第117部 オレグ、点火そして燃焼へ①
1245年7月20日 ポーランド・トチェフ
*)オレグの策略
オレグのオーフスへの再潜入の準備が始まる。
二人の兄弟と元貴族の爵位をオレグは三億の金でを買う算段を始めた。贅沢だとは思うがこれは目的ではなく手段なのだ。
(こいつらは死ぬまでこき使えば三億の金の回収はできるだろう、いや必ず回収してやる!)と心に念じてはいるが、……どうなることか。
「お前たち三人に三億の金を与える。だから俺の元で働け、いいな。」
「はい喜んで~。」
「一生だぞ!」
「いいえ親子三代でも ……です!」
「俺は長生きはできないらしい。あと五年で天国に逝けるらしい?」
(そうですかあと五年を辛抱すれば)と思う三人だ。
「ついては、みみっちぃ~仕事がある。この琥珀を全部宝飾に仕立てあげろ。絶対命令だ。」
「お手伝いは雇ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ好きなだけ雇うがいい。序でにメイドも雇う事にしよう。」
元貴族のホーコンとヘルヴィヒの城は、
コペンハーゲン近郊のアマリエガーデン城で運河を一望できる場所に建設された。防災上の砦を買い取り新築させたものだ。他国との貿易を生業とさせる。
兄弟のカウナスとインゲボー。クライベタとマルグレーテの城は、スロッツホルメン島にクリスチャンスボー城の前身になるアブサロンの城を建設した。コペンハーゲンの発展を見越しての砦を築き、城にまで大きくさせるのだった。
琥珀等の宝飾と絹の服を主に扱いをさせる。
この城は近くに在り、お互いは仲が悪いという芝居をさせる。
この方がコペンハーゲンの情報が入り易いというオレグの策略である。お互いが仲がいいのであれば、他の貴族や商人が取り入りにくくなる。仲が悪いとそれぞれの強みの方に輩は集まるだろう。
オレグ主導で財を築かせて、国家中央の家臣に取り入る算段である。
*)ピアスタと三組の夫婦
「グラマリナさま、これらの夫婦をデンマークの貴族として送りたいのです。ぜひにご協力をお願いします。」
「それならば、かのお嬢さまに協力を求めなさい。」
「ピアスタお嬢さまですね……。」
「それとグラマリナさまのメイドをお譲り頂きたいのです。よろしいでしょうか。新興貴族の専属にしたいと思います。」
「そうですか、そうですか。事情が事情ですので無料でお渡しいたします。早くソフィアを取り戻して下さい。リリーが居ませんと綺麗な織物が出来ないのですよ。」
「そうでございましょう。三人はデンマークに囚われているのかと、推測しております。あのマティルダという魔女を懲らしめてやります。」
「お~っほっほ~~!! オレグ頑張って下さい。応援いたします。」
「ではデーヴィッド商会もお貸し頂けないでしょうか。秋のライ麦の買い付けを委託したいと思っております。優秀な執事を付けますゆえ……。」
「はいご自由にお使い下さい。ソワレとエレナも無料で貸与えましょう。」
(利益はしっかいと頂きますわ!)とグラマリナは考えている。
「ありがたきお言葉でございます。」
(能天気なグラマリナは、まだマルボルクの真相に気づいていない。)そう思ったオレグは、
「グラマリナさま、ドイツ騎士団の動きが活発になりました。暫くは鎖国をお願いします。通商はデーヴィッド商会のみでお願いします。」
「はい?? 意味が解りません。でもオレグの指示に従ってみましょう。」
「よろしくお願いします。」
「明日には発ちますか?」
「はい絹の反物を持って行けと?」
「そうですね、オレグが買って持って行けばなおの事、いいのですがね?」
「はい承知いたしました。お安く買わせて頂きます。」
この日の夕食は、
「おう今晩は俺からの奢りだ、遠慮はいらぬ。」
「か~この焼き肉はなんだい。こりゃ~悪魔の姿に見えるぜ。」
「??? 若鳥を縦に半分に切って焼いただけだぞ。これが悪魔に見えるのか??」
「そうだよ。普通は部位ごとの調理だろう? それを無視しての半姿の焼き肉となりゃ想像も浮かんでくるだろう。」
「ではさ、この豚の頭の焼き肉はどうだい??」
「ぎゃい~ん、生きた豚は食えないよ!!」
「これもパン焼きの窯で焼いているぞ??」
とオレグは言って大きなフォークを豚の頭に突き刺した。これはオレグのデンマークに対する怒りを表した行いだとは誰も思わない。いや思われない。
「オレグさま、そのように頭をめった突きにされましたら食べられなくなりますから、もうお止め下さい。」
「おお! これはすまない。つい力が入ってしまった。」
「オ、オ、オレグさま、なんというナイフとフォーク捌き!!」
骨と肉が綺麗に分離されていた。
「鼻を明かしたろか!!」
豚の鼻?? 一同はこの意味が解らなかった。もちろんマティルダの鼻の事である。
イワバのピアスタお嬢さまには、事情を記した書簡が送られた。
「あらら、あが抜けたわ! あらあらそうですか、オレグが反撃を始めるのですね! 協力してうんと高い教育費を絞ってあげますわ!!」
と、手ぐすねを引いて待つ悪女。
いよいよイワバに向けて出発する。
1245年8月22日 ポーランド・イワバ
*)ピアスタお嬢さま
オレグは石工のマシュのから馬車を借りた。トチェフ村の専属はグダニスクとの交易に欠かせなくなっていたからだ。
「マシュ~馬車を借りたい。いいかい?」
「旦那。顔つきが険しいですぜ。こういう時は祟りが怖いですから、ご自由にどうぞお使い下さい。」
「そうか、ありがとうな。」
マシュは右手の指で丸い輪を作り、左手は腰のあたりで手のひらを出している。
「おいおい仏像の姿をしてどうしたんだい。」
「はい御代を……。」
「こら仏像!」
「はい銅像!!」
オレグは三組の夫婦とソワレとエレナ。それに館のメイドの良い方から三人を従えてイワバに向かった。荷物は絹の反物と琥珀の宝飾だった。
琥珀は大至急製作させたが一か月では出来るものではなかった。雇った農夫を教育するのだからなおの事先には進まない。工房がイワバに移される事に決まった。
オレグはマシュの弟子を馭者にして、トチェフとイワバを往復させる。
「工房の工具と機材、それに農夫らを運んできてくれ。」
「はい旦那。」
「ソワレとエレナは輸送の荷の指示をして用心棒で付いていってくれないか。物が物だけに山賊が怖い。」
「はい、オレグさま。そういたします。」
オレグはトチェフにまだ琥珀を残していたからだ。
工房は加治屋を兼ねているから荷物は多大で、
「マシュさん、かまどの炉と煙突の移設を手伝ってください。」
となる訳だ。
「け~旦那はこうなると分ってて俺を指名したのだな。」
「炉は壊すのは止めて新しい石を用意する。この方が早く造れるだろうさ。」
「もう石工の道具も持っていくのか。こりゃ~大変バイ!」
「また戻って来た時には、炉は在ったがいいだろう……。」
マシュの独り言が永遠に続いている。
名前が決まった。
元貴族・ホーコン。長女・マルグレーテ。次女・ヘルヴィヒ。三女・インゲボー。兄のカウナス。弟のクライベタ。メイドは、エミリア、フランチスカ、イザベラ。
宝飾の農夫は、アンテック、ボルコ、ダミアン他三名。
元貴族・ホーコンと、次女・ヘルヴィヒ。兄のカウナスと三女・インゲボー。弟のクライベタと長女・マルグレーテ。姉さん女房だ。
イワバの館に着いた。
「ピアスタさまお久しぶりでございます。このたびはお世話になります。」
「オレグ大変ですね。この私も一肌脱ぎますわ。」
「いいえ、そのような事は望みません。どうかお淑やかにお願いします。」
「あらあらまぁまぁ、そのようなはしたない事は致しません。腕まくりくらいですわ!!」
(あはは~、腕も見たくはありません。)とオレグは思うが、
「はい頼もしい限りでございます。ひとつ、かの者たちを鍛えて下さい。」
「はい立派な似非貴族に仕立ててあげます。ニヒッ!!」
笑い顔がえげつない。これはよからぬ事を考える時に笑う顔だ。また、後ろ手で指折りして金貨の勘定を計算しているのだろうか。(私もデンマークの戦いに参戦させて頂くわ!)と、考えるピアスタお嬢さま。
オレグの一言一言からよからぬ想像を馳せる若い娘だった。
「お父様の敵も取りたいわ!」
ぽつりと呟いた一言にオレグは驚いた。
「ピアスタさま、お父さまの事はご存じでしたか。」
「はい存じております。同じポーランドなのにヒドイ国王ですわ。」
「当然に?……。」
「はいイワバにも防衛線を張りました。前の盗賊を前線に送り込んでいます。これで暫くは大丈夫でしょう。」
「ピアスタさま、当然、盗賊団としてですよね?」
「はい私の差し金とバレる訳にはいきませんもの。当然です。」
「ほんと、良く教育されました……。」
「当然ですわ、オホホホ……。」
メイドが一人入室して、
「ピアスタさま、会食の準備が出来ました。」
「そうですか、では早速に仕込みに入りましょうか。」
オレグはピアスタの表情に、鳥肌をたてたほどに寒気を感じた。
「お、お、俺が教育を受けるんじゃない。あくまでもアイツらが教育を受けるのだ。俺は関係ない!!……。」
青ざめる男に対してピアスタは、
「オレグ、そう身構えなくてもよろしいですよ?」
「はいピアスタさま。……よろしくご指導をお願いします。」
「ブランデンブルグの件もありますのでリベンジですわ、お~っほっほ~。」
やつぱり怖いと感じたオレグだった。
「オレグ。カピパラのご飯は何がよろしいでしょうか?」
「カピパラですか、意味が解りません。」
「そうでしょうね。なにを用意しましょうかね~!!」
「その辺のくさっぱでいいのでは??」
「ではいけないのです。例えば大きな黄金の蔵に仕舞った穀物とか、金貨とかでしょうか。」
そう言われても理解は出来なかった。カピパラは(鬼天竺鼠)と書く。もちろんオレグの事を指している。
ピアスタはオランダ経由で、デンマークの金庫=国庫を調べさせていた。オランダとデンマークは仲が悪い。では、なぜオランダなのだろうか。
エーリクⅣ世(1232年~1250年)は、シュライ湾辺りの辺境の地方豪族に、キリスト教の宣教を行っていた。もちろん、武力にである。ここでも地方豪族はデンマークを跳ね返している。戦況は長引き、戦場でエーリク4世は戦死した。これは次期王位についたアーベルによる、暗殺というのが正しい。
シュライ湾の戦いは、オランダとデンマークとの間の国である。オランダの隣という事もあり、シュライ湾の豪族にはオランダが手を貸していた? との噂もあったくらいだ。
オランダという国は存在してはいない。中世では神聖ローマ帝国である。ネーデルランドの建国はず~っと後世になってからで、神聖ローマ帝国の次は十五世紀になって、ブルゴーニュ領ネーデルラントになる。
神聖ローマ帝国の前はフランク王国(481年~950年)、所謂フランスとなっていた。だから1245年当時もフランスの輸入の窓口としての機能が続いているのだった。大水害の跡にアムステルダムが出来て、それ以前の貿易の窓口のユトレヒトは、もっとも早くから開けた都市に成長して、首都アムステルダムが出来るまでの宗教の中心・首都だったのだ。
ではなぜシュライ湾の戦いに参加しなかったのか。ただ単にシュライ湾は同じ神聖ローマ帝国であって、デンマークは隣国であったからだろう。神聖ローマ帝国の国内でありながらキリスト教ではなかったのが意味深なところか。東のプロイセンと同じように地方の豪族が支配していたから。
ぎ・も~ん。
まだ推敲が足りない。なんで北に位置するデンマークが、南の他国の一地方をキリスト教の布告で侵攻しているのか。自国ではないどでかい神聖ローマ帝国の土地を狙うのか。肥沃な大地でもないのだが……。
フリードリヒⅡ世 (神聖ローマ皇帝 1194年~1250年)はシチリア王、イタリア王、ローマ王、エルサレム王等も兼任していた。シュライ湾にデンマークが侵攻してきてもたかが小国の侵攻だ! と見逃していたのだろうか。
「デンマークはネーデルランドに任せておけ!」
となった。対峙するのはフランドル伯領のフランドル伯であり、ピアスタの西との交易という繋がりがあったためだ。
「ピアスタさま、少し長すぎではありませんか? いくらピアスタさまが貴族と交易が盛んだったと言われましても、信じるに値しません。上の二十九行は?」
「まぁオレグ。私がほら吹きだと、言うのですね。」
「いいえ決してそのように……。」(思っております)が省略されている。
「まぁいいでしょう。不問に致します。」
ピアスタの反撃が無かった。第一に若い娘が遠い国へ出かけるはずは無いのだ。嘘というのが落ち”だろう。
「オレグ、行きましょうか。皆を紹介して頂戴。」
「はい……。ピアスタさま。」
*)個人の紹介
全員が食堂に集まった。オレグは早々と紹介を始める。
「元貴族・ホーコンと次女・ヘルヴィヒでございます。」
「兄のカウナスと三女・インゲボーでございます。」
「弟のクライベタと長女のマルグレーテでございます。」
「メイドはエミリア、フランチスカ、イザベラ。」
「宝飾の技師はアンテック、ボルコ、ダミアン他三名でございます。」
「で、そこのウエディングの姫と従者は??」
「申し遅れました。エレナとその従者、ソワレでございます。」
「まぁその着物はクジャクの羽根のように美しいですわ!」
「はい絹の反物でリリーが織り上げたものでございます。」
当然従者扱いにされたソワレは、オレグに対してムッとしている。
「私には無いのですか?」
「はいお買い上げをお願いします。」
「まぁそれはそうでしょうけれども……。」
「以前に献上いたしました反物がございませんか??」
「あれは、そのう……。」
「ブランデンブルグで、すってしまわれましたのですね?」
「ぬぬぬ、……うるさい、お黙り!!」
ソワレたちはくすくすと笑い出した。
「エレナ、なにか魔法で服は作れますか?」
「はい喜んでお仕立ていたします。」
「では食後の後にお願いしますよ。……後が良いのです。」
「まぁ失礼な。オレグには口に栓をする必要がありますね。」
食後の後??が良い? 腹が出た後という意味らしい。
一同は大声で笑い出した。歯ぎしりして悔しがるピアスタ。一同を教育してやる”という気概は何処へ飛んでいったのだろうか。
「各自、かくかくしかじか、で、ございます。」
「まぁ、オレグらしからぬ人選ですね。どこの馬の骨とも解らぬ者ばかりを集めたものですね。」
ピアスタの言葉に一同、ハッとして驚くもオレグは、
「私の目に狂いはありません。ですが、間違っていないとも言えません。」
「まぁオレグ。それは言い過ぎでしょうか。ここは自信を持って勧めるべきところでしょう? 違いましたか??」
「はいそうですね。私はこいつらに三億の金を投資する予定でございます。」
「きゃ~オレグさま! 私たちに、さ、さん、三億ですか!!」
「オレグ、だいぶんと奮発したものですね。とするとソフィアたちには、三億以上の価値が在るという事でしょうか。」
「はいお金には遑は惜しみません。五億くらいは用立ていたします。」
「まぁ羨ましいですわ。」
「まぁ五億もですか……、私どもも五億の価値が在ると!!」
「いいやお前らはなんの価値もないよ、ゼロだ。だが俺の女房と姉妹と天秤に載るのだから、価値がなければならない。だからお前らで稼ぐのだ、五億をな!」
「ご・お・く。……私たちに出来ますでしょうか。」
「あぁ、この俺がおぜん立てするから、稼いでみろ。きっと楽しいぞ??」
「出来ない時は、首を差し出すのですね。」
「いいや親兄弟、子供もだ。死んだ親以外は全部だ!」
「……そんな~!!」
「ケケケ……。」
ピアスタが不吉な笑い声をあげる。一同は全身に悪寒が奔りちびりそうになった。
「ピアスタさま……。」
「えぇ外に出て下さい。いくらでもご自由に……。」
我先に争って外の茂みに散っていく。
「まぁ大した人は居ませんね。オレグ、そう思いませんか?」
ピアスタから反撃を食らったオレグ。最低の褒め言葉になった。
「はい、あいつ等は後で扱いてやりますよ。」
「なにを言うのです。驚いたのはオレグの言葉にですよ。」
「あぁなるほど。そうでしたか、ついうっかり本当の事を言ってしまいました。もっとオブラートに包むべきでした。」
「油紙にでも包んで火を点けたのですよ。もう少し穏やかになさいな。」
「あのう、……ピアスタさまは、正気に戻られましたか?」
「ガッハッハ~!!」
オレグは大笑いをしてピアスタは憤慨しだした。怖かったのはどうもピアスタの方の笑い声だったらしい。
「オレグ。デンマークは緊縮財政らしいですわ。」
「はいそうですか。水害で船と土地が沈んでしまったからでしょう。それに災害復旧にもお金が必要でしょうから。」
「いいえハンザ商会の船を拿捕出来ないからですよ。エーリクⅣ世は国民の生き死にには興味はありません。今でもしつこく神聖ローマ皇帝にちょっかいを出し続けているそうですよ。」
「シュライ湾辺りの国もオランダ同様に国土も沈んだらしいから、今がチャンスとばかりに侵攻を続けているのでしょう。」
「ヴァイキングですもの。陸上の戦いには向かないのでしょう。」
「はは、言いえてみょうですね。なかなか勝てないからそうなのかも知れません。」
「あっ、オレグさん。小耳に挟んだのは、なんでもハンザ商人に船を全部沈められたからと聞きましたが違いますか。」
「うん、そうとも言えるね、カウナス。どこでその情報を得たのかな??」
「はいグダニスクですよ。もっぱらの噂でした。」
「きゃハハハ……。」
ピアスタがまた可笑しな笑い声を上げる。
「オレグが言う言葉ですか、いささか滑稽ですね。」
「いいえ私はなにもしていませんし、指示もいたしておりませんです。」
「ですがね~え??」
「オレグさん、今はどのような会話なのでしょうか。」
「ホーコンと言いましたか、先のデンマークの海戦はオレグの部下たちでしたのよ。言い換えると、オレグが沈めたようなものです。」
「えぇ!!! オレグさんの部下さんでしたか~!?!?」
一同が驚いてしまった。オレグとピアスタの会話には次々と驚いているのであった。とどのつまりは、
「えぇ────────。奥様を取り戻す為にデンマークと戦争を始める!!!」
「あぁ実はそうなんだ。どうも魔女から捕虜にされたらしくて今は探している途中なのさ。」
「魔女ですね、親兄弟、子供も。死んだ親以外は全部だと言うのはやはり本当の事ですね。」
「そうなんだ。どうも魔女の教祖らしいのが居るらしい。」
「教祖ですか……。恐竜のような顔でしょうか。」
「マルグレーテ。お前と変わらない位に可愛い娘らしい。」
「まぁオレグさま。口説かないでください。」
「ふん照れていろ。すぐに口も開けなくなるだろう。」
「いいえ開っぱなしですわ。ルンルン!!」
館のメイドたちが一斉に料理を運んできた。
「ぅわぁ~~!!」x8
「ぎゃはぁ~すげぇ~!!」x9
はメイドと農民らの九人だ。
「オレグさま~馭者をお忘れですよ~。」
と厩で独りで声に出した男がいた。
*)教育の開始
元貴族夫婦には執事が。他の夫婦にはメイド長とその部下が二名に一人が付いて食事作法の指導が始まった。メイドにはメイドが一人ずつ付いた。
「俺らには関係ないからな。ゆっくり眺めて食べていいのだぞ。」
オレグは農夫らに言った。
「オレグさま、ご馳走になります。」
「明日からはたんまりと琥珀を作るのだぞ。」
「はい任せて下さい。」
「え~~~琥珀ですと?~~~~??」
琥珀と聞いてピアスタが驚いて大声を上げた。一同はピアスタの声に驚く。
「はい琥珀を一万個ほど持ってきております。宝飾加工をこれからするのでございます。」
「オレグ見せろ。今すぐに見せなさい。」
オレグはしぶしぶに応じるように動作をわざと遅らせて、
「ピアスタさま。今はこの十個だけです。ご覧下さい。」
キャッアイの模様がある高価な宝飾がピアスタに渡された。
「金貨百枚です。譲りなさい。」
「いいや、これはキャッアイでございますから金貨五百枚は頂きます。」
確かハンザ商人から荷馬車一台分の琥珀を金貨百枚で買ったはず。一万個はかなりオーバーだが普通に原石を仕入れたら幾らの価格がつくのかは分らない。おそらく金貨で八百枚は下らないだろうか。三姉妹の養育費も含まれた特別な価格だとは推測できる。
「ごごごご・・・・・五百。」
「ピアスタさま。また悪いクセが出ましたね。もうお部屋へ行きましょうね。」
執事がピアスタを見かねて部屋に行くようになだめている。
「いいえ行きません。オレグがいい、というまでここでねばります。」
ここの執事は女の方だ。ジジイの執事ではなかった。
「ピアスタさま。怒りますよ!」
「だぁって~琥珀が私を呼んで誘っていますわ。」
「えぇ~いめんどうくさい。オレグさま。これは全部でお幾らですか。年払いでお支払いいたします。」
「はい金貨百枚で構いません。」
オレグは執事に威圧されて、身体で押されて金貨百枚と言ってしまう。ピアスタは、
「さすがは私の執事です。働きが立派です。」
「はいピアスタさま。もう買い上げるとか言わないで下さい。宝石よりも私たちへのお給金を増やして下さいまし。」
「……。」
「お返事がありませんが、どうされましたか??」
「いいえ、善処いたします。」
「それは政治用語です、意味が有りません。」
「対処いたします。」
「それも同じです。もう、琥珀は返品致します。」
「えぇ、!! そんな事をしたらダメです。お給金は考えます。」
「では琥珀を一個ずつ頂きます。よろしいですか?」
「はいどうぞ。……。」
消え入るようなか細い声になったピアスタ。
「オレグさま。許可が出ました。わたくし達には琥珀を一個お願いします。」
「はい喜んで~!」
七個の琥珀が全部で十七個が金貨百七十枚で完売できた。弟のクライベタはこのやり取りを興味深く見つめていた。
執事は翻ってみんなの方を見て、
「どうですか、これと同じ事が出来ますか? 出来なければ貴族には成れません。その為のオレグさまの特訓です、お金なのです。」
「えぇ~~!!!」x6
と貴族見習いの夫婦が驚いて声をあげた。
「これって、お芝居でしたの~!!!」
オレグもピアスタも否定も肯定もしなかった。もが四つ。
「はい、頑張ります。」
オレグは、
「お前らが稼げば金は自由だ。いいか、えげつなくても稼ぐ事が重要だ。出来るな! 一も二にも三にも四にでも、もをつけて稼げ!!」
「はい。」
「それが出来ての贅沢だ。とにかく稼げ!!」
ここまで来ると、農民には別世界となってしまう。オレグには三人の女が不思議に思えた。
(こいつらは貴族の娘で、商人に質草として取られたのか?)と、思った。
姉妹なのに似てはいないと初めて気が付いた。どうりで他をけなす、喧嘩ははするわ。思いやりもある風ではなかった。
男の方はどうだろう。元貴族のホーコンは本物だ。兄弟は貴族相手に商売を行ってきたのか? と思うくらいであって、成金の貴族にしかならないタイプのようだ。
「これは女の方を貴族にする方が早いや。グラマリナと同じだ。」
と、呟いた。
「オレグ。私もそう思います。女を育てましょう。」
「でしたらピアスタさま。教育をお願いします。私は一度グダニスクへ行きまして、金貨を三千枚ほど引き出してまいります。金貨の手触りも教える必要もありましす、すみません……失念していました。」
「そうですか、では執事も同行させますのでよろしくお願いします。」
「はい分かりました。エレナとソワレを同行させて明日に出立いたします。」
ピアスタは口ではなく目元で返事をした。目が異様に細くなり笑っていた。(そうか、この女も妖怪か!)と考えたら人狼の巫女だった事を思い出した。
いつしか食事も終わりとなった。
「俺はいつ飯を食ったのだろうか。」
と言うのが落ち”だった。農民は得したのだろうが貴族見習いは食事どころではなかった。手をビシバシと叩かれていたのだ、
オレグが金貨を持ってきたら仮想の金貨が飛ぶように動いていた。服も中古だが誰かのお古だ”とは口には出せないが貴族の服を買って与えた。
ピアスタは執事が帰ってきてからというもの、微妙に元気になっていた。
「ピアスタさま、琥珀はお持ちですか????」
「あ、えぇ、十個を持っていますわ、気にしないで下さい。」
白状する様子は無かった。十個の琥珀は金貨五百枚で販売されていたと、グダニスクに帰った時に耳に入ってきた。
そう、オレグがグダニスクへ行ったおり、
「旦那、五百枚は高すぎますぜ。」
「う、んん?? なんのことだ?」
「もう琥珀のことです。いくらキャッアイでも五百は高いですよ。」
「あぁ,あれな。金貨百枚で売ったぞ。それが?……。」
「はい女の人が持ち込んだという噂です。」
「そうか、気にしないでくれ。俺らの教育費に化けただけさ。」
「教育費? 化けた??……。」
夫婦の三組はもうどこから見ても貴族に見えた。おおよそ二か月が過ぎる。三組の似非貴族が誕生した。
1245年10月22日 ポーランド・マルボルク
*)ライ麦の収穫とドイツ騎士団
ライ麦の買い付けはギュンターに一任している。この春と同額でと言っていたが、マルボルクだけはギュンターでは出来なかった。当然オレグすらも頭が痛い問題であった。
「エルブロさま、ご機嫌はよろしいでしょうか。」
「答えにくい挨拶はよしてくれないか。機嫌はいつもと同じだよ。」
逆にオレグが判断するはめになった。少し考えて、思いついた。
「騎士団長はお見えになるのでしょうか?」
「あぁ必ずの立会なのだよ。もう困っているね、本当に自由にできない。 ……おっとっとお出ましだ。」
「あぁ、同じ分量になるよ。」
「出来れば春と同じように、でしょうか?」
「そう願いたいよ。」
「これはこれは団長さま。こちらがハンザ商人になります。」
エルブロはオレグの名前を出さずにハンザ商人と言ったのだ。
「おうそうか。世話になる。ライ麦を言い値で買ってくれ。」
「では五十kの一袋を銅貨で十五枚です。小銅貨の一千五百枚ですね。」
「それは普通だろう。言い値は銅貨二十枚だ。出来るだろう。」
「い、いや~それは高すぎます。」
「俺の!! 言い値だぞ!」
「エルブロさまは、いかがお考えでしょうか?」
「そうですね、十五枚をいきなり二十枚とは出来ますまい。ここは十八枚でお願いできますか。」
「ライ麦の量はどれくらいでしょうか。」
「すまない、前回の九万袋に対して、この秋は七万五千袋になりそうだ。どうだい出来るだろう。」
「はい、ここは無理して希望の価格で受けます。」
75,000+x1,800=135,000,000=金貨1,350枚
「金貨で一千三百五十枚になります。」
「それで街には幾ら残すのだ。」
「はい減らした分の、一万五千袋でございます。」
「そうか、それで街は維持できるのだな。」
「いいえ騎士団の皆様が増えない、という前提でございますので、くれぐれも団員を呼ばない様にお願いします。」
「お前からもお願いしろ。さもないとライ麦が減ってしまうからな。」
「あ、はい。これはお近づきの印でございます。エルブロさまには自由がありませんゆえ、私からお渡しいたします。」
「おうあい分かった。来春も頼むぞ。」
ドイツ騎士団に即金で支払った。追加で金貨三枚とは可愛いのもだ。団長は喜んで金貨を持って引き上げた。
「オレグさま。銅貨十八枚でよろしいのでしょうか。いくらオレグさまでもサービスが良すぎです。」
「これギュンター。しっかりとしているね、ワシは嬉しいぞ。」
「はいギュンターさん。これでよろしいのです。あとは帰ってからお話しをいたします。」
「あっ、ギュンター。このライ麦を運んでくれないか。」
ライ麦の一袋をギュンターは持ち上げようとしたが、
「旦那さま、この袋をですか? ……私は年寄りです。重くて運べません。」
「ギュンターこれ位運べないでどうするのだ。」
「はい爺は喜んでおります。」
ギュンターは理解して含み笑いで答えていた。
一袋は五十kだが領主のエルブロは六十kの袋に代えていた。だから九万袋と同じ量のライ麦になる。ただ出来ないのが裏金に回せないという事だ。
「エルブロさま、まだ金貨は残っております……。」
「そうか……。オレグさん相談がございます。」
「実は息子のヨゼフですが……。」
長男のヨゼフはもう立ち位置が定かではなくなってしまったという。
「はい承知いたしました。私で雇う事に致します。」
「もう序でじゃ、頼めるか。」
「はいギュンターさまも私が頂きます。」
「ではエルブロさま、来春にお会いしましょう。」
「あ、オレグさん。ブィドゴシュチュとグルジョンツも同じですよ。騎士団が出張っています。」
「ゲゲ!! あ、すみません。つい癖が出てしまいました。」
「大丈夫ですか? 同じ隊長ではありませんよ。」
「たぶん大丈夫です。」
「それならばよろしいです。裏金は出来ると思います。」
と意味不明なエルブロだった。
一方ブィドゴシュチュとグルジョンツの買い付けは、
「ここはギュンターさんで十分でしょう。私は船の都合をつけてまいります。」
ユゼフはオレグに付いていく。ともに十八万袋が前と同じく買い付けが出来た。
ここの隊長は、
「お前がハンザ商人か!」
「はい、さようでございますが、なにか?」
「お前はオレグと言う男を知っているか。俺に傷を付けた野郎だ。」
「はい名前だけですが、今はオランダに行っているような噂でございます。」
「そうか、国外に行ったか。仕返しが出来ないで残念だ。」
「そのオレグという商人と喧嘩されたのですか?」
「あぁそうなんだ。トチェフ村に侵攻して負けてしまったよ。おまけに村へは不可侵条約を結ばされて手も足も出せない。」
「おやおや、それはとても悔しいですね。しかし……。」
「だろう? だからさ……。」
「はい、お近づきのお印ですね。」
「では奮発しまして、金貨五枚で!」
「ならば、合計で十枚だぞ。」
「はい、決済いたします。」
180,000+180,000=360,000袋。360,000x1,500=金貨5,400枚
ギュンターは隊長に即金で金貨五千四百枚と十枚を支払った。ギュンターはもしやと思いライ麦の袋を持ち上げるが、重くて上がらなかった。
「そうですか領主さま。爺は嬉しゅうございます……。」
ここも一袋が六十kだった。裏金は金貨一千八十枚になる計算だ。
「しかしオレグさまは素晴らしい。ドイツ騎士団に不可侵条約とは!!!」
感心すること、一入だった。
「ユゼフさまもぜひ成長なされますように爺は祈っておりましぞ!」
裏でキルケーが働いた事を知ったギュンターは、オレグに質問した。
「オレグさま、キルケーとはどういう関係でございますか。」
「おう、キルケーはな……だ!」
「はいさようでしたか!! 三号さんですか……。」
「三号??」