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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第二章 迷走するオレグ
112/257

第112部 オレグ編 No title  


 1245年1月11日 ポーランド・トチェフ


*)シーンプとゾフィ。オレグとの再会


 シビルから大根で殴られたオレグにグラマリナが心配して声をかけた。


「きゃ~オレグさん。死んでいますか!!」


 とっさだったから呼び捨てのオレグにさんがついていた。


 オレグに金貨三十枚のダシに使われたシビルが少し怒ってふざけたのだ。大した事はなにもない。大きなこぶが出るくらいだろう。


 だが、シビルは違った。


「ぎゃ~イテテてて!!」x3

「初めて見ましたわ、タライの三段落とし!!!」


 目の当りで観戦できたグラマリナが歓喜の声をあげた。


「なんだ、リリーは無事ではないか……。」


「オレグ兄さん、オレグ兄さん……。」


 忘れた頃にオレグを呼ぶ声がした。


「ん?? 誰だ??」

「オイラだよ……。」


「俺は死んだのか、俺はゾフィに召されたのか!! あの大根は凍っていたしな。とても痛かったよ。」

「ケッ、俺は死んではいないよ、ただ隠れていただけさ。それとシーンプさんと新婚さんも一緒だよ。」


 とても懐かしいゾフィの悪態とシーンプの姿があった。


「なんだい藪から棒に。今までどこをほっついていたのさ。俺は心配したんだぞ。右代表で責任をとれ。」

「俺はもう挨拶は済ませたさ。さっきにな。」

「あぁ大根は美味かったぜ。ゾフィがやったんだな。」

「いいやシーンプさんが、だぜ。俺は見ていただけさ。」

「はいオレグさんが口寂しく眠ってありましたので、つい! すみません。」

「そうか次回は肉にしてくれ。」


 殴っただけでは気が収まらないシビルは、手に残った大根を***の口に差し込んだ。


「ふグァ!!」



 マクシムが、


「あ、シビル。あれらの木箱を館まで運んでくれないか。グラマリナさまのお帰りだよ。」

「ケッ、俺さまに運ばせるのかよ。気分が悪い。てめ~で運べ。」

「ここのつけは払ってやるよ。駄賃も木箱にあるから、それでオレグさんの倉庫に行くんだな。きっといい物が手に入るだろうさ。」


 マクシムも結構度胸がついたようで、シビルの騒ぎ程度では動じないようだ。逆にシビルに用件を言いつけるあたりはもう立派な商人なのだろう。



「おおそうかい。それはいい。……オヤジ、串焼き十本持ち帰りだ!」

「あいよ~六十本だね。」

「違うよ、八十本だ。間違えるな。一人に十本だろうが!!」


 片手で各々十本を持つらしい。


「ではマクシム、帰って硬貨のかんしょ……くを、楽しみますわ。」

「はいグラマリナさま!! 串焼きがまだ………。」


 グラマリナはシビルらを引き連れて館に帰る。ようやく静かになったパブ。


「チッ、どうもお館さまは好きになれないよ、なにが感触だ、ふざけるな!」


「マクシムさん、どうしてグラマリナさまが嫌いなんだい。」

「オレグさん、守銭奴! って、知ってるか。」

「あぁ俺のような男の事だろう?」

「いいや、カネを握ったら離さない奴のことさ。ありゃ~村に硬貨を流さないだろうよ。」

「そんな事はないよ。春のライ麦の収穫から使う予定だよ。それまでには硬貨も綺麗に磨かれているだろうさ。」

「あはは……はは、それはいい、とてもいい解説だ!! 正に守銭奴さ!」


 マクシムはグラマリナが硬貨を一枚一枚を磨いている様子を想像した。後に薄笑いを始めるのだ。


「オレグの旦那。串焼きはどうすんだい。」

「俺が頂くよ。このマクシムさんのおごりだ、無駄には出来ない。」

「こら、それは俺んだ、オレグは食うな!」


「もう無理だ。端から無くなっているよ。ゾフィがな……。」


 シーンプが二人のテーブルに座った。真顔である。マクシムに船での回答を催促しに来たのだろう。


「船、二百艘!」

「シーンプさん、その数字はなんだ。マクシムの対戦相手か!」

「はい、デンマークの主力艦隊の総数です。今度の航海でマクシムさんを襲う計画がありまして、なんでも王様の沽券に関わるからと大船団を組むそうです。その情報を金貨百枚で売っているところです。オレグさんでしたら金貨二百枚で買いますよね。」


「俺は船を沈められるのはごめんだね。ましてや相手にただでくれてやるお人よしでもないさ。情報は嬉しいが!……。」

「そうですよね、オレグさん。」

「あぁ、ここまでの旅費として銀貨二十枚だね。この情報有っても無くても同じだ。全船撃破して進むだけだ。」


 シーンプは大きく銀貨二十枚に減じられて気が抜けてしまった。


「シーンプさん元気出せよ。ここはオレグお兄ーがなんとかしてくれるさ、な?」

「なにがオレグお兄ーだ、あれは鬼ーだ!」


「ウシシシ……。」


 とシーンプの言い方に小声で笑いながらも、


「ゾフィ、ソフィアとリリーは無事なんだよな。」


「うん、今頃はオランダに居るころだと思う。」

「そうか、では向こうで会ったら守ってやれよ。」

「お兄さま任せて下さい。金貨二十枚で引き受けます!!」

「おう頼んだぞ。魔女を追加で二十人を連れていけよ。」


「さ、マクシムさん代金の清算をしようか、麻の糸はまだ個数が判らないが、相殺しておくか?」

「そうですね、過不足は事後清算にしましょうか。」

「それと、ただでこいつらと魔女を乗せてくれないか。飯代はゾフィに払わせるからさ。よろしくな。」


「はいお任せください。」


 マクシムはシーンプに銀貨二十枚を支払い、オレグはゾフィに金貨二十枚を渡した。


「へ~い、らっしゃい!!!」


 元気な女将の声が轟く。水夫たちが大勢で飲みに来たのだった。豚三頭が瞬く間に無くなってしまう。


「お前、あいつ等に飯を与えていたのか?」

「いいや全然。俺の船じゃないよ、傭船だから飯は今が初めてだよ。」

「そうかあいつ等には仕事が無いのだな。」

「そうでしょうね、グダニスクではまだまだ休船中だし、年末も早くから飲んでいましたから、もう金は無いのでしょう。」


「ふ~ん、そうなんだ。」


 と船長らしき男をオレグは眺めていた。




 1245年1月12日 ポーランド・トチェフ


*)帰るマクシムと行くシーンプ


 今朝は一段と目覚めが悪かったオレグ。二日酔い? 悪い酒を飲み過ぎたかとも思った。だから、


「女将! 昨晩の酒は悪酔いしたぞ。いったいどこの酒だ!」

「オレグさんの工場のビールとワインでしょう。そのどこが悪いのですか!!」

「そうなのか?」

「だってそうでしょう。ここはオレグさんがオーナーですよ。隣のインチキ酒場はどうか知りませんが……。」


 隣に出来たパブも、もちろんオレグが建設した建物だ。中の厨房も食器も器具もオレグが納入した。酒も肉も卸したはず。


「隣がどうしたんだい。お前たちは喧嘩しているのか!」

「えぇそうです。隣のババァはうちに難癖を言ってくるのですよ。それも客に言うのです。この私には何も言いませんが、明らかに無視しているのです。もう、ヒドイと思いませんか?」


「そのババァとは??……。」

「言っていいですか??」

「いいや言わなくていいよ。そうか、俺の店を潰したいのだな。」

「それに銭勘定はうるさいし、爺が井戸で水を汲んでいると必ず邪魔しに来るのです。」

「ほほうそれは素晴らしい。教育が行き届いていますね。ここの領主ババさまは!」


 部下の愚痴を聞くのも親分の務めと思っているのか、女将の愚痴に付き合っていた。グラマリナは性格がキツイと言っていた。


 グラマリナはすっかり領袖りょうしゅうになってしまった。目立ちたがりやで何処にでも口を出す領主さまだ。襟と袖がやけに目立つ服を仕立てては自慢しているのだという。


「俺がグラマリナさま、グラマリナさまと、担ぎ上げたのが悪かったんだろう。反省すべきだな!」


 とオレグは思っても、もう後の祭りだろう。きらびやかで目立ちたがり屋を、領袖りょうしゅう=目立つ服、転じて上に立つ人、と言うらしい。



 朝のパブではオレグ独りだった。


「俺だけか!」

「はい他の方は荷物の積込みで今朝早くから働いていますよ。誰かと違って。」

「そうか、みんなは早かったのだね、俺と違って!」

「いいえ、私はオーナーとは言っていませんが、早く行って下さい。」

「だな!」


 昨晩、愚痴を聞いてもらったから機嫌が良いのだろう。今朝はオレグに優しい女将だった。いつもは朝からダラケているオレグに悪態をついて仕事にかりだすのが普通なのだ。また、


「嫁が居る居ないで、このように男はだらしなくなるのかね~。」


 とも言っているらしい。オレグが出て行って吐き出すように口にするから、オレグの耳には届かない。シビルの連れの爺が聞く役目だから、周り回ってオレグに到達するのに時間がかかった。


 オレグは港に行った。


 マクシムは当然だがシビルもたくさんの荷物を積み込んでいた。


「オレグ兄さま、なんでボブの荷物まで持って行くのさ。」

「そう小言を言うでない。お前らは先の航海で仲たがいしたらしいじゃないか。ここはお詫びだ~と言ってボブにこの肉とビールと美味いワインを渡せ。」

「すまね~な。これで仲直りをするよ。代金はゾフィに渡すように言ってくれ。」

「ケッ、ただじゃないのか。あ~面倒だぜ!」


 ようやく普段のシビルに戻ったようだ。ゾフィは言いつけ通りに魔女を二十人乗せていくが、シビルはグダニスクで勝手に降ろしていた。



 昨晩の事だ。


 オレグは酔い潰れていて、おまけにゾフィの小言も聞かされていたのだ。夢の思考回路も完全に遮断していたはず。だが、シビルはオレグにだけ目覚めの悪い夢を見せていた。


「くくく……。オレグ兄さま、夢ででも仕返しをいたしますわ。」



 昨晩はある出来事が……。


 シーンプがとある物をたくさん買い込んでいた。木箱に収めていたから中身がなにかとはゾフィには判らない。他者に比べて異様に軽かった。


 シーンプは昨晩の行動が怪しかった。最初は館に行き、


「グラマリナさま、銅貨二千枚と金貨二枚と交換して下さい。」

「不足です、銀貨二枚も出しなさい。」

「えぇ、そうですか……、行ってこい金貨と銀貨。化けてお館さまに祟ってこい!」

「いいえ、金貨二枚でいいです。呪われた銀貨は要りません。」

「では銅貨、一千八百枚で……。」

「ええ、喜んでお売りしますわ!」


 銅貨一千八百枚を持って村中を歩きまわった……らしい。


「これは金貨に値した銅貨だ。春から村でも使われるという、ありがた~い銅貨だ。これをやるからこの家の****を全部くれないか。」

「はいこのような物でしたら、全部どうぞ。」

「おうおう、多いな。だったら銅貨を二枚に増やしてやろう……。」

「ははぁ~っ!!」

「でだ、もう三枚もやるから、村中で同じ物を持って来るように言いふらしてきてくれ。」

「はい喜んで~!!」


 シーンプは同じ事を十軒ほどに頼み込んだ。


「村の井戸に居るからな~……。」


 すぐに多数の農民が****を持って集まった。


「これは金貨に値した銅貨だ。春から村でも使われるという、ありがた~い銅貨だ。……これなら、三枚だ、……二枚だ、……。」x100


 だったらしい。オレグやゾフィは、酔い潰れていたからまったく知らない。夜はそんなオレグに、こんこんと、説教みたいに耳元に囁いたゾフィ。


「ねぇオレグお兄さま、今までの私たちの苦労したお話を聞いて下さいよ、ねぇ、鬼いさま!」

「俺はデーモンじゃないぞ、兄貴でもないぞーーーーーーーーーーー。」


 それでもゾフィはオレグに対して寝物語として囁き続けた。


「私たち~………。」




 1245年1月14日 ポーランド・グダニスク


 翌朝マクシムは、昨日の荷物を船団に移し替えている。シビルとゾフィも同じだ。積み込みを終えているボブは暇だった。


「ボブ船長。オレグ兄さんからの荷物だ。肉とワインが入っていると言ってたよ。これの代金はトチェフに戻ってでいいから払えと言っていたよ。」

「うっほ~銭の元か~、こりゃオランダで稼げるぞ~。」


 伝言が少し変わっていた。ゾフィが代金を受け取るはずなのだが。


 シビルはオレグからボブにと預かった荷物を中抜きにしてゾフィに頼んでいた。ゾフィはそのような事は知らない。木箱が三十個としか認知していないのだった。


「おいゾフィ、隙間が多いぞ。知らないか。」

「俺は知らないよ。三十個の木箱を渡すようにとシビルから頼まれただけさ。」

「……だろうな。この隙間には肉が、この木箱は代わりに野菜を詰めたな!」


 オレグが気遣っていたのに、まったく逆に作用してしまった。このような事が起きるとは、オレグにも予想が出来なかった。


 ただし、ワインだけは抜かれずに残っていた。これはボブへの最高のご馳走になった。これは誰にも予想が出来なかった。とある事件が起きていたから? 



 一方オレグの居るトチェフ村では、


「さて、大仕事は無事に済んだぜ。今日からはのんびりと過ごすか。」


 三日後に魔女の二十人は腹を空かせてトチェフに戻ってきた。


「オレギュさま~飯くださ~い。」

「お前ら……その様子、……いったいどうした!!」

「シビルさまに……。」


「そうか、ゾフィの金も独り占めする気だな。」

「たぶんそうでしょう~私らには銅貨もくれませんでした~。」

「そうかそうか、すぐにパブへ行き、飯を済ませてくれ。」


「く~~あのシビルめ~~。」


 まだまだオレグは平和な日々が続いていた。


 それから二か月ほど過ぎてから一人の魔女がやせ細ってトチェフに戻って来たのだ。


「オレグさま、ソフィアさまが行方不明になられました。」

「ええ?! どうしてだ! どうしてそうなった……。」



 1245年4月16日 ポーランド・グダニスク


 ゾフィとシーンプらの四人は1245年1月16日にはポーランド・グダニスクへ来ている。その頃はソフィアとリリーはオランダに来ていた。


 それからの行方が不明なのだ。マクシムにはデンマークへ行くと伝言を残しているからデンマークに行ったのは間違いない。


 それから二か月が過ぎた。

   


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