」
「そっか! いいことを聞いたよ。俺もマクシムさんの口実を使わせて頂くとしようか。」
「はい間違いなく、間違いが起きますよ。」
「んん??」
ボブ船長らの帰りを待つこと三日間。ようやく帰ってきた。
「お前ら、プリンセス号に乗っていたのか!」
「はい沖縄では豪遊出来ましたがジャポンでは降ろして頂けませんでした。それから寄港もせずに帰って来ましたが…… ? もしや?」
「あぁ戦争だ、俺の女房が攫われたのだ、助けに行く。」
「河童が、皿・割れた?」
「あぁ中学のサッカーの授業の時に俺は間髪入れずに叫んだよ、カッパのあだ名の男にな……皿割れた~と。」
「ヘディングをしたのですか?」
「あぁそうだとも。すげ~ヘディングをな。……カンカンに怒っていたぞ。」
「;・…・…;!」
「今度の相手はデンマークだ。頼むぞ!!」
「いや~俺はもう反感を買っていますので、喧嘩を売りには、…・・いや~……。売れません。」
「な~に大丈夫だよ。俺は失敗しないよ。」
「旦那、エチゴヤになられるのですね?」
「むっふっふ~。」
オレグはシビルと魔女の一団をパブへ招待した。ここでオレグはシビルに大規模魔法を依頼した。
デンマークのヴァルデマーⅡ世(1170年~1241年3月)は勢力が強くて、ノルエー、スエーデン、エストニア地方とバルト海に面するドイツとポーランドを領地にして広げていた。晩年の1223年。長男のヴァルデマーと次男のエーリクは拉致されて三年も座敷牢で暮らしていた。ハンザ同盟がオランダの勢力に反感を抱いていたので、家臣の奸計にはまり領土と家族を交換したのだ。ハンザ同盟に対しては要求の商業特権を承認するはめになった。(1244年は十一年後だが……)
「俺はハンザ同盟を動かしてデンマーク王を強請っているのだよ。家臣には袖の下を渡したからじきに俺の言う事を聞くだろう。ジュニアの二人を預からせているからな。」
「あんた、それでも男なの? 人質とは卑怯じゃないかしら。」
「シビル、お前が言う言葉か? なぁおい。俺の女房とリリーを攫っておいた……お・ま・え・が、忘れたとは言わせないぜ。」
「あら、もう昔のことだわ。とっくに忘れていますわ。」
「だろうな。あ~そうだろうて。だから協力しろ。しなかったらひねり殺してやる。」
「分かったよ、家臣へは約束の履行を催促するのだろう?」
「あぁそうだ。前国王の次男エーリクⅣ世が今の国王だ。こやつに恐怖の夢を見せてやってくれ。きっとバックにはオットーⅢ世も居るはずだ。」
「長男のヴァルデマーが狂い死した悪夢でいいか!」
「あぁ上等だ、頼めるな!」
「任せてガッテンだ! で、俺たちで先に乗り込むのか、それともハンザ同盟と併せて乗り込むのか。」
「先に俺たちで乗り込む。その後は大船団を率いてトドメを刺すさ。」
「よし、オレグの大船団に乗った!!」
「話の乗りが少し違うだろう。明日に出発する。」
「何処に……。」
「オーフスだ。ユトランド半島は右を向いた男の顔に見えるだろう。」
「あぁオレグの顔に似ているようだが、そうなのか。」
「そうだ、俺の鼻の下がそのオーフスになる。」
「オレグの鼻くそ? ギャッハッハ~鼻たれの鼻くそか~。」
「ギャッハッハ~、ギャッハッハ~、ギャッハッハ~。」
シビルは大笑いを始めて止まらなくなった。オレグは鼻の下を掻いて苦虫を噛んだような顔をしている。
「モヒカン頭のオレグ……ギャッハッハ~、ギャッハッハ~……。」
モヒカン頭のオレグとは? 良い例えだ。オレグもついつられて笑い出す。
「バカにするな!」
ユトランド半島は右を向いた男の顔に見える……だろう??
1245年2月24日 ポーランド・グダニスク
オレグは先の十三人に加えてボブ船長、シビル、クルーらと魔女の八人。総勢で二十四人の大人数になった。積み荷は食糧と大きめの石だ。
事あるごとにオレグの顔を見て笑い出すシビル。
「いっぺん、殺したろか!」
「ギャッハッハ~ギャッハッハ~ギャッハッハ~。」
シビルが大笑いする度に船が蛇行して先には進まなかった。
「もういっぺん、殺したろか! このう~~~!!」
シビルは上目づかいになって、
「オレグ! もう勘弁してくれよ、今日は北風で沖にも出られないほどなんだよ。だからさ~、な?」
「色仕掛けで船が進むのなら最高だぜ。だがな職務怠慢、どうにかして船を西へ進ませろ。いいな!」
「へ~い……。」
「おいシビル。半日も進めば風向きが北東に変わるぜ。もう少しの辛抱だ。」
「ありがとうボブ船長。だてに船に乗ってはいないんだな。」
「てやんでぃ~。バルト海は俺の庭だ、岩の場所も知っているよ。」
「そうかい、だったらあそこに見える物はなんだい。航海の邪魔だろう!」
先の方には大きな岩が聳え立つ。
「ゲゲ! これじゃ座礁してしまうぜ。おい、シビル沖に向え!」
「?? どっちが沖なんだい。酔っ払い運転で逆走してるのかい??」
「その通りだ、いつの間にか反転していたぞ。」
「らじゃ~!!」
オレグには、こいつらがデンマークの船を串刺しにして沈めて回ったのは嘘だったのかと思えてきた。
「オレグさん。シビルに酒の肴を与えて下さい、口に金貨を入れるだけで背筋がシャキーン! となります。」
「そうかぁ?? じゃぁ入れてみる。…… はい、あ~~~ん!」
「オレグ、ありがとう。 …… シャキーン!!」
「おいシビル。働け!」
「ほえっ?」
口先案内人がシビルの性格を理解していた。だがシビルは金貨だけではまともに動かなかった。
「やっぱ、口先だけか!」
1245年2月28日 デンマーク・コペンハーゲン
*)オレグの目的
バルト海の西の唯一の島、ボーンホルム島を過ぎた頃にシビルはしびれを切らせて尋ねてきた。
「でだ、オレグさんよ。どこに船を着ければいいのかな。」
「あぁんん?? コペンハーゲンに頼むよ。刺客を潜入させる予定だからさ、その下準備を行いたいのだよ。」
そうと言われても理解できないシビル。
「運河を一望できる場所にマイシャトーの建設を考えているんだ。」
「なぁ兄ちゃん。運河をこの船で突っ切れ”と、言うんじゃないよな。そんな事をしたら、矢がいくつ飛んで来るのか見当もつかないよ。」
この続きは暫くお待ちください。今年は暑いようで難儀しております。油断していましたら雑用を増やしておりました。(クシュン、泣く!!)