第113部 マクシム編 マクシムのアムステルダム凱旋
1245年1月22日 オランダ・アムステルダム
*)マクシムのアムステルダム凱旋
デンマークのヴァイキングを無事やり過ごして、ここアムステルダムに着いた。魔女らが何度も爆撃を往復した作戦が功を奏したのだ。
マクシムはこの三回の航海で莫大な資産を作る事ができたから、オレグさまさまと喜ぶ。
「オレグには、金貨五十枚で良かっただろうか。悩むね~。」
マクシムは、やはり事前に情報があって心に余裕があったのが、この戦勝に繋がった事は本当だろうと考えた。
「ボブ船長は居るか!!」
「へい、臨時のパブの建設を始められてあります。」
「ほほう、シビルの先を越そうとしているのか。」
「いいえ、それが不思議な事にですね、オレグワインがバカ売れしているとか言ってありました。」
「はて?? どうしてだい。」
「街中のパブのワインが売り切れていたそうなんです。」
「ほほう可笑しな事があるもんだ。して、ボブには十分な量が在ったのかい?」
「いいえ、とても足りないと、ぼやいていました。」
「だが二倍の料金を徴収していたんだろう?」
「はい元々がお安いので、四倍の卸し価格だったそうです。」
「うっほ~よ、四倍か~それは祝儀価格で良かったな。」
「もう恵比須さまでした。」
「で、シビルの二足五文は順調だろうな。」
「はい、前と同じく船に麦を乗せて陸を走っております。なにせ、とても綺麗で大きな道路が出来ていますから。それと、船では……。」
「それは俺でも見ているから判るよ。では、ボブの邪魔をしたら悪いな。こちらから出向くとするか。」
「でも、旦那も早くご自分の仕事を進めるべきだと思いますが。??」
「あぁ、そうだな。俺も先にギルド本部のジジイに挨拶にいくからついてこい。」
「へ~い。」
「これを持て! 肉だ。」
「重たいです。軽くしましょうよ。少し減っても撒き餌は撒き餌でしょう?」
「お前、俺の弟子になるか! 素質がありそうだ、どうだ。」
「先に嫁さんをもらって下さい。あのジジイの孫とか、どうでしょう。今後のいいお得意さんになりますでしょう?」
「あの爺さんには、孫が……、二人居るのか。」
「へい、私が確認しております。めんこいのが二つ。」
「そうか、めんこいのが二つも。」
「……。」
「で、お前は若い方が好みだな!」
「それはもう、めんこいです。」
「ならば肉は三箱にするか。お前、頑張れ!」
「はい大きい魚を釣ります。撒き餌で……ですね。」
マクシムは水夫の肉を三箱持ち出した。どこまででも懐を痛めたくはないらしい。トチェフのグラマリナにそっくりだ。
マクシムはギルドの本部を訪ねた。
「館長! ご無事でしたか~。それはよろしゅうございました。」
「あぁ君か。良くここまで来れたな。今日は何ぼだ、安くしてくれないか。」
「はい二倍までですよ。」
「あぁ、マクシムさん。先月に桟橋が15連も出来たのだよ。」
「それはいい働きをされましたね。さっそく利用させて頂いております。」
「いいや、俺の偉業ではない。なんでもソフィアとリリーという娘らがな、俺の所に来てさ、月の使用料が金貨40枚でいいなら、桟橋を十五連を造ってやるよ、と、言って来たのだよ。」
館長は月の利用料を二倍にして言っている。
「だから??」
「だからさ、決済金額に響くからさ。一,八倍に下げてくれ。頼むよ。」
「もう、館長! オレグの手中に嵌ってしまって情けない。」
「そうか、あいつ等はオレグの指示でここに来たのか。」
「いいえ違うでしょう。あのオレグはトチェフに居ましたよ。だから別だと思いますが。」
「だが月々の決済の振込は貴奴の口座だったぞ。」
「えぇ、そうでしょうとも。とてもしたたかな奴らです。で、他にはなにか?」
「あぁ、肉とかビールとかをたくさん置いて行ったぞ。」
「金貨百枚とかと違いますか?」
「うぐ~、……、実はそうなんだ。これも振込をさせられたよ。」
「でしょうね、……??」
「そう見つめんでくれたまえ。他には救援物資として薬も買わされたよ。なにせ食あたりが多くてな。」
「ですか~、」(シーンプの思惑は外れたな……)
「どうされましたか、黙り込んで。」
「あ、いや、同乗にシーンプというイングランド人が居まして、薬草を売っていましたが、買う人間が居ないだろうな、と考えていました。」
「ギルドで買い上げますか、街の住人には金はもう残っていないでしょう。」
「とするとパブを造っても?? 客は来ないと??」
「いいえそれは別です。食い物は別勘定ですよ。もうワインが無くてな。」
ギルドの館長が飲みに行きたいらしいのだった。
「そうですか~、ではシーンプの面倒はお願いしても??」
「はい、承知いたしました。買い叩いていいですね?」
「にこっ!」
「では、決済をお願いします、館長殿。」
「桟橋の利用代金の金貨150枚は現金だよ。」
「あぁ、いいよ。ここに持ってきたよ。」
「では、荷物の決済を! チ~ン、ガシャ~ン!!」
「毎度あり~!」
オランダの国家予算以上の金額が動いた。マクシムは二倍の値段で売り逃げた。
「これは私からのお見舞いの品です。お嬢さまのお二人と分けて下さい。」
「いやいや、儂には息子が三人だが? なにか??」
「ゲゲ・・。お孫さんとは?」
「あぁ、娘が二つ居るな。忘れておったぞ。その娘に渡しておくよ。」
「是非に、それで、お二人はお幾つですか?」
「あぁ、まだ十二歳と十五歳だ。……、嫁に欲しいのか?」
「はい、是非とも。」
「そうか、十五歳はもう熟れておるぞ。金貨百枚でどうだ。」
「お爺さんは、それはいけません。売買されるのですか。」
「結納金だ、肉では足りぬ。」
「もう結構です。他を当ります。」
その十五歳の孫娘は、シーンプが攫って行くのである。館長は薬草の代金を二足三文でしか買わなかった。その腹いせに娘を、かどわかし、たのだ。これは事実かどうかは判らない。娘が蒸発したのは間違いなかった。
「そうか、それは残念だ。ところでマクシムさんには、あのソフィアから手紙を預かったぞ。なんでも、デンマークのマティルダに会いに行くとか、書いてあったな。」
「読まれたのですか? 他にはなんと。」
「ただそれだけだ。その手紙は何処に?」
「君の後ろの壁に大きく書いてあるよ。読めるだろう。」
「げげ、これは、……。」
「どうしたのです?」
「はい、オレグさんには至急知らせる必要があります。」
リリーの書いた文字は、マクシムが見た瞬間に、
「SOS、オレグ兄さまに伝えて!!」と、変ってしまった。
「おう、これは……、魔法の文字ですね。……。」
「ロベール・ド・トゥロットの修道女、聖ジュリアーヌに捕まった。」
「これは、神聖ローマ帝国のリエージュ司教領の領主さまの事です。そう言えば絹の反物を売りたいから、リエージュ司教領、ロベール・ド・トゥロットさまに会いに行くと言われてありました。」
「そ、それは……。」
マクシムも一度は聞いた名前だった。
「はいデンマークと深く関わりのある人物です。あれは……。」
と館長は口ごもった。
「デンマークの貴族ですか?」
「え? えぇ、……どうして、このような……。」
館長は意外だったらしい。不思議に思っている様子。目は天井や壁、床を徘徊していて焦点が定まらなかった。
館長は、
「でしたらすぐオレグには知らせなければなりませんね。」
「あ、あぁ、そう致します。今日はパブで一杯を楽しみにしておりましたがとても残念です。では館長、ここで失礼します。」
足早に部屋からマクシムが出ていったら、
「俺だって飲み損ねたぞ、俺の方が損したぜ!」
と他人の事はどうでもいい、という顔つきだった。それが暫く続く。
ドアの外で一人の男がこれらの話を漏れなく聞いていた。
「むむむ……。館長はヒドイ奴だ! 乗り込むぞ! ……おおっと、ここで感情的になってはいけないな。我慢、蝦蟇ん!」
「失礼いたします。私はシーンプと言います。蝦蟇油を売りに来ました。館長さまが買い上げて頂けると聞いて来ました。」
「なんだ、あんたか。薬草じゃないなら帰れ!」
と館長の地が出たままである。面倒くさい顔つきは変わらない。
「えぇ~、これは魔女が好んで使用する秘薬でございますよ。どんな腹痛でもたちどころに、いちころで治ります。」
「君は元日本人だね、いちころとは、演技でも無い。」
「いやだ~、私はイングランド人です。ただの縁起ですよ。」
「そのようだ、文字を入れ替える辺りは、お前! 酔っ払いか! 縁起では腹痛は治らないだろう。」
漫才の最中に一人の娘が館長を訪ねてきた。
「お爺ちゃん、今日は早くかえり・・・……。」
「おお、スジャータ。ここには来てはダメと言っていたではないか。さぁ早くお帰り。」
「あら、お客さまでしたの。こんにちは、私はスジャータと言います。」
にこっ!
「あらあら、お綺麗なお嬢さまですね。とても聡明でいらっしゃる。こんにちは、私はイングランド商人の、シーンプと言います。よろしくお願いします。これは、お近づきにどうぞ!」
そう言ってシーンプはふところから、小さな人形を取り出して娘に手渡した。スジャータは喜んで受け取ると、
「これありがとう。妹に上げるね。きっと喜ぶわ。」
「あぁ妹さんがいますか。ではお嬢様にはこの綺麗な絹のドレスを! どうぞお召しください。」
「うわ~とても綺麗だわ~。……これを私に?」
「はい、どうぞお着替えになられて下さい。」
「スジャータ、もういいだろう。早く帰りなさい。」
「うん、お爺さま、今日は私の誕生日よ、覚えてる?」
「あぁ、もちろんだよ。今日は早く帰るよ。あんた、孫に贈り物をありがとう。」
スジャータはにこにこしながら帰っていく。
館長は、
「幾らだ、あ、ああん??」
「は?」
「だから絹の服はいくらだと、訊いておる。」
「あれは私からの贈り物でございます。蝦蟇の油でしたら、金貨百枚でございます。トチェフ村から夜中歩いて集めたものでございます。本当でしたら、金貨四百枚にはなる代物です。」
「そうか、そんなに高いのか。これでいいだろう。もう帰ってくれ。」
「ま、金貨十枚!!」
「そう……ですか、帰ります。二度と来ません! 蝦蟇油は倉庫に置いています。」
シーンプは怒って部屋を出て行く。
「く~あのジジイめ!」
シーンプは大損した以上にジジイに腹を立てた。
シーンプが来た時にはリリーの魔法の文字は消えていた。シーンプは急ぎマクシムを追いかける。
「マクシムさんは、きっとゾフィかシビルの所に向かうだろう。ならば先にゾフィの所へ行くか。」
マクシムはゾフィの事を、ソフィアやリリーの妹ととしか認識していない。ただの小娘扱いだったのだ。だから、マクシムはゾフィの所には行く事はなかった。……シビルとの会話は後程。
「天使さまの再来だ! 天使さまだ、天使さまだ!!」
街の人間がゾフィの炊き出しに集まっていた。ここに先ほどのスジャータが立ち止まっていた。シーンプは気づかずにゾフィへと駆け寄った。
「ゾフィさん、大変です。マクシムさんから聞きましたか。」
「いいえ、まだお会いもしておりません。で、急用とはなんですか?」
「はい、えぇ、大変です。ソフィアさんとリリーさんが、魔女に捕まったらしいのです。どうしましょう。」
「どうしてそれが判ったのかしら。」
「はい、ゾフィさん。ハンザ商館の館長室に書置きがあったらしいのです。私が訪問した時はもう魔法の文字は消えていました。」
「そうですか、それは大変です。何か事件に遭遇したのかしら。」
「いいえ、絹の反物を売りに、なんでも、リエージュ司教に会いに行って魔女にとっ捕まったらしいです。」
炊き出しに集まる者たちを見ていたスジャータが思わず駆け寄ってきた。
「まぁお父様が……、それは何かの間違いです。お父様は、そのような人ではありません。」
スジャータが血相を変えてそう大声で言い出した。
「リエージュ司教は私の父です。どうしてそのような根も葉もない事を言われるのですか。」
ここに居るみんなが詳しは知らないのだから、勘違いが起きるのが普通なのだ。リエージュ司教と修道女の聖ジュリアーヌとは、無関係なのかもしれないのだ。……だが、その逆もありか!
「悪人とは、家では善良な一個人である。」かもしれない。どちらだろうか。
「ええとスジャータさん落ち着いて下さい。そうと決まった訳ではありません。まだ判りませんし違うかもしれませんよ。」
「間違いだと言い切れます。父は善良な貴族です。」
「スジャータさん、お父様は王様なのですか?」
「はいそうです。今日はお爺さまのお手伝いに来ていました。とても酷い嵐に遭って土地も流れたと聞き及んで心配で来ました。」
「ほほう、それはいい! いや、素晴らしいです。」
シーンプが相好を崩して続ける。
「ではご自分で確かめるのはどうでしょうか。私たちも直ぐにリエージュ司教領へ跳んで行きますよ。このお姉さんと一緒に行きませんか?」
「こら、シーンプさん。それは言い過ぎです。そのように唆してはいけません。問題になります。」
「でしたら私も同行いたします。リエージュ司教領へは私が案内します。」
ゾフィは慌てて、
「待って下さい。私の姉たちがどこに居るのかは分かりません。デンマークかもしれませんもの。」
「どうして北のデンマークですか、父は南方へ100kほど行った国に居ます。今のルクセンブルク辺りになります。」
「それはご丁寧にありがとうございます。お姫様。」
「私は姫と呼ばれるのは好きではありません。スジャータと呼んで下さい。」
ここでようやく、館長が言った金貨百枚の意味が理解できた。マクシムさんは安い買い物を逃してしまったのだ。この前のデンマークの二百艘の腹いせに教えようと考えた。
「きっと悔しがるだろう。」
「誰が悔しがるのですか?」
シーンプはうっかり口に出していた。慌てて取り繕う。
「あっ、なんでもありません。私の知人の事です。早とちりしたんで、きっと悔しがるかな! と、考えただけです。」
「そうですか、きっと私の事でしょうね。よく言われます。」
「あれれ、そのような事はございません。えぇ、ございませんよ。」
とシーンプは体裁を整える。
ゾフィは急かすように、
「シーンプさん、すぐに出立しましょう。」
「そうですね、助けに行きましょう。」
と、いうことに決まった。詳しくは今のベルギーが神聖ローマ帝国の一部分のリエージュ司教領という事になっている。だが、1245年当時はベルギーの東側、今のルクセンブルク辺りになる。
一方マクシムとシビル、ボブ船長の会話とは。
「シビルさん、ボブさんとこに行きましょう。大変な事が起きました。大事件です。さぁ早くライ麦は放置されてください。」
「マクシムさん、そんなに慌てないで下さい。」
そう言われてもマクシムは慌てている。二度ほど石に躓き転びながらも、ボブの詰所に到着した。
「ボブさん、大変です。攫われました。」
「誰が攫われたんだ、ゾフィのね~ちゃんかい。」
「あ、いや、その、姉貴のほうです、それも二つ。」
「ほほう、あの強い二人が……か、それはあり得んだろうて、だって国すら滅ぼすボスだぜ!」
「えぇええ?? そんなに強いのですか、ラスボスみたいな……。」
シビルは、
「そうですよマクシムさん。お姉さまたちは天下無敵でございます。この私よりも弱いのですが……。」
「??、一度喧嘩でもされたのですか? でしたら今の関係はいかような判断を下せばよろしいのでしょうか。」
「ゴホン! そのような詮索はよして下さい。それで何処の誰に攫われたのでしょうか。」
「はい、ロベール・ド・トゥロットの修道女、聖ジュリアーヌに捕まったと、魔法の文字で手紙が届きました。」
「それどこだい、俺は知らないぞ。」
とボブ船長が言う。
シビルは、
「私だってしりませんよ。どこですか!」
「あは~さて何処でしょう。私も知りません。あっ、その前にですね、お二人はデンマークへ行くと書いてありました。」
シビルは少し考えて、
「そうかい魔法の文字ならばリアルタイムだね、……、修道女??」
「そういう名詞ならば、神聖ローマ帝国に関係ありますが、……。」
そこに先ほどの男が現れた。妹の方ががいい、と、言っていた男だ。
「あぁ、それは、神聖ローマ帝国のリエージュ司教領の領主さまの事です。あの孫娘の国になります。ここから100kは南に下った所に在る国の事ですね。」
「どうしてお前がそれを知っているのだ。」
「調べたんですよ、だからあそこの孫娘を嫁に欲しいのです。だって姫様ですぜ!?!」
「ゲゲゲ!!! なんでそれを早く言わないんだ。俺は金貨百枚と言われて断ってきたんだ。あ~、残念な事をした~。」
「マクシムさんには似合わないぜ。あんたは海の上に居る方が長いんだ。姫さまを嫁にしたらきっと浮気して逃げ出すに決まってる、ガァ~ッハッハ!」
ボブが高笑いしている。
「シビルさん、そうかな。」
「そうだろうと、思うよ。ボブの言うとおりだよ。」
「で、どすしますか、早くオレグさんに知らせないと。」
「そう言われてもな、俺たちは船で帰らねばならないし、ここで私と魔女が抜けたらマクシムさんが困るだろう。」
「はぁ、そのとおりです。帰りにもヴァイキンは襲ってきますからどうしましょう。」
「だったら早く帰るしか方法はないわな。ところで妹のゾフィには知らせただろうな。」
「いいえ、ぜんぜん。あんな小娘に知らせてどうすんだい。」
「あっちゃ~、それはまずいよ、知らないんだ、困ったね~。」
「どうしてだい、シーンプだってただの商人だし、新婚は今でも新婚だし関係ないでしょう。」
「そうだね、俺はちょっと探してくるよ。」
「ええ??」
シビルはマクシムに早く仕事を終えるように催促した。
「しかしだね、他の船の船長も内職で忙しいんだ。すぐに帰るのは無理だよ。判ってるでしょう?」
「あぁ、百も承知だよ。俺らだけで帰るんだ!!」
「ええ?? そんな事したら俺は仕事が出来なくなるよ。」
「だから、頭と金を使えよ。オレグとグダニスクの船団と、はたしてどっちが怖いだろうか、天秤にかけてみろ!」
「あぁ、あああああああ~~~~!!!!!!」
マクシムが答えを出した瞬間だった。
「決めたよ、俺らで帰る。」
そうと決めたらマクシムの行動は早かった。全船団の船長に呼び出しをかけ金貨で全船団の荷物を買い取った。そこには麻の糸も多数含まれていたのが帰郷して判った。取り敢えずオレグからは見捨てられなかった。
すったもんだしたのは、ボブだった。金は稼げても、帰りの荷物は空のままだった。シビルも同じようなものだった。
マクシムはハンザ商館に荷物を売りに行くが、館長は休みで居場所も判明しなかった。だから、・・・・・・・・のような事は知らない。
「ワシの孫娘が帰っていないのか、え~い、早く探し出せ!!」
「く~~~、あのイングランド人だな……。」
家出少女で実家は大騒動になった。
「ワシは殺される~~~~!!」
「あんた、逃げるのよ。金貨は持ち逃げしましょう。」
館長の女房は悪だった。こういう時は女の方が度胸がある。だって女は乳房で心臓を守るから!
スジャータの妹もとっくに姿を消してしまっていた。
シビルはゾフィらの居場所を探そうとしたが、
「随分と賑やかな街になったな~、これでは探せないよ。夜まで待つか!」
シビルは夜に夢食いの魔法で、ゾフィの居場所を探した。
「ソフィアたちを探しに行ったのか。……もう、居ないようだ、俺らも帰るか。」
マクシムのアムステルダム凱旋は、そのようになって慌ただしく消えゆく。マクシムの嘆きが聞こえてきそうな日々が続いた。
1245年2月12日に、ポーランド・グダニスクに帰った。
1245年2月15日 ポーランド・トチェフ
「なに!! 俺の嫁が攫われた! だと・・・・・・・・。」
オレグの叫びが村中に響いた。
シビルはオランダの事の顛末をオレグに話した。オレグは怒り心頭!!
「滅却してくれよ、な!」
シビルは当らず障らず。下記の事をオレグに話したのだった。
「ロベール・ド・トゥロットの修道女、聖ジュリアーヌに捕まった。」
「これは、神聖ローマ帝国のリエージュ司教領の領主さまの事です。そう言えば絹の反物を売りたいから、リエージュ司教領、ロベール・ド・トゥロットさまに会いに行くと言われてありました。」
「うん、分かった。後は考える。」
オレグはリリーのバラ園を見に行って佇み、しばらくしてから自宅に戻った。そうしてオレグは家伝の宝刀を…………、んな訳はない。