第119部 ソフィア編 アムステルダムの事業
ソフィアとリリーの顛末が話される。
シーンプは、
「ソフィアさん、リリーさん……。」
「えぇ、その先の言葉は言わなくても判ります。」
「どうしてですか?」
「たまたま悪とぶつかっただけですよ………そう。」
と言いながらソフィアはキツイ目つきでシーンプを睨んだ。
「ぎょぇ~! 私のせいですか~~!」
怯えるシーンプは牢の端っこまで尻だけで後ずさりした。思い当たる節がだんだんと頭に浮かんできた。大金貨をオランダで使ってみようと、シーンプが言ったのが事の始まりになる。
1244年12月18日 ドイツ・ブランデンブルク
*)ソフィアとリリーの活躍と没落
「そう、話はアムステルダムに着いてからになるわ。」
「お姉さま、その前にハーメルンに行きました。ここからが間違いだったかも知れませんわ。」
「ハーメルンで何か問題を起しましたか?」
「大金貨で買い物をしようとしたではありませんか。」
「だぁって金貨は少ないし、大金貨しか在りませんでしたから……。」
「ソフィアさん、その大金貨で何を購入されたのですか?」
「シーンプさん、大災害に遭ったアムステルダムを救助するのには、なにが必要となりますか? 簡単に!」
「救援物資か経済復興に欠かせないインフラ設備ですね。それに食糧!」
「そうですね、救援物資はオランダに物が流れ始めていましたから、購入しても高いだけで意味はありません。だから、インフラに貢献しようと、木材と金物それに、」
シーンプはソフィアが口ごもった事を少し考えて、
「はは~ん、ソフィアさんはまたチャラチャラした物を買われたのですね!」
「いいじゃない、当然の報酬だもの。リリーもそう思うでしょう?」
「お姉さまは、嫌いです!! あのような物は必要ありませんでした。」
「で、その時に、あの家紋付の証書と一緒に大金貨で支払いをされた! と。」
「えぇそうです。でも商人の主人は頷いて受け取ってくれました。その時はまだ魔法の文字はありましたわ。」
「??……??……あちゃ~、あの大金貨の保証書は見る者を選ぶのでしょう。私たちには大金貨の保証書に見えて巷の者には、城に通報せよ! 連絡先は****でしょうか。」
「あぁ~~~~!」
ソフィアはようやく気が付いた。
「な~んだ、そうだったんだ。だから、魔女がすぐに動けたんだわ!」
シーンプは、
「****は魔女の機関なのでしょう。それで、お二人の行動を監視してアムステルダムで桟橋の建設を確認したのです。あぁ、ここで言う確認とはリリーさんの大地の魔法でしょうか。」
「えぇ、私は住民には判らないように、少しずつ建設しました。その間、お姉~はギルド長との桟橋の長期使用料の交渉にあたっていました。」
1244年12月27日 神聖ローマ帝国・アムステルダム
*)アムステルダムでの偉業
「ギルド長、この大きな水溜りには天然の良港が建設されてしかるべきです。ここは風にも強くて波の影響も受けませんわ。」
「だが外海との間には沈んだ陸地が在るんだよ。そこを掘らないと大型船は通れない。そのような土木工事は不可能だ。」
ソフィアとギルド長との会話が続く。
「私たちには桟橋を六レーン建設できるだけの木材と金物を用意しました。また、海の浚渫も出来る能力を保持しています。」
ギルド長は鼻をほじホジしながら話半分以下で聞いている。いや、聞いては受け流しているのだった。
「バァ~ン!!」
「キャッ!」
ソフィアは怠惰なギルド長の机を力まかせに叩く。それも割れるくらいに。
「ギルド長、目が覚めまして?・。・。・…。」
「あzzzzぁ、思わず指を突っ込んでしまったよ。出来るのなら造ってみよ。それでその結果で交渉しようじゃないか。」
「ギルド長、これ書いて下さい。お名前だけで構いません。」
「ほほう、誓約書かね。君、気が早いよ。桟橋を見てからだ。」
「いいえ、出来たら出来たで、後日に約束を反故にされる心配がございます。」
「私しゃ~こう見えても神聖ローマ帝国の生まれだ。オリエンタルとは違うぞ!」
「誰もK国とかの生まれを訊いてはおりません。この誓約書にサインさえ頂ければ良いのです。出来ますでしょう?」
ギルド長はしぶしぶその誓約書に目を通した。
「ふん! なにが月々の使用料が金貨二十枚だ。こんなの払えるか!」
「あらあら、まぁまぁ、これらの桟橋が出来て大型船の入港が有れば、使用料を都度……そうですね、一日に金貨一枚とか三枚とかを徴収すればよろしいでしょう。そのお金はギルド長の・……・に収めれば??」
「ううん??……あぁ、そうだな。それもいいな!」
「なんなら、利用料を書いた大きい立札も全桟橋に立てておきますよ。」
「あい分かった!」
「で……???」
「金貨三枚の入港税にしよう。そして、この桟橋の利用料は月に金貨二十枚でいいだろう。」
「お振込先は私の夫のオレグ商会までお願いします。桟橋と港の浚渫、それに街までの道路の建設まで行いますわ。」
「なに~オレグだと~?!」
「はい、聞き及んでおられるかと思います。」
「あぁマクシムから聞いたよ。マクシムの荷物の大半がオレグから買ったと言っておったわい。そうか~あんたが嫁さんか~。」
「それがなにか??」
「いいや……別になんでもない。ところでその事業は、ワシの名前で行うのだな?」
「当然です。……どうです、大きく名前を得りませんか?」
「売る? 得る?……。潤……。(懐も閏!)」
「ギルド長、もう目が潤んでいますわ!!」
「これは花粉症じゃわい……。」
「十二月でですか??」
ソフィアはにこやかになり、
「交渉成立ですね!」
「全工事を造れない時は、半分が出来ても払わぬぞ!」
「はい、それで構いません。禍根を残す契約は致しません。出来ましたらご案内いたしますので、ギルド長には船で監査にお立合い下さい。」
「了解した、期待しておるぞ!!」
「はい、今後ともよしなに!」
ソフィアはパブに帰りリリーに報告した。
「タヌキが言うのよね、『大きく名前を得りたい。』とね。」
「まぁそれは面白いですわ。……だって煽てりゃ木にも登る豚さんです。」
「いや待って。タヌキじゃないのかな。」
「いいえ豚さんです。エサさえ切らさなければ扱いには不自由いたしません。」
「まぁ、それはヒドイ言い方だよ。」
「そうかしら。」(お似合いだと思います。)
とリリーは感じた。ソフィアは???となるが、リリーの含む意味が解せない。
「で、どうなのよ。」
「リリー、うまく交渉が出来たわ。あとは桟橋と港の浚渫と街までの道路の開通をやってのけるからね。」
「道路工事の人手はどうするのよ。私の大地の魔法では寸足らずだよ?」
「あっ、そうだった。大金貨を両替しておかねばならなかったね!」
「もう、お姉さまったら、ドジ!!」
「両替出来ないなら、いっそギルド長に大金貨を支払って雇えばいいかな。」
「うんお姉さま、それでいいはずだよ。おつりは懐に押し込んでやればいいね。これでお酒飲んで頂戴! とね。」
「お年玉だね。新年の休み明けから道路工事にしようか。そしてお休み中に私の大地の魔法で、桟橋の建設と港の浚渫を済ませておこうね。」
「OKよリリー。今晩は飲むわよ~!」
パブに女の三人組がやってきた。来店にはやや遅い時間になるが……来たのだ。
「お~女将さ~ん。今晩から女の三人だが泊まれるかな。」
「う~ん難しいねぇ、今は災害復興で忙しいんだよね。明日には一部屋が空くからさ、明日また来とくれ!」
「いやだよ女将さん。外は寒いし家は何処にも無いしさ。いったいどこに行けばいいのさ。」
「そう言われてもね~、誰か代わってくれる人が居ればいいけれども……。」
「そうかい、もしかしたら今晩に故郷に帰る人が居るかも知れない。だから、今晩は最後まで飲んで待つ事にするよ。」
「そう…かい? すまないね~、売り上げに貢献しとくれ。」
「その分、泊りの料理の料金で頼みます。連続で七日は泊まると思うのよね~。」
「おやおや仕事かい? 新年からだと大変だね~ぇ。」
「序でに女将さんとこも、お手伝いしてもいいよ。新年は忙しいのでしょう? この若い二人が働くよ。」
「バン・バン!」 「 ゴホ・ゴホ!」
年増な女は若い女の背中を叩いた。
「そうかい助かるよ。銀貨二枚で雇うよ。」(娘二人に銀貨を二枚支払う。)
「だったら嬉しいね……。」(一人につき、銀貨二枚だよ~!)
「宿代は割増しさ、当然だろう。祝日だものね。」
「そうかい、それは仕方ないね、給金が倍だもの。それで構わない。」
「ん? ……? 契約成立だね。今から働くかい?」
「いいや今日は飲みたいしさ、明日からでお願いするよ。」
会話がかみ合っていない。
中年の女が大きい声で女将と話していた。連れは娘? には見えないが妹という風にも見えない。女は娘二人に顎でクイクイと指示を出している。事前に打ち合わせをしていたのだろう。二人の娘は宿泊客を探している。
「ねぇお兄さん? 今晩お暇かしら。私といい処に行かないかい?」
「イヤだよ、やっと休みになれるのだから、俺は遅くまで飲んでいたいんだ。他を当ってくれや。」
「う~んつまんない。この宿に泊まるのかしら。」
「いいや俺の嫁の家に泊まるよ。もうそろそろ嫁も来るだろう。」
「べ~~~だ!」
「ふん!!」
次の男に声をかける。
「ねぇお兄さん? 今晩お暇かしら。私といい処に行かないかい?」
「おうおう、そうかい。で、何処に行くのかな。」
「お兄ちゃんはここの宿で泊まるのかな。だったらお部屋に行こうよ、ね!」
「そうだな、さっき来たばかりだからさ、もう暫く飲むよ。お前も飲んでいけよ。連れも居るからさ。……で、お前らは姉妹だろう?」
「そうね、二人ずつで楽しみましょう!!」
「おう、そうかぁ~、でへ!」
「うんお母さまには、お独りで飲んでて下さいと報告してくるね。」
「今夜は貸切でいいのかい?」
「もちよ、二人で楽しみましょう。」
「??、四人でだろう?」
「もちろん、二人で! ですわ。」
「う~ん。」
これらのやり取りは自ずと耳に届く。ソフィアとリリーは、
「なんなのあの連中。」
「お姉さま、たぶん誑しこんでお部屋に入り込むつもりでしょうか。どうしてもここに泊まりたいのでしょうね。」
「ふ~ん、そうかな~あいつらは魔女かもね。魔法で追い出すのかもしれない。たぶん、きっとそうよ。」
「まぁお姉さま。それは私たちと同じ行いですわ。」
「あれ~そうだったかしら。私は一声しか掛けなかったわよ。」
「お姉さまは……そうでしょうね。でも、大きい声を聞けば誰でも逃げるからもう確信犯です。」
「お蔭で助かっているでしょう?」
「はいお姉さま。か弱い妹の為にありがとうございます。」
さっきの男の二人と娘の二人が二階に上がっていく。
「階段よ、足元に気をつけて下さい。ほらほら、よろよろよ~。」
ふらふらしながら男は歩いていく。
「ドテ!!」
「まぁ、随分と飲ませたのね。あれでは何も出来ないでしょう。」
「そうですわね、でも分りませんよ??」
「そうですね、女が男を襲うのでしたら百二十%可能でしょう。」
冗談交じりに会話とビールを楽しんでいる。もう夜も遅くなった。
「もう少しで閉店にするよ。最後の注文になるが~追加は無いかい。」
女将が大声でラストオーダーの催促をしている。
「女将、勘定を頼む。」
「そうかい、もう暫く飲んで行きなよ。」
「いいや、また明日にくるよ。」
「勘定は娘にさせるよ、待ってておくれ。」
「女将~おれも頼む。」
「あいよ。お代わりだね!」
「??……お勘定なのだがね~!」
「オカミ、オカミとうるさいわね。もうオオカミで悪かったね!」
「お姉さま、そういう冗談はよして下さい。私たちも終わりにしまひょ。」
「うんもう一杯。最後にする。」
「もうお姉さまったら。締まりがありませんわ!」
呆れるリリーがお代わりの注文をする。
二階の方からか先ほどの娘の声が。
「女将さ~ん、お宿の清算をお願~いしま~す。」
「ほぇ??、誰が帰るんじゃい。」
「あ~俺らは帰る事にしたよ。部屋はこのね~ちゃんに譲ったね。」
「そうかい、でも料金は頂くよ。」
「いいぜ、全部払ってやる。」
「それと、娘さんたちも料金は頂くよ。」
「はいです女将さん。喜んでお支払いいたします。」
「今帰ってもどうすんの……。」
女将は男の行動が理解出来ないと言っているのだろう。
「お姉さん、あの男は野宿するのかな。」
「でしょうね。風邪引いて死ななければいいね!」
「そう……ですね。ちょと心配ですわ。……お~っと支払いを、と。」
リリーは支払いを済ませて、具天狗店? のソフィアを抱きかかえて階段を上っていった。
「……このお尻は重たい。もう、しっかりと歩きなさい。」
「ふぁ~い、」
「もう、この~ブタ!!」
「キャッ痛い!!」
リリーがソフィアの尻を抓った。
十二月二十八日になり災害の街も人間味のある街に変貌しつつあった。家を流された人は多い。悲しむ人と喜ぶ人も……。
「おうスミヤ。旦那はどうしたんだい。」
「海に流してやったよ。胸の閊えも綺麗にさっぱりしたさ!」
「だったら俺の嫁ごにならないか!」
「うんいいよ。次の災害には海に流すからね。」
「いや、もういいよ。他を探す……。パブで見つけるかな~。」
朝から酒の時間となっている。当然に例外はある。
ソフィアとリリーは桟橋の建設を始めた。リリーの大地の魔法で桟橋の杭が打たれて梁が結ばれる。その梁には図太い板が釘で取り付けられた。
大地の魔法は、大地に接していれば色々なものが造れるという便利な魔法だ。魔女らでも遣える者は少ない。上級者クラスでもほんの一握りらしい。
「この魔法が遣えるのは、心優しい乙女だけだからね。」
と言うリリーだった。が、嘘である。
「もう、私がトンカチで釘を打つのかい??」
「当然です。私は桟橋を組み上げるので精一杯です。」
「トンカチ、トントンカチ、トン、ぎゃ、いてて……!」
「もう使えないお姉さまです事。あとは全部私で造ります。」
「おう、そうしておくれ。文字の数はもういいからさ、とっとと済ませてよ。」
とソフィアは隠し置いたワインを隠れて一気に飲んでしまった。
「@\:*+qt:\/-」
リリーはとっておきの大地の魔法を遣って海底に地割れを造った。沖の深い所から続いている。
同じく、
「@\:*+qt:\/-」
と桟橋をより多い十五連を造りあげた。
「あんた、やれば出来るじゃない。」
「お姉は、やらないから出来ないのね!」
「ケッ!!」
ソフィアはトンカチで叩いた左手の指を咥えている。
「ほら左手を出して下さい。私が直してあげます!!」
「物じゃないんだ、ちゃんと治してよ。」
「@\:*+qt:\/-」
「まぁ指が六本になったじゃない。どうしてくれるのよ!!」
「それくらいはいいじゃないの。じきに五本に戻るわよ。」
「ドッボ~ン!!」「ギャ~、冷たい~~!!」
ソフィアは寒中水泳を始めてしまった。
「やっぱり酔っぱらっているのね!! 天罰でいい気味だわ。」
リリーは魔法の呪文でソフィアの酔いを数倍にしていた。そんな事は当然だがソフィアには判らない。
「ゲート! 宿屋のお風呂!!」
「プッハ~逝き返る~!!」
「そうでしょう、三途の河を見たのですのも、逝き返るのも理解出来ます。」
「ブ~~!」
*)リクルート
ソフィアとリリーはパブに戻り昼食とワインを頼んだ。
「あんた、ワインは高いんだよ、ちゃんと払えるのかい?」
「うん女将さん。先に金貨一枚で払うわよ。足りるでしょう?」
「あいよ、ワインを五本持ってくるよ。」
「ちょっとお姉さん。そんな高いワインを頼んでどうするのよ。も~うホント! 行けずババァなのだから……。」
「オレグが居るもん。文句あっか!」
「いいえございません。」
それからのソフィアの行動は?
「こら~!」
ソフィアはワイン五本を持って椅子に上がり、片足をテーブルに乗せた。短いスカートが一瞬はだけた。
「ヒュ~ヒュ~!!」
「このワインを飲みたい奴は居るか~。」
「おう、俺が呑んでやるぜ~。」
「だ~め! 飲む人だけだよ。」
「明日から道路建設の出来る男を探している。応募者にはワインを飲ませる。どうです~日当は銀貨二枚だ~三枚だ~!」
「おう、いったい、ナンマイダ~!」
リリーはというと合掌している。死ぬより辛い仕事になるのだろうか。
「そうだ~死んだつもりで働いてくれる男には、ワインを飲ませるよ~! 仕事の斡旋はギルド長からのものよ~港から街まで大きな道路を造るから手伝ってくれないかな~!!」
「おう! 俺が道を造ってやるよ。」
「だったらみんな~、ここに来てちょう~だい~!」
金の無い男たちだ、たちまち集まってしまった。
「リリーリリー、このワインに魔法を掛けてくれないか。従順になる魔法をお願いね!」
「うん理解できたわ。ゾンビ魔法でいいね。死んでも動けるから?」
「へっ?!」
「@\:*+qt:\/-」
「ほらほら並んで頂戴。今日は一杯だけだからね。出来た翌日にはお腹一杯に飲ませるからね。」(半分は水だけれども……)
「明日の朝に、港~集合だよ~!」
「こらりゃ~うめ~や!」
ソフィアから飲まされた男たちは素直に席に戻って飲み直している。なんの事はない。パブの男たちはソフィアの足に釣られて全員が集まってしまった。
「う~ん上出来、じょうでき!!」
「お姉さまったら、もうハシタナイ。」
「いいのよ、これ位は……ね!」
この場には昨日の女の三人も居た。呆気にとられて見ているだけだった。
「まぁ、なんという行動力かしら!! 若いって、いいわ~!!」
「お母さま、そううっとりと、しないでください。……まし。」
「あ? あぁ、ああ、そうだね。」
「私、ちょっとギルド長の家に行ってくる。」
「じゃぁ私もお供します。」
「ゲート!」
早くもギルド長の家に着く。
「ギルド長、お話があります。」
「なんじゃい、うるさいな~。」
「仕事です。大金貨でお支払いします。」
「おうおう、なんの相談じゃい……?」
「はい……かくかく云々でございます。」
「よし分かった。道路の普請の金はギルドから出そう。」
「はい、この大金貨は……置いていきます。」
「おう、忘れた事にしろ!」
「はいお年玉ですよ、ギルド長!」
「リリーお酒は足りたかな。夜には港湾の浚渫に行くよ。」
「はいお姉さま。もう十分に頂きました。大地の魔法もバッチリですわ。」
「ゴゴゴッ~!」「ゴゴゴッ~!」「ゴゴゴッ~!」
「次は港湾の広場だね。」
「ゴゴゴッ~!」
真夜中に大地震のような、ものすごい音が街中に響き渡った。
*)道路の建設
翌日の朝。港に集まる男たち。昨日のパブの客以上に多く集まっている。まだまだ復興の最中だ満足な道具は無い、農作業用の鍬が殆どだ。
呆気に……港のそれに呆けた男たち。
「なんだい、この広くて大きい道は。いつ広がったんだい。」
「俺が来た時には出来ていたぞ。」
「昨日までは瓦礫置き場だったぜ。」
「うんだ、昨晩には無かっただ。」
リリーが造った道路は、確かに道路と言えるかもしれなかった。だが凸凹で歩けるのがやっとだろうか、ヒドイ道路であった。敷石はあるが、大きく飛び出していたり引っ込んでいたりしている。土だけの道路ならばリリーの大地の魔法で十分だっただろう。
「ごめんなさい、初めての道路ですのも、綺麗に造れませんでした。」
「ううん、これでいいのよ。全部が全部造るよりもよっぽど良いわよ。だって、みんなが参加して造るのだもの慈善事業だよ。」
「そうだよね。ありがとうお姉さま。」
港から街までは約九百mほどだろうか。港湾用の空き地も出来ていた。とても広く整地されており、すぐにでも家屋や倉庫が建設出来そうだった。
「ねぇお姉さま。あの男たちは桟橋に立ってなにをしているのでしょう?」
「リリーあれは見たらダメ。目が腐るわよ。」
「まぁそれは大変です。クククッッ……。」
「さぁリリー。魔法を発動させて頂戴。今日中には終わらせるからね。」
「それは無理でしょうか。まだ今は三十人程度です。五百人は集まりませんと今日中には終わりません。」
「だったら集めてよ。出来るでしょう?」
「えぇ、じきに集まります。」
「えぇ?」
港湾の空き地には次第に男たちが集まってきた。鉄の棒を持っている男たちも多くいる。
「お姉さま、頃合いです。作業の開始をお願いします。」
「えぇ? 私が吠えるの?」
「はい、大きな声でお願いします。」
「音声変換魔法。」
「@\:*+qt:\/-。」
「ウォ~オ~ゥォ~、オゥ~~、オ~ォ~!!」
男たちはソフィアの遠吠えを聞いて背筋が伸びた。それは、
「それ~、早く道路を造るぞ~。」
と聞こえたらしい。聞えなかったのはあの女の三人組のみだった。
男たちは石をほじくりだしては穴を掘り、石をはめ込んでいく。石も大小と揃ってもいない。
石を掘り出す男が先頭になっている。次は地面を掘る作業をしている。その次は石を当てて揃えながら埋め込んでいる。揃ったところで適宜、石の隙間に土を入れ込んでいく。
「わ~こんなに人が多いと直ぐに出来ちゃうね、……凄いわ~!」
ギルド長は陰に隠れて見ているのだが二人は知らなかった。また知る必要も無かった。目を丸くして見ていたのだ。口も丸く開いていたに違いなかった。
道路建設作業は翌日の夕方までかかった。ちょうど夕食前! というのが二人には不運だっただろうか。
「そんな~なんでワインが飛ぶように無くなるのよ。リリー、ちゃんと水増しをしてたわよね。」
「はい、水を半分と愛情という魔法まで掛けておきました。」
「ゲゲ!!」
「なにかまずったでしょうか。」
「男たちがリリーに欲情したら大変でしょうが、……この唐変木・分からず屋!」
「お姉さまは今年でお幾つになられますのかしら。そのような言葉使いをするのは、オジン、と、相場が決まっていますわ。」
「か~このオタンコナス。まだ18才よ!」
「お姉さまこの焼き魚は美味しいですよ、ノルウェーのサバですの。」
この夜は街中のパブが潤ったという言い伝えが残っている。支払いに窮してギルド長に泣き縋ったのは言うまでもない。
「ギル! 助けて~! 大金貨が使えませ~ん!」
「おうおう、可哀そうに……。大金貨三+一枚で十分じゃわい。」
「ところでお姉さま。訊きたい事がありますの。」
「なによリリー。怖い顔をしているよ。」
「水で薄めたワインですが、薄めた分だけ支払いが増えていました。これはどうしてですの?」
「あ! それは……。」
「ですわね。本当にパブが潤って災害不況が飛んで行きましたから良かったですわね!」
「今年はコロナ災害なのよ。良かったわ~……。」
1245年1月7日 神聖ローマ帝国・アムステルダム
*)リエージュ司教領・トンヘレンに旅立つ
二人はギルド長と正式に港の桟橋の利用料の契約を済ませた。
「ではギルド長、毎月のお振込をお願いしますね。」
「了解した。十日後には船が五十五艘から入るだろう。」
55x3=165
「ゲゲ、するとギルド長には、金貨が百六十五枚も懐に入るのですね。」
「おう、そうなるわな。その後も毎日十艘は入港するだろうて、こりゃもうワ~ッハッハ~!!!」
20x12x5=1,200
「ギルド長、五年契約で金貨が一千二百枚ですね。」
「そうだな、だが、ワシの懐にはいったい幾らの金貨が入ることやら。」
「神聖ローマ帝国のアムステルダム州の予算以上になりますね。」
「そうなるかの~。」
「ギルドに居れば! でしょう? でしたら、殺されないようにされて下さい。ギルド長の首が代われば??」
「お前ら、俺の用心棒になれ!」
「イヤです、ブ~!」
と言いながら二人は部屋を出る。すると、
「わ~これから俺はどうしたらいいのじゃ~!」
と嘆く声が聞こえてきた。
「たぶん、すぐに命は無くなるわね!」
「お姉さま、それはあんまりですわ。せめて一年か二年は生きていて欲しいですね。」
数日後のギルド長は、金貨百六十五枚と自分の財産の金貨を持って嫁と共に夜逃げする事になった。賢明である。以後の契約はギルドが行うからジジイが夜逃げしても問題はない。
一年と数か月後になる。
「おいギルド長が海で溺れて死んだそうだぜ。これで三人目か?」
「お姉さま。リエージュ司教領という国はどのような国でしょうか。」
「行ってからのお楽しみですよ。絹の反物を全部売り込んでやるのだからね!」
ルンルンで旅立つ二人と粛々と尾行する女が三人。
「ねぇお姉さま。尾行がついていますからゲートで跳んで行きます。」
「それがいいね。でも尾行は誰なの?」
「三匹の子豚ですわ。年末のパブで騒いでいた魔女のぷー子らです。」
「あら、そうなの。」