第114部 オレグ編 オレグの苦悩
1245年2月14日 ポーランド・トチェフ
「なに!! 俺の嫁が攫われた! だと……。」
オレグの叫び声が村中に響いた。
「NO~~~~~~!!!!!……………… 」
「オレグさま、脱字にご注意下さい。」
「うるさい、黙れ!! 」
オレグには言葉も無かった。
ゾフィとシーンプら四人は、1245年1月11日にはポーランド・グダニスクに来ている。ソフィアとリリーは二人だけでオランダに行ったはずだが。
それからの行方が不明なのだ。マクシムにはデンマークへ行くと、伝言を残しているからデンマークに行ったのは間違いない。
最後は、
「ロベール・ド・トゥロットの修道女、聖ジュリアーヌに捕まった。」という魔法の手紙だという。これだけでは意味が解らない。オレグはリリーが居ないと動きが人並みになるからどうしようもない。聖ジュリアーヌとは、誰も素性を知らない未知の生き物か! オレグは道端のばい菌とでも思ったらしい。
それから二か月が過ぎ四月になった。アムステルダムにオレグの姿が見られた。
1245年4月14日 オランダ・アムステルダム
*)家族の行方
「くそ~、ソフィアとリリー、それにゾフィも居場所が判らね~!」
それは同時にシーンプやギーシャとへステアも同じことだ。だが、なぜマティルダも行方不明なのかが理解出来ない。
それと、ロベール・ド・トゥロットの娘の二人はゾフィについて行ったという情報は知らない。他にも知らない事があるはず!!
「なぁ兄ちゃん。あの偽のマティルダが魔法の結界に閉じ込めているからだろう? そうは考えられないかい。」
「そうだよな。国力を削いだから意地でも解放しないのだろう。ネコがネズミを噛むからこうなるのだ。もっと思い知らせねばなるまい。」
ボブ船長は、オレグがネコなのかネズミなのかを考えた。
「オレグはいったいどっちだろう? もしかしてオレグは、カピパラか! 別命オニテンジクネズミ、鬼という冠を頂いている。でかい鬼なのか!」
「一度グダニスクへ戻って船団を作るか? それにトチェフにも応援を頼んでさ、魔女を全員連れてくるとか、さ。」
「そうさな、イワバのお姫様も頼むとするか。」
「あの……、おっと名前を忘れたぜ、……ピアスタお嬢さまだ!」
「ボブ、俺の為に思い出してくれたか、ありがとうな。」
「おうさ、また、なんとかスプラッシュがさく裂するのか! あ~、楽しみだ。」
「そうだと良いが……。?? お前は、ボブ船長ではない方のボブだな。」
「あ~そうだぜ。なにが不安なのだよ。でも今は俺も船長だぜ。」
今はオレグの船の船長をしている。紛らわしいのだ。
「今度は国が相手だぜ、力のつり合いが傾き過ぎだ。」
「なにを言う。傾いているのは、デンマークだろうが、違うか?」
「あぁ、そうだな。俺にも力が湧いてきたぜよ。作戦を考えようか。」
「その前に俺はボブ船長と交代してくるよ、待ってな。」
ボブ船長が現れた。ボブ船長は、リンテルンのシャウムブルク城の戦いの時は居なかったはず!
「今日は何日だ?」
「四月十四日だ、それがどうした。」
「いやね、やっと俺の歴日と重なったよ。いつも今日は何日にしようかと、いつも悩んでいたのだよ。」
「でも月日は早く立ち去るから、もう二十四日だよな!」
「なら物語を書き込んで日付を修正する。」
「…………。」
「そうだったのか、今まで日付はでたらめだっただと?」
「そうらしいな。俺らがその日付に合わせて行動していたのだな。」
「そうか、軍靴に足を合わせる、軍隊方式だな。」
「で、どうすんだい。雪でも降らせるとか出来るのか。」
「それはエレナが居るから、ブリザードでも出来るよ。だがな……。」
「そうだな、俺らにもブリザードの影響は免れない。」
「そう………。」
「ソフィア、リリー、ゾフィの三人が居れば怖いものは無いのだよ。」
オレグの苦悩はそのまま、作者の苦悩にも繋がる。
数日思考した。家臣を買収して、ノルウェー、スウェーデン、エストニアの貴族に昇格させる方法を考えた。デンマークの国王のヴァルデマーⅡ世をアーベルに簒奪させて、国を二分させるという方法だ。ノルウェー、スウェーデン、エストニアは独立させる。
この話を聞いたボブ船長は、
「なぁ、これは年月が長くなる方法じゃね~のか?」
「あぁそうだな。ハンザ商人が国家に噛みつくのだ、おいそれとはできはしないだろう。」
「ノルウェー、スウェーデン、エストニアを独立させろ! と言ってカチコミするのかい?」
「それは簡単さ、家臣を垂らしこんで味方に引き入れればいいさ。それにノルウェー、スウェーデン、エストニアの独立は出来なくてもいいから、デンマークが分割して国力が無くなればいいのだから。」
「そんな悠長な方法でいいのかい?」
「よし、オーフスへ乗り込むぞ。船を曳け~~!」
「オレグ、馬と混同しないでくれよ。」
ハンザ同盟とデンマークの戦いの口火が、オレグだったとは、なんという歴史の改竄だろうか、・・・。二番目のボブ船長が船団の設立に奔走する事となった。
「オレグ軍団の設立だー!ー!ー!ー。」
傭船の話が無い船が名乗りをあげる。マクシムの時とは大違いだ。
二人のボブは水夫に命じて荷物を下していた。オレグには内密の仕事だ。
1245年4月21日 デンマーク・オーフス
*)オーフス潜入
オレグは、ボブとシビル、それにエレナとソワレの五人でオーフスに潜入した。魔女たちは別途メイドとして、方々のパブに送り込んでいる。
「オレグさん、一軒ずつ魔女を訪問して情報収集をするのですね。」
「当りだよエレナ。情報部長にはソワレを任命しようか。」
「わ~、嬉しい!! パブで飲み放題できるのね!……。」
「それは自腹だ。飯代は払わぬ。自分で清算してくれ。」
「いいわよ、その代り情報代を請求しますわ。」
「えぇ?? それは困る。お前は商売には頭が鋭いからきっと高い情報料を請求するだろう。」
「もちろんですわ。私も旦那を貰って悠々自適に暮らしたいですもの。いけませんか?」
「いや違わない。しっかり頼んだよ。」
「はい~~喜んで~~。」(目指せ! オレグのゲット!! オー!!)
*)コペンハーゲン
アンナ、カレーニナ。ルシンダと従者のサローとヤンの五人はオレグから忘れられている。
「ルシンダさま、ここは別行動でデンマークへ乗り込みましょう!」
「サロー、それがいいでしょう。マクシムに船を出させますから、マクシムも同行させましょうか。」
この五人は漁港のコペンハーゲンへと向かった。
「ルシンダさま、コペンハーゲンには何か面白い情報があるかも知れません。ここはマクシムにお任せ下さい。それに、オレグさんたちと鉢合わせをしましたら困るでしょうか。」
ルシンダと従者のサローとヤンは、初めての航海となるのだ。こころではワイワイ、ウキウキの感情で漲っている。
「ですが、海賊に襲われたら大変ですので、ぜひとも魔女も同行させて下さい。よろしくお願いします。」
「ここに二人が居ますから大丈夫です。アンナ、カレーニナ、しっかり働きなさい。内容はしっかりとオレグに報告しますからね、よろしくて?」
「はい、ルーシーさま。シビルさまと同じように働きます。」x2
「へ! ルーシーと言いましたか!」
「はい、ルーシーさま。」
ルシンダにはルーシーと呼ぶ人間はトチェフには居ないはず。こやつらは信用できない方の魔女だと認識した。
「でも以後はルシンダと呼びなさい。」
「はいルーシンダさま。」
ルーシンダと呼ばれて怒りだしたルシンダは、アンナ、カレーニナをぼこぼこに叩きのめした。
「ルー死んださま、もうお止め下さい。」
「お前~! シンダで変換キーを押すでない。」
「あ、あぁ~、すみませ~ん!」
アンナとカレーニナは、教祖が居るデンマークに近づいて自我が崩壊しかかっていた。この悪の魔女の教祖とは、いったい誰だろう。
「私じゃないわよ……。」
「お姉さま、それは誰でも知っています。……このリリーでも知らない? 教祖とは!?」
「ここがコペンハーゲンなの??」
「はい、まだ漁村にハエが飛んでいる程度でございます。」
マクシムは海の情報には長けている。先の戦いで拿捕していたヴァイキングの船で上陸したが、
「お前ら!! 何処の馬の骨だ。」
「あぁ、昔デンマークに捕まっててさ、ようやく解放されたから、五年ぶりの里帰りだよ。」
「あぁ、そうかい。どさくさに紛れて逃げてきたのだな。だったら、お前らは仕事がないだろう。どうだい、俺の下で働かないか!」
「いいえ私にはこの女共がカネヅルですので、働くつもりはありません。」
「ほほう、新しい仕事を始めるのだな。お前! パンツの紐か?」
「はい正解です。三人の女に働かせます。パブでも娼館ででも良いですね!」
「ふぅふぁはぁはぁ……。」
「では旦那! 縁がありましたまた、……。」
「おう頑張れや!!」
「けっ!! 他愛ない……。」
とマクシムは吐き捨てるも、ルシンダは娼婦扱いにされて怒っている。とにかく無口になっていた。
「マクシムさん、さっきの男はどういう素性でしょうか。」
「たぶん豪族の下っ端で、俺らを雇って金をピンハネしたかったのだろう?」
「あぁ、なるほど。勉強になります。」x2
サローとヤンは感心していた。
「ルシンダさま、アンナとカレーニナをどこかで働かせたいのですが、どうでしょうか。何か名案がごまいませんでしょうか?」
「ここはマクシムにお任せします。皆で船の仕事は出来ませんかしら。」
「はい、船を操るのには慣れておりません。無理でございます。」
「私は働きませんからね、判っていますか?」
「はい、承知しております。でしたらこのコペンハーゲンは諦めて、オーフスに行きましょう。大きい街でございますれば、何か仕事はあるでしょう。」
「マクシム。私は捜査に来ているのです。仕事しには来ていません。」
「はい、ですが、それではあまりにも不自然ですので、デンマークになじむ必要もありますので、ここは……ひとつ……。」
「そうですか、マクシムは帰るつもりですね。」
「はい、資金は少し置いていきますが、スポンサーにはなれません。」
「ま、薄情な……。 フン!!」
「すみません、……。」
(厄介で使え~ね~姫様だ!)と、マクシムは思った。
マクシムは暫く滞在して、この地の豪族について調べると言うが、
「必要ありません。どうせ海賊の頭でしょうかしら!!」
「ははは、かしらには違いありません。ならば、オーフスへ行きましょうか。」
ルシンダはオーフスは近いものと勝手に思い込んでいた。
「では、ルシンダさま。船にお乗りください。四人で船を漕ぎますが丸一日はかかります。」
「五人居るではありませんか。」
「はいルシンダさまを含めてですね。私はここでお別れいたします。後はご自由に……どうぞ。」
「陸からは行けないのですか。」
「はい島ばっかりでございます。歩いても行けません。」
「んまぁ!!」
「むむむ……。」
これら五人では方向も解らずオーフスには行けないのだ。
「私たちでは行く方向も不明です。ここは、マクシムにお願いします。」
「そうですか、……では、誰か案内人を雇ってまいります。」
「ま、薄情な……。 ** フン!!」
マクシムは害にならないような老人を雇ってきた。
「この爺さんでしたら会話を聞かれても大丈夫です。後は好きにされて下さい。私はここで失礼いたします。」
コペンハーゲンに上陸して昼食も摂らずに別れてしまった。爺さんはカネをもらっているのか、終始ニコニコとしていた。
ちなみにここの豪族は、デンマークとスェーデンとの橋渡しをしていた。ここで働いていたらきっと良い情報が得られたかも知れなかった。
そう、ソフィアたちはこの港から出て行ったのだ。
二つのパーティは何も収獲を得られなかった。オレグの方は、
「この非常事態に、ライ麦が俺を呼んでいる。もう帰る!」
「おいおい兄ちゃん。ここでけ~ってもいいのかい?」
「あぁ仕方ないだろう。ここで軍資金を稼がないと俺は金欠のままだ。文句あるなら金を出せ。」
「…………。」
ルシンダの一行は、オーフィスで潜入調査を行っているが従者が悪い。ただの観光にしかなっていない。いや、悪いのは頭の方だ。我がままでガサツ融通も利かないのだからしょうがない。魔女の二人は頭がイカレテしまった。
「魔女が壊れたから、トチェフに帰ります。」
と突然言い出した。従者は喜びを隠してしぶしぶという顔つきで、
「はい承知しました。二人で漕いで帰ります。」
ルシンダたちは帰りの船に助けられて無事グダニスクに着くことが出来た。
黄金の麦の穂が風に揺らぐ五月が訪れる。
1245年5月15日 ポーランド・グダニスク
*)グダニスク
デーヴィッド商会は目覚ましい発展を遂げた。
「これもマクシムさまさまのお蔭です。」
という噂を耳にしたマクシムは、どんなに考えてもデーヴィッド商会を持ち上げたりはしていないし、いろいろと目に掛けたりもしていない。
「おうデーヴィッド、景気がよさそうだな。」
「はい、マクシムの旦那! 御機嫌よう……。」
オーフスから帰って久しいが、トチェフ村のライ麦が気になるから訪ねたのはオレグの動向が気になるからである。デンマークと戦争して戻ってくれば、もう春になりライ麦の収穫時期になった。デーヴィッド商会の成長の原動力を確認をするでもない。
「なぁトチェフやマルボルクのライ麦の出来はどうだい。」
「はいマクシムさん。順調だと聞いております。今はオレグさんも大忙しでしょうか。」
「ビスワ川の上流のグルジョンツとブィドゴシュチュもだが、知っているか。」
「いいえ、そちらの情報は届いておりません。こちらに納入してくるのは農夫らが主でして、エレナさんたちは来ないのですよ。農夫には訊いても返事はありませんから、なにも知らないでしょう。」
「そうか、オレグも片手が奪われているから、そうそうに動けないのだろう。」
「はい、さようかと思います。ですが、今年は暖冬でしたからライ麦の収穫は早いだろうと思います。」
「だったらオレグからも納入の数量の報告が届いても良いだろう。」
「昨年は畑地の開墾が進みました。今年は昨年以上かと推測します。」
「あぁ、ならばこの春も楽しみだ。オランダも大きい口を開けて待っているだろうさ。け~っケッケッけ~~~!!」
不気味な笑いを残してマクシムは帰っていった。
「デビ、帰ったかい。」
「あぁエルザ。……と、ソワレさん。」
「すまないね~元亭主だと気まずいよ。きっと根ほり葉ほり訊いてくるからさ、好きじゃないんだよね。」
「うん判る分る。最近急に羽振りが良くなったじゃない、だから余計に気持ち悪くてさ。」
「ソワレさんは離婚しなければ、今頃は……??」
「あぁ、きっと左団扇だったでしょうね。社長夫人として采配が出来たから、今頃はきっと御殿に住んで……。お~~~イヤだ、考えるだけでも鳥肌が立つ。」
「御殿は嫌い??」
「えぇとても。それよりもお城に住みたいんだ。」
「まぁ、お妃さまが夢でしたの??」
「あは~、ばれたか。」
「あははは・・・・」x3
三人で大笑いをしている。
「ところでソワレさん。エレナさんは何をされてあるのですか。」
「はいオレグさんに付いて飛んで回っていますわ。」
「はぁそうですか~。」
「はいこれ。今日の納品分の目録です。代価は在りますか?」
「直ぐに持ってきます。数えるのが大変でしょうが頑張って下さい。」
目録は肉や麦粉、ビール、ライ麦、豆類である。肉はソーセージとベーコンであるが、大きい牛肉も在った。野菜は日持ちがしないから少ない。しかもすでに萎れている。
「これはパブ用だね。燻製になってるのかい?」
「エルザさん、塩漬けが良かったかな。」
「そうだね、カブの塩漬けをお願いね。」
「??・・・??」
デーヴィッドは倉庫の二階から荷物を下している。
「きゃっは~重たいです、ソワレさん。グラマリナさま御用の銅貨が主です。五千枚が在ります。」
「そんなに……ですか。」
「イヤですよ~ソワレさん。知ってるくせに。」
「そうですね、金貨五枚が良いのですが……。」
「すると、トチェフはもう硬貨は十分に在りますね!」
「……そうですね、十分に在るはずです。」
歯切れの悪いソワレは、グラマリナさまが館に抱え込んでいるとは言えない。
「では帰ります。次回からは銀貨でお願いします。大銅貨もですね。」
農夫たちが大量の麦粉を下し終えたから帰るという。
「待って下さい。こちらから積み込む荷物がまだですよ。農夫の皆さんもいつものようにお泊りになって下さい。」
ソワレは勿論だが、農夫は役得だといって、喜んでいる。トチェフからの定期便が在る日はパブの宿屋も貸切の札が下げられる。
農夫らは労役になるので特別給金は支給されない。これも守銭奴たる、??
「うふふふ……。農夫にはお金を支給する必要は無いわ。ただ働きで十分なのよ。これって、とってもお得だわ~。」
グラマリナの考えだった。未だに農奴という階級が存在している。農奴とは領主の所有物なのだ。オレグからは現物支給がなされだしたが、こと領主は出し渋りが激しい。いつもオレグのフトコロが痛んでいる。
このグダニスクへの配達は村では先を争った争奪戦になる。これではいけないからと、ソワレはくじ引きにした。毎回毎回だったが、農夫らは農民に夜襲を掛けてくじ引きに出られないようにしていた。
これではいけないわと、エレナが順番性にした。九十九人の名簿が作られている。
「ねぇ、ソワレ。このビスマルクとは、誰なのよ、私は知らないわ。」
「あぁ、そうだね。その子は昨年生まれたのよね。きっと父親が抱いてくじを引かせたのね。困ったものだわ。」
「ふ~ん削除させるね。あとは……全部調べてみるわ。」
「でも、ほどほどにね。農民の唯一の楽しみだもの、私も夜襲されるのはごめんだわ。」
「そうね、でも小さな子供は外すよ。」
パブでは、
「さぁ~みんな! このソワレさまの奢りよ。楽しんで頂戴!!」
「わ~い姐さん、大好き~!!」
「だから、夜中に襲わないで頂戴ね!」
いつもの光景だ!
「ね~ぇエルザ。ここの支払いが出来ないのよ。この宝石を買ってくれないかしら!」
「まぁ、これは領主さまの……。」
「少し細工をしてね、……またグラマリナさまが購入されますから。」
「でもこうも続けてもいいのかしら!」
「デビ商会の発展の為です。頑張りましょう!」
オランダから帰って来たオレグは、いきなりの全開で仕事を始めた。その翌日から、
1245年5月15日 ポーランド・マルボルク
*)マルボルク・デンボウスキー家
「オレグさん、いつも娘の世話で大変だろう。」
「いいえエルブロさま。決してそのような事はございません。」
「えぇ知っていますよ。最近妻のべマが訪ねて行きました。それはもう。」
「はは、さようでございましたか。トチェフに流す貨幣をどのようにするのか? 今は大いに悩んでおられます。」
「あの娘だ、独り占めをしなければ良いのだが。」
「はい、すぐに現実に引き戻されますので、大丈夫でございます。」
「して、どのような方法で貨幣制度を導入されるのでしょう。娘が握った金なのであれば、村に流すのは容易ではないでしょう。」
「はい、ほぼ無理ですね。だから今は夢を見ておられます。方法はですね。」
オレグはトチェフ村の貨幣制度において、強引に進めるという。
「最初は農民からライ麦を全量、金貨で購入いたします。小さな硬貨はすでに流していますので、緊急に欠乏する事はございません。」
「だが農民が手にする金貨は税金で無くなるのだが?」
「はい、少し残るように手を打ちます。残った金貨は当然額面が大きいので使用できません。ですので、私は領主さまの館に両替に行くよう勧めます。」
「ははは、それはいい。娘も仕方なく両替に応じるだろう。」
「はい、これから私は農民を相手に仕事が出来ます。領主さまとは買う間柄ではなくなり、以後は売る間柄へと変化いたします。」
「村での備蓄はどうするのだ。今までは飢饉に備えて館に保管しているだろう。」
「あれは私が代わって行います。まぁこの私が生きている間ですが。」
「まぁ、そうなるわな。……今年もライ麦は全量を頼むぞ。」
「はい、お任せ下さい。間もなくドイツ騎士団がでしゃばって来るでしょうから、代金は半額と半額ですね??」
「あぁ半額は預けておく。投資して増やしてくれよ。」
「はいかしこまりました。これは、奥様とユゼフさまの奥様の着物でございます。」
「う~ん。いつもありがとうよ。」
「ユゼフ。後はライ麦の販売は任せたぞ。」
「はい、お任せ下さい。ですが、お父様。領主さまへの税金はいかがされますでしょうか。今年は不作とは言えない程の豊作でございます。」
「それはこのオレグが裏で手を伸ばします。ご安心下さい。お支払いする金貨の八割を税金として納めて下さい。マルボルクでの費用は、残りの半分から決済してまいります。」
「そうだな、しっかりと頼むぞ。」
「つきましては、出納員としてギュンターさんを派遣して頂きましょうか。昨年とは事情が変ってまいりました。」
「そうか、出納員ならば仕方があるまい。派遣しよう。」
オレグはグラマリナと同じく、
「タダで執事が雇えたわい!!」
と喜ぶのだった。グラマリナは親の遺伝よりもオレグのしつけの賜物なのかもしれない。そういうところは、グラマリナの両親も知っているだろう。
オレグが帰ってからエルブロは執事のギュンターを呼んだ。
「旦那さま、お呼びでしょうか。」
「おぅ入ってくれ。……実はお前に出向の話があるのだが、行ってくれるか。」
「はいグラマリナさまにお仕えするのでしょうか。」
「いいや、手ごわい相手だ、あのオレグだよ。大丈夫か!」
「はい旦那さま。大丈夫でございます。序でにオレグさまの手腕を拝見してまいります。」
「それとお前には出来ないかもしれないが、」
「はいグラマリナさまですね。はっきり言いまして私では無理でございます。」
「やはり、娘はオレグにしか扱えないのか。」
「いいコンビではございませぬか。グラマリナさまの才能を見抜けられたのはオレグさまでございます。」
「そうよのう~親にも解らぬ才能だったな。」
「旦那さま、ライ麦の出荷と共に出発いたします。オレグさまの手綱はしっかりと握っておきます。」
「期待はしていない。だがマルボルクの資産だけは守ってくれ。それだけでいいからな。無理して寿命を縮めないでくれよ。」
「ありがたいお言葉でございます。」